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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第64話 話したいこと、閃く凶刃





 ―――どれだけ綺麗事を並べようと、私達が使うこの技術は人を斬るために存在しているものだよ。
 
 俺に技を教えてくれてる時、母さんは……いや、俺の師は厳しかった。初めて本物の刀を手にした時、重いと感じて、それ以上に冷たい物だと思った。
 効率よく人の命を奪い、終わらせることが出来るもの。命を容易く絶つ物の重さ。

 だから、教えは厳しかったし何度もやめようと思った。でも、刀を使う母さんは本当にかっこよくて、ああなりたいと心から願ったから辞めずに続けていった。

 そしてある時。戦術を教えてもらっている時に、目がさめるような事を言われた。

 一対一なんて、決闘なんて、基本的に出来るなんて思わないこと。魔法世界において、そんなものは理想論。戦いになれば……強大な魔力を持った者同士が戦えば土地は荒れるし、結果的にも直接的にも人は巻き添えになる。
 場合によっては関係ない人を盾にするって方法もある。だけど、それは仕方ないこと。相手の卑怯はこちらの理想を取ってくれることなど無いのだから。
 
 だからこそ、知りなさい。
 
 相手がどれだけ卑怯で人道に反する方法を取ってきても、それに対抗出来て、抑制出来るように。私が教える技術はそれらを跳ね返せる様にする力。だからこそ人は始めてこう言えるんだ。

 俺達は卑怯な手を使わないし、使わせない、と。

 

 故に、あの敗北は―――俺のミスなんだ。

 
――sideフェイト――

「……奏?」

「ん、なんでしょうフェイトさん?」

 ケロッとした表情で私と視線を合わせる奏を心配する。間違いなく涙を流したはずなのに……。

「ううん、なんでもない。一緒に響を助けに行こうね?」

 そう言うと一瞬驚いた顔をして、ゆっくりと。

「いいえ。私の役目は時雨と紗雪と共にガジェットの迎撃です。助けに行きたいのは山々ですが……航空隊が来るまでは抑えなきゃいけない。かと言って来るのを待っていたらそれだけ時間も無くなってしまいます」

「え……で、でも!」

 困ったように笑いながら彼女は言う。この子の想いを知っているから……きっと誰よりも助けに行きたいはずなのに。

「それに……もうその資格が私には無いんですよ。紗雪! 中に何枚入れてきたって言ったっけ?」

「転移札をとりあえず三枚。ただし射程限界だから、行くなら直ぐに行ったほうがいい」

「だ、そうですよはやてさん?」

「ちょお待って。考える」

 奏が直ぐに紗雪に確認を取った後、それを踏まえてはやてが考える。だけど3枚ってことは……。

「外周警戒は私と時雨、紗雪。そして……ええんやね奏?」

「えぇ。どちらにしても3枚ですし、何より……狭い場所より開けたここのほうが私は役に立てますよ」

 相変わらず困ったような笑顔で応えるのを見て、何とも言えない気持ちになる。

「分かった。外は私達4人が担当する。なのはちゃん、フェイトちゃん、ヴィータ。行ってくれるか?」

「了解」「おう!」

「……了解」

 一瞬遅れて返事をしてしまい、皆の視線を集めてしまう。不意に私の手を取った奏が……。

「あの人の事。よろしくお願いします……では、ご武運を」

「う、うん」

 何で……そんなに、吹っ切れたような笑顔が出来るのか……私にはわからないんだ。


――sideアーチェ――

「はっはっはっはぁあああ!!」

「このっ……煩い!」

 4つの鉄球を操って、空を縦横無尽に動くリュウキ目掛けて放つ。鉄球の中にはブースターを仕込んでるとは言え。中々当たらない。というより、完全に軌道を読まれてる。

 そのせいで、直撃こそ無いものの私の両手足は射撃魔法で削られている。最初に近づいてきた所を全力でぶん殴ったせいか、力比べは不利だと悟ったのは有り難い……いや、ありがたくないな。当たれば落とせるのに、チャンスが減ってしまう。

 だが、削られ続けたせいで血を流しすぎた。それに加えて、あちらは私の撃墜がメインだけど。私はこの人を出来る限り、怪我をさせないで保護したいという気持ちが強すぎるんだろう。

