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緋弾のアリア 〜Side Shuya〜

作者:希望光
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第2章(原作2巻) 堕ちし刃(デュエル・バウト)
  第20弾 現れし妖刀(カミング・ザ・クラウ・ソラス)

 
前書き
第20話です。 

 
「———決闘してください」

 普段のレキからは、到底予想も出来ない台詞。
 これを聞いた俺とアリアは、戦慄していた。

「け、決闘……?」

 あまりの衝撃からか、俺は上手く呂律が回らなかった。

「はい。私と狙撃の技術で勝負してください」

 そう言ったレキの表情は、依然として普段と変わらず無表情であった。
 しかし、彼女からは明らかな闘士のようなものが感じられた。
 ……やる気なんだ。表情(かお)に出てなくても、目を見ればわかる……。

「……分かった」
「ちょ、ちょっと……!」

 俺の返答に対して、アリアが声をあげた。

「だが、今はその時じゃない。俺もお前もやることがあるだろ?」

 そう言って俺は、ここから見えるとある建物———第3男子寮を見た。
 俺の視線の意図に気づいたらしいレキは頷いた。

「と、言うわけだ。油売ってないで見張りに戻ろう」
「そうね……というか、元はと言えばあんたがあたし達をここに連れてきたのが原因でしょ」

 アリアにそう言われた。間違っちゃいないな。だが、そいつは訂正させてもらうぜ。

「いや、お前が狙撃の腕を見たいって言ったからだろ?」

 俺はアリアにそう言うと、足早に階段を降りていった。

「あ、待ちなさい!」

 俺の後方からはそんな声が聞こえてきた———





 翌日の昼休み。女子寮から直接学校に登校する羽目になった俺は、言わずもがなクラスの男子連中に囲まれていた。

「オイ、お前今朝女子寮から出てきたらしいけど何やってたんだ?」
「そんなことより誰の部屋にいたんだ!」
「レキの部屋だって話だけど?」
「「「「なに?!」」」」

 何このシンクロ率。ビックリなんだけど。

「ていうかA組の神崎まで侍らせてたって話じゃねぇか」
「「「「「お前に人権はない」」」」」

 オイ、真っ向から日本国憲法を否定すんな。と言うか、なんでそんなに息ぴったりなの? 

「……あのさ、色々言いたいんだが」
「「「「「却下」」」」」

 なんでさ。不当な取り調べじゃねぇか。

「とりあえずだ。今この場で昨日起こったことを洗いざらい吐いてもらおうか」

 その言葉を皮切りに、周囲の男子連中(バカども)は、殺気を強めた。

「じゃあさ、こうしよう」

 そう言って俺は、懐から500円玉を取り出した。

「この500円玉を、手に入れられた奴に話してやるよ」

 俺は500円玉自身の真上へとを投げた。

「「「「「させるか!」」」」」

 同時に男子(バカ)達は飛び上がった。
 ここまで息ぴったりにする必要ある? 
 まあ、そっちの方がやりやすいんだけどさ。
 直後、俺の投げた500円玉が———正確には、500円玉と一緒に投げた閃光弾(フラッシュ)が、眩い光を放った。

「な、なんだ?!」
「ウオッ!」
「ウギャァァア!」
「ま、眩しい!」
「目が、目がぁ!」

 と言った具合に、光を直視した奴らは悶えていた。
 ……というか1人さ、某国民的アニメ映画の某大佐が混じってるんだが。
 どうでもいいことを考えていた俺は、少ない動作で机に乗ると、そのまま天井裏へと潜り込んだ。
 勿論、投げた500円玉の回収を忘れずに。

「ど、何処に消えたんだ……!」
「さ、探せ!」
「見つけ出してズタズタにしてやる!」

 血の気が多いこった……。当分は下手なことができないな……。
 そう思いながら、天井板をぴったりと閉めた俺は、廊下の天井裏へと向かった。

「……やっぱりここに来た」

 突然声がかけられた。

「……誰だ?」

 俺はアンカーウォッチに内蔵した、ライトを起動した。
 その光で声の主が照らし出された。

「……なんでこんなとこにいるんだよ、マキ」
「長年の付き合いと予測からここに来るんじゃないかなと思って、ね」
「お手上げだよ……」

 自然とそんなことを呟いてしまった俺。

「何が?」
「なんでもない」

 俺は即座にマキに返答すると、奥へと進んでいく。
 というか分かってたんなら、助けてくれても良くないか? 

