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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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覚醒の伴装者
  臆病者の烙印

 
前書き
2期と3期で掘り下げられる要素を1期に持って来たけど、2期ほど深めに掘り下げなければ問題は無いよね。
誰が言ったか火野映司系主人公な翔くん。その昔話をご覧あれ。 

 
「俺をここに……特異災害対策機動部二課に所属してください!!」
 その声は、コンソールルーム全体に反響した。
 叔父さんの席の真下に座るオペレーターの二人がこちらを振り向き、丁度入って来た了子さんが足を止める。
 やがて、叔父さんはいつもの調子で答えた。
「ダメだ。お前を巻き込むわけにはいかない」
「何でだよ!俺だってもう高校生、適合者じゃないけど避難誘導を手伝う事ぐらいはできる!それとも、また前みたいに"子どもだから"って言うつもりか?」
「そうではない!俺はお前の身を案じてだな……」
「そんな事は分かってるよ!でも俺だって……姉さんだけが戦い続けるの見ているだけなのは、嫌なんだ……」
 
 偶然にも聖遺物、天羽々斬の起動に成功したあの日から……世界初のシンフォギア奏者として選ばれた日から、姉さんはずっとその身を剣と鍛えて来た。歳頃の女の子が知っておくべき筈の恋愛も、遊びの一つも覚えず、日常的にアイドル業と任務を繰り返し、休みの日さえ自ら鍛錬に費やしている。
 この前、緒川さんが心配していたのを思い出す。奏さんが死んでから、姉さんの表情には常に険があると。
 確かに。奏さんは、俺にとってはもう一人の姉のような人だった。あの人の快活さが、真面目すぎる姉さんに安らぎを与えてくれていたのは、遠目に見ても一目で伝わって来た。その喪失が、姉さんをどれだけ悲しませたのかはよく知っている。ストイックな姉さんの性格なら、その原因を己の未熟と恥じて自分を追い込むのは目に見えている。
 
 最近の姉さんは、自らに言い聞かせるように「この身は剣と鍛えた身だ」「戦うために歌っているのだ」と言うようになったとも聞いている。
 そんな姉さんは、弟の俺にとっては見ていて辛い。だから、仲間が増えた事がとても嬉しかった。
 でも、その仲間というのは……。
「分かってくれ、翔。俺はこれ以上、家族を巻き込みたくないんだ。可愛い姪っ子を戦場(せんじょう)に立たせなくてはならないだけでも、結構辛いんだぞ?そこに甥のお前まで危険に晒すなんて……」
「姉さんだけじゃない……俺は立花の事も守りたいんだ!」
「何!?何故お前が響くんの事を!?」
「……話せば少しだけ長くなります」
 俺は話す事にした。まだ誰にも、姉さんや緒川さん、親友の純にさえ打ち明けた事のない、昔話を……。
 
 ∮
 
 教室に谺響(こだま)する笑い声。それはとても純粋なものとは言い難く、暗く、ドロドロとしていて、どこか狂気さえ孕んでいるように感じた。
 教室の生徒らは、皆一様にある一点に目を向け、嘲笑い続けている。
 その視線の先というのが、教室の後ろの方に位置する、とある女生徒の机だった。
 生徒らは口々に彼女を罵る。
「うわ、()()()()
「今日も来たんだ。社会のゴミのくせに」
「何の取り柄もないくせして、よくのうのうと生きてられるよね」
 謂れの無い中傷を一身に受け、立ち尽くす少女。当時13歳の立花響である。
 彼女の机は一面、黒の油性ペンで書かれた罵詈雑言で汚されていた。
『人殺し』『金どろぼう』『お前だけ助かった』『生きる価値なし』『死ねばよかったのに』……その他諸々。
 数えるのもおぞましく、全部読めば心が軋む事は間違いないだけの悪意が、そこにこびり付いていた。
 一体、何故彼女だけがこんな目に遭わなくてはならないのか……。
 
 事の発端は、〈ライブ会場の惨劇〉からしばらく経った頃。ある週刊誌が掲載した惨劇の被害内容について、ある事実が発覚した事が切っ掛けだった。
 ライブ会場には観客、関係者あわせて10万を超える人間が居合わせており、 この事件は死者、行方不明者の総数が12874人にのぼる大惨事だった。
 しかし、被害者の総数12874人のうち、 ノイズによる被災で亡くなったのは全体の1/3程度であり、 残りは逃走中の将棋倒しによる圧死や、 避難路の確保を争った末の暴行による傷害致死だと判明したのだ。
 その事実はあっという間に国内全域へと広まり、一部の世論に変化が生じ始める。
 具体的には、死者の大半が人の手によるものであることから、 惨劇の生存者に向けられた心無いバッシングが始まり、そこへ被災者や遺族に国庫からの補償金が支払われたことから、事件に全く関わりのない者達から被災者、及びその遺族らへの苛烈な自己責任論が展開されていったのだ。
 
