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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第4楽章~小波の王子と雪の音の歌姫~
  第43節「優しく差し伸べられた手を」

 
前書き
取るも取らぬも当人次第。

それでは、どうぞ今回もお楽しみください。 

 
「ありがと……」
「うん……」
「お前……何も聞かないんだな……」
 所々に痣や傷痕の目立つ背中を拭かれながら、クリスはそう呟いた。
「うん。……わたしは、そういうの苦手みたい」
 未来はクリスの背後で俯きながら、その言葉に答える。
「今までの関係を壊したくなくて、なのに、一番大切なものを壊してしまった……」
「それって、誰かと喧嘩したって事なのか?……あたしにはよく分からないことだな」
「友達と喧嘩した事ないの?」
「……友達いないんだ」
「え?」
 顔を上げてクリスの顔を覗き込む未来。
 クリスは、目を伏せながら、自らの過去を語り始めた。

「地球の裏側でパパとママを殺されたあたしは、ずっとひとりで生きてきたからな。友達どころじゃなかった……」
「そんな……」
「たったひとり理解してくれると思った人も、あたしを道具のように扱うばかりだった。誰もまともに相手してくれなかったのさ……ッ!」
 フィーネに拾われる前の記憶がフラッシュバックする。
 現地の武装組織に捕まり、他の子供達と一緒に両手を縛られ、トラックで運ばれたこと。
 逃げられないよう両手を鎖で繋がれ、虐待を受けた日々。
 泣き叫んでも喚いても、大人達の気が済むまで終わる事のなかった痛み、苦しみ……。
「大人はどいつもこいつもクズ揃いだッ!痛いと言っても聞いてくれなかった……。やめてと言っても聞いてくれなかった……ッ!あたしの話なんて、これっぽっちも聞いてくれなかった……!」
「あ……ごめんなさい……」
 謝る未来を振り返り、ようやく乾いた下着と服を身につけながら、クリスは思い付いたように言った。
「……なあ、お前その喧嘩の相手、ぶっ飛ばしちまいな」
「えっ?」
「どっちがつえーのかはっきりさせたら、そこで終了。とっとと仲直り。そうだろ?」
「……できないよ、そんなこと」
「……フンッ。わっかんねーな……」
「でも、ありがとう。気遣ってくれて……あ、えーっと……」
「……クリス。雪音クリスだ」
 ようやく自己紹介してくれたクリスに、未来は微笑みかける。
「優しいんだね、クリスは」
「……そうかよ……」
「わたしは小日向未来。もしもクリスがいいのなら……わたしは、クリスの友達になりたい」
「あ……」
 クリスの手を、両手でそっと包むように掴んで、未来はそう言った。

 ∮

「で、まだ寝込んでんのかよ~純のヤツは!」
 赤髪の如何にも熱血体育会系、といったオーラが炎のように溢れ出ているクラスメイト、穂村紅介(ほむらこうすけ)は退屈そうな顔でそう言った。

「仕方ないだろ?本人も一晩で、は流石に言い過ぎてたかもって苦笑いしてたし。課題はしっかり手を付けてるから、安心しろって」
「ですが、やはり心配にはなります。翔、純の欠席が3日続いたら、その時は見舞いに上がりますよ」
 灰色の髪に切れ長の目、穂村とは対照的にクールな雰囲気をまとった友人、加賀美(かがみ)恭一郎(きょういちろう)の言葉に、翔は一瞬答えを迷う。
 何時帰ってくるのか分からない以上、それはそれで困るのだ。

「分かった。でも、あいつが断ったら日を改めてくれよ?」
「無論、承知しているさ」
「ところで翔、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「ん?どうした、流星(りゅうせい)?」
 普段から本を読んでいることが多い、物静かな雰囲気をまとう文系男子、大野流星(おおのりゅうせい)が挙手しながら、翔へと問いかける。

「翔と純が、最近リディアンの生徒と一緒にいる所をよく見かけるって噂、本当なの?」
「えっ!?いやっ、それは……」
「こら流星、そういう質問はもっと静かにデリケートにだな!」
 臆面もなくクールな顔で親友の男女交際について聞き出そうとする弟を、慌てて咎めるのは如何にも堅物そうな雰囲気をした双子の兄、大野飛鳥(あすか)。俺と純がいつも絡んでいる友人4人は、いつもの様に俺の席の周りに集まって来ていた。

