| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

EP51高らかに斉唱せよ、我はヨツンヘイム皇帝!~Agustin~

†††Sideヴィータ†††

「あ゛あ゛ーー痛かったですぅ~(泣)」

リインがボロボロ泣いて、傷口が綺麗さっぱり無くなった腹を撫でる。けどま、そりゃ痛いに決まってる。いくら治るんだとしても、腹を槍で貫かれりゃ誰だって泣く。一応経験済みのあたしは泣いてねぇ。痛いけど泣かなかった。つうか泣けるか!
それにしても、結構早い段階でフィレスの槍は消えた。フィレスが居なくなって、はやてがシャマルに助けを呼んで、それから1分としない内だったし、一瞬で傷も癒えたし。そのおかげでこうして動き回れるんだけどさ。

「アギト、お前はどうだ。もう大丈夫か?」

シグナムもあたしと同じようにケロッとして、リインの隣に座り込んでるアギトに声を掛ける。

「な、泣いてねぇ・・・あたしは泣かなねぇ・・・!」

そう言ってっけど、少し涙目で涙声。我慢しなくたっていいのになぁ~、アギトの奴。

「まだ調子悪い子は言ってね、本当に」

あたしらのところにシャマルが戻ってきた。シャマルは気を失ったリエイスのことを診ているはずだけど・・・。

「シャマル。リエイスはもういいのか?」

「え? ええ。リエイスはやっぱりブラックアウトダメージだった。けどもう意識も回復したし、今ははやてちゃんと一緒にクロノ提督と通信してる」

ブラックアウトダメージ、か。1度リインにも起きた。あん時はあたしが不甲斐無い所為で、騎士ゼストの攻撃から庇ってくれたリインが意識を失った。リインは結構かかったけど、そっか、リエイスはもう回復してんだな。よかった。それを聴いて安堵。あたしは泣き止んできたリインの元へ行って、よしよしと頭を撫でてやる。

「シャマル、スバル達の様子はどうなんだ?」

「良好よ。癒しの風でダメージは回復できたし。クイント准尉たちとお話してるわ」

アイツらも無事ならそれでいい。そう思っていたら、はやてから通信が来た。内容は、管理局艦隊が相手にしてた“フリングホルニ”と“ナグルファル”が消失したってものだ。

「それってつまり、フェイトさんがルシルさんに勝ったってことですか・・?」

鼻をすすりながらリインが訊いてきた。あたしらは顔を見合わせて、リインのそれに頷いて応える。2隻の戦艦はセインテストが複製によって喚び出したモノだ。それが消えたってことは、戦艦を維持することが出来なくなった状況に陥った。つまりはテスタロッサに負けて還っちまったか、それとも対人契約が成功したか・・・。

「テスタロッサちゃんならきっと、セインテスト君と出来たはずよ、対人契約を」

「だな」

『とゆうわけでな、ヴォルフラムが全速でこっちに向かっとる。私らは搭乗して、エヘモニアの天柱へ向かい、仲間を迎えに行くよ』

はやての通信に、あたしら八神家守護騎士一同、「了解!」と応えた。これでテスタロッサとセインテストの決着がついたのが判った。だけど地面に描かれた光る魔法陣はまだ消えてねぇ。

(セレス。お前はまだ続けるのかよ。もう、これ以上は・・・)

“アドゥベルテンシアの回廊”を見詰めながら、セレスのことを思う。

†††Sideヴィータ⇒エリオ†††

「あ・・・」

両腕の修復を終えたばかりのティーダさんが小さく声を上げた。僕の視線の先に置かれている白銃と黒銃が光となって消滅していく。

「・・・ルシル君が負けたのね。その2挺の銃は、ルシル君のモノだから」

クイントさんが呟く。ルシルさんが負けた、と。僕が誰とも言わずに「フェイトさんがルシルさんに勝ったんですね」と言うと、ティーダさんが「そうだろうね」と答えてくれた。きっと対人契約を成功させたんだ。そう思いたい。