 イマイチ攻撃が鈍ってしまってる。

「女中! 貴様の攻撃はわかり易すぎるぞ!」

「はっ。冗談言わないで!」

 右足を後方に振り上げると共に、鎖に繋がった鉄球が引き戻し。それと同時に両手の鎖を手に取って大きく振った波を伝達。後は左足を……。

「ミーティア!」

『存じております。Kometfliegen.』

 引き寄せた鉄球を右足で蹴り出す。同時に両手の波も鉄球に伝わったと同時にリュウキの背後に回るように操作。

 だけど……。

「その程度。打ち返してくれるわ!」

 銃剣……いや、銃刀を向ってくる鉄球へ向けて砲撃体制に入る。文字通り打ち返すつもりだろう。

 だが。

「知ってるよ。だから私は!」

 その場で反転。逆立ちとなる。それと同時に両手、右足の鎖をパージ。己が体躯を軸として、回転させ、左足に繋がる鉄球を振り回す。巻き込まれた風はやがて竜巻を起こし、嵐となって天へと繋がる道を生む。

 そして、最後にその勢いのまま、空へと飛び上がり。

『アウトフレーム、最大! お嬢!』

「死なない程度に……砕け散れ!」

 竜巻となった鉄球をリュウキ目掛けて、パージ。既に展開された鉄球全てが五尺の大玉となると同時に。

『リフレクター展開。捕縛陣展開! コレで詰みですリュウキ様!』

 リュウキを中心に、3つの鉄球が三角になり、捕縛用のフィールドを展開する。恐らくすぐに破られるだろう。だが……。

「この程度、その一撃で墜ちる()だと思うなよ、女中!」

 俺……ね。さっきまでよくわからない一人称だったのに、ね。もっと速くにコレを……いや、それはたらればだ。最初にやったところで大人しく当たるわけもないしね。

「墜ちろ、メテオ!」

『Komethammer』

 限りなく物量兵器に近いこの一撃。昔っから馬鹿力と言われた、言われ続けた私だから扱えるこの一手。魔力はあるのに射撃系が全然ダメで、魔力付与も基本苦手で、剣を握って、振ればすっぽ抜けてどこかに飛んでいく。そんなんでは騎士にはなれないって言われ続けた。

 だけど、それなら鉄球でも打てばいいじゃんって、貴方が……リュウキが教えてくれた。

 自分用にデバイス作成の予算で、ミーティアを組んで、私にくれて、貴方はその後居なくなってしまった。

 リュウキが居なくなったと聞いて、皆が大変な思いをしている間。私はのうのうとシスターをしてた。声を掛けてくれたら私も手を貸せたのに、皆が辛い思いをしている中で、私だけ関係ないって弾かれてたみたいで悔しかった。悲しかった。
 皆が……響が、リュウキを殺したのは俺なんだって言ってたけれど。そんな事ないってすぐにわかった。詳細を話せないということも分かってた。

 それでも、私も皆と一緒に往きたかったんだ。巻き込んで欲しかった。だから、だから。

『Protection』

「ぬ、ぬうううぅうううう、おおぉおおぉぉぉおお!!!」

 両手をかざして、バリアを張って防いでる。同時に捕縛陣にも亀裂が入ってるのを確認。だけど。

「ミーティア! ブースト点火ぁあああ!!」

『Zunden.』

 激しく火花が散る。竜巻を起こすほどの勢いとブーストを加味しても、まだ足りない!?

「ぬぅううあああ!」

 それどころか、押し返そうとしてる!? 嘘でしょう?! だけど、だけどこのままじゃ手が足りない。

『お嬢! 鉄球へ貴女を寄せます! 後はわかりますね!』

「え、ええ!?」

 引き寄せて何、を……そうか!

「お願い!」

『Jawohl.』

「ぅぐっ!?」

 ガラガラと鎖が引かれると共に、左足ごと体を持って行かれる。身を任せていたとは言え、左足からゴキンと股関節が抜けて、あまりの痛みに声が出てしまう。

 その勢いのまま、未だに鉄球と拮抗しているリュウキのもとまで運ばれて。直前で鎖を解き放ち、右拳に魔力を全て集中させる。

 もうこの後のことなんか知らない、どうでもいい! だから!

「ハン……マァアアアアア!」

「……その三手目、受けてみせよう。来いよ、アーチェ(・・・・)!!」

 頬が緩むのが分かる。 





 あぁ、やっと……呼んでくれた、って。




 リュウキ、貴方が居なかったこの二年で色んな事があったんだよ。フーカとリンネっていう子が孤児院に来てからの毎日の事や、私が騎士になれるまでの事や、色んなお話があるんだ。

 だから、だから!