 やがて捻れ、歪み、肥大化した人々の感情は、被災者らをただ「生き延びたから」という理由だけで迫害するようになっていった。
 ある種の憂さ晴らしでしかない筈のその行為。しかし、集団心理とは恐ろしく、いつの間にか世の中にはそれが正義であるという風潮がまかり通るようになって行った。
 
 そして、立花響もまた、そうやって迫害された被災者の一人だった。
 ライブ会場の被害者の中に、この中学校に通う一人の男子生徒がいた。 彼はサッカー部のキャプテンであり、将来を嘱望されていた生徒だった。俺も顔は知っていたし、名前もよく聞いていた。校内のスターとも言える存在だったのを覚えている。その彼は、不幸にも惨劇の中で亡くなった。
 立花が退院して間もなく。少年のファンを標榜する一人の女子生徒のヒステリックな叫びが、その引き金を引いた。
 なぜ彼が死んで、取り立てて取り得のない立花が生き残ったのか。彼女により、立花は毎日のように責め立てられる。
 
 やがて、その攻撃は全校生徒にまで広がっていくのであった。
 気付けば立花は、校内のほぼ全ての生徒からの悪意を一身に受けていた。
 特にクラスメイトからの攻撃が最たるもので、机への落書きから持ち物隠し、足掛け、席離し、靴に画鋲、下駄箱にゴミ……。
 一度だけ、給食を床にぶちまけられた事だってあった。流石に掃除に支障が出たので、それ以降は無かったが。
 生徒達以上に腹が立ったのは、頼みの綱の担任でさえ立花を見放した事だ。自分も周囲から迫害されるのが怖かった、というのは安易に想像がつく。それでも、教師として果たすべき役目はしっかりと果たして欲しかった。
多分担任は、俺が生涯見た中で一番汚い大人にランクインしたと思う。
 
 立花を迫害したのは学校だけじゃない。自宅には毎日のように、机に書かれたものと同じような文面の貼り紙を貼られ、窓からは石を投げ込まれたらしい。
 自宅と会社、両方から受けたあまりの差別に耐えかね、立花の父親は失踪したとも聞いている。
 母親と祖母、そして幼馴染の親友。味方は少なからずいたとはいえ、まるで世界の全てが彼女の敵に回ったかのような、酷い有様だった。
 それも、これが立花だけでなく、同じ目に遭っていた人達が日本中にいた事を考えると、俺の内側からは怒りが溢れてくる。
 
 馬鹿げている。
 何故、自分の見知った誰かが生き延びた事を喜ばない?
 どうして生き延びた事を理由に迫害する?
 そして……なんでそんなに生命の価値を決めたがるんだ……?
 取り柄の有無で、成績の優劣で、将来が有望だのなんだのってだけで、どうして生き延びた人間への態度を変えられる!
 俺には疑問でならなかった。だって、姉さんはただの被災者として扱われ日本中からその安否を心配されたし、奏さんはその死を多くのファンから悔やまれた。
 なのにどうして立花は、生き延びたのに疎まれるんだ!
 
 そんな疑問を抱きながらも、俺は飛び出せなかった。
 悪意ある言葉の石打ちに晒され、涙を堪えている彼女をすぐ近くで見ていながら、俺は何も出来なかった。見ている事しか出来なかったのだ……。
 何故、俺は動けなかったのか。理由は考えるまでもない。
 
 あの頃の俺は、とても臆病だったのだ。
 クラスメイト達から立ち昇る負のオーラに怖気づき、勇気を振り絞れなかった。
 それに、俺が彼女の側に立った所で何かが変わるとも思わなかったのだ。
 ひょっとしたら悪化するかも、とさえ考えた。
 俺が風鳴翼の弟だという噂は校内中に広まっていた。もし、あそこで立花を守ろうと立ち塞がれば、俺だけでなく姉さんにも悪意の矛先が向く可能性もあったかもしれない。
 または、俺が姉さんの事を引き合いに出して、この疑問をあの場の全員に問い掛けていれば、虎の威を借るような形にこそなれ、あの風潮に問いを投げ掛けることが出来たかもしれない。
 しかし、結局俺は何も出来なかった。それが悔しくて、悔しくて……血が出るくらい唇を噛んだ。
 結局その日の放課後まで、俺は立花に声さえかける事が出来なかった。
 こんな俺はどうしようもなく卑怯者で、偽善者で、そして世界一の臆病者だ。
 だからきっと、あの日の汚名は、手を伸ばせる所にある命を救う事でしか雪ぐ事はできない。
 そして、もう二度と会う事など無いものと思っていた立花に、こうして再び巡り会えたのだ。
 それなら、俺が今度こそ為さなければならない事は……。
 
