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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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Duel:20 帰還日程決定


――side奏――

「姉妹みたいから、そろそろ名実共に姉妹になりつつありますね。ツインはやてさん?」

「「せやんなぁ」」

 苦笑いを浮かべる震離の言葉の通り、普通に仲良しな八神さん家のはやてさん二人。
 ……平日だからかな? 二人しか居ないのは?

「あ、コレお土産です。そう言えばアインスは? この時間なら居るかと思ったんですけど?」

「ありがとなぁ。アインスは短大にシグナム達の忘れ物を届けに行っとるよ。ついでにザフィーラの散歩も兼ねてなー」

 小さい方のはやてに渡しつつ、そんなお話を。
 達ってことは、シグナムさんと、シャマルさんかな? んー、まぁ、人のお家の事にあまり首は突っ込まないようにしておきたいなーと。
 
「なんか用事あったん?」

「んー……単にこの前の合宿で、今度ゆっくり話したいねぇってお話してただけですよ。アインスのような方は今まで居ないタイプだったんで」

 なんというか、めっちゃ強いのにあんなに抜けてる方は初めてだから。ちょっと気になったんだよね。
 それに、知らない顔だったらここまで興味を持たなかったけれど……一応顔は知ってたし、どんな人なのかという興味もあった。
 初代リインフォース。リィン曹長の姉にあたる人。
 もっと言えば、夜天の書の管理人格だという色眼鏡有りで試合をしてたけども。凄い強かったしなぁ。後ろからはやてさんとは違った攻撃的支援、かと思えばパイルバンカー片手に前衛も出来るし、私とは違う試合、サトと組んだときにはレヴァンティンや、グラーフアイゼンも使っててマルチレンジで戦える人。
 
 やっぱり、魔法の世界のセンスが光ってるのかな? いや、完全別世界である以上それは無い……か?

「はなや奏さんも合宿では凄かったしなぁ。八神堂のフルメンバーで試合してみたいわぁ」

「ぅ。それは嬉しいお誘いですが……こっちもフルではないですからねぇ」

 はやての提案を聞きながら、一瞬二つ返事でいいよって返しそうになった。現状の戦力、先輩やはやてさん、ギンガにスバル、私とでチームアップは出来るけど、完全に急造チーム。それはそれで楽しい勝負が出来るだろう。
 でも、ここには居ない親友達や本来の響を交えたチームでもやってみたくなっちゃうし。
 そうすると、色々うしろ髪引かれちゃいそうだからなぁ。
 ……今は髪の毛短いけどね。

「それに、ダブル夜天の主システムやから。制圧力は負けへんよ」

「……うわぁ」

 様子を見守ってたはやてさんの一言で、嫌なもん想像しちゃったし。
 でも相対すると仮定して、制圧攻撃が出来る二人を要にするから……ぱっと思いつく限りじゃ、普通に3人で盾というか、近づけないようにするのかな?

 ……あー、コレが響や時雨だともっと考えるんだろうけど。私じゃこんなもんだなぁ。

「そういえば、奏はなんで大きい方のフェイトちゃんを先輩って呼ぶん?」

「んー、同じ高校の先輩だから。じゃ、だめ?」

 突然のはやてからの質問に、ちょっと誤魔化しを入れるけれど……あまり納得されてないみたい。
 この質問は全然考えてなかったしなー。それっぽいことでも言おうかなー。

 大体さー、ある程度事情を知ってるはやてさんと、震離はニヤニヤとしてるし。はなだけだよ。頑張って下さいって視線を送ってくれるのは。

「ま、同じ学校(部隊)、同じ部活(小隊)。純粋に年齢と、部活内での上下関係。それだけだった。
 でも、話してみれば面白い人で、変な所で抜けてて。締める所はきちんとする。それ以外は案外ふわふわしてる人ですし……。
 何より、人をあんなに信じて大切にしている。
 そんな人だから、愛称を兼ねて先輩って呼んでるんですよ。コレで良い?」

