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謀の果て

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第二章

 片時も離さず二人の話ばかりを聞いていた、すると二人は里克の恐れていた通りにだ。
 献公に常に彼の先の三人の優れた子達特に長子であり跡を継ぐことが決まっている申生の悪いことをそれこそ嘘ばかり並べたてて讒言していった。そうして次第に献公の申生への感情を悪くさせここでだった。
 二人はそっとだ、献公に何気なくを装って囁いた。
「近頃夷の力が強いです」
「兵を送って攻めるべきだと思います」
「ここは申生様に言って頂くべきかと」
「それがいいかと」
「そうだな」 
 最早二人の言葉には鵜呑みになっている献公は特に疑うことなく彼女達の言葉に頷いてそうしてだった。
 すぐに申生に兵を預け夷の征伐に向かわせた、里克はその兵の数と攻める先の夷の強さを知っていてだ。
 すぐにだ、申生に言った。
「兵をより多くです」
「連れて行くべきか」
「明公にお話して」
 彼の父である献公にというのだ。
「そしてです」
「それから攻めるべきか」
「そうです、この兵ではこの度の敵は破れません」
「しかしだ、これは父上のご命だ」
 それ故にとだ、孝行者で知られる申生は言うのだった。
「それならばな」
「異をですか」
「唱えることはよくない、この兵でな」
「夷をですか」
「必ず破る、ではな」
「それでは」
「勝って帰って来る、そなたが案ずることはない」
 こう言ってだった、申生は出陣した。晋の多くの心ある者は申生は敗れると思っていた。そしてそれはその二人驪姫と呼ばれる様になった彼女とその妹も同じだったが二人はほくそ笑んでいた。
 だが心ある者の不安も心ない者の笑みも裏切ってだ、申生は見事夷を破って帰って来た。このことに里克に二人のことを聞いていた者達は彼に笑顔で話した。
「これで申生様は助かったな」
「見事夷を打ち破られた」
「もうこれで安心だろう」
「あの方が次の晋の主で決まりだ」
「いや」
 里克は険しい顔でだ、友人達に答えた。
「あの二人は違う」
「ではまだか」
「まだ諦めないでか」
「それでか」
「奸計を仕掛けるか」
「そうされるか」
「それは重耳様や夷吾様にも及ぶ」
 二人は彼等も狙っているからだというのだ。
「だからだ」
「まだ安心出来ぬか」
「それで、ですか」
「お二方はこれからもか」
「申生様を狙われるか」
「明公は最早二人の言いなりだ」
 その艶に惑わされ溺れてというのだ。
「どうなってもおかしくない」
「ではまだか」
「申生様の御身は危ういか」
「そうなのか」
「あの二人、何とか」
 里克は苦々しい顔でだ、その目に鋭いものを宿らせて言った。 
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