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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep5激突の空~Air combat~

†††Sideシグナム†††

空へ上がろうとしたセインテストの行く手を妨害するために、“レヴァンティン”を連結剣形態であるシュランゲフォルムへと変える。セインテストの強みは中距離と遠距離からの攻撃魔法だと、私は考えている。
実際に戦ったヴィータと、2人の戦いを見ていたシャマルから、セインテストの戦い方の詳細を聞いている。判断材料としては少し足りないかもしれないが、常に相手の情報が判らなければ戦えないような軟弱な我らではない。

――シュランゲバイセン――

連結刃を最大まで伸ばしドーム状とすることで、セインテストの行動を制限する。その間、私の行動も制限されるが、これくらいしなければおそらく奴を行動を制限できぬだろう。

「この程度の小細工で俺の翼を落せると思ったのか・・・!?」

だが奴の機動力の高さはこちらの予想を遥かに超えていた。高速で空を翔るセインテストは今まで出会ってきた誰よりも速い。連結刃の結界を易々と突破されてしまった。

「アイゼン!」

≪Schwalbe fliegen≫

「おらぁぁぁあああッ!!」

――その身に焼きつけよ(フェニックス)――

「チッ、まだまだぁぁ!」

ヴィータの放った魔力弾攻撃を全て焼き払っていく炎の鳥。それを見ても諦めずに、ヴィータはさらにシュワルベフリーゲンを放ち続ける。私も負けてはいられないな。“レヴァンティン”をシュベルトフォルムへと戻し鞘に収める。

「レヴァンティン、カートリッジロード!」

≪Explosion≫

「ザフィーラ!」

「応!」

――鋼の軛――

ヴィータの攻撃を避けては十字架(デバイスではないが、ただの十字架とも思えん)を振るって粉砕しているセインテストに、ザフィーラの鋼の軛が襲う。セインテストは地面や、奴の周囲に展開された魔法陣から突き出した拘束杭をギリギリで回避しつつ飛び回るが、そこは用意された逃げ道だ。私と真正面に向き合うような位置取り。

「(この距離でならば!)飛竜・・・一閃!」

抜刀すると同時に再びシュランゲフォルムとした“レヴァンティン”。連結刃に乗せた魔力の一撃をセインテストへと向けて放った。奴の速度、彼我の距離、タイミング、どれも悪くはなかった。

「昔、何度も同じ手を食らったものだ」

――煌き示せ汝の閃輝(コード・アダメル)――

セインテストは、見たこともない魔法陣を前面に展開し、「ジャッジメント!」と号令を下した。放射面より放たれた蒼く光り輝く砲撃3連射は、私の一撃と真っ向から激突した。

「なに・・・!?」

さすがに高威力の砲撃を3発も受けてしまっては“レヴァンティン”の勢いも、纏っていた魔力も消し飛んでしまう。セインテストは勢いを失くしてしなる連結刃の合間を縫って、そのまま私に向かってきた。振りかぶられる十字架。

(接近戦を挑んできただと・・・!?)

セインテストは中遠距離を主とする、典型的なミッドチルダ式魔導師だと事前では考えていた。

――知らしめよ汝の力(コード・ゼルエル)――

十字架に蒼い魔力が付加された。我ら騎士が扱うベルカ式の基本中の基本、魔力付加打撃。錬度も見る限りミッド魔導師の比ではないな。フライハイトと同じ、ベルカ式の亜種なのやもしれん。

「はあああああ!」

――パンツァーシルト――

「ぐっ!」

振り下ろされた十字架を展開したシールドで防ぐ。その拮抗の間に“レヴァンティン”をシュベルトフォルムへ戻し、「カートリッジロード!」を行い、剣身に炎を纏わせる。

「テートリヒ・シュラァァァァク!」

そこにヴィータがセインテストの背後から襲い掛かる。セインテストはすぐに攻撃を中断し、さらに上昇。

――風音よ広きに渡れ(シルフィード)――

「ぐぅぅ!?」「んな・・・!?」

十字架が振り払われた瞬間に放たれたのは、私とヴィータに叩き付けられた強烈な突風。飛行魔法を使っているとはいえこの場に留まり続けることが出来ず、我々は地上に向かって墜落した。