「エリオ君、今度こそルシルさんと一緒に帰りたいね」

「うん。きっと帰れるよ。今度こそは」

キャロにそう答える。僕とキャロにとって、ルシルさんはフェイトさんと同じ親のようなもの。だから、今度こそ一緒に生きていきたいと強く思う。

『六課メンバーへ』

そこに八神部隊長から通信が入る。内容は2隻の戦艦“フリングホルニ”と“ナグルファル”が消失したというもの。そして僕たちはこっちに向かっている“ヴォルフラム”に乗って“エヘモニアの天柱”へ向かうというものだ。僕たちは「了解」と応えて、“ヴォルフラム”が来るのをただじっと待っていた。

†††Sideエリオ⇒はやて†††

“オラシオン・ハルディン”に到着した“ヴォルフラム”に搭乗して、私とリエイスはブリッジに入る。するとブリッジスタッフから「おかえりなさい」との出迎えの挨拶。私は「ただいま」と返してから艦長席に座って、ルキノ操舵長に「針路、エヘモニアの天柱」と指示。
ルキノ操舵長から『了解』と返り、傷ついた“ヴォルフラム”は動き出す。“オラシオン・ハルディン”の魔法陣が今も消えてないゆうことは、セレスはまだ儀式を止めずに戦っとる、とゆうことになる。それを止められるんは、なのはちゃんとシャルちゃんだけ。私らに出来るんは、戦い終えた仲間を迎えに行って、そしてセレスを連行することだけ。

「セレス・・・もうやめにせえへんか・・」

知らずそう呟いた時、“オラシオン・ハルディン”から生まれる強烈な閃光。閃光はあまりにも強く、薄暗くなった空を染め上げる。それと同時に“ヴォルフラム”の艦体が大きく揺れる。

「オラシオン・ハルディンから強大な魔力反応! 魔力値測定・・・不可! 振り切れてしまいます!」

「ヴォルフラム駆動炉に異常発生! 出力が低下!」

以前にも似たような報告があったんを思い出す。これはエルジアでの“女帝の洗礼”の一撃が掠ってった時と同じ。私はまずルキノ操舵長に艦体姿勢制御の指示を出して、続いてメインモニターに“オラシオン・ハルディン”の映像を出させる。

「アレはまさか・・・!」

映りだされるんは魔法陣が今まで以上に発光している状況。そして上空にも閃光。それは“女帝の洗礼”の先端に集束していって、直径4m弱の漆黒の光球となった。ソレには見憶えがあった。それは遥かに古き時代。シャルちゃんとルシル君の記憶の中で見た、最古にして最凶の魔術・・・

「ラグナロクか・・・!?」

間違いないやろ。セレスの持つ“ディオサの魔道書”には数多くの魔術が記されとるって話やったし。ラグナロクのことくらいは載っとるはずや。

「ラグナロクなんて何を考えとるんや、セレスは・・・!」

そやけど、これはあまりにもやり過ぎ。改革でも復讐でもあらへん。完全にそんなレベルを超えとる。振動と一緒に“ヴォルフラム”が徐々に高度と速度を落としていく。

「これはまるで・・・あの魔力塊に駆動炉の魔力を吸い取られているような・・・」

スタッフの1人がそう呻く。ラグナロクの球体が周囲の魔力を集束させていってるんやろな、と思う。こればかりはどうしようも出来ひん。

(シャルちゃん、なのはちゃん・・・任せたで)

祈る。2人ならきっとセレスを止めてくれるとはずやと。

「オラシオン・ハルディンから魔力反応消失! 駆動炉正常稼働、出力回復しました!」

“ヴォルフラム”の艦底がいよいよ地面にぶつかるとゆうその時、そう報告が上がる。メインモニターに映る“オラシオン・ハルディン”。地上の魔法陣も“女帝の洗礼”の先端にあったラグナロクも綺麗さっぱり無くなっとる。私は小さく安堵の息を吐いて、すぐさまルキノ操舵長に「艦体を立て直して、針路そのまま。目標エヘモニアの天柱」と指示を出す。

(良くやってくれた。シャルちゃん、なのはちゃん・・・)

