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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica60せめて別れのその日までは~We live happily~

†††Sideなのは†††

はやてちゃん達から、リアンシェルトさんに挑みに行ったルシル君とアイリが退院したって連絡を受けた私とフェイトちゃんとアリシアちゃんは、スケジュールを合わせて数日後の平日のお昼に八神邸へとやって来たんだけど・・・。

「あ、来たわね」

「なのはちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん、こんにちは~♪」

すでにアリサちゃんとすずかちゃんも来ていて、私たちも2人に「こんにちはー!」を返したんだけど、うーん、そんな2人にツッコミを入れていいのかな?って少し悩む。

「アリサ、すずか。法廷みたいにテーブルをビーチに並べてどうしたの?」

悩んでる中でアリシアちゃんが先にツッコんだ。そう、八神家のプライベートビーチに日本の裁判員裁判の法廷と同じ位置でテーブルが並べられていた。アリサちゃんは裁判官のテーブルに着いて、すずかちゃんは書記官のテーブルに着いている。

「おー、なのはちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん、こんにちは~!」

家からはやてちゃんを始めとした八神家の面々が出て来て、私たちも「こんにちはー!」を返した。そんなはやてちゃん達も自然に法廷へ向かい始める。はやてちゃんとアインスさんとシャマル先生とリインが検察官側へ、シグナムさんとヴィータちゃんとザフィーラとアギトが裁判員側に移動。

「なのは達はどこ座る? 裁判員はどれだけ居てもいいし」

「アリサちゃん。まずは、いったい何をしようとしてるのかを聞きたいんだけど・・・」

「あ、そうね。えー、こほん。今日は、被告をルシリオン・セインテストとアイリ・セインテストとし、無断でリアンシェルトとの闘いに赴き、あたし達を悲しませ苦しめた罪で、出廷してもらうわ」

アリサちゃんがそう答えてくれたところで、遠くから「おーい!」って呼びかけられたから、声のする方へと体を向ける。海沿いの道路に停車しているリムジンから、「シャルちゃん! トリシュちゃん!」の2人が出て、大きく手を振っていた。そんな2人を置いてリムジンは出発して、2人はこっちに向かって駆け出す。

「これで面子は揃ったわね。で、なのは達はどの立場にするわけ? 裁判員、検察官、弁護人、あと傍聴人。どれでもいいわよ」

ルシル君とアイリの罪状からして、私は「うーん、じゃあ検察側」に立とう。私だってすごく辛かったんだもん。ルシル君のことが好きなはやてちゃんやシャルちゃんやトリシュちゃん達はもっと悲しんだに違いない。そのことをルシル君はもう少し考えてほしい。

「弁護人は誰が務めるの?」

「今のところ0だけど。アリシアちゃん、やってみる?」

「そうだな~。誰も居ないんじゃ可哀想だし、私がやってあげるよ!」

「じゃあ私も、アリシアと一緒に弁護人を。ほぼ、負け戦っぽいけど」

そういうわけで、フェイトちゃんとアリシアちゃんとは分かれることに。

「こんちゃー! なになに、裁判でも開くの? すっごい面白そうなんだけど!」

「こんにちは。これは何かしらのイベントですか?」

シャルちゃんとトリシュちゃんも合流して、挨拶を交わした後で私たちがこれから何をするかと説明した。途中からニヤニヤし始めたシャルちゃんは、説明が終わると同時に「よし、決めた!」って強く頷いた。

「私も、決めました。裁判員です!」

トリシュちゃんが選んだのはそれ。で、シャルちゃんはと言うと・・・。

「処刑執行人がいい!」

元気いっぱい、笑顔満開に大きく挙手したシャルちゃんの様子に私たちは呆気に取られた。でも「まぁそうね。1人くらい必要ね」アリサちゃんは納得した。この瞬間に私は理解した。始めからルシル君たちに勝ち目がないようにされるんだな~って。

「じゃああんた達もそれぞれ席に着いて。被告人を呼ぶわよ。はやて」

「は~い♪ ルシルく~ん! アイリ~! しゅって~~!」

はやてちゃんが家に向かって声を掛けると、どこからともなくチャイコフスキーの弦楽セレナーデ第一章が流れ来た。トリシュちゃんは「良い音楽ですね」って感嘆してるけど、日本生まれで日本育ちな私たちは「ぷふっ!」思わず吹き出してしまった。

(あのコマーシャルが一瞬で頭に浮かんだ・・・!)