「シグナム、ヴィータ!」

地表に叩き付けられる前にザフィーラが、「むぅぅ・・・!」自身の背中をクッションとして我々を救ってくれた。

「すまん!」「わりぃ、ザフィーラ!」

「気にするな。来るぞ!」

――畏怖させよ汝の地顎(コード・トゥアル)――

「「「っ!」」」

我々の周囲から土や岩で構築された龍が4頭と地面より出現し、大口を開けて突っ込んで来た。我々は空へと上がったのだが、緊急回避だからと頭上を確認しなかったのがまずかった。

「ようこそ、我が領域へ!」

――輝き流れる瞬星(ルーザー)――

セインテストの周囲を螺旋状に走るいくつもの光線が、「ジャッジメント」の号令により一斉にこちらに向かってきた。それを我らは3方へと散開することで躱す。

「レヴァンティン!」

≪Sturmwinde≫

私を追尾してくる4発の光線を、“レヴァンティン”を振るい放った燃える衝撃波、「陣風!」で迎撃する。見た目どおり砲撃に比べれば威力はあまり無いようだ。

「セインテストは・・・!?」

セインテストを視界から外すのはまずい。急いでその姿を探し、ザフィーラを標的にしている奴を視界に収める。どれだけの魔力があれば出来るのか問い質したい、射撃ではなく砲撃の連射という異常な戦術。

――災厄より護る盾となれ(ルフークリエ)――

――煌き示せ汝の閃輝(コード・アダメル)――

ヴィータも物質弾に魔力付加した射撃魔法、シュワルベフリーゲンで攻撃を仕掛けてはいるが、固定砲台と化しているセインテストを護る4枚の魔力盾によって完璧に防がれ、そして奴の周囲に展開されている魔力球より放たれ続ける砲撃で、ヴィータとザフィーラは近付けない。

『ザフィーラ! ヴィータ!』

『問題ない』

『どうすんだよシグナム! 近付けねぇし、あたしの射撃魔法じゃ通用しねぇぞ!』

ヴィータとザフィーラと合流し、空に君臨するセインテストを見上げつつ回避行動を行い続ける。魔力量の凄まじさを表す連射速度と、その維持時間。砲撃もシールドも途切れる様子が無い。完全にセインテストに戦闘の流れを支配されたと歯噛みする。魔力の充填から発射までの速度を切り詰めた砲撃連射による弾幕。我々の接近を阻んでくる。

『シュツルムファルケンでなら届きそうだが・・・』

私の魔法の中で遠距離であり最速であり最大火力である一撃。セインテストの高機動力の前に当てられる自信はさほどないが、あの弾幕を貫通できる一撃となると最早それしかあるまい。

『待て。お前の切り札を、管理局の目があるかも知れぬこの場で使うのは得策ではない』

『じゃあどうすんだよ』

『我が盾となり、中を突っ切る。我が耐え切れずに退く際、続けてヴィータが盾となれ。シグナムをセインテストの元まで連れて行く』

ザフィーラの案に、ヴィータは『ま、それっきゃねぇか』嘆息しながらも賛同。ならば守護騎士の将である私が却下するなどありえん。

『すまん、頼めるか?』

『ああ』『任せろって』

そういうことならば、消費しきったカートリッジを装填、さらに鞘を左手に携えて準備を終える。そしてザフィーラの『行くぞ!』という合図で、ザフィーラ、ヴィータ、私と連なってセインテストの元へと突撃する。

