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英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

作者:sorano
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第43話

同日、14:00――――――


ヴァイス達による宣言が行われた二時間後、昼食を終えたリィンは仲間達の様子を見る為に艦内を徘徊していた。

~メンフィル帝国軍・ヴァリアント・エリス少尉とアルティナ特尉の部屋~

「……………………」
「…………どうしたんだ、アルティナ。あまり元気がないように見えるが。」
エリスとアルティナの部屋に入ったリィンは暗い表情を浮かべて”みっしぃ”のキーホルダーを見つめ続けているアルティナの様子が気になり、声をかけた。
「リィン少佐。体調面は到って良好ですが。」
「体調面はそうかもしれないけど、精神面はそうじゃないんじゃないか?」
「……………………」
リィンに指摘されたアルティナは何も答えられず黙り込み
「…………もしかして、ミリアムの事か?」
アルティナの様子の原因に察しがついたリィンは辛そうな表情で訊ねた。

「…………はい。内戦が終結してからあの人――――――ミリアムさんと実際に話したのはミリアムさんが一端トールズ士官学院に戻る前の1回だけでしたが…………それでもミリアムさんはしつこく自分がわたしの”姉”であると言い張って、”これから姉妹になるから、その記念のプレゼント”と言って、これをわたしに押し付けたんです。」
「…………そうか。そのキーホルダーのマスコットは確かクロスベルのマスコットキャラの”みっしぃ”だったよな?まさかミリアムは、トールズに来る前は”情報局”の関係でクロスベルにも行った事があるのか?」
アルティナの話を聞いて亡くなったミリアムの事を思い出したリィンは辛そうな表情を浮かべた後アルティナに確認した。
「いえ。去年に起こったD∴G教団の件を機に二度と開催されなくなった黒の競売会(シュバルツオークション)に参加したアランドール少佐がミリアムさんへのお土産として買ってきたものだそうです。」
「黒の競売会(シュバルツオークション)…………ロイド達が潜入したっていうクロスベル最大のマフィア――――――”ルバーチェ”が開催していた”黒い”方法で入手された出品物の競売会(オークション)か…………(そんなにも前からレクター少佐がクロスベルで活動していたのは…………間違いなくオズボーン宰相が関係していたんだろうな。)」
アルティナの答えを聞いたリィンは静かな表情で呟いた後複雑そうな表情を浮かべた。

「…………わたしは今わたしの事が理解できないんです。あれ程ミリアムさんの事を鬱陶しく思っていたのに、ミリアムさんが死んでしまった事を知った時に胸に痛みを感じて、今こうしてミリアムさんが押し付けてきたキーホルダーを見るだけでも勝手にミリアムさんの事が思い浮かんで、また胸に痛みを感じるんです…………」
「アルティナ…………」
辛そうな表情を浮かべて片手で胸を抑えてキーホルダーを見つめて呟いたアルティナの様子を見たリィンは出会った当初は”人形”を思わせるような無表情であったアルティナに”感情”が芽生えている事を悟り、驚きの表情を浮かべた。
「リィン少佐…………わたしはどこかおかしくなったのでしょうか…………?」
「――――――いいや、アルティナが今感じているものは俺達”人”なら誰もが感じる”悲しみ”という”感情”だ。」
「今も感じているこの胸の痛みの正体が”悲しみ”…………」
「ああ…………アルティナは今、ミリアムが死んでしまった事に対して胸が締め付けられるような痛みを感じているんだろう?それは間違いなく”悲しみ”だよ。…………俺だってミリアムが死んでしまった事に胸が締め付けられるような痛みを感じているよ。」
「…………ミリアムさん…………ぁ……これは…………”涙”…………?」
リィンの指摘を聞いた後ミリアムの事を思い返したアルティナは自分が涙を流している事に気づき
「――――――そのまま泣いていいんだ。アルティナ自身は気づいていないだろうけど、ミリアムが亡くなった事に泣きたいとアルティナの”心”がそう望んでいる証拠だ…………」
それを見たリィンは優し気な表情を浮かべてアルティナを自分の胸に抱きよせて頭を優しく撫でた。
「リィン…………さん…………う…………あ…………ぁぁぁぁぁぁぁ…………っ!」
そしてリィンの言葉を聞いたアルティナはリィンの胸の中で声を押し殺してミリアムの”死”に対して泣き、リィンはアルティナの頭を優しく撫で続けていた。

