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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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番外記録(メモリア)・あの日、喪ったもの(セレナ・カデンツァヴナ・イヴ誕生祭2019)

 
前書き
セレナ誕生日記念回、と言いつつマリア姉さんと新キャラがメインの回になります。
マリアファン読者の皆さん、並びにセレナファン読者の皆さん、お待たせしました!
とうとうイブ姉妹、伴装者デビューですよ! 

 
「りんごは浮かんだお空に……──」

「りんごは落っこちた地べたに……──」

 ある孤児院の一室。二人の姉妹が静かに唄うその(うた)に聴き惚れる、一人の少年がいた。
「きれいな声……」
 褐色気味の肌に、灰色の短髪。赤い瞳の少年は、やがて少女らが歌い終わった時、自然と感嘆の声を漏らしていた。

「だれッ!?」
 突然聞こえた知らない声に驚く姉と、人見知りなのか姉の背中に隠れて顔を覗かせる妹。
「ごっ、ごめん!勝手に聴いちゃって……あんまりにも綺麗な歌だったから、つい……」
 慌てて謝る少年を見て、姉は警戒を解くと少年を見て首を傾げた。
「あなた……もしかして、ここに来たばっかりなの?」
「うん……。おれ、ジョセフ・ツェルトコーン・ルクス。皆はツェルトって呼ぶんだ」
「わたしはマリア。マリア・カデンツァヴナ・イブ。こっちは妹のセレナよ。ほら、セレナも……」

 姉に促され、妹も姉の背中から出てくると、少年に向かってぺこりと頭を下げる。
「セレナです。その……よろしくおねがいします」
「もー、セレナったら。そんなにカチカチじゃ、ツェルトまでキンチョーしちゃうじゃない」
 そう言ってマリア、と名乗った少女は妹の肩を押して、自分の隣へと並ばせた。

「よろしく、マリア。よろしく、セレナ」
 ツェルトが差し伸べた手を握るマリア。セレナもおそるおそる、とツェルトの手を握る。
「まよったら大変だから、わたしが案内してあげるっ!」
「えっ!?ちょっ、ちょっと!?」
「あっ、まってよ姉さん!」
 
 それが少年と、彼が守ると誓った姉妹との出逢いだった。
 
 ∮
 
「では、お疲れ様でした!」
 振付師、音響監督、作曲者らが礼をする。
 明日のライブに向けたリハーサルを終え、そのアイドルはにこやかに笑った。
 マリア・カデンツァヴナ・イブ、21歳。現在、米国にて人気急上昇中の新人アイドルである。
「マリアさん、この後の予定は?」
「今日はもう帰らせてもらうわ。明日の本番に備えなくっちゃ」
 寄ってきたスタッフの一人を華麗に撃沈させ、マリアは楽屋へと戻って行く。

 そんな彼女に、黒スーツの青年がスポーツドリンクを手に駆け寄った。
「マリィ、お疲れ。調子はどうだ?」
「お陰様で好調よ、ツェルト。でも明日まで油断は出来ないわ」
「そうだな。今夜は早めに休むんだぞ?」
「分かってるわよ。いよいよ本番、私の夢が叶うかもしれないんだから」
 灰髪、赤眼、褐色肌の青年はマネージャーのツェルト。長年、気の知れた仲だと伺える様子で話しながら立ち去っていく二人を見て、新人スタッフは完全に沈んだ。

「おや、また一人玉砕したね」
 先輩スタッフが笑いながら肩を叩く。新人スタッフはがっくりと項垂れながら、先輩スタッフへと質問した。
「先輩、マリアさんとマネージャー……どんな関係なんですか?」
「何でも、同じ施設で育った幼馴染らしい。彼もマリアと同じく、マネージャーとしては新人なのだが、その割にはとても手際が良くてね。将来有望だよ、あの二人は」
「へぇ……そりゃあ勝てないわけだ。まさに彼女のナイト……ですね」
「邪魔する奴は片っ端から、『馬に蹴られてGo to hell』だな」
「なんです、それ?」
「日本では、カップルの間に割って入ったら馬に蹴り殺されるらしい」
「ええ!?こ、ここが日本じゃなくてよかった……」
 新人へと軽いジョークを飛ばしながら、先輩スタッフは大声で笑っていた。
 