 おー、と言い終わると同時に周りの皆さんが拍手。
 それに合わせて、私の顔も熱く、火照る。色々端折ってる所はあるけど、言いたいことは言ったし。コレで終わってほしいわー。
 
「さ、奏さんを苛めたお詫びで。
 こっちのフェイトちゃんが気にしてたんよ。大きい私は先輩って呼ばれてる事と、それをちょっぴり羨ましそうに見てたし」

「なるほど。そういえば此方のフェイトも、なのはーってやってるイメージありますもんねぇ。あ、お茶頂きますねー」

 温泉宿でもよく二人で行動してたなーって。T&Hの面々はアリシアさん以外はよくペアでセットだったもんなぁ。
 仲良しで一緒なのは良いことだけどねー。
 あ、水出しの玉露かなこれ。ほんのり甘くて美味しい。

「……もって事は。未来のフェイトちゃんも、なのはちゃんにべったりなん?」

 あ、墓穴ほった。
 どうするかなーって考えてると、そこではやてさんが咳払いを挟んでから。

「せやねぇ。と言ってもこことはあんまり変わらへんよ。前にも言ったと思うけど、なのはちゃんは教職員(教導官)目指しとるし。ヴィータもその道に行こうとしとるしなー」
 
 ……なるほど、そういう通し方してるんですね。
 なんて考えながら、はやてさんの助け舟に感謝を。
 しっかし、此方のはやてもやっぱりはやてさんだなぁ。下手なこと、本当に言えないや。

「……でー、まぁ。お茶も飲んで、色々駄弁るんはええんやけど。震離がここに居るってことはなんかあって来たんやろ? わざわざお土産持ってくるくらいやし」

「……やっぱり鋭いねぇ。うん、その通りだよ。
 以前のヴィヴィオちゃん達と違って、平行世界からの来訪者だからね。長くて6日。色々好条件なのが3日、4日の間。
 他の子達に伝えるよりも、先にはやてには話しておこうと思って」

 パキン、と煎餅をかじったと同時にそんな話が始まって、終わった。
 ……やだ、私って凄く空気読めてない人じゃないですかやだー。

「……なるほど。私的な我儘入れたいんやけど4日後じゃ駄目なん?」

「ん? 何かするっていうのなら構わないけど。どったの?」

「あ、じゃあちょお、耳貸してー?」

「んあ?」

 震離がはやての側まで行って、耳打ちされてる。
 はやてさんも話を聞いてないみたいで首を傾げて、

「何やろね?」

「さぁ? だけど……」

 はやてからの話を聞くに連れて、どんどん優しく微笑んでるし。
 そして、ゆっくりとはやてが離れると。

「あいわかった。今日を含めてあと4日。
 ……皆も、訳はまた後で伝えるけれど、そのつもりで動いてね」

 ちょっぴり悲しそうに、それでもにっこり笑う震離。

「せやね。それ以上はわた……やなくて、うちも里心がついてしまうし。それが妥当なところやねぇ」

「そうですねー。作業……いや、課題の途中でもありますしねぇ」

 はぁ、と二人で溜息。
 まるで小学校の頃の夏休みが終わるような直前みたいだ。
 実際あっという間に日は過ぎていくし、楽しすぎるもん。この世界は……。

「さ、もうちょっとしたらアインスも帰ってくるし。皆で買い物でも行こうかな?」

「うちはかまへんけど、車は大丈夫なん?」

「そのためにワゴン車借りてるんで平気ですよ」

 トントン拍子で向こうで話が進んでるわー。
 ふと、湯呑を持ったまま俯くはなが目に入って、

「どうしたの?」

「……いえ。ただ……」

 ゆっくりと顔を上げて、どことなく寂しそうな表情で。

「やはり私はまだまだですね。
 どうにも、あの心情の変化を完璧に把握できないのですよね。
 ある程度察することは出来ますが……それでも」

 なるほど。と考えると同時に、湯呑を持つ手を両手で包んで。 

「良いんだよそれで。なんとなく。でも、察することが出来たんなら。
 だってそれが感情の揺らぎで、人だもん。
 これからだよ。これから見て学んで、分からなかったら皆に聞けばいいしね」