「シュラァアアアアアアアクゥウウウウ!!」

 彼の胸目掛けて、右の拳を突き出す! 何か壁の様なものに阻まれるけれど、関係ない! そのまま突き出す! 撃ち抜く!

 

 刹那、拳を止めていた壁が消えたと思ったら、彼の胸から赤い宝石が現れ砕けて。そのまま―――



――side時雨――

 なのはさん、フェイトさん、ヴィータさんという機動六課が誇る戦力3名を、紗雪の転移札の効果で中へと送り込んで……外にいる私たちはガジェットの迎撃に当たってる……んだけど。

「……本当に良かったの?」

「……うん。私じゃ逆立ちしたって勝てないし」

 ……そういう意味じゃないんだけどなぁ。だけど、人の恋路にあやをつける訳じゃないけど。

「……良い、この後どう転んでも、どうなろうと。帰ってきたら伝えなさいよ」

「……なんで? だって私は――」

「資格が無い。そうかもしれない。響が私達を繋いでたんじゃない。私達が響を縛っていたのかもしれない。だけどね」

 彼女の隣へ移動して、その肩を抱き寄せて。

「……馬鹿。そんなに辛いなら、ちゃんと吐き出さないといけないじゃない」

「ッ……ゥ、ゥゥ!」

 小さな声と共に彼女の頬は濡れていた。もう何年にもなるんだもんね、貴女の片思いは。
 気にしなくていいとは言わない。こうなるということも分かってた。

 病院で教えてくれたあの事を聞いてから、彼女の心はもう決まっていた、だけど……。

「……少し位なら私が代用出来るから、整理つけときなさい。
 さぁ、ディーネ? 私達の役割を果たすんだ!」

『フフフ、了解。ちゃんと周りからは貴女達で戦ってるように見える様に誤魔化してるけど、そんなに長くは持たないわよ? 4人しか居ないんだから』

「了解、弾幕展開!」

 ギュウッと抱いて、胸を貸す。今ぐらい泣かせないと行けないし。

 ……フェイトさん、後はお願いしますよ? 必ず響を取り返して下さいね?



――sideフェイト――

「一刻を争うんだ、あたしが単騎。なのはとフェイトがペアだろ」

「でもヴィータちゃん、独りでなんて……」

「そうだよ。紗雪の先行調査も完全じゃないって言ってたし……」

 もらった情報を頼りに、当初の作戦は3人で駆動炉を破壊してその後、玉座へ向かうと言うプランだった。だけど……。

「だからだよ。駆動炉か玉座のどっちにいるかわかんねぇヴィヴィオ。もしかすっと片っぽ止めただけで止まるかもしれねぇし、片っぽ止めただけじゃ止まらねえかもしれねぇんだ。こうしてる間にも、外は危なくなってる。
 それに響もガードに入ってるんだったら、あたしよりもお前らのほうが大変じゃねーか」

 呆れたように話すヴィータ。だけどそれじゃあ……。

「アタシとアイゼンの一番の得意分野知ってんだろ? 破壊と粉砕。鉄鎚の騎士ヴィータと、鉄の伯爵グラーフアイゼンに砕けねぇものなぞ、この世にねぇ。一瞬でぶっ壊してお前の援護に行ってやる。
 さっさと上昇を止めて、表のはやてに合流だ。
 大体、お前らがあたしの心配なんてまだまだはえーよ。体ばっかり大きくなりやがって」

「「それは関係ないでしょう!」」

 微笑みながら語るヴィータの言葉を聞き、なのはは心配そうな表情は変わらなかったものの……、コレ以上は説得も意味が無いと悟って、ヴィータを信じて任せる事に決めた。

「……うん。気を付けて! 絶対、すぐ合流だよ!!」

「あったりめーだ!」

 ――――

「……紗雪様の言っていた通りですね。何も無さすぎます」

「うん、まるで誘き出すようなそんな感じ。気味が悪いね」

 ひょこっとポケットから顔を出す花霞の言う通り、既にヴィータと分かれて数分経過したけれど……未だガジェットにも、誰にも会えていない。

「フェイトちゃん。響と闘う時は……」

「分かってる。時間が少ないからね。きっちり2人でダウンさせよう」

 ……正直、響を抑えたいという気持ちは確かにある。だけど、このゆりかごの中にはヴィヴィオも居るし、スカリエッティも居る。なのははヴィヴィオの救出を、私はスカリエッティの確保をしないといけない。

