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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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Duel:08 旅行の用意と、早い流れ


――side奏――

「……あのーフェイトさん。そろそろ離して頂けると幸いです」

「……」

 ギューっと、小さい響を抱きしめる先輩を見てると、分かりやすく怒ってるなーというのが分かる。
 
 はやてさんは早々に気づき、ギンガと私も見てて気づいて、そしてスバルがついさっき気づいた。
 念話会議の中にようやく参入してきて、まず初手に。

(……フェイトさんってば怒ってる?)

(なんで疑問系やねーん)

 はやてさんのツッコミが光るなーと、スバル以外の、響と先輩を除く皆の表情は変わらない。というか、この発言から察するに、私の胸を揉んで空気を柔らかくするという意図にも気づいていないらしい。
 ……まぁ、結局。揉まれただけで、何の解決にも成らなかったんですけどね!!

(まぁ、それは置いといてや。スバルや。奏のおっぱいは中々やで)

(……本当ですか?)

(……マジでって顔でこっち見ないでよ)

 なんというか、ご飯を前にした子犬のような表情でこちらを見るけど、それでは念話してる意味がないと言うか、一人だけコロコロと表情が変わってたらばれるでしょうーが。

(まぁ、それは置いときましょう。スバル、なんでフェイトさんが怒ってるか分かる?)

 ブレイブデュエル用のカードを確認しながらギンガが視線だけスバルに向けて念話を飛ばす。流石姉。いい感じに話題を変えてくれたよ。

(んーん。なんか響が話す度に眉間にしわというか、怒気が増してるようなそんな感じ)

(あれ、多分響が敬語つけてるからだと思うよ)

 そこまで言うと、わからないといった顔から、分かったという明るいものへと変わって。

「なるほど」

(((口に出したら意味ないでしょ)))

 ぽんと、胸の辺りで手を合わせるスバルに皆で突っ込む……が、よくよく見れば、ブレイブデュエルのルールブックを持ってる関係で、そう見えなくもない……?

 そのお陰なのか、響と先輩は気づいた素振りも見せないし……結果オーライかな……?

 それにしても……。
 
 羨ましいわぁ……何がと言われれば、あの二人の距離の近さとか、なんというかが……イイなぁ。

 ふと、視線をずらせばギンガと視線が合って。

 二人してため息が……。はぁっと。
 失恋()って纏められたくないかもしれないけど、ごめんなさいね。このタイミングで、ため息を吐くということは同じ考えなんだろからこそだし。

 なんというか……イチャイチャ見せつけられて、きっついわーって。

 きっついわぁあぁあって!!

「……食事も終わって、食休みも済んだ所で、さっきの試合。実は一つお願いを出されてましたが。伝えていいですか?」

 今まで空気を読んで居たのか分からないけど、震離が申し訳なさそう……ということはないな。普通に笑ってるから、それはない。だけど、あの笑い方は。

「さて、アミタ……あぁ。奏と対戦した女の子はまた戦って欲しいと言われたんだけど。キリエから相談が合って。響を……というか、緋凰姉妹を泊めさせてほしいなーって、申し出が合ったんですよね」

 ピシッと空気が凍った。響はまたおもちゃかよって表情を。そして、先輩は……。

「……なんで?」

 少しだけ低い声で言う先輩は怖いなぁって。

 普段ならここで、助け舟を出すのが私なんだけど。いい加減砂糖を吐き出しそうになってきたので……。

「そりゃ、先輩と、今の響の関係って、保護者とその女の子ですし。保護者に徹するだけの理由にはちょっと薄いですし」

「!?」

 先輩と視線がぶつかって、視線で強く訴える。奏助けてーって。普段の私ならここで応えてあげた、が。

 ふいっと視線をずらすと、こちらを恨めしそうにジト目で見てくる。

「震離。だって、私は……その、響の……あの」

 しどろもどろになりつつも、しっかりと恋人ですって事を伝えてくる……が。

「いやぁ。幼女が部下ですって言える度胸あります?」

「……ぁ」

 悲しそうに呟き、なんか白くなって行くのを見ながら、人ってショックをウケると白くなるんだなぁと。

(すっごく絶望的に呟きましたなぁ)

(いやぁ。見てておもろいわぁ)

(普段見れないフェイトさんですしねぇ)

(奏も、はやてさんも、ギン姉もすっごくいい笑顔で怖いなぁって)

 それは言っちゃいけないよスバル。

「まぁ、皆、今回飛んできた響達に興味持ってますし、ヴィヴィオ達が来たときのように、それぞれのお家に来て欲しいっていうのもあります。
 それに、今日過ごせば、明日からは旅行ですしね。どっちにせよ今日だけですよ。
 なるべく固めておきたいっていうのはありますからねー」
  
「……んー」

 おぉ、震離の提案に先輩が揺らいでると言うか、一日くらいならって悩んでる。ちなみに響はというと。なんというか、もう好きにしてくれといった様子で諦めてる。だって、そのお願いっていうのは勝ったら宿泊させて欲しいって感じのお願いだっただろうしねー。

 あ、そう言えば……。

「旅行ってさ。流と震離も来るんでしょ?」

「ん? いや。私ら少し遅れての参戦だけど……って、そっか言ってなかったね。大型メンテの関係で数日落とすんだよ。ブレイブデュエルのメインをランクマッチとかをね。
 一応携帯式エンタークンのテストも兼ねての旅行でもあるとは言え、メインは遊ぶためだからねぇ。私と流は開発者側でメンテが落ち着いたら参加かなーって」

「ふーん」

 そう言えば、この世界に来てから流と震離も開発に関わったっていうけど、そういう事もするんだねー。大変だなーと。

「ま、各ショップのブレイブデュエルシステムは通常通り起動というか、折角のシルバーウィークだもん、出来るようにはしてるけどねー。
 今回はレイドシステム導入のためのメンテだねー」