 一瞬キョトンとしたかと思えば、直ぐににっこり笑って。

「……はい!」

 眼の前で笑う花霞を見て、私は響と先輩が心から羨ましいよ。
 元々機動六課で生まれた4機のデバイスの稼働データから生まれて、最初からちょっと変わった人格だった。
 でも、響と共に居たお陰と、響の敗北を経てからの進化は凄いものがあった。
 融合騎の体に人格データを移した。だけど、そのままでは動けないことから同じ融合騎のリィン曹長から稼働データを頂いて今の花霞が生まれた。
 そして、心と心が触れ合うのを直に見て、これからもっとずっと人らしく育っていくんだろう。

 ……あー……もー……。

「ほんっとに……いい子だわぁ」
 
「へ、あの……? 奏さん? どうしたんですか?」

 うりうりと頭を撫でる。
 マジもー、響が先輩泣かしてもしゃーないって割り切るけど、はなを泣かしたら私がしばこうかなー。



――side響――

 スタッフルームの外を眺めながらふと思う。
 気がつけば、既に外は夕暮れで9月も半ばなんだなーと思ってみたり。
 
 既にこの世界に来て少し経った訳だけど。それでも、元の世界のほうが心配になってみたり。
 震離や流曰く、来た時間とあまり誤差なく帰せると言ってたけど、心配といえば心配。
 あの二人がどれだけ無理無茶するか分からないし、おんぶに抱っこというわけだから少し申し訳無さもあるわけで。

「響、おつかれ。どうしたのボーッとしちゃって?」

「へ? あぁ……少し考え事」 

 いつの間にやら、隣の席にフェイトが居ることに驚きつつ。長時間遊びすぎた弊害か、中々頭が回ってない事に苦笑を浮かべる。
 こっちの姿でも気配くらいなら掴めると思っていたけど、中々うまくいかないらしい。

「あれ? そう言えばサトはどうしたんですか?」

「サトはね。母さんたちに頼まれて今日はこっちでエキシビジョンするってさ。
 本当ならいつもはお姉ちゃん達がするんだけれど、今日はまた皆で集まるからって」

「なるほどそれで。
 そうしたら、どうやって移動しましょうかね? グランツさんの研究所まで」

「それなら平気。住所も聞いたし、場所もなんとなく分かるから。
 流もお仕事終わったら、研究所に来るって言ってたよ」

 ふむ、まぁあの二人は研究所の一室に住んでるから。来るって言うより帰るっていう意味なんだろうけど。
 あとは……どーやって二人になるかだよなー。余計なおせっかいなんだろうけど、間違いなくフリーな俺か奏じゃないと解決できそうにないしなぁ。
 でも俺なんかで解決できる事かと言われれば分からない。
 きっと、俺も母さんとこの世界で会ってたら、色々想うだろうし。難しいところだよなぁ。

「そう言えば。奏達はどうしたの?」

「……ぁー、その」

 ふとした質問に思わず詰まる。
 実際、サトにお願いというか。ガッツリしたもん食べたいって言ってたら、つけ麺屋に連れて行かれたけど。
 奏だけじゃなく、はなにも震離にも言わずに出てきてるからなー。なんか言われそうな気がする。正直に言うか。

「……黙って出てきたからわからない」

「それは……平気なの?」

「……多分」

 くすくすと笑うフェイトを見ながら、黙って出てきたその後の事を思う。
 多分、奏や震離は大丈夫というか。そこまで怒らないだろうけど。はなはなぁ……。いや多分怒らない。よくよく考えたら、融合騎になってからは、俺よりフェイトに着いてたし。多分平気。うん。

