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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第54話 PM20:42.



 ――side震離――

「ん、んぅ……」

「お? 流、起きた?」

 ルヴェラの宿のお布団の中で寒そうに流が縮こまるのがわかった。
 今のうちに流が言っていた場所を確認して……ちょっと嫌になる。ここからバイクで4時間の場所に位置する。最近開通したって道って言う割には途中にパーキングとかそういうものは一切ないし……。かと言ってタクシーなんてハイカラなものもこの世界には存在していない。
 しかも流の言う場所って地図の上からだと何も無いんだよねぇ……。そんな所に送ってくれる人なんて居るわけない、か。

 まぁ、グダグダ言っても仕方ない、か。見えなくなったら耐寒魔法張って移動すればいいだけの話だし。それに何かあれば最悪空飛べばいいしねー。

『……震離様。もうすぐ出るのですか?』

「んー?」

 珍しい、流のデバイスである長銃の人格であるアークが私に話しかけたよ。なんだろう?

「まぁ、割と余裕ないからねー。流が起きて軽く食料と暖かいもの持ったら出る予定だけど……なんかあった?」

『……いえ。震離様。1つ確認を取りたいのですが?』

「んー? なぁに?」

『……この方と一緒に居てくれますか?』

 突然の問いかけに首を傾げるけれど、直ぐに。

「勿論、拒絶されるその時までは一緒に居るよ。愛してますってそう言う意味だと私は思う。この人が本当に心が冷え切って私を拒絶したなら私は離れる。だけど、心が熱くて拒絶するなら何が何でも一緒に居るよ」

『…‥安心しました。どうか、その時はよろしくお願いします』

 以上でアークからの応答は無くなった。誰かに聞かれることはないとは言え饒舌に語っちゃって、恥ずかしいなって。布団の中で眠る流を見ると幸せそうに眠ってる。寝る前はまだ皆さんと一緒に居たいって言ってくれて、半泣きだったのに。

 大体21時にミッドからの次元船に乗って12時間。9時に着いたと同時にしんどすぎて休憩場所って事で、宿取って、起きたら12時って疲れすぎでしょ私ら。ただ、足を使って半日が4時間に短縮できたのは良いことだ。流が持ってた地図と、最近開通した道を照らし合わせた結果大分楽になるしねー。
 それでも4時間走りっぱなしになるわけだけど。

 さぁ、名残惜しいけど流を起こさないとねー。


 ―――

「……ごめんなさい、震離さん。お手数をお掛けしました」

「いいよいいよ。可愛い寝顔も見れたし」

 時刻は15時前。宿の食堂で暖かいシチューを食べる。じわりと甘く温かくて美味しい。なんというかクリームシチューって、まあるい味がして、トロリとした優しい味わいでけっこう好き。
 流も顔を赤くしながらも美味しそうにシチューを食べてはメモを取ってる。ひとくち食べて何が入ってるんだろうって私に相談してきた時の顔は本当に輝いてた。
 
 それから少し経って、私も流も食べ終わって宿を出る。宿を出て少し歩いて、流の部隊のバイクの置き場所へ向かってから。

「さ、耐寒魔法掛けるよー」

「お願いします」

 少しかがんで流の頭上に手をかざして……耐寒魔法を発動。流ならできるかなと思ったけど、上手くできなかったので私が代わりに掛ける。

 さて、ここで流が変わらず敬語を使ってるけど、最近はこれがこの子の砕けた対応何だと分かるようになった。
 誰に対しても基本は敬語だけど、まだ距離がある人相手だと何処か冷たい言葉を選んで、私に対しては何処か柔らかい言葉やちょっとした冗談等も話してくれることに気づいた。

 最近それが嬉しくて、ついつい。

「えへへー」

「……震離さん、その恥ずかしいので、そろそろ出まひょう」

 両手でほっぺをグニグニと。流の頬って暖かくて柔らかくて、いいんだこれが。

 さて、流のデバイスである二機をバイクにかざすと。ガチャリとロックが外れてエンジンが震えた。デバイス認証型って便利だよねーほんとに。

「さ、行こうか。しっかり捕まっててねー」

「はい、お願いします」

 しっかりヘルメットを被って、ちょっと暖かい格好に耐寒魔法をつけて。改めて目的地を確認してと。

 さ、行こうか!

「う、わ、わ!」

「あはははははー!」

 勢い余ってウィリーなんてしてしまうんだなこれが。

 ―――

 銀色に萌える山々を眺めながら人工的に整備された道を征く。

 初めは軽口で話を……念話をしてた私達だけど、徐々に徐々に口数も減っていった。

 正確には流が怯えるように震えてる事に気づいた。背中に流を感じるだけじゃなくて、私の腰に回された手からもハッキリと分かる。この後のことを考えると怖いらしく体が震えている。

 さて、そろそろ到着する頃合いなんだけど……。

 辺りに何にもねー。山と谷と山。反対側の道路側にはとっても林。皆白銀にデコレーションされてるけど……何にもねー。

 なんて考えてると。

(震離さん、ここです。止めて貰って良いですか?)

