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SAO--鼠と鴉と撫子と

作者:紅茶派
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14,ロール・プレイ

ライトエフェクトが四本あったゲージの2本目をたたき落とした。
苦悶の表情を浮かべて、豹王は柔軟に後ろに下がる。

やったぞっぉ、と歓喜の声を上げる声。
ハイタッチをしながら戦闘をしていたパーティーが後退する。

代わりにH隊の「ビーターと愉快な仲間たち」――つまりは俺たちが前に出た。

「俺が、パリイする。あとは頼むぞ、お前ら」
バリトンの声が朗々と響き渡る。
両手に斧を握り締め出陣していく彼らタンク役の後ろを、ダメージディーラーの俺たちが続く。

「――ヤヨイ、スイッチの隙は任せていいか?」
「いいですが、クロウさんはどうするんですか」

「ちょっくら、ボーナス狙ってくる」

俺はそう言ってキリト達から距離を取る。
チリンチリン、と足に合わせて鈴が鳴いた。


ダッシュで数メートル離れ振り返ってみると、豹王はエギル達に取り付き、牙に爪にと襲いかかっていた。
だが、タンク役がキリトとヤヨイを囲むようにして展開し、乱舞から体を張って守っている。
大事には至っていないが、顔には苦悶の表情を浮かべ、徐々に体力が削られていく。

一瞬、フォローをしようと、足がふらりと前に出る。それを無理やり気力で踏み留めた。
あの斧剣士達はプライドをかけて、あの一撃をさばいている。それは、エギルたちにしか出来ないことだ。

俺は俺の役割を果たす。
視線を豹王の一点に絞る。ユラユラとバランスをとるネコ科の生命線を切り裂く為に。

「ガルゥゥゥ」
エギル達の堅固な守りに焦れたのか、ライトエフェクトを纏って豹王が大きく飛んだ。
標的となったエギルが頭上からの爪の一撃を迎撃するべく、こちらもソードスキルを繰り出していく。

――力と力のぶつかり合い
両手斧の柄があまりの重量にゆったりとしなっていく。ミシミシとコチラにまで武器の悲鳴が聞こえてきそうだ。

だけど、エギルの顔に先程までの焦りも苦渋の色もない。
あるのは、たったひとつ――策がなったという会心の笑み。

勢いに押され、押しつぶされかけていた体が止まり――押し返していく。

「ォォオオオオオ!!」

獣人系モンスターもかくやという雄叫びを上げて、ボスの巨体を両手斧が弾き返す。
豹王の巨体が僅かに浮かび上がった隙にキリトとヤヨイが踊り出る。
俺も渾身のパリィを活かすべく、背後へと走り出していた。

「「はぁぁぁぁ」」
二色の光が迸る。
ぐるるる、と唸る声。
数メートル先の地面に影がさす。

豹王の後ろ足が地面を掴む。
続いて大きな尻尾が地面へと、、

触れた。

「ぉぉぉおおおおおお!!」
システムアシストそのままに<ウインドダイブ>が尻尾へと伸びていく。

――1メートル。ボスは何とか体の勢いを殺し、前足を着地した。
――50センチ。再跳躍へと脚に再び力がこもっていく。
――20センチ。速度のあまり世界が揺らぐ。
――幻想が見えた。かつて斬り損ねた緑のツタが目の前にある。

今度こそ、今度こそ捉える!!
「いっけえぇぇぇぇ」

ザシュッと言う確かな感覚が振り切った右腕から伝わってくる。
視線の先には巨大な尻尾が空中を舞っていた。
悶え苦しむ豹王へ左手で「閃打」を叩き込む。不安定な体勢になった所に、左から風圧が迫るのを感じた。

「ッ!!ッチ」

慌ててバックステップをして躱すと、目の前を巨大な爪が通り過ぎる。
僅かにかすったか。もともと防御の低い俺は一気に15%ほど命を散らした。

「軽業」スキルでバク宙を決め、大人しく後退する。
「っけ。A隊、3ローテ目行くで!!」
それに呼応して、右からA隊であるキバオウ達が飛び出してくる。
キリトたちも既に離脱していたようで、戦線は彼らにまかせ、すぐさま走り寄っていった。

「コングラッチュレーション、見事な部位破壊だ。しっかり回復してくれ」
「そっちもナイスファイト。タンクのPOTは大丈夫か?」
問題ない、とエギルはおもいっきり胸を張る。
確かにタンクの三人はグリーンまで体力を回復させ、キリトとヤヨイはほぼ全回復にまで至っている。

「ガルゥゥ」
A隊の猛攻に押され、豹王はズルズルと後退していく。ボスかどうかを疑うほど大幅にHPを減らし、反撃すらままならない。
そこに俺たちを完全に翻弄したスピードはなかった。

情報通り、あの尻尾こそが最大の弱点だったということだ。

チーターに代表するように、ネコ科の動物は尻尾を使ってバランスを取る。
家猫でも尻尾が切られることは絶対にあってはならない、と言われているのはこのためだ。
空中での姿勢制御から切り返し、ダッシュ、跳躍に至るまで長く伸びた尻尾はさながら第五の足のように体幹を保たせる。
もはや、豹王は足を切り落とされたといってもいいだろう。

