| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

蒼と紅の雷霆

作者:setuna
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

蒼紅:第三十七話 悪夢

テンジアンを倒した2人は先に進み、鏡が複数並んだ場所に出た。

「またこの鏡か…一体何があると言うんだ?」

「取り敢えず調べてみよう。4つもあるから1人2つで」

GVが下の2つの鏡を調べに向かい、ソウは上の鏡を調べると他の部屋に飛ばされる。

ソウとGVが調べた鏡によって飛ばされた先にはG7のコピーがおり、どうやらパンテーラが第七波動でオリジナルの能力と記憶を引き継がせた虚像のようだ。

戦闘力と性格はオリジナルと同等だったが、全ての能力がオリジナルが倒された時点のままのために一度戦い、倒した相手なので然程苦戦はしなかった。

「まさかまたガウリとニケーと戦うことになるとはな…」

「僕はジブリールとニムロドだった。」

GVはどうやらジブリールとニムロドと戦ったようだ。

一度戦った相手のコピーとは言え、ジブリールとニムロドはかなりの強敵だったはずだ。

因みにジブリールはオリジナルの最期の記憶のせいか、体に与えられる痛みによって快感を感じるマゾヒストと化してしまい、GVを困惑させてしまったが、GVのノーマルスキルの霆龍玉によって跡形もなく粉砕されてしまう。

しかし砕け散る直前に恍惚の表情を浮かべていた…。

ソウもガウリはともかく、ニケーのコピーは意味深なことを言っていた。

『ここから先は…混沌…カオスが満チています…それハ、星の光すら飲み込む…大いなる光と闇のうねり…パンテーラは平気、言いまシたが…ワタシは不安、覚えます…だからワタシ、占います。この戦いで、未来を』

「テーラはミラーピースの力で何をしようとしているんだ?」

「ようこそ、ソウ…GV…ベラデンの最奥へ…」

「「この声は…テーラ…!!」」

聞こえてきた声に2人は表情を険しくしながら先へと進んでいくと、そこにはパンテーラが佇んでいた。

「…テーラ…シアンとミラーピースを返してくれ」

「…今はまだ出来ません。シアンはミチルと同じく電子の謡精の力を手に入れる為の鍵なのですから」

「ミチル…あの無能力者の…何故、電子の謡精の力を得るのにそいつが鍵になる?シアンならまだ分かるが…」

「ミチル…彼女こそ、本来の電子の謡精の能力者なのです。その証拠にソウもGVも見たでしょう?彼女とシアンの接触によってシアンが精神的に不安定になり、モルフォの力が安定しないことを」

「待ってくれ、その…ミチルが電子の謡精の本来の能力者だと言うのなら…何故シアンに?」

確かにミチルがシアンの電子の謡精の本来の能力者だと言うのなら、飛天の事件の際にシアンの様子がおかしかったことと、モルフォの力が不安定になったことに納得が出来た。

しかし、それなら何故シアンがミチルの能力を持っているのかがGVには疑問だった。

「あなた達には伝えましょう。私が皇神での諜報活動で手に入れた情報を…彼女……ミチルは、生まれた際、とても強力な第七波動を持っていました。その第七波動は、強大すぎる力で、生まれたばかりの彼女の体を蝕んでいきました……だから、アキュラの父、神園博士は娘を守るため、彼女が持つ強大な第七波動・“電子の謡精”の因子を手術で取り除いたのです。摘出の代償として、彼女は“声”を失ってしまったようですがね…そしてどこで聞きつけたのか、電子の謡精の力に目をつけた皇神上層部は、摘出した因子を、極秘裏に移植し、その力を利用しようとしました。その後はあなた方が良く知っている通りです」

「………なるほどな…それでお前はミラーピースを作り出して何をしようと言うんだ?」

「覚えていますか?以前皇神が推し進め、私達が食い止めた歌姫プロジェクトを?電子の謡精の精神感応能力を用い、全ての能力者を洗脳・統治するおぞましき計画……私は、あの計画を皇神に代わり実行しようと思っています」