 だけど……。

「フェイト様、なのは様。前方に反応あり。主がそこに佇んでおりま……いえ、来ます!」

 花霞が叫んだとほぼ同時に、通路を飛行してた私の上に影が出来た。視線を上に向けると、黒い和服にぼろぼろになった黒いマフラーで口元を隠し、冷たい視線を向けた響がそこに居た。

「フェイトちゃん!」

「ッ!」

 斜め上から刀を二本構えてこちらに突っ込んでくるのを見て、迎撃態勢に入る。バルディッシュをザンバーへと切り替え、コレを迎撃。
 稲妻をまとったバルディッシュを振り抜き、響を弾き返す。そのまま振り抜いた勢いで回転しつつ、なのはと息を合わせて。

「ジェット」「ハイペリオン」

「「スマッシャー!!」」

 二人同時に砲撃を放つ。私は抜き打ち、なのははしっかりとカートリッジを消費して放った。
 コレでダウンは取れないだろうけど、それでも多少のダメージは……。

「……二刀。残影」

 迫りくる砲撃を前に、そう呟いたのがハッキリ聞こえた。それと同時に私達の砲撃が中心から断ち切られ、淡い桃色と黄色の霧と化した。

「……コレは……響、まだまだ隠してたことなのかな?」

「……みたいだね」

 顔こそ見えないけれど、背後のなのはが苦そうにそう呟いた。私も同じ気持ちだ。

 まだまだ隠しているということは分かってた。本当に……コレは良い意味で想定外だよ。だけど!

「なのは!」

「うん!」

 バルディッシュを構え、カートリッジをロード。同時に響も腰を落として、二本の切先をこちらへ向けて迎撃態勢へ。そのまま響き目掛けて駆けると同時に、あちらも真っ直ぐこちらへ突っ込んでくる。

「ジェット……ザンバー!!」
 
「……」

 雷電を纏った魔力刃と、響の刀がぶつかり合う。こちらはカートリッジを使用してる。けど、あちらは何も使用しないでぶつかり合うなら、私が勝つ!

 だけど。

「ッ! フェイトちゃん下がって!」

「え、な!?」

 受け止めていたザンバーに横殴りの一閃を加え、僅かに流すと同時に。刀身の上に降り立つ。こちらに全身を向けたと同時に悟ってしまう。真っ直ぐこちらに来ると。

 こちらは振り下ろしてしまった直後。魔力刃を切ろうと既に捉えられてしまった以上遅い。

 だが。

「バルディッシュ! ロック!!」

『Yes sir』

 ザンバーを構成してた魔力を即座に響の刀へと纏わり付かせ、その刀を……攻撃と防御を封じる。更に。

「ディバイン……バスター!」

 間髪入れずになのはの追撃。先ほどとは違い、攻撃とび防御手段を封じた。だが、響の取った行動は刀から手を離してコレを回避。宙を舞いながらこちらと距離を取る。

 筈だった。

 そのまま天井へ着地すると同時に私目掛けて再度突撃。とっさにバリアを張るけれど。右の拳がバリアとぶつかり、血が舞い、バリアを砕いた。その破壊の一瞬の隙を利用し、後ろへ下がる。
 が、更に踏み込むと同時に両の拳を腰だめに構え。

「……絶掌」

 こちらを捉え、両手を突き出した。コレは……躱しきれない!? 

 直撃する、と衝撃に身構えるがそれよりも先に黒い魔法陣が目の前に展開、同時に鈍い音が聞こえた。

「……主。貴方()守るために積んできた魔法を、貴方から(・・)守るために使うとは思いませんでしたよ」

 ポケットから上半身を出して、両手を前に突き出した花霞。この魔方陣は花霞の作った盾だ。

 冷たい視線を向けたまま響が後退。そのまま通路へ着地と共に刀を手に取り再びこちらへ切先を向けた。

「……コレは一筋縄では行かないね」

「うん、まだまだ隠してる手札がありそうだしね。お兄ちゃんの言ってたとおりだ。まだ上があるって」

「うん。だから……もっと詰めていこうか、なのは!」

「うん!」

 いつの間にか隣に来ていたなのはと共に構える。まだまだコレは、オープニングなんだから!


