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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第71話 最後の痴話喧嘩を

 

 後ろでオリヴィエ様の気配が弱くなったのを感じたと同時に、更に踏み込んだ。それが意味することはただ一つ。紛い物(ヴィヴィアン様)の本格的な起動を意味するという事。
 
 オリヴィエ……いや、ヴィヴィオちゃんの場合は闘うという意思が無かった故にゆりかごもその力を完全に解放していなかったが。
 紛い物(ヴィヴィアン様)の場合は話が異なる。間違いなく破壊衝動に身を任せて暴れるだろう。あの子がどういう子なのかは分からない。

 だが、コレだけは言える。

 今感じるこの気配は、まるで―――

 ―――かつて汚染されてしまった夜天の書と同じだと錯覚してしまったのだから。


――sideヴァレン――

 さて。琴の息子……いや、響は怪我こそしてるが何とか大丈夫そうだな。

 遺跡に来た時、気配は感じていたが、顔は見れなかったんだよなぁ。ゆっくりその顔を見てみたいが……それは難しそうだ。

 目の前に居るのは。色鮮やかな虹の光を纏って、肩につく程度の金色の髪。聖王家たる証の1つの赤と緑の綺麗な目。

 あぁ、髪型こそ違えど、ヴィヴィアン様にそっくりなその子は。口が裂けるような笑顔を浮かべていた。

「ヴァレン・アルシュタイン? 御伽噺の英雄じゃあないか。それがなぜここに?」

 紛い物(ヴィヴィアン様)の後方に立つ白衣を纏った男が呆れたように言うのを聞く。
 咥えたキセルを、口の中で空気と混ぜるように肺まで吸い込んで。

「宣戦布告はしたはずだ。ま、名前なんて捨てたからな、忘れてもらっても構わない」

「フハハ。そうか、ならば呼び方を変えようか。贋作のF(Faker)! フロウ・ウィンドベル! いや、風鈴流君と呼んだほうがいいかな?」

「どちらでもいい。だが、俺の後継者(・・・)を贋作呼ばわりとはいい度胸じゃないか。えぇ、おい?」

 肺まで入れた煙を吐き出しながら白衣の男を見る。大体何を以て贋作呼ばわりしているのやら。理解出来ないな。

 ふと、前方に居たはずの紛い物(ヴィヴィアン様)が地面を蹴ったのが見えた。直後に俺の右側面に気配を2つ感じるが……。
 
 まぁいいか。

「邪魔しないで頂けますかしらぁ!」

「……じゃ頼んだよキュオン」

「えぇ」

 右側面に障壁を張ってこの後の事に備える。紛い物(ヴィヴィアン様)がそこまで迫ったと同時に、キュオンがその間に割って入って。

「邪魔ですわぁああああ!!」

 拳を叩き付けると共に、内蔵されてたであろう魔力が爆発。同時に、大量の血が周囲に飛び散る。俺と響は障壁のお陰で血を被ることは無かった。だが、目の前でキュオンを文字通り粉砕させた紛い物(ヴィヴィアン様)は。

「あは♪ やっぱり、やっぱりだ……これよ、これですわ! この感覚は……堪らなぁい!!」

 体いっぱいに血を浴びたにも限らず、とろけそうなくらい恍惚とした表情を浮かべていた。その感覚を刻むように自身の体を抱きしめて。

「最ッ……高!」

 今一度煙を肺まで吸い込んで、ため息と共に吐き出す。

 あぁ、コイツはもう、救いようは無いんだなと確認を取ったのだから。


――side震離――

 不意に私の中で何かが積み重ねられていくのを感じる。粘着くような嫌な魔力が消えたと思ったら、今度はコレだ。正直嫌になる。

 コレが何を意味するのかが分かるから余計に。

 ヴァレンさんと、キュオンさんの計画を知っているけど、それでもだ。きっと言っても聞かないだろうし、計画を考えるとそれは無意味だとしてもだ。

 つい祈る……いや、この場合は願うが正しいかな。

 あーダメだ。また涙が出てきそうになる。あの二人の状態を知ってるから尚の事だ。

 片や吸血鬼として生きる事を放棄しているせいでその力は弱ってるという事を。
 
 片や数百年封印されてたせいで、体を十全に扱えず、その存在が薄まってるという事を。

 ご自愛してくださいって言っても二人共する気無いみたいだし。それどころか、最後だからって無茶する気満々だし。

 ……コレは流も同意した。それほどまでに決意は固く止められるものではないと知ったから。故にあの二人は前に出た。本来なら表舞台に出なくても良かったはずなのに。

 それでも姿を表したのはただ一つ。過去の遺物(ゆりかご)によって、今の人達(未来)を護るために。

 あの二人曰く、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)によって書き出された予言は、最低でも5割は当たるとのこと。つまり今回の予言。

