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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第1楽章~覚醒の伴装者~
  番外記録(メモリア)・夕陽に染まる教室

 
前書き
前回の翔の台詞への反響が大きかった頃だなぁ。告白、或いはプロポーズに聞こえたという声も多数挙がってましたね。
あれはもう今のところ、翔の一番の名言になった事を確信してたり(笑)
それとこれを書いた次の朝、起きたら「響がとても響らしくヒロインしてるのが最高」という二次創作家にとって最高ランクの褒め言葉がコメントされていたため、今日一日笑顔で頑張ることが出来たという思い出も……。

さて、今回は恐らく気にしている読者も多いであろう、翔が初めて響に話しかけた日のお話になります。 

 
「へいき、へっちゃら……へいき、へっちゃら……」
 放課後、誰もいなくなった教室でただ一人。呪文のように、同じ言葉を繰り返しながら机を吹いている少女がいた。
「へいき、へっちゃら……へいき、へっちゃら……」
 机には油性ペンで書かれた罵詈雑言の数々。机の隣には大量の週刊誌と新聞が積まれており、そのどれもが流麗な文章に彩られた同じ話題の記事ばかりだった。
 ライブ会場の惨劇。その被災者達への心無い迫害の象徴にして元凶たる、悪意のマスメディア。小さな教室に渦巻く暗黒を生み出した種が、そこには積まれていた。
「へいき、へっちゃら……へいき、へっちゃら……」
 少女、立花響はこの中学校の中でほぼ孤立していた。
 彼女もまた、ライブ会場の惨劇を生き延びた被災者の一人だ。親友の小日向未来が急な用事で来られなかった為、一人でツヴァイウイングのライブに向かった彼女は、会場を襲ったノイズの群れにその運命を狂わされた。
 逃げ遅れ、心臓付近に突き刺さった破片により大量出血を引き起こした彼女は入院後、緊急手術室の中でなんとか息を吹き返した。
 それから、彼女は一生懸命にリハビリを続けた。家に帰って、また家族皆で暮らす為に。優しい両親と祖母、四人で過ごす平穏な日々へと戻る事を夢見て。
 
 しかし、社会はそんな少女の小さな夢を踏み躙る。
 退院した彼女を待っていたのは、人々からの心ない迫害と罵倒の数々だった。
 家には口悪い言葉ばかりが書かれた大量の張り紙が貼られ、窓からは石を投げ込まれた。
 学校に行けば生徒は全員、ノイズの恐怖への憂さ晴らしの為に彼女を虐げた。
 机に落書きは当たり前。惨劇の被災者らを貶める記事が見出しとなった週刊誌で机を埋め、学生鞄に針で呪詛を刻み、皆がそんな彼女を嘲笑った。
 会社でも白い目で見られるようになった父が失踪し、彼女に残された心の支えは母と祖母、陸上部の親友、そして大好きなご飯だった。
 それでも彼女は自分の弱さを、涙を流す姿を晒すことは無かった。
 ただ一言、口癖のように呟き続けては、親友に笑いかけて見せるのだ。
「へいき、へっちゃら」だと……。
 
 今日も一人で教室に残り、親友が部活から戻って来るのを待ちながら、その時間までに机の落書きと戦っている。
 そんな彼女を先程から、隠れるように見ている生徒がいた。
 やがて少年は何かを決心したように深呼吸すると、俯く彼女に声をかけた。
「立花さん……」
「へいき、へっちゃら……えっ!?だっ、誰!?」
「僕だよ、清掃委員の風鳴翔」
「え、ああ……どうも」
 少年……もとい、当時14歳の風鳴翔は洗剤入りのバケツとスカッチを手に、ゆっくりと教室へ入る。
「もしかして、僕の名前を覚えていなかったりする?」
「あ~……うん。あんまり話した事ないから……ごめんね」
「いや、別に謝る事じゃないよ。ただ、少しだけ嬉しく……いや、それよりもこっちの方が大事だね」
 翔はバケツを床に置くと、洗剤を溶かした水にスカッチを浸して手に持った。
「手伝うよ」
「いや、でも……」
「校内の備品は綺麗に使え。それが校則だし、清掃委員として見過ごせないんだよ」
 その程度の校則も守れなくなる空気感など馬鹿げている。
 内心でこのクラスの生徒らを毒づきながら、翔は響の机を磨き始めた。
 
