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星河の覇皇

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第七十三部第一章 野心家のはじまりその五

「むしろね」
「そうしたものですね」
「けれどね」
「それがですね」
「ええ、質素な野心家はね」
「野心も大きく」
「国家に求めるものも大きくて」
 そして国家の為にというのだ。
「何でもするわ」
「そうした傾向が強いですね」
「むしろそうした人物の方がいいわ」
「国家にもですね」
「あまり大きな野心の持ち主は危険だから」
「その国にとっても」
「修道僧は時として悪魔にもなるわ」
 何の欲もない人物はというのだ、無論これは比喩表現であり修道僧にしても人それぞれであり我欲の強い者もいる。
「何も欲がない故にね」
「それがどう向かうか」
「潔癖も過ぎれば怖いわね」
「そうですね、確かに」
「何をするかわからないから」 
 だからだというのだ。
「かえってね」
「潔癖であり過ぎますと」
「汚れと認識してね」
「その対象を徹底的に排除しますね」
「それが宗教家の怖いところでもあるわ」
「十字軍の様に」
 小柳はあえて彼等の名前を出した。
「同じキリスト教徒であっても殺す」
「ええ、そうなるわ」
「特にアルビジョワ十字軍が酷かったですね」
「同じ宗派であっても殺していたわね」
 南フランスへの十字軍、カタリ派を攻めたこの十字軍ではというのだ。
「もう無茶苦茶と言っていいまでに」
「殺せ、神が見分けられるでしたね」
「教皇庁の使者がそう言ってね」
「実際にそうなりましたね」
「あれは信者か異端かの区別がつきにくかったせいもあるけれど」
「異端を殺すのならですね」
 それも完全にだ、ここではそれはカタリ派となる。
「多少の犠牲は当然だと」
「穢れを消す為にね」
「そう考えてでしたね」
「ああした殺戮をしたのよ」
 虐殺とも言う、とかくこの十字軍は血生臭かった。他には東方十字軍というリトアニア等への侵攻も行われていた。
「徹底的にね」
「宗教家ならではですね」
「宗教は清潔を第一とするわね」
「ほぼ全ての宗教がそうですね」
「汚れを認める宗教はまずないわ」
「それ故にですね」
「時として潔癖な、私のない人間は危険にもなるわ」
 我欲が強い者、野心家よりもというのだ。
「無論そうともばかり限らないけれど」
「我欲で攻める輩もいますし」
「私利私欲のみで他人をどれだけでも殺す人間もいるわ」
「はい、世の中には」
 そして歴史でもだ。
「そうした侵略者もいますね」
「けれどそうした俗物の方がましよ」
「そうした宗教家よりはですね」
「俗物は欲しいもので満足するわ」
「しかし宗教家は自分とは違う相手をですね」
「徹底的に消すわ」
「まさにその全てを」
 人も街も文化もだ、サヴォナローラというキリスト教の僧侶はこの考えでルネサンス期の多くの名画を燃やしている。
「何もかもを」
「そして実際に多くの犠牲が出たわね」
「人類の歴史においては」
「多くのものが失われたわ」
「私のない潔癖症の宗教家によって」
「少なくともジャバル副主席は潔癖ではないわ」
 彼はというのだ。 
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