「何処に行くの?」
探偵科(インケスタ)だ。俺はアドシアードで、東京武偵高(ウチ)の探偵科の代表を任されたんでな」
「そうなの?」

 俺の言葉にマキは首を傾げた。

「ああ。辞退する理由もなかったから、引き受けた」
「そっか。そういえば、私も今日は諜報科(レザド)に行かないとだった」

 マキはそんなことを呟いていた。

「……凛音の護衛どうするか」
「あ、それなら安心して」
「なんでだ?」
「歳那が戻ってきたからいないときは任せられるよ」

 歳那が戻ってきた? マジかいな。

「いつ戻ってきたんだ?」
「昨日の夜だったよ。私と凛音でシュウ君の部屋にいたら訪ねてきたの」
「そうか。でも、歳那がいるなら安心できるか」

 そう言って俺は、天井板を外した。

「ここは?」
「降りればわかるさ」

 俺はそのまま天井裏から出た。
 それに続いてマキも降りた。

「ここは……」
「空き教室。2学年のフロアの1番端のところ」

 基本的に人が来ることのないフロア端。そこには、使わない椅子や机を仕舞っておく空き教室が存在している。

「さてと、B組に向かうか」

 俺はそう言って扉を開け廊下へと出た。

「なんか、暗いね」
「名目上進入禁止エリアだからな」

 俺はそう言って歩き始めた。
 暫く歩くと、徐々に人気が出始めてきた。
 そして、B組の前にたどり着いた。
 中を覗いて、歳那を探す。

「……どうかしたのか?」

 突然、教室内から現れた周一に声をかけられた。

「お前B組だったっけか……」
「そうだよ……で、要件は」
「ああ、えっとだな。土方(・・)に用があって」
「そうか」

 そういうと周一は振り返っていった。

歳那(・・)、呼ばれてるぞ」

 ……ん? 呼び捨て? 

「なあ、周一」
「なんだ?」
「お前あいつとそんなに仲がいいのか?」
「いや、ただただ付き合いが長いだけだ」
「なるほど」
「じゃ、俺はやることがあるんでこれで」
「おうよ」

 そう言葉を交わすと、周一は教室を後にしていった。

「お呼びでしょうか?」

 直後、歳那が現れた。

「ああ、話があってな」
「凛音の件でしょうか?」
「ご名答。この後、俺もマキも凛音のそばから離れなきゃいけないから、代わりに護衛を頼みたいんだが」
「了解しました」
「それだけなんだが……一応聞くが、お前と周一って、どう言う関係なんだ?」

 それは、と言って歳那は話し始めた。

「彼と私と凛音は、古くからの付き合いです。よく、稽古を一緒に積んだらもしました」
「幼馴染ってことか?」
「はい」
「そっか。それだけ把握できれば十分。ありがとな」
「いえ。では、凛音の件任されました」
「よろしく。じゃあ」
「はい」

 そう言って、俺とマキはB組を後にした。

「まさかの人間関係が露見したな……」

 俺は誰にとなく、そんなことを呟いた。

「私達も似たり寄ったりでしょ?」
「否定はしないな」

 そんなことを言いながら、俺とマキは一般科目(ノルマーレ)棟を後にするのであった———





 夕方、探偵科で高天原先生と話し終えた俺は、通信科(コネクト)を訪ねていた。
 ……確かこの棟の3階の部屋にいたはずなんだが。
 俺は、階段を登って突き当たりにあった部屋の扉を開けた。