「テーラ、能力者を支配しようと言うのか…?君の目的は現在の能力を持たない人々の殲滅じゃなかったのか?」

「いや、GV…恐らくテーラの狙いは電子の謡精による能力の強化だろう」

「正解です。私が用いるのはあなた方も良く知っている電子の謡精の本来の力…何度もシアン達の歌による支援を受けてきたあなた方なら分かりますね?謡精の歌は第七波動を高める力を持つことを…彼女の歌と、皇神から手に入れた技術があれば、全ての能力者を、更なる高みへと進化させることが出来る。より強き力を得た能力者達が団結すれば、数で勝る現在の旧人類も太刀打ちは出来ないでしょう」

その言葉でGVとソウはパンテーラの狙いを察する。

電子の謡精の力で全ての能力者を強化して、その力で現在の無能力者を葬ろうと言うのだろう。

「…止めるんだテーラ!君の気持ちを理解出来ないわけじゃないけど…現在の能力を持たない人々だって心ない人ばかりじゃない!モニカさんやオウカのような人だって……」

「…ええ、勿論です。私もあなた方と過ごして、無能力者の人々全てが能力者に対して排他的ではないことくらいは理解しています」

「なら…!」

「これはかつてシアンにも言った言葉ですが…あなたはごく一部の無能力者のために今、この瞬間にも心ない無能力者に迫害され、食べる物も眠る場所もなく苦しんでいる同胞に迫害を受け入れろと言いたいのですか?」

「それは…」

冷たいパンテーラの言葉と表情にGVは沈黙する。

「私は忘れません…何もしていないのに親から捨てられ、能力者であるだけで道を歩けば石を投げられ、心ない暴言を言われて…挙げ句の果てには優しさを装って毒入りの食べ物を…!GV…あなたにも分かるでしょう?身寄りのない子供が何の支援もなく生きることがどれだけ辛く苦しいことか…!私と同じ境遇だったみんなが餓死していく姿を見なければならなかった私の怒りと苦しみ…悲しみが…!それに無能力者とて何時までも非力なままではないでしょう…いずれアキュラのような危険人物も生まれてくるはず、危険な芽は今のうちに消し去らなければなりません」

「テーラ…」

「ソウ…私はもう覚悟を決めました。最大の障害となるあなた方を倒して能力者の楽園を築き上げます」

突如、鏡が現れて反転するとパンテーラの姿が変化する。

パンテーラが成人女性の姿となり、変身現象を発動した姿でこちらを鋭い眼差しで見据える。

「それじゃあ、最後の時間を楽しみましょうか?ソウ…GV」

夢幻鏡を利用した空間移動で2人の真上を取ると、通常時とは比較にならない程の威力の反射弾を連射してきた。

「止めるんだ!こんな戦いに意味は…」

「意味?意味ならあるわよ?」

女性体から男性体に変わると頭上に無数の鏡を展開し、鋭利な鏡を落とし始める。

「これは我々エデンの理想を叶えるため…そして君達は君達の愛しい少女達を取り戻すの戦い。故に逃れることは出来ないのだよ。差別思想に染まった現在の旧人類がいる限り、私達能力者に平穏はないのだからね」

「そんな…そんなことは…」

「GV、君はあの時のアシモフの凶行を許せるのかな?」

今度は女性体となり、縦横無尽に飛び回って反射弾を放ってきた。

「あの時、ソウが助かったのはシアンの歌があり、彼女が第七波動の制御がある程度出来ていたから…もしあの場にシアンが、能力の行使が出来なかったらソウは死んでいたわ。今でもあなたはアシモフを恨んでいないと断言出来るのかしら?」