――パンツァーヴィアベル――

ザフィーラが前方に渦巻くシールドを展開。セインテストの砲撃が我らに向けて射線変更し、1発目がシールドに着弾する。

「ぐぅぅ・・・!」

「「ザフィーラ!」」

「問題ない! このまま行くぞ!」

断続的に放たれる砲撃だが、充填速度が短いためかシールドで防げている。もちろん、ザフィーラの防御力の高さがあってこその結果だろう。

「驚いたな。なら、これでどうだ?」

――噛み砕け汝の凍牙(コード・マトリエル)――

砲撃が途切れたかと思えば、今度は氷の龍が我々を飲み込もうと突撃して来ていた。完全に飲み込まれてしまう巨大さ。私は「散開!」と指示を出し、一斉にその場から離れる。氷の龍はそのまま地面に激突し、周囲を凍結させた。

「くそが! やっぱ近付けねぇ!」

「離れれば砲撃の弾幕、近付けば龍の一呑み。よもやここまで厄介とは・・・!」

「どうする、シグナム?」

今は攻撃が止んでいるが、こちらが動きを見せればすぐにでも攻撃を再開するだろう。と思っていたのだが、「あ、逃げやがった!」ヴィータの言うようにセインテストが我々の前から撤退した。さすがに魔力の消費が大きかったようだな。

「逃がすか!」

「待て、ヴィータ! 迂闊に追うと手痛い反撃が来るかもしれん!」

「っ!・・・だからって、このまま放っておくんかよ」

「どうする、シグナム。ここは一度退くか?」

ヴィータとザフィーラの視線を受ける。正直セインテストを甘く見ていた。単なる砲撃だけでここまで我らの手を防いでくるなど・・・。しかし、奴の魔力量は多少の無茶を通してでも欲しい。ならば、どうやってあの弾幕を防ぐか。

「(手は1つ、か・・・)ヴィータ、ザフィーラ。手を貸してくれ」

付け焼刃の連携だが、おそらくこの手しかない。私は2人にセインテストを墜とすための作戦を伝える。多少なり反論を受けると思ったが、「ま、はやてのためだ」ヴィータと、「守護獣の本領だ」ザフィーラは快諾してくれた。

「行くぞ」

「「おう!」」

セインテストの後を追う。おそらく奴は今、どこかで体を休めて魔力の回復を計っているだろう。これ以上の猶予を奴には与えられん。墜とすには今しかない。

――舞い降るは汝の無矛(コード・パディエル)――

「「「っ!」」」

周囲を警戒しながら空を翔けてセインテストを捜していると、目下の砂漠地帯の至る所から爆発が起きた。空高くまで舞い上がった砂塵が視界を覆い隠す。まずい、奴の姿が視認できない。

「下から来るぞ!」

――轟き響け汝の雷光(コード・バラキエル)――

砂塵を穿ってくる電撃変換された砲撃。ギリギリまで見えないが、発射時の魔力反応でどこで砲撃が放たれるのか、ある程度察知できるのは助かる。掠めて行く砲撃の放つ衝撃波に全身がピリピリと痺れる。

「のわっ!?」

「ぐぅ・・・!」

「っ!? ヴィータ! ザフィーラ!」

視界が一切利かず、砲撃も収まった頃、2人の苦悶の声が耳に届いた。セインテストが近くに居る。視界を当てにするな。奴の気配を探れ。

「(後ろ・・・!?)はっ!」

振り向きざまに“レヴァンティン”を薙ぎ払うが、刃は誰にも触れることなく空振り。しかも「ぐぁ!?」腹に強烈な衝撃が。十字架を振り終えていたセインテストの姿が視界の端にあった。そして私に一撃を入れたからか、砂塵に紛れるようにまた姿を晦ます。

(このままでは嬲り殺しか)

一先ず砂塵から逃れなければ。直上に向かって飛び、砂塵から抜けたその直後・・・

「俺の勝ちだ!」

「っ!」

そこにセインテストが居た。すでに砲撃の充填が終わっているようで、奴の前に蒼い光球が1つある。直撃は撃墜必至。しかし避けるには全てが遅すぎた。刹那の間、“レヴァンティン”のカートリッジをロード。