これから被告として出廷するルシル君とアイリが部下役で、私たちが上司役になるわけだ。はやてちゃんも思わずって感じで笑ってるのを見ると、このBGMを流してるのはルシル君かもしれない。そんなルシル君と、腕に抱きついてるアイリが家からこっちに向かって歩いて来る。BGMと合わせて笑っていた私たちだけど、「え?」その様子に今さら目を疑った。

「ルシル君が歩いてる!?」

「魔導師化してるの!?」

「ダメじゃない、あんた!」

「アイリ、車椅子!」

「私が抱えますから、今すぐ魔導師化を解除してください!」

魔力の消費はルシル君の寿命を減らす行為だって知ってる私たちは、急いで駆け寄ってルシル君に魔導師化をやめるように言ったんだけど、「大丈夫。もう大丈夫だから」そう優しく微笑みを返された。どういうことかと首を傾げてると、はやてちゃんがやって来た。

「ルシル君な。どうやらリアンシェルトに魔力を貰ったらしいんよ」

「ったく。忌々しい。完全に俺を舐めている」

「でもそのおかげで、こうして歩けるようになったし、何より寿命問題が解決したんだよね♪」

アイリがルシル君の胸に頬ずりしながらそう言った。そんな驚きと嬉しさで溢れる報告にわあ!って湧いてるとき、シャルちゃんとトリシュちゃんが「ちょっと離れなさい」アイリを引き剥がしに掛かった。

「にゃあー」

アイリが手をバタバタさせてルシル君から引き剥がされた後は、「あの、本当に大丈夫なの?」すずかちゃんが心配そうに聞いた。私たちも頷いて同意して見せる。

「ああ。アイリの言ったように、身体機能と寿命関係の問題は解決した。リアンシェルトはどういうわけか、俺のリンカーコアの機能不全を修復し、オマケに大魔力量を勝手に寄越した」

ルシル君は怒っているけど、でもそのおかげでルシル君が寿命で死ぬことはなくなった。“エグリゴリ”の全滅=ルシル君の死は変わらずだけど、それでもそれまでの余裕が生まれたのは確かだ。

「すぐにでもリアンシェルトを救いに行くの・・・?」

「そうしたいのは山々だが・・・。みんなの協力で得たドーピング用の魔力結晶、その全てを消費しきってしまったんだ。万全の状態以上の魔力量で挑んだ結果が引き分けだ。いや、生かしてもらったんだから敗北だよ・・・。くそっ。あそこまで追い詰められたのに、最後に魔力が尽きた。だから・・・」

ルシル君がそこまで言い掛けて、私たちをぐるりと見回した後「みんなの記憶を消費しようとした」俯いてそう言った。

「だけど、出来なかった。ふと脳裏を過ぎったんだ。みんなの事を忘れた後の自分の姿が。恐ろしかったよ。だから躊躇した。そして手痛い反撃を食らって・・・負けた」

負けたことによる悔しさに満ちた声色だったけど、そこに後悔の色は無いような気がした。顔を上げたルシル君も苦笑いで、「さ。俺の失敗談はもういいだろ?」手をヒラヒラ振りながらアイリと一緒に被告人席に当たるテーブルに向かった。

「・・・でもルシル、アイリ。良い報告の後だけどこっちは手加減しないから。では開廷するわね~。こほん。被告ルシリオン・セインテスト、アイリ・セインテストの裁判始めるわ。なんちゃって裁判だから事細かな挨拶とか抜きね」

「アリサ。小槌(ガベル)なんてどこから持って来た・・・?」

裁判長やオークションの司会者が使うようなハンマーをテーブルの上に置いたアリサちゃんに、ルシル君が首を傾げた。アリサちゃんは「通販で買ったのよ♪」サウンディングブロックにコンコンとガベルを打ちつけた。

