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蒼と紅の雷霆

作者:setuna
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爪編:トークルームⅢ

《唐揚げの味付け》


「む、この唐揚げ…美味いな…味付けが今までと違う気がするが…」

「オウカ、もしかして、唐揚げの味付け変えた?」

「調味料を変えてみたのですがお口に合うでしょうか?」

「兄さんも言ってたように凄く美味しいよ。勿論、前のも美味しかったけどね」

「俺はどちらかと言えば今回の唐揚げの味付けの方が好みだ…まあ、前までのも美味かったがな」

「ふふ、ありがとうございます」

ふと視線を感じ、ちらりと横を見るとシアンが唐揚げを噛りながら僕達を見つめていた。

「どうかした?」

「え?ううん!何でもないよGV!(あんなに幸せそうなGV…あの家で過ごしていた時は見れなかった…皇神に追われていたからかもしれないけど、オウカさんの温かくて美味しいご飯を食べてGV…幸せなんだろうな…お兄さんだって、オウカさんのご飯を食べてる時は何時もよりずっと穏やかで……オウカさんは私のことを羨ましいって言ってたけど、歌うことしか出来ない私はオウカさんみたいなことはしてあげられない…)」

(シアンは焦りを感じた)


《ソウとパンテーラ》


「それは写真ですか?」

「うん」

隠れ家で過ごしていた時の思い出の写真を入れたアルバムを見ていたら後ろからオウカが話し掛けてきた。

「GVにシアンさんにソウさんにテーラさん。4人での写真が多いんですね」

「うん、兄さんは必要以外の外出はしないで訓練か寝てばかりだからテーラとシアンが理由をつけて外に連れ出したりしたよ」

何せフェザーでのプライベートな集まりにすら全然出席しようとしない。

カラオケや海水浴にすら付き合おうとしなかったから、フェザーのみんなからの兄さんの評価は“付き合いが悪すぎる”だ。

「まあ、ソウさんは外出が嫌いなんですか?」

「嫌いと言うか…面倒だったり人混みが嫌いだったりとかあるけど…やっぱりあの時はまだ無能力者と関わる可能性がありそうな外出は嫌だったみたい…オウカは今の兄さんしか知らないから信じられないかもしれないけど、この時期の兄さんはまだ無能力者への態度が冷たくて」

「そうだったんですか…あ、でもGV…ソウさんとテーラさんのツーショットですよ?」

「あれ?こんな写真…撮ったかな?」

「ひょっとしたらシアンさんが撮ったのかもしれませんね…もしかして会話中の写真でしょうか?ソウさん、テーラさんに微笑ってますね。GVにそっくりな優しいお顔…やっぱり兄弟ですね」

「そ、そうかな?」

正直、僕もこんな表情を浮かべる兄さんはあまり見たことがない。

何時も不機嫌でフェザーにいた時でさえ味方に対しても神経を張り詰めて、眉間に皺を寄せている表情ばかりだったのに…。

こんな柔らかい表情を浮かべるくらい兄さんの中で、兄さんも気付いていないうちにテーラの存在がとても大きくなっているのが分かる。

「………」

隠れ家で過ごしていた時はとても近かったのに、今ではエデンの巫女と言う、自分達から程遠い存在となってしまった。

以前のように、穏やかに過ごせる日が来ることを願いたい…。

(シアンとの心の繋がりを感じた)

(パンテーラとの心の繋がりを感じた)


《ドレス》


オウカがドレスのような衣装を繕っていた。

そういえば、学校で演劇をやるって言ってたっけ…これ、かなり本格的だな…。

「GV、この衣装のことなんですけど…少し協力してもらえませんか?裾の長さがこれで合ってるか不安なんです。実は、着る方がちょうどGVとソウさんくらいの背丈で…」

「まさか、これを着ろって…?」

「いえいえ、そこまでは言いませんよ。体の上から衣装を重ねて、長さを確認するだけですから…ソウさんに頼んだら何故か睨まれてしまいました」

「だろうね…まあ、それくらいなら…」

「ありがとうございます。では失礼して」

僕の体にドレスが重ねられ、オウカが裾の長さを確認する。

「丁度良さそうですね。ご協力ありがとうございます。ふふ、結構似合ってましたよ?」

「似合ってなくていいよ…」

「でも、ソウさん。シアンさんと同じくらい色白ですから、ドレスを着てお化粧をしたらとても綺麗になると思うんですよね」

「それ…兄さんに言わない方が良いよ…?」

流石にオウカに対してはそこまでキツくはないだろうけど、やっぱり兄さんは怒らせない方が良いだろう。

これは兄さんに黙っておこう…。

(シアンは焦りを感じた)


