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ソードアートオンライン アスカとキリカの物語

作者:kento
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アインクラッド編
  各々の道

 
前書き
連続投稿です!
やっと第1層のお話終了!
これで次からオリジナル話に入れます!

ではっ! 

 

「・・・背負いすぎだろ、1人で・・・・」


キリトが扉の奥に消えたボス部屋でアスカはぽつりと呟く。

分かっているのだ。キリトが他の元ベータテスターへと憎悪の矛先が向かわないように、ベータテスターを“情報を独占する卑劣なビーター”と“初心者上がりの単なるテスター”へと2分したことぐらい。

あのままでは、キリトのみならず、E隊やディアベルの隊のメンバーの糾弾は情報屋アルゴや、最悪、攻略に参加してないようなベータテスターにまで及んだだろう。
それを防ぐためにキリトは自分を圧倒的な悪者にすることになることを選んだ。
全ての憎悪の矛先が自分へと向かうために・・・・。


アスカの足は自然とボス部屋の奥、キリトが開けた扉へと向いていた。
このまま何も言わずに、はいさよなら、なんてこっちの気が済まないし、死ぬ覚悟なんて,とうの昔に出来ている。

扉へと歩を進めるアスカの背後から声が掛かる。声の主はエギル。

「あんた、今からアイツの所に行く気なんだろ。それなら、1つ伝言を頼まれてくれないか?」
「何だ?」
「『次のボス攻略も一緒にやろう』ってな」
「・・・・・分かった。伝えておく」

自分と同じく、キリトの意図をくんで、こうやって言葉を残してくれるエギル。自然と頬が緩む。
その時、予想外の人物から声を掛けられる。

「ワイからも伝言がある」

キリトを目の敵にしていたキバオウ。
思わず体に緊張が走る。
アスカが、「内容による」と言うと、キバオウが伝言を口にする。

「『今日は助けてもろたけど、ジブンのことはやっぱり認められへん。わいは、わいのやり方でクリアを目指す』・・・・それだけや」

伝言を言い終わった途端、そっぽを向くキバオウ。
アスカも、

「それなら・・・・伝えておく」

とだけ答えて、ボス部屋をあとにした。



ボス部屋の最奥にある扉をくぐり、狭い螺旋階段をしばらく上ると、再度目の前に扉が現れる。
そっと押し開けると、いきなりアスカの目の前に絶景が飛び込んでくる。
第1層は様々な地形フィールドが混ざっていたが、第2層はテーブル上の岩山が端から端まで連なっている。
岩肌から真っ直ぐ左に沿って伸びているテラスに先客が1人。
しばし、景色に見とれていたアスカはかすかな吐息を漏らした後、そっと先客の隣に座る。

「・・・・・来るなって、言ったのに」
「言ってない。死ぬ覚悟があるなら来い、って言ってただろ」
「・・・そうだったね、ゴメン」

首を縮めながら、先客――キリトはちらちとアスカの方を向く。
髪は外に出していて、風で長い黒髪がはためいている。
「綺麗だな・・・・」
「うん・・・・」

そのまま1分ほど、アスカとキリトは眼下の絶景を見ながら、黙り込んでいたが、アスカが突然口を開く。

「エギルさんとキバオウから伝言がある」
「ふうん・・・・何て?」
「エギルさんは『次のボス攻略も一緒にやろう』だってさ。キバオウは・・・・」

アスカは記憶にある関西弁を必死に思い出しながら続きを口にする。

「・・・今日は助けてもろたけど、ジブンのことはやっぱり認められへん。わいは、わいのやり方でクリアを目指す,だって」
「・・・・そう・・・・」

キリトは微笑みを浮かべながら、その言葉を何度も胸の内で反芻しているのだろう。
アスカと同じように。

「それと、これは俺からの伝言」

驚いたような顔をするキリトを無視して続ける。

「覚えてるか?最初に会ったときにアンタが俺に言ったこと」
「ええ・・・と、確か・・・」

首を捻りながら、記憶を遡っているようだが、思い出せないらしい。
呆れたように溜息をつきながら、アスカが言う。

「俺の戦い方に難癖付けた後、『そんな無茶な戦い方してたら死ぬよ』って言っただろ」
「難癖は言ってないと思うけど・・・」
「似たようなもんだっただろ。それでだ、俺にそんなこと言ったんだ。自分は無茶やって死ぬなんて許さないからな」
「・・・・うん、ありがとう」