 旧い結晶と無限の欲望が集い交わる地、死せる王の下、聖地よりかの翼が蘇る。鬼神が倒れ、血の女王は滅する。なかつ大地の法の塔はむなしく焼け落ち、それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる。

 既に前半は達成させられている。だが、後者を達成させてしまったらそれだけで死傷者が出てしまう。そして二人は言ってた。自分達の記載がなければ5割は達成されてたのにね、と。
 しかし、記載がある以上、どれかを達成させなければならないと。そうしなければ、どれかが起きる。最悪な場合全部達成されてしまうとのこと。

 だからあの二人は出ることを決めた。だからキュオンさんは動いていた。六課の時もやって来たし、実を言うと初めて遺跡に行ったあの日にも来ていたらしいし。

 でも。それでもだ。命を捨ててもいいと考えつくとは思えなくて、二人に聞いて私は驚いた。

 そして同時に知った。彼らが人ならざる者(■■)で、民を護る騎士であろうとしているのかを。ハッキリ言われた。

 ―――救いたいと願うのでは、思うだけでは足りない。だからこの身を掛けて往く。結果自分達がどうなろうと無事平穏に生きていたらそれでいい。

 平然と躊躇もなく、それを選んだ。だからこの一戦は彼らにとっての最終章。得る物など1つもなく。1つあると知れば……それが例え、敗北と言う結末だとしても、だ。

 さぁ、急ごう。私にも役割があるし何より気に掛かる点がある。管理局がどう動いてるかは分からない。だが、それでもだ。

 管理局にこの船を撃墜する術があるのを知ってる者が、なにもしない訳ないのだから。嫌になるよ、全く……!



――sideなのは――


「みちゃダメ!」

 咄嗟にヴィヴィオの目を覆う。色々不可解だと思うものは沢山ある。いつかの遺跡の人がそこに居るということ。そして、いつか六課に来て、流を救ったシスター……マリ・プマーフ。
 いや、あの人の言葉を借りるなら、キュオンと呼ばれた人は、文字通り盾となったと共に、粉砕されてしまった。

 なぜ映像に映し出されているのか分からないし、なぜそこにいるのかとか、色々ある。

 けど。

 映像の向こうでたった今、命が消えたのを見てしまったのだから。

 ふと、気づいた。ヴィヴィオの目を覆った手が濡れていることに。それが意味するのは。

「ヴィヴィオ、大丈夫?」

 覆った手を離して、映像が見えないように背を向けて。泣いてるヴィヴィオに声を掛ける。人が死ぬ瞬間を見てしまったのだろうと心配する。だけどその顔はどこか安心したような、懐かしい物を見たような顔をしていて。

「違うの……違うのママ」

「何が違うの?」

 ぽつりぽつりと話し始めるヴィヴィオの言葉を聞きつつ、静かに涙を流している。

「あの人達なら平気だよ。だって、だって……」

 自然とモニターに視線が戻っていく。未だに血の海と化しているモニターの向こうでは狂ったような笑い声が響いている。

「私の中の聖王オリヴィエが、記憶が言ってるの。キュオン様も、ヴァレン様も……大丈夫だって。あの二人が来たのならもう平気だって」

 どこか嬉しそうにそう話すヴィヴィオを見て、今一度モニターを見る。

 そして、言葉を失った。

『ねぇ、紛い物さん。その程度じゃダメですよ』

 黒霧と見間違えるような血の霧が、虹の光を飲み込み、赤黒く染めていく。狂ったように笑っていた声が止まって。

『やはり貴女は紛い物。コレで決めました。貴様も連れて行くことを』

 自分の体を抱きしめていた彼女の後ろに霧が集まったと思えば、手と顔が出来て、徐々に体が構成されると共に、衣類も粉砕される前の状態で復元されつつある。更に後ろから抱きしめて、彼女の耳元で囁くキュオンさんの姿が現れた。