 あっはっはと笑ってるけど、力ない辺り、難航してるんだなって……。
 うん、そうなると……。

「参加メンバーって限られるんじゃ?」

「うん。だから、一部は参加しないけど……結構参加するよ」

「せやねー。八神堂からは、妹……あ、こっちの私とアインス。ヴィータと、この私の4名と」

 はやてさんが嬉しそうにそう告げると。

「中島家からはフルメンバーと、スバルと私も」

 ギンガもそれに次いで、スバルが元気よく頷いてる。そして、私も昨日聞いたすずかからのお話の内容を思い出して。

「チームT&H? の皆は参加するって言ってたねー。後は……」

 ちらりと先輩を見ると。

「うーん……ごめんね。私はまだ聞いてないかな」

 申し訳なさそうに首を振ってる。その様子から察するに、本当に聞いてないんだなって。

「一応参加するメンツにはランスター姉妹も参加するねー。後はプレシアさんと……もかな」

 最後に震離が補足してくれた。
 さて、合計数がえらいことになってる気がするのは気のせいかなーって。

「ま、携帯用エンタークンが使えなくたっていいし、合宿みたいだけど、元々旅行だからね。気楽にしてよ。
 いまさら数増えたって問題ないって言われてるし」

 にししと笑う震離につられて、皆笑った。正直、私らついていっていいのかなと思ってたけど、震離がそういうってことは本当に問題が無いんだろう。 

 ……しかし、プレシアさんと、と言ったのが気になる。その後誰かの名前を出そうとしたのが気になる。
 おそらくすずかの言っていた、サトさんという方の名前だが……なんで震離は隠そうとしているんだろうか?
 いや、よく観察してると隠してる……というより、どう伝えたらいいのか悩んでるようにも見える。

 正直今朝見た夢の事もあるから……何だろう、変な予感がするのは気のせいだといいなーって。

「……泊まる時、夕方になってからじゃ……ダメ?」

「分かりました。服とか選んでからお泊り開始ということで」

 ……先輩やーっと折れたなーって。それに合わせて響も力なく項垂れていくし。負けちゃったもんねー、仕方ないか。

 ―――そういう事を恥ずかしがる人だもんね?

 そうだねー……って。

「え?」

「? どしたん奏?」

 思わず頭の中の声に相槌を打って、思わず声が漏れた。そして、心配そうにこちらを見つめるはやてさんを見て。

「へ、あぁ。言え何でもな……ちょっと、なんで手をワキワキとしてるんですか?」

「いや、疲れてるんかなーって。おっぱいもんで気を紛らわせてあげようかと」

「……いやぁ、もう。良いです」

「お、ええんか?」

「ちがいますー。そして、スバルは音もなく近づかない……ちょっと、目がマジで怖いんだけど、待って待って、すば……アーーーーー!!」

 ……はやてさんとは違った意味で気持ちがいいと思ってしまった自分が恨めしいです。

 それから色々じゃれている時にふと、違和感……いや、変だなと思ったのが。戦闘の前後の響が、嫌に大人しすぎるという事。
 最初の内は慣れない格好と、先輩の押しが強くいから大人しく……それこそ借りてきた猫のような感じだと思っていたんだけど、どうやら違うらしい。
 良く良く観察していると、どうも何か考え込んでるようなそんな様子だった。何時もなら声を掛けてるけれど、先輩の膝の上……と言うより、近すぎるから声を掛けにくいし……。

 それ以前に、それに気づくのは先輩のやることだと、私は思う。

 だって、時折考えすぎて目付きが尖すぎる時もあるのに、それに気づかないのはどうなんだろうと思う。だって、女児と言うには険しすぎるし……。
 ま、私達がいるこの場だから、何か考え込んでるんだろうけど……。

「そう言えば、響と奏と戦ったあの姉妹はどうしたん? てっきりお昼終わったら来るかなーって思ってたんやけど?」

「んー。テスト終わりで賑わってるブレイブデュエルの会場で先駆者として、いろんな人の相手をしてますよー」

 はやてさんと、震離の会話を聞きながら、そう言えばと思う。
 私とアミタ。その試合が済んだ直後、少ししたらまた会いましょうねと言ってたなぁと。

「ねぇ震離。夕方予定ってあるの?」
 
「んー」

 少し考えるような仕草をした後に。

「服買う予定だったっていうのは言ったと思うけど、それ以降は各家庭に任せたから私と流は関われないなー」

「……ふーん」

 関われない。ねー……。この子はもー……嘘吐くのが下手というか、なんというか……。その場合はデートとか、言い方があるでしょうに。

「さ、お昼休憩も終わったことだし、もう少し他の種類のゲーム競技してもらうよー。一応皆は未来から来たって設定なのだから!」

 パン、と胸の辺りで拍手を一つ入れてからそう言う震離に対して、響はちょっと疲れたような顔をしてるのが可笑しい。
 どうやら考え事も一段落ついたのか、はたまた一端置いとくのかわからないけどね。

「今度は震離もやろーよー?」

「ん? いいよー。六課時代を再現したカードがあるからそれで相手を……してやろう」

「……へぇ?」

 何気なくスバルが近づき、誘うも……震離は一転しての上から目線。そして、誘ったスバルからは考えられない程、低い声が漏れて。

「フフン。一応こんなんでも開発側ですからぁ? ハンデにしてはまだ甘いかなぁ?」

「へぇ。私と相棒だって、この前の事件以降強くなったんだもん。ね!」

『Alright.Buddy!』

 おー、スバルとマッハキャリバーがすっごくやる気満々だー。

「さ、次の勝負はセカンドステージ。ゲートクラッシャーズをやろうか? タイマンで、両脇から門を壊して進み、真ん中の標的を先に壊した方の勝利。
 でもぉ、すっごく簡単だからぁ? これ以上ハンデつけるとしたら、私が幼くなるくらいしないといけないけどぉ?」