轟き響け汝の雷光(コード・バラキエル)!」

そして放たれる砲撃。防げないのであれば真っ向から斬り伏せるのみ。そう考え、視界が蒼の雷に染まる中で“レヴァンティン”を振り払おうとした時・・・

「させん!」

――鋼の軛――

私と砲撃の間に鋼の軛が何十と立ち、砲撃を防いだ・・・と思ったのだが、砲撃の威力は尋常ではなく拘束杭を全て粉砕した。

「だが!」

この刹那の好機、決して無駄にはせん。砲撃へと真っ向から突撃し、そして紙一重で避けてそのままセインテストの元へと向かう。砲線はまだ途切れない、セインテストもまだ砲撃を撃った体勢のままで硬直中。行動に移るまでもう猶予は無いが、その猶予をすべて私の好機に変えてみせる。

「紫電・・・」

1秒とせずに“レヴァンティン”の間合いにセインテストを入れる。

「一閃!」

火炎を纏う“レヴァンティン”による斬撃を奴へと繰り出した。世界が鈍くなったかのような視界の中、“レヴァンティン”の刃が奴に当たるというところで、直上より高速で落ちて来た奴の十字架が“レヴァンティン”の腹に直撃し、「な・・・!?」その衝撃で私の手より“レヴァンティン”が弾き飛ばされてしまった。

「終わりだ」

セインテストの声がいやに大きく耳に届いた。しかしな、セインテスト。お前もまた周りを見ていない。

「「おおおおおおお!」」

――ラケーテンハンマー――

――守護の拳――

ヴィータとザフィーラによる左右からの挟撃。セインテストは「チッ」私を討つ機会を失ったことで舌打ち。急速後退して2人の攻撃を回避した。あぁ、またふりだしかと気が重くなったその時、奴の両腕がバインドで拘束された。

「くそっ、ここでか・・・!」

我々の誰の物でもないバインド。だが、「ヴィータ!」この機会は逃せない。

「おうよ! ラケーテン・・・ハンマァァァァーーーー!」

すかさずヴィータに追撃を指示。セインテストは足掻き、バインドを破壊して解放されたが、回避する間もなく「ぐあ!」ヴィータの一撃を受け、砂漠へと墜落した。

「ちきしょう! ギリギリで防がれた!」

私は「この好機を逃すな! しかし警戒は怠るな!」と、一気に勝敗を決するがため、我々は接近戦を挑むべく最接近を試みる。

†††Sideシグナム⇒ルシリオン†††

シグナム達を待ち構えていた時に、結界に何者かが侵入してきたと頭の中で警報が鳴った。クロノの魔力パターンではなかったから、なのはのリンカーコアから魔力を奪ったあの腕の持ち主か、または俺を足蹴にした奴か。
しかし、ここから結構離れているため、腕の方は動き回ればおそらく捕まらないはず。バインドの方も、この距離からして警戒する必要はないだろうと判断した。

「その侮りがこの結果か・・・」

長距離バインドからして、俺を足蹴にした奴だろう。

「あー痛いな・・・」

咄嗟に魔法のシールドで防いだからこそ、この程度で済んだ。あの防御力の高いなのはすら撃墜できる一撃だ。直撃だけは避けなければ。
未だ砂塵が晴れきっていない中で、こちらに向かって来るヴィータとシグナムとザフィーラを視界に入れる。再度空へと上がろうとしたが、両足から何かに縛られたような感触が伝わってくる。視線を向けると、両足首を縛っているのは青いリングバインド。

(なにっ!? この視界の悪い中で正確なバインドだと!?)

油断以外の何ものでもない単純な警戒ミス。

(相手は相当なミッド式の使い・・・手? いや待て、どういうことだ? 守護騎士はベルカ式の使い手だろう?)

