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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第6楽章~魔塔カ・ディンギル~
  第58節「ただ、それだけ出来れば──」

 
前書き
姉弟揃ってイケメンな風鳴姉弟。いざ、推して参るッ!
さあ、前回流し損ねたあの曲を……最高のBGMとして鳴らしましょう! 

 
「はあああああああッ!」
「フンッ!」
 刀と鞭がぶつかり合い、火花を散らす。もうこれで、何度目の衝突になるのだろうか。未だに翼の刃は、フィーネへと届いていなかった。
「いくらネフシュタンと言えど、再生能力を凌駕する威力で攻撃を与え続ければ、いずれ届くッ!」
「だが、果たしていつまで耐えられるッ!」
「うッ、くッ!?」
 翼のギアは、所々がひび割れ始めている。既に限界が近づいているのは、目に見えていた。

 その頃、すぐ近くでは翔が暴走した響を相手に戦い続けていた。
「ウオオオォォオオオオッ!」
「ふッ!はッ!……くッ!響ッ!返事をしてくれッ!」
 力任せに振り下ろされる拳、突き破らんばかりに放たれる爪撃。
 大地を砕く脚と、空気を震わせる咆哮。
 翔は響からの攻撃を全て躱し、流し、いなし続ける。しかし、力のままに振るわれる撃槍が相手では、それにも限度があった。
 攻撃の余波による衝撃波や、吹き飛んだ土塊までは防げない。
 今もまた、飛んできた土塊を弾いた瞬間に響の拳が命中した。

「がはッ!?」
 吹っ飛ばされ、地面を転がる翔。
 その先で、フィーネに剣を弾かれた翼が、土煙を上げながら後退して来た。
「翔……大丈夫?」
「姉さんこそ……まだまだ行けるよね……?」
 立ち上がった翔は、もう一度平手を構え直す。
 フィーネは未だに諦めない姉弟を見て、再びせせら笑っていた。
「まだ立ち上がるか?もはや無意味だというのに……。貴様らがいくら抗おうと、カ・ディンギルは止められない!立花響も救えない!それが運命というものなのだッ!」

「運命だと?知った事か!男なら、定められた運命なんか変えて見せるッ!そして未来を掴み取るッ!」
「お前を倒す力は、確かにもう残っていない……。しかし、だとしてもッ!私達姉妹はまだ立ち上がる事が出来るッ!」
「「この身に変えても、守り抜くッ!」」

 2人はそれぞれの戦う相手を見据え、小さな声で呟いた。
「……翔、私はカ・ディンギルを止める。だから──」
「だったら姉さん……。一手だけ、力を貸して欲しい……」
「──わかった。それがあなたの望みなら……」
 頷き合い、翔は地面を蹴って響の元へと飛び出して行った。
 それを見送ると、翼はゆっくりとフィーネの方へと歩み寄る。

「待たせたな……次で、決着を付けるッ!」
「どこまでも剣と言うことか」
 鎖鞭が蛇のように動き、フィーネを取り巻く。
「今日に、折れて死んでも……、明日に人として唄うためにッ!風鳴翼が唄うのは、『戦場』ばかりでないと知れッ!」
 アームドギアを握り直し、翼はフィーネを真っ直ぐに睨みつける。
「人の世界が剣を受け入れる事など──ありはしないッ!」

 伸びた鎖鞭は勢いよく、翼を狙って迫る。
 翼がそれを跳躍して躱すと、鎖鞭は勢いよく地面へと突き刺さり、土煙を上げた。
「颯を射る如き刃、麗しきは千の花──ッ!」
 両脚の刃を展開し、向かって来る鎖鞭を弾き返すと、アームドギアを刀から大剣へと変形させる。

〈蒼ノ一閃〉

 一閃さえをも突き破り、鎖鞭が宙を舞う。
 爆発と共に掻き消える閃き。翼は着地すると、フィーネへと迫る。
「慟哭に吼え立つ修羅、いっそ徒然と雫を拭って──」
「くッ……!」
 その身を貫かんと迫るく鎖鞭。それを翼は、身を屈める事で避ける。
「なッ!?」
 一瞬の隙。フィーネの懐へと潜り込んだ翼は、その大剣を振るってフィーネを薙ぎ払い、カ・ディンギルの壁面へと叩き付けた。
「な……あッ!?」
 フィーネがカ・ディンギルの壁にめり込み、煙で視界を隠されたその瞬間、弟の戦いを横目に窺い続けた翼は、太腿を覆う鎧の裏に収納された小太刀を取り出し、投擲した。

「翔……後は任せるッ!」
 そして翼は天高く跳躍し、刀へと戻したその剣をフィーネへと投擲する。直後、投擲された刀は形を変えて、巨大な刀身を持つ両刃の剣へと姿を変えた。
 両脚の刃を展開させて、そこから噴き出すブースターによって加速。飛び蹴りの構えを取った。
「去りなさいッ!無想に猛る炎、神楽の風に滅し散華せよ──ッ!」

〈天ノ逆鱗〉

「ぐ……うう、はッ!?」
 迫る逆鱗に気が付き、フィーネは鎖鞭を幾重にも交差させ、三重に結界を重ねて張った。
 結界と衝突する逆鱗。大質量の刃物に、高度と加速力を乗せて放つ必殺の一撃を、三重結界は難なく受け止めている。
「その程度では、切っ先すら届かぬわッ!」

 しかし、翼の狙いは……フィーネではなかった。

(──防がれる事は織り込み済みッ!)