――side優夜――

「……あー、ウザってぇ」

「そう言って捌いてみせたのは、嫌味にしか聞こえませんよ?」

 向こうでぎこちなく笑う元三佐を睨みつける。嫌味にしか聞こえないじゃなくて嫌味で言ってんだよ察しろってんだババァ。
 
 数百本の氷のナイフの包囲を何とか迎撃。と言うより、全部吹き飛ばしたというのが正しいか。自分を中心に魔力で風を渦巻かせ、それを加速。瞬時に竜巻の壁を形成し、何とか取り囲んでいたものの大半を吹き飛ばした。

 だが。

「わずか数本しか届かないなんて、笑い話にもなりやしない」

「言ってろ」

 右肩、左脇、左のふくらはぎにそれぞれナイフが刺さり、凍結している。今はシルフが凍結を止めてくれているけれど……これ以上受けるわけにはいかない。

 二槍の切先を向けて、腰を落とす。先程までは迎撃してたが……今度は。

「シッ!」

「!」

 踏み込んだと同時に、元三佐が飛ぶように後方へ下がる。だが、それよりも俺のほうが速い。
 大きな白い鎌のようなツルハシが閃き、幾度も繰り出される剣筋。それを両手の槍で迎撃。

 今一度驚いた。こちらが攻め込んだにも関わらず、それ以上に攻めて、こちらに迎撃しかさせないこの人の技術を。こちらが手負いで、右が若干遅れているとは言えだ。すべての攻撃が僅かに体に掠り、痛撃となり得る攻撃のみを捌く。
 白兵戦においては、シグナムさんや、煌、響達よりも下だろう。だが、使いにくいその獲物を使って一撃一撃を重く、連動、繋げてくるというのは素直に敬服する。

 丁寧な戦術だ。しかし、正しすぎて、お手本になるような戦術だ。長物を使う攻撃としては、連動させることに意識を向けて、それに集中しすぎている。事実痛撃になり得る攻撃の分かりやすいこと。全ての動きを繋げて、少し強い一撃を叩き込むが、それ以上の打撃が出来ないんだ、この人は。

 だからこそおかしい。こんな真っ直ぐな技術を持った人が何故、俺達を貶めたのか。そして、何を思って裏切るという道を取ったのか。それが分からない。

 地上本部に置けるSランク魔導士なんて、地上の人の憧れだろうし、実際ファンクラブもある。未だに元三佐はスカリエッティに誑かされて、裏切ったという人も多いしな。

 だが。

「往くぞシルフ。わかったな?」

『えぇ、勿論ですわアリス』

「攻めてきておいて守りに徹してるくせに何を言う!」

 大きな……いや、必殺の意思の無い攻撃には……此の人の連動には起伏がなさすぎる。何が来るか、という不安は、この一連の動作を見れば分かるし、警戒する必要もなくなる。
 だからこそ、あとするべきことはただ一つ。この連動の動きのどこに、いつ突っ込んでいくかという覚悟のみ。

 既に腹は括ってる。だからこそ!

「シッ!」

 二本の槍の切先で受けると共に、それを大きく弾き上げる。右に十全に力を込める事ができていれば、やつの手から弾き飛ばすことも出来ただろうが、大きく身を逸らす程度しか出来ない。
 だが、それでも十分。今一度左の槍を前に、右の槍を弓を射るように引きつつ、切先を向けて。

「―――悪いな、俺の勝ちだ」

「……な」

『Sturm―――、ダメですアリス! 下がって!』

「何!?」

 シルフの叫びと共に、技をキャンセル。ぬかった……こちらに気を向けすぎて、他の接敵に気づかなか……何?!

「クランベル三佐! 行って下さい!」

 そう聞こえたと同時に、全方位から色とりどりの魔力光のスフィアや、収束砲を構えた―――

「嘘だろ、オイッ!?」

 管理局の魔導服を着た人物達が居た。その顔はニヤニヤと嫌な顔で哂ってる。

「放て!!」

 誰かの合図と共に、その周辺のスフィアがこちらに向ってきた。

『Ein Kreuz Schild』

 即座にシルフが、周囲に攻撃に出してた4槍を戻し、十字に重ねたと同時に背後へ展開。俺も左右へシールドを展開し防御姿勢に移る。

 突然の攻撃にコレでも対処できた方だと感じながら、盾の向こうで、魔力弾や魔力砲が生み出す爆炎を防ぐ。
 あまり防御は得意ではない、だがそう言っていられる状況でもない。

