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遊戯王BV~摩天楼の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン17 錬金武者対赤髪の夜叉

 
前書き
1週間ほど更新遅れましたが、私は元気です。

前回のあらすじ:単発モブだと思った?レギュラーだよ!な鼓さんこと鼓千輪、登場回。 

 
「んで?鼓、お前一体何しに来たんだ?」

 デュエルが終了してから、わずか10分。敗北したチンピラ2人が這う這うの体で逃げ帰り、見せもんじゃねえぞと睨みを効かせて野次馬を追い払い。経営危機を脱したケーキ屋のおばさんからせめてものお礼にうちのケーキでもとの誘いを受け、それじゃまあと誘われるがままに店内に入り、ずらりと並べられた甘味を前にして糸巻が口火を切るまでの時間である。清明は厨房の方に消えていったため、店内はさながら小規模な女子会の場と化していた。
 1つの国を統括するフランス支部代表と、激戦区とはいえ日本の小さな町担当。同じデュエルポリスとはいえ今の立場には天と地ほどに大きな隔たりがあるものの、プロ時代から長い付き合いのある2人の前にそんな地位の違いなど存在しない。いつもの煙草の代わりにイチゴを突き刺したフォークをびしっと赤髪の美女が向けると、指された銀髪の美女もこれまた単刀直入に、マカロン片手に答えを返す。

「何を言っている、糸巻。本部に今年はデュエリストフェスティバルするから人員寄越せとのたまったのはお前の方だろう。あの摘発の件もあって働きづめだったから、有休も余ってたことだしな。リフレッシュがてら故郷、日本の土でも踏んで来いとのお達しだ」
「えぇっ!?」

 当然だろうと言わんばかりの返答にすっとんきょうな声を上げたのは、ちゃっかり糸巻の隣の席を確保して生クリームのかけらを頬に付けた八卦である。当然その場にいた全員の視線が向けられたことに気づいてやや赤面しつつも、それでも驚愕の方が勝りおずおずと続ける。

「え、えっと、鼓さん……ですよね」
「ああ。そういう君は?」

 ぶっきらぼうな言葉ではあるが、そこに刺々しさや拒絶は感じられない。気さくで荒っぽい糸巻とは対照的なようで、どこか人を引き付ける魅力という点では根が同じものを持つ。それが、鼓千輪という女である。
 だからだろうか。不思議と少女の口からは、すんなりと言葉が出た。

「申し遅れました!私、八卦九々乃と申します。まだまだ半人前の身、及ばずながら糸巻お姉様の元で、一人前のデュエリストになるため精進させて頂いております!」
「ひとつ補足すると、七宝寺の爺さんの姪っ子だな。若いのに大した子だぜ」
「七宝寺さんか、懐かしい名前だな。よろしく……いや待った。糸巻お姉様?糸巻、お前まーた女の子引っかけたのか」
「うるせえ」
「ま、また?」

 理知的で整った眉を細めて意味ありげなジト目を送る鼓に、露骨に顔をしかめる糸巻。しかしそれで済まないのが、すぐ隣の少女だった。

「えっと、お姉様?どういう意味かお聞きしてもよろしいでしょうか」
「それには私が答えよう、八卦ちゃんとやら。そこの女は昔から行く先々でとにかく女性受けが良くて、そのくせ鈍感なものだからしょっちゅうファンを勘違いさせる言動を繰り返してな。人の趣味をとやかく言う気はないが、おかげでよくつるんでいた私までそちらの趣味があるんだとまことしやかに噂となり、あの時はどれだけ迷惑したことか」
「へぇ……」

 その実感のこもった言葉にギギギっと首を曲げ、隣の赤髪にそれまで彼女が見たことがないほどに据わった視線を注ぐ少女。そしてどこか空恐ろしいものを感じながらも気づかぬふりでさりげなく視線を外し、なるべく遠くの皿に手を伸ばす糸巻。そんな2人の様子を眺め、呆れたように鼓が手の中のマカロンを口に放り込んだ。

「もう10年以上経って少しは落ち着いたかとも思ったが、期待するだけ無駄だったようだな」
「お前が誤解されるようなこと抜かすからだろうが!」
「そんなもの、私が当時受けた扱いに比べればなんてこともないだろう。ちなみにだが、私は今でも根に持っているぞ?お前が爆笑しながら見せてきた、レズビアンデュエリストの双極などというゴシップ記事。あれが作られたのも、お前のファンから剃刀の刃を贈られたのも、ついでに私が二日酔いで苦しんだのも。元はと言えば、お前が私を誘って毎晩のように飲み歩いてたからだろうが。男だろうと女だろうと、他にも飲み仲間なんていくらでもいたはずだが」
「それはしゃーない。お前が一番、一緒に酒飲んでてアタシが面白かったからな」
「……ふむ。わかるだろう、八卦ちゃん?これで無自覚だ、こいつはこういう女だ。あまり入れ込まないうちに、早々に諦めた方が身のためだぞ」

 色々と諦めたような視線に対し、少女もなんとも言えない顔でこくこくと小さく頷く。もっともその表情を見れば、恋に恋する少女の気持ちがいまだ変わっていないことは容易に読み取れたのだが。
 だが、今度それで済まなかったのは糸巻の方だった。

「お前なあ、黙って聞いてやりゃ言いたい放題言いやがって。喧嘩売ってんならアタシはいつでも買うぞ、コラ」
「ほう?そこまで大口叩くからには、当然腕は落ちていないんだろうな。先の一戦なんて、あんなものウォーミングアップとしても認められんぞ」

 冷笑と共に返される、売り言葉に買い言葉。わずかな睨みあいの末に2人のデュエリストが席を立ちあがりデュエルディスクを手にしたのは、まるで鏡に映したかのように全く同じタイミングだった。