「…それは……」

「あなたは恨んでいいのに私達は恨んではいけないなんて…少し身勝手よGV」

GVの動きが鈍ったところで尾でGVを勢い良く床に叩き伏せる。

「さあ、見切れるかな?私の愛の幻影を!!」

複数の鏡が展開され、複数の実体を持った男性体のパンテーラがソウに襲い掛かる。

「…今更そんな姿で俺達に挑むとは…ふざけているのか?」

「フフフ、この姿で君やGVと戦ったことはなかったからね…」

「…まずはこの姿であなた達の力を測らせてもらうわ」

男性体から女性体、交互に切り替わるパンテーラの攻撃にソウは回避に徹する。

「測る…か…そんな余裕がお前にあると思うのか?」

「怒らないでソウ。でもね……」

「あの時、兄上が君との戦いで使った未完成の雷霆宝剣とは違い、私の宝剣は皇神製のオリジナル…」

「ぐっ!」

次の瞬間には女性体から男性体となって幻影に惑わし、上から降り注ぐ鏡の刃によってソウの体に小さい傷が付き、再び女性体に。

「流石にシアンの…正確にはモルフォの力を宿したミラーピースを利用することで完成した雷霆宝剣には性能は劣るけれど、あなたとGVを相手取るくらいの力はあるの」

「シアンの力をこんな風に使うなんて…!シアンは君のことを…」

GVの言葉にパンテーラは反射弾で牽制する。

「私はあなた達に選択肢を与えたわ。それをアキュラ同様に拒んだのはあなた達…最早、私達の進む道は分かれてしまった。せめてあなた達には私の深い深い愛で安らかな眠りを与えるわ」

「そうはいかない…!君を止めて、ミラーピースは返してもらう!!」

「悪いが、少し眠ってもらうぞテーラ!」

「「迸れ!蒼き(紅き)雷霆よ!」」

「映す鏡ごとその虚飾を割り砕け!!」

「お前の夢幻(ゆめまぼろし)を見せる鏡を、俺の紅き雷刃で叩き斬る!!」

「やれるものならやってみせなさい…」

「…理想実現のため、兄上を含めた同志のためにも負けられないのだよ私も…大人しく私の愛を受けたまえ!!」

「そうはいかない!吼雷降!!」

真上を取ろうとしたパンテーラにノーマルスキルの吼雷降を叩き込み、動きを止めたところにソウがチャージショットを当てる。

GVが鏡に避雷針を撃ち込んで、雷撃で破壊しながらパンテーラの攻撃を妨害しながらソウをサポートする。

「エレキブレード!!」

斬擊と雷刃波でパンテーラにダメージを与え、そしてショットを連射して追撃を加える。

「ああっ!?これが…あなたの愛…!」

「プラズマビット!!」

吹き飛んでいるパンテーラに向かってビットの雷撃弾をショットと併用する。

それは見事にパンテーラに直撃し、そこにGVが追撃を加える。

「霆龍玉!!」

GVのノーマルスキルの霆龍玉の雷撃がパンテーラに直撃し、更にダメージを蓄積させていく。

しかしパンテーラもやられたままではなく、幻影と鏡、反射弾を巧みに使って反撃していく。

だが、やはり最上級の能力者の相手を2人同時にするのはパンテーラでも厳しいようだ。

「まだ、終わるわけにはいかないのだよ。受けるといい…めくるめく…」

「愛の宴!」

男性体と女性体のパンテーラが同時に出現し、第七波動を高めていく。

「「愛の姿は万華鏡!惑い見えるは走馬灯!ここはそう、境界なき鏡界!ファンタズマゴリア!!」」

一瞬、光によって視界が遮られたかと思うと、かつての時のように天地が真逆となっている。

「私達の愛の庭へようこそ…」

「あなた達を歓迎するわ!」

男性体のパンテーラが鏡の力による移動による突撃と女性体のパンテーラの反射弾。

交互の絶妙なタイミングによる攻撃でソウとGVに攻撃を加えていく。

パンテーラのSPスキルは神経にも影響を及ぼし、何時ものように動くこともチャージもままならず、レーザーと反射弾による攻撃を何度も受けてしまう。

「(かわせないのなら…攻撃するまでだ!最後の切り札を切ってきたのなら恐らく、今のテーラにも余力はないはずだ!!)迸れ、蒼き雷霆よ!天体の如く揺蕩え雷!是に到る総てを打ち払わん!!ライトニングスフィア!!」

