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デート・ア・ライブ~Hakenkreuz~

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第二十八話「来禅高校修学旅行・Ⅷ」

「(十香!)」

五河士道は痛みで蹲りながら十香の戦いを見ていた。そして同時に自らの無力感に苛まれていた。来禅高校の屋上の一件以来考えている事、精霊やASTとの戦いでは自らは見ている事しか出来ない事を。

十香や四糸乃の様に精霊の力を持っている訳ではない。琴里の様に的確な指示が出せる訳ではない。自分はただ精霊の元に出向きラタトスクの指示通りにしているだけだった。

最初の内はそれでもいいと思っていた。その分自らの本心を伝えればいいと。それが変わったのは屋上の一件だ。

話は通じずただ暴力が支配する空間。自分の親しい者たちが手も足も出ずただ蹂躙されていく、そして自分はその場に居ながら何も出来ずただただそれ(・・)が終わるのを遠くから見ていただけだった。

自分に突き付けられた銃口、それを跳ねのけてくれたのは妹の琴里だった。その時、自分は何も出来なかった。もう、あんな風に何も出来ずにいるのは嫌だった。

そして今、士道は同じ目に遭っている。あの時とは違い近くには十香しかおらず残りは全て敵であった。彼らの力の前に十香は呆気なく倒れ自分に向けて敵が手を伸ばしていた。

視界の端に地面に倒れ込む十香の姿が見える。地面に倒れながらも必死にこちらに向けて手を伸ばす姿が見えた。

「う、おおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

士道は自然と雄たけびを上げ手を振り上げた。彼の胸の内に秘める思いはただ一つ。

十香を、大切な人たちを守りたいっ!

そして、その願いは

「…っ!?」

「え…?」

「シド―?」

こちらに手を向けていた(大尉)の切り裂かれ、上空へと飛んでいく右腕に誰もが驚愕する表情、そして。

士道の右腕に握られた光輝く剣という形で現れた。













「っ!」

大尉は思わずと言ったように後方に大きく飛びのいた。そして同時に少女(十香)の方を見る。先程まで少女が持っていた鏖殺公(サンダルフォン)は存在しなかった。

少女が剣を投げた様子は無かった。なぜ彼が持っている?けして答えの出る事の無い疑問が大尉の胸を駆け巡る。しかし、直ぐにその疑問を飲み込み目の前の士道に目を向ける。

未だ士道は右手の剣に釘付けになっており隙をさらしていた。それを大尉は見逃さずしかし、警戒を強めて一気に駆けだす。

「シド―!」

「っ!」

少女の声に漸く士道が大尉の方を見る。しかし、その時には大尉の姿は士道の眼前まで来ていた。握り拳を作った大尉の左腕が士道の鳩尾に食い込む。何かがつぶれる音と共に士道の体は大きく吹き飛び後方にあった樹に背中を打ち付ける。右手に持っていた剣は手から離れ大尉の近くに落ちた。

「ぐっ!くそ…!」

士道は口から垂れた血を拭う。既に鳩尾には炎が現れ回復を開始していたが動けるようになるには少し時間が必要だった。そしてそれは目の前の大尉が攻撃し、士道に深手を負わせるには十分な時間だった。

大尉は一気に士道との距離を詰める。大尉も右腕を失い血が垂れている現状で長期戦は好まなかった。故に一気に畳みかける。

大尉が左手で手刀を作り攻撃の構えを取る。士道はそれを避けようとしても鳩尾の痛みで動くことは出来ず朦朧とする意識の中で迫りくる敵の攻撃を見ている事しか出来なかった。

そして、士道を確実に捕まえるために行われた大尉の一撃は

「やぁっ!」

「…っ!」

大尉の背中を渾身の力で切り裂いた十香によって阻まれた。回復しきれていない体で無理をした十香はその場に倒れ込む。しかし、大尉を止めることには成功し大尉は背中を大きく負傷しその場に蹲る。

「うう、シド―。無事か?」

「と、十香。サンキューな。助かったよ…」

「そ、それは良かった」

士道は十香からの問いに息を吐き出しながら答える。張りつめていた空気が一気に軽くなり士道は肩の力を抜き上空を見る。

空は大きな雲で覆われ時々八舞姉妹の戦闘の様子が見える。今すぐにでも二人の元へと士道は行きたかったが体は全く動かなかった。

「…まさか、大尉が負けるなんて思わなかったよ」

「「っ!?」」

敵を倒せたと言う安堵の中、声変わりをしていない少年の声に士道と十香は一気に警戒する。その声の主、シュレディンガー准尉は近くに木の陰から現れ人懐っこい笑みを浮かべながら二人に近づく。

「そんなに警戒しないでよ。僕は大尉みたいな戦いなんて出来ないし第一僕は喋らない大尉の通訳で来ているだけなんだから」

「…そんなこと、信じられるかよ」

「別に?君に信じてほしいとは思ってないよ」

士道の吐き捨てる言葉にシュレディンガー准尉は特に気にした様子も見せずに答える。ここが戦場でなければシュレディンガー准尉は愛らしい少年に見えただろうがここではただ警戒されるだけに過ぎなかった。

「まあ、大尉がやられた今僕たちは帰らせてもらうよ。目標達成は出来なかったけどデータはたくさん撮れたしお土産も出来たしね」

そう言うシュレディンガー准尉の手にはバンダースナッチ(お土産)をまとめた袋の入り口部分が握られていた。

「これで許してくれるかは分からないけどないよりはマシだよね」

「ま、待ってくれ!」

士道に背を向け歩こうとするシュレディンガー准尉を士道は呼び止める。士道の言葉にシュレディンガー准尉ははてなマークを浮かべながら顔だけ後ろを向く。

「君たちは、一体何者なんだ?」

「僕たち?別に教えてもいいけど、君達(・・)じゃ僕たちの事なんて知らないだろうからね」

「僕たちは鉄十字の会。80年近く前にこの世から消えたナチスの亡霊さ」

そこまで言うとシュレディンガー准尉は再び歩き出す。

「それじゃまたね、五河士道君。今度来るときは戦場じゃない事を祈っているよ」

大尉、帰るよ、とシュレディンガー准尉は呟くと大尉がいきなり現れる。その左腕には切断された右腕が握られていた。

大尉と言う強大な敵との遭遇を無事、とまではいかないが切り抜けられた二人は再び大きく安堵の息をついた。
 
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