「きっと、はなが怒ってると思うよ? あの子、響と一緒に居たいけど。私のほうが忙しいからって手伝ってくれてたし」

「……嘘ーん」

 フェイトのぶっちゃけ話を聞いて、コレまでのはなの行動を思い返すけれど……そんな素振り見せてなかったけどなぁ。

「花霞は……まだまだこれからだからね。リィン程人の心に触れてないから、だから一緒に居たいって言ってたよ」

「なるほど」

 ……いろいろ一緒に居て、なんだかんだで頼るのも割とあとの方だったし。
 まだインテリジェンスデバイスの時は、綺麗で好きな刀身だった。だけど、どうしても現代で作られた以上脆くて扱いは難しい。
 人格としては他のデバイスの子達と違って変な所でボケたりいろいろしてたしなー。

 思えば、あんまり交流してなかったよなぁ……はなはあんなに健気に手を貸してくれてたのに。
 それに対して俺は、初めて出会った時も使い慣れてないからって使用しなかったし、主としては最悪なわけで。
 そうすると……悪いことしたなぁ。合流した時にそれとなく謝ろう。
 しかも……花霞と一緒にいるようになってから。俺実を言うと勝ったこと無いんだよなぁ。
 初めてユニゾンした時はぬか喜びだったし……、デバイスとして受け取ってからも勝った事……無いなぁ。模擬戦以外は……。
 我ながら最悪だなと思うほどのクソ主具合で辛いわぁ。

「そんな事無いよ」

 ……うん?

「あの……どの辺りから心の声漏れてました?」

「フフ、漏れては無かったけど。それでもはなの話の後だもん。わかりやすく顔に出てたよ」

 ……うーん。あんまり顔に出さない方だと思ってたんだけどなぁ。ま、いいか。

「さ、行こっか響?」

「あいよ……って、どうしたのこの手?」

 自然と差し伸ばされたフェイトの手。コレは……まさか?

「へ? 響って海鳴の町はあまり馴れてないでしょう? はぐれて迷子ーって事になったら嫌だしね」

 ……正直恥ずかしいからヤダって言おうと思ってたけど。フェイトの顔が保護者の顔になってるのを見て断念。
 意識してたのは俺だけみたいで、なんか恥ずかしいような……変な気分だ。

「そしたら、案内お願いします」

「はい。お願いされました」

 ぎゅーっと手をつないで、そのまま外へ。

 ……しっかしまぁなんというか。こうして手をつなぐなんて、ガキの頃以来だなぁって。


――sideスバル――
  
 ギン姉がおかしいと気づいたのは旅行の時だった。
 小さな私とティア。そして、小さなノーヴェと行動してて、私は希望を抱いた。
 それは元の世界のノーヴェ達。今は海上施設に居るナンバーズの皆に対してだ。確かに生まれは違うし、この世界の私達の様に巧く行かないかも知れない。だけど確かに平和に生きている。
 ……特にノーヴェの遺伝子データには母さんと同じデータを。大きな括りで言えば、私やギン姉と姉妹にあたるし……育ち方は違うけれど、きっと仲良くなれると思うんだ。
 でもこの世界の皆は……ちゃんと母さんから産まれている。正真正銘の健康な人であるということ。そのせいなのかギン姉だけは、ずっと揺らいでいるように見えた。
 でも、温泉に入っている時に寂しそうに。

 ――この世界の私達は普通に生きていくんだろうね。

 元気に走り回る小さな皆を見ながら。静かに呟いていた。
 ……昔、ティアに私の体のことを伝えて、そのお返事の事をギン姉やお父さんに報告した時言っていたんだ。
 素敵な親友に出会えたことを、私はとっても嬉しいって。
 その時は私も一杯一杯だったから解っていなかったけれど、今この言葉を考えると、それはこう言ってるようにも思える。

