併殺打

「わしも絶対に取れって言うわ」
「そうだ、だがその時相手は三塁ランナーに注意を払わない」
「ああ、そこでか」
　ここで西本もわかってスペンサーに応えた。
「三塁ランナーをホームに突っこませるか」
「それで一点だ、その一点がだ」
「ああ、試合の勝敗を決めたりするな」
「それが野球だ、だからだ」
「そうしていってやな」
「一点一点だ」
「取ってくんやな」　
　西本はスペンサーに納得した顔で応えた。
「そういうことやな」
「三塁ランナーを警戒すれば一塁ランナーとバッターランナーはその間に進めばいい」
「そうすれば満塁に出来るな」
「一点か満塁かだ」
「成程な、それはええな」
「だからそうした時に内野ゴロを打つことだ」
　ノーアウトランナー一塁三塁の時はというのだ。
「どうだ」
「ええな、これやったらパワーのない奴がバッターでもな」
「一点入るな」
「いけるわ、そうした作戦も使って」
「勝っていこう」
「ほなな」
　西本は頷きスペンサーの作戦通りに試合をすることも進めていくこともした、そしてそのうえでだった。
　スペンサーは相手チームのピッチャーが一球投げる旅にメモを取りまた西本に話した。
「相手ピッチャーの癖や球種を書いていっている」
「おお、そこからやな」
「相手ピッチャーを攻略していこう」
「そやな、相手がわかったらな」
「こっちはその分戦いやすい」
「そういうことやな」
「そうだ、俺はメモを取っていくからな」
　それでというのだ。
「チームに役立ててくれ」
「わかったわ」
　西本はスペンサーの言葉に頷いてだ、そしてだった。
　そのメモも使って戦っていった、するとさらにだった。
　阪急は勝てる様になった、だが南海はやはり強くスペンサーが入団してからも三年連続リーグ制覇を果たしていた。
　その中で昭和四十二年のリーグを迎えることになったが。
　スペンサーはここでもだ、西本に話した。
「少し考えがあるが」
「今度は何や」
「外野のフェンスを前にしないか」
「前に？」
「そうだ、西宮球場のフェンスをな」
　阪急の本拠地であるこの球場のというのだ。
「三メートル前にするんだ」
「それだけかいな」
「そうすればだ」
　フェンスを前にやればというのだ。
「俺の打球の飛距離を考えたが」
「その三メートル分か」
「ホームランが増える、だからな」
「ホームランを打ってか」
「一点でもだ」
　ここでもだ、スペンサーは西本にこう言った。