「いいよー、それでやろっかぁ?」

 煽りまくる震離に対して、カクンと首を横に倒して、すっごく静かにスバルは言い放った。初めて見る感じだから怖いわーって。
 ふと、笑みを浮かべてるギンガと目が合って、そちらに顔を寄せて。

「……怒ってるんじゃないのあれ?」

「まさか。震離がワザと煽ってるのに気づいての対応だよ」

 それもそうか、と気づいて私も笑ってしまう。いけないなー、変な事に気を取られてそんな事も気づけなかった。

「あ、そうだ奏? 次私と勝負しない?」

「このルールで?」

「えぇ、このルールでも良いし、フリーで普通に戦うのもありかなって。あんまり私と奏って模擬戦はあまり無かったしね」

「なるなる。いいよー、近づかれる前に焼き落とす」

「こちらこそ、焼かれる前に叩き込むんだから」

 そこまで言って、お互いに笑う。
 実を言うと、ギンガは苦手……というか。恋敵でも合ったせいか、妙に壁があったんだよね。加えて、ゆりかご戦の前のアレとか……色々あって、あんまりしっかり話したこと無かったと言うか……。
 
 なんというか、今まで居ないタイプの友人が出来たなって。

『行っくっぞぉおおお!』

『フフフフハハハハハハ、私より速く標的を潰せるかし……やっべ早っ?!』

 何やってんだか。

 
――side――

 久しぶりに夢を見たと思います。いいえ、正確には最近はあまり見られなかった、ちょっと苦い夢を。

 夢の中の私は、妙に設定が濃ゆくて……デュエル中や、店頭イベント用に出る為のアバターの様に猫耳と帽子をつけて、オマケに尻尾までついていました。
 その上、夢の中の私が主人と思う人は、現実に置ける雇用主で、友人でもあるプレシア・テスタロッサです。
 
 なぜ、わざわざフルネームかと言うと。

 夢の中のプレシアは見ていて痛々しく、凄く不器用なのです。現実のプレシアも不器用な所はありますが、夢のプレシアは、酷く悲しくて痛いんです。
 そして、一番変だと思えるのが、この世界の愛娘二人の関係です。

 アリシアもフェイトも居るのに……いや、居たと居るのに、愛情の掛け方を間違えたかのようでした。

 この世界のアリシアは事故で先に亡くなって、そのアリシアをモデルにフェイトが生まれたという設定でした。

 ありえない夢だと言うのに、認められない筈なのに、夢の中だということが幸いしたのか、私はそれを受け入れ、フェイトの先生になっていました。
 勿論、アルフも存在して、二人纏めて教えていました。

 現実のフェイトと同じ様に引っ込み思案で、おとなしい女の子。だけど母を想う気持ちはちゃんとあるのに、それに対してプレシアは手を上げるばかり。
 夢の中の私はその度に怒って、彼女に詰め寄りましたが聞く耳を持ちません。

 ですが、私は知っていました。夢の中だからこそなのでしょうね。夢の中の私も、それを見ていた私も知っていました。

 フェイトの笑顔と優しさ、一生懸命に向ける愛情に。揺れて、悩んで、『娘』として認めてしまいそうだったんだ、と。
 
 夢の中の私は大いに悩んでいました。

 夢の中の私が、プレシアの従順な下僕で、命令の通りにすれば。夢の中のフェイトとアルフはきっと不幸になる。

 夢の中の私が、フェイトとアルフを連れて遠くで暮らす事を選んでしまえば。プレシアは最後まで運命に裏切られたままになってしまう。

 そして、どちらにせよ。夢の中の私が存在しているだけで、夢の中のプレシアに、負担が生じ寿命を縮めてしまっていることを。
 
 夢の中の私は大いに悩んでいました。耳の先と、尻尾の毛が抜け、目の前が霞むほど強く悩み一体どうすればいいのか、と。
 しかし、結局夢の中の私はプレシアを裏切るということは出来ませんでした。

 夢の中の私には時間が少なすぎました。プレシアの心変わりを乞うには時間が少なくて、フェイトとアルフを連れて逃げたとしても、長くは生きる事は出来ません。

 だから、夢の中の私が出来たのはただひとつ。

 『強さ』を教えることでした。

 どんな時も絶望せず、悲しいことがあっても、苦しくて切なくても、立ち上がって自分の道を、信じた道を歩いて行けるように。間違いや過ちに違う、と言える強さを。
 夢の中の私も、それを見ているだけの私も祈るしかありませんでした。

 それから―――

 ――――――

「―――おや、眠っちゃいましたか」

 私の膝上には、今にも涎が零れそうなほど気持ちよさそうに口を開けて眠るアルフと、静かに、だけど心地よさそうに眠るはなの二人が居ます。

「……創作と言うには難しすぎましたね」

 今の今まで夢の中の私とプレシアの主従物語を言い聞かせてたのですが、気がつけばこの有様です。
 今日は二人が手伝ってくれたから、お部屋のお洗濯物も直ぐに干せましたし、フェイトやアリシアの晩ごはんの用意も出来ました。
 その上で出来た時間を、二人にあてて居たのですが……。

「心地よい日向ぼっこをしながらですと、眠くなっちゃいますねぇ」

 二人の頭を撫でながら。ふと、昔の事を思い出しました。

 ―――リニスゥウウウ、夢の中の私がフェイトを娘と認めないいぃいい!!