「え、えっと、あの」
「そゆことするなら外行ってくんないかなあ……ほれ八卦ちゃん、ちょっと下がってようか」

 立ち昇る闘気を察知してか、ふらりとエプロン姿の清明が厨房から帰ってきてわたわたと戸惑う少女を後ろに下がらせる。そのまま2人の間にある甘味いっぱいの机をどかしたそのタイミングで、2人の声が店内に響いた。

「「デュエル!」」

「よし糸巻、先攻はくれてやろう」
「いい度胸だ、なら貰ってくぜ。アタシのターン、ユニゾンビを召喚!」

 ユニゾンビ 攻1300

 まず糸巻が初手に繰り出したのは、アンデット族の中核をなす2人1組で肩を組むゾンビ。

「ユニゾンビは1ターンに1度デッキからアンデットを墓地に送り、モンスター1体のレベルを1つ上げることができる。アタシが選ぶのはグローアップ・ブルーム……そしてブルームは墓地に送られた時、自身を除外することでデッキからレベル5以上のアンデット1体を手札に加えることができる。その時にアンデットワールドが発動していれば、このサーチを特殊召喚にすることもできるがな。アタシが選ぶのはレベル5、ヴァンパイア・フロイラインだ」
「フロイラインか。面倒だが、まあどうにでもなるか」

 眉一つ動かさず戦況を分析する鼓とは対照的に、獰猛な笑みを口の端に浮かべつつ糸巻がさらなる一手を打ち出す。彼女の仕込みは、まだ始まったばかりなのだ。

「もう1度ユニゾンビの効果を発動!手札1枚をコストに、モンスター1体のレベルをさらに1上げる。アタシが選ぶのはこのカード、屍界のバンシーだ」

 ユニゾンビ ☆3→4→5

「こんなところだな。カードを2枚セットしてターンエンド」
「では、私のターンだな。超重武者装留イワトオシを召喚」

 満を持して召喚されたのは、巨大な青い弓のような形をしたモンスター。モンスターとはとても思えない弓そのものの威容が、射線上にユニゾンビの姿を捉える。
 攻撃力ではユニゾンビに及ばない1枚……しかし、糸巻はそれを通さなかった。

「っ、させるかよ!アタシはこの瞬間にトラップカード、バージェストマ・カナディアを発動!召喚されたイワトオシには、そのまま裏側守備表示になってもらうぜ」

 超重武者装留イワトオシ 攻1200→???

 細長い体を持つ古代生物が地中から飛び出し、イワトオシに何重にも巻き付いてその姿を地面に落とす。セット状態に強制変更されたイワトオシを一瞥し、仕方ないとばかりに息を吐く。

「さすがに通してはくれないか。それにしても、初動潰しとはな。このデッキがフルモン超重武者なら、この時点でだいぶ苦しかったぞ」
「ってことは、まだ動けるみたいだな?そう来なくっちゃ張り合いがないな」
「まったく、私よりお前の方がよほど言いたい放題じゃないのか?とはいえ、ご期待に沿えるよう頑張ってみるか。魔法カード、苦渋の決断を発動。デッキからレベル4以下の通常モンスター、メタルフォーゼ・スティエレンを墓地に送り、さらにその同名カード1枚を手札に加える。そして魔法カード、錬装融合(メタルフォーゼ・フュージョン)を発動。私の手札に存在するメタルフォーゼモンスター、スティエレン。そして場のイワトオシを素材として、融合召喚を行う!」

 赤熱のライダーと、機械仕掛けの大弓。2つのカードが渦を描いて空中で混じりあい、超重の息吹に触れた卑金属は貴金属へとその真の力を覚醒させる。

「堅牢なる鋼鉄の魂が、輝き纏い昇華する。融合召喚!叫べ、アダマンテ!」

 メタルフォーゼ・アダマンテ 攻2500

 騎乗していたバイクが変形し、スティエレンの装甲となる。肩部分から生える燃え盛ったままの2つのタイヤはその回転エネルギーから無限のパワーを生み出し、腰に移動した排気管からは勢いよくジェット噴射ばりに炎が吹き上がる。そのエネルギーの行き先は、彼が手にした2本の剣……赤熱の二刀流を構え、アダマンテがその切っ先を糸巻へと向ける。

「そしてこの瞬間、フィールドから墓地に送られたイワトオシの効果を発動。デッキから超重武者モンスター1体を手札に加える。超重武者ツヅ-3を手札に加え、錬装融合の更なる効果を発動。このカードをデッキに戻すことで、カードを1枚ドローする。ふむ……バトルだ。アダマンテでユニゾンビに攻撃」

 大量の爆炎を噴き上げて、炎の軌跡がユニゾンビへと迫る。しかしその剣先が届く寸前、アダマンテの眼前に漆黒の傘がパッと開いた。

「モンスターの攻撃宣言時、アタシは手札からヴァンパイア・フロイラインの効果を発動!このカードを守備表示で特殊召喚させてもらう」

 ヴァンパイア・フロイライン 守2000

 傘の持ち主は、不気味なほど白い肌と絵と対照的に赤く妖しい光を放つ目をした人形のような金髪美女。しかしその足元には、本来存在するはずの影がない。より正確に描写すれば、その手にした傘の影はしっかりと地面に浮かんでいる。だというのに肝心の彼女だけが、地面に影を落としていないのだ。
 しかし、それはサーチを見ていた鼓にとっても想定内。

「削りだけでも仕掛けておくさ。攻撃対象を変更、そのフロイラインに攻撃」

 肩のタイヤが高速回転し、減速した推進エネルギーが再び蘇る。炎の軌跡を描き降りぬかれた細身の剣が、女吸血鬼の傘とぶつかって激しく火花を散らした。

「ならこの瞬間、フロイラインの効果発動!アタシのアンデット族が相手モンスターとバトルを行う時、フロイラインにアタシの(ライフ)をくれてやることでその攻守を上げる。アタシが払うライフは……まあ500で十分だ、な!」