「兄さん、声」
「おっと……。とにかく、そういう質問はもっとデリケートに扱うものだぞ」
「でもよぉ、本当かどうか気になるじゃねぇか!なぁ、どうなんだ?本当なら、俺にも可愛い子紹介してくれよ!」
「うるさいですよ紅介。そもそも下心がダダ漏れです」
「んだよ!カッコつけてる癖にお前も彼女いねーのは、俺だって知ってんだぞ?」
「それは今関係ないでしょう!」
「まあまあ落ち着くんだ二人とも。それで、どうなんだい翔?僕もその話は耳にしている。君自身の話が嫌なら、せめて純の事についてくらいなら聞かせてくれないだろうか?」
 飛鳥にまでそう言われちゃ仕方ない。チラッと話しておくとするか。
 別に大して誤魔化す必要も無いからな。

 そう思って俺は4人に、立花と小日向の話をした。特に立花の話になると、こいつらやたら食い付きが激しくなった。
「お前ら、何揃ってニヤニヤしてるんだ?」
「いやー?」
「別に」
「「なんでもないさ」よ」
「そ、そうか……」
((((分かりやすいなぁ……))))

 その後しばらく、翔は無自覚に惚気けては4人をニヤニヤさせるのだった。

 ∮

 所変わってリディアンの屋上。手すりに寄りかかって黄昏れる響は、ぽつりと呟いた。
「未来……。無断欠席するなんて、一度もなかったのに……」
「何か、悩み事か?」
「翼さん……」
 声をかけられ振り向くと、そこには松葉杖で身を支えながら歩いて来る翼の姿があった。
「相談になら乗ってやるぞ。私はいつか、お前の姉になるのだからな」
「あっ、あああ姉だなんてそんな!気が早いですって!」
「ふふ……」
 響は翼を気遣い、屋上のベンチに二人で腰掛けると、俯きながら話を切り出した。

「……わたし、自分なりに覚悟を決めたつもりでした。守りたいものを守るために、シンフォギアの戦士になるんだって。……でも駄目ですね。小さな事に気持ちが乱されて、何も手に付きません。わたし、もっと強くならなきゃいけないのに……変わりたいのに……」
 翼はふと、考え込むような仕草をすると、静かに答える。
「その小さなものが、立花が本当に守りたいものだとしたら、今のままでもいいんじゃないかな……」

 響の方に顔を向け、翼は続ける。
「立花は、きっと立花のまま強くなれる」
「翼さん……」
「……奏のように人を元気づけるのは、難しいな」
「いえ!そんなことありません!前にもここで、同じような言葉で親友に励まされたんです。それに、翔くんからも」
「翔も私と同じ事を?」
 翼は驚きながらも、何処か納得していた。血を分けた弟だ、そんな事もあるだろう。
 むしろ、姉弟の繋がりを感じる事ができて嬉しい。それが翼の本音だ。

「それでもわたしは、また落ち込んじゃいました。ダメですよね~……それより翼さん、まだ痛むんですか?」
「大事を取っているだけ。気にするほどではない」
「そっか、良かったです」
「……絶唱による肉体への負荷は極大。まさに他者も自分も、総てを破壊し尽くす"滅びの歌"。その代償と思えば、これくらい安いもの」
 自嘲気味にそう漏らす翼に、響はベンチを立ち上がる。
「絶唱……滅びの歌……。でもっ!でもですね、翼さん!2年前、辛いリハビリを乗り越えられたのは、翼さんの歌に励まされたからですッ!」
 翼は響の顔を見上げる。響は翼の顔を真っ直ぐに見ながら続けた。
「翼さんの歌が、滅びの歌だけじゃないってこと……聴く人に元気をくれる歌だってこと、わたしは知っています!」
「立花……」
「だから早く元気になってください!わたし、翼さんの歌が大好きですっ!」
「……ふふ、私が励まされてるみたいだな」
「え、あれ……?はは、あはははは」
 互いに励まし、励まされ、笑い合う二人。
 しかし──そこに、不穏な音が鳴り響いた。

 ヴヴヴヴヴゥゥゥゥ────!!

「──警戒音ッ!?」
 響と翼は立ち上がり、二課の通信機を手に取った。
「翼です!立花も一緒にいます!」
『ノイズの反応を検知した!相当な数だ、恐らく未明に検知されたノイズと何らかの関連がある筈だ』
「分かりました、現場に急行します!」
 しかし、意気込む翼を弦十郎は厳しく静止する。
『駄目だ!メディカルチェックの結果が出ていない者を、出す訳には行かない!』
「ですが!」
「翼さんは皆を守って下さい。だったらわたし、前だけを向いていられます」
 反論しようとする翼の言葉を、響の一言が遮った。
『姉さん、ここは俺と立花で何とかする』
「……わかった。任せたぞ、お前達!」
 通信機越しに弟からも言われては、引き下がるしかない。
 翼はリディアンに待機し、街のノイズを二人に任せる事にした。

 ∮

 友達になりたい。
 初めての言葉に、クリスは戸惑っていた。
 会ってそんなに経ってない、しかも初めて会った時に吹き飛ばした相手が自分に返したのは、心からの優しさだった。
 その優しさをどう返していいのか、どう受け止めればいいのか、彼女は分からないのだ。
「……。……あたしは、お前達に酷い事をしたんだぞ?」
「え……?」

 ヴヴヴヴヴゥゥゥゥ────!!