「何をぼさっとしているんだ、セインテスト!」

≪Sturmwinde≫

シグナムの振るった“レヴァンティン”から炎の衝撃波が撃ち出された。リングバインドの破壊にはもう少し掛かるため回避は出来ない。

「チッ、知らしめよ汝の力(コード・ゼルエル)!」

“第四聖典”に魔力を付加し、魔力と身体を強化。振り下ろされるシグナムの一撃を、“第四聖典”を薙ぐことで迎撃。彼女を弾き飛ばす。

「おおおおおッ!」

「そぉらああぁぁッ!!」

それにも関わらず左右から突撃してくるザフィーラとヴィータ。シャルからザフィーラの拳打の威力は聴いているし、ヴィータの破壊力も今経験したばかりだ。無茶な接近の試み。それからして俺が接近戦が苦手だとバレてしまっているようだ。

「くそ・・・!」

接近戦は俺が苦手とする距離。確かに槍の腕前だけは物心つく前から鍛錬を積んでいるので自信はあるが、今の身体では頭の中と実際の動きに誤差が出まくってしまう。だからこそ中距離と遠距離を選択しなければならない。

「だが甘いっ!」

――吹き荒べ汝の轟嵐(コード・ラシエル)――

蒼い竜巻を俺とヴィータ達の間に発動させる。それと同時にリングバインドが粉砕される。

「またこれかよっ!?」

「むうぅぅ!」

「吹き飛べ・・・っ!」

この術式ラシエルは攻性ではなく防性と補助に相当するものだ。ラシエルは竜巻の障壁であり、その魔力の籠められた風圧で敵の突進や攻撃を遮断する。それでもなお無理やり突破しようとすれば、竜巻と共にはるか遠くにまで運ばれていく。
案の定2人はどこかへ飛ばされていった。どこへと行くかは俺にも判らない、知るのは風の流れのみ。ヴィータとザフィーラを退場させたことで、残るはシグナムと、もう1人のバインドの主の2人のみ。

「さっさと先程のバインドの使い手を呼んだ方がいいんじゃないか、シグナム?」

「・・・実は、私にも判らんのだ、セインテスト。あのバインドを主が誰なのか」

竜巻の行方を見ていたシグナムを問い質す。が、俺の問いに彼女はそう答えた。表情と真っ直ぐな瞳から嘘ではないことは判る。

「(この件に第三者が関わっているというのか? ならそいつの目的はなんだ? いや今はシグナムを無力化することを第一としよう)そうか。まぁいいさ。あとでバインドの使い手も捕まえてやる。さて、どうするシグナム、あとは君ひとりだけだが?」

「だからと言ってお前が張ったこの結界がある限り逃げることは出来まい? ならば戦い、それになお勝ち、お前から蒐集するのみだ」

退くことを知らないのはどこの世界、どの時代の騎士も同じか。確かにこの結界がある限り、彼女たちが逃げることが出来ないのもまた事実。警戒するのは侵入者の1人のみ。打ち倒すはシグナムひとり。ヴィータ達はもうしばらくは来ないだろう。

「いくぞ、ヴォルケンリッターが将シグナム、参る」

「管理局嘱託ルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード、受けて立つ」

シグナムと再度交戦に入る。少ない魔力を上手く使ってシグナムを接近させず、しかしこちらの攻撃の手は一切緩めないようにする。

「はぁはぁはぁ、お互い決定打を与えられないと辛いな、セインテスト」

そんな攻防を繰り返していると、シグナムが肩で息をしながらそう告げてくる。俺も似たようなものだ。状況はあまり良くない。

「確かに。だが俺はまだやれるぞ?」

俺が展開する剣翼アンピエルは空戦機動力上昇の他に、大気中の魔力を供給する補助器としての役目もある。消費しきっていた魔力も、シグナムが発する魔力を吸収することでなんとか接戦に持ち込めている。