 ―――何のお話ですか!!

 こうして、あの二人を膝枕しながらお昼寝をしていた時に、そう言って走ってきた時があったなぁと。
 そして、お話を聞いた次の日から、偶にこんな夢を見るようになっては、二人で話をするようになって、それからでしたね。

 子煩悩が更に進んで、娘LOVEなプレシアになっていったのは。

 少し懐かしいですね。

 ……さて、大きなフェイトが来たタイミングでこの夢、ということは何か関係があるのかどうか。


――side流――

「ふーん、サトも旅行に行くんだー。あー、私も行きたかったなぁー」

「あ、あはは、それはまたの機会に」

 翠屋でのお仕事の休憩を頂きながら、美由希さんとお話を。
 元の世界での関係を考えると、未だにこうして仲良くさせて頂いてるのは不思議なような、申し訳ないと言うか……。

「うちはなのはだけ参加だもんねー。恭ちゃんはドイツに行ったきりだし、シルバーウィークにゃ晶もレンも助っ人で来てくれるとはいえ、寂しいなぁって」

「私も途中参加ですが、ちゃんとお土産も持って行きますので」

「えー、いいの? やった!!」

 小さくガッツポーズをとってる美由希さんを見て、こちらも嬉しくなる。

「そして、今度震離も連れてさ、どっか美味しいところ行こうよ……あとは、サトもよかったらって誘って、ね?」

「……えぇ」

 しゅん、とちょっとだけ落ち込むように口調が弱くなる。
 正直、サトさんは、あまり人と関わろうとしないけれど、それでも……こうして気にかけてくれる方が多い。今は弱っていても……やはり、人柄なんでしょうね。こうして人を惹きつけるということは。
 
 しかし、高町家の方々(・・)に思われるのはやはり―――

「あ、そうだ。なのはから映像見せてもらったんだけどさ。お父さん驚いてたよ。あの黒髪の女の子の動き、ウチっぽいって」

「……ぁー」

 目をキラキラとさせる美由希さんの視線が、すごく重い。それに、カウンターに出ていらっしゃる士郎さんも、こちらの様子を窺っている辺り、気になっているみたいですし……。

「未来からの来訪者で、とある人の関係人物なのですが、ごめんなさい。何処から歴史が変るかわからないので、コレ以上の詮索は無しで」

「そっかぁ、残念!」

 がっくりと机に突っ伏せるのに合わせて、お店の奥の士郎さんも肩を落としたのが見えて。ちょっとだけ申し訳なくなる。
 
「でも、ま。旅行が終わってもまだ居る予定……だよね?」

「えぇ、まぁ。まだ安全に帰る手段を構築中なので」

「なら……まだ猶予があるなら、うちに遊びに来ることも可能なわけだよねぇ?」

 ……あー、そう来たかー。なんというか響さんってば、知らない所でしっかり惹き付けてるなぁって。

「というか、母さんが連れてきてねーってなのはにお願いしてたから」

「あっ」

 そこで全てを察しました。 


――side奏――

「……何でもいいので、黒くてあんまりヒラヒラしてないのが……」

「ダメ」「白がいいよね」「私としてはこちらの色が似合うんじゃないですかね?」「ダメよ。黒い髪、白い肌なら、素材を生かさないと」

「可能なら、ズボン系が……」

「「「「ダメ」」」」

 ……うわぁ響が項垂れてる。あっちはあっちで大変だねー。

「スバルのサイズなら、こういうのはどう?」

「えー、でも私ヒラヒラしてても干渉しないのがいいなー」

 こっちではスバルと、クイントさんが洋服を選んで大いに盛り上がってる。クイントさん的にはギンガの服も選びたいんだろうけど、生憎今手が離せそうにないし。

 更に視線をずらせば。

「妹や。固めの格好の中のチラリズムは中々ええで」

「いやいや姉やん。無自覚の色気のがこの場合はええと思う」

「……主達その、お手柔らかに」

「「アインスはちょっと黙ってて」」

「……うぅ、はい」

「どんまいアインス」

 八神家でアインスさんに着せる服を吟味してるし……はやてさんってば、自分の服は、ちっさいはやてと共にサクッと決めて、アインスさんや、ヴィータさんに着せる服を一生懸命選んでるし。

 他の小学生組も楽しく選んでるのはいいこと何だけど……一番響の周りというかが凄いんだよなぁ。
 フェイトさんと、ギンガ。そして、プレシアさんとリニスさんが楽しそうに選んでるのがまたすごい。

 本音を言うと私も参加したかったけど―――

「奏さーん。この服とかってどうですか?」

「うーん。私にはキラキラし過ぎかなー」

「そしたら、コレなんて動きやすいわよ!」

「コレは……派手すぎるかなぁ」

 小さなすずかや、アリサから進められる服を見ながら、私も服を選んでる。こうやってゆっくり洋服を選ぶのも楽しいなーって。

 本来ならあの子のサポートに回ったほうがいいのかもしれないけど―――

「ここはお姉さん達にまっかせなさーい。はなに似合う服を選んであげようじゃないかー!」

「……はなって大人しそうだから、こういう服も似合うと思うよ」

「いや、姉としては大胆にこういうのも」

「チンク姉じゃねーっすから、海賊チックはアウトっすよー」

「そ、それじゃ……こういうのはどう、かな?」

「はぁ……凄いです!」

 アリシアさんを筆頭に、中島家が総動員で一緒に選んでるし……というか、話には聞いてたけど、本当にナンバーズのあの子達が幼くなった姿だ。一人例外が居るけども。
 というか、チンクの姿が変わってないということは……そういう事か。

