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青女房

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第六章

「けれどね」
「そっちもだよな」
「糖分が高いから」
 それでというのだ。
「飲み過ぎるとね」
「危ないな」
「糖尿病になったら大変よ」
 亜希は夫にこのことを話した。
「だからね」
「日本酒もか」
「あなたお酒は絶対に飲み過ぎるから」
 飲む時は少ないが飲みだしたら徹底的に飲む。夫のそうした飲み方を知っているから余計に言うのである。
「だからね」
「日本酒もか」
「止めた方がいいから」
「焼酎かワインか」
「どっちかにしてね」
「じゃあ焼酎にするか」
 それならとだ、夫はそちらを選んだ。
「今日は」
「そうしてね、しかしね」
「しかし?」
「妖怪も糖尿病になるかしら」
 ここでだ、こうも言ったのだった。
「どうなのかしら」
「ならないだろ」
「ならないの?」
「ああ、人間と身体の仕組みが違うだろうしな」
 それでとだ、夫は妻に答えた。
「だからな」
「それでなのね」
「そう、それでな」
 だからだというのだ。
「それはないだろ」
「糖尿病にはならないだろ」
「じゃあ痛風にもね」
「ならないだろうな」
「それはいい身体ね」
「死なないっていうしな」
 こうも言う夫だった。
「お化け、つまり妖怪はな」
「歌にもあるわね」
「ああ、だからな」
 それでというのだ。
「病気にもならないだろ」
「じゃあ肩凝りもね」
「勿論な」
 二人でそんな話をしていた、それで娘が痛風や糖尿病について聞いてくると二人でそれぞれの病気について簡単に話した。
 そうして一家団欒の時を楽しんでいたが当の妖怪は飲んでから店を後にした。だがここで彼女は店の店員に言われた。
「糖尿病はどうですか?」
「相変わらずよ」
「妖怪も糖尿病になるんですね」
「死ななくてもね」
 そうなるとだ、妖怪は苦笑いで答えた。
「なるわ」
「それでも飲まれるんですね」
「好きだからね。いい味だったわ」
 その日本酒の味はとだ、妖怪はこう店員に言って店を後にした。その背中に亜希達の団欒の声を聞きながら。


青女房   完


                   2019・10・26 
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