「…………もう、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました。」
少しの間泣いていたアルティナは泣き終えた後リィンから離れた。
「迷惑だなんて思っていないさ。それよりもアルティナが初めてハッキリとした感情を見せてくれたんだから、むしろ嬉しいくらいさ。」
「…………人の泣いている姿を見て”嬉しい”と思うなんて、不埒です。」
「――――――――――――」
苦笑しながら答えたリィンの答えを聞いたアルティナは恥ずかしさを感じた事で頬を僅かに赤らめてジト目でリィンに指摘し、アルティナの言葉に続くようにクラウ=ソラスもアルティナの傍に現れて機械音を出した。
「ハハ、その調子ならもう大丈夫そうだな。」
「ぁ…………」
アルティナの様子を見たリィンは微笑ましそうにアルティナを見つめながらアルティナの頭を優しく撫で、頭を撫でられたアルティナは呆けた声を出した。

「――――――”リィンさん。”」
そしてアルティナは決意の表情を浮かべてリィンを見つめた。
「?どうしたんだ、改まって。」
「…………リィンさんはメンフィル軍の捕虜であったわたしを引き取ってくれた時にこう言ってくれました…………『俺達の使用人という名目で君を引き取ったけど、それは建前で本当の理由は俺達はアルティナの事を”守りたい”と思ったからだ』…………と。だから、わたしは今ここで”わたし自身の意志で決めます。”――――――わたしにとってリィンさん達は大切で、ミリアムさんのように失いたくないからこそ、わたしはリィンさん達を守ります。そして全てが終わった時に改めてリィンさん達――――――シュバルツァー家の方々に今までのお礼や内戦での謝罪を言わせてください…………!」
「アルティナ…………(ハハ………今のアルティナの急成長ぶりをミリアムが見れば驚くと同時に喜ぶだろうな…………)…………ああ…………改めてよろしく頼む…………!」
自分の意志で自身の決意を伝えたアルティナの様子に驚いたリィンは亡きミリアムの反応を思い浮かべた後静かな表情でアルティナを見つめて頷いた。

部屋を出て艦内の徘徊を再開したリィンは通路で話し込んでいる様子のエリゼとステラが気になり、二人に近づいて声をかけた。


~通路~

「エリゼ、ステラ。」
「リィンさん。
「どうかされたのですか、兄様?」
「いや…………珍しい組み合わせだと思って声をかけたんだが………一体何について話し合っていたんだ?」
「セシリア教官の事です。」
「セシリア教官の?教官が今回の戦争のメンフィル帝国軍側の”総参謀”である事は聞いているが…………それがどうかしたのか?」
ステラの話を聞いたリィンは不思議そうな表情で訊ねた。

「それが…………エリゼさんの話によりますと、セシリア教官、ロレントにあるメンフィル大使館でⅦ組の方達と実際に会って話したことがあるとの事で、それが一体どのような内容で、何故セシリア教官がそのような事をしたのかが気になってエリゼさんと話していたんです。」
「へ…………セシリア教官がメンフィル大使館でアリサ達と!?何でそんな事に…………」
「…………オリヴァルト皇子殿下がリベールのアリシア女王陛下を通じてメンフィル大使の代理であられるパント様に戦争を和解に導く為の交渉を用意してもらい、その交渉の際に偶然大使館に滞在していたセシリア様も同席していたとの事ですが……………………どうやらセシリア様は兄様の担当教官として、Ⅶ組の方々が気になったようでして、ご自身の目でⅦ組の方々を見て分析する為にパント様に交渉の場にⅦ組の方々も同席する要望をして、その結果交渉の場にⅦ組の方々も同席したとの事です。」
「教官がアリサ達を……………………ハハ、まさかそんな形でアリサ達がセシリア教官と会うなんてな。アリサ達、セシリア教官の事を知って驚いたんじゃないか?」
エリゼの話を聞いて目を丸くしたリィンは苦笑しながらセシリアの事を知って驚いている様子のアリサ達を思い浮かべた。