ラグナロクが撃たれへんかった。セレスが負けたとゆうことやろう。私は背もたれに体重を預けて、もう1度安堵の息を吐く。これから忙しくなるわ。まずはセレスとの話し合いから始まって・・・。

「待っとってな、セレス。今、行くからな」

†††Sideはやて⇒スバル†††

ようやく“ヴォルフラム”の振動が治まった。ここ待機室で、あたし達はモニターを眺めていた。“オラシオン・ハルディン”の映像を。強烈な閃光、ラグナロクを。けどラグナロクが発動することはなかった。なのはさんとシャルさんがカローラ一佐を止めてくれたんだ。
シャルさんとルシルさんの記憶を観て知っているラグナロクの脅威が消えたことに、みんなが安堵の溜息。そして、すぐに待機室に悲鳴が上がる。ビクッとして、モニターから悲鳴を上げたギン姉たちへと視線を移す。

「お母さん・・・!?」

あたしの目に映るお母さんの足元が半透明になって、ゆっくりと光の粒子となって消えていく。ティアも「お兄ちゃん!」って叫ぶ。ティーダさんも、お母さん同様に足元から光の粒子となって消えていく。あたし達は混乱しているのに、当のお母さんとティーダさんは落ち着き払ってる。

「カローラ一佐が負けたことで、私たちを保っておく魔術効果が切れたのね」

「そうみたいですね。僕たちはここまでのようだ」

2人がそう言ってようやく、あたし達はこれでお別れなんだと理解した。一気に涙が溢れてくる。嗚咽も止まらなくなった。だって、仕方ないよ・・・。
お母さんがギン姉たちを1人ずつ抱きしめて、頭をそっと撫でていく。あたしも「こっちにおいでスバル」って呼ばれたから、涙を袖で拭ってお母さんに抱きしめてもらう。

「シグナム一尉。ひとつお願い、いいかしら?」

「はい。出来ることでしたら」

「夫と、ゲンヤ・ナカジマ三佐と話がしたいんだけど」

お母さんの願い。あたしは顔を上げてお母さんを見て、シグナム一尉を見る。シグナム一尉は少し考える素振りをしてすぐに頷いた。

「判りました。通信を繋げます。・・・どうぞ、クイント准尉。ヴィータ、リイン、アギト、エリオ、キャロ、ルーテシア、レヴィ。我々は席を外すぞ」

ヴィータ教導官たちは頷いて、待機室から静かに出て行った。あたし達ナカジマ家と、ティアとティーダさんだけにしてくれた。あたしはお母さんから離れて、モニターに映るお父さんと話を始めたお母さんを見詰める。
ギン姉たちの嗚咽。少し離れた場所で話をしているティアとティーダさん。本当にこれで最後なんだと、嫌でも実感する。解かっていたのに、いざ別れの時となると信じたくない思いでいっぱいになる。

(夢で・・・夢であってほしい・・・)

あたしの両手が握られる。右手はギン姉、左手はディエチ、その隣にチンク。ギン姉もチンクも片方の手をノーヴェとウェンディの手と繋いでる。そして姉妹みんなで、少しずつ消えていきながらもお父さんと話すお母さんを見詰める。

「・・・おとーさん。私はおとーさんと一緒になれて本当に良かった。短い間だったけど、こうして娘たちと同じ時間を過ごせて、一緒に戦えたりして、すごく幸せだった」

『そうかい。そいつは良かった。・・・クイント、もう迷うなよ』

「ええ。・・・もう大丈夫。もう迷わない。だから笑って逝ける。おとーさんや娘たちに見送られて旅立てるなんて、おかーさんは幸せね♪」

お母さんが笑った。だけど目の端に光るもの、涙があった。またあたしの涙が溢れてくる。あたしは耐えられなくなって、お母さんへと抱きつく。あたしに続いてギン姉も、ディエチも、ノーヴェも、ウェンディも、チンクでさえもお母さんに抱きつく。