「失礼します」

 部屋の中には、何台かのPCや、通信機器などが配置してあった。

「……覚えてたんだね」

 そんな部屋の中にいたのは、由宇だった。

「まあな。俺は記憶力はいい方なんで」
「記憶力"だけ"でしょ」
「失礼な」

 そう言いながら、俺は扉を閉め、由宇の側へと向かった。

「で、頼んでたことは?」
「ああ、資料でしょ」

 そういった由宇は、自身の目の前のPCのファイルを開いた。
 俺は、その画面を由宇の後ろから覗き込んだ。

「一応見つけた。ただ、有力なものではないから、実証には繋がらないと思う」

 そう言われたが、見た感じ中々お目にかからないような資料まで集めてあった。

「……昨日無理強いして頼んだのに、よくこんなに集められたな」
「私の情報網を舐めないでよ」
「いや、半分ぐらいハッキングしただろ」

 由宇はギクッ、という音が聞こえてきそうな表情をした。

「あまりやりすぎるなよ」

 由宇は、情報収集能力が飛び抜けて高い。
 何故かといえば、彼女は一種のハッカーだからである。
 多分今回の資料なんかも、国家のメインコンピュータあたりに忍び込んで引っ張り出してきたんだろうな……。

「足がつかないようにしてるから」

 とは言うけどね……。1回それで、痛い目にあったでしょうが……。

「……まあ、頼んだ俺がとやかく言う権利もないしな」

 俺はそう呟くと、PCの画面を凝視した。

「どう?」
「……なんとなく手口みたいなのはわかったが……『妖刀(クラウ・ソラス)』の特徴とかは全くと言っていいほどわからないな」

 俺はPC画面から視線を由宇へと移しながら言った。

「まあ、そうだよね」
「だが、凄く参考になる情報だ。ありがとな」
「どういたしまして」
「後さ、印刷してもらってもいい?」

 確か隣が印刷室になってたよな。

「いいよ」

 そう言って由宇は、隣の部屋へと入っていった。
 俺はそんな由宇の後ろ姿を見て、1年の時のことを思い出していた。
 ……なんか、あの時と変わらないな。

 俺はボヤきつつ、腕時計に目を落とした。
 時計は間も無く5時を示そうとしていた。
 もうこんな時間か。明日はアドシアード本番だし早く帰って準備せねば。
 そう思っていると———

「終わったよー」

 書類を手にした由宇が戻ってきた。

「ありがとさん」

 書類を受け取った俺は、素早く通学用カバンにしまった。

「じゃあ、俺は明日に備えての準備があるんで」
「うん。明日、頑張ってね」
「ああ」

 そう言って俺は、通信科棟を後にし、第3男子寮にある自室へと戻った。
 自室に戻ると、凛音と歳那がいた。

「あ、お帰り」
「おかえりなさい」
「はいはいただいま」

 俺は足早に自室に滑り込むと、荷物の中から先ほどもらった資料を取り出した。
 ……さて、読み解いていきますかね。敵の手口とやらを。
 俺はそのまま集中することにより、サイレントアンサーになる。

