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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第74話B 繋いだ手がほどける時

 
前書き
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後悔されないように。 

 


「……だから、私達の事は気にしないで!」

 震離が精一杯の笑顔で、ノイズが奔る向こうへ伝えようとする。もうノイズにまみれて砂嵐しか見えない画面へ。
 ふと、通信から見えない彼女と彼の手が強く手を握っているのが解る。穏やかな表情とは違い、その手は強く震えているのが解る。流に至っては笑顔にも関わらず、涙を零している。

『……いっ――っしゃ―。気――けて帰っ―くる――で? ―レはスターズだ――ない。ラ――ニングも、――グアーチも、機動六課皆――願いや。ちゃ――帰って、ただいまっ―言うんよ?』 

 途切れ途切れにも関わらず、2人はその言葉を理解して。

「「いってきます」」

 その言葉を最後に、通信が途絶した。

 2人がいる場所は駆動炉の残骸の前の瓦礫に座っている。大きな爆発が起きたのか、部屋中に亀裂が入っているものの……駆動炉は未だ一部分が砕けただけで、形を残していた。

 薄暗い部屋で、2人は笑った。
 いや、笑っているという自覚があるか分からない。ただ、優しそうな笑みを浮かべていた。特に流に至っては、笑らえて居るのだろうかと場違いな心配をしている。ほぼ無傷に見える震離と違い、血を失って薄れた意識の中でぼんやりと考えてた。

「……楽しかったね。私は六課に来れて……貴方()に逢えて良かった。まさか出会って数ヶ月で想いを繋げられるなんて思わなかったもの」

 普段の軽い雰囲気とは一変して、穏やかな淑女を思わせる雰囲気を纏っていた。

「……えぇ、私は逆に六課に来てからは殆ど何もしておりませんけどね。ずっと皆さんの足を引っ張っただけでした」

 穏やかな笑みを向ける彼女に、流は苦笑を返す。
 不意に流が咳き込んだ。軽く喉の調子でも整えるようなその咳と共に、彼の口元からは血が溢れ出る。咄嗟に口元を覆うも流れ出る血を抑えきれずに、指の隙間から漏れ出している。

「……やはり、私は継承出来ていないんですね」

 手についた血を眺めつつ自嘲する。自分の何かが足りないということは分かっているが、その行為自体には深い敬意を感じられる。
 
 この身を託したヴァレンさんは、やはり凄い方なんだ、と。

 100%と引き出せない自分に失意こそあれど、それ以上にヴァレン・A・L・シュタインの凄さを改めて実感していた。
 彼の戦闘を内側からずっと見ていた流は、彼の実力の高さ、気高さを感じ敬服すらしていた。だからこそ、自分が彼を受け継ぐということを、流は存在を殺すと表現したのだ。

「流!」

 心配そうに流に駆け寄る震離。だが、彼女の足元には灰の様な物が舞っている。よくよく見れば、彼女の手足が徐々にだが、確実に灰化しているのが判る。

「平気ですよ。――痛みはもう感じませんしね」

「……そっか」

 どことなく涙目になる彼女を安心させるように、彼は彼女にのみ見せる笑みを浮かべる。年相応な、子供のような笑顔を。

 通信を飛ばす前、彼と彼女の言っていた最悪とはこの事だ。

 風鈴流も、叶望震離も、もう保たないという事を。

 先ずは流。嘗てのヴァレンの全盛期のときの体ならばこの程度の負傷ならば、ヴァレンが考えてた通り再生していただろう。
 だが、ヴァレンをその身に宿し、本来のリンカーコアを取り込んだこの体は致命的なまでに最適化が間に合っていないのだ。右の肩を貫かれても死なないはず。脇腹を抉り抜かれても死なないはずのこの躰。
 1時間もすれば、その心の臓は鼓動を止めるだろう。既に流のオッドアイには白くなり始め、気を抜けば眠ってしまいそうなほど睡魔に襲われてしまっているのだ。

 次に震離。以前死にかけた際に、キュオンに……真祖の吸血鬼(ハイデライト・ウォーカー)によって使徒化を施された。だが、それを持ってしても腕を落とされ軽い拷問と火災の熱に襲われた際に、彼女は二度目の死を迎えていた。
 それでも彼女が生き残ったのは、流を殺されたかもしれないという疑念からの憎悪。それによって限界を超えて彼女は生きた。そのお陰で、震離はキュオンと言う祖と再会し、そして彼女の血を、力を受け継ぐ用意をしていた。

 しかし、完全に受け継ぐには時間が足りなかった。

 震離がライザに貫かれ爆破された時、完全に受け継いでいればあの時点で彼女は完全に再生をしていただろう。だが、それが出来なかったのはまだ受け継げていなかったこと。同時に念を押されて彼女とある約束をしていたが、震離はそれを破ってしまった。

 キュオン()が消えるまで心臓を貫かれてはいけない、と。

 曰く、自身が死ぬ度に貴女に真祖の力が流れていくと。曰く、消滅した時にはその力が完全に譲渡されると
 だが、震離はキュオンが魂を賭す前に一度死んでしまった。心臓を貫かれて。