「見送りは笑顔で。と言いたいんだけど、自分が泣いてちゃ世話ないよね」

お母さんから温もりや感触が消えていく。

「じゃあね、みんな。おかーさん、これからもずっと、みんなのことを見守っているから」

それがお母さんの最期の言葉だった。お母さんは光となって、その姿を完全に消した。

†††Sideスバル⇒ティアナ†††

「お兄ちゃん」

あたしは待機室の奥に設置されているベンチに座り、あたしの隣に座るお兄ちゃんに呼び掛ける。お兄ちゃんは「ん? なんだい、ティアナ」と、あたしの頭を胸に抱くようにしてきた。
あたしは何の抵抗もせず受け入れ、お兄ちゃんの胸に体重を預けてゆっくり目を閉じる。お兄ちゃんと過ごした幼少時を思い出す。今、確かにお兄ちゃんはここに居る。触れられるし、体温もあるし、何より話せる。

「あたし、このまま管理局員として、執務官として立っていてもいい、よね?」

「ティアナが決めて、歩むことを選んだ道だ。ティアナに負けた僕がそれを拒むことはもう出来ない。だから、いいんだよ。僕はティアナのことを信じているから、どこまででも行っていいんだ」

「ありがとう、お兄ちゃん」

お兄ちゃんもあたしにもたれかかる。感触はあるけど重さは感じない。お兄ちゃんの姿は蜃気楼のように揺らいでいる。頭にそっと手を置かれたのが判る。お兄ちゃんに撫でてもらう。うん、あたしはもう大丈夫。だからお兄ちゃんも安心して・・・いってらっしゃい。

「それじゃあ逝くよ。やんちゃもいいけど、少しは女の子らしくな」

フッとお兄ちゃんの感触が消えた。閉じていた目を開けると、ベンチに座っているのはあたし1人だけ。

「・・・最期の言葉でそれはないじゃない・・・お兄ちゃんのバカ」

あたしは天井を見上げるようにして涙が零れないように小さく笑った。

†††Sideティアナ⇒シャルロッテ†††

「シャルちゃん・・・!」

「泣かないで・・なのは・・・。知ってるでしょ。私はしぶといって、さ」

なのはを宥めながら、失った左腕と左脇腹を、セレスとの戦いで周囲に満ちた神秘を取り込んでなんとか修復。身体の修復を終えて立ち上がろうとしてフラつく。でもなのはがそっと支えてくれたことで立ち上がる。

「ね? 剣神シャルちゃんは無敵なんだから♪」

おどける様になのはに告げると、なのはは「・・・うん」と微笑んだ。なのはより視線を移し見据えるは、ディアマンテの姿をしたヨツンヘイム皇帝、アグスティン・プレリュード・マラス・ウルダンガリン・デ・ヨツンヘイム。

「・・・どうしてお前がここに居る・・・!?」

アグスティン(ソイツ)こそ、私が最も嫌い憎む・・・ヨツンヘイムの王。

「頭が高いぞ、剣神。王である我にはもっと礼儀を示せ」

あームカつく。頭の中が沸騰する。もう我慢できない。今すぐにでも消してやりたい。というか消す。“キルシュブリューテ”を取り出し、純粋な敵意と殺意を刀身に込める。

「そう睨むな。もう良い。寛大である我は貴様の問いに答えてやろう。しかし、そこの現代(ニンゲン)の女。貴様は頭が高い。王である我の前であるぞ、跪け」

アグスティンは自分の身体に“ディオサの魔道書”を取り込みつつなのはに指を差し、跪くように命令した。プッツン。もーーーーダメだ。今のでコイツは、私に最後の一線を踏み越えさせた。

――閃駆――

「クズ王風情が!! 私の親友に命令するなッッ!!」

閃駆で間合いを詰め、“キルシュブリューテ”を横一閃。

――涙する皇剣(エスパーダ・デ・ラグリマ)――

だけどアグスティンは私の一撃を氷の剣で受け止め弾いた。ならば、と刀身に炎を纏わせた斬撃をお見舞いしてやる。

――炎牙月閃刃(フランメ・モーントズィッヒェル)――

アグスティンは氷剣を二刀に増やし、右で防御、左で攻撃というスタイルを執ってきた。連撃を繰り出すけど、氷剣を融かすことが出来ないことに苛立ちを覚える。そして何度目かの鍔迫り合い。