「なんだ、この音!?」
「……クリス、外に急ごう!」
 未来はクリスの手を引いて、おばちゃんと共に店の戸を開いた。
 商店街の通りは、悲鳴を上げながら逃げ惑う人々の波ができていた。
「おい、一体何の騒ぎだ!?」
「何って……ノイズが現れたのよ!警戒警報知らないの?おばちゃん、急ごう!」
「ノイズが……?……くッ!」
 未来とおばちゃんは、人々と同じ方向……避難所への道へと向かう。

 だが、クリスはその逆の方向……ノイズの現れた場所へと逆走して行った。
「あっ、クリス!どこ行くの!?そっちは──」
 未来の声などお構い無しに、クリスは人の波をかき分けて走る。
(──バカだ……、あたしってば何やらかしてんだ……ッ!)
 地面に放り捨てられた猫のぬいぐるみが、拾われることも無く踏まれ、転がっていた。
 クリスの向かう先に戻ろうとする人など、一人も居ない。脚を動かす理由はただ、落とし前を付けるため……。

 ∮

(このノイズは……あたしのせいだ!あたしが、ソロモンの杖なんか起動させなければ!)
 商店街の外まで走り抜けると、クリスは息を切らしながら膝に手を付いた。
「はあ、はあ、はあ……。あたしのせいで関係のないやつらまで……。……あ、あああ……あああああああああああぁぁぁ……ッ!!」
 その瞳から大粒の涙をアスファルトに落とし、両膝を付いて空を見上げる。
「あたしがしたかったのは、こんな事じゃない──ッ!」
(戦いを無くすためなんて言って、あたしのやった事は──。関係ない奴らをノイズの脅威に晒しただけで──ッ!)
 助けてくれた未来とおばちゃん、そして逃げ惑う街の人々が浮かぶ。
「だけどいつだってあたしのやる事は……。いつもいつもいつも……ッ!」
 地面を叩き、嗚咽する。フィーネに捨てられた事よりも、フィーネに協力した自分の罪に心を苛まれていた。

キュピキュピッ!キュピッ!

「……来たな、ノイズども。あたしはここだ……だからッ!関係ない奴らの所になんて行くんじゃねぇ──ッ!!」
 迫り来る、自分の命を狙うように命じられた無機質な雑音達。
 立ち上がり、振り返り、吼えるように叫ぶ。
 ノイズ達はそれを合図にしたかのように、一斉に鋭利化させたその身体を射出する。
 それらを避けながら、クリスは聖詠を……。
「Killter Ic──げほ、げほッ!」
 しかし、走り続けて乱れた呼吸のまま無理に歌おうとした影響は、最悪のタイミングで咳として現れた。
 その隙を逃さず、上空から3体のフライトノイズが迫る。
「……ッ!」
(ああ……あたし、死ぬのか……。ごめん、ジュンくん……)



 どうしようもない諦めが、クリスの心を支配する瞬間……その男は現れた。



「──ふんッ!とぁッ!」

 震脚と共にメキメキと音を立てて捲れるアスファルト。捲れたアスファルトに突き刺さるフライトノイズ達。
 そしてその人物は拳でアスファルトを砕くと、その破片はノイズ達の方へと向かって飛んで行った。
 当然、位相差障壁でダメージは通らない。しかし、その破片で何体かのノイズは転倒する。
「なんだ!?」
「はああああああぁぁぁ……ッ!」
 拳を握り、格闘術の構えを取るその大人は……獅子の鬣のようにツンツンした赤い髪に、真っ赤なワイシャツを着た大きな背中の漢だった。

キュピキュピッ!キュピッ!

