青女房

「黒いから」
「あれは」
　その人の口から出ている歯を見るとだった。
　実際に黒かった、そして亜希はその歯を見てどうして黒いのかすぐにわかった。それで娘に話した。
「亜美ちゃん、あれはお歯黒よ」
「お歯黒？」
「昔の女の人は歯にそれを塗っていたの」
　そのお歯黒をというのだ。
「そうしていたの」
「それで歯を黒くしていたの」
「そうだったの」
「何でそうしていたの？」
　娘は母にその理由を尋ねた。
「昔の女の人は」
「結婚した人の目印だったの」
「そうだったの」
「実は江戸時代までの女の人は皆そうしていたのよ」
「歯にお歯黒を塗ってたの」
「そう、そしてね」
　そのうえでというのだ。
「眉毛も剃っていたのよ」
「そうだったの」
「ええ、ただ今お歯黒をしているなんて」
　亜希もその人を見て話した、その人に聞こえない様に母娘で小声で話している。幸い聞こえていないのかその人は湯舟の中で気持ちよさそうにくつろいだままだ。
「珍しいわね」
「江戸時代まではそうしてたのよね」
「けれど今はね」
　現代はというのだ。
「もうないから」
「私も見たのはじめてだし」
「お母さんもよ、ファッションかしら」
　亜希はこうも考えた。
「それで塗っているのかしら」
「昔のファッション？」
「どうなのかしらね」
　亜希はそこはわからなかった、そしてだった。
　母娘で色々な風呂を楽しんでそのうえで肩凝りを癒した、そしてすっきりしてお風呂を出るとだった。
　夫も丁度出たところだった、それでこう言ってきた。
「ちょっと飲んでいきたいな」
「飲むの？」
「ああ、そうしたいな」
　お風呂上がりにというのだ。
「今から」
「じゃあ帰りは運転私が？」
「お願い出来る？」
「仕方ないわね、折角そうしたお店もあるし」
　スーパー銭湯の中には飲む場所もあった、つまみに酒がしっかりと売っている。
「それじゃあね」
「悪いな、飲みたくなったよ」
「じゃあね、私は飲まないから」
　亜希は全くの下戸だ、会社の飲み会でもビールをコップで一杯飲むともう泥酔寸前になる位だ。酒は全く駄目なのだ。
　それで今もだ、夫が飲むと言ってもこう言ったのだ。
「だからね」
「それじゃあな」
「私はこの娘と一緒に食べて」　
　そうしてというのだ。
「飲みものはサイダーよ」
「そっちにするんだな」
「サイダー好きだから」
　にこりと笑っての言葉だった。
「そっちをね」
「飲むんだな」
「そうするわ」
　夫に答えてだった、そうして。
　三人でスーパー銭湯の中にある食べものを出す店、居酒屋だが子供の食べものも多くある店に入った。そのうえで。
　飲んで食べはじめた、夫は刺身や天婦羅を楽しみながらビールを美味そうにぐいぐいと開けていく。亜希は娘と一緒にうどんを食べていて飲みものはサイダーだ。