 そして、資料にじっくりと目を通していった。
 それにより、妖刀が現れる前触れなどを予測していく。
 しかし、それはあまりにも無謀に等しかった。

 この情報量だけで、無数の策を組む事は今の俺でもできない。
 もっと言えば、特定の予兆などが無い為、どんな策を講じていいのかまとまらないのである。

 ……折角由宇から情報を貰ったのになぁ。
 俺は内心ぼやきながら、机の前から立ち上がった。
 すると、突如として扉が開かれた。

「シュウヤ、無事?!」

 などと言った具合のこと言って、凛音が部屋へ入ってきた。

「……なんの話だ?」
「え、今メールで……」
「えっと、落ち着け。まず俺は、家の中にいるのにメールしたりはしない」
「で、でも」

 そう言って凛音は、携帯のメール画面を提示してくる。

「このメールアドレス……」

 そこには、確かに俺のメールアドレスが記されていた。

「……!?」

 どういうことなんだ。あり得ないだろ。

「……同調されてる?」

 俺は無意識の内に右手で口元を抑えると、そのまま無数に思考を走らせる。

「シュウヤ……?」

 凛音の言葉を聞きながら、1つの結論に至った。

「……『妖刀』め、接触(コンタクト)してきやがったか」
「……?!」

 俺の言葉に、凛音は驚きを隠せないでいた。

「それは『妖刀』の手口だ。今さっき確認した」

 俺はそう告げた。
 その言葉に、凛音は震えていた。

「怖い……のか?」

 俺はそっと凛音に問いかけた。

「ううん。大丈夫……」

 そう答える凛音だったが、その震えは増す一方であった。

「……良いんだぜ。怖いなら怖いで」

 俺はそのまま続ける。

「今の俺は、お前を守るのが仕事だ。だから、何かあるなら正直に言ってくれ。俺のできる範囲内のことなら、やるから」

 そう告げると、凛音はそっと顔を上げて言った。

「……私のこと、抱きしめて」

 そして、凛音は目元を伏せた。
 俺は無言で、凛音背中へと手を回し抱き寄せた。

「……もっと。もっと強く」

 そう言われた俺は、凛音を抱きしめる力を強める。

「もっと……もっと……! 私が……私だってしっかりと伝わるぐらい!」

 俺は彼女が痛がらない、且つ最大限の力で抱きしめる。
 それに合わせて、彼女も俺を抱きしめてくる。
 そして、俺の胸に顔を埋め静かに泣き始めた。
 対する俺は、彼女の頭をそっと撫でた。
 そのままの状態で数分が経ち、漸く凛音は落ち着いた。

「ごめんね……」
「お前が謝ることはないさ」
「ううん。あるよ……。だって、護衛だけじゃなくて、こんな無理なお願いまでしちゃったんだもん……」

 そう言った凛音は、耳まで赤くなっていた。

「別にいいさ。それに、他でも無い凛音の頼みなら尚更」

 俺はそう言って、右手で後頭部を掻いた。

「で、でも、そういうのはやっぱり……」

 と、凛音は食い下がる。

「良いって。俺は正しいと思ったことをしただけだから」

 事実、減るもんでも無いからな。うん。

「そ、そう……?」
「ああ。なんだ、そんなに俺が信じられないか?」
「そう言う……わけじゃ無いけど……」

 凛音はそう言って俯いた。
 うん。やっぱ、戦闘時と平常時での差が激しい。
 アレかな、俗に言う戦闘狂かな? あ、それは俺か……。
 などと、内心1人漫才を繰り広げる俺は、凛音とともに自室を出た。

「あ、そう言えば歳那は?」
「……なんか、買い物に行くって言ってた」
「そうか」

 俺はそう言って、台所へ向かう。

「さて、夕飯の準備でもしますかいな」
「あ、私も手伝うよ」
「頼む」

 そして、2人で夕飯の支度へと取り掛かるのであった———





 翌日、アドシアード当日。
 俺は、探偵科棟の特設会場に居た。
 東京武偵高の探偵科代表として。

 俺の周囲には、各国の武偵高の代表達がいる。
 俺は、手元にある参加者一覧へと目を通した。
 ……中々凄いメンバーだな。しかも、名前を聞いたことのある奴ばっかりだ。

 これは、気を抜いたらヤバイな。
 そう思った俺は、視線を上げ辺りを一望する。
 その際、他の参加者とも視線があった。

 さて、そろそろだな。
 俺は資料を仕舞うと、高天原先生の所へと向かう。

「先生、そろそろ定刻ですよね?」

 俺は再度、時間の確認をとる。

「ええ。樋熊君も配置についてね〜」

 普段と変わらない様子で言われた。

「わかりました」

 そう言って、俺は指定されたところへと立つ。
 この競技は、事件現場を再現した所から推理できる事、気付ける事などを得点方式にして競うもの。
 事件現場は、1人につき1つずつ同じ内容のものが用意されている。

 制限時間は1回につき5分。
 因みに、決勝戦まで含めて合計3回あるが、場合によっては次が決勝戦なんて事もある、とのこと。
 俺は、ブルーシートの掛けられた再現へと目を向け直す。

「さて……どんな中身かね……」

 その呟きの後、定刻を知らせるチャイムが鳴った。
 そして、ブルーシートが外される。
 そこにあったのは……

「刺殺現場……?」

 大きな血溜まりが着いた、再現であった。
 俺はその現場を、細かく調べる。
 遺体があった場所……白線で囲まれているところの、腰にあたる部分に大きな血溜まりがある。

 ここから考えられるのは、腹部を刺された事による失血死。
 だが、血溜まりはもう一つある。
 それは、頭部にあたる部分にあった。

「……頭と腹部を刺されたことによる失血死……なのか?」

 普通ならここで終わりだろう。
 実際、他の奴らは報告に行ったりしている。
 だが、俺には何かが引っ掛かっていた。
 俺は頭部付近の血溜まりを入念に調べる。
 そこには、何かが転がったような血痕があった。