 私にはカミングアウト出来る人が居なかったって。
 
 別にギン姉に友達が少ないって事は無い。ギン姉の性格から考えると慕う人は沢山居るし、初等部の時ギン姉に先輩って呼び慕う人も、友達も沢山居た。
 でも……私にとってのティアの様な人は居なかったんじゃないかって。
 思い返せばそうだったと思う。
 いつも……私もギン姉を頼って居たけれど、ギン姉と対等に接する人は少なかった。本当に頼れる人は……弱音を吐ける人は居なかったんじゃないかって。
 お父さんと部隊に居るとは言え、周りは年上ばっかりで、若い後輩の皆の先輩のポジションに、カルタスさんと一緒に捜査を当たる。優等生というイメージ。

 だから私も、いつもギン姉ギン姉って頼ってばかりだった。
 
 この世界のギン姉の抱いてる思いもなんとなくわかってるんだけど……それでも。
 ギン姉には一枚上手を取られてしまう。いざ話を切り出そうとしても巧く躱されるし、多分二人きりになったとしても今のギン姉は私の話を聞いてくれない可能性すらある。
 だって、お母さんと一緒に居る今のギン姉は、少しだけ幼く見えるもん。
 それが悪いこととは思わないし、私だって甘えてる自覚はあるし。
 本当の意味では違うと分かってても、それでも母さんの記憶はあの日から止まってる私達からしたら……お母さんそのもので。小さい頃は見えなかったお母さんの性格も見えるもんね。

 だけど……本当にどうやってギン姉の気持ちを聞くかなぁ……って。


――side震離――

 研究所のエキシビジョンスペースで、はやてと奏の二人によるはなの強化プログラムが行われているのを横目に、流から預かったサトのデバイスの再調整プランを組み上げていく。
 とりあえずあるもので作る関係上武装は今のままで良いとして、サト用に防護服をどうするかだ。
 
 騎士甲冑を一応仮当してたが、それでは動きづらいという問題を抱えてた。
 
 やはり基本フォームは2つ用意したほうがいいかなーと。騎士甲冑を再設定するのと共に、動きやすさに重点を置いたフォームも用意したほうがいいなと。
 騎士甲冑の方は堅さに重点を、新規フォームは動きやすさに重点を置いて……。
 
 あ、駄目だ。容量足んねぇ。
 
 だとすればだ。流みたいに、外装を脱着で軽量モードを再現するようにすればいいのかな?
 
 まぁ……ある程度技術教えて、後々自分で改良出来るようにしておくんだけどね!
 
 だってねぇ。私達の世界に来た時、こっちの世界で現状用意できない武装を積んでたし、全く知らないシステムもあったしねー……なかなかエグいシステムだったと思うけど。
 ちゃんと見たわけじゃないから解らないのよね。
 
 まぁ、そのための容量を確保しながら、出力とか弄っておかないと行けないなーって。
 
 最終的に、なのはさんのブラスター……いや、かつての旧エクセリオン並の無茶な出力を叩き出せる様になる。それもレリックというコアありきの無茶な設定のやつを。
 それは、サトが選んで載せたものだろう。今から載せて調整してあげたいけれど……あいにくブツも無ければ、ドンピシャの設定も出来ない。
 
 最後に私達がサトの姿を見たのは……ゆりかごの中からだった。
 完全適応したレリックウェポンとは言え、まさかの事を成し遂げて、それっきりだ。
 
 無事……だと思う。
 
 ゆりかごから脱出出来なくて、その爆発とタイミングを合わせて転移した結果が今に繋がってくるんだけど。
 また会えるっつってたし、多分約束は守ってくれるだろうけど……それはいつ達成出来るか解らないのよね。