「えー、検察。被告両名の罪状を」

「はい! ルシル君と私たち八神家の約束である、リアンシェルトとの闘いに赴くときは必ずその場に家族が揃ってること、を破ったものである」

「そして、私たちみんなに悲しみを与えた罪、です!」

はやてちゃんと私とでそう告げると、アリサちゃんは満足そうに頷いてガベルを2回打って、「判決。有罪!」きっぱり下した。

「待たんか、こら! なんちゃって裁判だとしても、もうちょっとあるだろ!?」

ルシル君が私たちを見回したから、私たちは練習したわけじゃないけど一斉に「ハテナ?」首を傾げた。その様子にアイリが「おお!」拍手した。

「冗談よ、冗談。じゃあ被告、間違いないかしら?」

「あー、うん、間違いない」

「間違いないで~す!」

「ん。それじゃあ弁護人、何か言うことは?」

弁護人役のフェイトちゃんがチラッとアリシアちゃんを見ると、アリシアちゃんは強く頷いて「ありません!」力強くそう言った。

「いや、だから! もうちょっとあるだろ! 被告人(おれたち)にこう・・・弁明とか釈明とか! というか弁護人! 何しにそこに居るんだよ!」

「「ハテナ?」」

「双子か!」

「ルシルがそんな激しいツッコミするなんて、珍しいわね。ちょっとビックリだわ」

「自分でも驚くほどにテンションが上がっているよ。なんだかんだ言って、俺はこうして記憶を保ったまま生きて帰ってこられて、みんなと再会できたことが嬉しいらしい」

ドキッとするくらいに綺麗な笑みを浮かべたルシル君。見惚れてたアリサちゃんは咳払いを1回した後、「んじゃ、弁護人。改めて何か言うことは?」って尋ねた。

「え、えっと・・・」

「フェイト。耳を貸してくれ」

ルシル君にそう言われたフェイトちゃんがそっと耳を差し出した。そしてルシル君が顔を近付けて耳打ちしようとしたんだけど、フェイトちゃんが「ひゃあん!?」変な声を上げて、顔を赤くして耳を押さえた。

「裁判長! 被告人が弁護人にセクハラしました!」

「これでは無罪は無理です! 有罪、これは有罪です!」

「異議なーし!」

「認めるわ! 罪状セクハラも追加!」

「ちょっと待ってくれ! シャル、トリシュ、はやて! 不可抗力だ! な? フェイト! そう言ってくれ!」

「・・・えっと」

「ルシル。(あね)の前でフェイト(いもうと)に対してセクハラとか。ないわ~・・・」

ルシル君、圧倒的アウェイ。弁護人すら敵に回しちゃった以上、このなんちゃって裁判は当初の結末どおりにルシル君とアイリの敗訴一直線。だけどフェイトちゃんが「だ、大丈夫! 平気だから!」挙手した。

「ルシル。耳打ちじゃなくて念話でお願い。また変な声出すの恥ずかしいから」

「あ、ああ、すまん。じゃあ・・・」

「ふんふん・・・そのまま伝えればいいね。えーでは。被告が、私たちに無断でリアンシェルトの元へ向かったのは、決心が鈍りそうだったからです。医務局で語ったように、下手をすれば自分を失くしてしまうような闘いに挑むんです。私たちと顔を合わせれば、どうしても出撃できないと思ったんです。・・・ルシル」

それからルシル君に代わってその思いを語るフェイトちゃん。ルシル君は迷いを振り切るために、そして自分の弱体化がその日に起こるのを予見したため、メールも通信もせずにそのまま向かったそうだ。

「どれもこれも俺自身の問題で、みんなは何も悪くない。ただ、これだけは解かってほしい。兵器だ道具だと自称している俺も、感情を持った生き物なんだと・・・。以上だ」

ルシル君が頭を下げる頃には、私の中ではなんちゃって裁判なんてものはお開きになってた。みんなの空気もそんなだし、私たちは頷き合ってこのまま閉廷の流れに行こう、そう思ったんだけど・・・。

「シャルちゃん・・・?」

シャルちゃんが裁判長席、アリサちゃんのところに向かった。そしてガベルを手に取るとコンコンと打って「判決を言い渡す!」そう告げてガベルを置いてから、ルシル君の側に立った。

「有罪! フライハイト家次期当主、イリス・ド・シャルロッテ・フライハイトの婿になる刑に処す!」

「「「「はい?」」」」

ルシル君とはやてちゃんとトリシュちゃんとアイリが抜けた声で聞き返すと、シャルちゃんが「いただきまーす!」ルシル君を肩に担いで・・・

――閃駆――

「ひゃっほーい!!