 ホロリ、と涙が出そうになるのをぐっと堪えて。よく観察を続けて、ちょっと嬉しくなった。
 この世界に飛ばされる前、忙しい合間をFW陣でナンバーズの皆に会う様にして、皆から話を聞いた。
 そしてわかったのがいくつかあって、その中で。

 スカリエッティの元で生まれた戦闘機人は、基本的に容姿は変わらない、という事を。
 スバルやギンガの場合は成長型のフレームを用いており、時間が経つにつれて成長するし、若い方になるとは言え、少しずつ衰えていく可能性が高いが。

 ナンバーズの面々は、生まれたときからそのままらしい。多少の生理現象はあるが、それだけだと。
 だから、生まれた場所が場所とは言え、自分達には戦う事しか出来ないと思い込んでいた。
 
 でも、幼い自分達の姿を見せる事が出来たら、きっと自分達も変われると思ってくれないかなって。

 ……あれ?

「そう言えば、ギンガや、ユーリ達が居ないのは……なんで?」

「ギンガさん達って中学生ですし、まだ学校かと。ユーリちゃんはディアーチェちゃん達を待ってるだろうし」

「あー、なるほど。てっきりアミタ達が中間考査が終わったから中学もって思っちゃった。教えてくれてありがとねすずか?」

「気にしないで下さい」

 にぱーとお互いに笑って空気が和むのが分かる。

 それにしても。ちっちゃいフェイトは、小さななのはさんとデートかなって位仲良くしてるし。小さいスバルもティアナと一緒に服を選んで盛り上がってるのは流石というか、なんというか。

 大きなデパートで、こんなに知り合いが集まることも滅多に無いよねーって。

 ……あーあ。震離も来たら良かったのに、ね。


――side震離――

「お帰りなさい」

「……昨日は、ごめん。ちょっと思う所があって、な」

 そろそろ帰ってくるだろうからと、お家で、流の作り置きを温めていると。ふらりと戻ってきた。

「まぁ、仕方ないけど……あー、せっかくの銀髪に落ち葉がついてるよ。せっかく綺麗な髪質なんだから、さ」

「……ごめん」

 前髪で目元が隠れてる以上、表情を伺う事は出来ない。それでも。

「さ、ぶり大根温めてるから食べよ? 私も色々したからちょっとおなかすいちゃったしさ」

「……あぁ」

 後ろに回って背中を押すように居間まで送る。
 ふと、さっき取った落ち葉を思い出して、それが桜紅葉になりかけの葉だった。そこから察するに、きっとあそこに行っていたんだろう。

 私達の故郷に相当(・・)する場所に。

 居間まで送って、席に座らせてから、ご飯を入れたりしていると。

「……なぁ、震離?」

「なぁにー?」

「……明日、奏達も行くんだよ、な?」

「うん。皆参加するよ。私達も予定通り遅れて行くつもり。それぞれ部屋もあるけど、せっかく誘われたんだから、奏達に会いづらくても、他の皆にはちょっとでも……顔出してあげてね」

「……あぁ」

 お盆に二人分のご飯と、お味噌汁、おかずを乗せた所で。

「さ、とにかく今はご飯食べよ、ね?」

「……うん。ありがとう」

 ふわっと、雰囲気が柔らかくなったのが分かって、つい私も笑ってしまった。何時も何処か寂しい雰囲気を持つこの人が、こんなにも柔らかくなってるのは珍しいから。

「何か良いことでもあった?」

「あぁ。あったよ、時間があったら。合間を縫って、緋凰(・・)と接触してみるよ」

「フフ、そうしてあげて。きっと驚くから。きっとお互いにとっても良い出会いになるだろうから」

 ご飯を食べながら、二人で少しずつ話して。

 私達には見せない、あの子達には見せる表情だったから……すごく嬉しかった。

 ―――だからこそ言える。

 結果的に良かったけれど、もし私がここで違和感に気づいていたのなら―――

 もっと平穏に出来たのではないかって。




――side奏――

「ほ、本当に行っちゃうの……?」

「……まぁ、そういう約束らしいですし、明日また逢えますって」

 半ば呆然とした様子で、ちっちゃい響を見つめる先輩。
 はなは響に着いてくだけだから、そうでも無さそうだけど。響はなんかもう諦めてるみたいでされるがままな状態。

 ただ……。

「旅行が終わったら次誰を迎えようか?」

「シグナムとアインスが大きなフェイトさんとお話したいって言うとったわー」

 後ろの方で、ちっちゃい皆さんが相談されてる内容がまた凄いなって。私は完全フリーだから、今日はアリサのお家に泊まる予定だけど、もう色んな所をはしごすることになってるのは驚いたなって。

 に、しても……。

 少し離れた場所の響と先輩の会話を眺めてて思う。良くも悪くも凸凹だねーと。
 片やなんで怒ってるのか分かってないし、片や何か考え込んでるのに気づいてないし。
 何時もならこの辺りで助け舟を出すところだけど……今回は出さないでおこう。

 響は私達(・・)と同じ様にしてるから、ああなってるだけだろうし。先輩はもう少し響を理解してもらわないといけないしね。

 ……あーあ。こんな事考える様になると、フラれた……と言うより、取られたって実感しちゃうから悲しくなるわぁ。

 半ばいじわるも入ってるけど、それ以上に……。いや、やめとこう。

 ―――中々辛い方を選ぶんだねぇ。

 ……また聞こえた。今度ははっきりと聞こえたから空耳ではないのは分かるけど。念話とは違って、芯に直接語り掛けて来るし。
 
「奏? どうしたのすごく疲れたって顔してるけど?」

「んー、なんでもないよスバル。ありがとね」

「何か困ったことあったら相談してね?」

「……そしたら、胸を揉む人が居るのを何とか……って、ちょっと? こっち見なさいよスバル?」

 露骨に目を逸らすスバルを見て思わず笑ってしまう。そして、ごめんね。せっかく気を使って貰ったのに。
 そのまま、一瞬表情が曇ったのが見えて。

「……ま、人の心配するよりもまず自分でしょ? 何かやな事でもあった?」

「……んー」

 小さく唸って、ちらりと周りを見渡してから。

(こっちの方で良いかな?)