 ∮
 
「姉さん?もういい?」
「いいわよ、セレナ」
 セレナは目隠しを取ると、目の前のテーブルに置かれていたものを見て驚いた。
 それは、バケツを使って型を取った特大サイズのプリン。この日の為に、何度も練習を重ねて完成させた逸品だ。
「姉さん、これは!?」

「セレナ──」
 私の声に合わせてツェルト、調、切歌の三人がパーティークラッカーを鳴らして言った。
「「「「お誕生日、おめでとう!」」」なのデース!」
 私たちを見て、セレナは更に驚いた顔で私たちを見回した。
「月読さん、暁さん、それにツェルト兄さんまで!?」
 ツェルトがクラッカーのテープを片付け始め、その間に私はセレナに説明する。

「セレナ、いつだったか言ってたでしょ?大きなプリンが食べたいって。マムに頼んで、材料と道具を用意してもらったの」
「マリアとツェルトが、頑張って作ったんだよ。わたしも、ちょっとだけ手伝ったんだ」
「味見担当はアタシがやったのデース!だから、味は保証するのデース!」
 自信満々にサムズアップする切歌に、皆から笑いが零れる。
 ツェルトは紙テープとクラッカーをゴミ袋に纏めると、私の隣に並んだ。

「さあセレナ、好きなだけ食べるといい。俺達からの、とびっきりのプレゼントだ!」
「姉さん、みなさん……ありがとうございます!わたし、とっても嬉しいですっ!」
 セレナが満面の笑みを浮かべ、私に抱き着く。
 隣のツェルトは、そんなセレナを見て微笑んでいた。

「お礼なら、私よりもツェルトに言うべきよ。私は提案して手伝っただけで、マムに話を持ちかけてくれたのも、プリンの作り方を調べて来てくれたのも、ツェルトがやってくれたんだから」
「でも、私の夢を叶えたいって言い出してくれたのは、マリア姉さんなんでしょう?だから、まずは誰よりもマリア姉さんに。ありがとう!」
「セレナ……ふふっ、どういたしまして」

 互いに微笑みを交わすと、私を離れたセレナはツェルトの方を向いた。
「ツェルト兄さん。マリア姉さんを手伝ってくれて……それに、私の夢を叶えてくれて、本当にありがとうございますっ!」
「ッ!?おっ、おう……そんなに喜んでくれるなら、俺も頑張った甲斐があるよ」
 ツェルトにも遠慮なく、抱き着きに行くセレナ。ツェルトは不意を突かれたようで、一瞬驚いた表情を見せる。

 セレナはいつしかツェルトの事を“兄さん”と呼び、実の兄のように懐いていた。
 私にとっても、ツェルトは同い歳の兄弟のようなものだから、なんだか少しこそばゆい。

 するとセレナは、ツェルトの耳元に口を近づけて何かを呟く。
 次の瞬間、ツェルトが頬を赤らめながら吹き出した。セレナがいたずらっ子のように舌を出して笑っているけれど、何を囁かれたのやら。

「これからも、姉さんを頼みますよ。ツェルト(義)兄さんっ♪」
 硬直するツェルトを残して、セレナは調と切歌にも抱き着いた。
「月読さんと暁さんも、ありがとうございます。こんなに嬉しい誕生日は、久し振りですっ!」
「セレナ……」
「そ、そこまで言われると、なんだか照れちゃうデスよ~」

 皆に感謝を伝えて、セレナは席に着く。私達も座ると、揃って手を合わせた。
「それじゃ、主役も来た事だし……」
「はい!わたしだけじゃ食べきれないので、姉さんたちも一緒に!」
「そうね。食べすぎてお腹を壊しても大変だし」
「わたしも、自分で作ったものの味を確かめたい……」
「アタシはもう……で、でもセレナが言うなら、あと2、3回!いや、10回、20回のおかわり程度、どうって事ないのデース!」
 そう言って皆で、いただきます。小皿とスプーンを手に、巨大プリンを分け合った。
 美味しい、って口々に言いながら。それぞれが心の底からの笑みで、この部屋の空気を満たしていく……そんな、一時のささやかな幸せ。
 