『ッ!?』

 その手を払いのけると共に、後ろに居たキュオンさんを再度粉砕。そのままスカリエッティの側まで下がって行く。そして、再び血の雨が降った。だけど……。

『ヴァレン、やはり厄介だね。当初の予定通りやりましょうか』

 気が付けばヴァレンさんの隣に立っていた。

『あぁ、そうだな。やろうか』

 顔も合わせていないのに、それでも意思が伝わり、不敵な笑みを浮かべている。

 瞬間、赤い稲妻の纏った灰色の光がモニターを埋め尽くした。同時に、少し離れた所で強大な魔力を感じる。

『『Assiah!』』
 
 二人が静かに、ハッキリと宣言する。

Confutatis maledictis,(呪われ退けられた者たちが)

 流が……ヴァレンさんが一歩前に足を踏み出して告げる。
 
Flammis acribus addictis,(灼熱の炎に投じられる時)Voca me cum benedictis.(祝福されし者たちと共に私を呼んでください)

 それに続くようにキュオンさんも踏み出して告げる。

Cor contritum quasi cinis,(灰のように悔いた心で)

 歌うように、きれいな声で。

Preces meae non sunt dignae,(私の祈りはあなたに値するものではない)

 悲しそうに、寂しい声で。

Rex tremendae majestatis,(王よ、震慄させる威厳の方よ)

 歌う。

Solvet saeclum in favilla,(この世は破壊され灰燼に帰するのだ)

 唄う。

Dona eis requiem.(彼らに安息を与えたまえ)

 詠う。

『『et lux perpetua luceat eis.(そして永遠の光で彼らを照らしたまえ!)』』

 謳いきると同時に、遠くから地響きに似た音が聞こえる。

『聖王を名乗る者よ。覚悟を決めろ。鬼神と吸血鬼、我らは貴様を止める(・・・)もの也』

 魔力の暴風を受けながら、黒い神父服を靡かせ彼が言う。

『我ら、二度目の反逆を企てん者也。悪魔に身を落としたものなれど、人を護る想いまでは色褪せないのだから』

 ボロボロのシスター服を翻しながら彼女は言う。

『『さぁ始めよう。最後の勝負を』』

 私は二人を知らない。だけどコレだけはよくわかった。

 あの二人ならば負けは無いのだと。



――side響――

 情けない……ッ!

 とんだ大馬鹿野郎だ、俺は。渾身の一打を叩き込めたという事実に喜んで、目を離してしまった。敵が強大で障壁もあるというのに。

 最後に打ち上げられた時。完全に走馬灯が見えた。

 だが、光が差したのは確かだ。流……いや、ヴァレン?という人が現れてから完全に流れが変わった。

 とりあえず思ったのが……。圧というか、プレッシャーを向けられてるわけでもないのに、勝てる気がしないと思ったことだ。

「響!」「主!」

 あちこち殴られたせいで、体の至るところが悲鳴を上げている。そんな中でフェイトと花霞が駆け寄ってくれた。

「あぁ、大丈夫……とはいい難いけど」

 フェイトに支えられるまま、少し下がる。あーあー。せっかくの金髪と白いジャケットに俺の血がついてまぁ。

「すまない、汚した」

「それはいいから!」

 しかし、さっきと打って変わっての、攻撃を与える時の拳の入れ方。機動の変わり様。そして何より……俺ではアイツの影を見ることしかできなかった。その上格闘初心者からの、突然の徹しを使用した打撃。アイツが痛めつけて、大技で締めるという事を考えてなかったら。さっさと死んでた。

 死に掛けたらパワーアップってどこのゲームだよ全く。

 だが……。

「フェイト、あれ……どう見る?」

「流と……マリ・プマーフ。ううん、流の言葉を借りるなら……キュオンって呼ばれてたね」

 目の前で、まるで教会の神父とシスターの様な二人に視線を向ける。強大な魔力……いや、虹の極光を放ちながらも、あの2人も負けてない。それどころか拮抗している。

 でも。

「そのキュオンって人。俺の目の錯覚で無ければ――――」


――sideヴァレン――

 ――――決戦兵装、ディエス・イレ。

 数百年振りのこれの起動。やはり体が悲鳴をあげている。

 魂を動力炉に。魔力を熱に。拳を振えば熱は光となり放出される。聖王の鎧だけならばここまではいらない。だが、ゆりかごと一体と化した、無限とも取れる魔力を内蔵した聖王を相手にするならば……これでも足りるかどうか。