「真上がガラ空きだ!!」

 声が聞こえ、真上に視線を向けると。青髪を刈り上げたゴリラみたいな奴が、金棒を振り上げて―――

「死ねよアリスゥウウゥウ!!」

「がぁっ!?」

 まともに防御姿勢を取ることが出来ずに、背中に直撃。とっさに体を小さくして、背中を出したのが良かったのか、頭に当たること無く真下のビルへと突っ込む。天井を突き抜けても尚勢いは死なず、そのまま1階付近まで叩きつけられた。
 轟音と共に、遅れてビルが崩壊を開始してしまった。


――side煌――

 くっそ、熱くなれるとかカッコつけてる場合じゃなかったな。

 こいつら、シンプルに速く強い……! いや、あのピンクの子はそうでもない。タイマンなら勝てる。

 だが問題はこの格闘のヤツだ! 一撃一撃が重くて速い。それだけでも厄介だって言うのに、間違いなくまだ全力じゃねぇ……クソが、舐められてる。
 それほどこいつらのコンビネーションは相性が良いというか、鬱陶しいぜ全く。格闘の方に少しでも意識を向ければ、ピンクのやつの獲物が左右から飛んでくる。場合によっては手にとって直接攻めてくる。
 逆にそちらに意識を向ければ、待ってましたと言わんばかりの連撃を叩き込まれる。幸い技術は無いせいで、当たると痛いが、芯までは来ない。まだ耐えられる、が……それも現状だと時間の問題だ。

 今だって。左右のブレードと共の、今度はピンクの子が直接拳を叩きつけに来たのだから。

 そして。そちらに意識を向けた、フェルを振るってブレードを弾き飛ばす。だが。

「セッテに気を取られすぎだ!」

「ガッ?!」

 僅かな隙を縫って、鳩尾に重い拳を打ち込まれる。攻撃が刺さったと感じると同時に、激痛と衝撃、そして、吹き飛ばされた浮遊感。そしてビルへ叩きつけられ、そのままぶち抜いてしまい。また激痛と衝撃。
 障壁を張っていたにも関わらず、紙切れみたいに撃ち抜いてきた。崩れ落ちた体を無理やり起こして、態勢を整える。軽く咳き込むと同時に口内に胃液と血が湧き上がってくる。

 あーぁ。くっそダッセェ。

「……1つ聞きたい。お前たちの仲間の黒髪。A-と言ってたが、それは本当か?」

 ……何か空からよくわからんことを抜かしやがる。ふらつく足を動かして、瓦礫の隙間からあの2人を睨みつける。こちらに意識を向けているものの、何かを見ているようだが。

「……あぁ。そうだよ。地上戦と、刀の技術、体術は間違いなく上にいるだろうが。魔力量が少ないのと、その結果空戦技能が低いというのが足を引っ張ってんだよ。それが……ゲフッ! 無ければ、もっと上なんだろうがな」

 今のうちに呼吸を整える。敵は間違いなく俺を殺しに来ている以上、足止めとしての役割を全うできる。

 しかし、それは出来ないこと……いや、熱くなってそれどころじゃなくなったと、知った。

『ッ、コレは……コウ君。アレを!』

「……あぁ?」

 悲鳴のような声と共に、フェルがモニターを展開した。しばらく……いや、一分も経たずにそれを眺めた後。

 ブチン、と。何かがちぎれる音がして。

「……ふざけんなぁあああああ!!!」

 あの二人めがけて踏み込んだ。



――sideセイン――

「……チンク姉の言ってた通り、マジでヌル姉とやりあったんだなー」

「うん、チンク姉が嘘言うとは思ってないけど。正直驚いた」

 画面の向こうで、管理局のエース・オブ・エースと、フェイトお嬢様と渡り合う黒髪をディエチと眺める。
 ドクターからは、弾除け程度に思ってたら良いってことであんなに前に置いてたんだけど……。

 いやー、本気で驚いた。

 ドクターたちもヌル姉と渡り合うとかありえないから、使えないと判断したら後ろから撃っていいよって言われてたけど。なるほどありゃ強いわー。今だってフェイトお嬢様を捌きつつ、砲撃躱してるし。