(良いよ。聞かれちゃ不味い事かもしれないからね)

 念話に切り替える。一応それとなく口では適当に会話を紡いでいるけど、あくまで形式上のもの。本命は。

(……ジェイル・スカリエッティ。あの人が違うっていうのは母さんの態度を見ててわかったんだ。でも……)

(ま、割り切れるものではないよね。私も正直割り切れないもん。それと……気づいた?)

(?)

 念話の内容に合わせ、スバルが首を傾げるたのを見て思わずクスリと笑ってしまう。それに気づいたのか、表向きの会話が若干ぎこちなくなるけれど、直ぐに元に戻して。
 
(気づいたって、何かあったの……って、奏笑いすぎ)

(ふふ、ごめんって。気づいた内容はね。あの(・・)震離がえらく信頼を置いている事に)

 そう告げると、真剣に話を聞いてたスバルの顔が一転して。目が丸くなって居るのが見えて。

「……震離って、人見知り……なの?」

「……マジか」

 まさかの発言に思わず念話ではなく普通に会話してしまった。
 チョット待って、えー……嘘ぉ……てっきりティアが気づいてたから、スバルもって思ってたら……マジかー……。

「……私達と会ってる今の震離はわからないけれど。基本的にあの子ってば、超が付くほど人見知りだからね?」

「……全然気づかなかった」

 本気で驚いてる表情から察するに、本当に気づいてなかったんだと分かる。コレは気づいてないスバルが悪いのか、最後まで隠し通せた震離が上手いのかわからないなー。

(ま、まぁ。こちらに戻すけどさ。あの子があそこまで信頼を置いてるから、私的には今は置いといて良いと思うよ。それに震離の言葉が事実なら……スカリエッティは今のスバルとギンガの前に顔をあまり出さないらしいし)

(……うん)

 おや? スバルが気にしてるのは、そこじゃないのかな? 息を吸って、私を見据えて。

(ミッドの……管理局に拘束されてるスカリエッティって、極悪非道って言われてるじゃない?)

(まぁ、世間一般ではそう言われてるね。人体実験したりしてたみたいだし)

 何処まで本当かはわからないけれ、ど。

(そう。でも、わからないんだ。私もスカリエッティの調書を見たけど、ノーヴェ達を操ったのはスカリエッティの意思ではなかったみたいだし。だから、あの―――)

「それ以上はダメだよ」

 強制的に念話を打ち切って、静かに彼女の瞳を見つめる。

「この世界では、そうなのかもしれない。もしかしたら本質がそうだったのかもしれない。でもね。

 ―――それはもう、遅いんだ」

 スバルが息を呑むのが分かった。

 そう、もう遅いんだ。仮に善人であろうと、既に積もり積もった罪状は上限を遥かに超えているのだから。スバルが何処まで調書を見たのか知らないけれど、おそらく裏では管理局を操ってた……最高評議会が絡んでいるんだろう。

 現に、ゆりかご戦の直後から連絡が途絶えたらしいし、何の声明も上がってない事から何かあったことには違いないだろう。

 だからこそ、管理局上層部は決めてしまった。ジェイル・スカリエッティと、そして、誑かされた(・・・・・)レジアス中将の責任だと。
 そして、そこから派生して、震離にも飛び火してしまってるけど……。

 いや、考えるのは止そう。心配で胃が痛くなるし、この世界に飛ばされてしまった以上どうしようも出来ないし。
 それに本人がいるんだ。なんとでもなるよ。

 あ、ダメ。一度考えたら色々とマイナスな方向で……。こうしてる間にも変な疑い掛けられてないかとか、事態が急変してないかとか。

「―――で、奏?」

 ふと、スバルとは違う方向から声の聞こえる方を見ると。

「……あー、先輩? どうしたんですか?」

 どことなく……いや、この世の終わりの様な顔の先輩がそこに居た。ちらりと視線をずらすと、疲れたような顔をした響が見えて……そこから察するに。

「響とはぐれて寂しいんですかー?」

 茶化すようにそう言うと、ジワッと涙目になって……。

(あー、奏がフェイトさん泣かしたー!)

(ちょ、ま……)

 スバルが念話で……よりにもよって広域(オープン)で言った事により、離れていたはやてさん、ギンガがこちらを伺うように視線を向けているのが分かる。
 
「奏、その……突然で申し訳ないんだけど。今晩、こっちに泊まれないかな?」

「へ? なんでまた……って」

 少し整理してみる。現在響とはなが、アミタとキリエのお家に泊まる予定になったが、先輩は変わらずテスタロッサ家に泊まる予定だ。
 だけど、それは昨日と違って、一人で泊まるということ……つまり。

「え、本当に寂しがってるんですか……?」

「……」

 無言でコクンと頷く先輩を見て。吹き出しそうになるのを堪える。
 そして、直ぐに。

(……理由を聞いても?)

 念話に切り替えて、目の前の先輩に語りかける。

(……母さんと、アリシア達とどう話して良いのか分からなくて)

(なるほど、それで)

 その一言でようやく合点がいった。先輩ってば、響とはなをクッションにして接していたけど、それが無くなる状態ではどう接して良いのかわからないんだ。
 私的には杞憂だと思うんだけどね……。

(その、母さんに嫌われたりとか、違う存在だってバレてしまうんじゃないかとか……)

(……うーん、見てた限りじゃそういう事無さそうですけどねー)

(えっ?)

