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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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戦姫絶唱してないシンフォギア~装者達のサマーバケーション~
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前書き
弦了の需要が中々に高い。まあ、原作が中々に悲恋だからなぁ……そりゃ需要高まるのも無理ないか……。
珍しく了子さん≠フィーネで了子さんが生存する二次創作、と評されたからには、その持ち味活かしていきますとも! 

 
 市内にある総合病院、その病室の前に一人の男性が立っていた。
 赤髪、赤髭、赤いワイシャツ。筋肉質な体格も相まって、如何にも熱血な気質なのが伺える男は花束とレジ袋を片手に、かれこれ20分近くも病室の前で悩み続けていた。

 風鳴弦十郎。特異災害対策機動部二課の司令を務め、普段はとても頼り甲斐のある彼は、やがて意を決した表情でドアを開ける。
 白いベッドの上で上体を起こし、レポートに目を通す眼鏡の女性は、いつもアップに纏めている髪を下ろしていた。
「了子くん……調子はどうだ?」
「あら、弦十郎くんじゃない。やっとお見舞いに来てくれたのね」
 そう言って、櫻井了子はレポートから一旦目を離すと、弦十郎の方を見て微笑んだ。

「すまない……。本当ならもっと早く来たかったんだが……」
「いいのよっ!あの子達の為に、また奔走してたんでしょ?私は元気なんだから、弦十郎くんが謝る必要なんてこれっぽっちもないんだから~」
 弦十郎はベッド脇に置かれた花瓶の花を、自分が買ってきた花と入れ替える。
 そして面会用の椅子に腰を下ろすと、了子の顔を見つめる。
「……本当に、了子くんなんだな?」
「ええ……。フィーネはもう、私の中から去って行ったわ……」

 十二年前、天羽々斬の起動実験にてフィーネに塗り潰された了子の意識は、以来ずっと眠り続けてきたらしい。
 しかし、フィーネの魂がその肉体から去り、彼女は元の”櫻井了子”に戻った。その際は十二年間、ずっと眠り続けて来たという認識だったが、どうやらフィーネは身体と一緒に、『櫻井了子として活動してきた時間の記憶』を残していったらしく、記憶が混乱し始めた了子はメディカルチェックを兼ねて入院する事になったのだ。
「肉体には何の問題も無い、至って健康そのものだって結果が出てるわ。記憶の混乱もようやく落ち着いて来た事だし、もうすぐ退院よ」
「それは何よりだ。君が居なくては、とても困るからな……」
「困るって、それは()()()の弦十郎くんからの言葉なの?」
 了子からの言葉に、弦十郎が目を見開く。

 その様子を見て、了子は呆れたような表情を見せた。
「弦十郎くんったら、分かりやすいんだから……。もっと早くに気付いていれば、フィーネを止められたんじゃないか、って思ってるんでしょ?」
「……君には敵わないな」
 了子は肩を竦める弦十郎を見て、可笑しそうに笑った。
「……私の中に、もうフィーネはいない。私の姿で動いている間、櫻井了子(わたし)としての感情に引っ張られる事もあったのかもしれない。でも、その真相はもう、誰にも分からないわ……。だから、いくら気にしても仕方ないと思うわよ?」
「そう……だろうか……」

 黙り込んでしまう弦十郎。気まずくなりそうな雰囲気に、了子は話題を逸らそうと弦十郎が持ってきたレジ袋を指さした。
「ところで弦十郎くん、その袋の中身は?」
「あ……ああ、これか。翔が見舞い品として人気だと教えてくれたフルーツゼリーだ」
 そう言って弦十郎は、了子に袋を手渡す。
 了子が中身を確認すると、果肉たっぷりのピーチゼリーが一つ、プラスチックのスプーンと共に入っていた。
「これ、1日30個限定のやつじゃない!一度食べてみたかったのよ~」
「お気に召したようで何よりだ。……その、翔から持っていくならピーチ味にするよう勧められて、な……」
「へ?」