 拮抗し、宙で止められたままとなっているアームドギア。
 それをそのまま足場として、自身の体重を移動させることでバランスを崩させる。
 翼は更に二本の剣をその両手に握り締め、カ・ディンギルへと飛んだ。
「四の五の言わずに、否ッ!世の飛沫と果てよ──ッ!!」
 翼と構えたその双刃から、紅蓮の炎が噴き上がる。
 炎を翼と携え翔ぶ姿。まさしく不死鳥(フェニックス)の羽撃き。

〈炎鳥極翔斬〉

「く──ッ!初めから狙いはカ・ディンギルかッ!」
 だが、フィーネは結界を解くと、天高く昇ろうとする不死鳥を墜すべくその鎖鞭を振るう。
(あと少し……ッく、追いつかれ──)
 次の瞬間、鎖鞭は不死鳥の携えた両翼を掠め、飛び立とうとしていた翼を撃ち落とした。

 ∮

「ぐッ!?……なんの、これしき……ッ!」
 砕けて飛び散るギアの破片と、剥き出しとなった生身の部分を切り裂かれ、滴る鮮血。
 翼がフィーネと戦っている頃、翔もまた、響の懐を目指して向かっていく。しかし翔が辿り着くよりも先に、響の真っ黒な右腕からガシャン、という音と共に煙が噴き出した。
「ウウウアッ!」
 勢いよく跳躍し、その鋭い爪と共に突き出された右手。

(男なら……守るべき誰かの為に──強くなれッ!)

 その瞬間、翔はその足を止めると……両腕を広げて響を見上げた。
「アアアアアアーーーッ!」
「…………」
 次の瞬間、響の爪が翔のギアの胸部へと突き刺さる……事はなかった。
 その爪を、まさに紙一重で躱した翔は、ただ穏やかな表情で響の背中に手を回すと、その黒一色に染まった身体を抱き締めた。
「ッ!?」

 突然、その身を包んだ温かさに、響は腕を降ろす。それを見て、翔はその右手を優しく取って、その耳元で囁いた。
「……この手は、束ねて繋ぐ力のはずだろ?」
「ッ!?ガッ……ウウウウゥゥゥウウ……ッ!」
 動きを止めたのも束の間、また暴れようとする響。
 そこへ、何かが地面へと突き刺さる音と共に、翼の叫びが耳に届く。
「翔……後は任せるッ!」

〈影縫い〉

 打ち合わせずとも、弟が何をしようとしているのかを悟った姉から届いた、文字通りの『助太刀』。
 影縫いに動きを封じられた響は、これ以上暴れる事が出来ない。
 翔はそのまま響へと囁き続ける。
「……響。奏さんから継いだ力を、そんな風に使わないでくれ……。その気持ちは痛いほど分かる……。でも、それで誰かを傷付けるのは間違っている……」
「ウウゥ……ア……アアア……」
 響の目尻が下がり始め、その目に涙が浮かぶ。
「純と雪音が倒れたり、学院がこんなになっちまったり……悲しいのはわかる。……悔しさと怒りが溢れて来て、ガングニールの力そのものに、心を塗り潰されそうになってるのも分かる……。でもな……それでも──」

 自然と、響を抱き締める腕に力が篭もる。響の右手を掴んでいた手を、その頭に乗せて優しく撫でる。
 閉じた瞼の裏、見えたのは暗闇へと沈んでいく最愛の人の姿。
 翔はそれに手を伸ばすイメージを思い描き、力強く叫んだ。

「諦めるなッ!」

「ッ……!ウウ……う……アぁ……あ……」
「響ッ!」
 翔は響の顔を見る。その目は……泣いていた。
「響……」
 頬を滴る透明な雫が、真っ黒に染まった頬に輝く。
 温もりと、触れる手と、その意識を呼び戻す力を持った言葉。破壊衝動に塗り固められた響の心を、完全に取り戻すまであと一歩……。

 その最後のひと押しに、翔は……最も響の意識を呼び起こすだけの衝撃を与える行動を選んだ。
 背中に回していた両腕を離し、その両手を頬に添える。
 その行動に至ったのは、親友からの影響か。それとも、その展開が王道中の王道だからか。

「……んッ……ぅ……」
「……ッ!?」
 唇を重ねられた瞬間、響はその両目を見開く。
 そして次の瞬間……その身体を覆っていた影は、オレンジ色の光と共に弾けて消えた。

