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虹にのらなかった男

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P14

アブルホール二機、ガンダム一機、ガンキャノン三機がWBの上部甲板上に張り付いている。

『これよりシアトルへ入る。夜間監視警戒モード』

『了解。各外部隔壁閉鎖、MS隊甲板配置良し』

「MS隊各員に通達、ハイドモードで現状維持」

今から俺達はシアトル圏に突入する。

シアトルには現在ガルマ隊が居る。

作戦は、中央突破。

なぜそんな無茶をするかといえば、それが一番いいからだ。

ここはキャリフォルニアじゃない。

つまり敵方の戦力にも限りがある。

今回の作戦が夜間電撃奇襲作戦になるか逃亡戦になるかは不明だ。

理想は通り抜けることだが、それは難しいだろうと思っている。

微速でシアトルに入り、中頃。

『閃光弾よ!』

ミライさんの焦った声が聞こえた。

「ブライト!前!」

『雨天野球場か! ミライ! あそこに入れられるか!?』

『やってみるわ!』

と、まぁ、ここまでは原作通りの流れなのだが。

「ブライト、どうする気だ?」

『未定だ』

ま、いいけどね。

『ブライト艦長! 僕が囮になります!』

『囮だと!?』

『はい、僕が逃げるようにして敵をホワイトベースとは反対側に誘きだしますから、後ろから撃ってください!』

「俺も行こうか?」

『中尉さんのアブルホールは火力があるのでホワイトベースを守ってください』

現在俺のアブルホールにはビームカノンが装備されている。

マチルダ隊が持ってきてくれた補給物資の中にパーツがあったのでオーバーホールした物を組み直したのだ。

「OK。危なくなったら飛び上がれ、直ぐに迎えに行ってやるよ」

『はい、期待してます』

ガンダムが歩行でWBと逆向きに向かう。

ガンダムの走行速度ならかなりの速さでシアトルを横断できる。

それに、シャアなら乗ってくれる筈だ。

ガルマを殺すつもりなら、ここ以上にいい場所はない。

「さぁ…赤い彗星、どう出る?」

side out








シャア・アズナブルはガウのブリッジで、モニターを眺めていた。

「ガルマ、逃げる白い奴を追うぞ。その先に木馬が居る筈だ」

「そうだな…」

「それに例の戦闘機も居る筈だ。対空機銃は前に向けておいた方がいいかもしれないぞ」

「ああ、あの可変戦闘機には随分味方を落とされた。ここで落とすさ」

「君の采配に期待する。私も出る。あの白い奴には私も部下を落とされたからな」

格納庫へ向かうシャアは、薄く笑みを浮かべていた。

「ご機嫌ですな少佐」

「ああ、あの白い奴を落とせるかと思えば笑みも浮かぶさ」

「少佐なら勝てますよ。整備もバッチリです!」

「ありがとう。感謝する」

ザクⅡSに搭乗したシャアが、部下を率いて降下する。

「あそこか…」

シャアは確かに、ガンダムが逃げる方向とは逆の方向にWBが居るのを確認した。

降下したシャアが、ガンダムを追う。

逃げるガンダムと、追いかけるザク一個小隊。

倒壊したビル等を遮蔽物にして、ガンダムが三機の攻撃を避けながらガウ編隊を誘き出す。

策に嵌まったガルマが、ガウを転進させる。

アブルホールの中でアベルがニヤリと笑った。

「ブライト。作戦成功だ。攻撃タイミングは任せる」

『了解。こりより15秒後に敵編隊への攻撃を開始。ミライ、カウントを頼む』

『了解。15、14』

ミライのカウントが艦内放送で流れる。

その間、ブライトはクルーへの指示を迅速に出していた。

そして…。

『…2、1、0!』

『ホワイトベース浮上! 攻撃開始!』

WBが野球場から出ながら、主砲、副砲、メガ粒子砲などの撃てる限りの砲を撃つ。

さらには上部甲板上のMS隊も攻撃を開始。

アブルホールのビームカノン、ガンキャノンの肩部280ミリとビームライフル。

それらがガウ編隊のがら空きの背後を撃つ。

編隊のうち一機が転進。

『特攻する気か!? ミライ!』

『WB急速浮上!』

その中、アベルのアブルホールが飛び出した。

『お兄ちゃん!?』

「やらすかガルマァァァァァアアアッッ‼」

MS形態のままのアブルホールがガウのブリッジに取り付く。

そして、アブルホールのサブアームがブリッジを貫く。

ヘッドバルカンをガウに叩き込み、急速離脱。











シアトルの、どこかのビルの合間。

カシュン…とアブルホールのハッチが開く。

そこから頭だけを出したアベルが話しかける。

「大将自ら特攻しようというその気概、尊敬いたしまします。ガルマ大佐」

「……………私をどうする気だ」

膝をついたアブルホール。

そのアームに捕まれていた人間が解放される。

ガルマが腰の拳銃に手を伸ばす。

が、しかし。

「こ、子供だと!?」

コックピットから出てきたアベルを見て驚きの声をあげる。

アベルが敵意が無いことを示すようにヘルメットを外し、両手をあげる。

「ガルマ大佐。話を聞いて欲しい」

「……………………………」

「私はあなた方が言うところのニュータイプという者です」

「………………その証拠は」

「この年の子供が連邦の試作機に乗っている事が証拠にはなりませんか?
私は未来を見たのです。その予知夢において、貴方は先の戦闘で命を落としていた」

「私に恩を売る気か」

「いいえ。ですが協力していただきたい」

「なに?」

「この戦争は、ジオンの負けで終わります。そして数年後。連邦内部にはジオン残党殲滅を目的にスペースノイド弾圧の兆しが生まれる」

「それも予知夢か」

「はい。貴方にはその時に、その軍閥組織に対抗するための組織に属して欲しいのです。
そしてそのために、貴方には潜伏していていただきたい」

「私にメリットはあるのか?」

「貴方も気づいている筈だ。シャアがザビ家を恨み、貴方を嵌めた事を」

「っ…!」

ガルマが唇を噛む。

「今帰っても、貴方はまた討たれる。シャアを退けても、ギレンとキシリアの争いに巻き込まれて死ぬだけだ」

「………………ジオンは負けるのか?」

「貴方ならわかる筈だ。補給線は伸び、末端の兵は疲弊している。なのにトップがいがみ合い、あまつさえ軍を別けるなど。これでは勝てる争いも勝てない」

「そう…だな」

「それに、ザビ家の血は絶えない。貴方の兄ドズルの娘ミネバはアクシズに逃げ延びるだろう。しかしその後はどうなるかわかるだろう? 神輿にされて終わりだ」

「ミネバのことまで知っているのか…ははは…これは本物らしいな」

「だから、貴方にはミネバがこの地球圏へ帰ってきたときに迎えてあげてほしい。ドズルもできるだけ助けたいとは思うが、彼の気質では前線で死にかねない。だから、保険が欲しい」

ガルマは暫く考えた後。

「いいだろう。貴様の予知夢とやら、信じてみよう」

「ありがとうございます」

アベルはそう言うと、コックピットに戻り、ビームカノンユニットの下部メンテナンスハッチを開けた。

そこからドサッとカプセルが堕ちる

「役に立ちそうな物を手当たり次第入れています」

「助かる」

「では、いつの日かまた会いましょう。ガルマ大佐」

「ああ、また会おう。連邦の小さき賢者よ」
 
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