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曇天に哭く修羅

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第一部
  人か、鬼か 【2】

 
前書き
_〆(。。) 

 
立華紫闇(たちばなしあん)》は残念だった。

江神春斗(こうがみはると)》の『人』で居る宣言に。


「そっか。江神が意地でも『鬼』にならないって言うんなら仕方ない。でも俺は諦めた訳じゃないぜ。江神が自分から鬼になれないってんなら俺が鬼にしてやるよ」


紫闇は既に春斗が鬼になることを半分諦めているが希望は捨てていない。窮地に追い込まれた人間はどうなるか解らないから。

しかし春斗の意志はそう簡単に変えられてしまうような(やわ)なものではなかった。


「教えてやる立華紫闇。人は鬼よりも一線を越えられるということを。そして人は鬼よりも残酷になれる存在だということを」


紫闇はわざと首の魔晄防壁を薄くした。

一線を越えさせる為に。

しかし春斗は臆さない。


「鬼に成らずとも同じことは出来る」


目付きを鋭くして左の頸動脈を狙う。

切断に成功。

夥しい出血だ。


「俺を舐めるな」


春斗は防壁が解かれた紫闇の眼球にも刃を突き入れると脳に到達させた。

そのまま直刀を回して(えぐ)る。

更に素早く引き抜き胴を()いでから[のどぼとけ]を突いて吹き飛ばす。


【魔術師】は生命力が常人とは比べ物にならない程に高い肉体を持ち、数ヶ所の骨折を三時間で回復させる自然治癒力を持つ者も居る。

致命傷を喰らった紫闇でも易々と死なない。


「後悔しろ。安い挑発を」


全身の防壁が消えている紫闇に対して春斗は直刀を上下反対に向け、峰で脳天を打つ。

頭蓋に(ひび)が走る。

脳が欠損したとは言え紫闇は失禁しそうなレベルの痛みを感じていた。


「お前が望んだことだ。遠慮はしない。普通はここまでしないのだが……」


両手で直刀の柄を持つと腕を引く。

足が半円を描き体が(ねじ)れた。

みるみる内に引き絞られる。


「これで終わらせてやろう」


全力で前に出て突くことしか考えていない。

そういう形の体勢だろう。

春斗の型には魔晄ではなく体の動きを利用した運動と筋肉の力が蓄えられていた。


「焔さん。あれは不味いですよ」


《エンド・プロヴィデンス》の呼び掛けに対して《的場聖持/まとばせいじ》も頷く。


「そうだねぇ~。もう決着は付いちゃってるわけだしそろそろ止めようか。あのままだと本当に紫闇が死ぬし」


力を溜め終わった春斗が最後の一撃を繰り出そうと右足を動かし始めた時、焔や聖持が春斗を制止したことで紫闇は命を救われる。


「最後は殺す気など無かったのだがな。この先もまだ戦いたい相手なのだから」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 
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