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木の葉詰め合わせ

作者:半月
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本編番外編
入れ替わりシリーズ
  入れ替わりの話・弐


 きゃ、客観的に今の状況を伝えてみよう。
 ほぼ抱きしめ合う形でミト(ただし以下略)と私(しかし外見はうちはマダラ)。
 握りしめられたミトの手に被さる形で私の手があり、私の空いた片手はミトの腰に。

 ――――外見的にはうちはマダラと千手柱間が抱き合っている状況である、これ超やばい。

 咄嗟にミトと二人で扉が開かれて数秒後に距離をとってみたが、勘違いされたのは間違いない。
 現にくのいちちゃんはぽかんと口を開けて、震える指で私達を指差す。(因みに山中殿は茫然自失状態のまま硬直していた)

「ほ、火影様とうちはの頭領様って……」

 恐る恐るとした口調で訊ねかけられ、だらだらと冷や汗が流れる。
 原因の大部分は部屋の隅で佇んでいる、今は赤い髪の破壊神である。

「あ、あのね……」

 沈黙ばかりが室内を覆っていく。
 視界の端ではミトがしまったとばかりに頭を抱えているし、部屋の隅では今にも人のことを刺し殺そうとしている破壊神がいるし――正直な所、もうどうしよう。

「――ま、まさかお二人がそのような関係だったなんて……!」
「ま、待ってくれ。何か色々と誤解を……」

 真ん丸に見開かれていた瞳をそっと伏せて、しみじみとした口調で呟いたくのいちちゃんの言葉に、あわあわと手を振る。なんか、不味い――取り返しがつかなくなりそう。

 私の言葉が耳に入って来ないのか、尚も彼女は淡々とした口調で言葉を紡ぎ続ける。

「しかも執務室であんな熱烈な愛の言葉を、他ならぬうちはの頭領様が呟くなんて……!」

 ええ。今まで一番“妹への”愛を込めた告白でしたから。
 にしても噴火前の火山を思わせる彼女の姿が怖くて直視できない。誰か助けて。

「――でもお二方はつい先程までの敵同士……! ロミ◯ュリ展開ですね、分かります! もっと正直に言うなら、ものすごく萌えます!!」
「分からなくていいから!! ていうか“萌え”って何!? それよりも待って、なんか物凄い勢いで勘違いされている気がする!!」
「今更照れなくていいんですよ、マダラ様! それよりも、まさか三次元でこんな光景を目にするなんて!」

 きゃあ、と間違いなく歓喜を帯びた声を上げるくのいちちゃん。
 どうしよう、先程まで茫洋としていた眼差しは、今は超新星も目じゃない程に輝いている――どうしてこうなった。

「ああ、ありがとうございます、神様、仏様、六道仙人様! 夢にまでみた桃源郷をこの目に出来るなんて、きっと日頃の私の行いが善いからですね!! いやった、新刊のネタきたぁぁああー!! 俺様、しかもツンデレ攻めなんて誰得、否、私得! 今なら私死んでも善いわ!! というか萌えで死ねる!!」
「やめてえええ!!」

 お願い山中殿、固まってないで元に戻って!! 私じゃこの子を止められない!!
 もうやだ、泣きそう。彼女の言っていることの半分しか理解できないけど(というか理解したくないだけだけど)、なんか放置したら不味そうなことだけは分かる。

「昔は敵同士で、今は上司と部下。この設定での妄想だけでご飯三杯はいけるのに、現実はそれ以上とか! やっぱり公式こそが最大手なのよ! 私の眼に狂いは無かったわ!」

 いや、君の目は色々な点で狂っていると思うよ。
 心の中でそんな事を思うも、興奮している彼女にはどうやら届かなかった様だ。

「――こうしちゃいられない、早く原稿に取りかからないと!! そして今度こそミト様の妨害に引っ掛からない様にしないと!!」
「止めて許して! 羞恥で死ねる!」
「お邪魔しました、火影様にマダラ様! 私のことなどお気に為さらず、存分にいちゃついてください! どうかお幸せに、それからごちそうさまでした!!」
「誤解なんだってばー!」