 フロイラインの傘の影から1匹のコウモリが音もなく宙に舞い、糸巻の伸ばした腕にその鋭い牙を深々とめり込ませる。プレイヤーの生き血はヴァンパイアの活力となり、一時的なブーストを得たフロイラインの細腕が錬金のエネルギーと互角の膂力を発揮する。

 メタルフォーゼ・アダマンテ 攻2500→ヴァンパイア・フロイライン 守2000→2500
 糸巻 LP4000→3500

「ご苦労、アダマンテ。それにしても随分慎重になったものだな、糸巻。昔のお前ならフロイラインの1度に発動できる上限、3000ライフを一気に払って反射ダメージを稼ぎにきてもおかしくなかったが」
「若さゆえの無茶、ってやつだろうな。ま、いくらアタシが若くてもそこまでじゃないってことさ」
「若……?ハッ」
「おう鼻で笑うのやめーや、そもそもお前もアタシとはタメだろが」

 自虐めいた軽口の応酬。一見じゃれているだけにも聞こえるが、両者の視線は明らかに言葉のドッジボールが進むたびにその鋭さを増していた。あまりに大人げのないといえばその通りの光景ではあるが、本人たちは大真面目である。静かながらも激しい睨みあいに部屋の気温まで数度下がったような錯覚に襲われ、名実ともにまだ若き少女は小さく身震いした。
 ややあって鼓がふっと、わざとらしい口調で肩をすくめる。

「おや、そうだったか?カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」
「待ちな、このエンドフェイズにトラップ発動、バージェストマ・オレノイデス!今伏せたうち右の伏せカード、こいつの効果で破壊させてもらうぜ。そしてこの発動にチェーンして墓地のカナディアの効果を発動、こいつをモンスターとして蘇生する」

 バージェストマ・カナディア 攻1200

 赤みがかった平たい体の古代生物が床を這って伏せカードに襲い掛かり、その一方で糸巻の場には先ほどイワトオシを縛り上げていたカナディアがフィールドに戻りとぐろを巻く。ターンの移る直前を狙いすました正確な一撃を前に、しかし鼓は動揺の色など浮かべはしなかった。

「残念だったな、糸巻。やはり勘が鈍ったか?お前が今破壊したこの伏せカードは、メタルフォーゼ・コンビネーション。このカードが破壊され墓地に送られたことにより、私はメタルフォーゼモンスター1体……レアメタルフォーゼ・ビスマギアを手札に加える」
「外れ引いちまったか?ま、それならそれで構わないさ。アタシのターン、ドローだ。よしよし、素引きできたか。さあ鼓、久方ぶりにアタシの領土に案内してやるよ。生あるものなど絶え果てて、死体が死体を喰らう土地……アンデットワールド、発動!」

 揺れる赤髪を中心に、みるみるうちに周りの風景が変化していく。おなじみの血色の沼地や飛び交う死霊の姿はここが室内ということもあってか見られないが、それでも壁に床に天井がソリッドビジョンによって塗り替えられ、崩壊した廃墟の一部屋と化していく。厨房の方から女性の物らしき短い悲鳴と、かなりの怒気を含んだ少年の呻き声が上がった。

 バージェストマ・カナディア 水族→アンデット族
 メタルフォーゼ・アダマンテ サイキック族→アンデット族

「あちらの彼がだいぶ怒っているようだが、糸巻」
「あー……やべ。まあ後だ後、さっさと終われば傷は浅いな。このターンもユニゾンビの効果発動、アンワの効果でアンデット族になったカナディアを対象に馬頭鬼を墓地に送り、そのレベルを1上げる……と言いたいところだがな、カナディアはモンスターとして場にいる限り他のモンスター効果を受け付けない。よってそのレベルは2のままだ」
「盤面を触ることなく墓地肥やしだけを引き出したか。なるほど、よく考えたものだ」
「このままいくぜ?レベル2のカナディアに、レベル5となったままのユニゾンビをチューニング。モンスター扱いのカナディアはフィールドを離れる場合除外されるが、そんなことはもう関係ないな。戦場貪る妖の龍よ、屍闘の果てに百鬼を喰らえ!シンクロ召喚、真紅眼の不屍竜(レッドアイズ・アンデットネクロドラゴン)!」

 ☆2+☆5=☆7
 真紅眼の不屍竜 攻2400→3300 守2000→2900

 今彼女たちがいる店内は、決して狭いわけではない。それでもなお、糸巻お気に入りのカードであり彼女のエースの一角を務める腐り果てた死骸の龍の巨体は到底その室内に収まるものではない。しかし、デュエルディスクに使われる技術はそんなことでエラーを吐き出したりはしない。デュエルの開始と同時にあらかじめ周囲を自動スキャンし、その空間の容量に合わせてソリッドビジョンのサイズを自動で調整する機能が備わっているのだ。
 すなわち、何が起きるのか。意気揚々と彼女がシンクロ召喚し、呼び出した鬼火の目を持つ死骸の龍。その偉容は店のサイズに合わせて縮尺を大きく縮まされ、出てきたそれはせいぜい大型犬程度のサイズとなっていた。なまじ人型のアダマンテやフロイラインが普段通りの人間サイズで睨みを利かせる中、御大層な口上とともに現れたそのちんまい姿はあまりにもシュールな光景で。

「え、えっと……マスコットみたいでいいですよね、お姉様!」

 干支でほぼ2回り年下の少女にまで気を使われた、精一杯のフォローだった。

「いいんだよ別に、デカけりゃいいってもんじゃねえ。これだってかわいいもんだろ?」
「お前が言うと説得力がないな」

 からかうようにそう言い捨てて、意味深な視線をジャケット越しになお抑えきれずに内側から押し上げる彼女の胸元に向ける鼓。何が言いたいのかすぐに合点がいった彼女が無言でジャケットの前を合わせ直すが、そんなことでその存在感が薄まりはしない。

「……さっきのゴシップ記事の話だがな、お前のそーいうとこも原因だとアタシは思ってるぞ。もうこの話はやめだ、やめ。今墓地に送った馬頭鬼を除外し、墓地のアンデット族を蘇生する。屍界のバンシー、復活!」