「ぐあっ!」

「きゃあっ!」

男性体と女性体が近付いた瞬間にライトニングスフィアの雷球を当て、男性体と女性体に同時にダメージを与える。

「これで…終わりだ!迸れ、紅き雷霆よ!降り注げ!メテオスパーク!!」

追撃でソウの持つスキルで最も攻撃範囲の広いメテオスパークで追撃する。

降り注ぐ雷撃弾は女性体に数発直撃した。

「ああっ!愛は…散りゆく……」

ダメージを受けた女性体の体が鏡となって砕け散り、男性体の姿が消えた。

「どうやら俺達が相手にしていたのは幻覚だったようだな…」

次の瞬間、奥のシャッターが開いた。

「開いた………兄さん」

「どうやら、奥で決着をつけたいらしいな…GV、戦う気力は残っているか?」

「僕は大丈夫…兄さんこそ大丈夫なの?」

「…問題ない…行くぞ」

互いの意思を確認し、2人はゆっくりとシャッターへ進んでいき、シャッターを潜った先には祭壇があり、どこか幻想的な風景が広がる。

「見つけたぞ、テーラ…シアンを返してもらうぞ」

本物のパンテーラの前にはシアンとミチルが浮かんでおり、2人共気絶しているようだ。

「やはり、あなた方をお相手するのに、転写体では不充分でしたか…残念です。それだけの力があれば理想郷の実現が早まると言うのに…」

「テーラ、僕は君のやり方が間違っていると言う考えは今も変わっていない。でも多分、君の言っていることも正しいんだと思う。僕も…兄さんに助けられず、フェザーにも拾われていなかったら無能力者を憎むことしか出来なかった。フェザーに所属していた無能力者の人達と交流して、オウカと出会って…全ての無能力者の人達が僕達を迫害するような心ない人達ばかりじゃないと知っているからこそ、能力者と無能力者の共存を信じたいんだ。」

「その為に、どれだけの同胞が苦しむことになるのかを考えてのことですか?」

「…うん、僕は……諦めたくない…この道を信じたい」

「そうですか…ソウ、あなたは?」

GVはどうやっても考えを変えるつもりはないようで、それを悟ったパンテーラがソウの方を向く。

「俺はただ、俺の大事な物の為に戦うだけだ。無能力者は憎いが…何もしてこないのならどうでもいい。何かするようなら即座に滅する。今は弟の為に、そしてお前を止めるために戦う」

「………そうですか、ならば私は理想の成就の為にあなた方を全力で排除しましょう。ミチルがいることでシアンから電子の謡精…モルフォを引き剥がすことは容易に出来ます」

「「!?」」

パンテーラが手をミチルとシアンに翳した瞬間、GVとソウの持つミラーピースがミチルに引き寄せられ、シアンからモルフォが現れたかと思えばミチルに引き寄せられた。

「愛する同志G7達による運用を重ね、普遍化(ノーマライズ)が完了したミラーピース…電子の謡精をこの最後の雷霆宝剣に組み込むことが出来る。紅き雷霆と電子の謡精…どちらも電子を操る強大な力…この2つと宝剣の力が合わさった私は誰にも止めることは出来ません」

ミラーピースとモルフォが宝剣に吸い込まれ、宝剣から紅い雷光が迸る。

そしてミチルとシアンが地面に落下し、2人は同時に駆け出してソウがシアンを、GVがミチルを受け止めた。

そして2人を離れた場所に寝かせると変身現象を発動したパンテーラの姿に愕然となる。

変身現象を起こしたパンテーラの姿は成人女性体の姿とは全く違い、禍々しくも電子の謡精に近い姿をしていた。

「何だ?その姿は…」

「電子の謡精と紅き雷霆の力を宿す宝剣…謡精の宝剣により、私の第七波動は一時的に新たなる段階へと至りました。大いなる愛で世界を満たす“夢想境(ワンダーランド)”の第七波動。まずはあなた達を誘い…あなた達を倒した後に時間をかけてこの力との完全融合をするとしましょう」