《迷い猫》


「ソウさん、お庭に何かいるんですか?」

「野良猫が迷いこんだみたいだ。追い払おうとしたんだが、怪我をしているみたいでな。治療しようにも野生だけあって警戒心が強いのか、近付くと逃げてしまう」

「ソウさんは救急箱を持ってきてくれませんか?ここは私に任せて下さい」

「了解した」

救急箱を取って戻ってくると、既にオウカの腕には猫が抱かれていた。

「な…どういうことだ?」

あれだけ警戒していたと言うのに何故…?

「敵意がないことを示せば動物でも人間でも心を開いてくれるんですよ」

「………敵意がないことを示しても心を開かない存在などいくらでもいる。敵意がないことを示しても…受け入れようとしても向こうが頑なに拒絶するような相手ではどうしようもない…俺はそんな奴らを大勢見てきた…現にテーラ達も最初からあのような考えに至ったわけではないはずだ…何度も拒絶され、奪われたことで無能力者を憎むようになった…まあ…今はお前のような底抜けのお人好しがいるのは分かるがな」

「ソウさん…」

「俺は…GVのようにはなれん。お前と暮らしている今でも無能力者が憎い…だが…お前のような奴が少しずつ増えていけば…GVの理想が叶う可能性はありそうだ…それでも、俺達が生きているうちに叶う可能性は全くないだろうがな」

「……それでも多分、GVは諦めませんよ?きっと」

「だろうな」

諦めが悪い弟を持つと本当に苦労する…だが、だからこそあいつは強いのだろうな。

(シアンとの心の繋がりを感じた)

(パンテーラとの心の繋がりを感じた)


《GVの怪我》


「オウカ、ただいま」

「お帰りなさい。あっ、GV!その怪我…!」

「ミッション中にちょっとね…でも、大した怪我じゃないよ」

「ですが…」

「僕の第七波動は、ただ電気を放出するだけではなくて、自身の生体電流を活性化させて自然治癒能力を高めることも出来る。だから、これくらいの怪我ならすぐ治るよ」

「すみません…あなたに何かあったらと思うと、私…」

「…大丈夫。僕は必ず、君の元に帰ってくるから」

「………オウカの元にか」

『シアン、御愁傷様』

「あうう…」

(シアンは焦りを感じた)


《人命救助》


居間の棚に、見慣れない表彰盾と表彰状が飾られていた。

どうやら警察からの感謝状のようだが、内容は…人命救助?

「何だこれは?」

「ああ、それですか。通学途中に、踏み切りの中に閉じ込められたお婆さんを見かけたんです。足を不自由にしていたようで…渡りきれずに立ち往生していましたので電車が遠くに迫ってきているのを見て、私…」

「見ず知らずの他人のために飛び出していったのか?お人好しも程々にするんだな?命がいくつあっても足りんぞ?」

「はい。あの時は間一髪でした…ふふ、私もGVやソウさんみたいになれたでしょうか?」

「俺達の影響なのか…?あまり無茶はするな。お前にもしものことがあればGVが悲しむ。もっとお前は自分の命を大切にしろ…お前の命はお前が思っている以上に大切に想われているんだ」

「……はい」

オウカは何故か嬉しそうに笑った。

「説教をしているのに何故笑う?」

「いえ、自分を想ってくれる人がいるのって…こんなにも嬉しいことなんですね…」

その言葉にオウカの身分を思い出した俺は次の言葉を言おうとした口を閉ざす。

「……そうか、なら尚のこと自分の命は大切にしろ…GVを悲しませるんじゃない」

「はい…」

(シアンは焦りを感じた)