(んお? はいはい)

 適当な路肩にバイクを止めて。流がよいしょっと降りるのを見る。その間に改めて周辺を見ると確かに何も無い……だけど。

 言われてみれば、この辺だけ妙に雪が薄い。だけどよく見ないとわからないレベルだ。流の行動を見守ってると、ある程度歩いた先にデバイスを掲げると。

 カチャリ。

 と、どこからか音が聞こえたのを皮切りに、流の前にお金持ちのお屋敷にあるような屋敷の門が現れる。

 驚いてる間にその門が開き、奥には洋風のお屋敷が見える。しかもこちらは若干、雪降ってるのに対して向こう側は雪は降っていない。それどころか芝生が青々としてる。

「入りましょうか」

「……あ、はい」

 バイクを押しながら門を潜る。すると自動でガチャンと音を立てて閉じられる。門の隙間から見える外は相変わらず雪が降っているのに、こちらは全く降っていないのが不思議だ。

「驚きましたか?」

「……うん、とっても。何でここ雪降ってないの?」

 周囲を見渡しても、芝生で一杯。なんとなく上を見上げると、直ぐに分かった。このお屋敷を囲むようにシェルターになっているんだと気づく。そして、このシェルター自体がステルスの機能を持っていると予想も立てる。

 いやまぁ、特殊鎮圧部隊って言うほどだからさ、普通ではないと思ったけど、まさかルヴェラの北の地のこんな僻地にこんな物があるなんて誰も思わないって……。しかも適当な場所だから余計にわかんないし特定も出来ないだろう。

 そう言えば流が言ってたなー。出撃がある場合は転移ポートで出るけれど、余程の緊急事態ではない限りは帰る時は次元港から帰ってくるって。万が一転移ポートをバレてしまったらそこから襲撃される恐れがあるからって言ってたけど……わかった所でここまで攻めないでしょうよ。

 さてさて、案内されたガレージにバイクを置いて、簡単に雪を払いまして……。はて、妙だな。ジープ型の車両が5台。バイクも7台あるくせに……。

 建物の中から人の気配はしない。外から見える窓には全部外から見えないように塞がれていて、既に時刻は20時。明かりが漏れているとは言え見えない、一応の防寒対策なのか、はたまた……。

 いや、やめよう。人の気配がしないのは内部の深い場所にいるからかも知れないし。そもそも気配を消すのが上手いからかもしれない。

 流に言われるがまま正面玄関前まで来てから……。

『マスター。震離様には申し訳ないですがここで待ってもらうのは如何でしょう?』

「……アーク? ここは寒いのに震離さんが冷えてしまいます。待つのなら中でもいいでしょう?」

『……忘れたのですか? 知り合いであっても無許可で中に入ってしまって襲われて死んでも文句は言えないのですよ? 隊長に一言言ってから中に入ってもらいましょう』

「……でも」

『叶望様も、何か合ったら入ってもらうのがよろしいでしょう。マスターはともかくこの方は部外者なのですよ?』

 ギルも合わせて流を説得。まぁ、確かに私部外者だしねぇ。六課からの使者とはいっても、この部隊からは曲者扱いされても困るし。

(叶望様?)

 あら?

(なあに? どうしたのギル? と言うか今日は珍しいねアークからも話しかけられて、普段話さないギルからも話しかけられちゃった)

(申し訳ございません。さて、中で合図を出します(・・・・・・・)ので、それに気づいたら(・・・・・)入ってきて下さい。そして、二階の奥に様々な機械が御座います。勿論転移ポート(・・・・・・・)も、そこからなら六課へメッセージくらい飛ばせますでしょう)

 ……おや?

(ギィル? それはどういう意味で言ったのかな?)

 完全に何か意図があっての物言いだこれ。何かどんどん嫌な感じになっていくのは気の所為だと思いたい。

 だって、そうじゃない……ここは流のお家になるはずの場所なんだから。現に流の顔もここを見た時の顔は安心仕切っていたんだから。

(勿論、まずは無事についたことを報告すべきだと思いまして。深い意味はございませんよ)

 これ以降は念話を飛ばしても返事が無くなった。

 無事、ねぇ……。


 ――side流――

 アークに言われて少し考える。確かに震離さんは部外者……になるけれど、それでもだ。私と一緒に入れば問題ないと思う。

 だけど、万が一がないとも限らない……だけど……。

「いいよ。私ならここで待ってるから」

 ニコリと白い吐息を出しながら笑う。この場で何が正しいのかわからないけれど……。

「温かいものとか直ぐにお出しします。申し訳な――ひゃぅ」

 謝ろうとしたその瞬間、震離さんの手が私の頬を包み込む。長いこと運転していたせいか、既にその手は冷え切っていた。

 だけど、妙に心が暖まる、触れられると嬉しくなってしまう。

「気にしない気にしない。よそ者は私なんだからさ。ここで待ってるから、私が風邪引かない内に伝えてね」

 軽く頬を揉まれながら笑顔でそう言う彼女に、改めて申し訳ないと思う。長いこと運転させただけでなく、この芯まで凍える程の外で待たせてしまうのだから……。
 突然肩に手を掛けられ、くるりと反転される。

