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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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覚醒の伴装者
  過去からの残響

 
前書き
時限開放式にしようと思ったけどやっぱり辞めた!
月内で全話公開したる!
 

 
「ふへへへへ、たんまりあるじゃねぇか」
 男はこじ開けたレジの中身を見てほくそ笑んだ。
 ノイズ襲来で、店員を含めた周辺の市民は全て避難している。今なら人目を気にすることなく、堂々と盗みを働けるのだ。
 警察さえ、ノイズが現れれば特異災害対策機動部が掃討するまでは動けない。
 今この瞬間は盗人天国。泥棒し放題というわけだ。
「まったく、ノイズ様々だぜ。対策機動部には感謝しなくちゃな」
 レジの中から紙幣を鷲掴む。万札、千札を何枚も握った感触が男を満足させる。
「さて、ノイズの誘導は向こうだから……もう一件くらい盗んでもいいよな?次はこの先のCDショップでも狙ってみるか!」
 
「随分と楽しそうだな」
「あぁ?」
 突然、店内に響く入店音と若い声。男が顔を上げると、自動ドアから入って来た声の主は一瞬でカウンターの上へと飛び乗る。
「ふんっ!!」
 次の瞬間、男の身体は左方向へ勢いよく吹っ飛んだ。
「ごっ!?」
 カウンターに飛び乗った少年は、男の顔を思いっきり蹴り飛ばしたのだ。
 高く安定した足場から放たれた回し蹴りは、その威力を男の頭部へとダイレクトに伝える。男が掴んだ紙幣が手放され、レジ奥を舞う。
 少年はレジの奥へと降りると、宙を舞う紙幣を一枚一枚、全て地面に落ちる前に拾い集めると、そのままレジへと戻して行った。
「な、なんだお前……なんでこんな所にガキが残ってやがる……!」
「運が無かった……いや、むしろ幸運だったな。戦場
いくさば
でノイズに殺されるより、その天命との決別が暫し遠のいたんだ。感謝してくれてもいいんじゃないか?」
「チッ!何処のお坊ちゃんだか知らないが、邪魔するんじゃねぇ!!」
 男は右頬を抑えながらよろよろと立ち上がり、ポケットから折り畳みナイフを取り出すと、少年へと突き出す。
 狭いレジ奥。通路は一直線。ナイフは少年の腹部へと真っ直ぐに突き進んで行った。
 
「やれやれ……この程度、鞘でド突けば充分か」
 次の瞬間、少年は素早く身を逸らしてナイフを避け、男の手首を腕の関節で挟み込むと、そのまま右手で男の左腕を掴み動きを封じる。
 更には男のふくらはぎを踵で引っ掛け、体制を崩した瞬間、腕を背中に回させると、そのまま一気に抑え込んだ。
 わずか一瞬で取り押さえられた上、ナイフを没収される。流れるような少年の動きに、男は困惑した。
「なっ……なんなんだよ!?お前本当に何なんだ!タダの糞ガキじゃねぇのか!?」
「知らないのか?飯食って映画観て寝る。男の鍛錬はそれで充分なんだよ!」
「訳の分からんことを抜かすな!!」
「分からなくて結構。実は俺もよく分からん」
「はぁ!?」
 訳が分からない、という顔で困惑する男。
 少年──風鳴翔は、そんな男の顔を見て一瞬だけ笑った。
 今のは彼に体術を教えてくれた叔父の口癖だ。本当に、どうしてそれだけで瓦礫を発勁で受け止めたり出来るようになるのか……。もっとも、今使った技なんて、基本のきの字くらいなんだけど。
「さて、あとはお前を避難所まで連れてって、警察に引き渡せばそれで終わりだな」
「ったく……本当にわけわかんねぇガキだな。何で放っておかねぇんだよ」
「盗みを見逃してくれればよかったのに、ってか?」
「いや、それもあるけどよ……何故、わざわざ避難所まで突き出そうとする?テメェの命が大事なら、俺なんか放ってさっさと逃げればいいじゃねぇか」
 不思議そうに。または半ば呆れたように。男は翔に問いかける。
 そう問われると、翔はふと考えて……やがてこう答えた。
「善人も悪人も、命の重さに変わりはないからな……。手を伸ばせる所にいるなら、その手を掴まないと後悔する。ただ、それだけだ」
「そいつは……自己満足か?」
「かもしれない。でも、少なくとも心は痛まない。助けた誰かと繋がっている、知らない誰かが悲しまなくてもいい。その方が、後味は悪くないからな」
「そうかよ……。青臭いガキらしい言葉だ。でも俺には生活がかかってんだよぉ!!」
 翔の注意が逸れた瞬間、男は身を捩って翔の技を抜けようとする。
 しかし翔はそれを許さず、後頭部を狙って峰打ちを決めた。
「だからって人様に迷惑かけんな。あんたにはその場しのぎでも、ここで働く人達にとっては死活問題だ」
 意識を刈り取られ、倒れる男。翔はそれを見て、独りごちる。
「だから言ったろ?ド突けば充分だってな」
 直後、市街地から大きな爆発音が鳴り響いた。
 それを聞くと翔は、コンビニを出て駐車場から周囲を見回し、音のした方向を向く。
 灰色の爆煙が夜空へと昇るのを見て、翔は小さく呟いた。
「おつかれ……姉さん」
 