 そっぽを向きながら、そんな事を呟く弦十郎。
 不思議そうな顔をする了子に、弦十郎は更に続けた。
「ほら、その……桃の実にも花言葉があるんだろう?」
 やがて了子は、何かに気が付いたように目を見開いた。
「……弦十郎くん、それって……」

「……フィーネから、君の意識が既に死んだと聞いた時、俺は死ぬほど後悔した……。あれは、この人生で一番の後悔だったと思ってる。……君が居ないと困るというのは、二課の司令としての俺ではなく、俺個人としての言葉だ。だから……」

 弦十郎は一旦深呼吸すると、了子の目を真っ直ぐに見つめて言った。
 
「了子くん……。もう二度と勝手に、俺の目の届かないところへ行かないでくれ。……俺も二度と、君から目を離さない」
 
 弦十郎の言葉にしばらく唖然として、やがて了子は答えを返す
「……ギリギリ及第点って所ね」
「ギリギリ、か……。これは手厳しい」
「だって弦十郎くん、今のはいくらなんでも遠回し過ぎるでしょ?」
「すまない……。そういう性分なんだ」
 困ったような顔を見せる弦十郎に、了子はやれやれと肩を竦めて笑った。
「……でも、弦十郎くんのそういうとこ、嫌いじゃないわよ」
「了子くん……」
 
 窓から射し込む、午後の緩やかな陽射し。
 その優しい光に包まれて、二人の男女が十数年越しに心を通わせる。
 頼り甲斐はあるが不器用で、恋に不慣れな熱血漢と、(おわり)の名を持つ一途な科学者。
 見つめ合う二人を出歯亀しながら、二課の名オペレーターコンビは、見守り続けた恋の終着に安堵しながら、入る機会を伺っているのだった。
「あおいさん、あおいさん……やりましたね!」
「バッチリ撮れたわ。今夜の見守り隊定例会議で早速発表よ!」
 
 
 
「弦十郎くん、一つだけ忠告しておきたいんだけど……」
「……聞かせてくれ」
「生弓矢の真の力……あれについては、徹底的に伏せた方がいいわ。……あれは神の奇跡をも実現させてしまう力よ。もしもその情報が、外部に漏れたとしたら……」
「それは、世界を揺るがす災いの種になる……か……」
 
 そして、後に了子の予感は的中し、この奇跡の再会の切っ掛けを作った力が、世界を揺るがす大事件に絡む事になるのだが……それはまだ、誰も知る由のない話である。 
 

 
後書き
同棲編、実は短編の割に本編と文字数変わらないんだよね(苦笑)
なので今回は、いつもの半分の文字数に収めてみましたが、いかがだったでしょうか?
この世界では無事、これから先も一緒に歩んで行くことが出来ると約束された弦十郎司令と了子さん。
G編までには了子さんも退院して、司令の隣でS.O.N.G.を支えている事でしょう。
あ、桃の花言葉については調べてみてください。司令がどんだけ遠回しだったのかが伺えることでしょう。
普段はかっこいいけど、恋愛になった途端奥手になってしまう司令……このギャップよくないです?(笑)

そして最後に不穏な一文を置きましたが、勘のいい人はもう薄々察してしまうかもしれませんね……。
了子さん復活と、G編へと続く物語……。タグにない展開、情報が足らない現状では期待するには弱い可能性……しかし、心の何処かで望んでしまっている人もいるのではないでしょうか?
つまりはそういう事かもしれませんよ?(笑)

ところで最近、一部の読者の皆様方の声にお答えして、この本編とは別枠投稿で翔ひびと純クリの初夜(R18解禁)とか書いてみようかなぁ……なんて考えがあったりなかったり。
いつもあれだけの砂糖なのにエロが入ったらどうなるんだって?
砂糖が蕩けてメープルシロップと化すに決まってるじゃないですか~(笑)

それでは次回をお楽しみに。 
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