「ええ。――――――最も、セシリア様の痛烈な指摘にⅦ組の方々は何も反論できなかったとの事ですが。」
「教官がアリサ達に指摘を?一体どんな指摘をしたんだ?」
「――――――今の状況でメンフィル帝国所属のリィンさん達がⅦ組に戻れば、例え戦争の件をリィンさん達がⅦ組に戻って協力して解決できたとしても”リィンさん達はメンフィル帝国にどのような扱い”をされるかについての指摘との事です。――――――要するにリィンさん達をメンフィル帝国軍から取り返して、Ⅶ組に戻ってもらおうと考えているⅦ組の方々への”釘刺し”でしょうね。」
「それは……………………」
ステラの説明を聞いて事情を察したリィンは複雑そうな表情を浮かべた。

「兄様。セシリア様は兄様達の将来の為にも、アリサさん達に”釘刺し”をしたのでしょうから、どうかセシリア様の事を誤解しないでください。」
「そのくらいは言われなくてもわかっているさ。――――――それに、セシリア教官に気を遣ってもらわなくても、俺――――――いや、”俺達”は今回の戦争を含めた”巨イナル黄昏”の解決はメンフィル帝国軍側について解決すると決めたんだからな。アリサ達の事だからクロウの時のように、俺達にⅦ組に戻ってもらおうとするだろうけど、”Ⅶ組に戻った所で何の解決もしないし、絶対にできない上父さん達にまで迷惑をかけてしまう事”はわかっているから、戻るつもりは毛頭ないさ。」
「リィンさん…………」
エリゼのセシリアに対するフォローの言葉を聞いて静かな表情で答えたリィンの様子をステラは心配そうな表情で見つめた。
「エリゼ、もしセシリア教官に会うような機会があったら、『お気遣いいただきありがとうございます』と伝えておいてくれ。」
「…………わかりました。ですが、兄様自身がそのお言葉を伝えられるように努力した方がいいかもしれませんね。」
「フフ、”総参謀であるセシリア教官に会いに行ける立場”という事は”メンフィル帝国軍でもそれなりの立場になっている”という事ですものね。」
「ハハ…………それもそうだな。」
エリゼにセシリアへの伝言を頼んだリィンだったが、エリゼとステラの指摘を聞くと苦笑しながら頷いた。

その後二人から離れて徘徊を再開したリィンはアルフィンの様子が気になり、アルフィンの部屋を訊ねるとアルフィンは自分と同室のミュゼと仲が良い様子で話していた。


~アルフィンとミュゼ特尉の部屋~

「――――――という事で、わたくしはリィンさんと共に”パンダグリュエル”を脱出する事ができたのですわ。」
「ふふっ、なるほど。そしてその件が切っ掛けで姫様はリィン少佐に恋をしたという訳ですわね。――――――いえ、むしろ前々から芽生えていたリィン少佐に対する”恋心”を自覚したと言うべきでしょうか?内戦が起きる前にも姫様がリィン少佐に恋をする切っ掛けがあったとの事ですし。――――――具体的に言うと去年の夏至祭で起こった帝国解放戦線によるテロ活動でエリス先輩と共に拉致された後、テロリスト達からリィン少佐達に救出された事で♪」
アルフィンの話を興味深そうに聞いていたミュゼは小悪魔な笑みを浮かべてアルフィンに指摘し
「別にあの時点では純粋に感謝していただけなんだけど――――――あ、リィンさん。」
ミュゼの指摘に苦笑していたアルフィンはリィンに気づくとリィンに声をかけた。