「兄さん!シアンは?」

「息はあるが、あまり大丈夫ではなさそうだ。GV、早く終わらせるぞ」

第七波動を奪われた反動からか、シアンの顔色は死人のような青白い物だった。

「分かった…モルフォッ!聞こえるかい!?声を聴かせてくれっ!!」

「いくら語りかけても無駄です。無理やり従わせていた紫電の時とは違う。ミラーピースと同志G7の運用データによって、電子の謡精の普遍化は成されました。謡精の力は、完全に宝剣の一部となり、私と一体となっています。最早、あなた達の声はモルフォには届かない。ご都合主義(奇跡)など、決して起き得ません」

取り込まれたモルフォに語りかけるGVにパンテーラは無慈悲に良い言い放つ。

しかし、ソウはそれを聞いても力強く言い返す。

「それはどうだろうな?殆どお前と同じ条件である紫電にも俺達は勝ってきた。今回も同じようにするだけだ。」

「……不可能です。電子の謡精と1つとなった能力者の強さはあなた達が誰よりも分かっているはず。ミラーピースと共に、私の中に同志達の愛が息づいている。彼らの愛と、謡精の歌が、きっとあなた達を滅ぼすでしょう。さようなら…GV、シアン、ソウ…私達の新しい家族になれたかもしれない愛しい人達」