 翔が唇を離すと、そこには頬を濡らし、真っ赤に晴れた目でこちらを見つめる、最愛の少女の姿があった。
「……おかえり……響」
「……翔……くん……」

 次の瞬間、風を斬る音と、炎が噴き上がる音が空気を揺らした。
「ッ!?あれは……」
 振り向くとそこには、カ・ディンギルの頂上を目指して飛翔する、一羽の雄々しき不死鳥の姿があった。
 その両翼に迫る蛇の鞭に、翔は思わず叫んでいた。
「姉さんッ!」

 ∮

(……やはり、私では──)
 ギアが砕け、破片が飛び散る。
 撃ち落とされ地へと墜ちていく中、翼は心の中でそう呟こうとしていた。
 力なく虚空を彷徨う身体。今度こそ、この翼は折れてしまった……そう思いかけた時、耳に届いたのは懐かしい声だった。

『何、弱気な事言ってんだ』

「あ……奏ッ!?」
 目の前に現れた彼女は、あの頃と変わらない微笑みを浮かべながら、その手を差し伸べて来た。
『翼……あたしとあんた、両翼揃ったツヴァイウィングなら──何処までも遠くへ飛んで行ける』

 奏の手を取り、翼は再びその目を開く。
(……そう。両翼揃ったツヴァイウィングなら──)
 落下していく身体で宙返り、その体勢を立て直して……翼は再び、その両翼(つるぎ)に炎を灯した。
「……ッ!」
「な──ッ!?」
「姉さんッ!」
 翼はカ・ディンギルを支える支柱を足場に、もう一度跳躍する。
 今度は険しい表情ではなく、自信と確信に満ちた雄々しい笑みを浮かべて。
(どんなものでも、越えてみせる……ッ!)
 再び襲い来る鎖鞭。しかし、今度こそは邪魔させはしない。
 その心に呼応するかのように、紅蓮の炎は蒼炎へと色を変え、蒼き翼の不死鳥は天高く飛翔する。

「Yes,Just Believe──!」

 生涯無二の親友と共に歌った、思い出のフレーズ。自らを奮い立たせるように叫びながら、翼はその両翼を羽撃かせる。
 飛び交う鎖を掻い潜り、月穿つ魔塔へと特攻していく不死鳥を……彼女が愛する者達が、涙を流しながら見上げていた。
「あ……あああ……ッ!?」
 見上げるフィーネの目の前で、カ・ディンギルの各部から光が漏れ出す。

 そして次の瞬間……カ・ディンギルは爆発した。
 辺り一面が白一色に染まり、強烈な閃光が戦場を、リディアン全域を包み込む。
 次の瞬間、大きな爆発音と吹き荒れる爆風、そして空には月を穿つ一撃の代わりに、炎と共に爆煙が立ち上った。 
 

 
後書き
原作だと、翼さん抱擁の後でも直ぐには戻らなくて、翼さん特攻(死んでない)でようやく暴走状態から元の姿に戻ったあのシーン。
あれ、もう一歩で元に戻れる所まで来てたけど、そのもう一押しが足りてない状態で影縫いされて、その最後のひと押しが翼さんが死んだかもしれないってショックだったんだろうなぁ、と解釈しました。
なので、こちらではその最後のひと押しとして、某暗殺教室の主人公が永遠のゼ……ゲフンゲフン、プリン大好き天才子役にやったアレよろしく『とっておきの殺し技』を決める流れになりました。告白回で敢えてさせなかったのは、そういう事です。
あと本当なら原作の翼さんと同じく、暴走響の爪を翔が受け止めてそのまま抱擁……の流れにしようとしてましたが、気付いたら回避した上で抱き締め、そこに姉が影縫いして動きを封じるという義妹必殺コンボを決めてきました。
流石はOTOKO風鳴翔……。最愛の人にトラウマを作らせない為にも、死ぬ気で避けてやりやがった……。

それから、翼さん特攻シーン。原作だと「立花ぁぁぁッ!」でしたが、こっちだと翔もいるので悩んだんですよ。
悩んだ末に出た結論は、今でもすぐ傍にいてくれて、背中を押してくれた奏さんでした。奏さんとの繋がりを表しているあの曲、その中でも一番盛り上がるフレーズですし、原作でもピアノver.で流れて、あのシーンに悲壮感を出してましたからね。
イマジナリー翔ひびが元ネタに倣って着衣なのか、かなつば同様の種OP的MAPPAなのかは、読者にの好みに委ねます。
いや、次回結局全員脱ぐけど()

次回──

響「……翼さん、クリスちゃん。それから、純くんも……。さんにんとも、もういない……」

翔「……身体が……もう、動かない……。これ以上は……」

フィーネ「お前らが纏うそれは一体なんだッ!?何なのだあああーーーッ!?」

第60話『シンフォギア』

未来「……響を、翔くんを……二人を助けたいんですッ!」 
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