 しかし怯まず、左右から迫ろうとするノイズ。
「掴まれッ!……ふんッ!」
 だがその男は再び震脚でアスファルトを捲って盾にすると、クリスの身体を抱き抱え、そのまま四階建てのビルの屋上までひとっ飛びで跳躍した。
(え、ええ……ッ!?このおっさん、何者だよ……?)
「ふう……。大丈夫か?」
 困惑するクリスを他所に、超人的身体能力で彼女を救った男……風鳴弦十郎は、彼女の顔を覗き込む。
「あ、え……。はッ!追って来やがった……ッ!」
 弦十郎から離れ、逃げるように後退るクリス。
 しかし、そこへ5体ものフライトノイズが飛来する。
「さすがに振り切る事は出来なかったか……」
「……下がってな、おっさん。すう……」
 呼吸は落ち着いている。クリスは今度こそ、その身に魔弓の力を纏う聖詠を唱えた。

「──Killter(キリター) Ichaival(イチイヴァル) tron(トロン)──」

「てりゃあーーッ!!」
 クロスボウから放たれる矢が、フライトノイズらをあっという間に全滅させる。
「ご覧の通りさッ!あたしの事はいいから、他の奴らの救助に向かいなッ!」
「だが……「こいつらはあたしがまとめて相手してやるって言ってんだよ!──ついて来い、クズ共ッ!」
 クロスボウをガトリング砲へと変形させ、ビルを飛び降りるクリス。
 引き金を引き、ミサイルを発射しながら宙を舞い、辺り一面に爆発と共に炎の華を咲かせていく。
「HaHa!! さあ It's show time 火山のよう殺伐Rain!さあ──」

 ノイズ達と戦いながら、街から遠ざかっていく彼女の姿を見て、弦十郎は呟く。
「俺はまた、あの子を救えないのか……」

 そして、その弦十郎とクリスを別のビルの上から見つめ、ソロモンの杖で何体かのノイズを消滅させる何者かの姿があった事を、誰も知らない。
 青いアンダーウェアの上には、まるで拘束具のように四肢と胸部を覆う、チューブの付いた銀色のプロテクター。
 そして、その顔は真っ黒なバイザーに、口元はマスクで覆い隠されていた。

 ∮

 おばちゃんと二人、走り続ける。
 あの後、クリスを追いかけようとしたわたし達は逃げ遅れてしまっていた。
 クリスを見失っちゃったわたし達は、これ以上は危険だと思って、避難所への道を引き返しているのだ。

 ブオオォォォォォ!!

 聞き慣れたものと違う、重厚な鳴き声に振り向くと……そこにはタコみたいなノイズがいた。
「ッ!未来ちゃん!」
「おばちゃん!こっち!」
 するとタコみたいなノイズは、まるでわたしの大声に反応したようにこっちを向き、その太い足を伸ばしてきた。
「きゃーーーーッ!」




「──ッ!?今の悲鳴は、まさかッ!」
 その悲鳴が、街を駆け抜ける親友に届いていた事を彼女が知るのはほんの数分後の事である。 
 

 
後書き
夫婦喧嘩は次回で何とか解決しそうですねぇ。
原作と変わらない部分多いのは、代わりに追加した分で許してください。
それから、友人カルテットの名前を考案してくださった某磁石さんに感謝を。
ミラちゃんの名前だけはあんまりだったので、元ネタの原典主人公に寄せました。

……ジャン兄弟×きりしら、ミラちゃん×393で装者全員CP出来る説。鏡の騎士と神獣鏡、鋼鉄の兄弟ときりしらロボ的に(笑)
え?グレンが余るって?……奏さんが生きていれば、炎の戦士とブリージンガメンで歳下彼氏になってたかもなぁ……。

未来「ところでクリス、本当に友達居なかったの?ほら、幼馴染とか」
クリス「幼馴染?……ああ、いたよ。あたしが知ってる中でも一番優しくてかっこよかった男の子」
未来「へぇ~!クリス、もしかしてその子の事……」
クリス「ばっ、んなわけ……。いや、でも……うん。あたしがいつまでもこんなんだから、あたしとジュンくんは……」
未来「ん?何か言った?」
クリス「……何でもねぇよ」
未来「……その子とは?」
クリス「もう何年も会えなかった……。ようやく会えたと思ったら、あたしは今のあたしをそいつに見せたくなくて、逃げちまったんだ……」
未来「……そう」
クリス「……なあ、あたしはもう、二度とあいつに会えないのかな……?」
未来「……そんな事ないよ。クリスが会いたいって気持ちを持ち続ければ、きっとまた会える。だってその子は、クリスの大事な人なんでしょ?」
クリス「……ああ……そう、だな……。ありがと」
未来「どういたしまして」
未来(わたしも……響と風鳴くんにもう一度会って、話さなきゃ……)

身体拭いてる間に、もしかしたらこういう会話があったかもしれません。

次回、『陽だまりに翳りなく』
ひびみくの夫婦喧嘩、その行方は!?
はたして未来は翔と響との関係をどう決着するのか!?
次回もお楽しみに! 
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