「…さようならなんて…そんなことはさせない!君を止めて…シアンと一緒にオウカの元へ帰る!!」

「諦めろテーラ、こいつの諦めの悪さはお前も知っているだろう。そして俺もお前を見捨てたくはないんでな…俺達が諦めることを諦めろ」

「………消えなさい!!」

これ以上の会話は無意味と判断したパンテーラはカードを5枚展開し、2人に目掛けて放つ。

「かわせ!」

「了解!」

2人はカードを回避し、ソウは距離を詰めて雷撃刃での斬擊を繰り出し、GVは避雷針を撃ち込んで雷撃を流す。

「させません」

パンテーラの姿が消えたかと思えば、別の場所に移動しており、カードを放ってきた。

今度は2人の動きをある程度追尾するらしく、2人は回避しきれずにカゲロウを使わされるが、それでも構わない。

「行けっ!!」

カートリッジをオロチに切り替え、そしてプラグをミカエルプラグにすることで雷撃の威力を向上させる。

広範囲に避雷針が放たれるオロチとこのプラグは相性が良い。

ワープを駆使しても広範囲に放たれる避雷針を避けきれずに撃ち込まれ、より強力な雷撃を流し込まれた。

ソウもタイミングを見て距離を詰めてチャージセイバーでの斬擊を繰り出してパンテーラにダメージを与えていく。

「光の守護を…!」

パンテーラの羽がカードのダイヤの形となり、橙色になると菱形のバリアが張られ、ソウの雷撃刃を弾いた。

「バリアか!?」

「固い…!」

ソウの斬擊も防ぎ切る程の防御力だが、すぐに攻撃手段を切り替える。

「吼雷降!!」

「プラズマビット!!」

GVが吼雷降の雷撃でバリアを破壊し、ソウがビットの雷撃弾を叩き込む。

「剣よ、舞い上がりなさい!」

しかしそれはパンテーラにとって予想の範囲であり、羽の形状と色が変化するのと同時に2人の真上に無数の剣を展開し、そのまま2人に落とす。

流石にこの数をまともに受けるわけにもいかないために回避に徹するが、パンテーラは次の攻撃に移行する。

「鉄槌を受けなさい…!」

羽の形状と色が変化し、緑色の鉄槌が2人に叩き込まれる。

剣に気を取られた2人はそれをまともに受けてしまい、勢い良く吹き飛ばされてしまう。

「終わりです」

再び剣を落とすパンテーラに対して、オーバーヒートから立ち直った2人は別方向に向かってダッシュする。

この攻撃は単独の方が動きやすく、かわしやすいからだ。

「ライトニングレーザー!!」

「霆龍玉!!」

放たれた雷撃レーザーはパンテーラがバリアで相殺するが、その直後の霆龍玉の雷撃が直撃する。

「っ…聖杯の導きを…」

羽の形状と色が変化し、床に聖杯を配置すると結界を張り、2人を引き寄せる。

聖杯を破壊しようとしても引き寄せる力が強く、ダッシュで逆らうことしか出来ない。

しかし、破片も引き寄せられているために移動を阻害され、結界に触れてダメージを受ける。

どうやらカゲロウを無効化するらしい。

「今の私の能力は夢幻鏡のような虚像ではなく、真なる実像…その気になればこのようなことも容易いのです。」

「まだだ、メテオスパーク!!」

雷撃弾を落としてパンテーラにダメージを与えるとGVも続けて避雷針を撃ち込み、雷撃を流し込む。

しかしパンテーラもこの反撃は予想しており、攻撃直後の硬直を狙って鉄槌を2人に叩き込む。

第七波動の能力者として最上位に位置する3人の戦いは凄まじく、どちらも退けない理由が存在するために3人の第七波動の高まりは止まることを知らない。

しかしソウとGVからすれば寧ろ夢幻鏡を使っていた時の方が手強いと感じていた。

確かに夢想鏡の実像を作り出す能力は恐ろしいのだろうが、寧ろ体の神経にさえ作用する能力の方が2人には厄介だったのだ。

そしてパンテーラでも進化したばかりの能力を十全に使いこなすことは出来ずにGVとソウに徐々に追い詰められていく。

「私は…負けられません…!皆さん…お兄様…!私に力を…!心からの愛を込めて、仲間達よ、家族達よ。今再びこの地へと戻れ!レジデントオブエデン!!」

パンテーラの詠唱が終わった次の瞬間にG7のメンバーが現れ、2人に襲い掛かる。

「こいつ…実像…?それにしては動きが単調だな…!」

「確かに…これなら!」

夢想鏡に慣れていないからなのかは分からないが、オリジナルと夢幻鏡のコピーに比べれば動きが単調で逆に対処しやすかった。

ニケーとガウリの攻撃をかわし、アスロックのガレトクローネによる攻撃とニムロドとジブリールの突進、テセオとテンジアンの時間差攻撃もギリギリで回避して反撃に転じた。

「迸れ、蒼き雷霆よ!これで最後だ…君を止めて、シアンと一緒にオウカの元に帰る!!煌くは雷纏いし聖剣!蒼雷の暴虐よ、敵を貫け!スパークカリバー!!」

最後の力を振り絞ったGVのSPスキルがパンテーラに直撃した。

「ああああっ!?」

まともに受けたパンテーラはふらつき、地面に緩やかな速度で下降していく。