 ∮
 
 やってきた警官に男を引渡し、俺は駅へと向かっていた。
 帰りが思ったよりも遅くなってしまったため、純には電話を入れてある。
 ノイズ出現の影響でモノレールのダイヤが遅れているため、残念ながら門限には間に合いそうもない。
 タクシーでも拾えればいいんだけど……。
 
 などと考えていたその時、後方から走って来た黒いベンツが隣に停車した。
 振り向くと窓が開き、運転手がその顔を見せる。
「翔くん!」
「緒川さん!」
 緒川慎次
おがわしんじ
。風鳴家に仕える、姉さんの世話役兼マネージャー。ホストとして仕事をしていた影響か、常にスーツ姿で私服を見た事がないけど、仕事ぶりは完璧で物腰も柔らかい。
 正直言って、姉さんを任せるならこの人しかいないってくらい信頼出来る人だ。
「どうしたんですか、こんな所で?」
「姉さんのCD、ショップまで受け取りに来てたんですよ」
「なるほど。それは災難でしたね……。どうぞ乗ってください、寮までお送りしますよ」
「ありがとうございます!」
 緒川さんが車を出している、という事は……。
 
 助手席に目をやると、予想通りの人物が座っていた。
「姉さん。お仕事おつかれ~」
「翔……うん、ありがと……」
 窓から助手席側を覗き込んで声をかけると、姉さんはどこか弱々しく、そう返した。
 不思議に思い、姉さんの顔を見ようとして……涙の跡を見つけた。
「姉さん……?姉さん、何かあったのか!?」
「っ!……翔には関係のない事だ!」
 そう叫ぶと、姉さんは顔を逸らしてしまった。
 緒川さんを見ると、緒川さんはただ、俺に後部座席へと乗るよう促すだけだった。
 姉さんが泣いている。その理由を聞くのは、姉さんが落ち着いてからにするべきだろう。
 俺は車に乗り込むと、アイオニアン学生寮の途中にあるコンビニへと向かってもらった。
 
 ∮
 
「新たなガングニールの適合者……ですか」
「はい。翼さんは、彼女がガングニールを引き継いだ事に納得がいかないようでして……」
 コンビニでスポーツドリンクを購入した後、俺は緒川さんから事の顛末を聞くことになった。ちなみに姉さんはというと、助手席でそのまま眠ってしまった。疲れとストレスが一気に押し寄せてきたんだろうな……。ゆっくり休んでね、姉さん。
 