「さ、行ってきて。私はここで待つからさ」

「……はい、結果はどうあれ沢山お話したいことがあるんです。私の大好きな方達のお話や、色んな事を」

「……うん。分かった」

「では、少々お待ちください」

 背を押されながら玄関を開ける。振り向くと、そこにはニコリと笑いながら手を振る震離さんがいる。後ろ髪を引かれる思いのまま扉を閉めて。

 改めて玄関を抜けると、外を鉄の扉で塞がれた色とりどりのステンドグラスの窓が、天井には古いランプ型の明かりが灯されている。そして何より外と違って中は非常に暖かい……が。

 何時もと比べて少し肌寒いと感じてしまう。それに何処か寂しいような……そんな気がする。

 一足進む毎に、ギッ、ギッと廊下の床が鳴り、足音が廊下に響く。廊下を抜けると二階へ通ずる階段のあるホールへと着いた頃。
 私が探そうと思っていた人物がそこにいらした。

「お久しぶりです。ライザさん」

「えぇ、お久しぶり流」

 にこやかにしている隊長……いえ、ライザさんの前まで行き敬礼を。

「風鈴流陸曹。只今帰還致しました」

「はい。それにしてもごめんなさいね……って、あら。髪が凄く伸びてるわね。どうしたの?」

「あぁ、これは……あ、髪が長くなるロストロギアと出会った時の弊害ですね……その、変……でしょうか?」

 指摘されて、サッ後ろ髪を抑える。やはり変だったのかな? それともみっともないのかな? 等悪い方へ考えてしまう……震離さんや、響さん達がいいねと言ってくれたので私も気に入ったのだけれど……。

「まぁ、個人的には短いほうが好きだけど、それも良いと思うわ」

 ホッと胸を撫で下ろす。ただライザさんからは好まれていないのが残念だけれど……。あ、いえ、違います。まずは……。

「ライザさん。申し訳ないんですが、ちょっと玄関まで足を運んでもらってもよろしいでしょうか?」 

「えぇ。あ、その前に。貴方の制限を外すのと並行してデバイスの制限も外したいの。預けてくれるかしら」

「了解です」

 懐に入れておいた、ギルとアークを取り出してライザさんの手に乗せる。

 ただ、一瞬懐に手を入れた時、いつか遺跡で貰ったロザリオが手に当たったのがやけに気になった……。

「ありがとう。でも何故玄関へ?」

「……えーと、その……説明するよりも見たほうが早いな、と」
 
 くるりと背を向けて歩きだす。本当は駆け出してすぐにでも震離さんを中へ入れたいけれど……。流石に走るのはみっともないだろうし、ライザさんも良い顔はされないだろうし。

「……そうね、説明……は面倒よね」

 明らかに違う音色に思わず振り向く―――筈だった。

 トンッと軽い音が響いたと同時に、私の背中に何かが当たった。それに阻害され振り向けなくなる。

「……え?」

 胸から生えた赤く染まった手。痛くもなければ、苦しくもない。そして、その手の先には赤く輝く結晶体。機動六課に居た時によく目にしたそれは……。

「れ、りっく?」

「……あら、本当にレリックが入ってたのね。驚いた、わ!」

 レリックを手に握りしめると共に腕を引き抜かれる。床に膝をつく。体制を整えようとするけれど体が動かない。

 それどころか―――

「な……ぜ?」

 口から血が溢れる。胸が痛いはずなのに、激痛があるはずなのに。心に穴が空いたように、何かが抜け落ちた感覚に全身が包まれる。心が冷え切ったように何も感じれない。
 震える体を必死に動かして、振り向いて顔を見上げると、自然と涙が溢れた。

 どうして、何で、と言った言葉が頭を過ぎった。だけど、その顔を見て察した。

 あぁ―――

「―――そう……いう事……なのです、ね」

 見知った大剣を右手に、長い砲身を持った銃を左手に。そしてその顔は笑顔で歪んでいた。

 いつだって話を聞いてくれた笑顔で。私の報告を嬉しそうに聞いてくれた笑顔で。ライザさんは変わらず笑っていた。その目に黒い意思を宿して。

「悪いわね。私にも果たしたい事があるの。その為に私は働いてきた。だが、それももう終わったの。
 知ってる? 何十年と裏に居る私にはこれと言って得るものは無かった。子供を失ってまで尽くしてきたのに……。
 だけど、その子とまた会えるとしたら、その術があるのなら……フフ、貴方に言っても無駄ね、出来損ない(Faker)

 意味がわからない。だけど、胸に穴が空いていない事が分かった。遅れて私の胸に言い様のない激しい鈍痛が走る。何かでくり抜かれた様な、穴が空いたようなそんな感覚。肉が引きちぎられ、骨が折られ、血が吹き出す。そんな光景が目に浮かぶほど。