アスカからの伝言が予想外だったのだろうか、キリトは目を見開いた後、笑顔で頷いて、続ける。

「流石にアスカ以上に無茶をする人はいないと思うよ。ダンジョンで1週間くらい籠もり続けるとかしないと」
「さっきまで散々無茶してたのは、そっちだろ」

その言葉に少しだけだが、キリトの表情が硬くなる。
さっきというのは、言うまでもなく自らを〈ビーター〉と名乗ったことだ。

「あんたが全部背負う必要があったのか・・・?」
「どうだろ・・・・・無かったのかもしれない。でも、あの状況でアルゴや他のテスターに敵意が向くのだけはどうしても避けたかったんだ。あのやり方以外、思いつかなくて・・・」
「不器用な奴だな・・・・ほんとうに」
「自分でもそう思う」


そこでお互い沈黙。
テラスを吹き抜ける冷たい風が頬を撫でる。
背負う必要なんてない、と言いたかった。たった1人が背負う罪科ではない、と。

だがキリトの行動は、キリト自身の安全を度外視すれば、確実な方法であったことも否定は出来ない。
現に、キバオウ達の憎しみはキリト1人に向けられ、アルゴも、他のテスターも非難される心配はないだろう。
それに、アスカが無茶を承知でダンジョンの奥深くに滞在し続けたように、性別を偽ってまで攻略に参加しているキリトにも譲れないもの、信念、矜持があるはずだ。
女とはいえ、他人の覚悟に口を挟むべきではない、とアスカは思っている。
だから、アスカが次に発した言葉は感謝の言葉だった。

「本当は、キリト、あんたに礼を言いたかったんだ」
「クリームパンの?それともウインドフルーレをあげたこと?」

「違う」と言ってすぐに、「・・・・やっぱりそれも含む」と付け足す。

この世界に来て初めて美味しいと思って食べた食事。
そして、ただのポリゴンデータの集まりだと思っていた剣が、意志を、力を持っていると分からせてくれた。
それらにも感謝はしている。

「そうだな・・・色んな事の礼。初めて・・・・この世界で目指すもの、追いかけたいものを見つけることが出来たからな」
「へえ・・・何?」

結構本気で気になる様子で聞いてくるキリトにアスカは

「内緒だ」

と短く答えて、

「頑張って生き残って強くなってみせる。自分の目指す、追い求める場所にたどり着けるように」

と、続けた。

アスカの心の奥底には、まだこのゲームがクリア不可能、という気持ちが消えずに残っている。ようやく第1層を攻略できたのだ。この先にはまだ99もの試練が残っている。
最後まで生き残っているという確信は・・・・正直、ない。
だが、アスカは死ぬために戦うことは止めようと、決めたのだ。
目の前にいる少女、キリトと出会ったことにより、見つけた、この世界でのたった1つの目標のおかげで。
アスカの言葉に嬉しそうな顔をするキリト。

「うん。君は強くなれる、どこまでも。プレイヤーとして、ステータス的強さだけじゃなくて、もっとずっと貴重で大切な強さを身につけられる。だから・・・もし信頼できる人にギルドに誘われたら断らないでね。ソロプレイには絶対的限界があるから・・・」

じゃあ、あんたはどうするんだ?とは聞けなかった。
代わりに、アスカはウインドウを操作。アイテム欄にある1つのアイテムを選択、オブジェクト化し、隣のキリトに放り投げるようにして渡す。