 腐肉の龍がその小さな翼を目いっぱいに広げて上を向き、体躯に似合わぬ空気を揺るがすほどの咆哮を放つ。するとどこからともなく冥界の主の呼び声に応えるかのように、歌うような女性の声が返ってきた。そしてフロイラインの横に現れる、これまた異様に白い肌をしたボロ布のような服を1枚身に着けるのみの薄幸そうな美女。

 屍界のバンシー 攻1800
 真紅眼の不屍竜 攻3300→3200 守2900→2800

「あのカードは確か……アンデットワールドに対象耐性及び破壊耐性を与える、か。やむを得ない、必要経費だな」「まだだ、真紅眼の不屍竜の効果!このカードの攻守は常に、互いの場と墓地のアンデット族1体につき100ポイントアップするぜ。さあ、お待ちかねのバトルフェイズだ!真紅眼の不屍竜でメタルフォーゼ・アダマンテに攻撃、獄炎弾!」

 小さな体からは想像もできない火力の、死霊を燃料とした青い火炎弾が放たれる。赤く燃え盛る剣をクロスさせて受けきろうとしたアダマンテだが、徐々にその赤が青に呑み込まれ、食いちぎられ、焼き尽くされていく。
 しかし、そこに異を唱える存在があった。カンカンカンと警鐘を鳴らし、1両編成の小型列車が両者の間に割って入ったのだ。

「この攻撃を通せば、真紅眼の不屍竜の効果でさらに墓地のアンデットを蘇生される。しかし逆に言えば、この攻撃さえ防げば糸巻、お前に攻め手はない。手札から工作列車シグナル・レッドの効果を発動。相手モンスターの攻撃宣言時にこのカードを特殊召喚して強制的に攻撃対象をこのカードに変更、そしてこのカードはその戦闘によっては破壊されない……惜しかったな、糸巻」
「さすがに止めどころは弁えてるか、ええ?だがシグナル・レッドは特殊召喚されたことでアンデットワールドの効果を受け、真紅眼の不屍竜はさらにその力を増す」

 工作列車シグナル・レッド 機械族→アンデット族
 真紅眼の不屍竜 攻3200→3300→工作列車シグナル・レッド 守1300

「そのまま屍界のバンシーでメタルフォーゼ・アダマンテに攻撃、さらにダメージ計算時にフロイラインの効果発動!800ライフを払い、バンシーの攻撃力を800アップ!」

 屍界のバンシーが口を開き、歌に乗せて音波を放つ。伴奏を奏でるかのように優雅な動きでフロイラインが傘を広げてコウモリを飛ばし、糸巻の生き血が闇の饗宴を彩った。

 糸巻 LP3500→2700
 屍界のバンシー 攻1800→2600→メタルフォーゼ・アダマンテ 攻2500(破壊)
 鼓 LP4000→3900

「ようやく初ダメージか。まあ、腕が鈍っている割には頑張った方じゃないか?」
「言ってろ。アンデット族モンスターの戦闘破壊が発生したこの瞬間に真紅眼の不屍竜の効果発動、レッド・ペイン・マーチ!互いの墓地の中からアンデット族モンスター1体を選択し、アタシの場に蘇生する!さあこっちに来い、アダマンテ!」

 音波によって致命傷を受け、吹き飛ばされたアダマンテの物言わぬ死体。しかしその装甲の継ぎ目から、どこからともなく新鮮な肉体の気配を嗅ぎつけた死霊たちが集まり侵食していく。
 そして、冒涜的な再生は完了する。すでに動くことなど不可能なその指がピクリ、と動いた。うなだれたままの首がぎこちなく上を向くと、その眼窩には瞳の輝きのかわりにぼわり、と幽鬼そのものの鬼火が灯る。そして激突した壁に手をつきながら、再びアダマンテの死体が立ち上がった。

「よし、さっそく初仕事だ。シグナル・レッドに追撃!」

 メタルフォーゼ・アダマンテ 攻2500→工作列車シグナル・レッド 守1300(破壊)

 シグナル・レッドの戦闘破壊耐性は1度きりであり、皮肉にも先ほど身を挺して庇ったアダマンテ本人の手によって亡霊列車が炎に沈む。これにより守りの札をすべて失った鼓に対し、糸巻のフィールドはいまだ潤沢。しかし両者の表情は、そんな盤面とは真逆だった。淡々とした様子の銀髪に対し、むしろ追い詰められた獣のような焦燥感すら滲ませる赤髪。普段強気な姉貴分の見慣れない弱気とも思えるその姿に、それを見つめる少女も不安の影が胸をよぎる。

「ん、どうした?もう終わったなら、早いところ私にターンを譲ってもらいたいのだが」
「……わーってるよ、ターンエンド」
「待ちわびたぞ?ならばエンドフェイズに速攻魔法、緊急ダイヤを発動。相手フィールドのモンスターが私のフィールドのそれよりも多い場合にのみ発動でき、その効果によりデッキからレベル5以上、及びレベル4以下の地属性かつ機械族モンスターを1体ずつ効果を無効にして特殊召喚する。この発動ターンに私は機械族モンスターでしか攻撃宣言が行えないが、もはや関係のないことだ」

 アンデットワールドはフィールドと墓地の種族を書き換えるが、デッキの中に眠るモンスターに対しては無力。そして彼女のデッキには、当然その条件を満たすモンスターが存在する。出陣するは僧衣を模した装甲を持つ機械仕掛けの荒武者に、その武具ともなる巨大なグローブ。