 それに―――

「キュオン、いいんだな?」

「既に決めたことです。構いませんよ」

 綺麗なストロベリーブロンドが、まるで燃え上がる炎の様に煌めいている。だが、何より目を引くのは。

「―――そうか」

 彼女の顔に罅が入り、一部が欠け落ちている。

 聖魔法……とは言わないが、それでもだ。例え最強とも取れる吸血鬼の躰であっても、いや、何より彼女の魂は既に限界を向かえていたということ。
 無理もない、共に過ごした時はこの体から血を得ていたのに、別れてからの数百年。彼女は吸血鬼であるということをほとんど捨てて生きていたのだから。

 今でこそ、血を吸ったとは言え……やはり。

「心配するのなら、私よりも流の事を心配しなさい。切り替えた(・・・・・)と同時に、激痛に襲われてしまうんだから」

「あぁ、そうだな。悪い」

 既に決意を固めたキュオンに対して、失礼なことを吐いてしまった。

 さて―――

「手筈通りに。往くぞ」

 踏み込むと同時に、紛い物(ヴィヴィアン様)が動いた。拳を1つ2つと振るう。

 瞬間、衝撃がぶつかり相殺される。即座に彼女の下を取る。滑るように躰を寝かせると共に、前かがみに拳を構えている彼女の腹部を目掛けて逆立ちの要領で両足で蹴り上げる。

 その際、今まで見えなかった背後が見えて、ふと―――

 ―――あれが琴の……響か。良いじゃないか。

 口元が緩んでしまう。かつての琴にそっくりな容姿、アイツの父親そっくりの目元に、父親譲りの思い切りの良さ。よく育てられているなぁと。
 しかも父親に似て技巧派か、血は争えないな。

 さて行くか。

「表で戦おうぜ?」

「いい度胸ですわぁあああ!!」

 彼女の体が天井に当たると共に、即座に追撃。しかし防がれる、が。

「だぁからぁ?」

 にたり、と彼女が笑う。障壁と聖王の鎧によってそれは通らない。しかし、それはいい。今目指すのは。

「!?」

 連撃と共に天井を打ち砕き。そして―――

「表で戦おうと言った。折角の青空だ、花も咲いてるし、鳥は囀っている。だから―――」

 今一度障壁ごと彼女を打ち上げて。

「―――過去の影同士。共に雌雄を決しようか」

 表へと参った。


――sideキュオン――

 よし、一番の問題は行った。弱ってるとは言えヴァレンなら、少しくらいの拮抗は出来るでしょう。

「さて、響。私はこの後あっちを抑えなきゃ行けないんだけど。あちらの方を抑えてくれるかしら?」

 振り返って、響と……いつか、お使いの時に出会った……。

「えーと。あぁ、あの時名乗って無かったね。マリ・プマーフは仮の名で、真名はキュオン・ドナーシャッテン。
 それにしても震離から聞いてた通りだ」

 あの時も思ったけど、やはり美人さんだね。ゆりかごに入る時にも見かけたけど、あの金髪のショートカットの……奏も美人さんだけど、こちらのが何というか柔らかい感じだ。

「さて、私は震離と流の仇討ちをしたいのだけど、それを貴方達に任せます。この後震離が来るから、コントロールの奪取諸々をお願いしたいなって」

「「……え?」」

 不可解な顔をしているし、もう少し説明してあげたい所なんだけど、コレ以上は不味いかな。
 上の流れが変わった。少しずつヴァレンが推され始めているという事を。
 正直なめていた。ヴィヴィアン様は矛槍の名手。無手もそれなりだったとは言え……コレは想定外だ。格闘術に長けてるヴァレン相手にこんな短時間で推すとは。