高速移動歩法でビーチから飛び出した。まさかの行動に呆然としてると、はやてちゃんが「アインス確保!」そう指示を出して、アインスさんが「承知しました!」ダッと駆け出した。何の魔力強化を行わない、素の状態でのあの恐ろしい初速ダッシュ。あれに対処するの難しいんだよね~。

「イリス、逃がさない!」

――とぐろ巻く連環の拘束蛇――

トリシュちゃんは“イゾルデ”を起動することなく、人差し指と親指の間に張った魔力弦を利用して、小さな魔力矢を同時に3本と射た。

「どーれどれ♪ パラライズバレット・スナイプシュート・・・!」

「ちょっ、アリシア!? まだデバイス無しでの精密狙撃は練習段階でしょ!?」

フェイトちゃんの口から恐ろしい言葉が飛び出た。アリシアちゃんは左手で指鉄砲を作って、右手で左手首を押さえてブレ防止。左人差し指の先に環状魔法陣を展開。そして「ファイア!」空色に輝く魔力弾を高速射出した。
アインスさん、アリシアちゃんの魔力弾、トリシュちゃんの魔力矢に追われるシャルちゃん。まずトリシュちゃんの矢をサッと躱した。でも側に着弾した矢が複数本のロープ状のバインドへと変化して、シャルちゃんを拘束しようと伸びた。

「ほいさ!」

「むが!?」

シャルちゃんはなんとルシル君を盾にしてバインドを防御。さらにアリシアちゃんの魔力弾も、グルグル巻きになったルシル君を使って防いだから、「あばばばばば!?」直撃を受けたルシル君が感電してぐったり。私たちはその光景に「うわぁ」どん引きした。

「ごめんねー! ルシルを弱らせてくれてあんがとー!」

「ルシル君!」「ルシルさん!」

「遊びだとしてもあったま来た! 返せぇー!」

はやてちゃんとトリシュちゃんが駆け出し、アイリも腰から一対の白翼を展開して、ルシル君の元へ向かう。

「うわっ、ごめん、ルシル! でもルシルですら直撃で即行動不能か~。良い魔法を組んだな~私♪」

「アリシア・・・。もうやめてね?」

とここでアインスさんがシャルちゃんに追い付いた。片や男性(ルシルくん)を担ぐシャルちゃん、片や完全フリーにして素手での格闘戦最強なアインスさん。さらにアイリが到着しそうだし、1対2になっちゃうね。しかもはやてちゃんとトリシュちゃんも居るし、一気に不利になるよ。

「あ、ルシル君を空に放ったです・・・」

「へえ。アインス相手にシャルもやるじゃねぇか」

「ああ。よほど鍛えたようだな」

「でもうちのアインスの方が押してるわ」

「だけどシャルさんの方もすげぇ! 落ちてきたルシルを掴んですぐにまた空に投げた!」

「あー、でもアインスの投げ技を食らったわね」

「柔道の内股だね~」

「陸戦中に柔道や合気道とかの技を掛けてくるから、アインスはホント厄介だよ」

「アリシア、模擬戦の時にいつも投げられてるもんね・・・」

思い思いにアインスさんの強さについて話すみんなに続いて私も「本当に強いよね~」同意した。

――アイスマン――

「あ、ルシルをキャッチすると同時に」

「シャルちゃんを凍らせちゃった」

「決まったわね」

落下を始めていたルシル君をギリギリで抱きとめたアイリは、そのまま相手を雪だるま型の氷に閉じ込めるバインドでシャルちゃんを拘束した。

「いやさ? ちょっとした冗談じゃない? 鬼ごっこ的な遊びみたいな?」

頭の部分の氷だけを切り取られた状態のシャルちゃんが私たちのところまで引き摺られて来て、そう弁明を始めたんだけど・・・。はやてちゃんとトリシュちゃん、特にアイリは腕を組んで仁王立ちして、ジト目でシャルちゃんを睨んでる。

「シャル。アイリはね、ルシルを拉致したことは怒ってない。盾にしたことを怒ってるの。はやてとトリシュもきっとそう」

「もちろん、お婿さんにするって言うのは受け入れられへんけどな」

「ええ、そうです」

「あれ? トリシュ、ルシルのこと諦めるんじゃなかったの?」

「っ! そ、それは、なかったことに。あなたやはやては諦めず、ルシルさんを想い続ける選択をした。私は、ルシルさんの足かせになるのが嫌で諦めると伝えたけれど・・・」

シャマル先生に介抱してもらってるルシル君に顔を向けたトリシュちゃんは「慕い続けます」綺麗な笑みを浮かべた。

「でも、遊びだとしてもどうしていきなり・・・?」

「リアンシェルトとの闘いで、記憶とか失くすかもって話してたでしょ? たとえそれでも生きていてくれたら、また仲良くなれば良い。これまでの思い出が無いから少しの間は寂しいだろうけど。でも今回、いきなりルシルが闘いに行ったって聞いて怖くなった。事前に教えてくれると思ってたからね。場所も知らないから迎えにも行けないし。そして記憶を失くして人知れず別の世界を彷徨って・・・。私たちの知らないところで死ぬかもしれない。それにルシルの死期が近いことには変わらない。ルシルとの間に何も残せない恐怖が・・・さ、生まれちゃったわけ」