「わっ・・・!?」

キリトは急に自分の視界を遮る布きれに戸惑うが、それを広げて、目を見開く。

「マフラー・・・・?」

そう。それはアスカがボス戦に入る前に、迷宮区内で見たことのないワーム型モンスターを倒したときに手に入れたものだ。
アイテム名は〈ジェットブラックフロント〉。日本語に訳すと、〈漆黒の隠れ蓑〉。
効果は,

隠蔽(ハイディング)ボーナス+20%”。

マフラーをタップして、ウインドウを見つめていたキリトが驚きの声を上げる。

「うわ!?ボーナス20%!? 超レアアイテムだよ、これ!」
「いい、礼のついでにあげる。俺は隠蔽スキル取ってないからな」

ボス戦へと挑む際の会話でアスカはキリトが〈隠蔽スキル〉を持っていることを聞いていたのだ。
それに―――

「そのフードケープだけだと、防御力かなり低いだろ?」

アスカの質問にキリトは頷く。
基本的にフードケープの本来の使用目的は顔を隠すこと、これ一点に尽きる。
なので、コートや金属防具に比べれば、圧倒的に防御力が低い。
見た目のバランスの悪さなど気にせずに、フードケープの上にもう一枚、コートを重ね着したらいい、と思うが、残念なことに、この世界では装備できる服の枚数などに上限が設けられており、上着を2枚重ねることはシステム的に出来ない。
敏捷値にほぼ極振りのアスカとは違い、キリトは筋力値にもバランスよくステータスを割り振っているはずだ。ならば、十分な性能の防具を着ける余裕はあるはずなのだが、顔を隠すためにフードケープを被っているせいで、実質的な防具はアスカと同じような金属製の胸当てだけだ。

「――だから、攻略会議とかで多くのプレイヤーと近くにいる状況以外なら、マフラーとフード無しのコートでも上手くやれば・・・・って、コートなんか持ってないよな」

アスカは言いながら、自分の羽織っている茶色のコートを脱ごうとする。
が、キリトはそれを片手で制する。

「ううん、持ってるよ。・・・・・さっきのボス戦のラストアタックボーナスで手に入れたんだけどね」

キリトが立ち上がり、ウインドウを操作すると、羽織っていたフードケープが消滅し、代わりに黒・・・否、漆黒のコートが現れる。
アスカの茶色のコートのくたびれた生地とは違い、艶のある革製だ。
一目でレアアイテムであると判断できる存在感。
それはボスを倒した者に与えられる栄誉あるギフト。
だが、それを羽織ったキリトの表情は浮かない。当然だろう。
ボスを倒すために、あってはならない損害。プレイヤー、ディアベルの死があったのだから。
アスカはそのコートを見て、思わず口にしそうになる。キリトへの慰めの言葉を。
だが、意志力を全開にして、なんとか出てきかけた言葉を飲み込み、キリトが手に持つマフラー、〈ジェットブラックフロント〉を奪い、そのままキリトの首にぐるぐるに巻く。
首から口元まで隠すように巻かれたマフラー。

「これで、コートの中に髪を隠せば、近くから顔をのぞき込まれない限り大丈夫・・・・・なはずだ。フード被り続けるよりは楽だと思う」

最後にマフラーを背中で結び、固定する。
と、身長の差からアスカの顔の下にあるキリトの顔を見ると、なぜか少しだけ赤くなっている。視線もそっぽを向いている。
思わず疑問符を浮かべそうになるが、遅まきながら気づく。
アスカがキリトのマフラーを結ぶために両手を後ろに持って来ている体制。
端から見たら抱き合っているようにしか見えない。キリトは気づいていたのだろう。
アスカは慌てて手を離し、敏捷値全開でキリトから離れる。
単純に恥ずかしくなったのも理由の1つだが、この世界には【ハラスメントコード】なるものが存在して、男性プレイヤーが過度の接触を女性プレイヤーに行うと、女性プレイヤーの任意で黒鉄宮の監獄エリアに強制転移されるのだ。
さすがにいきなり監獄エリアに飛ばされることはないだろうが、女性に対して失礼なことをしたことには変わりない。