ラスト一本のゲージが赤く染まった瞬間、豹王は痛みに耐えかね、後ろを向いて一目散に走り出した。

豹王を囲むようにして点在する他の隊が次々と退路を塞ぎ、ソードスキルを放つが、高くジャンプして躱される。
そのまま、吸い込まれるように闇の中へと消えていった。

「全員、穴から離れろ!!引きずりこまれるぞ!」
瞬間的に、キリトが叫ぶ。
それを肯定するかのようにグルルという雄叫びが続く。


意図を察した全員が穴のない中央付近へと殺到する中で、短い悲鳴が上がった。

「ぁぁぁぁああああああ」
豹王のロストポイントから遠く、気の緩んでいた片手剣士がズルズルを穴の方へと引き摺られていく。
近くにいた仲間達が反転して助けようとしたが、助けを求めて差し出した手に触る前に、洞穴の中に完全に飲み込まれてしまった。

中央付近に集まった全プレイヤーに言いようのない沈黙が訪れる。

「……あいつ、どうなった?」
エギルが呟いた。穴からは、何も聞こえてこない。

悲鳴も
戦闘音も
ポリゴン片となる音も。

沈黙だけが過ぎ、やがてアチラコチラの穴から獣の唸り声が響いてくる。
ごくり、自然につばを飲む。

最後の数発で済むはずだったのに。
ココに来て狩人は真の力を解き放っている。
暗がりから怯える瞳を見つけ、それを永久の闇に連れ去る気だ。


最速の暗殺者は地獄の底から再び雄叫びを上げた。






「この状況、どうすんだよ?」
誰かが、全員の気持ちを代弁した。

10分がたっても、状況は改善されなかった。いや、最悪に向かっているといってもいい。
コチラの気持ちが途切れる瞬間を察知して、豹王は五度俺達の前に姿を表した。

そのたびにコチラは手酷く切り裂かれ、一度などタンクの青年が洞穴の中にまで咥えられ、運ばれた。
どうにか数人が穴に半分まで体を運ばれかけたタンク役を取り戻すと、タンク役は

「眼が……あいつらの眼が……」

と言ったきり、倒れてしまった。
彼は円の中心で未だに気を失っている。

既に半数近くが精神を擦り切れさせ、ふらふらと揺れている。
視線は定まっておらず、次の攻防では死者すら出しかねないだろう。
かくいう俺ももう限界寸前で、正直これ以上時間がたてば周りなんて見ていられるか分からない。
自分の命を握られているという恐怖はレイド全体に重くのしかかっていた。

こういう時はどうするって言ったか、俺は攻略会議での一幕を思い出そうとした。
対策は白兵戦、その為には誰かがあの豹王を攻撃可能な場所で止めねばならない。

予定では筋力値の高いタンクが攻撃を敢えて食らい、こらえるはずだった。だが、同じタンクの被害者がいる以上は出来ないだろう。
恐怖で満たされた心では恐らく力は発揮できない。

「――オシ、やるか」
やるなら今。そして出来るのは、躱せるのは俺だけだ。

意を決して、前に出る。
何人かが緩慢な目線で俺の方をちらりと見て、興味を失っていく。

「――クロウさん?」

隣で剣を構えていたヤヨイが声をかけてくる。
その声掛けに遅れてキリトやエギルもコチラを見る。

「――キリト、止めは任せるぞ」
やや沈黙があって、キリトが何かを叫んだ。
俺がボスをおびき出す。そのことに気付いたらしい。


穴から三メートルの所で、一旦歩みを止める。
この距離なら躱せるという、確信のある距離だ。

ここからはチキンレース。
俺と豹王。どちらが疾いかを決めるだけの戦いになる。

「悪いな。尻尾のハンデのぶん、俺が有利だ」

一歩、恐怖で手汗がひどい。ナイフがつかみにくい。
一歩、右か左か正面か。それとも上ということもあるな。
一歩、腰をしっかりと落とす。中からは獣の匂いが漂ってくる。
一歩、どれだけ焦らせ――

「ガルルルォォ」
突風が吹き荒きあれる。虚空から大きな塊が飛び出してくるのを感じた。
咄嗟に右へ横っ飛び――でかい何かが暗闇から徐々に明かりへと出てきた瞬間、俺の頭に電撃が奔った。

プレートのアーマー、漆黒の槍、ラウンドのシールド。
出てきたのは……豹じゃない。あれは……さっき取り込まれたプレイヤーだ。

咄嗟に地面に足つけようとするがもう遅い。同時に飛んだ右側から大きな牙がせり出してくる。。

「っクソ」
足は数センチの上空を彷徨い続ける。見事なタイミングだ。ソードスキルも間に合わない。
まさか、囮になろうとして囮に引っかかるなんてな。

騙し合いは俺の完敗だ。

だけど、豹王――肝心な事を忘れてるぜ。
俺の土俵は最初っからそこじゃない。

ナイフを下に投げつける。サクリ、と音を立てて短剣は柄まで地面に埋まり、たった数センチ(・・・・)の土台をつくる。

ガチンと、右足が柄を捉えた。
片足だけの、不十分な足場。

ハンデはこれでチャラ。これなら俺とお前は同じ土俵だ。

そして―― 「――疾いのは――俺だ」

右足だけで、剣柄を蹴る。無理矢理跳ねさせた体の真下を赤と黒で彩られた死が通過していく。
背中合わせに跳躍する一人と一匹。だけど、もう決着はこれで終いだ。

なぜなら一匹の目の前には

「「はぁぁぁぁ」」

ココぞとばかりに最大威力のソードスキルを構える、ウチのパーティメンバー達がいるんだから。 
 

 
後書き
戦闘回は書いていて楽しいですね。
ただ、難しかった。描写もそうだし、個人個人活躍させてあげたいんだけど。
キリト&ヤヨイの空気感がパない。エギルの方が頑張ってる気がする。

今回(前回も)前よりも更に戦闘描写の1文1文を短くしてます。
読みにくい、読みやすい等ありましたら教えて下さい。
 
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