シャルちゃんの話は、私たちが抱いたものと同じだった。ううん、ルシル君を1人の男性として好きなシャルちゃん、はやてちゃん、トリシュちゃんからすればもっと強い恐怖だったはず。

「アイリも、私たちに連絡しないし」

今度はアイリが、はやてちゃんとシャルちゃんとトリシュちゃんにジト目で睨まれた。

「あ、うぅ、ごめん。急いでたから」

責める責められるの立場がごちゃ混ぜになったところで、「いや、参った参った」ルシル君が復活。だから責められる役がルシル君に移動しちゃって、はやてちゃん達に迫られ始めた。さらにシャマル先生やリインにアギト達も加わって、ルシル君はお叱りの大合唱を受けることに。

「こんな何気ない時間が、ずっと続けばいいね」

「うん、フェイトちゃん。ずっと、ずっと・・・」

「「ごめんなさ~~~~~~い!!」」

全力で謝るルシル君とアイリの大変な様子に、私とフェイトちゃんが思わず失笑した。

・―・―・―・―・―・

第3管理世界ヴァイゼンはノルトラント地方の外れに在る廃墟となっている工場跡。そこは今や不良や犯罪者の溜まり場となっていた。今夜も今夜で大音量で音楽を鳴らし大騒ぎし、犯罪の自慢話や違法薬物で盛り上がっていた。
ある区画はバーとダンスホールのナイトクラブに改造されており、老若男女が思い思いに酒を飲み、踊り、痴漢まがいの行為を笑いながら行っていた。

「ん? おい、アレ見ろよ。偉そうな猫の人形が二足歩行してんぜ!」

「ぎゃはは! 酔ってんだろ、お前!」

入口付近で立ち飲みしている男2人が馬鹿笑いしている。彼らの視線の先、60㎝ほどの猫が後ろ足でのみ立ち、真黒なスーツ一式で身を包み、人間たちの足元を軽やかに闊歩していた。周辺に居る者たちもその猫に気付き、ヒソヒソと話し出す。

「どうしたの~? 猫ちゃんが来ちゃダメなところだよ~?」

べろんべろんに酔っている若い女性が猫を抱き上げた。すると猫は「どうも御忠告痛み入ります。しかし、これが私の仕事ゆえ」と頭をペコリと下げた。その様子に飲んだくれ連中は大笑い。もはや二足歩行や喋ることに対してなんら気にも留めない。

「我が名はエルフテ。我が主より、当施設に居る君らの掃除を任された。今は酔っているため、正確な判断は出来ないだろう。それを幸運と思って、逝くといい」

――幻惑の乱景――

最後の大隊の融合騎であったエルフテ。今や従うべき主を変え、その幻術特化の融合騎としての力を揮っていた。そんなエルフテの幻術によりナイトクラブに集っていた犯罪者たちは酔いから醒め、「ひああああああ!?」一斉に悲鳴を上げた。

「どうなってんだ!?」

「いやぁぁぁぁ!!」

「おええええ!」

彼らは自分以外の人間が化け物に見えていた。それだけなら冷静になれば幻術の可能性を見出し、この混乱を収まっていたかもしれない。しかし、ここで決定打となる事態が起こる。バン!とドアを勢いよく開けたのは、銃火器などの質量兵器の密輸を主としている犯罪者たちで、商品である銃火器を武装している。

「殺される前に殺せ!」

「撃て撃て撃て!」

「1匹も逃がすなー!」

そこからは惨劇だ。あっという間に死体の山ができ始めた。だが、中には「おい、どうしたんだよ! なんで仲間同士で殺し合ってるんだよ!」と、幻術の影響を受けていない者たちも居た。しかも幻術を受けている者たちからは視認されていないようだ。