「なんだか、ごめんね……」
「立花さんが謝る事じゃないよ。こういうのは汚した側が悪いんだ」
「でも、私と一緒に居るところ見られちゃったら、君も呪われちゃうかも……」
 呪い。この頃から、それは彼女の口癖だ。
 嫌な事、凹む事、落ち込む事、ドジを踏んだ事。そういったよくない事に苛まれる度に、彼女はそう呟く。『私、呪われてるかも』と。
「呪い……か。確かに、あの事件以来この学校を取り囲む空気は、もはや呪いの類だよな……」
 何も非科学的なものでは無い。オカルティックなものでないとしても、人の心の暗黒面がそれを実現してしまう事は、よくある話なのだ。
「でも、僕から見れば立花さんのそれも一種の呪いに見えるぞ?」
「それ、って?」
「さっきから無心に呟き続けてる言葉。ずっと繰り返してる時点で、大丈夫なわけないだろう?それ、何かのおまじないだったりするの?」
「あー、ひょっとして"へいき、へっちゃら"?」
 首を傾げる響に翔は頷きつつ、一瞬呆れたような顔になる。
 何故そうまでして強がれるのか。彼には理解出来なかったからだ。
 無意識だとすればこの言葉こそ、彼女を縛る呪いではないか?
 そうとさえ考えるほど、彼にはそれが強がりに見えたのだ。
「この言葉はね、魔法の呪文なんだ。どんなに辛くても、挫けそうな時でも頑張れる。勇気をくれるおまじない。だから、私は何があっても頑張れるんだ」
「そうか……。ごめん、そんなに大事な言葉だとは知らずに……」
「いいっていいって!それより、また未来に心配かけちゃうから急いで片付けなきゃ!」
 再び響が机を拭き始める。
 それきり、翔は何も話しかけられなかった。
 きっとその言葉には、特別な何かがある。彼女の様子からそう感じた彼は、その言葉を勝手に強がりだと思い込み、呪いだなどと言った自分が許せなかった。
 危うく彼女の支えを折りかけたのではないか。そう思うと、自分も他の生徒らと変わらない、自分を中庸だと宣う蒙昧な人間だと実感し、嫌気がさしたのだ。
 
 それから間もなく、その机は油性ペンの跡は全く残らない、ピカピカの机になっていた。
 ついでにビニール紐で雑誌を縛り、翔はバケツと雑誌を手に立ち上がる。
「じゃあ、僕はこれで」
「片方持とうか?」
「片付けるのは清掃委員の仕事だ。じゃ、気を付けて」
 そのまま翔は足早に教室を出て行った。
「まったく……僕はなんて馬鹿なんだ……」
 これを機に彼女の前に立てればと勇気を出したのに、無意識に彼女を傷付けかけた。そんな自分が、どうして彼女を庇えるのだろうか。
 生来、自己肯定感が強くなかった彼は自分の不用意さに、より一層自信を無くしてしまった。
 バケツを用具入れに仕舞い、雑誌を資源ゴミ置き場に置いて彼は帰宅する。
 翌日、響の鞄にコンパスの針で罵詈雑言が刻まれたと知り、より一層自分を責める事になるとは知らずに……。
 
 ──この時の翔は、自らの不用意さを呪った。良かれと思っての行動が、余計に彼女を傷付けることを恐れた。
 しかし彼はいつか、あの言葉の裏に押し込められた彼女の弱さを、この時と同じ言葉で吐き出させる事になる。
 その日まで、二人の心はすれ違ったままで……。 
 

 
後書き
この後、中学を卒業した翔くんは一人称を「俺」へと改め、OTONAに弟子入りして心と身体を鍛えるわけです。
自信をつけ、臆病さを払拭して、姉に並んでも恥ずかしくないくらいのオーラを放つ男に。
そして、響に手を伸ばしたものの、臆病さ故にその手を掴めなかった後悔は、「もう二度と、目の前の掴める手は掴んで離さない」という決意に変わり、響と同じように率先して人助けをするようになったのです。

次回はようやく護送任務へ。ご期待下さい。 
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