 ……さて、私もチンク姉の考えに賛同したし。動こうかなー。

「ねぇディエチ? チンク姉の負傷した件……気にしてたよね?」

「え、うん。だけどあれって、あそこの黒髪がチンク姉を倒しかけた所を、ヌルが助けたって聞いてるよ?」

 あー……やっぱりかー。ノーヴェとウェンディも話すなって命令されちゃったし、言えなかったんだな。

 ふむふむ。だけどディエチをこちら側に引き込んで良いものか今一判断に困るなー。クア姉と一緒に陛下の周りで調整してた時の事を考えると……うーん。難しいなぁ。
 
「……うん。そうだねー。さて、私はちょっとクア姉の所に行ってくるよ。思ってた以上に役に立ってるみたいだし」

「うん、分かった。私もここで頑張るよ」

「おー、頑張れー」

 ……しばらくは様子を見てから動こうかな。まだどう動くかなんてわかんないしねー。

 それにしても、ドクターもこの戦いを観戦してるんだなって。小さいスフィアが幾つか周辺に浮いてるし。



――sideフェイト――

 コレは……思ってた以上にキツイ。

 今の響の行動は単純だ。普段の様な加速減速で翻弄するわけでもなく、一挙一動が全速力。撃ち込む攻撃も体の負荷を考えない全力の一打。

 だからこそ、捉えづらく対処しづらい。

 2振りの刀が響の行動を、攻撃を後押ししている。魔力強化を施さなくともバルディッシュのザンバーと渡り合える耐久力に、砲撃を斬り落とし霧へと変える。
 きっと普段の響が欲しがった、全力でも折れない刀で、理想的な刀なんだろう。
 そのせいなのか、普段の回避主体の行動よりも、刀で受けて、斬り合う方を選んでる。コレが操られた時の調整なのかはわからないし、響自身、まだ居合を隠してるはずだ。

 あの時と同じように受けた時には……今度こそ本当に斬り落とされてしまう。

 今はなのはと共に響と相対してるけど……あまりなのはには攻撃に参加しても、砲撃系を撃たないようにお願いしている。私もあまり魔力の使用を抑えないといけないけれど、響と戦ってそれをしたら墜されてしまう。

 でもこのままでも良くない。だったらやることは1つだ。

 鍔競り合いをしたタイミングで、大きく切り払ってお互いに距離を取る。

「なのは。私が響をダウンさせる。だから……」

「……私もって言いたいけど。無茶はしないでねフェイトちゃん? 花霞もフェイトちゃんが無茶したら止めてね? レイジングハート、花霞にタイミングの指示お願いね?」

「了解致しました!」『All right.』

 私の意図を察してくれたのか、なのはが一歩下がり、そのままレイジングハートを、ストライクフレームを展開して構える。

「バルディッシュ。フォースフォーム!」

『YesSir.』

 ザンバーから、バルディッシュの形態が変わる。バルディッシュの数ある形態の中でも、切札の1つ。ライオットブレードへと換装して。大剣から形を変え……片刃の長剣へと変形し、刀身に電撃が走る。

 響も二刀の切先をこちらに向けて、何時でも動けるように構えている。

 数秒の間じっと互いに睨み合って、そして。

『Sonic Move.』

『A.C.S Driver.』

 二人同時に響目掛けて突撃。同時に響も私よりもなのはを止めようと空へと往く。

 数秒にも満たない行動選択。だけどコレこそ私が待ってた瞬間でもある。響の行動を見てから、私もなのはと響の間に割り込み、ライオットの一撃を叩き込む。だが、左の一閃に切り払われ、そのままなのはと射線へ割り込むと同時に、右の刀を振り下ろそうとする。
 しかし、その瞬間、刀の右腕に黒いバインドが展開し、わずかに動きが止められ、左の刀も私がバインドで縛り付けている。

「ごめんね。響!」

 一閃の光とも思えるようななのはの一撃をもろに受けると共に、宙へと響の体が投げ出される。後はコレで―――

 そこまで考えて、コレが浅い考えだと察してしまった。なのはの突撃をもろに受けながらも、宙へと投げ出されているにも関わらず。その冷たい視線は確実になのはを捉え。何も持っていないはずの両手を同時に引き寄せるように動かして。

「ッ、レイジングハート様! 全身防御を! 早く!!」

『Circle Protection!』

 バリアを張ったとほぼ同時に、二本の刀がなのはに向って引き戻された。バリアを僅かに斬り落とすも、そのせいで軌道がズレ、弾かれる。そのまま響の手へと飛んで戻っていった。