「……ふ、ぐ」

 吐き気を促すような痛みが全身を駆け巡り、全身から嫌な汗が流れる。だが、実際に血を吐いてる以上何かしらの影響はある筈……まさか。

 そう考え、目の前に盾を展開させようと魔力を使用する……が、全く反応がない。まさか、本当にあれが私の……リンカーコアだったもの? でも、あれは……。

「……レリックコア。昔の王族が使用してたらしいわ。レリックをリンカーコアと融合又は、それをコアの代理品として使用するという事。ただ、適合してもその融合率が低いとある程度の魔力しか生み出さない。
 今の貴方のように。本来ならレリックコアを内蔵していれば並の魔術師、騎士なんて相手にならないほどの実力を得られるのに、貴方は弱く要らない。
 それなら、貴方では無く、これを持っていけばいいしね」

 右手の剣を―――ギルを腰にマウントさせて、空いた手の上にレリックを出現させて愛でるように眺める。そして、それを何処かへ仕舞った後に。

 一発の銃声が響く。右腹を魔力弾が貫く。もう一度銃声が響く。今度は右胸を。打たれた衝撃で私の体は後方へ飛ばされ、倒れる。

 右胸を抑えながら、体を丸め蹲る。全身が痙攣する程の痛みのはずなのに、嫌な汗は絶えず流れるのに、私の心はただ一つ。

「何故?」
 
 声が震える。涙が溢れる。信じたくない、認めたくない。痛みなんか今はどうでもいい。震える体を抑えながら、顔を上げる。

「痛い? でもまだこれからよ。貴方がどの程度で死ぬか、その試験も兼ねているんだから」

 クスクスとライザさんが笑う。

「まだまだ続くけど、ごめんなさいね。気でも狂わせれば良かったけど、その手間も説明するのも面倒だわ」

 見下すような笑顔を見て。そこでようやく気づく。

 あぁ、この人は、私の事なんて―――
 
 ライザさんが蹲る私に近づく。右手の剣を振り上げて。

「この程度で死んではダメよ」

 振り下ろされ、私は強く目を瞑る。

 だが―――

「……これは一体?」

『……つけられていた、様ですね』

 少し前まで仲良く話していたはずの声が聞こえた。恐る恐る目を開けると、ライザさんの振り上げた右手に黄色に輝く光の輪が掛けられている。レストリクトロック――認識したと同時に。

「……へぇ」

 左手にあるアークにも輪が掛けられ、ライザさんの四肢や胴体、そして振り上げてるギルにも輪が掛けられた。

 更に、バチンッと何かが落ちた音とともに明かりが消え、周辺が真っ暗になる。何が起きたか理解するよりも先に、ふわりと体を持ち上げられる感覚と、飛び上がるような感覚に驚いた。

 バチンッと再度音が聞こえたと同時に、所々明かりが灯る。そして、私を抱えている人の顔を見てまた涙が溢れた。

「遅くなった、ごめん」

「……っ、震離……さん」

 力強く微笑む震離さんがそこに居た。


 ――side震離――

 切っ掛けは、玄関上のベランダに気づいた所だった。流が来たらすぐに分かるし、何か変な感じがするからと考えてベランダに登ってみた。特に変わった様子のないベランダ。だが、変だと思ったのが。
 不自然に穴が空いた鉄板。そこから中を覗き込むと暖かそうな暖炉のついた部屋が見える。人の気配など微塵も感じないのに、だ。

 すぐに玄関へ降りて、センサーを設置。流が来たらすぐに戻ってこれるように、だ。戻ってきたらガレージに置いたバイクの荷台に忘れ物したからとでも言えばいい。

 そして、周囲を確認。他にも穴が空いていないか、中を覗き込めないか、それ以上に人の気配を感じるかどうかを探るために。2階建ての割にかなり大きなお屋敷をぐるりと一周する。

 玄関へ戻ってきた辺りで違和感が確信になる。車両の数と人の気配が一致しない。それどころか、人の気配がしない……いや、正確には流と誰かが中に居るのは分かった。一周回ってそれは確信を得た情報だ。

 だが、これはどういうことだ? そう思ってベランダへ上がりもう一度穴を覗き込む。さっきと違って今度は視覚に様々なフィルターを掛けた上で。

「……ッ?!」

 小さく悲鳴を上げてしまい、その場から後ずさる。

 見えてしまった。中にある物を。暖かそうな部屋の中には人が沢山倒れていた。ざっと見ただけで5人はいた。男女……かどうかは分からない。
 始めに目に入ったのは全身が血にまみれ、乾いて黒くなった人型の何か。服は着てないようだが、周囲には乾いた臓物が散乱しており、その人物の体はポッカリと中身を取り外したように窪んでいた。

 それが5つある。フィルターを外せばそこは暖かいドラマに出てくるような一室だ。そして、もう一度フィルターをつければ……。

「……最悪ッ!」

 直ぐに玄関へ降りて、ゆっくりと扉を開ける。近くに人の気配はしない。そのまま防護服を展開して、杖を片手に静かに侵入する。
 警戒をしながら進む。そして、ある程度進んでから。

「本来ならレリックコアを内蔵していれば並の魔術師、騎士なんて相手にならないほどの実力を得られるのに、貴方は弱かった。それならこれを持っていけばいいしね」

 いつかホテルで聞いた声が聞こえる。こちらから姿は見えないが、声だけを聞こうと耳に意識を集中させる。

 そして聞こえたのは二発の銃声。だが、ここで何度目かわからない違和感を。今の発砲音は流のデバイスのアークの発射音と酷似していることを。
 そんなバカな話があるか、第一何故流はそれを撃った? 意味がわからない。いや、もしかすると第三者が居てそれに対して攻撃している? その割に流の声が聞こえないのは不思議だが。

「痛い? でもまだこれからよ。貴方がどの程度で死ぬか、その試験も兼ねているんだから」

 ……は?