「鐘の音響く大地踏みしめ、百万の敵を迎え撃て。レベル8、超重武者ビッグベン-K!そしてレベル3、超重武者装留ビッグバン!」

 超重武者ビッグベン-K 守3500 機械族→アンデット族
 超重武者装留ビッグバン 守1000 機械族→アンデット族

「やっぱり出やがったか……だが!フィールドのアンデット族が増えたことで、真紅眼の不屍竜の攻守はさらにアップする!」

 真紅眼の不屍竜 攻3300→3500 守2900→3100

「誤差だな。私のターン、ドロー。まずこの瞬間、緊急ダイヤのデメリットは解除され……先ほどサーチした超重武者ツヅ-3を通常召喚する」

 超重武者ツヅ-3 攻300

「役者は揃った。超重武者であるレベル8のビッグベン-K、及びレベル3のビッグバンに、超重武者チューナーであるレベル1のツヅ-3をチューニング」

 あくまでも落ち着きを崩さない、静かな宣告が下される。3体のモンスターのレベル合計は、デュエルモンスターズにおける最高値である12。その放大なレベルに、少女が小さく感嘆の声を上げる。

「レベル12のシンクロモンスター……」
「不動の大地に(わだち)を刻み、無窮の戦場(いくさば)を駆け巡れ。シンクロ召喚、超重蒸鬼テツドウ-O!」

 ☆8+☆3+☆1=☆12
 超重蒸鬼テツドウ-O 守4800 機械族→アンデット族
 真紅眼の不屍竜 攻3500→3700 守3100→3300

 汽笛の音が鳴り響き、厳つい鬼の面を正面に持つ列車型のモンスターが大量の蒸気を噴出しながら停車する。もっとも本来ならば文字通りの列車サイズであろうその姿は、糸巻の真紅眼と同じく店内のサイズに合わせて随分と縮小されていたのだが。

「では、バトルフェイズに入りたいのだが?」
「あーしてこーして……駄目だな、耐えられないか。もったいねえなあ、メインフェイズ終了時に屍界のバンシーの効果を発動するよ。このカードをゲームから除外して、アンデットワールドをデッキから直接発動する。発動ったって、同じもんを張り替えるだけだがな」
「そしてアンデット族モンスターが1体除外されたことで、真紅眼の不屍竜はパワーダウンする。だろう?」

 真紅眼の不屍竜 攻3700→3600 守3100→3000

 その言葉通りにバンシーの姿が消え、真紅眼が弱体化する。テツドウ-Oもまた守備表示のまま守備力を使い攻撃ができるモンスターであり、糸巻のライフは度重なるフロイラインへの消費により既に3000を切っている。アンデットワールドの耐性と保険を失うのは痛いが、それ以上にここで逃がさない限り、どうあがいても戦闘による敗北は避けられない。やむを得ない状況に追い詰められた糸巻は、こうせざるを得ないのだ。

「では、改めて。真紅眼の不屍竜……いや、それには及ばないな。もう少しの間、エクストラモンスターゾーンを塞いでおいてもらうとしよう。それよりも、こちらを狙う方が嫌がらせになりそうだ。ヴァンパイア・フロイラインに攻撃する」

 鬼面の蒸気列車の側面から巨大な車輪が意志を持つかのように自動的に外れ、猛スピードで回転する重い質量の塊がヴァンパイアの美女へと迫る。フロイラインも先ほどアダマンテの攻撃を防いだ時のように傘を開いて受け止めようとしたものの、今度は先ほどのように糸巻の血によるブーストはない。鉄塊の一撃にはさしもの不死人といえども耐え切れず、爆発と共にその姿は跡形もなく消え去った。

 超重蒸鬼テツドウ-O 守4800→ヴァンパイア・フロイライン 守2000(破壊)

「お姉様!で、ですがお姉様のフィールドには、まだ真紅眼の不屍竜がいますよね?アンデット族モンスターが戦闘破壊されたこの瞬間、不屍竜の効果を使えば」
「ああ、その通りだ。どうする、糸巻?任意効果だ、使うも使わないもお前の自由だぞ?」

 少女の言葉に合わせ、口の端にごくごくわずかな笑みを浮かべて心底楽しげに問いかける鼓。その問いに対し等の糸巻は目を逸らし、苦々しげに短く吐き捨てた。

「……使わねえよ、勝手にしろ」
「そんな、お姉様!ヴァンパイア・フロイラインを蘇生すれば、今の戦闘の被害を……」
「まあ、無理だろうな。というよりも、そんな真似やりたくても私が許さない」
「え?」

 実際、少女の言葉は正しい。ヴァンパイア・フロイラインに対し真紅眼の不屍竜の効果を使えば、盤面は再び元に戻る。しかし糸巻には、その手段を選べない理由があった。いまだピンと来ていない少女にもわかるようにと、鼓が軽い解説にかかる。

「ふむ。では、私から少し説明しよう。糸巻、お前は少しそこで待っていろ。八卦ちゃん、私がこのテツドウ-Oをシンクロ召喚するために使ったモンスターは覚えているか?」
「え?えっと、ビックベン-Kにビッグバン、それにツヅ-3……ですよね?」
「その通り。そしてここで今重要なのが、ビッグバンの持つモンスター効果だ。このカードは墓地に存在するときにこそ真の力を発揮する、なかなか面白い1枚でな。自分フィールド上に守備表示の超重武者……この場合はルール上は超重武者として扱うテツドウ-Oが存在して、バトルフェイズ中に相手が何かカードの効果を発動した時、つまり今の糸巻だな。奴は今、君も指摘した通り真紅眼の不屍竜の効果を発動できる状態にあった。しかしその瞬間に、私はこのカードをゲームから除外する。するとその発動は無効となり破壊され、極めつけにフィールドのモンスター全てを破壊して互いのプレイヤーに1000のダメージを与えることになる」
「ええ!?それじゃあ!」
「先ほど糸巻の奴は、私が攻撃する寸前のメイン終了時に屍界のバンシーの効果を使っただろう?あれも同じこと、バトルフェイズに入ってしまっては退避のために除外した瞬間に全モンスターを吹き飛ばしていたからな。まったく、流石にそういうところは抜け目がない奴だ」