「ハハ…………随分と懐かしい話をしていたけど、エリスやアルフィンと親しいミュゼも二人から夏至祭での出来事を教えてもらっていたのか?」
「はい♪――――――勿論リィン少佐が”帝国解放戦線”から姫様達を救出した際に、リィン少佐はエリス先輩ではなく姫様を”お姫様抱っこ”をした事も教えて頂けましたわ♪」
「ミュゼっ!?」
自分の問いかけに対してからかいの表情で答えたミュゼの答えにアルフィンは顔を赤らめて声を上げ、リィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「ハ、ハハ…………それよりもミュゼ。正午のヴァイスハイト陛下達による演説の協力、お疲れ様。」
「ふふっ、あれは決起軍にとってもそうですが私自身にとっても”利”のある話でしたし、何よりもメンフィル・クロスベル連合と盟を結んでいる者としての”義務”を果たしたまでですわ。」
リィンに労いの言葉をかけられたミュゼは静かな笑みを浮かべて答え
「決起軍にとっての”利”…………内戦では”エレボニアにとっての逆賊”だった貴族連合軍が今回の戦争では”帝国政府によって暴走するエレボニアを止めようとするために立ち上がった勇士達”――――――つまり、『義はヴァイスラント決起軍にある』という事をクロスベルの人達に――――――いえ、世界中の人々に印象付ける為かしら?」
ミュゼの答えを聞いてミュゼの狙いを悟っていたアルフィンは複雑そうな表情で推測を口にした。

「はい。…………叔父クロワールによって一時は幽閉の身にされた姫様にとっては思う所はあるかもしれませんが、”オズボーン宰相達を廃した後のエレボニア”にとっては必要な事ですので。」
「あ…………」
ミュゼの話を聞いたリィンは内戦での出来事を思い返して心配そうな表情でアルフィンとミュゼを見比べた。
「…………あの件は前カイエン公によるもので、貴女はあの頃の貴族連合軍には一切関わっていなかったのだから、わたくしの事で気に病むことはないわ。第一今回の件だって、メンフィル帝国軍についたわたくしの事を公表したり、あるいはわたくしをヴァイスラント決起軍の旗印にして一致団結しようとしているエレボニアに更なる亀裂を入れる事もできたのに、貴女はそのどちらもしなかったじゃない。それをしなかった貴女達ヴァイスラント決起軍には感謝しているわ。」
「叔父のやった事とはいえ、オーレリア将軍達は当時叔父に従っていたのですから、これ以上姫様を政治利用するような事は姫様にお世話になった後輩として、そして決起軍の”総主宰”としてそのようなあまりにも道理に欠いたことはできませんわ。――――――何よりも、将来姫様と共にリィン少佐の妻になる事を希望している女の一人として、姫様を含めたリィン少佐の婚約者の方々とは仲良くしたいですもの♪」
静かな表情で答えた後苦笑しながら自分を見つめるアルフィンに対して困った表情で答えたミュゼは妖艶な笑みを浮かべてリィンに視線を向けてウインクをし、ミュゼの行動と発言に二人は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「だ、だから何で君はそんなに俺に対して露骨過ぎるアプローチや発言をするんだ!?幾らエリスやアルフィンから予め俺達の事を聞いていたとはいえ、実際に初めて会ったのは君が俺の部隊に所属された時だろう!?」
(うふふ、恋に時間は関係ないわよ、ご主人様♪第一私達なんか、会ったその日に性魔術(セックス)までしたじゃない♪)
(まあ、それに関しては私やユリーシャも同じだし、メサイアもリィンと出会ったその日に契約したから反論できないけど…………)
(彼女の”事情”やその背景を知った後ですと、何らかの意図があって我が主と結ばれる事を望んでいるようにも見えますね。)
(ええ…………恐らくは”灰色の騎士”と称えられているリィン様の名声を何らかの形で利用しようとしていると思うのですが…………)
我に返ったリィンは疲れた表情でミュゼの指摘し、その様子を見守っていたベルフェゴールはからかいの表情で、アイドスは困った表情で呟き、ユリーシャとメサイアは真剣な表情でミュゼを見つめてミュゼの意図について考えていた。