《たまには料理したい》


「あら、今日はGVが夕食を作って下さるんですか?」

「たまにはね?オウカは座って待っていて」

この家に来てから料理はオウカがしてくれていたけど、自分でも作りたくなる時があり、たまにこうして台所に立つこともある。

兄さんも食事を用意してくれることもあるんだけど、昔の兄さんなら考えられないことだな。

きっと兄さんもオウカのことを家族と認めて…。

「GV、余計な思考は身を滅ぼすぞ」

…それにしても…背後から強い視線を感じるんだけど…振り返ると、オウカが満面の笑みでこちらを見つめていた。

「ど、どうしたの…?」

「いえいえ、料理をするGVの後ろ姿が素敵だなあと思いまして。シアンさん達が羨ましいです」

「…茶化すのなら、オウカの分は無しにするよ」

「茶化しているなんてとんでもないです!本当に素敵なんですって」

「………おい、仲が良いのは結構だが、夕食を早く作れ。」

「あ、うん…」

(シアンは焦りを感じた)


《シアンの料理》


机の上にノートが広げっぱなしになっており、シアンが読んでいた…。

「シアン、駄目だよ。オウカの私物を勝手に見たら…」

「あ、GV…お兄さん」

「献立表かそれは?」

「…私ね、テーラちゃんと料理の勉強してた時、栄養について少しだけ調べたことがあるの。この献立、ビタミンもミネラルも、カロリーもちゃんと考えられて…オウカさんがGV達のこと、どれだけ大切にしてるか…分かる…」

「それで勝手に沈んでいたのか…馬鹿馬鹿しい」

「う…」

「兄さん…」

「お前とオウカでは過ごしていた環境に差がある。お前より3年生き、ちゃんと学べる環境にいたオウカとでは差があって当たり前だ。オウカのことを羨む暇があるのなら努力をしろ…努力もしないで羨むのは馬鹿のすることだ…才能がない訳ではないんだ…やれば何時かオウカのような料理も作れる…だろうな恐らく」

「何でそこで断言してくれないの?」

「今でも砂糖と塩を間違えているのはお前だろう。だから断言は出来んな」

「う…っ」

呻くシアンを放置して兄さんは去っていった。

「シアン、大丈夫だよ。シアンも何時かオウカのように美味しい料理を作れるようになるよ」

「GV…うん、ありがとう…」

(シアンとの心の繋がりを感じた)


《恋愛》


私達は今、恋愛ドラマを一緒に観てみたんだけど…内容がGVからすればかなり気恥ずかしいのか気不味そう。

「はあー…いいなぁ、ロマンチック…」

「はい…私達も何時かあのような恋をしてみたいですね…」

「そ、そう…」

うっとりとした表情で言う私達にGVは引き攣ったような表情を浮かべていて、お兄さんは既に寝て…いなかった…。

「兄さん…起きてる?」

「………ああ…起きてるぞ…」

何故かお兄さんが動揺している…。

「お兄さん、どうしたの?」

「いや、ドラマのキスのシーンで何故かテーラにキスされた時のことを思い出しただけだ」

「…え?」

「ええ!?」

「まあ!!」

GVは目を見開き、私とオウカさんが興味を刺激される。

「前にテーラが皇神のパンテーラとして街に姿を現した時だ…あの時は能力で大人の姿を取っていたが…不意を突かれて押し倒されて…な」

「テ、テーラちゃん…大胆…私もそれくらい…GVを押し倒して…」

「GVはお前の突進程度では絶対に押し倒せないぞ」

「あう…」

「テーラさんが大人の姿で…第七波動ってそんなことも出来るんですね…テーラさんの大人姿ならきっと美人だったんでしょうね…」

確かに思い出してみると再会した時に見た大人のテーラちゃん…色気が凄かったなぁ…テーラちゃんが大人になるとあんな風になるなら私だって…!

『大人姿のテーラのようになりたいなら好き嫌いしないでちゃんと体作りを頑張ることね』

「ひゃあ!?」

「シアンさんは大人姿のテーラさんみたいになりたいんですね?」

「…流石に大人姿のテーラのようにとなるとな…かなり無理な改造をすることになるぞ」

「シアンがやる気なら僕達も手伝うよ」

『シアン改造計画再開ね』

「ああう…」

モルフォのしてやったりの表情が憎らしいと思った。

「……くしゅ!」

「パンテーラ、風邪かい?」

「いえ、お兄様。体調には気を遣っているつもりです…多分これは……(きっとシアン辺りが噂をしていますね)むう…」

「…?」

急に不機嫌になった私を見てお兄様が困ったような表情を浮かべていました。

すみませんお兄様…今回はシアンのせいです。

(シアンは身の危険を感じた)