 苦笑と共に締め、改めて糸巻へと向き直る。実のところ、今の攻撃は彼女がこのターンにやろうとしていることの全てではない。彼女の攻め手は、まだ終わってなどいないのだ。

「すまんな糸巻、待たせたな。メイン2に入り、テツドウ-Oの効果を発動。手札を2枚まで……とはいえこの場合は1枚で十分だな。レアメタルフォーゼ・ビスマギアを捨て、アンデットワールドを対象に取り破壊する」
「クソッ……!」

 周りの風景が一変し、再び元の明るいケーキ屋店内へと戻る。同時にその呪いから解放された鼓のモンスターたちが、本来の生気ある姿を取り戻していく。

 超重蒸鬼テツドウ-O アンデット族→機械族
 メタルフォーゼ・アダマンテ アンデット族→サイキック族
 真紅眼の不屍竜 攻3600→2700 守3200→2300

「さて、糸巻。お前のデッキ、今はアンデットワールドは何枚入っている?もし3枚ならばまだチャンスはあるが……案外、2枚で止めていたりしないか?だとすれば、私としてはありがたいのだが。テツドウ-Oの更なる効果を発動。1ターンに1度ずつ互いの墓地に存在する魔法、罠カードをすべて除外し、その枚数1枚につき200のダメージを与える。私の墓地からは苦渋の決断、メタルフォーゼ・コンビネーション、緊急ダイヤを。お前の墓地からはアンデットワールド2枚とバージェストマ・オレノイデスを。根こそぎ除外してもらおう」
「そんな……!」

 糸巻 LP2700→1500

 決して無視できないほどに大きいダメージが、確実に糸巻のライフを削り取る。しかしそれ以上に破壊したアンデットワールドの再利用すらも徹底的に封殺する容赦のないデュエルに、敬愛するお姉様の圧倒的不利を知った少女が絶句する。
 そして、これは当の鼓本人にもはっきりとした確証のある話ではなかったのだが。糸巻のデッキに今、アンデットワールドは2枚しか積まれていない。PSYフレーム・ロードΩやバージェストマ・レアンコイリアといった除外ゾーンの魔法・罠に干渉できるカードを使い墓地に戻したうえで居合ドローを使うという再利用手段がないわけではないのだが、すでにテツドウ-Oまで現れたこの状況でそんな悠長な真似を見逃してくれる道理はないだろう。

「ターンエンドだ。さあ、少しはお前の意地も見せてもらおうか。お前がこの程度で立ち止まるほどやわな相手でないことは、私が一番よく知っているからな。ここからが本番だ、そうだろう?」
「こんなズタボロにしておいてよくまあ言ってくれるぜ、ったくよ。ま、その喧嘩は買った。アタシのターン、ドロー!」

 どれほどの逆境に陥ろうとも、彼女は最後の最後まで諦めはしない。それこそが糸巻太夫という女の持つ何よりの恐ろしさであり、その力の原点だからだ。

「お望み通り、引いてやったぜ?魔法カード、命削りの宝札を発動!手札が3枚になるようにカードをドローし……モンスターをセット、カードを2枚伏せる。モンスター2体を守備表示に変更し、ターンエンドだ」

 メタルフォーゼ・アダマンテ 攻2500→守2500
 真紅眼の不屍竜 攻2700→守2300

 そして当然のように紡がれる、奇跡的な引き。発動ターンの特殊召喚を封じエンドフェイズにすべての手札を墓地に送らせる命削りの宝札を使う上で、下級モンスター1体と伏せカードを2枚伏せるというのはまさに理想的なデッキの並びである。あまりにも強引で理不尽ですらあるそのトップ解決に、半ばわかっていたこととはいえ苦笑が漏れる。

「本当にまあ、大したものだ。私のターン、ドロー。いきなりテツドウ-Oの効果を使うのもいいが、まずはこちらも戦況を整えるか。超重武者テン()()を召喚、このモンスターの召喚時効果によって墓地に存在するレベル4以下の超重武者を蘇生する。甦れ、超重武者ツヅ-3」

 超重武者テンB-N 攻800
 超重武者ツヅ-3 守300

「そして機械族モンスターであるテンB-Nとテツドウ-Oを、それぞれ右及び下のリンクマーカーにセット。不動の荒武者、錬金の騎手。繋がらぬ2つの世界をその手に結べ!リンク召喚、機関重連アンガー・ナックル!」

 機関重連アンガー・ナックル 攻1500

 そして現れる、くすんだ黄金色の車体を持つ新たなる列車モンスター。一見すればそれは、切り札となりうるだけのスペックを備えたテツドウ-Oをみすみす切り捨てるだけの行為。しかし彼女には、さらなる先を見据えた別の考えがあった。

「魔法カード、アイアンドローを発動。私のフィールドに機械族の効果モンスター2体しかモンスターが存在しないことにより、デッキからカードを2枚ドローする。先ほどまでは手札で腐っていたが、アンデットワールドさえなくなればこの通り使えるものだ」
「ドローカード、お前も握ってやがったか」
「腐っていたがな。そしてスケール8のメタルフォーゼ・スティエレンを、ライト(ペンデュラム)ゾーンにセッティング、そのままペンデュラム効果を発動。私のフィールドに表側で存在するカード1枚を破壊し、デッキ内のメタルフォーゼ魔法、罠1枚をフィールドにセットする。ツヅ-3を破壊し、メタルフォーゼ・カウンターをセット」
「このコンボって、確か……」

 それは、つい先ほど見た光景との一致。そのコンボの内容を思い出し、少女が声を上げる。

「そう。フィールドのツヅ-3が破壊され墓地に送られた時、1ターンに1度だけ墓地の超重武者を蘇生できる。そして繰り返しになるが、このカードはルールの上では超重武者として扱われる。甦れ、超重蒸鬼テツドウ-O!」

 超重蒸鬼テツドウ-O 守4800

「さて、テツドウ-Oの効果を使いカードを破壊するのもいいが……これを捨てるのはいささか躊躇われるな。どうせアンデットの守備力などたかが知れている、バトルだ。アンガー・ナックルでセットモンスターに攻撃する」