「我に何かを問いたかったのではないのか?」

アグスティンからの問いかけに、私は怒りをもう無理矢理抑えて距離を取った。

「えっと・・シャルちゃん・・・あの人・・・」

「見ちゃダメ、聞いちゃダメ。なのはの目と耳が穢されるから。私は大丈夫だから、なのははもう行って。ごめんね、こんな別れ方で」

これ以上はなのはを巻き込みかねない。私とクズ王の戦いに巻き込んで、なのはが傷ついたら2度と立ち直れない。きっと来世でも引き摺ってそうな気がする。なのはは「でも・・・」と躊躇っているけど、私は「大丈夫」と笑みを返す。

「・・・バイバイ、シャルちゃん。またね」

「・・・うん。バイバイ、なのは。またどこかで」

左拳を突き合わせる。そしてなのははセレスを背負って、転送装置の中へ消えていった。それを合図として私は殺気を放ちまくる。もう耐える必要はない。

「それじゃあもう1回聞くけど、どうしてお前がここに居る!?」

「ふむ。我は待っていたのだ。我が末裔が、我の声を耳にする時を。そして届いた。セレス・カローラという末裔(むすめ)の耳に、な。そら、もう理解できるだろう? セレスにディオサの魔道書を読ませて、心の内に溜めこんでいた願いを爆ぜさせてやったのだ」

呆れたという風な顔をしたアグスティンが私の問いに答える。耐えられないからやっぱり斬りかかる。炎牙の一閃をお見舞いしてやるために閃駆で接近。

――女神の鉄拳(ディオサ・プーニョ)――

足元に魔力を感じて閃駆で後退。直後、目の前に氷の拳が突き出してきた。すぐさま炎を纏わせたままの“キルシュブリューテ”で18分割。破片の雨を突っ切って、余裕をかましているアグスティンへ突っ込む。

――炎牙煉衝刃(シュプレンゲン・ランツェ)――

「馴れ馴れしくセレスって言うなッ!!」

炎熱の槍を飛ばしながら、セレスの名を当然とでも口にするアグスティンに激昂する。奴は「我が末裔の娘ゆえ、貴様の許可は要らんだろう?」と鼻で笑いながら私の炎槍を避ける。

「さて続きだ、剣神よ。その結果が、この争いということよ。あの娘も残り僅かの余生を、我が与えた魔術によって思うがままに生きた。結末はあのような下らぬものだったが。いやはや、なかなかの暇つぶしだったぞ、ククク・・・!」

何だそれは・・・。それはつまり、セレスが動いたのは、全部コイツの所為?
コイツが現れなければ、たぶんセレスは胸の内に復讐心を宿したまま、強い未練を遺して逝ったのだろうけど、でも、コイツが楽しむためだけに、セレスはあんな大変なことを選んで実行したんじゃない。セレスの最期が馬鹿馬鹿しくて可笑しいと笑うアグスティン。今度は急激に冷めていくのが解かる。

「・・・お前の目的は・・・・何だ?」

“キルシュブリューテ”を握る右手が痛い。それほどまでに力を込めてしまう。だって許せないから、目の前のコイツが。

――双牙炎雷刃(フランメ・ウント・ブリッツ)――

まず左斬上げ一閃。炎熱の斬撃を飛ばして、すぐ右斬上げの一閃で雷撃の斬撃を飛ばす。アグスティンが氷剣二刀を振るって迎撃に入ろうとしたところで、閃駆で一気に間合いを詰める。

――炎牙月閃刃(フランメ・モーントズィッヒェル)――

炎の斬撃の振り下ろし。迎撃を終えて「ふんっ!」と気合を入れたアグスティンは氷剣を交差させて私の一閃を受け止めた。そのままの体勢でまた硬直。私は意地になって、奴の脳天に“キルシュブリューテ”を叩きこむためにさらに力を入れる。

