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アリーの死

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第三章

 そうしてだ、口々に話した。
「アリー様の不覚だ」
「何という不見識だ」
「ウマイヤ家と和睦するなぞ」
「それが幾らコーランにかけてのこととはいえ」
「あの様な方だったとは」
「口惜しい」
「全くだ」
 彼等は口々に言いむしろだった。
 ムアーウィアよりもアリーの方を憎む様になった、そうして第三勢力となりウマイヤ家よりもアリーに向かう様になった。
 それを見てだ、ムアーウィアは笑って話した。
「これでいい、敵同士が食い合う」
「そうなればですね」
「我等は何もせずにですね」
「敵が衰えてく」
「そうなりますね」
「東の唐に敵同士を争わせる策があるという」 
 ムアーウィアは笑ったまま話した。
「まさにな」
「今ですね」
「しかも我々は一切何もしていない」
「敵同士がそうなっている」
「それならばですね」
「思い出すのだ、豹や狐の様にだ」
 こうした頭のいい獣達の様にというのだ。
「遠回りにかつ頭を使って勝つのだ」
「ならですね」
「ここはですね」
「我々はあえて動かず」
「そうしてですね」
「敵同士が潰し合うのを見ますか」
「そうすればいいい」
 こう言ってだった、ムアーウィアはここはあえて積極的に動かなかった。そしてアリーと彼に反旗を翻した者達の争いを見守った。
 アリーはウマイヤ家よりも自分の前から去りそうして自分に反旗を翻る者達との争いに忙殺された、それでだった。
 そのことに必死であったがそれでもだった、生真面目な彼はアッラーへの礼拝を忘れなかった。だが。
 ここでもだ、彼の側近達は言うのだった。
「我等がいますが」
「ご用心を」
「ウマイヤ家も気になりますが」
「やはり危険なのはです」
「カリフに逆らう者達です」
「カリフの前を去った」
 まさにその彼等だというのだ。
「連中は何処に潜んでいるかわかりません」
「刺客がいると思われます」
「ですから礼拝も」
「モスクでも」
「モスクでの礼拝は絶対だ」
 ムスリムならばとだ、アリーは答えた。
「せねばならぬ」
「ではですか」
「今もですか」
「モスクに行かれ」
「礼拝堂に行かれますか」
「そうする」
 こう言ってだった、彼はモスクに向かった。それは金曜日であったがまさに礼拝している途中にだった。
 モスクに潜んでいた刺客が動いた、その名をイブン=ムルジャムという。その者が生真面目に礼拝しているアリーに近付き。
 一突きを浴びせた、このことにアリーの側近達は驚き即座にだった。
 刺客を取り押さえアリーの様子を見た、一突きであったがアリーの傷は深くもう助からないことは誰の目にも明らかだった。
 それで彼等はすぐに刺客を殺そうといきり立った。 
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