 機関重連アンガー・ナックル 攻1500→??? 守500(破壊)

 アンガー・ナックルの鋼鉄の腕が伸び、セットモンスターの上から叩きつけられる。伏せられていたモンスターは、鼓の読み通り確かに守備は極めて低い……しかし彼女はこの時点で、ある読み違いをしていた。糸巻の伏せモンスターは決して苦し紛れの壁などではなく、全てが計算づくだったのだ。そしてもっと言えば、それはアンデットですらない。

「かかったな?戦闘によって破壊されたマスマティシャンの効果、発動!カードを1枚ドローする……さあ鼓さんよ、どうするよ?アタシはどっちでもいいんだぜ?」
「面倒なものを……!」

 かすかな苛立ちをにじませて、鼓は思案する。彼女の墓地にあるビッグバンの効果を使えば、確かにこの発動を止めることはできる。しかし、その後が問題なのだ。ビッグバンはバトルフェイズに発動された効果を「無効にして破壊」し、それが成立して初めて全体破壊とバーン効果の処理が発生する。しかし糸巻が今発動したマスマティシャンはすでに戦闘破壊が成立して墓地に送られており、これを「無効」にはできても「無効にして破壊」することは不可能なのだ。
 ちなみに鼓の手に握られた最後の1枚の手札は、超重武者装留ファイヤー・アーマー。手札から捨てることによって場の超重武者1体の守備力をそのターンの間800ダウンさせる代わりに、ターンの間だけそのモンスターに完全破壊耐性を付与する強力な守りの要である。本来彼女の算段では、糸巻が何を仕掛けようともそれをビッグバンで止め、全体破壊からテツドウ-Oをこのカードによって守ることでがら空きになったところに守備力4000のダイレクトアタックを叩きこむつもりだったのだ。ここでビッグバンを使えば真紅眼の不屍竜とアダマンテに遮られダメージは通らず、かといって発動を許せば増えた手札から何を仕掛けてくるかは想像もつかないほどにリスクが高い。
 迷ったのは、ほんの1瞬だった。

「墓地に存在する超重武者装留ビッグバンの効果を発動。このカードをゲームから除外することで、その発動を無効とする」
「やっぱりここで切ってきたか?まあ、そうだろうな」
「お前の掌で動くのは極めて不愉快だがな。バトルフェイズを続行し、テツドウ-Oでメタルフォーゼ・アダマンテに攻撃。それは私のカードだ、いい加減返してもらうぞ」
「おお、そういえばそうだったか?あんまり長いことこっちにいたから忘れてたぜ」

 ターンを凌いだうえで厄介なビッグバンをほぼ無駄打ちに近い形で消費させたことに気を良くし、余裕の軽口を叩く横でアダマンテが巨大な車輪に捻り潰される。しかし、そのダメージは糸巻には届かない。

 超重蒸鬼テツドウ-O 守4800→メタルフォーゼ・アダマンテ 守2500(破壊)

「昔からとはいえ、心底しぶといものだ。メイン2に入り、テツドウ-Oの効果を発動。お前の命削りの宝札、私のアイアンドローを除外して計400のダメージを与える。これでターンエンド」

 糸巻 LP1500→1100

「アタシのターン。へっ、どうやら幸運はこっちに向いてきたみたいだぜ?まず1枚目のトラップ発動、バージェストマ・ピカイア。手札のバージェストマ1枚、今引いたマーレラを捨てることでカードを2枚ドローするぜ。そしてこっちが本命だ!トラップ発動、幻影騎士団(ファントムナイツ)ロスト・ヴァンブレイズ!このカードの効果で真紅眼の不屍竜はこのターンレベルが2になって攻撃力が600ダウンし、さらにこのカードをレベル2モンスターとして特殊召喚する。そしてトラップの発動にチェーンすることで、墓地のピカイアをモンスターとして特殊召喚!」

 幻影騎士団ロスト・ヴァンブレイズ 守0
 真紅眼の不屍竜 攻2700→2100 ☆7→2
 バージェストマ・ピカイア 攻1200

 テンポよく発動されるカード群により、見る間に糸巻の場にはレベル2のモンスターが並ぶ。では、その結果生まれるカードといえば?鼓と八卦がその胸中で、同時に1枚のカードの姿を思い浮かべる。もはやその答えは、1枚しかありえないだろう。すなわち凶悪な耐性と使い勝手のいいカード破壊効果を持つ彼女のエースの一角、バージェストマ・アノマロカリスである。しかしそれは鼓にとっても望むところ、なぜならばテツドウ-Oにはファイヤー・アーマーがついているのだから。
 しかし当の本人はそんな予想を読み切ったかのように、わずかに笑ってみせる。果たして彼女の導き出したモンスターは、両者の予想を裏切るものであった。

「アタシはレベル2のロスト・ヴァンブレイズと、真紅眼の不屍竜の2体でオーバーレイ!戦場(いくさば)たゆたう(あやかし)の海よ、原初の楽園の記憶を覚ませ!エクシーズ召喚、バージェストマ・オパビニア!」

 ☆2+☆2=★2
 バージェストマ・オパビニア 守2400

 2体のモンスターが光となって混じりあい、異様に伸びた口吻から呼吸を繰り返す5つの目を持つ古代生物が現世へと蘇る。それは最強の矛である攻めのアノマロカリスと対となる最強の盾、守りと補助に特化したもうひとつのバージェストマ。

「ここでオパビニア……まさか糸巻、お前!」
「当たり前だ、お前の機関車相手にして馬鹿正直に正面突破なんてするわけないだろ!現役時代、何回それでカウンター喰らってきたと思ってやがる!てなわけで、遠慮なく搦め手で始末させてもらうぜ?オパビニアの効果発動、トラップを素材とするこいつはオーバーレイ・ユニット1つを取り除き、デッキからバージェストマカード1枚を手札に加える。カンブリアの奉納!アタシが選ぶカードは当然、バージェストマ・ディノミスクス……そしてオパビニアの効果により、アタシはバージェストマを手札から発動できる。ディノミスクスを発動!フィールドで表側のカード1枚をゲームから除外し、手札を1枚捨てる。失せろ、テツドウ-O!」