「知れたことを。今度こそ世界を手にするために決まっておろう。かつては神器王によって我が命は断たれたが、今度はそうはいかん。ヨツンヘイムこそが、世界を統べるに相応しい存在だということを示してやろう。だというのに管理局だと? くだらん。その上、科学へと身を堕とした魔導師? そのようなものなど生きる価値の無い存在よ・・・!」

「黙れ! 現代の魔法は、古代の・・・大戦時の魔術に比べればずっと優しい! それになんだ? ヨツンヘイムが世界を統べるに相応しい!? そんなくだらない考えの所為で大戦が起こり、何百という世界が滅んで、数えきれない人命が失われた!」

私は脳天振り下ろしを諦めて、右足の蹴りをアグスティンの鳩尾に打ち込む。

「うごぉ・・・!」

よろけたところに“キルシュブリューテ”の斬り上げ。二刀の氷剣を弾き飛ばして、“キルシュブリューテ”の刺突をすぐさま放つ。

――涙する皇剣(エスパーダ・デ・ラグリマ)――

だけどアグスティンの両手にはすでに新しい氷剣が握られていて、二刀による剣戟によって刺突の軌道を逸らされた。すぐさま横薙ぎ。また受け止められるけど、今度は防がせない。

「私も・・・私もその大戦の所為で死んだんだッ!」

怒りを“キルシュブリューテ”に籠め、全力で振り切る。氷剣を切断したけど、アグスティンはしゃがむことで紙一重で避けた。

――神速獣歩(ゲパルド・ラファガ)――

追撃しようとしたけど、その前にアグスティンは、高速移動法で私から離れる。

「だからなんだ? 騎士ならば戦死は本望だろう?」

「そうね。純粋な戦いの中での死、ならね・・・」

「ふんっ。だがこのような下界でも我を楽しませてくれた者も居る。名は確か・・・メサイア・エルシオン、とかいう男の亡霊だったか。あやつの中に渦巻く復讐心は実に気持ち良かった。結局は貴様に消されたがな」

私がディアマンテを消す前、彼が最期に言った“王よ、愚かしき者共に死の鉄槌を”っていうセリフ。王って最初はセレスのことだと思ってた。だけど、ディアマンテの言葉はアグスティンのことを指していたんだ。

「ゆえに、余興の時間は終わりだ。これより我が直接、世界を統治しようというのだ。これで満足か、剣神よ」

アグスティンの身体が光の粒子となって分散した。すぐに収束。ディアマンテの姿から、正しくアグスティン本来の姿になった。外見年齢は三十代前半。蒼いツンツン髪。灰色の瞳。服はヨツンヘイム皇族の、赤を基調とした金の装飾が施された戦闘甲冑で、地球で見た闘牛士の正装のようなものだ。そして生前、私にちょっかいを出してきたあの頃の姿だ。

「フ、フフフ・・・アハハハハ・・・! ええ、満足よ。もう十分理解した。アグスティン、貴様はこの場で消さなければならない存在ということが・・・ね!!」

この世界を支配するとほざくクズ王アグスティン。やっぱりコイツはもうこれ以上存在してちゃいけない。

「とっとと消えろぉぉぉぉーーーーーッッ!!」

†††Sideシャルロッテ⇒フェイト†††

フィレス空士を見送ってから数分、転送装置からなのはが姿を現した。それになのはが背負っているのは紛れもないセレス。私とついさっき目を覚ましたルシルは、「なのは!」と呼びかけながらなのはへと駆け寄る。
なのはも気付いて「フェイトちゃん! ルシル君!」と少しスピードを上げて歩きだす。私はなのはを見回して、重い傷が無いことを確認。そしてセレスへと視線を向け、気付いた。

「セレス・・・」

顔は血の気の無い色をしていた。それに呼吸をしていない。セレスは・・・死んでいた。
フィレス空士に聞いた通りだ。フィレス空士が最上階へ行く目的。もう時間の無い妹のセレスの最期を見届けるために行くんだ・・・って。
信じられなかったけど、その真剣な瞳に私はフィレス空士を見送った。そして今、セレスは冷たい身体となって、なのはに背負われて現れた。
フィレス空士が居ないのも、セレスの最期を見届けたからなんだろう。私となのははルシルへと視線を移す。ルシルはこうなることを知っていたかどうか聞くために。口を開く前に、ルシルが先に告げてきた。