「フフ、そうですわね…………ちょうどいい機会ですからリィン少佐や姫様に私の誠実さを示す為にも、その理由についてお話しますわ。」
「”誠実”とはおよそ縁がないように見える貴女がそれを言うと逆に怪しく思うけど…………もしかして、リィンさんと結ばれようとしているのは、”灰色の騎士”としての名声、そして今回の戦争で手に入れる予定の様々な名声を持つリィンさんと結ばれる事で戦後のエレボニア――――――いえ、エレボニア側のカイエン公爵家次期当主としての地位を盤石なものにする為かしら?」
ミュゼの答えを聞いてジト目でミュゼを見つめたアルフィンだったがすぐに気を取り直してミュゼに問いかけ
「へ…………それって一体どういう事なんだ?」
アルフィンの推測を聞いたリィンは困惑の表情でアルフィンに訊ねた。
「…………リィンさんも想定しているようにメンフィル・クロスベル連合に敗戦したエレボニアはメンフィル帝国かクロスベル帝国、いずれかの領土として組み込まれてエレボニアという国は滅亡するか、エレボニアが存続できた場合でも国家間の上下関係は間違いなくメンフィル・クロスベル連合がエレボニアよりも”上”になり、エレボニアはメンフィル・クロスベル連合の”属国”と化する可能性が非常に高いと思われますわ。そんな支配者側、もしくはエレボニアにとって”上”の存在であるメンフィル帝国の貴族であり、更に内戦の件で”灰色の騎士”としての名声があるリィンさんとミュゼが結ばれれば、民達もそうですが貴族達もメンフィル帝国と良好な縁を結び、更にはコネもあるミュゼをカイエン公爵家当主の座から追い落とす事は考えないと思いますわ。もしメンフィ帝国と親しいミュゼをカイエン公爵家当主の座から追い落そうとすれば、メンフィル帝国が介入してくる可能性は非常に高いと思われますもの。」
「それは……………………というか、それ以前に今の俺にそこまでの”価値”はないと思うんだが…………メンフィル帝国の貴族と言っても爵位は最下位の”男爵”だし、”灰色の騎士”の名声にしてもオズボーン宰相達が勝手につけた名声だしな。」
アルフィンの説明を聞いたリィンは複雑そうな表情で答えを濁した後すぐに戸惑いの表情を浮かべてミュゼに指摘した。

「例え偽りの名声であろうとも、”灰色の騎士”と呼ばれるようになったリィン少佐が姫様達と共に内戦で残した功績は”本物”ですわ。それに確かにシュバルツァー家は”男爵家”ではありますが、リィン少佐はシルヴァン皇帝陛下の側妃であられるセシリア将軍の教え子の上少佐の婚約者であられるメサイア皇女殿下とセレーネさんはそれぞれメンフィル、クロスベル皇家との縁がある上、エリゼさんはリフィア殿下の専属侍女長を務めている関係でリフィア殿下は当然として、シルヴァン陛下やリウイ陛下を始めとしたメンフィル皇家の方々の覚えがめでたい方なのですし、何よりも姫様――――――例え姫様が地位を捨てようとも”帝国の至宝”の名は未だ健在なのですから、姫様の”主”であるリィン少佐は敗戦後のエレボニアにとっては、国の存続、そして繁栄の為に是非とも縁を結びたい相手ですわよ?」
「た、確かに言われてみれば、今のシュバルツァー家はリィンさん達によってメンフィル・クロスベル連合の皇族の方々との縁ができているから、エレボニアに限らず各国の上流階級にとっても縁を結びたい相手ね…………」
ミュゼの指摘を聞いたアルフィンは冷や汗をかいてリィンに視線を向け
「エリゼはともかく、俺の場合はセレーネ達との婚約が関係しているから複雑だな…………第一内戦の件にしたって、俺一人の功績という訳ではないし、セシリア教官と常に連絡を取れるような伝手がある訳でもないんだが…………――――――というか何でミュゼはそこまでしてまで、エレボニア側のカイエン公爵家次期当主の座を守ろうとしているんだ?ミュゼにとって一番の政敵になりうる存在である前カイエン公のご息女達はクロスベル帝国に帰属する事になった上、二人はミュゼの後ろ盾にもなったと聞いているが…………」
視線を向けられたリィンは困った表情で答えた後すぐに本題を思い出してミュゼに訊ねた。

