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出征兵士を送る歌

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第二章

「行けなかったんだ」
「そうだったんだ」
「ああ、けれどお前はな」
「立派な身体になってだね」
「立派な大人にもなってな」
 そうしてというのだ。
「ちゃんとな」
「戦争にだね」
「行く様になれよ」
「わかったよ、祖父ちゃん」
 好機は祖父にあどけない顔で応えた。
「おいら絶対に兵隊さんになるよ」
「そして戦ってだな」
「天皇陛下の為に戦って」
 そしてと言うのだった。
「勝ってくるよ」
「そうしてくるか」
「うん、絶対にね」
「そうしろ、けれど死んでもな」
「それでもなんだ」
「悲しむことはないんだ」
 やはり優しい顔で語った。
「全然な」
「そうなんだ」
「ああ、靖国っていうところに行けるからな」
「靖国?」
「東京って場所にあってな」
 その場所はというのだ。
「そこにな」
「死んだら行けるんだ」
「それで神様として祀られるからな」
 だからだというのだ。
「全然怖くないんだ」
「死ぬことも」
「そうだ、だからな」
「戦って死んでも怖くない」
「全力で戦って来い」
「そうするね」
「大人になったらな、そろそろ列車が来るな」
 祖父は線路の方を見た、見れば煙が見えてきた。蒸気機関車のそれが見えてきたのが何よりの目印だった。
「兵隊さん達がその列車に乗ってな」
「そしてだね」
「戦争に行くからな、列車が駅に着いたら」
 その時はというのだ。
「いいか、祖父ちゃんと一緒にな」
「万歳してだね」
「兵隊さん達を送るぞ」
「そうするね」
「立派な人達が立派なことをしに行くんだ」
 それならというのだ。
「万歳で送らないと駄目だからな」
「おいらもそうするよ」
「一緒にな」
 好機の父親は目が悪いということで戦争に行っていない、それで家で畑仕事をしている。父の兄弟達で戦争に行った者もいる。そして。
 今は知っている人達で戦争に行く人はいない、だがそれでもだった。
 好機は祖父に合わせて万歳をして若者達を送った、若者達は敬礼をして行って参りますと笑顔で言ってだった。
 列車に乗った、列車は彼等を乗せて出発した。それを見送ってだった。
 好機は列車が見えなくなってから祖父に話した。
「兵隊さん達は今からだね」
「戦場に行くからな」
「そして勝って来るんだね」
「ああ、そして若し死んでもな」
「靖国に行くんだね」
「そうだ、だからな」
 それでというのだ。
「皆で万歳で送ったんだ」
「おいらもだね」
「そうしたんだ、それじゃあ祖父ちゃん達はな」
「おいら達は?」
「ちゃんと仕事をして勉強をするんだ」
 このことが大事だというのだ。 
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