「……これは」

 俺はその幅、様子などから一つの結論を導き出した。
 そして、審判の元へと向かう。

「報告をどうぞ」
「はい」

 俺は自身の中で作り上げた仮定を述べた。

「被害者の死因は、2箇所の大きな外傷による失血死。その際使われた凶器は内臓まで達する様な、長く鋭利な刃物」
「以上か?」
「いいえ、まだ続きます」

 俺はそう言って、続けた。

「この刃物が使用されたのは恐らく一撃目。しかし、被害者はそれでも絶命しなかった為、犯人は拳銃を使用したと考えられます」
「その根拠は」
「血痕の中に、何かが転がったような形跡があり、その幅と距離から.45ACP弾の薬莢部分だと推定しています」
「なるほど」
「しかし、現場付近に薬莢が見受けられなかったことから、犯人は空の薬莢を持ち去ったと考えました。以上」

 俺の考察を書き終えた審判は、俺をフィールドから出るように促した。
 俺はそれに従ってフィールドの外へと向かう。
 そして、暫くしないうちに、結果が発表された。
 それによると俺は、このラウンドを同率1位で抜けたらしい。

「……次か」

 と思っていると、俺の携帯が振動(バイブレーション)した。
 何事かと思い開いてみると、そこには一通のメールが届いていた。
 そのメールの中を覗いた俺は戦慄した。

「……ケース……D7……!」

 ケースD7とは、アドシアード期間中に武偵高内で事件が起こったことを示すコード。
 この時の数字がいくつかあるが、今回の7は事件性があるかどうかが不明という意味になる。
 そして、送られる人間も限られた人間のみになる。

「因みに……詳細は……!」

 俺はメールに素早く目を通した。
 そして、とんでもない事実を知った。
 白雪と凛音、2人が同時に消えたのであった。
 つまり俺は、ケースD7を2つ分背負っていることになる。
 急いで俺は、高天原先生の元へと向かう。

「……先生」

 俺が声をかけると先生は、普段とは打って変わって真剣な表情で振り向いてきた。

「樋熊君も、この件に関わってるのね」
「はい。それも、2件とも」

 そう告げると、少し考えるような仕草をしてから、こう言われた。
「樋熊君は、解決に向かって。こっちは、なんとかして置くから」

 そう言われた俺は頷くと、早足で探偵科棟の出口へと向かった。
 その際、後ろから英語で『逃げる気か!』と聞こえたが、俺は聞こえないふりをした。

 そしてそのまま、俺は通信科棟へと一直線に向かう。
 目指すのは勿論、昨日と同じ3階の部屋。
 到着すると同時に、俺は勢い良く扉を開けた。

「あ、来た来た」

 其処には、通信機器の前に座る由宇がいた。

「どんな状況だ?」
「白雪の方から」

 えーっと、と言って由宇は報告を始めた。

「彼女は、遠山キンジにメールを残してから消えたらしいよ」
「……つまり、連れ去りじゃなくて、自ら赴かせたってことか」
「そうなるね」
「由宇、通信機貸してくれ」
「了解」

 俺は由宇に場所を代わってもらうと、周波数を合わせて指定されたチャンネルを開く。

「あー、あー、聞こえるか?」
『聞こえてるわよ』

 通信機から聞こえてきた声は———アリアの声だった。

「状況把握終了」
『報告を頼むわ』
「白雪だが、恐らく『魔剣』に脅されたかなんかで自ら赴いてったな。恐らくアイツが直接連れ去った線はないと思っていい」

『了解。他には?』
「敵は多分だが……海上から来たと推測。現場とか周囲の状況とか確認してないからなんともいえないけど」
『それなら、レキ辺りが何かを見つけてくれるはずだわ」

 俺はアリアの言葉に少し納得しながら、話を続けた。

「で、多分キンジの奴だが、今必死になって白雪のこと探してるはずだと思うから……レキのやつもアイツに手がかりを教えるはず」
『その理由は?』

 そんなこと言うまでもないだろ。

「お前が、そういう風に仕向けたから……だろ?」
『良く分かったわね。そうよ。あたしが、『魔剣』を誘き寄せるために、護衛をキンジ1人に任せたの』
「じゃあ、お前はキンジの事つけてけ」