「ごめんなさいね。もっと色々お話をしたいのだけど、もういかないと」

 そのまま宙へと浮いて、ヴァレンの元を目指そうとしたと同時に。

「待った」

 響の声を聞いて背を向けたまま止まる。

「……経緯はわからないし、何故と言う疑問はあります。だけど……あの2人を助けてくれたんですよね? その事に感謝を。ありがとうございます。そして、ご武運を」

 顔は見えないし、きっと私が声を掛けるなんて烏滸がましい。だけど―――

「あの人なら―――こう告げるでしょうから伝えますね。傲慢なのかもしれないが、無事に生きてほしいと願っているよ。では、さようなら」

 今一度、宙を駆ける。さぁ……逝こうか。
 空へと出ると共に、虹と灰の極光が高速で入り混じっているのが見える。やはり、元々の出力が違うせいかヴァレンが僅かに、いや徐々に圧倒されつつあるのが見える。

 お互いに拳を振るえば、砲撃の様な魔力が奔る。片や純粋魔力。片や光熱。すでにお互いに考えていることは1つだろう。遠距離……否、中距離においても、既にお互い攻撃が当たらないということを気づき、知っている。ならばこそ。

 攻撃が当たらないならもっと近くで闘うしか無い、と。

 お互い正面から、砲撃のような攻撃を真正面からぶつけ合うにも関わらず、平然とそれを躱し闘ってる。だが、片方は回避も兼ねている関係で、攻撃と防御を暴風の中で繰り返してるが、もう片方は。

「あははははは!」

「チィッ!」

 大気が打ち震える程の拳を受けても尚、彼女の動きは止まらない。しかも彼女の場合、その防御するということを忘れたように全てを攻撃に振り分けている。

 そして、僅かにヴァレンの左頬に彼女の右拳が掠ったと共に動きが鈍る。その隙を逃さず、左の拳が―――

「させる訳無いでしょう?」

「この……!?」

 踏み込むと共に、彼を突き飛ばすと共に、その拳を正面から受けて。四肢を残して弾け飛ぶ。

 即座に意識を集めて、彼の隣で再生させて。

「本気で助かったよ……後数秒ほどキュオンが来るのを読み違えていたら死んでいた」

「お互い不死でも、やはり不便ですね」

「言うなよ。コレでも成長途中なんだから」
 
 顔は見えないけど、きっと彼は笑っているだろう。だが、彼が彼女の考えを縛ったのは流石だと思う。近くで闘うしか無いと縛ったお陰で、線としての攻撃、面としての攻撃という選択肢を彼女は取らないということだから。
 先程のゼロ距離戦。点としての殴り合い。その規模は砲撃並だがそれは置いておこう。

 だがしかし、点は速いが当たる部位をずらせばいいし、何より。私という盾があるが……。

「気持ちいいのに、何で、アイツは生きてるのぉおおお!?」

「フフ、そういう生き物ですから」 

 気持ちいいとは、コレまた凄い事を。あの子の中では命は安いものなんでしょうね。文字通り一回ずつ死んでいるんだけどなぁ。
 しかし、驚いた。格闘術に関してはヴァレンの利があると思っていたのに、よくわからない戦闘スタイルで来るとはこれ如何に?

「系統は読めんが……どうもアイツ。特定の攻撃に対して自動でカウンターを打ってるようにも思える。生ぬるい攻撃をした覚えは無いが、それでもこちらの上を往く。
 ……身体操作とあの子自身の反射が交わって凄まじい事になってるな」

「と、言うと?」

「おそらく自分の体を、自分で外部から操ってる。その上聖王の鎧とゆりかごの加護の防御のお陰で守りにそれほど気を向けなくていいから楽だよな。その証拠に」

 彼の言葉と共に、彼女の腕部、脚部に極光が集まっていくのが見える。 

「文字通り、ゆりかごの内蔵魔力……いや、ゆりかごを相手にするようなものだ。全く誰をモデルにした戦闘技術やら」

 呆れるように告げる彼の声は、どこか寂しそうだった。

 私達はコレに心当たりがある。彼女の両腕をよくよく見れば、極光がガントレットの形を為しているのが分かる。両脚はただ纏っているだけなのに、だ。

「さて、ゆりかごの魔力に、聖王の鎧。加えて素の防御の高さ。更には基本的に未来視有り。単体ならばいざしらず、ゆりかごと共に相手にするとここまで大変だとはね」

「そうだねぇ。私なんて受ける度にしんどくなるよ」

 腐っても聖王なのだと嫌というほど思い知らされる。徐々に体が崩れていくようなそんな感覚に陥っていく。やはり相性は悪いんだなと。まぁ、聖なる王なんて言われてるんだもの、吸血鬼との相性なんて考えるまでも無い……か。
 