「詳しい話は後にするが、セレスは元より短命だったらしい。だからこそ、さらに命を縮める魔術に手を出してまで、彼女自身の願いを叶えようとした。そういう私もそれを知ったのは、フェイトと戦う直前だったんだがな・・・」

ルシルの声には悲しみが満ちていた。私たちは何も言えず、ただ沈黙することしか出来なかった。そして私は「シャルはもう還ったの?」となのはに尋ねる。

「ううん。シャルちゃんはまだ戦ってる」

「え? 戦ってるって・・・一体誰と・・・?」

もう幹部は居ないはずだ。リエイスとクイント准尉とティーダ一尉。この3人はすでに幹部じゃないと言えるし・・・。

「ディアマンテ。というよりはその存在を乗っ取った、っていうのかな。乗っ取った人、アグスティンなんとかヨツンヘイムっていう王様らしいんだけど・・・」

なのはから返ってきた名前を聴いた直後、ルシルから鋭い何かが放たれる。私となのはは本能的にルシルから距離を取ってしまっていた。

「アグスティン、だと・・・!」

「どうしたのルシル・・・?」

呻くようにそう口にしたルシルに尋ねる。私は内心ビクビクしてる。本当に今のルシルのことが怖い。私たちの様子に気付いたルシルは「すまない」と謝って溜息、殺気を消した。ルシルはなのはへと歩み寄って「私がセレスを背負おう」と告げて、なのはは頷いてセレスを床に降ろした。

「アグスティン・プレリュード・マラス・ウルダンガリン・デ・ヨツンヘイム。私が大戦時、その最後の戦いであるヴィーグリーズ決戦で討伐した王だ。奴は連合が劣勢に立たされたと知るや否や、前線で戦う臣民を見捨てて逃げようとした、王族の風上にも置けんクズだ。君たちに見せた記憶でも出てきたはずだが、憶えていないか? いや、憶えていない方がいい」

セレスを背負って出口に向かいながら話を続けるルシル。憶えてる。ルシルのことだから忘れるはずもない。なのはと目が合う。2人して頷いた。なのはも憶えてるみたいだ。そしてセレスを背負ったルシルが真っ直ぐ出口に向かいだしたことに唖然とする。

「今の私たちが最上階へ向かったところで、シャルの助力にはならない。かえって足手まといになるだけだ。悔しいことだが・・・」

解かっていた。5年前にちゃんとシャルから聴いたことだ。対人契約をしたルシルは魔術師じゃなくて魔導師となるってことを。その世界で人間として生きることになる以上、ルシル自身の存在がその世界のルールに合ったモノに変換される。だから魔術師としての魔力炉(システム)も、魔導師のリンカーコアに変わってしまうって。

「シャルちゃんのカートリッジを使ってでもダメなの、ルシル君?」

「アグスティンがどれだけの力を備えているのか判らない以上、下手に参戦できない。シャルがなのはを帰したのは、自分たちの戦いに巻き込みかねないと判断したからだろう。だからなのは、フェイト。彼女の想いのためにも私たちは生きて帰らねばならない。解かってくれるな?」

「「・・・うん」」

ルシルの真剣な表情、そして本当に悔しげな声に、私となのはは否応なく頷くしかなかった。そして私たちは“エヘモニアの天柱”の外へ出た。と、遥か頭上から小さいけど爆発音が連続で聞こえた。シャルは戦っている。私たちの世界のために。今もこうして・・・たった独りで。

「なのは、ルシル。・・・悔しいね・・・」

「うん」「ああ」

結局最後は人任せ。私たちの生きる世界なのに。この世界で生きる私たちはただ去り、かつてこの世界を生きたシャルが戦う。それが無性に辛くて悔しくて悲しかった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