『あんたは?』
「行きたいところだが……生憎こっちもケースD7が入っててね」
『もう一つの件ね』
「御名答。援護に行けるようになったら行く」
『わかったわ。あんたも気をつけて』
「ありがとさん」

 そう言って、通信を終える。

「どう?」

 由宇が尋ねてきた。

「白雪の方はなんとかなるだろうが……凛音の方が……」

 俺は携帯を開きながらそうぼやいていると……未読のメールを見つけた。
 不審に思いながらそのメールを開くと、差出人は凛音だった。

「……アイツもかよ」

 俺はそう呟くと、携帯をしまった。

「由宇、周波数405の回線で、集合通達をしておいてくれ」
「分かった。シュウヤは?」
「俺は、あいつの居場所を突き止める」
「気をつけてね。あ、集合地点はどうするの?」
装備科(アムド)棟前って伝えてくれ」
「了解」

 由宇の返事を聞いた俺は、そのまま通信科棟を飛び出すのであった———





 通信科棟を後にした俺は、走って装備科棟を目指していた。
 俺が何故ここを集合地点にしたかといえば……ここが1番怪しかったのである。
 あまり知られていないことだが、ここ装備科棟は地下に巨大な保管施設を備えている。

地下倉庫(ジャンクション)』に比べれば、規模は小さいがそれでも人が入るには広すぎる空間が、ここ装備科にはあるのだ。
 それも、車輌科(ロジ)の船着場付近に繋がる地下通路を要したものが。
 俺は他の2人が集合するより前に、中に入り階段付近にある扉をピッキングして開いた。

 この地下倉庫、二重扉を採用しているため、このアナログ式な扉の奥にはキーカード認証式の扉が待っている。
 つまり、この二重ロックを突破しない限りは、中へ入る方は不可能なのだ。
 俺はそんな扉のシステム板の部分を開くと、自身の携帯電話に接続した。

 そして、システム内へとハッキングを仕掛ける。
 その為に、俺は自身の集中力を極限のところまで引き上げ、サイレントアンサーになる。
 さて、ここから先へと通してもらおうか。

 扉のセキュリティーコードを弄る為、システムの奥深くまで忍び込んだのだが、最終防衛ラインとも呼べるファイアウォールがとてつもなく硬い。
 俺は、思考を全てそこへと注ぎ込み、システムの穴という穴を突いていく。
 そして、作業を始めてから15分。
 漸くセキュリティーを制圧、扉を開くことができた。

「……たく。ここの扉のコードまで乗っ取るとか……反則だろ」

 俺はボヤきながら携帯をしまうと、ホルスターからベレッタを取り出して警戒しながら中へと踏み込んでいく。
 倉庫内には、資材から工具、果ては量こそ少ないが火薬まで置いてある。

「下手に発砲したかねぇな……」

 俺はベレッタを両手持ちしながら呟いた。
 すると、奥の方から何やら会話が聞こえてきた。

「……どうして、私を狙ったの」
「……決まっている。君が才能ある『者』だからだよ」

 アレは、凛音の声……! 
 つまり話しているのは凛音と……『妖刀』。

「参ったな……敵の姿はここから視認できないし……」

 俺は、意を決して極限まで足音を殺して走った。

「私にそんな力は……ないよ。第一に、どこへ連れて行って、どうするつもりなの?!」
「そうだね。それは答えよう……と思ったが、どうやら招かれざる客が来てしまったようだ」

 ……気づかれた?! 