 私達に取っては数年前の過去で、この世界にいるサトには、いつかの未来の出来事なわけで。

 ふと、背後に気配を感じるなーと思えば。
 
「これは……何作ってるん?」

 唯一暇を持て余してた……というか、過去試合を閲覧してたはやてさんが私の作業内容を見ていて首を傾げている。
 
 別に隠すことでは無いから素直に。 

「サトのデバイスの調整ですね。武装は……まぁ色々充実してますが。長く戦えるように、ちゃんと護ってあげられるように調整ですね」

「なるほど……所でな震離?」

「んー何でしょ?」

 少しだけ空気が変わったのを察して、手を止めて振り返る。

「……あんな? サトをこっちの世界に連れて行くって事って……出来るんかな?」 

 意外な提案で驚いたなって。
 
 ――――
 
 話を聞いて、ちょっぴり切なく、悲しくなった。
 はやてさん曰く、極めて近い世界ならば、元いた世界に帰れるんじゃないかと。
 それなら、一時的にでも一緒に居られないかって。

 すごく優しい提案で、私もそうしてあげてほしいと、思ったけれど……。
 
「駄目です。少なくとも、サトが世界を巡った後に……はやてさん達の世界で逢えた時にその言葉を掛けてあげて下さい」

「……そっか。理由聞いてもええ?」

「……えぇ。ただし、言っちゃ駄目ですよ? まだサト自身が不安定ですから」

 ポツリポツリと話しを始める。
 
 それはサトが関わらなかった場合の事を。
 
「……まず、ここでサトがそちらに着いていって元の世界へ帰った場合。おそらくサトが関わったであろう世界が詰む可能性が高いです」

「……具体的な根拠は?」

「……今、こうして話なんかできなくなる可能性があった(・・・)。未来のサトはいろんな世界に介入するんです。
 少なくとも私……いえ、私達の世界では特に」
 
 奇跡を単騎で起こしたということ。サトが居なければおそらく別の誰かが担っていただろう事を、サトが肩代わりした。
 それ以外にも、サトは動いていたんだろう。だから私達の世界では大胆に行動していた。
 ゆりかご事変までは確実に起きることだと捉えた上で、自分に出来る最善手を打った。
 
 それは、私達と敵対することだとしても、だ。
 
「……はやてさん? もしかしてそちらの世界でもなにかおかしな事が起きてませんか?
 例えば、ありえないタイミングで響に関する何か(・・)があったとか?」
 
「……ぁ」

 一瞬考えて、何か思い当たる節があったようで、小さく声を漏らした。
 
「……ホテル・アグスタ。そこの地下で、大量に響の血痕があった……まさか。
 それにギンガ達が喫茶店で会った人に似てるって、響とサトが戦った時に」

「……あぁ。懐かしい。アグスタの戦闘中のタイミングで現れたって言ってましたよ」

 目を見開く。やはりか、ということは……まだ居るんだね。その世界に、未来のサトが。
 
「や、まだや。仮にサトやとして……そうだとして、なんで……私達の世界の震離達を助けに来なかった? 響の記憶があるのなら、あの時助けに来ないわけが」

「……そうしないように。きっと少し先の私達(・・)が釘を刺したんだと思います」

「っ!」

 胸ぐらを掴まれた。
 というのに、悠長に気管が狭まって息苦しいな、なんて考えてる。
 少し先の私達、という言葉の意味に気づいての行動だ。
 
「なんでや? 今も私達の世界の震離達はどこかで帰るために色々しているかも知れへんのに、サトがもし居たら、なにか変わっていたかも知れへんのに!」

「……じゃあサトが介入して変わった場合、ここに居るはやてさん達はどこから来るんですか?」

「そ、それは!」

 ……そうなってしまうんですよ。そうならなった世界もあるかも知れない。でも、それがこの世界に繋がる保証もない。

「……途中まで極めて酷似して、そちらの世界の私達がゆりかご事変の後も旅に出ず、六課に残っていたら。今頃呼び出されることなんてなかったと思いますよ?
 限りなく似たタイミングで花霞というデバイスを頂いて、響が小さな女の子になったタイミングも酷似したのは、おそらくあなた達の世界だけなんですよ」    
 
 ……花霞、いや、あの白い刀には最低でも3つの名前の分岐点がある。一つは今も名付けられている花霞(はながすみ)、そして、私の世界では花卯月(はなうづき)という名前、最後の一つは分からないけれど。この何方でも無いというのを言っていたのを覚えている。
 