「ねぇ! 一体どうなってるの!?」

「俺に聞くなよ!」

「僕たちも殺されるんだ・・・!」

「泣き言を言ってんじゃねぇよ!」

「とにかく、防御魔法であたし達の周囲を!」

「ですね! 質量兵器くらいなら防げます!」

彼らは魔法で犯罪を働く魔導犯罪者だ。それぞれがシールドやバリアを展開して、銃弾や刃物、グラスに酒瓶に椅子などの武器から身を守っていた。しかし突然そんな彼らの立つ床が崩落し、彼らは驚きに声も出せずに崩落に巻き込まれ、階下に落ちた。

「いって~」

「なんなんだよ急に!」

「この工場、相当古いからな。ドンパチで一気に崩れたんだろ」

「それにしても暗いな。なんも見えねぇ。天井が塞がれてやがる。どうなってんだ?」

「ねぇ、この臭いなに?」

「下の階ももう駄目のようだな。血の臭いだ。しかも1人2人じゃない。10人以上だ・・・」

「そんな! どうしてこんなことになっちゃったんですか・・・!?」

瓦礫の上でへたり込んだ彼らの耳に、「どうして? お前らが犯罪者だからだろ?」と若い男の声が届いた。ハッとした彼らは周囲を見回すが、未だ暗闇に目が慣れない所為で視認できない。

「なあ。お前たちの魔力、俺にくれよ」

廊下に明かりが点り、彼らは自分たちの周囲が死体と血の海だと判ると、気を失う者、吐く者、泣き叫ぶ者、そして「大人しく殺されるかよ!」と魔法を使おうとする者が出る。声の主の姿はどこにもなく、男は射撃魔法を無差別に周囲に撃ち続け、廊下の内壁が次々と崩れていく。

「あまり魔力を使ってくれるなよ? リンカーコアが弱って使い物にならなくなってしまうだろうが」

「うるっせぇぇぇーーーー!」

男は声のする方、前方のドアの中へと魔力弾を何発も撃ち込んだ。物理破壊設定だったのか派手に爆発が起きて、廊下に転がっていた死体や血溜まりが吹き飛ぶ。モクモクと黒煙が噴き出す中、ドアの向こうの部屋より1人の青年が出てきた。
銀色の短い髪、アップルグリーンの瞳、黒の長衣・スラックスに灰色のロングコート姿といった、20代前半くらいの男。

「なんだ、テメェは!!」

「俺か? 俺はガーデンベルグ。ガーデンベルグ・エグリゴリ。ま、どうせ聞いてもすぐにしょうがなくなる」

ガーデンベルグと名乗った“堕天使エグリゴリ”がスッと右手を振るうと、この場に居る魔導師たちの胸から飛び出てきたのは人の手。その手の平にはリンカーコアの光輝いている。

「お、おれの・・・リンカー・・・コア・・・!?」

「悪いな。お前たちのリンカーコアを貰う」

ガーデンベルグは男の側に歩み寄り、手の平の上で輝くリンカーコアに触れると引き千切るかのように奪い取った。その時の激痛によって男は意識を失いそうなったが、ガーデンベルグへの怒りで意識を保ち続けた。そして、他の魔導犯罪者からもリンカーコアを奪ったガーデンベルグに、「絶対に許さない」と呪いの言葉を掛けた。

「その憎しみすら、どうせ無くなる。安心しろ」

ガーデンベルグがそう言うと、廊下の奥から銃器を携えた者たちが駆け寄ってきた。その銃口は魔導犯罪者たちに向けられている。

「ここにも化け物が居るぞ!」

「殺せ!」

自分に向けられた銃口に男は、「ま、待て! 俺は人間だ! 撃つな!」と掠れた声を出すが、武装している連中には聞こえていない。それが判ると今度はガーデンベルグに「たすけてくれ」と懇願するが、ガーデンベルグの姿はもうどこにもなかった。

「撃て!」

「や、やめろぉぉぉーーーー!」

男の懇願も空しく銃口が火を噴いた。男や他の魔導犯罪者たちは何十発という弾丸の雨をその身に受けた。

「おい、エルフテ。もういいぞ」

魔導犯罪者たちのすぐ側の壁に背を預けていたガーデンベルグの指示に、エルフテが「承知」と応じ、すべての幻術魔法を解除した。たった今まで廊下に転がっていた死体や血溜まりが綺麗さっぱり無くなっており、魔導犯罪者たちも傷一つとしてない綺麗な体になっていた。そして武装していた連中の姿もどこにもない。そう。ナイトクラブでの銃撃も、この廊下への落下も、すべて幻術――夢だった。ただ1つの現実は、リンカーコアをガーデンベルグに奪われたこと。