(パンテーラとの心の繋がりを感じた)


《贈り物》


「兄さん、オウカはどんな物を贈れば喜んでくれると思う?」

弟からの突然の質問に俺は無言でGVを見遣る。

「…それを何故俺に聞く?俺ではなく同性のシアンに聞けば良いだろう?」

「いや、シアンに聞いたら何故かショックで固まってしまって…兄さんならテーラに贈り物をしたから何かアドバイスを貰えるかなって…」

正直俺の経験など何の役にも立たないだろう。

今でもあれで良かったのかと思っているくらいだ。

「……あのリボン、テーラに凄く似合っていたよ兄さん…再会した時にだって着けていたし」

「……そうか……オウカへの贈り物だが、オウカが良く使いそうな物が良いんじゃないのか?俺がテーラに渡したリボンのようにな…プレゼントの場合、あまり高価すぎない物が良いかもしれん。あいつは他人に気を遣い過ぎるところがあるからな…いっそのことプレゼントではなくお前がオウカの時間に1日付き合うと言うのも良いかもしれんな…いっそのことオウカに聞いてみろ、あいつ本人が欲しいと思っている物なら大丈夫なはずだ」

「うーん、分かった。ありがとう兄さん」

去っていく弟の姿を見て、俺の脳裏に再会した時のテーラの姿が過ぎった。

自分が渡したフェザーの制服、少し傷んだリボン…。

「俺はこんなにも未練がましかったか…?」

少なくとも、シアンとテーラに出会って一緒に暮らすまではこんなことはなかったはずだ。

皇神への復讐と無能力者への憎しみに囚われていた時は弟以外の存在は大して気にかけなかったはずなのにだ…。

俺は自然に街に出て、以前テーラに渡したリボンと同じ物を購入していた。

本当に未練がましくなったな…。

(シアンは焦りを感じた)

(パンテーラとの心の繋がりを感じた)


《再会》


夜の街で気紛れに買い物に出ていた俺は偶然にもテーラと出会してしまった。

「「あ」」

俺は能力を使って逃げようとするテーラを確保して公園のベンチに座らせて自動販売機で購入した紅茶を渡す。

「ほら」

「ど、どうも…」

ベンチに座ってちびちびと紅茶を飲むテーラ。

どうやらシアンや再会のことで気まずいようだ。

「何故そんな遠慮をしているんだ?」

「いえ、流石に家族同然だったあなた方にあのようなことをして平然とはしていられませんが…」

「あれか?あれは俺達の油断が招いたことだ。それにお前達にはお前達のやり方がある。寧ろお前達の頼みを拒んで敵対したんだ。ああなっても仕方ない。」

「…怒っていないのですか?」

「お前達の気持ちは理解出来る。寧ろお前達の気持ちが理解出来るからこそ、良くあそこまで妥協出来たものだと感心しているくらいだ。お前達の理想を否定する気は一切ない。お前達の出した答えもまた正しいと思うからな」

「そう…ですか…」

「大体無能力者から迫害をしてきたんだ。やり返されても文句は言えんだろう。寧ろ新しい奴らを受け入れてやろうとしただけでも充分過ぎる」

「ですが、GVは受け入れてくれませんでした」

「良くも悪くも真っ直ぐだからなあいつは、だからこそあいつは強い。例え裏切られても失っても信じている未来を見据えることが出来ている。あいつの言っていることも正しいのもまた事実だからな」

「そう…ですか…」

俺が自分達の理想を否定しなかったことに安堵してか、テーラの表情が少し緩んだ。

「それからシアンは元気にしている。相変わらず運動関係はポンコツだが」

「そうですか…相変わらずみたいで安心しました。運動音痴ではないシアンなんてシアンではありません」

「全くだ…テーラ…」

俺は街で買ったリボンをテーラに差し出す。

「これは…」

「前に贈ったリボンが痛んでいたからな…新しいのを贈ろう…まさか再会出来るとは思わなかったからこんな形で渡すことになってしまったが」

「…いいえ、ありがとうございます…これも…最初に戴いたリボンも大切にします…」

「そうか…………お前と会えて嬉しかった」

「…!」

その言葉に驚いているテーラに俺は背を向けて歩き出した。

「私も…嬉しかったです…」

(パンテーラとの心の繋がりを感じた) 
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