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妄想を砕いて

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第一章

               妄想を砕いて
 昭和六十一年、この年日本のプロ野球界は狂っていた。 
 読売ジャイアンツ、長きに渡って日本の野球を私物化し専横の限りを尽くしてきているチームを優勝させようという『熱気』に支配されていたのだ。
 巨人はこの時まで二年連続で優勝を逃していた、その為今年こそはという雰囲気が自然と出来てしまっていたのだ。
「今年は優勝だ!」
「巨人は球界の盟主だぞ!」
「二年連続で優勝を逃しているんだ!」
「巨人は毎年優勝しないと駄目なんだ!」
 ファンという名の衆愚共が妄言を喚いていた、そんな中でシリーズがはじまり。
 広島東洋カープが勢いを得ていたがだ。 
 マスコミは北朝鮮の報道の如く巨人贔屓であった。
 終盤巨人が首位に立つとこの雰囲気は最高潮となった、ある巷にいる自称昔からのファン生まれた頃からのなぞいい気なものであった。
「もう決まりですね」
「巨人の優勝で、ですね」
「はい、もう断然ですよ」
 多幸症に陥ったかと思うまでににやけて言うのだった。
「巨人優勝です」
「ここまでくればですね」
「広島が不利なのは明らかです」
 にやけたまま言うのだった。
「このままいけばです」
「巨人が優勝して」
「二年間の鬱憤をですね」
「晴らしてくれますよ」
 こう言っていた、そしてそんな中でだ。 
 広島は戦っていた、だが彼等には意地があった。
「負けてたまるか!」
「巨人が何だ!」
「今年はうちが勝つ!」
「ここで踏ん張るぞ!」
 山本浩二、衣笠祥雄の二人を軸として彼等は戦っていった。だが広島だけでどうにかなる状況ではなく。
 巨人は当時弱小とみなされていたヤクルトにも連勝し十月のいよいよ優勝を決めるという名かを順調に勝っていった。
 そのヤクルトは誰も期待していない状況だった。
「去年最下位でな」
「今年もだろうな」
「全く、どうしようもないな」
「巨人と違ってな」
 ファン達は球場でもテレビの前でもぼやくばかりだった。
「ピッチャーは打たれる、打線は打たない」
「杉浦も若松も長子悪いしな」
「これじゃあどうしようもないな」
「最下位も当然だな」
 まさに弱小チームであった、そして巨人には特に念入りにだった。
 負け続けていた、それは助っ人も関係していた。
「レオンはいいけれどな」
「ああ、大洋からよく来てくれたよ」
 レオン=リー、彼については評判がよかった。だが当時ヤクルトにいた助っ人は一人ではなかったのだ。
 マーク=ブロハード、彼が問題であったのだ。
「折角獲得したけれどな」
「期待外れだな」
「打率が二割五分でホームランは二十本か」
「三振多いしな」
「今年でクビか?」
「あいつはそうかもな」
 完全に意気消沈している言葉だった、球場でもテレビやラジオの前でも。 
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