「終わりだテーラ…謡精の力を返してもらう」

ソウが雷撃刃の切先を向けるが、パンテーラはまだ諦めていない。

「そうはいきません…私には…まだもう1つの切り札があるのですから…!謡精の歌を奏でよう…寄る辺なき孤独の戦士達に、せめて死という安らぎを…楽園幻奏…!」

パンテーラは最後の力を振り絞り、正真正銘最後の切り札であるもう1つのSPスキルを発動した。

「ぐっ!?こ、これは…」

「ち、力が…抜けて…!」

電子の謡精としての能力なのだろうか、電子の謡精の精神感応能力が作用してソウとGVから体力を奪っているのだ。

ソウは妨害をしようとするが、もう攻撃するだけの力も残されていない上に発現していた雷撃刃すら消失した。

GVも悪足掻きとして避雷針を撃ち続けるが、パンテーラの歌を妨害するには至らない。

「(…どうすればいい?どうすればテーラを止められる…?俺の攻撃手段の要である紅き雷霆が使えない今……)」

そこでソウはある考えを閃いた。

パンテーラが使っている物の力について思い出したのだ。

「(一か八か…か…)」

これで失敗すれば自分達の敗北だ。

しかし成功すれば、自分達の勝利でパンテーラを死なせることなく止められる。

「GV…後は任せたぞ…」

「え…?兄さん…!?」

突如、パンテーラの元へと向かっていくソウ。

GVとパンテーラはソウの無謀とも言える行動に目を見開く。

残り僅かな力を身体能力の強化に使い、パンテーラの歌の波動を至近距離で浴びながらも彼女に触れた。

「な、何を…!?」

「迸れ、紅き雷霆よ!宝剣に囚われた謡精を解き放て!!」

謡精の宝剣に組み込まれている紅き雷霆の因子はソウの物であり、宝剣の力の大部分を紅き雷霆に依存している。

その能力のオリジナルであるソウが触れたことで強制的に変身現象が解除されていく。

「変身が…!?嫌…嫌…!止めて下さいソウッ!!止めて!!私からそれを奪わないでえ!!」

「悪いな…テーラ…謡精の力は…返してもらう!!」

変身現象が強制解除され、飛行能力を失ったパンテーラはソウと共に地面に叩き付けられた。

「う…く…」

「宝剣に…俺の紅き雷霆を組み込んでいたのが仇となったな…」

強制解除された反動か、宝剣に罅が入り、そのまま音を立てて崩れた。

「あ…ああ…」

目の前で粉々になった宝剣に呆然となるパンテーラ。

「………」

「…テーラ…僕達は…」

「嫌…嫌…私達の…楽園……お…兄様ぁ…」

慕っていた兄も、家族同然だった同志を失ってまで成就させようとした理想が完全に潰えてしまい、パンテーラは泣き始めた。

そこにいるのはエデンのリーダーとしてではなく、年相応の少女の姿だった。

GVは兄にパンテーラを任せてシアンとミチルの元に向かう。

「テーラ…すまない…だが、俺達は…俺はお前を失いたくなかった…これが自分勝手だとは分かっている……俺は融通が利かない馬鹿だ…俺の生き方がお前を傷付けるのは分かっていた…だが…こんな俺でも……お前を…」

「ミチルから離れろ!化け物共!」

言葉を遮るような怒声に全員の視線が向いた。

そこには包帯やガーゼが痛々しいが、険しい表情でこちらを睨んでいるアキュラの姿があった。

「貴様か…どこまでもしぶとい奴だ…!」

ふらつきながらも立ち上がり、パンテーラを庇うように立ち、GVもシアンを守るように何時でも動けるように構えた。

「アキュラ……ミチル…その女の子は…もう…」

GVが先程シアンと一緒に様子を見た時に彼女は既に息をしていなかったのだ。

何時、彼女が亡くなったのかさえGVには分からない。

「何だと…?クッ!貴様らだ…!貴様ら能力者がいるから…!争いが起きる!!無関係なミチルまでも…何故あいつが死ななければならなかったッ!?」

「無関係…?違うな…貴様の父親の子供であり、貴様の関係者である限り、この小娘は無関係ではいられん…元々この小娘は能力者だ…人の世に蔓延る、人ならざる者。人外魔境、悪鬼羅刹…第七波動能力者の存在そのものが人の世に対する冒涜であり、罪だったか…?良かったな、小娘が勝手に息絶えてくれて…貴様からすれば忌々しい能力者を始末する手間が省けて良かっただろう?」

「貴様っ!!」

かつて歓楽街でアキュラが言っていた言葉をそのまま叩き付けるソウに激昂したアキュラ。

ブリッツダッシュで距離を詰めてくるアキュラに、ソウは咄嗟にパンテーラを抱えて回避する。

「ソウ…」

「テンジアンに誓った。お前は俺が守る…お前は俺が死なせない。」

「俺は許さん…貴様ら化け物共をっ!!神に祈る間もなく、ここで死ね!雷霆兄弟!パンテーラ!!」

「…来い…今度こそ片付けてやる」

ベラデンの最奥で4回目となるソウとアキュラの戦いが始まろうとしていた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