 鳩が豆鉄砲を食ったように、目を丸くするのを見て。先程の光景を思い出す。それは響の服を選んでる時の光景。服の趣味は若干違えど、プレシアさんと先輩を見てると、親子だなーと素直に思えたし。
 そして、何より、それを離れた場所から見てたアリシアさんが、嬉しそうに頷いてたのが見えたし……。

(まぁ、どうしても無理って言うなら……考えますが。本当にそれで良いんですか?)

(……う)

 視線が泳いでるのがよく見えるなーと。
 
 先輩……いや、フェイトさんと、そのお母さん、そしてお姉さんの関係は、さわり程度なら知っている。なのはさんとフェイトさん深くが関わった……プレシア・テスタロッサ事件。通称PT事件。お母さんの名前がそのまま入ってる以上、何かあったのは確かだし、事件の概要は知ってるが、それに関わった人たちの心情までは図れないし。

 きっと、重い何かがあったのは確かだけど……。

(どうしても……暗くて重い気分になったら呼んで下さいな。私で良ければ駆けつけますから)

(……うん)

 不安そうな先輩に笑いかけると、釣られて先輩も笑ってくれて。ほっと胸を撫で下ろす。

 こういうポジションは響が担当すべきなんだけど……それに気づかないほど何かを考え込んでるのか、はたまた完全に気づいていないか……コレは後者かなー?

 ま、それはさておいて。

「先輩もお酒飲める歳になったんですから、お母さんに酌をしたらどうでしょ?」

「……!」

 凄い、嬉しさと戸惑いが入り混じった表情してらっしゃる……。コレなんて言うんだっけか。確か……目からウロコだっけ?
 まさにその表現だなーって。


――side流――

『―――以上が、私が見つけたデータだ。詳細は震離君に渡してあるから確認しておくれ』

「何時も感謝します。プロフェッサー」

 電話越しだと言うのに、つい頭を下げてしまう。翠屋からの帰り道にショートメールで、時間があったら電話が欲しいと連絡をとあったから折り返したけれど。まさか予想以上の内容でした。

『ハハハ、構わないさ。それよりもクイントの……大きくなった方の娘を見たよ。どれほどなのか気になって、悪ぶってみたが……いやぁ……参った。あれほどなのか、と』

「……」

 くつくつと笑うプロフェッサー。だけど、その言葉は……。

『……私ではサト君と仲良くできそうにない、と実感できたよ』

「そんな事」

 無い、と言いたい。だがしかし、現実は……。

『……すまない。そんな事を言いたい訳ではないんだ。そして、君たちにそんな事を言わせたい訳でもない』

「いえ、こちらこそ……ごめんなさい」

『そうだ。明日の旅行には今回やってきた子達も行くのだろう? しっかりと羽を伸ばしたまえ』

「……え? 私と震離さんもメンテに参加するつもりですよ?」

『……すまない……ッ』

 電話の向こうで失言したと言わんばかりに、凄い声で謝罪の言葉が飛んでくる。言葉足らずだったことに気づいて慌ててその事を伝えると。

『なんだ、そういうことなんだね。良かった心配したとも』

「いえいえ、こちらこそ言葉足らずで申し訳ないです」

『しかし、今回やってきた子達を見たが……大丈夫(・・・)なのかい?』

「……確実とは言いにくいですが、恐らくは。それに、震離さんからも連絡はありました。今は落ち着いている、と」

 電話の向こうで、安心したようにため息が聞こえた。プロフェッサーの事情を知ってるからこそ、このため息の意味はよく分かる。

 だからこそ、せめて皆さんからの誤解というか偏見というかを、なんとかしたいのだけれど……。どうしたものかと頭を悩ませる。

『そうだ。今回やってきた子の……あの子は……そうなのかい?』

「……えぇ、考えているとおりです」

『……なるほど、確かに可愛らしいね』

 苦笑。それは自虐で言っているのか、それとも認めたくなくて言っているのか分からないけど……。

「何か思う所でも?」

『いや。大変そうだねとしか思わないさ』

「えぇ、私もそう思います」

 短くお互いに思ってることを言う。それが意味するのは……単純な同情でした。

『あ、そうだ。私なりのレイドシステムを考えたんだが……まだ時間はあるかい?』

「えぇ。今日はゆっくり散歩がてらですので。何かまた驚くような物でも思いつきました?」

『あぁ。聞いてくれ!』

 子供のようにはしゃぐプロフェッサーの声を聞くと、つられて笑ってしまう。やはり、この方は―――


――side奏――

「先輩。明日また逢えますし。大丈夫ですって」

「……うん」

 とは言ったものの、私達の前では電源が落ちたかのように暗い影を纏うのはどうかと思う。お陰でギンガもスバルも、なんか気まずそうにちょっと距離取ってるし。

 というか。

(面白そうですね部隊長殿?!)

(だって、ホンマにおもろいもん)

 遠くでこちらを見て笑う部隊長殿を忌々しく見る。というかこういう役割って普通幼馴染とかがするもんじゃないの?
 でも、意外だったのが。

「なんで震離が急いで連れて行ったのかが、気になる所だけど……ま、後の祭りだね」

 深いため息が漏れる。白衣姿の震離が一足先に、と。響とはなをつれて帰ってしまったんだけど……あんまり説明が無かったことが気になる所と、ただ一言、また明日ねとしか言わなかったこと。
 
 そこから考えるに、やはり何かを隠してるのは明白なのだが。ちらりと視線を先輩に戻すと。ほぼ死んでるような表情なのが、なんとも言い難いです。

「あ、いた。フェイトー?」

「……あ、はい……母さん? どうしたの?」

 うわすご。一瞬で元に戻った辺り流石だなーと。
 いや、この場合は……。

「奏ー、私達も行きましょー?」

「あ、はーい。今晩よろしくねー、っと」

 アリサの声を聞きながら視線を一瞬先輩へ向けて。

(……回線は基本開けっ放しにしておきますから。何かあったら連絡をくださいね?)