「無論、ユーディお姉様達の後ろ盾は強力ではありますが、バラッド大叔父様を黙らせる為には”もう一押し”必要ですので。」
「”バラッド大叔父様”って…………もしかしてバラッド侯の事を言っているのかしら?」
「?アルフィンはミュゼの話に出てきたミュゼの大叔父――――――”バラッド侯”という人物の事を知っているのか?」
ミュゼの答えを聞いて目を丸くしてミュゼに確認したアルフィンの言葉を聞いたリィンは不思議そうな表情でアルフィンに訊ねた。
「はい。――――――ヴィルヘルム・バラッド侯爵。前カイエン公――――――クロワール卿の叔父に当たる人物ですわ。」
「前カイエン公の…………!?…………という事は”カイエン公爵家”の血を引いているそのバラッド侯という人物も、ミュゼのように次期カイエン公爵家当主を名乗る”資格”があるから、ミュゼはそのバラッド侯の存在を警戒しているのか…………」
アルフィンの説明を聞いて意外な事実を知ったリィンは驚いた後真剣な表情でミュゼを見つめた。

「ちなみにバラッド大叔父様はクロワール叔父様と同じく”悪い意味での典型的な帝国貴族”の上、自らの益の為ならば他の貴族達も追い落す事もする帝国貴族にあるまじき厚顔無恥な方ですわ。」
「…………そうなのか?」
「ええ…………残念ながら。」
ミュゼの説明を聞いて冷や汗をかいて表情を引き攣らせたリィンはアルフィンに確認し、確認されたアルフィンは困った表情で頷いた。
「ただしバラッド大叔父様はクロワール叔父様と違い、利権にめざとく、また鼻も利く方です。――――――その証拠に内戦時もそうですが内戦勃発までも決して叔父に協力せず、静観していたとの事ですわ。しかもユーディお姉様達がクロスベルに亡命し、また前カイエン公が逮捕された事で一時的に空席となったオルディスの統治者にしてラマール統括領主の地位であるカイエン公爵家当主の座を”暫定”ではありますが帝国政府から打診された際も、『自身が高齢である為そのような大役を務められる体力はない』という”真っ赤な嘘”を理由に辞退していますわ。――――――バラッド大叔父様はエレボニア最大の貴族にして、帝国貴族達を率いる立場である”カイエン公爵家当主”の座につく事を虎視眈々と狙っていたにも関わらずです。――――――それなのに、帝国政府の打診を辞退した理由は先程の私の話を聞けば大体察する事はできるでしょう?」
「それは…………………」
「既にバラッド侯は今回の戦争、”エレボニアが敗戦すると確信している”から、敗戦の”とばっちり”を受けて帝国政府共々メンフィル・クロスベル連合の処罰の対象にならない為にも帝国政府からは距離を置いたのね…………」
ミュゼの情報と問いかけを聞いたリィンは真剣な表情を浮かべ、アルフィンは複雑そうな表情を浮かべて推測を口にした。

「ええ。そして戦後、状況が落ち着けばバラッド大叔父様はユーディお姉様がヴァイスハイト陛下の側妃としてクロスベル皇家に嫁いだ事でクロスベル皇家という強力な後ろ盾を得たキュアさんと違って、後ろ盾が”他国の貴族”という強力ではありますが、後ろ盾としては弱冠不安定な私に狙いを定めて、私が若輩である事等と言った様々な”難癖”をつけて自分がカイエン公爵家当主として相応しい者であると名乗り上げて、私を次期カイエン公爵家当主の座から追い落そうとする事は目に見えていますわ。」
「ミルディーヌ…………」
「という事はその不安定な後ろ盾をより強固なものにする為に、縁戚関係でメンフィル・クロスベル連合の皇族がいるセレーネ達と婚約している俺を介して”メンフィル・クロスベル連合の皇族という強力な後ろ盾”を得て、バラッド侯爵を黙らせる為に俺との婚約をミュゼは望んでいるのか…………」
ミュゼの推測を聞いたアルフィンは辛そうな表情でミュゼを見つめ、ミュゼが自分と結ばれようとする理由を口にしたリィンは疲れた表情で溜息を吐いた。
「フフ、勿論リィン少佐の人柄についてはエリス先輩や姫様からも予め伺っておりますから、それらも当然考慮していますわ。」
「そうはいっても貴女の場合、結局は政略を目的とした結婚じゃない…………エリスの予想通り、貴女は自分の目的の為にリィンさんを利用しようとしているのね…………」
リィンに対して静かな笑みを浮かべて答えたミュゼにアルフィンは呆れた表情で指摘した後疲れた表情で溜息を吐いた。

