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戦国異伝供書

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第六十一話 一騎打ちその十二

「織田殿は見ておきましょう」
「そしてですか」
「若しもの時に備え」
「はい、今はです」
 兼続が言ってきた。
「領地を治め」
「兵を鍛え」
「そうしてです、出来る限り関東にも兵を出さず」
「一向一揆ともですね」
「和議を結ぶべきかと」
 こう言うのだった。
「ここは」
「左様ですか」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
「ここはです」
「当家としては」
「殿は戦を考えられるでしょうか」
 世を正す為にだ、謙信は気質としてそうするがというのだ。
「ここはです」
「是非ですね」
「時に備えましょう」
「わかりました」
「世に出ると思いましたが」
 謙信は信長のことをさらに話した。
「まさかです」
「ここまでとはですか」
「わたくしも思っていませんでした」
「左様でしたか」
「今の織田家はまさに一の家です」
「天下において」
「これまで細川家、三好家がそうなりましたが」
 都を抑え幾つもの国に領土を持ち強勢を誇ったというのだ。
「両家よりもです」
「今の織田家はですね」
「強勢であり」
 そうしてというのだ。
「政もしっかりしていますので」
「盤石な存在となりますか」
「そうなります、ですが」
 謙信は兼続にさらに話した。
「わたくしは織田殿が過ちを犯せば」
「それを正されますか」
「そうです、おそらく織田殿は」
「やがてはですか」
「天下の秩序を乱されます」
「では」
「わたくしはそれを正し」
 そうしてというのだ。
「武田殿にもそうして」
「そのうえで」
「お二方をわたくしの両腕とし」
 過ちを正したうえでというのだ。
「そうしてです」
「天下をですね」
「正しき姿にしましょう」
「そう思われていますか」
「はい、では今は時を待ちましょう」
 こう言って謙信はこの夜も酒を飲んだ、彼はこの時はまだ信長とは干戈を交えていなかった。だがその時が来るとは確信していて時を待っていた。川中島での死闘を終えた武田と上杉は今度はそれぞれ信長と対することとなったのだった。


第六十一話   完


                  2019・8・8 
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