「まだまだ続くけど、ごめんなさいね。気でも狂わせれば良かったけど説明するのも面倒だわ」

 意味がわからない。誰が? どの程度で死ぬか? 流が死ぬ? 

 全く分からない。だが、これだけはハッキリと分かった。流が危ないんだと。それだけ分かって。直ぐに行動に移す。
 近くにあったコンセントに時限式のスフィアをセット。カウントは2秒。同時にバインドの用意をして踏み込む。

 姿が見えたと同時に、息を飲む。ちょうど剣を振り上げた所でバインドで縛り、それに追従するように他の箇所のバインドも発動する。
 時を同じくしてコンセントに設置したスフィアが雷撃と共に爆発。ブレーカーが落ちたのを確認した後、暗視用のフィルターを目につけて倒れる流を抱きかかえる。

 腕にぬるりとした生暖かいものを感じる。それが何かすぐにわかった。だけど、今は……。二階へ上がるために飛び上がり、そのまま廊下を疾走する。

 同時にバチンとどこからか音が聞こえて、思わず舌打ち。やはり予備電源を確保されてたか。徐々に電気が灯る中で、流の顔が私を捉えてのを確認してから。

「遅くなった、ごめん」

「……っ、震離……さん」

 今できる最大の笑顔を向ける。視線を走ってる先へと向けると一際大きな扉が見える。瞬時にスフィアを生成して、ドアノブを掴んで開ける。鍵がかかって無くて良かったと思う反面。舐められてんのかと勘ぐってしまう。

 だが室内へ入ったと同時に。それは杞憂なんだと気付かされる。屋敷全体に地響きの様な振動を感じた、そして、警報が鳴り響き、表示される文章はただ一つ。侵入者が居ると。それに合わせて、外から音が聞こえる何かがせり上がるような音が。

「……震離さん……だめ、逃げて」

「人のことより自分のこと心配して、ね」

 胸の中で血に塗れてる流を横目に部屋の中を確認する。まるで六課にあるデバイスルームの様な部屋だ。けど、六課と違うのが……。

「最悪、全部初期化されてる……くそっ!」

 右手でコンソールを叩いて救援を出そうにも初期化されていては意味がない。管理局の保有するシステムと言えどこれでは何処にも救援は出せない……。

 他に何か無いか、と思って歩き初める。そして、ぱしゃんと何か水たまりの様なものを踏んで、思わず視線を下へ向ける。薄暗くてよく見えないが、水たまりが有る。だが、普通の水とは違って僅かに粘度を持っているようで、足を上げると薄く糸を引いてる。
 視線を周囲へ向けると急いでいて気づかなかったが、コンソールの至る所に赤い何かが飛び散ってるのが見える。そして、扉のすぐ横にある小さな山を見て、吐き気に襲われた。

 その山の所々から手や足といった物が飛び出している、手の甲の皮はズルむけで骨も見え、足先は肉が削ぎ落とされた様に骨だけになっている。そして、その周辺には細かくなった肉の固まりが所々に落ちていることに気づいて…‥。
 
「……ぅっ」

 喉のそこまでこみ上げるものを強引に飲み込む。酸っぱい味に身を震わせるけれど。直ぐに、視線を動かして……。

「……あった、転移ポート!」

 お目当ての物を見つけて、ポートの上に流を寝かせてデバイスに収納していたコートを取り出してそれを被せる。既に息も絶え絶えになって、意識も朦朧としている。
 無理も無い……魔力がない状態で銃弾で二発も撃ち抜かれているんだから。何時もだったらデバイスが止血したりするけど、今はそれすらなく、私がそれを請け負ってる状態だ。
 それでも私程度ではちょっと止血できてる程度。だが、治療している時間もない。

 私一人だけなら、あいつを撒いて撤退することも、もしかしたらあり得るかもしれないが……負傷した流を連れてとなると、それは不可能だ。
 だから転移ポートで脱出を考えているんだけど……。

「最っ……悪!」

 思わずコンソールを殴りつけてしまう。そこの機材が初期化されてるから予想はしていた。だが、こちらは違う。管理局の部隊直通は出来ないようになっている。ざっと見ただけでも無人世界にのみ繋がっている。
 これが意味することはただ一つ。逃げても意味がない。仮に向こうに転移して、向こうのポートを使用したとしても受信側が許可していないため、管理局の支部へ繋がったりはしない。寧ろ行ったら帰ってこれない。
 今の状況でそれは悪手すぎる。大体逃げた所で直ぐにあいつは追ってくるだろうし……。最悪だ。

 そして、何より。

「ッ!?」

 遠くで銃声が一発響いた。音の地点から察するに……。

「ばれるよね。そりゃね」

 分かってたことだ。だが、コンソールを弄る程度の時間はあったことだけでも感謝すべきかな、これは。

 だけど、どうする?