「さぁ、私達が滅ぶか、あちらが残るか」

「あぁ、お互いに息がある内に決着を付けたい所だな」

「フフ、ははははは!」
 
 こちらが体勢を整えてる間に、虹の極光を撒き散らしながら彼女が笑う。

「この状態で、本気で闘うの初めてだから……優しくし・て・ね」

 瞬間、私達の前に彼女が現れ、拳を放たれる。その軌道は顔面直撃コース……ではなく。

 ヴァレンが回避しようとした左方向。私と別れるように飛んだ先。だが、その拳を足場として踏んで飛ぶ。そのまま空を足場に彼女に向けて一閃の如く足を振り下ろす。
 頭上からの一閃。並大抵の相手なら捉えた攻撃。だが。ここに私も左の掌を腹部に、右の掌を顔に向けて放つ。互いに音と同じ速度。

 が。

 無情にも上からの攻撃は躱され、私は両手を掴まれる。しかし、コレでいい。

 なぜならば。

「せっかくフェイカーを殺せたのに、ねぇ!?」

「させる訳無いでしょう?」

 まぁ、こんな事しなくても良いんだけどね。ごめんなさいね。そのまま彼女の手をバインドで固定して。
 薙ぎ払うように、ヴァレンが私ごと蹴撃を横一閃に放つ。

 だが。コレでも彼女はヴァレンの一閃を見切り、ギリギリ当たらない様に回避する。

 痛みが奔る。胸部から腹にかけてが文字通り無くなった。即座に再生を試みるが―――

 ―――おや?

 一瞬間が出来ると共に、彼の右腕に収まり、抱きしめられることで床に着くことは無かった。

「酷いですわね。その鬼。想い人ではなくて?」

「ほっとけ」

 ギュッと私の抱く腕に力が入るのが分かる。少し呼吸を整えると共に。体を再生させて。

「重い」

「あいた! ……失礼な。コレでも体重管理はしてたんですよ?」

 お姫様抱っこの体勢になった所で、ぺって投げ捨てられる。ちょっと失礼しちゃうわ。そんな私に気づいたのか呆れたような顔をしながら。

「サイズ差考えろサ・イ・ズ・差・を! 大体お前はなんでそんな体型選んでんだよ馬鹿か?」

「ば、馬鹿かって……いいじゃない。結構なないすばてーだけど?」

「ないすばてーって、本来のお前ってば悲しみの平原って呼ばれる程度に貧乳じゃねーか。あれか。そういやお前言われたな。中途半端なロリババァって」

「や・め・て! あの、何でそれを今バラすかなぁ!? 昔、巨乳の人って良いよねって言ったの誰よ!?」

「俺だ俺。ただ、やっぱりそうだ。むっつりだ! 昔は体型なんて気にしないわっつっといて。流石のあざとさ、感服したわ」

「ちょっと!?」

 突然の暴言に思わず彼女から視線を外して、隣のヴァレンに視線を向けると。

 余裕といった様子でキセル咥えて、煙ふかしてるし。あーもー……やろうとしてる事は分かるけど、何かもー。


――side響――

 あれ? 俺さっき、えらくかっこいい人にご武運をって言ったはずだよな?

 あそこでイチャイチャしてる人たち……あっれぇ?

 いやだがしかし、あれはおそらく……。

「なんというか、面白い人たちだね」

「……そうは見えないけどな」

 呆れたような、反応に困るような顔をしたフェイトが呟く。

 ただ、何というか俺には……あの2人が別れを惜しむようにしか見えないんだよな。

「うわ、空で闘ってるとは思ってたけど、凄いねコレ」

 不意に後ろから懐かしい(・・・・)と思える声が聞こえて、振り返った。

 そこに居たのは、キュオンさんに似た感じのシスター服を纏い、拘束着の様に腰や胸元に赤いベルトを巻きつけた……。

「な……え?」

 言葉を失う最後に見たのは何時だったか。

 少なくとも最後に見た時と容姿が大きく変わっている。まず目を引くのは、真紅の様に赤い瞳。だが、それはなんとなく察していた。流が1人で動いてると聞いたときから、予想していたから……。

 だが、それ以上に。

 どうして右腕がないのか? それが理解できなかった。




 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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