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魔術師ルー&ヴィー

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第三章
  ~ retrospect ~


 その叫び声は幾日も続いた。
 その女は元皇帝妃であり、自らの息子を犯す大罪を為した。
 女は責め続ける者らを睨みつけ、それを見た者らは再び女を責める…。
 拷問を受けて尚、女は自らの過ちを認めようとはしなかった。それこそ、自らが神であるかの様な言葉を吐き散らし、我が子の子を自ら産み落とした事さえ誇らしげに語る姿は、既に尋常を逸していた。
 その場にいた者らは皆、こう思った…。

ー この様な女を国母と仰いでいたとは…。ー

 女は皇帝の命により、魔術実験の検体にされる事となった。だが、その時でさえ、誰一人女の味方になる者などなく、家族からさえ温情を掛けられる事もなかったのであった。
 皇帝の命が下って直ぐに女は城から連れ出され、山深い実験施設へと搬送された。
 女は言う。
「人は皆醜いと云うに。何故に妾だけがこの様な扱いを受けねばならぬ!」
 その言葉は、研究者たる魔術師らに嘲笑されるだけであったが、女は尚も続けた。
「妾は汝らの写し鏡!見ておれ…妾は汝ら諸共、この世界を滅ぼしてくれようぞ!」
 女のその言葉は呪詛となり、それ故、女には強力な悪魔が憑く事になったのである。
 実験は直ぐ様開始され、女は様々な薬剤と呪文によって苦しみ喘いだ。されど、女はその中にあってさえ自らの罪を悟りはしなかった…。
 どれ程の時が経ったであろう…女の叫びが止み、辺りが静まり返る。実験は成功し、悪魔が女と融合したのである。
 魔術師らは大いに喜んだが、それも束の間であった。然したる時を経ずして、その女の成れの果てが…脆く崩れ去ったからである。
 魔術師らにはそれが単なる失敗に見えており、彼らは落胆してその場を後にした。が…それが誤りであった。
 この時既に、女の精神と悪魔の精神は完全に融合し、大妖魔へとなっていたからである…。
 それを知る事になるのは本の数時も経ぬうちであった。
 それは些細な事から始まった。仲間の魔術師の言動が少しずつおかしくなって行ったのである。
 その魔術師は段々と狂って行き、仕舞には仲間を殺め出した。その力は圧倒的で、三十人は居た施設の魔術師がたった三人になるまでに二時間も掛からなかった。
 残された三人は何とか封じようと試みたが、そのどれもが徒労に終わる…。
 それ故、三人は最後の手段を取らざるを得なかった。
 その手段とは、施設の一帯ごと自らをも封じられてしまう…謂わば内から外へ向けて封印の結界を張る事であった。
 三人は逃げ出す事も出来なくなり、この地獄の様な場所で大妖魔と戦い続ける事になる…。
 しかし、三人は絶望するだけでなく、こうも思っていた。

ー この様な化物…世に放つ訳には行かぬ…! ー

 それを知ってか、“それ”は三人を前に言う。
「化物は人間そのもの。」
 死した仲間を模したその口でそう言い、そして三人を嘲笑った。
 そう…その妖魔には〈自我〉が存在していた。実験は完全に成功していたのである。
 ただ一つの誤算は…怒りの矛先が自分達に向いていた事である。その〈自我〉が女のそれそのものだったからである…。
 しかし、三人はそれでも大妖魔に戦いを挑み、そして…呆気なく殺されて行った…。
 そしてその大妖魔は、今殺したばかりの魔術師の姿を模し、皇都へ悠々と向ったのであった。
 かくして国のあちらこちらで殺戮が起こり、それが故に乱が勃発することとなる…。その騒動が火種となり、かの大戦へと発展する。
 この大妖魔の出現により、各国は魔術実験を公に推し進める様になったからである。
 たった一人の女の過ちと禁忌の研究が、この大陸…いや、この世界を滅ぼしかけた。

 その恐怖が今…再び繰り返されようとしているのである…。




 
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