「そうか、私とて膝を屈するにはまだ足りん。レヴァンティン!」

≪Explosion. Schlange form≫

再度“レヴァンティン”が片刃剣から蛇腹の連結剣へと変わり、その剣身を俺に伸ばしてくる。

「づっ・・・!」

この小さな体では体力も持久力もあまりなく、とうとう避けきれずに右腕を浅く裂かれる。多層甲冑ゴスペルを使えればこの程度問題にならないだろうが、あれにはXXXの魔力が必要だ。無いもの強請りをしている時間も余裕もない。

「はああぁぁぁ!」

「穿て、氷閃!」

――舞い降るは汝の麗雪(コード・シャルギエル)――

さらに上空へと上がり、襲い掛かってくる連結刃を14の氷槍で撃ち落す。

「レヴァンティン!」

≪Schwert form. Explosion≫

――紫電一閃――

「おおぉぉぉ!」

シグナムは“レヴァンティン”を片刃剣へと戻し突撃してくる。俺は“第四聖典”に魔力を込め、その斬撃を受け止める。周囲に衝撃波と衝突による爆音が広がる。それと同時に結界が破壊された音も聞こえた。

「・・・ふむ、ヴィータが結界を破壊してくれたか」

「はぁはぁ・・・結界が消えたのであれば撤退が出来るな。戦いはここまでにしておかないと管理局が来るぞ、シグナム」

そう言うがクロノと連絡をとってまだ14分程度しか経っていないはずだ。あと半分の時間をアンピエルだけで戦うとなれば、負けるか殺して勝つしかの選択肢しかない。固有術式に掛けられている制限が無ければ、まだまだ余裕で戦うことが出来るんだが・・・。

「私は先に言ったなセインテスト。お前の魔力を蒐集すると。今更それを変更することはない」

そうだよな、ここまで来て手ぶらでは帰れないよな。あぁ、本当に面倒なことになってしまった。バインドの主の位置もヴィータ達の位置も、シグナムとの戦闘に集中しすぎて判らなくなってしまった。今の状況でこのまま戦っているとどうなるか判らない。なら手早く終わらせなければ。

「ここで投降・逃亡しなかったことを後悔するなよ・・・」

――殲滅せよ汝の軍勢(コード・カマエル)――

†††Sideルシリオン⇒シグナム†††

セインテストのその言葉と共に、奴の背後に現れたのは約60の槍。それは炎の槍、光の槍、氷の槍、電気の槍、風の槍、影の槍などなど様々。ここまでの魔導師など、数百年と存在している私でもお目にかかったことはない。

「ジャッジメント!」

その号令の下、槍の大群が私に向けて放たれる。

「っ、レヴァンティン!」

≪Panzergeist≫

魔力の甲冑パンツァーガイストを全身に纏いながら回避に全力を注ぐ。防御しながらの回避でなければこの槍の大群を凌ぎきることはまず不可能だ。おそらくザフィーラの防御力でもこれの前には無力と化すだろう。

「ぐっ・・・!」

次第に体のあちこちに傷が増えていく。撃ち出される速さが上がっていっているようだ。しかしようやく攻撃が止み、いざ反撃に移ろうかとしたが・・・

第二波(セカンドバレル)装填(セット)

再度セインテストの背後に現れる槍の大群。しかもその数が更に増え、おそらく100は下らないだろう。

「・・・ここまで、なのか・・・?」

私らしくもなく諦めそうになったその時・・・


「轟天爆砕!」


突如上空より聞こえるヴィータの声。声の出どころはセインテストのさらに上。そこには“グラーフアイゼン”をギガントフォルムへと変えていたヴィータの姿があった。

「しまった! もう戻ってきたのか!?」

「ギガントシュラァァァーーークッ!」

セインテストへ振り下ろされる巨大な鉄槌。だが奴は回避、防御にすら移ろうとしない。まさか今の状態では動けないのか? そして結局そのままヴィータの一撃の直撃を受け、物凄い勢いをつけて地面へと叩きつけられた。