 もう止めて! 私のライフはもうゼロよ! いつか使ってみたいと思っていた言葉をこんな場面でいう羽目になるなんて、世の中本当に分からない。
 怒濤の勢いで立ち去っていった彼女の背中を見送って、その場で膝を付く。

「――……何か色々な意味で終わった、私の人生……」
「大丈夫ですわ、あの娘には後で私がじっくりと“お・は・な・し”させてもらって、綺麗さっぱり先程の光景を忘れてもらいますから」
「ミト……」
「そもそも私の大事な柱間様があの様な輩の妄想の餌食になるなんて、六道仙人が許しても私が許しませんから。どうかご安心くださいな」

 にっこりと微笑んだミト(ただ以下略)が格好良すぎて胸がときめく。
 私が本当に男だったら間違いなくお嫁さんにもらったのに。

 ――――しかし、我々の不幸はここでは終わらなかった。

「ま、まさか……。まさか、柱間殿とマダラ殿が――そのような関係だったなんて……!」
「や、山中殿!」

 くのいちちゃんが去るまで一言も口を開かなかった山中殿が、呆然とした表情のまま口を開く。
 縹色の瞳があちらこちらを彷徨っている様からして、表面上は兎も角――かなり彼が混乱している様だ。

「生きるか死ぬかの瀬戸際たる戦場では、そのような気の迷いを起こす者も少なくはないと伺ってはいたが――まさか、先程の彼女が言う様に、お二人がそうした関係だったなんて……!」
「ひえええええ!!」

 あのくのいちちゃんはなんて事をしてくれたんだ!! いつもは冷静で穏やかな山中殿が、山中殿がぁ……っ!

「伝え聞いた所によれば、確か千手とうちはは代々続く因縁のある一族同士。それが、両一族の頭領同士が、まさか、そんな……!」
「違う! 断じて違う!! お願いだから、人の話を聞いてくれ!!」

 もうやだ。さっきのくのいちちゃんといい、今の山中殿といい、どうして私の話を聞いてくれないのだ。

「お二人の歩く道は紛れもなく茨道となりましょう――ですが、どうか……。いえ、これ以上は部外者が口出す様なことではありませんね。お二人の立場上、賛成は出来ませんが――せめて私だけでも反対意見は口に出しますまい、だから、どうか……」

 ――――どうしよう、山中殿が悟りを開いた修行僧の様で何とも癪に触る。
 それにしてもなんとかして山中殿の分だけでも誤解を解いておかなければ、物理的な意味で私のお先は真っ暗になりそう。
 クラクラしてきた頭を抑えながら、打開策を考え込んでいたら――止めの一言が耳に入ってきた。

「だから……その、どうか……頑張って、下さい?」
「ちがーーう! 第一、オレの好きなタイプは笑顔の可愛い癒し系だ!! 断じてコイツじゃない!!」

 思わず叫んだら、3人分の視線が私に突き刺さった。
 額を押さえるミト(ただし見た目は私)と般若を背後に背負っているマダラ(しかし外見ミト)と吃驚した様な山中殿。
 どうしようもなくて引き攣った微笑みを浮かべてみせたら、山中殿の顔色が蒼白に変わった。

 そりゃそうか、引き攣ってはいるとはいえ……うちはマダラが愛想笑いなんか浮かべるはずが無いもんね。

「――――は、し、ら、ま」
「っひ!」

 背後から響いてきたおどろおどろしい怨念の込められた声に、肩がびくりと跳ねる。
 振り返れば見事な赤い髪を逆立て、剣呑な雰囲気でこちらを睨んでいる破滅の死者――もとい被害者其の弐の姿。

「後で覚悟しておけ。――それから、貴様はとりあえず眠っていろ」

 ――ああ、私終わったな。遺言状したためておけば良かった。
 ヒールも高らかに山中殿へと歩み寄っていったミト(ただし中身はマダラ)が、手にした花瓶を高らかに振りかぶって、勢い良く山中殿を殴りつけた姿を目にしながらも、私はそんな事を思った。 
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