 そして、何よりも。
 
 私達の世界ではゆりかごの雷を止めたのも違うということだ。

「少なからずサトはいろんな世界に影響を与えています。少なくとも私達の世界ではアンノウンとして現れてましたからね」 

 ……私達の世界に来た時、どれほどあの人が苦しんだのか分からない。皆が生き残れるように、そのために此方(こなた)は来たんだって言ってたしね。

「……待ってや。それじゃあサトは、これから大変な道に行くことになるん?」

「えぇ。極めて困難な道をサトは辿ることになります」

「知ってるなら、違う道が!」

「……完全なアンノウンが、情報を持ってきたとして……信じられますか? 陳述会の日に、機動六課は襲われ、地上本部は事実上の敗北するなんて。
 比較的寛容なヴァレンさんも、キュオンさんですら。正体不明のアンノウンとして一度は突き放そうとしたのに。
 どうやっても、サトは平行世界に降りた時点で険しい道を歩むんですよ」
 
 しかも、どうやら未来のサトは六課が襲われなかった場合も見ていたらしいしね。
 加えて、ヒタチサトというオンリーワンが自然発生するかと言われれば……正直難しい。緋凰響という器を、天雅奏という生体データを用いてレリックで再構築したから生まれた……どこにも居ない人物だというのに。
 幸か不幸か、レリックが完全に適応した結果……どのレリックウェポンよりも安定し、王族が目指したであろうポテンシャルを発揮出来る様になる。
 古代ベルカ時代の人の血を色濃く継いでるとはいえ、どの王よりも安定しているのは皮肉にも程がある。
 
 ふと、シミュレーターが試合終了のブザーを鳴らしているのが聞こえて。
 
「……さ、もうまもなく奏やはな、小さなはやてさんが戻ってきます。気取られないようにしてくださいね?」

「……」

 ゆっくりと手を離してくれるのを見届ける。
 良かったよ。ダボッとしてるパーカーを羽織ってて。これならシワは目立たない。
 
「……ゆりかごを、中から破壊、消滅させるために震離と流が残った場合。生存確率はどれくらいや?」

 ……やっぱりそうか。平行世界の私達がとった行動はそうなんだね。
 それならば。

「……直後に空間転移していれば高いかと。ただ、ゆりかごを破壊したエネルギーで座標なんてどこを示すかわかりませんけど。
 帰るって言ったのなら、私達はそれを護りますよ」 

 同じ私の事だ。おそらく絶対帰ってくると告げたんだろう。
 
 だったら、私もそれに合わせるだけだ。私達がついたであろう本気の嘘を通すために。
 
 
――sideフェイト――

「……ゆりかごを中から破壊、消滅させるために震離と流が残った場合。生存確率はどれくらいや?」

 部屋に入る前に、そんな声が聞こえてきて。私達の動きは止まった。
 
 いや、正確には。響の足が止まったんだ。まるで縫い付けられたように動かなくなって、その手はすごく冷たくなって。
 
「……直後に空間転移していれば高いかと。ただ、ゆりかごを破壊したエネルギーで座標なんてどこを示すかわかりませんけど。
 帰るって言ったのなら、私達はそれを護りますよ」  
 
「……ッ」

 踵を翻してその場を離れようとするのを慌てて止めて。
 
「……何でもない。何でも無いから、手を……離して」

 声が震えている。
 
 初めて小さくなったときのように、泣いているというのがすぐ分かった。
 だけどどうして? 
 
「ごめん。今入れない。だから……」

「分かった。それなら」

 響の手を引いて集合場所とは違うところを目指す。
 その間に、人払いの魔法を掛けながら……うん。屋上だったらきっと大丈夫。
 
 
 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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 今回でストックが切れましたので、次回以降更新が不安定になるかと思いますが、遅くても2日に一度を目標にしていきたいと考えております。 
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