†††Sideシグナム⇒ヴィータ†††

アイツの結界を破壊してすぐ、シグナムのところへと戻って来ると、とんでもねぇ数の槍の雨にで少しずつ傷付けられてたシグナムの姿があった。その槍の雨も終わったと思えば、またアイツの後ろからめちゃくちゃな数の槍が現れた。あのままじゃシグナムがやられるって思ったからあたしは・・・

「ギガントシュラァァァーーークッ!」

アイツの強さを解かっているからこその最強の一撃を放つ。アイゼンを振り下ろしてるっつうのにアイツは防御をしようとしないし回避もしようとしない。そのまま直撃して、アイツは地面へと叩きつけられた。

「はぁはぁはぁ、やっちまった。はやての未来を血で汚さないって決めてたのに・・・!」

あたしの最後の誓いは、あのセインテストってやつの強さの前に破れた。

「・・・仕方ないさヴィータ、相手が相手だった」

シグナムがそう言ってくれるけどやっぱり気分が悪い。

『シャマル、こちらは終わった。直ちに蒐集を頼む』

「バカな!?」

遠くで待機してるシャマルに、シグナムが思念通話で連絡を入れてると、ザフィーラが驚愕の声を上げた。信じたくねぇけど、あたしらはアイツの落ちた場所へと視線を向ける。

「なぁおい、うそ・・・だろ? 確かに入ったんだぜ、アイツに!」

頭がおかしくなりそうだ。確かにあたしの最強の一撃を受けたのに、それなのにアイツは頭から血を流しながらも、その足でちゃんと立ってやがった。

「シャマル!」

シグナムもアイツの姿に動揺しているのか、思念通話じゃなくて直接声に出した。

†††Sideヴィータ⇒ルシリオン†††

やられた。フェイトやなのは達に偉そうに言っておきながらこの様か。笑わせる。格下相手だからと言って最後の詰めを誤るのは今も昔も全く変わらないな、俺は。まさかヴィータにあんな手段があったとは・・・、あぁ、思慮が足りなかったか。いや、そんな言い訳は見苦しいだけだ。負けた、ただそれだけが事実だ。

――旅の鏡――

「ああ゛あ゛あ゛ああ・・・!」

俺の胸からなのはと同じように腕が生えてきた。指の細さからして女性のものであることが判る。抵抗しようにも力が入らず両膝をつき、ついには横向きに倒れてしまった。

「すまない、セインテスト。いつか必ずお前からの裁きを受けよう」

「・・・こいつのリンカーコアって、あたしらのと違うんだな」

シグナムの謝罪の声とヴィータの声が聞こえる。当然だ、これは魔力炉(システム)であってリンカーコアじゃない。次第に輝きを失っていく俺の魔力炉(システム)だが、このまま黙って奪われるつもりはない。

――魔力炉(システム)緊急封印――

全ての魔力をカットしたため全てが奪われることはなくなった、が。

――警告、魔力炉(システム)経由で情報の一部が流出――

固有魔術より、ウンディーネ、コード・シャルギエル、コード・メタトロン、コード・バルドル、真技グロリアス・エヴァンジェルが流出。

“神々の宝庫ブレイザブリク”より、斬魄刀・天鎖斬月、封雷剣、幻英教典スクリーミル、劫火顕槍シンマラ、神剣ランドグリーズが流出。

“英知の書庫アルヴィト”より、エーテルストライク、ドラグスレイブ、侵食固有結界・水晶渓谷、ファイナルマスタースパーク、創世結界フェアティルゲン・ヴェルトールが流出。

“英雄の居館ヴァルハラ”より、ズェピア・エルトナム・オベローン、サーシャ・クロイツェフ、フラウロス・ヴォルテウス・フィン・アズーラヴィンドが流出――

魔力の流出はそれほど被害がなかったが、魔力以上に奪われてはいけないものが奪われた。これは酷い。全くつくづく情けないな。自分の不甲斐なさを呪いつつ、意識が途切れた。 
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