 ここで応戦した所で、それでは流が保たない。かと言って逃げた所で無人世界に繋がってる……。流石にそれでは……。

 コンソールの前で項垂れると同時に、チャリ、と。胸からロザリオが落ちてぶら下がる。

 そして思い出す。これはお守りだと。そして、その人がいる場所を私は伺っている。第一に、あいつ(・・・)も居るならなんとかするだろうし。

 直ぐにコンソールを操作して、あの世界を探して……ッ!

「あった!」

 設定をこの世界へ転移するように直ぐに用意する。それと並行して様々な世界のポートを経由するように設定する。これなら後追いされても多少の時間は稼げる。 
 後は転移までの時間が短ければ……。

「……しん……りさ……ん、どこ?」

 手が止まる。目が覚めたと喜ぶよりも先に設定だけを済まさなければ、と直ぐに止まった手を動かす。

「……わた……しは、いい……から、早く……にげ……て」

 ……。

「……巻き……込んで、ごめん……なさい。こんな……ことに、巻き込ん……で」

 ……っ。

「……だから……逃げて、わた」

「流、それ以上は怒るよ」

 ビクリと体が震えたのが見えた。深呼吸を1つしてから冷静にしてから。

「……好きでやってることなんだ。だから、さ。そんな寂しいこと言わないでよ」

 コンソールを叩いて、設定を完了させる。だけどここで問題が1つ。様々なポートを経由、同期させてる関係で、すぐには転移が始まらないという事。
 そして、転移が始まるのが……。

「……5分、か」

 これ以上は短縮は出来ないし、突貫作業とは言えダミーデータも仕込んだ。だが、これ以上はもう逆立ちしたって出来ない。コンソールに表示される時刻は20時38分。ここから5分か……。

 ズドン、と銃声が響く。これで2発目だが、先程よりも近づいてきている。そして確信するのが、これは威嚇でも何でもない、私達に告げるカウントダウンだと。

 さて、考えなさい私。こちらの戦力は私のみ。勝利条件は5分足止めからの流と一緒にここから離脱。敗北条件は私の撃破。

 でも正直な所、さ。

 ああいうタイプは初めてなんだ。あの人の笑顔は本当に警戒しない清い物。それなのにその笑顔のまま無表情に流を撃った。あんな感情を出さない人は初めてで……怖い。
 今だってそうだ。黙ってこればいいものを、わざわざ時間を掛けてゆっくりとコチラに向かっている事。

 何より、いつかの制限を外したなのはさん並の大きな魔力反応だということ。曲がりなりにも隊長と呼ばれるほどの人。しかもこんな裏の部隊を纏めていた人が只の人の筈がない。

 ……私にやれるか?

 いいや、違うな。やるんだよ。最後の終わりのそこまでを、徹底的にやるんだ。

 転移ポートの上で倒れる流の側まで寄っていく。

 その間にもう一度、この場合の最悪とは、私が早期に破れること……そうした場合二人共ここで死ぬ事。それは……それじゃあ、あんまりじゃないか。
 
 ゆっくりと流を抱き起こして、ギュッと抱きしめる。既に体が冷たくなりつつ有る。流が終わってしまいそうになってる。

 さぁ、ここにおける理想とは。私があいつを数分で打ち破って、流と共に避難して、治療を施して……それから、それから。

 あぁ、そうだ。六課へ帰って。皆にこの事を伝えて対策を取って。

 それから、それから……。

「……しん……りさん、行か……ないで」

 ギュウッと抱きしめる。この後のことが怖い。時間が無さ過ぎて嫌になる。涙が出てきそうになる。

 だけど、それを堪えて。流をしっかり見て。不安そうな顔をする顔に撫でるように頬に手を添えて……抓る。

「……しん……り……しゃん、いひゃい」

 そんな声が、そんな顔が可笑しくて笑っちゃう。

「何処にも行かないよ、このさみしんぼめー」

 あなたと一緒にいたい。側についてあげたい。

「私は必ず追いかけるから。だから流も安心してね」

 恐らく私は追えない。ごめんね……。ごめんなさい……ッ。

「……だから、流。一旦さよならだ」

「……ぁ」

 小さく声が漏れた、何かを言いたげにしているけれど。もう時間がない。既に4発目を撃たれた。直ぐそこまで来ていることが分かる。
 
 流の懐から、いつか貰ったロザリオを出して。それを握らせて、もう一度ゆっくりと抱きしめる。

 ずっと考えてたんだ。流が体を奪われかけたあの日。どうしてマリさんが……いや、キュオンさんがあの日助けに来たことを。本来ならあんなリスクを背負ってまで来る必要は無かったはずだ。
 そして、ウィンドベル夫妻がこの子を失敗作としたということ。それがどうしても納得できなかったし、おかしいと思ってた。夫婦が運んだ、遺跡から運び出された体は――オリジナルは何処にいった? それがないのに、目の色から背丈まで同じ人造魔術師を作り出すにしては効率が悪すぎる。
 だから、私はこう考えた。ウィンドベル夫妻は流という人を助けるために敢えて失敗作として違う場所に保管していたのではないか? と。そして、それで助けたのが……今私達を追っている人。