「わ、悪い・・・・」
「いや、大丈夫・・・・」

お互いに視線を逸らしながら、言う。
告白こそ数多くされてきたが、アスカには恋愛経験は皆無。
このような状況で気の利いた台詞など言えようはずもない。
横目でちらっとキリトの方へと視線を移すと、顔が赤くなっているが、怒ってはいなさそうだ。
キリトの様子から、とりあえず監獄エリアへさよならされる心配はないと安堵して、アスカは口を開く。

「・・・・まあ、フィールドで他のプレイヤーと出会う確率なんてかなり低いから、それだけ顔を隠してたら問題ないだろ」

キリトはマフラーの端を弄りながら、

「ありがとう」

とだけ口にした。だが、続けて、

「でも・・・・やっぱりこのマフラーかなりのレアアイテムだし、交換材料も無しにもらうのは・・・・・」

申し訳なさそうな顔をするキリト。
本当に自分は他人を守るために散々無茶をしていたというのに、他人からの好意を素直に受け取らない奴だ。呆れてしまう。
無理矢理渡すことも可能ではあるが、ならば、とアスカはかねてから聞きたかったことを、交換条件として訊ねた。

「なあ、女性プレイヤーとしての名前、無いのか?」
「え・・・?」
「キリトって名前、男性アバター用なんだろ?女性アバター用の名前はないのかって聞いたんだ。マフラーの礼はそれでいい」

流石のアスカも、本名を聞くほど無知ではなくなっている(基本的には、というか普通は本名をアバターネームには使わない、という常識を知ったのも最近だが)。
一瞬、言い淀む素振りを見せたキリトだが、

「分かった、教えるよ。でも、他のプレイヤーがいるときは使わないように気をつけてね」

と了解してくれた。
そして、女性であることを隠していない、高い、透き通った声でキリトが名を紡ぐ。

「キリカ。これが、女性アバター用のわたしの名前」
「キリカ、か・・・・」

キリカ。語尾が違うだけだが、アスカはその名前を決して忘れないように、その3文字を胸に深く刻む。
それが、桐ヶ谷和葉の名字と名前からなぞった名前であると、アスカが知るのは、ずっと、ずっと先の事である。

「名前、教えてくれてありがとう」

アスカは礼を言いながら、キリトに背を向け、上ってきた扉の方へと向き直る。
キリトが第2層のアクティベートを行うので、アスカはそれには付いていけない。
そして、短く、

「じゃあな、キリカ」

とだけ伝えて、アスカは扉をくぐり、キリカからの返事を聞く前に、キリカの前から姿を消した。


螺旋階段を下りながら、アスカは自分のスキルスロットを開ける。
所得しているスキルは〈細剣スキル〉のみ。ボス戦でレベルが上がり、所得可能スキル数は3個。
残り2つをアスカは迷わず選択した。

キリカにソロとして必須と言われた〈索敵スキル〉

そして、もう1つは――――〈料理スキル〉

「この世界は、全てが仮想のデータ。その集合体」

――でも、それだけではない何かが、きっとあるはずだ。
そう考えたアスカの手は自然と〈料理スキル〉を選択していた。

頭の中には、昨晩、キリカと共に食べたクリームパンの味が思い出されている。
そして、現実世界で親友、命と食べた食事の味が、似ても似つかないはずなのに、重なった。

「とりあえず、街に帰らないと・・・・。剣の研磨とアイテムの補給もしないといけないな」

独り言をぽつりと洩らしながら、アスカは階段を下り、迷宮区へと足を踏み入れた。







「これは・・・・ひどいな・・・・」

フライパンの上で消し炭となった自身の料理を見て、アスカがぼそりと呟く。
帰ってから、料理に挑戦して、〈料理スキル〉の熟練度が低いと黒こげの謎物体しか出来ないことを知らなかったアスカが自作の料理を目の前にして肩を落とすのは、また別の話。



 
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