 それでも震離は自力で再生し、響の頼みを完遂したが、その際に気づいてしまった。自身が灰化し始めていると。自分が消え始めていると。だからこそ震離は響の元から離れた。悟られてはいけないと。自身がもう保たないと、死んでしまうとバレてしまわないように。

「ねぇ、震離さん」

 朧気な視線のままで声を放つ。

「なあに」

 そんな彼の右手を取って隣りに座る。抱き寄せると流が笑い、それに応えるように抱き寄せる腕に力が入る。

「後は死に行くこの躰。私は最低ですね……鮮烈に生きると言ったのに、こんなにもすぐに破るんですから」

「そんな事無いよ。少なくとも流は今まで生きてた過去は……鮮烈じゃないと思うの?」

「は」
 
 息をつく様に笑う。

「色んな人に助けられてばかりでした。でも、私は私を全う出来たと自負はあります」

 瞳を閉じた。
 すると、六課に来た今までのことが流れ出てくる。初めて六課に来て出会った時。皆に誘われ付き合った買い出しの時。出張に行った際の出来事。アグスタでの出来事。調査任務で初めてヴァレンと出会った事。初めてヴィヴィオと出会った時。躰を奪われそうになった時。休日を使って地球へ行った日。
 いろんな出会いがあった。一つ後悔があるとすればもっと早くに皆さんと仲良くしたかったという事を。
 
 そして、何よりも。震離に出会えたということが何よりも大きいと、想いを通じ合えたと言う事が大きかった。
 
「なら良かったよ」

 愛おしそうに、流を抱き寄せる震離の目には涙が浮かんでいる。
 彼女もまた、出会ってからの日々を思い出していた。何処と無く放っとけなかった、初めはそれだけだった筈なのに、徐々に彼を見ていることが多くなっていった。コンビを組む機会が多かったというのも一つの要因だったのだろう。
 しかし、それでも震離は彼を見ていた。そして気づいた。不器用ながらも一生懸命に陰ながらフォローをしていて、成長してると分かれば喜んで、任務の度に皆が無事だという事実に人一倍喜んでいた彼に、少しずつ心惹かれて行った。
  
 このままゆっくりと一緒にいたいと考えてしまう。

 だが……。

「……流、やろうか」

「はい」

 白く濁りつつある瞳を開けて、流が応える。
 ゆっくりと、二人して立ち上がり、宙へと浮き、駆動炉の空いた穴まで近づく。

「流。伝えた通りやろうか」

「えぇ、やりましょう」

 白んだ目に、強い意思が宿る。駆動炉の中に降りるとともに、流の両腕に魔力が宿り稲妻が奔る。それに合わせて震離もその身に宿った全ての魔力を用いてイレイザー(消滅系)の発動準備を行う。
 普通の人間ならば、恐れるに足りない。範囲も効果も限られている。

 しかし、この2人は違う。真祖の力を受け継ぎ、人では扱いきれないほどの魔力を有した吸血鬼。それに対抗できうる程の魔力を有した何か(・・)。事実AMFという環境下にも関わらず、溢れ出る魔力で空間が震えている。
 震離が言うには、ヴァレンが最後に放った技に、空間を割る能力を付与させ、それにイレイザー(消滅系)で迎撃すれば、擬似的なアルカンシェルの効果を再現出来るとの事。
 本来ならば机上の空論。出来たとしても人では出来ぬ芸当……のハズだった。
 
 幸か不幸か、この二人にはそれが出来る力と技術。何より、それをシミュレート出来るのだ。
 
 だが――

「……あぁ、ドキドキする。本当に死ぬのは……初めてだから」

「えぇ、そうですね」
 
 二人して苦笑を浮かべている。こうしてる間にも、震離の躰からは灰が舞い、流は全身から血を零している。

「あーぁ。流とお酒飲んでみたかったなぁ。ミッドの月は2つあるから好きなんだよねぇ」

「その時は私のが年下なので、酌を致しますよ。月見酒も風情がありますよね」

 他愛もない言葉を紡ぐ。それは2人がこの後のことに恐れを抱いていないということ。死ぬのが怖い訳ではない、だがこの人とならば大丈夫だと互いに想い合ってるからこそ、恐怖を超えることが出来るのだ。

「……嘘ついちゃったね」

「……本気の嘘です。後悔はありませんよ」

 そのまま2人が近づき正面に立つ。お互いに笑みの歯を見せ、震離が流と目線を合わせるために僅かに屈んで、愛おしそうに額をコツンと合わせて。自然な動作で唇を重ねた。
 しばしの沈黙の後、2人が唇を離し、顔を引き―――





「―――月が綺麗ですね」





「えぇ、死んでもいいよ」





 刹那。2人の間に白と黒の極光が奔る。光に飲まれる直前、彼と彼女は笑った。大きく笑って、笑って、笑って……そして、愛おしそうに。

「「―――――」」

 その身と声も、等しく光に飲み込まれた。
 
 

 
後書き
 彼と彼女の本気の嘘を。 
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