(うん、ありがと奏)

 小さく手を振って、アリサの声の方へ近づくと……おや?

 アリサと、その執事でいらっしゃる鮫島さんが居るのは分かる……が。

「家に着くまでお話聞かせてね、奏!」

「宜しく……お願いします」

 元気一杯のアリシアと、その妹さんであるフェイトさんがそこに居た。
 なんでだろうって首を傾げていると。

「プレシアさんとリニスさんはこの後用事が有るんだって。その関係でウチがテスタロッサ姉妹を。すずかの方がなのはとティアナを連れて行くって」

「なるほど」

 ぽんと手を合わせて納得。あれ、そうするとさっき先輩に声を掛けてたのは……。

「ねぇ奏? 未来で大っきなフェイトとどんな関係なの?」

 私の手を取って、優しく握りながらアリシアからの質問を受けて。

「へ、あー……うん。大学の先輩後輩です、よ?」

 普通に言い切ろうと思ったら。なぜか敬語になってしまって思わず苦笑い。しかし、アリシア……さんは、そんな事を気にしないで、ムニムニと私の手を触って。

「奏は何かしてるの? 手が固いけど……」

「へ?」

 訓練で銃を持ってるからですよ、とは言えないからちょっと返事に困って咄嗟に。

「こんなんでも剣道してますからね、そのせいかも」

「あ、なるほど。だからシグナムみたいに……だから戦闘も強いんですね」

「あ、あはは。私はまだ弱いほうだよ」

 ムニムニとアリシアさんが手を揉む側で、それを観察してたフェイトさんが納得したように言うのに合わせて誤魔化してみる。

 実際、剣を習ってた事は本当のことだし……って。やっぱりこの世界のシグナムさんも剣の道に居るんだなーと。

「あの……奏、さん?」

 おずおずと、小さなフェイトさんが言うのが少し可笑しくて。

「フフ、呼びにくかったらそのままで良いよ」

 ……なんて言いながら、私は私でこのフェイトさんを呼び捨てにしなきゃなーって。

「奏、あの……私と今度戦ってくれませんか?」

「うん。良いよ」

 パァッと表情が明るくなった事から。この世界のフェイト……さんも、バトルマニア寄りなんだーって。そう言えば、元の世界でも言ってたなー。私がまた六課に戻ってきた時にでも模擬戦しませうって。
 というか、全体的にシグナムさんと二人で、優夜や煌の戦闘データも集めてたっけ……。

「じゃ、行きましょっ。奏には家についたら色々遠距離戦の事聞きたいし」

「むー、アリサもすずかもいいなー。私達は明日聞くからね?」

「うん。私なんかでよければ。ね」

 三人と共に車に乗り込んだ辺りでふと思う。
 なんというか、小さい皆さんと未だに距離があるように思えるなーって。実際、私達も飛ばされた組で固まる関係もあって、中々話かけにくいんだろうかって。
 それに、私達が知らない所で既に各々帰宅用意してたりする所を見るとなんだかなーって。

 まぁ、念話という、この世界における最強の内緒話のツールが有るからなんとも言えないけどね!

 
――side――

 ―――嫌、だ。やめて、もう、何も奪らないで。

 ―――違う。私はただ、君の身が……。

 ―――もう、俺から。何も奪らないで!!

 ―――――――――

 パチリ、と目を開いて。周囲を見渡す。見知った今の家のリビングで、座椅子に座ったまま眠っていたらしい。

「……あー、嫌な夢だな」

 まだ眠いと思いつつ、目元を拭うと僅かに濡れているのが分かって、自嘲気味に笑ってしまう。
 それにしても懐かしいものを見たなぁと。

 あの二人から違うということは聞いてるし、二人も必要以上には言わない。だけど……。

「未だに引きずってるのは弱い証拠だなぁ」

 座椅子にもたれ掛かり天井を見つめる。じわじわと視界が歪むのが分かって―――

「……涙脆くもなったなぁ」

 ポロポロと熱いものが溢れていく。

「……あれ、電気ぐらい……って」

「……あ?」

 視線を下に向けると、丁度帰ってきたばかりの流と視線がぶつかる。そして、徐々に冷や汗をかいていって……。
 
「わー!! なん、どう……え、あの?!」

「……気にすんな。ちょっと思い出し泣きしてただけだよ。それより……おかえり流」

 部屋の灯りをつけながら、入り口で固まる流に視線を向ける。相変わらず慌ててるようだけど、幾分か落ち着きを取り戻して。

「えぇ、まぁ……ただいまです」

 ふと、右手にケーキボックスを持ってるのが見えて。今日はアルバイトの日だったのを思い出す。視線に気づいたのか、小さく笑みを浮かべてボックスを軽く持ち上げながら。

「王様達におすそ分けしてきましたが、まだ残ってますよ。食べます?」

「……いや。気がつけば夕方だし後でいいよ。それより……晩ごはん作るなら手伝うよ?」

「なら、お願いしましょうか。昨日は煮付けでしたので、今日はあっさりしたものでも……何かリクエストあります?」

「……冷しゃぶサラダとか?」

「フフ、良いですね」

 流と共にキッチンに向って。料理の用意を初めて―――

 ふと気づく。何処と無く高揚しているんだ、と。 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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