 ∮
 
「つまり……お前は昔、響くんを救えなかった罪滅ぼしとして、この特異災害対策機動部二課の一員となり、彼女を支えたいと?」
「支えたいんじゃない。守りたいんだ!シンフォギアさえあれば、奏さんみたいにLiNKERでもなんでも使って戦場に立ちたいんだよ!」
 奏さんは、適性こそあったものの、適合率の低さから奏者にはなれないはずだった。
 しかし、副作用と引き換えに適合率を跳ね上げ、後天的適合者を生み出す薬品、"LiNKER"の実験台となり、死ぬほどの苦しみに耐え抜いて奏者の資格を勝ち取った。
 俺に適性があるかはともかく、チャンスがあるなら俺は迷わずその道を選ぶ。
 ……もっとも、シンフォギアは姉さんと立花、二人の分しかない上に、どうやら生物学上の問題で、シンフォギアは男性では纏えないらしい。だから正直な話、今のは勢いで言ったに過ぎない。本当はそうしたいという、俺の願いに他ならない。
「お前……本気で言ってるのか?」
「ああ、本気だとも!これまでの人生で一番の本気だ!たとえシンフォギア奏者になれなくたって、この身一つで姉さんと立花を守れるなら、この命惜しくは……」
「この大馬鹿者!!」
 叔父さんの怒鳴り声に、肩が跳ね上がる。
 それは、叔父さんが本気で怒っている時の声だった。
 何故怒っているのか、それに思い至る前に叔父さんは続ける。
「罪滅ぼしで命を賭けようなどと、この俺が許すと思うか!」
「っ!そ、それは……」
「お前の覚悟はよく分かった。だが、他人の命を守る為に自分の命を粗末にする。そんなあべこべな考えで臨むのなら、俺はお前の主張を認めるわけにはいかん!」
 叔父さんに言われて気が付いた。
 そうだ……俺は何を焦っていたのか。確かに、姉さんと立花を守る為に俺が命を散らしてしまえば、二人を悲しませる事になる。
 姉さんは今度こそ独りぼっちになってしまうし、立花の心に深い爪痕を残す事になるのは確実だろう。
 そんな事にも思い至らなかったなんて……俺も姉さんの事、とやかく言えないじゃないか。
 
「とにかく、だ。お前がその考えを改めるまでは、どれだけ志が高かろうと、お前を二課に入れるわけにはいかん!……分かってくれるよな?」
 先程までとは一転して、叔父さんの眉間から皺が消える。
 いつもの優しい、弦十郎叔父さんの顔だ。
 いつだって子供の事を思って怒ることが出来、いつだって子供にやりたい事がある時は全力で支えてくれる、大人の漢の顔だ。
 その上、厳しい事を言いながらも、結局俺の頼みを完全に断っている訳じゃないのがズルい。多分、一週間くらい経って頭冷やしたら、今度は迎え入れてくれるつもりだろう。
 ……こんな人だから俺は、叔父さんを心から尊敬しているんだ。
「分かりました……しばらく、頭を冷やします」
「なら、次に来る時は……」
 
 ヴゥゥゥゥ!ヴゥゥゥゥ!
 
 その時警報が鳴り渡り、赤いサイレンが鳴る。
 オペレーターさん達の表情が引き締まり、モニターには何ヶ所かが赤く点滅したこの街のマップが表示される。
「ノイズ出現!」
「場所は!?」
 ノイズの出現地点を聞き、叔父さんは端末を二人の適合者へと繋ぐ。
 そう。姉さんと立花、この国をノイズから守っている二人の"奏者"に。
「翼!響くん!ノイズが現れた!大至急、現場へ急行してくれ!」
「それじゃ、俺は邪魔にならないように出てますよ」
 端末を手に取る二人の顔がモニターに映ると共に、俺はコンソールルームを退出した。
 
 背後で扉が閉じる音がした瞬間、ポケットから端末を取り出しながら、職員の休憩スペースへと向かう。
 休憩スペースに座ると、周囲に誰も居ないことを確認して端末を耳に当てた。
 
『周辺住民の避難、完了しました!』
『翼さん、現場に到着!これより戦闘に入ります!』
 先に現場に到着したのは姉さんらしい。
 流石は先輩、と言ったところだろうか。
『翼!響くんの到着を待って……』
『いえ。この程度、私一人で充分です!』
 叔父さんからの指令を無視し、単独で戦闘を始めたようだ……やれやれ、本当に姉さんは意地っ張りというか、ストイックが過ぎるというか……。
 
 え?俺が今何をしているかって?
 叔父さんがモニターの方を向いてる間に、植え込みの陰にスマホを隠して、そこから拾った音を端末から聞いてるだけさ。
 つまり……盗聴だよ。 
 

 
後書き
弦十郎「特異災害対策機動部二課、司令の風鳴弦十郎だ。まったく、翔の奴には困ったもんだ……。翼が二課所属の奏者になって以来、自分も二課に入ると聞かなくてな……」
緒川「でも、彼にも守りたいものがある。その点、響さんと志は同じだと思います」
弦十郎「響くんに比べて、強迫観念のようなものが強い気がするがな」
緒川「あれ?司令はお気付きでないと?」
弦十郎「む?」
了子「緒川くん、年がら年中アクション映画しか見てない弦十郎くんがその辺、この時点で気付けると思う?」
緒川「ああ……確かに……」
弦十郎「二人とも、一体何の事なんだ……?」

次回は盗聴されてる側の視点でお届けします。
果たして、翔くんは二課に入る事が出来るのか!? 
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