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戦国異伝供書

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第五十九話 死地へその七

「そして一方は前に留まったままですが」
「それで、ですか」
「あと一方は」
「こちらに来ますか」
「妻女山に」
「わたくし達をどう攻めればいいか」
 やはり勘から察して言う謙信だった。
「それを考えるとです」
「軍勢を二手に分けて」
「そうしてですか」
「一方でこの山を攻めて」
「もう一方は攻めぬ」
「これはどういうことでしょうか」
「後ろから攻めて」
 上杉軍から見てのことである、このことは。
「そして前に追い落とすか向かわせるのでしょう」
「前に向かえば」
「そこには敵の本軍がありますな」
「その時は」
「観るのです」
 謙信は前を指差した、そこにはだった。
 風林火山が書かれた武田の赤い旗があった、孫子のその言葉こそが信玄がいるという証である。
 その旗を見てだ、謙信はさらに言った。
「わたくしがそこに逃れた時に」
「武田殿ご自身が攻められ」
「殿を倒すというのですか」
「そして我等も」
「そうです」
 まさにというのだ。
「そのおつもりです」
「では」
「ここは、ですか」
「我々は、ですか」
「それにどう対するか」
「そのことは」
「そうして来るなら」
 謙信は諸将に迷わずに述べた。
「我等は先に動くまでです」
「敵が後ろから攻めて来る」
「それならばですね」
「その敵を待ち受けて」
「そして倒しますか」
「そのうえで」
 諸将はさらに言った。
「返す刀で、ですな」
「残ったもう一方を攻める」
「そうしますな」
「そうして武田家の軍勢を倒す」
「そうするのですな」
「違います、前をです」
 謙信は諸将にこう返した。
「前に出ます」
「前ですか」
「そこにですか」
「そこに出られるのですか」
「敵が後ろか攻める前に」
 まさにその前にというのだ。
「一気に前に出て」
「まさかと思いますが」
「この妻女山を下りて」
「そしてですか」
「前にいる武田の軍勢を攻めますか」
「あちらには武田殿がおられるやも知れませぬが」
「武田殿は必ずおられます」
 謙信はこのことも勘から述べた。
「ならばです」
「あえてですか」
「武田殿を攻められて」
「そこで雌雄を決される」
「そうされるのですか」
「そうです、武田殿を討ち取ることは出来ません」
 謙信はこうも言った。 
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