 これが、セレナが迎える最後の誕生日になるだなんて……この時は誰も思わなかった事だろう。
 
 私が、不甲斐なかったばかりに……。私が、間に合わなかったばっかりに……。
 
 ∮
 
「……セレナ……」
 信号が変わるのを待っていたツェルトは、助手席で眠るマリアの声に振り向いた。
 セレナの夢でも見ているのだろうか。その目には涙が浮かんでいる。前方を見ると、信号が変わるまではまだかかりそうだ。
 ツェルトはハンドルから離した左手を伸ばすと、親指でそっと、マリアの目元を拭った。

「……君のせいじゃない。俺がもう少し間に合っていれば、セレナは……」

 ツェルトはハンドルを握る右手を見る。
 それはあの日、大事な妹分と一緒に喪われたもの。彼の右腕は、肘から下が義手になっているのだ。

「でも……その後悔も、もうじき過去のものになる。ドクターウェルの話が本当なら……日本にはある筈なんだ。セレナを目覚めさせ、甦らせる方法が……」
 マリアの寝顔を見ながら、ツェルトは静かにそう言った。
 当然、マリアは眠り続けている。ただの独り言だ。

「マリィ……いや、マリア……。この計画において君は、一番辛い立場になっちまった。きっと君は、何度も涙を隠さなくちゃいけない。俺にだって、弱い所を見せないようにするんだろうな……。でも、君だけに辛い思いをさせやしない。俺はセレナを甦らせる事で、君の顔を上げさせてやる」

 信号が赤から青に変わる。ツェルトは再び前を向くと、ハンドルを握り直してアクセルを踏んだ。
 砕けた月が浮かぶ夜空、八方を都市の明かりに照らされた道路を、車は二人の帰るべき場所へ向かって進んでいく。
 
 もう、その日は目前まで迫って来ている。天より迫る災厄から、多くの人々を救う計画。『フロンティア計画』を実行に移すため……正義のために、悪を貫かなければならなくなる日が……。
 
 ∮
 
 
 
 
 
 2043年 7月〇日
『肉体に異常なし。保存状態、良好。コールドカプセル、稼動状況よし。経過6年にもなって、未だ彼女を治療する術がないのはとても心苦しい。上層部や研究者の多くは、彼女やレセプターチルドレンの子達を道具のように見ているようだが、私は違う。プロフェッサーや彼女の姉がずっと、彼女が目を覚ます日を待ち望んでいるように、私も彼女の目覚めを信じて研究を続けている。そういえば、極東に伝わる伝承の中に気になる記述があった。もしも、この聖遺物が実在するならば或いは……。後日、ドクターウェルに話を持ちかけてみようと思う。天才である彼の見解を求めたい』
 ──F.I.S.研究員の手記 
 

 
後書き
ツェルトのイメージCVは西川さんだったりします。(翼さんとデュエットしそう)

さて、伴装者世界線でのセレナですが、お察しの通りです。
XDの『イノセント・シスター』に近い状態で、冷凍保存されています。あちらでは技術的ブレイクスルーが起き、治療が可能となった為に意識が戻りましたが、こちらでは……。
一方、カルマノイズは現れなかったため、マリアさんは生きております。その代わりに、セレナを突き飛ばしたツェルトが右腕を失う事になりました。

ツェルトとマリア、セレナの関係性、ご理解頂けたでしょうか?
砂糖が足りないって?そりゃあ、これプロローグみたいなものですし、何よりこの二人はまだそういう関係になっていないので。
つまりG編で少しずつ、というワケダ。気長にお待ちください。

それから、今回アイディアを出してくださった熊0803さん、見事採用となったサワグチさんにスペシャルサンクス!その他、Twitterで案を出してくださった皆さんにも、最大限の感謝を!

さて、次回はいよいよお待ちかね、天道撃槍とのコラボ回です!
カブト関連楽曲を準備しながらお待ちください! 
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