 私もよくやることだ。問題の深い場所で間違えたと思って、長い時間かけて調べて、実は初期の時点で間違えてたから全て歪んでしまったことなんてよくあることだ。

 灯台下暗し……という事になるんだろう。実際に流の体は魔力があれば驚異的な回復力を持っている。それも死にかければ死にかけるほど回復が早くなるという物だ。

 遺跡であったあの人から流に渡されたロザリオと、私に渡されたロザリオのデザインは酷似している。だから、これは私の博打だ。
 いった先で流を救ってくれるかどうか、大きな賭けなんだ。

 ゆっくりと抱きしめてた腕を緩めて。流を寝かせる。

 立ち上がって、流を見下ろすと。不安そうに私を見上げているのが、置いていく様な気がして、直ぐにでも抱き起こしたい、叶うなら側にいてあげたい。だけど、それは敵わない。

 5発目の銃声が聞こえる。ハッキリと空気が震える感覚が伝わる。もう扉の側にいるんだろう。

 ゆっくりと背を向けて転移ポートから降りると、後ろで小さな悲鳴が聞こえる。それを無視して足を進めて……デバイスを展開して命じた。

「指定座標にクリスタルケージ発動」

『Crystal Cage Set.』

 流の囲う様に半透明な四角錐の檻を展開する。実はこの魔法割りと便利だからちょっと追加効果を入れてるんだよね。それは単純に、音を吸収するように作った事。外からの音は聞こえるのに、中の音は聞こえない、潜入用にもなりえる代物に術式を改造した。
 まぁ、ちょっとリソースを食うけど、発動した後はもう求められないから案外使い勝手がいいのよね……。緊急用のシェルターにもなるし、さ。

 扉の前まで来てドアノブに手をかけてから、もう一度振り向いた。そして、驚く。

 倒れていたはずの流が、ポートの上で座ってゲージを弱々しくも叩いていることを。

 あぁ、あぁ……。傍に行きたい。傍に行って大丈夫だよって言ってあげたい。だけど、それはもう……無理なんだ。

 だから、私は涙が出そうなのを堪えて、必死に堪えて。流に向かって今できる最高の笑みを浮かべて――――

「また後でね」

 ガチャリとドアノブを回すと同時に。

「ブレード、オープン」

 杖の切先に魔力刃を展開、前へと突き出す。

 ガチリと何かにぶつかるが、気にしない。そのまま踏み込んで。

「少し私に付き合えよ!!」

「あら残念。カウントはあと1つ残っていたのに」

 ギルを、否。大剣型のデバイスで切先を受けられるが、ぶつかる勢いのままコイツとともに扉から離れる。

 ある程度距離を離そうと考えるけれど、。左腕にある銃口をコチラに向けられる。それを。

「あら?」

 魔力刃を解除して、力場を失った杖をその勢いのまま振り回し、銃口を逸らす。同時に近くの壁に銃弾が打ち込まれるのを確認してから、少し距離を取り下段の構えで杖を持つ。

 だが、同時に……。

 左足の太腿から血が流れてくる。直撃はしていないものの、あの一瞬で二発撃ったということが嫌でもわかる。

 何よりも最悪なのが……それが見えなかったということ。以前流から銃を借りて撃った事がある。魔力弾とはいえ反動は大きく連射なんて効かない武装のはずなのに……それを二発撃った。
 直撃しても可笑しくないはず、それなのに外したということは……こいつ、遊んでる。

 なら話は単純だ。遊んでくれるなら、自分から時間を掛けてくれるのなら。

「……2つ聞きたいが、いいか?」

「2つだけなら、いいわよ」

 ニコリとお婆ちゃんが見せる優しそうな笑みを浮かべるのをみて、底知れない冷たさを感じて体が縮こまる。笑顔に対してその目は狂気に満ち溢れているのを直に感じてしまったからだ。

「……1つ、ここにいる人達は何故死んでる?」

 ふむ、と呟いた後、あらあらといった様子で首を傾げて。

「貴方は呼吸するのに意味を考えますか?」

「……そうかい」

 なるほど、話は通じないようだ。いや、話をする気がないのか……まぁ、どちらでもいい。

「……2つ、貴女を信じてる子を後ろから襲った気分は?」

「……フフフ」

 ケタケタと突然笑いだして、あいつの一挙手一投足を見逃さないように集中と共に警戒を。

「馬鹿な子。誰も居ないことに何一つ疑問を抱かなかった。何時もなら玄関には誰か1人は立っているのに、それすら気にせず私のところまで来たのだから。
 あぁ、気分はどうって聞いてたわね……。楽しかったわ最っ高よっ!」

「……あぁそう」

 外道が。

 あぁ、最悪だ。コイツは本当に最悪だ……。だが、まだ2分も経っていない……。あと3分持たさないといけない。

「では、次は私からの質問ね。どうして貴女は―――」

 なんの反応もなく、その場から消えて。

「―――私の後ろで構えてるのかしら?」

「……は?」

 気がつくと背後にあいつが立っていた。今の今までそこにいたはずなのに、なぜ?