「…………この際、ミュゼの目的の為に俺を利用しようとしている件等は置いてミュゼに聞きたいんだが…………――――――ミュゼは自分の目的の為に好きでもない男――――――ましてや、多くの女性達を侍らせている俺と将来結ばれるかもしれない事に”納得しているのか?”」
「ふふっ、”英雄色を好む”という諺もありますし、貴族に限らず、富や権力を持つ者が多くの女性を侍らせる事はおかしくないというのが貴族の家で生まれ育った私の感覚なのですから、リィン少佐が多くの女性達を侍らせている事については特に何も思う所はありませんわ。――――――むしろリィン少佐が侍らせている女性達の存在が私をエレボニア側のカイエン公爵家当主としての座を不動のものにするのですから、リィン少佐達には感謝する側の立場ですわよ?」
「そうか…………結婚云々についてはともかく、君のエレボニアを想う心、貴族の義務(ノブレスオブリージュ)、そして自分の目的を俺達に打ち明けたその誠実さについては理解できたよ。」
微笑みを浮かべて答えたミュゼに対して静かな表情で答えたリィンはミュゼの頭を優しく撫で
「ぁ…………」
頭を撫でられたミュゼは呆けた声を出した。

「…………なるほど。エリス先輩もそうですが、姫様もリィン少佐の”この性格”に心を奪われたのですわね♪」
「ミュ、ミュゼ!?…………た、確かにそれもリィンさんを好きになった要因だから、否定はできないけど…………」
すぐに我に返ったミュゼはアルフィンを見つめてからかいの表情で指摘し、指摘されたアルフィンは慌てた様子で声を上げた後小声で呟いた。
「――――――ありがとうございます、リィン少佐。お蔭さまで私も”一人の女として”、本気で姫様達のようにリィン少佐と結ばれたいという気持ちが芽生えましたわ♪」
「ミュゼ!?」
「ハハ…………」
そしてミュゼの宣言にアルフィンが驚いている中、リィンは苦笑しながら答えを誤魔化していた。

その後二人艦内の徘徊を再開したリィンはクルトがフォルデにある事を訊ねて、フォルデがそれを軽く流して答えを誤魔化している会話が聞こえてきた為、二人の様子が気になり、二人の部屋に入った――――――
 
 

 
後書き
今回の絆イベント(?)の話によってアルティナとミュゼのスキルにそれぞれ『リィンが大好き』、『リィンが好き』が追加され(オイッ!)、更にアルティナは閃2仕様から閃4(正確には閃3終盤)仕様(要するに喜怒哀楽のような感情をハッキリさせるようになったアルティナ)になったと思ってください(少々強引かもしれませんが(冷や汗))次回は残りのメンバーの絆イベントをして、戦争が本格化する話に移る予定です。なお、Ⅶ組の話はリィン達側の話が一息ついてからなので、もう少し後になります…………が、Ⅶ組の話になると原作閃4の第一部、断章の流れにするつもりですので、実はこの物語の第二部にあたる今の状況は原作閃4の断章が終わるまではⅦ組側の話の方が多くなる予定です(リィンが主人公の話なのに(汗))ちなみにエステル達の再登場は原作閃4の断章の部分が終了してから、Ⅶ組が本格的に介入してリィン達と敵対する事が起こる第三部の話のどこかになる予定です。また、ジェダル達は第二部もですが第三部にもメンフィル・クロスベル連合側の協力者としてちょくちょく登場させる予定です。なので、下手したらⅦ組がジェダル達とも戦う事になるかも…………?(ぇ)そしてセリカ達戦女神陣営の再登場、活躍は恐らく最終幕のラストダンジョン時か第三部終盤に予定しているメンフィル・クロスベル連合、エレボニア、紅き翼、更にリベールの4勢力が関わる大規模戦闘だと思います。なので幾ら何でもⅦ組がセリカ達と戦う事は恐らくないかと(さすがにセリカ達と戦うとか無理ゲーで、Ⅶ組が哀れになりますので(笑))…………ちなみにイース9買いましたが、ファイアーエムブレム風化雪月、全然終わっていない上、今回のファイアーエムブレムはルートが4つもありますから、下手したら年内にイース9をプレイできないかもしれない状況です(汗)
 
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