「凛音、来い!」

 俺は足音を殺すのをやめて、全力で走った。

「ど、どうしてここに……!」
「探偵科Sを舐めんな……!」

 俺はそのまま凛音に手を伸ばす。
 直後、凛音の体は、凛音の後方にあった闇の中へと吸い込まれていった。

「……な?!」
「……クッ! シュウヤ、逃げて!」

 その声を最後に、音はプツリと止んだ。

「……どう……なってるんだ」

 俺は周囲に銃口を向けながら警戒した。

「……お探しのものはこちらかな?」

 不意に、自身の背後の用具高の上から声がした。

「誰だ!」

 振り向くと同時に、銃口を向けながら俺は叫んだ。

「『妖刀』だよ。君達が追いかけ回していた。ね」

 そこには、仮面を付け黒装束を見にまとった人影があった。

「……チッ!」

 俺は舌打ちをすると、銃を下げた。
 下げるしかなかった。
 なんせ、気を失った凛音が盾にされていたのだから。

「……凛音をどうする気だ」
「彼女は素質がある。我々と同じように。だから、我々のもとでその才能を開花させ、磨き上げる」

 それを聞いた俺は、サイレントアンサーであるに関わらず飛びかかろうとした。
 しかし、その行動が叶うことはなかった。

 辺りに響き渡った2発の銃声。この銃声は、ワルサーP88のもの。
 そして、俺の両脛に走る激しい痛み。
 これが表す答えは、撃たれたということ。

「グアッ……!」

 俺は痛みに悶えながら、バランスを崩してその場にうずくまる。

「やはり、『弁慶の泣き所』とはよく言ったものだ。Sランク武偵もこの通りだからな」

 そう告げて来る『妖刀』に対して俺は、見上げることしかできなかった。

「シュウ君!」
「シュウヤさん!」

 そんな危機的な状況下で、マキと歳那が駆けつけてきた。

「待て、近づきすぎるな! コイツは、手強いぞ!」

 俺は慌てて静止したが、それはすでに遅かった。

「もう少し、周りの様子を見た方がいいかもね」

『妖刀』がそう言った途端、マキと歳那の動きが止まる。

「ど、どうしたんだ?」
「シュウ君……ゴメン……ワイヤーに嵌められちゃった……」
「ワイヤー……?」

 俺は、目を凝らして2人の周囲を見る。
 そして、この距離でギリギリ視認できるほどの大きさのワイヤーを確認した。

「……いつのまに!」

 さっき———

「俺が通った時は無かった筈。って思っただろ?」

『妖刀』は、俺に対してそう告げる。

「そりゃ、さっきは無かった。なんせ、たった今(・・・・)張ったんだからな」

 俺はその言葉に、戦慄した。

「……嘘……だろ」

 あの一瞬で、あそこまで複雑に糸を張るなんて……ほぼ不可能に等しい……。
 それを、アイツはやってのけた。
 ……いかん、完全に千日手状態だ。ここからの勝算が見えない……。

「あ、言い忘れたけど、そのワイヤーTNK製だからね」

『妖刀』は、俺に追い討ちをかけるかのように、そう告げた。
 そして、勝ち誇ったような勢いで、『妖刀』は、この場を去ろうとした。
 その瞬間、新たに3発分の銃声がした。
 妖刀は、その銃弾を寸前のところで避ける。

「誰だ?!」

 突然の攻撃に、『妖刀』は驚いていた。

「……SIG P250!」

 銃声を聞いた俺もまた驚いていた。
 何故かって? 
 それは、俺の知る限り、この銃を持つ人間は、一切戦闘を行ってないからな。
 今、この場において戦闘に出てきたことに驚きが隠せない。

「……やれやれ。漸く見つけた。探すの大変だったんだぜ?」

 声と共に、奥から足音を響かせてやってきたのは———

「「「……周一(君)?!」」」

 他でもない、千葉周一であった。
 周一は、右手に待ったSIGをホルスターにしまうと、左で掴んでいる刀へと手を伸ばした。
 そして刀を抜くと、そのままマキと歳那の横を通り過ぎていく。
 直後、その近辺に張られていたワイヤーが切断された。

「……今切ったのか?!」

 あまりの太刀筋に、俺は驚きが隠せなかった。

「さてとおとなしくしてもらおうか……『妖刀』。いや———周二」
「周二?」

 俺がその名前に首を傾げていると、『妖刀』が仮面を取った。
 そこから出てきた素顔に、俺は愚かマキと歳那も驚いていた。
 現れたのは、周一とそっくりな顔。
 そんな俺たちをよそに、、彼は周一にこう言うのであった。

「久しぶりだね———兄さん(・・・)」 
 

 
後書き
今回はここまで。 
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