 昨日の夕刻、ノイズ出現と共に観測されたノイズとは異なる高エネルギー反応。アウフヴァッヘン波形の称号により、その正体は二年前に失われた第3号聖遺物「ガングニール」のものと一致したらしい。
 そして現場のカメラが撮影した映像には……ガングニールのシンフォギアを纏う少女の姿があった。
 シンフォギア……それは、特異災害対策機動部()()所属の科学者、櫻井了子(さくらいりょうこ)さんの提唱する「櫻井理論」に基づいて開発された、聖遺物から作られたFG式回天特機装束。
 早い話が、ノイズに対抗出来る唯一無二の特殊装備だ。
 現行の憲法に接しかねない代物であるため、日本政府により完全に秘匿されているその装備は、適合者の歌によって起動し、歌によって真の力を発揮する。
 
 二課が保有していたのは二つ。第1号聖遺物「絶刀(ぜっとう)天羽々斬(アメノハバキリ)」と第3号聖遺物「撃槍(げきそう)・ガングニール」だ。
 そして、ガングニールのシンフォギアは忘れもしない二年前。姉さん、そして姉さんの親友にして相棒だった天羽奏
あもうかなで
さんによるアイドルユニット、〈ツヴァイウイング〉のライブ中に起きたノイズの大量出現事件……通称「ライブ会場の惨劇」の日だ。
 奏さんはノイズを全滅させる代わりに戦死。その際ガングニールは砕け散り、この世から失われた。
 そのガングニールが、2年の時を経て姿を現したのだ。
 姉さんにとって、それは親友の忘れ形見のようなものだっただろう。
 しかし──
「奏さんの忘れ形見を何も知らない、戦士としての心構えもないぽっと出の一般人が受け継いだのが気に食わない、って事ですか。気持ちは分からなくもないですけど……流石にそれ、姉さんも大人気ないのでは?」
「それが……彼女、意図せずして翼さんの地雷を踏み抜いてしまいまして……」
 
 話を聞くと、どうやらその少女にも非がないわけでもないらしく、ピリピリしている姉さん相手に「私が奏さんの代わりになってみせます!」と言ってのけたらしい。
「あー……それはその娘に悪気がなくても、姉さんの地雷を的確に踏み抜いてますね……」
 一体どんな能天気なんだろう。姉さん、その娘に泣きながらビンタかましたらしいし、幸先悪いなぁ……。連携が取れず、戦場
いくさば
で不協和音をもたらすのは確実じゃないか。
「でも、悪い子じゃないんです。きっと、翼さんとも仲良くなれると思いますよ」
「だといいんですけどね……。ところで、そのガングニールの子ってのは?」
「適合者の個人情報を部外者に漏らせないことくらい、翔くんも分かっているはずじゃないんですか?」
「いいじゃないですか。所属されてはいませんが、俺も二課への出入りは許されてますし。今度会った時、姉さんとどうすれば仲直りできるのか、アドバイスくらいはしてあげたいんですよ。その娘の為にも、姉さんの為にもです」
 緒川さんは、仕方ないですね、と笑うとその少女の写真をスマホに出してくれた。
 
 
 
 その顔と名前を知った瞬間、俺は瞠目した。
「……緒川さん、その名前本当なんですよね!?」
「え、ええ。偽名も伏字もありませんよ?」
 だって、その名前は……その顔は……一日たりとも忘れた日はない、あの娘のものだ……。
 モノクロの記憶の中、俯き、涙を堪え、空元気で笑って見せた顔だ。
「立花
たちばな
……響
ひびき
……」
 喪った姉の親友。助けられなかったあの日の少女。
 2年前の運命の残響が、鳴り響き始めた瞬間だった。
「立花がガングニールの適合者……だと……!?」 
 

 
後書き
緒川「縁とは奇妙なものですね。翼さんと奏さんに、響さん、更には翔くん。この繋がりが導くものは果たして……。え?戦闘シーン、モブのコソ泥相手でノイズ戦がないですねって?まあ、翔くんは奏者じゃないですし、時系列もアニメ2話の裏側ですから仕方ないかと。あ、次回は風鳴司令の出番らしいですよ」

さて、次の時系列からは空白の一ヶ月間!早くも完全オリジナル展開です。ご期待ください! 
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