 振り向くよりも先に後頭部を掴まれる。同時に全体重を掛けられて―――

「ァ……グッ?!」

 頭から廊下へ叩きつけられる。ぬるりとしたものがおでこに広がるが、それよりも。何故コイツは後ろに立ってた? いつ、どのタイミングで?

 起き上がり、距離を取ろうと右腕の杖を振り上げる―――

「おいたはダメよ?」

 ズンッと、右肩に何かが打ち立てられる。一瞬何が起きたかわからなくなる、だが、その程度じゃ止まらない―――はずなのに、いつまで経っても腕が持ち上がらない。
 それどころか、右肩に熱が、焼けるような熱さを感じて……。そして、痛みを感じたと同時に。

「ひっ……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」

「良い声ね」

 痛い、痛い、痛い!!!!
 神経を焼かれるようだ、激痛に今の今まで考えてたことが全て頭から抜け落ちて、あまりの痛さで涙が溢れる。

 私は今。腕を落されたんだと、認識してしまう。

 ドクンドクンと、脈打つと共に、血が溢れ出ているのが分かる。反射的に止血せねばと、左腕を伸ばすけれど。

「だーめーよ」

「ギッ……ぅうああああ!!!」

 左の手の甲に銃弾を打ち込まれ動きを激痛で手を引っ込めてしまう。何より痛みで頭がおかしくなりそうだ。

「……赤色……そうだわ。ギル、アーク。このお屋敷もう要らないから燃やしてしまって」

『『Yes Meister.』』

 その声が聞こえたと同時に、屋敷全体を揺るがすほどの振動を感じる。そして、それは、私の後方でも起きた。一際大きな爆発音と共に、足に熱を感じるのを切掛に、肩に熱風を感じてうめき声を上げてしまう。

 ……足に熱? 待ってまさか……。

「流……お前、今何をした!?」

 顔を左に向けて、震える声で私を見下ろすアイツを左目だけで睨みつける。

「何って爆発させただけよ。何で貴女があそこを知ってるかは……まぁ流が教えたんでしょうね。そこを爆発させたの。最新鋭の機材とは言え、重要機密がある場所よ? 念入りに爆発させてあるわ。
 それよりも……私って。釘って好きなのよね」

「……?」

 突然意味がわからないことを言う。ダメだ激痛で頭が回んない。アイツが私の左太腿に腰掛けると同時に、右足を掴み、押さえつけて……って、まさか。

 冷たい何かが太腿にあてがわれて。叫ぶよりも先に。

 ガツン、と打ち込まれた。反射的に悲鳴を上げるけど、両足は動かせない、右腕は肩から先が無い。唯一有る左手は痛みで動かせないはずなのに、唯一動かせる手を必死に動かして背中へ、足へ手を伸ばそうとするけど、届かない。だから私は。

「ぁああっ! ああぁぁあっ!」

 痛みで叫ぶことしか出来なかった。

「この銃って、なんでも撃てるの。貴女達の世界で言う五寸釘? だったかしら、それより少し太い物も打ち出せる優れものよ。さ、もう一本……いや、二本いこうか」

 ガツン、ガツン、と作業でもするように私の太腿へ二本の釘を一本目と直線状になるように打ち込む。

「――――っ!???!!! ――――――っ!?!」

 声にならない悲鳴を上げる。もう何も考えられない―――。痛みで頭が割れそうだ。未だに右腕がなくなったという事実を脳が認めない内に、激痛を与えられて、既に私の思考は冷静とは程遠くなった。

 涙でボヤケて前が見えない。叫び声を上げたいのにこれ以上声が出ない。喉の中でひゅうひゅうと音を立てる程度だ。このまま意識を手放してしまえば……楽になれる。そう考えて目を閉じようとした瞬間。

『マイスター。元マスターの遺体確認。転移ポートの側に焼け焦げた遺体がありました』

「――っ!?」

 瞬時に意識が引き戻される。あれから何分経った? いや、それ以上に今アークはなんて報告した? 遺体があった? 誰の?

「そう。手を下したかったけど……若い女の子の悲鳴を聞けたので良しとしましょう。ありがとうね少女。楽しかったわ……これ(・・)使えるから貰うわ」

「ギッ……ああああああ!?」

 グッと釘を踏見つけながら立ち上がる。その体重が乗ったせいで激痛が走り堪えることが出来なかった。痛みで気絶しそうなのを堪えて。

「……なんで、何で流を殺した?! 答えて、答えてよ、ライザ・ジャイブ!!!!!」

「私の名前まで分かったてたの? 凄いわ。良い悲鳴のお礼よ。それに意味なんて無いわ。さようなら、楽しかったわよ」

「まて、待ってよぉおおお……ぅううぅうぁぁあああああああああ!!!!!」

 空いた左手を廊下に叩き付ける。体を動かそうにも、右足が廊下に固定されて動けない。無理に引き抜こうにも右腕がなくて、バランスが取れない。

 ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう!!!

「ちくしょうぅううぅうぁぁあああああああああ!!!!! わあああああああああああ!!!!」

 絶叫を挙げたと同時に、私の側の扉が爆発したと同時に炎が吹き出したのを見て、目を瞑った。
 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。 
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