「コイツらを含めて68人分のリンカーコアか。魔力量は少ないが、塵も積もれば山となるだな。・・・よし。エルフテ、次の狩場に移動だ」

「承知した。我らT.C.。王の御身のために」

「王の御身のために。・・・ごめんな、みんな」

何もない空を見上げてポツリと謝罪したガーデンベルグは、エルフテを伴って声ひとつとしてしなくなった工場跡を後にした。
後日、この工場跡で意識不明者230名が発見され、病院に搬送された。1週間以上目を覚まさなかったが、ある日を境に続々と意識を取り戻したものの全員が何かしらの障害を発症しており、幼児退行、記憶消失、解離性同一性障害、植物状態などとなっていた。しかし死者数は0だった。
この日より管理世界、管理外世界問わず、似たような事例が数多く発生。時空管理局は、何かしらの事件性があると判断し、これの捜査を開始した。



EpisodeⅤ:Sera, tamen tacitis Poena venit pedibus...Fin



・―・―・次章予告・―・―・



はじまりはいつだったか・・・。

「ヨツンヘイム連合の圧倒的な軍隊に対抗するため、私はここに“アンスール計画”を立案します!」

何十という数の惑星を巻き込んでの1000年と続いていた戦争を終わらせるため、軍人になった時か・・・。

「おはよう、ロヴァル。お前の父であるルシリオンで、母のシェフィリスだ」

「おはようございます、父上、母上」

ガーデンベルグより先に生まれた“戦天使ヴァルキリー”の試作0号機、ロヴァル・セインテスト・ヴァルキュリアを生み出した時か・・・。

「アースガルドは、アースガルドに味方してくれる世界を決して陥落させることはない。憶えておけ、ヨツンヘイム連合。我らアンスールが存在し続ける限り、お前たちの敗北は絶対に揺らがない」

初めて軍人として、“アンスール”として戦場に立った時か・・・。

「ふざけるな・・・。ラグナロクなんて、本当にすべてを無に帰すつもりか・・・」

大戦には勝利したが、連合の敗残兵が“ラグナロク”を発動し、膨大な被害をもたらした時か・・・。

「そんな馬鹿な。私とシェフィのヴァルキリー(こども)達が!」

ヴァナヘイムによって“ヴァルキリー”の大半が洗脳され、“堕天使エグリゴリ”になってしまい、無事だった他の“ヴァルキリー”を、洗脳された“エグリゴリ”を救うため、“エグリゴリ”との戦争を決めた時か・・・。

「・・・ごめ・・・ん・・・。シェ・・・フィ・・・。約束・・・・守れ・・・なか・・・た・・・」

仲間を、親友を、弟子を、妹を、恋人を、“エグリゴリ”によって奪われ、生き延びたい一心で“神意の玉座”と契約し、“界律の守護神テスタメント”となった時か・・・。

「ん?・・・な!? そ、そんな、シェフィ・・・!?」

“テスタメント”として訪れた契約先世界で、シェフィリスとそっくりだったフェイトと出会い、彼女たちと心を通わせ、共に過ごした時か・・・。

「・・・幸先が良いな。降臨直後で、お前たちを破壊(きゅうさい)出来るとは。アンスールが神器王ルシリオン・セインテスト・アースガルド、行くぞっ」

5thテスタメント・マリアの協力によって召喚されたこの世界で、堕天使戦争が再開された時か・・・。


「いってらっしゃい」


「いってきます。・・・・・・・・・・さようなら」


俺は・・・私は、ルシリオン・セインテスト・アースガルド。これまで出会ってきた人たちの想いを置き去りに、アースガルドの地へと必ず帰る。それが・・・。


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後書き
長かった。本当に長かった。

ルシリオン・セインテスト・アースガルドの物語もようやく最終章です。
今はとりあえず最終章のラストバトルとエピローグを書き終え(これは以前お伝えしましたね)、今は事件編の序盤を執筆してストックしている状態です。
最終章ですが、事件編はオリジナルなので省きますが、日常編は散々やらないと言っていたVivid編を交えながら書いていこうと思います。と言っても執筆するのは試合内容ではなく、それ以外の日常にしようと思っています。

 
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