 テツドウ-Oの金属の車体に、するするとまとわりつくように無数の触手が地下から延びる。先端に棘が付きものが挟めるようになっているそれは車体の窪みや起伏をとっかかりとしてさらにその奥深くへと延びていき、ついには鬼の面すらも見えなくなるほどがんじがらめに縛りあげた。そして完全にテツドウ-Oを覆いつくした触手に、一斉に強い力がこもる。いかに分厚い金属の塊といえども全方位から一斉に向けられた力には耐えきれず、徐々に小さくなっていく触手の塊の中から何かがひしゃげて潰れていく嫌な音が響いた。

「テツドウ-O……!」
「だいぶさっぱりしたじゃねえか。だが、まだだ!ディノミスクスの発動にチェーンして墓地のマーレラをモンスターとして蘇生、そして今捨てた馬頭鬼の効果を発動。帰ってこい、真紅眼の不屍竜!」

 バージェストマ・マーレラ 攻1200
 真紅眼の不屍竜 攻2400→2700 守2000→2300

 エクシーズ召喚でモンスターが減ったはずが、むしろ盤面がさらに増える異常事態。今度追い詰められているのは、一転して鼓の方だった。しかし彼女にもまだ、場のカードの破壊をトリガーとしてデッキからメタルフォーゼをリクルートするメタルフォーゼ・カウンターがある。かなり厳しい戦いではあるが、まだ粘ることも決して不可能ではない。
 はずだった。

「アタシの手札は残り1枚……これで終いだ。魔法カード、アンデット・ネクロナイズを発動。アタシのフィールドにレベル5以上のアンデットが存在するとき、相手モンスター1体のコントロールを1ターンの間だけ得る」

 アンガー・ナックルが破壊されることなく場を離れたことで、もはやメタルフォーゼ・カウンターの発動タイミングはない。それはつまり、もはや鼓に打てる手がないということでもある。
 勝負はついた。静かに勝敗それぞれの運命を受け入れた女戦士たちが、むしろ穏やかに言葉を交わす。

「あの状況から捲り返してくるとはな。相も変わらず、理不尽な奴だ」
「劇的な逆転、と言ってくれ。なあ、八卦ちゃん?」
「本当に、あんなピンチを切り抜けるなんて……やっぱりお姉様は、私の目標のデュエリストです!」
「な?」
「やれやれ……この女泣かせめ。本当に心底変わらんな、お前は」

 興奮のあまり頬を上気させて目を輝かせる少女の純粋な表情を一瞥し仕方がないと苦笑する銀髪に、不敵な笑みで応じる赤髪。対照的な表情を浮かべる2人のデュエルは、今ようやく終わろうとしていた。

「バトルフェイズ。バージェストマ・マーレラと真紅眼の不屍竜で攻撃だ」

 バージェストマ・マーレラ 攻1200→鼓(直接攻撃)
 鼓 LP3900→2700
 真紅眼の不屍竜 攻2700→鼓(直接攻撃)
 鼓 LP2700→0





「やれやれ、お前相手にはなかなか勝てんな。この10年、私も遊んでいたつもりはなかったんだが」
「そりゃあれだ、人間の格の違いってやつだろ?」
「格?……少なくとも、器はお前の方が小さいようだな。胸ならお前の方が大きいだろうが」
「お前なあ。それともなんだ、もう1戦やる気か?」

 笑いながら問い返す糸巻に、いや、とゆっくり首を横に振る鼓。先ほど脇に退けられた席に再び腰かけてシュークリームを手に取り、一口かじってからすっ、と赤髪の向こう側に見える厨房を指し示した。

「糸巻。ご指名はお前だ」
「あん?……あ」

 言われるがままに振り返った彼女が目にしたもの。それは目を細めてニコニコと笑みを浮かべ、指が白くなるほどに力を込めて腕組みをする清明の姿であった。当然その視線だけで人を刺し殺せそうなほど鋭い目を見れば、彼の怒りの度合いはとてもよく伝わってくるのだが。

「糸巻さん?」
「お、おう」

 笑顔とは元来攻撃的なものであり、最も恐ろしい表情である……そんなどこかで見た文句が、彼女の脳裏に蘇った。目の前に立つ、遊野清明。少年の見掛けにはあまりにも似つかわしくない、幾度となく修羅場をくぐってきた人間特有の研ぎ澄まされた怒りと殺気は、その言葉をまさに体現していた。こいつは何者なんだろう、幾度となく胸をよぎった問いが改めて湧き上がるが、今はそんなことを気にしている余裕は彼女にはなかった。

「営業妨害って言葉について、ちょっとばかし話がしたいんだけど。少しいいかな?」
「あーっと……」

 助け舟を求めて、わずかに後ろに視線を送る。当然付き合いの長い鼓ならば、彼女の言いたいことは察したはずだ。
 しかし、聞こえてきた会話は無常だった。

「どれ、八卦ちゃん。これも食べるといい、美味いぞ」
「これですか?あっ、本当ですね!」

 お前らなあ、と恨み言のひとつでもぶつけようとしたところで、先手を打つように清明が動く。ゆっくりとした動きの手招き。しかしそれは、絶対に逃がさんという気迫に満ちたものでもあった。未練がましく逃げ場所を求めて左右に目を走らせ……最終的に諦め、彼の後について店の奥へと向かう。その足取りは、さながら執行前の死刑囚のように重いものだった。 
 

 
後書き
「金」と「食」が絡むとそれなりに真剣に怒る男、遊野清明。

……それにしても、まさか不知火要素皆無のままデュエルが終わるとは思わなんだ。
 
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