 通路を進んでいくなのはと、それを追おうとする響の間に立ってバルディッシュを構える。
 
 背中を冷や汗が流れるのが分かる。今の直撃を受けてコレでダウンしてくれたらと願っていた。もしそうでなくてもなのはだけでも先行させられると考えたから。
 だが、現実は違う。確かに響は直撃を受けた。ここまでの拮抗状態の中で初めての直撃。落とせるとは思わなかったけど、ダメージを負わせたはず。

 それなのに、被弾しつつも響はなのはを殺そうとしていた。花霞が何かに気付いてそう叫ぶまで、私にも分かっていなかった。なのはを目で追いかけているというのは気づいていたが、それ以上のことは出来ないと。手元に何もなければ問題ないと考えてしまっていた。

 その認識が甘かった。手を抜いて勝てる相手ではないと分かってた。それでも、どこかで侮っていたんだと思う。

「……バルディッシュ、花霞。私に力を貸してくれる?」

『Yes sir.』「勿論です」

 今一度、バルディッシュを、ライオットを構えて響と相対する。そして、改めて肌が粟立つのを感じる。今の一撃がスイッチを押したのか、先程までとは違い、冷たい目には殺気が溢れ出ている。

 ……あの時の模擬戦とは違う、ビリビリと痺れるような殺意を向けて。そして、お互いに踏み込んだ。

 瞬間、私の剣と響の刀がぶつかりあい、交錯。姿勢を整えるよりも先にブリッツアクションを使って、響の背後に回り、その勢いのままバルディッシュを横に振り抜く。だけど、一際高い金属の音が響く、背中を向けたまま刀を盾にこれを防がれた。
 僅かに首を動かし、響の目が私を捉えたのを確認して、後ろに下がると共に、全方位(・・・)のバリアを花霞が張った。それから間を置かずに、響が壁や天井を飛び跳ねながら全方位より斬撃を当ててくる。

 そして、わずかに罅が入った箇所から右の刀を突き刺し、内部の私を目掛けて切先を向けてくる。

 だが、それをバルディッシュが盾を張ってガードしてくれた。
 
 その防いだ一撃と同時に、距離を取るために後退して―――。

「不味い。パンツァーシルト!」

 花霞が叫ぶと共に、視線の響の体制がおかしいと気づいた。弾き飛ばしたにも関わらず、右手は突き出したまま。左手は弓を引くように後ろへ下げつつ、切先はこちらに向けたまま。

 まさか。

 そう考えたと同時に、左の切先を前に、視覚出来ないほどの速度で―――
 

――sideはやて――

「……っ」

 最悪や。突然ゆりかごの周りにモニターが現れたと思ったら。内部でのなのはちゃんと、フェイトちゃん対響の映像が配信されている。
 紗雪からの報告を聞いて、響が操られているというのは知っていた。だがコレは……。

「なんだよ、何でエース・オブ・エースの一撃貰ってんのにアイツ攻撃できるんだよ……」

「執務官を押してるとか……何だアイツ?」

 周辺から震える声が聞こえる。この映像を見せられて増援で来てくれた、航空隊の間に動揺が走ってしまった。元々空を埋め尽くすほどのガジェットの量に、ゆりかごなんておとぎ話に出てくるような兵器を相手にしていて、心が怖がっているのに、その上でエース2人が苦戦している映像を見せつけられてしもうた。

 現状は紗雪、時雨、奏を分散させて何とか拮抗していたのを、航空隊の担当戦線が崩れ、ガジェットに圧倒され始めている。

「皆! 戦線維持や! まだまだ踏ん張るんや!」

「は、はい!」

 このままでは不味い。この映像を消すか。タイマンを張ってるフェイトちゃんが勝つかどうかせな。一時的にも覆せへん。

 映像の向こうのフェイトちゃんは、盾を張っているにも関わらず響の刀がそれを突き破り、そのまま空いた刀でフェイトちゃんを叩き落とした所だった。

 同時にどよめきが聞こえる。唯でさえガタガタになりつつある戦線が、更に不安定になっていく。

 そして、モニターの向こうで倒れてるフェイトちゃん目掛けて、響が刀を振り上げ突っ込んでいくのが見えて―――

「アカン、やめて響!!」

 思わず叫んでしまう。それでも映像の向こうは止まる気配は無く、そのまま突っ込んだと同時に壁が砕けたのか白煙が上がった。


 
 

 
後書き
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