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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第47話 迎撃と幸運と、報酬はメイド服で


――side震離――

 ファリンさんからティッシュを貰って鼻に詰める。後は流の格好にテンション上がって吐血してしまった事を謝罪する。その間にもファリンさんが流にずっと謝罪してた。今お屋敷にある洋服で直ぐに出せて且つ流のサイズに合うものがこれしか無かったからという事。
 そして、他のメイドさん達もノリノリで着せてしまったこと。その他色々謝罪してたけど。
 等の本人がそんな事よりこの状況について考えましょうって、気にしなくていいっていうポーズを取ったお陰で、いくらか気にしなくなったみたい。

 だって、可愛いんだもん。そんな流の姿を見て、アリサさんやすずかさんが、唖然としている間に……。

「で、どうする? 敵の総数がわからない以上、下手なことは出来ないよ? ってか着替える?」

 ティッシュを詰めてるせいで鼻声になるけど、今は緊急事態だし無視しておく。流も現状を把握していて、皆の前に出てきた時の恥ずかしさは既に無い。

「そうしたいのですが、既にその時間も無いかと。敵はこのお屋敷の警備ロボの分布を見て正面から来るつもりみたいです」

「……正面から倒したっていう勲章も追加で欲しい、と。舐めてるね」

 二人してため息が出て来る。珍しく分かりやすい悪態をつく流が珍しくて、つい頬を撫でる。

「……流。何分持つ?」

「コチラから攻めなければ、警備ロボやドローンと共に20……短くても15分は」

「……分かった。ファリンさん。ここから翠屋の方角を教えてください」

「は、はい!」

 どこからか持ってきた地図を広げて、翠屋の位置を確認。ここからなら……追手が付いたとして、片道7分程度。つかなきゃ5分で行けるな。
 正直な所、私も一緒に防御に徹したいけど。あくまでそれは魔道士としての話。今の私はちょっと身体強化出来る程度の娘だ。剣術も知ってる。けどそれはあくまで「知ってる」だけだ。普段は魔力で補助された上でしか使えない。
 響達6人なら武術の心得をしっかり体得してるんだろうけど、私のは所詮付け焼き刃だし。

 流も私もお互い理解した上で、この作戦を取った。まだ色々戦闘……いや、防御が出来る流が守ってくれている間に、私が外部へ助けを求めに行くということ。

「な、そんな、流だけで護るっていうの!? 無茶よ!!」

 声を張り上げてアリサさんが叫ぶ。まぁ、普通は無理だと思うよね……。

「ファリンさん。すみませんが箒でもなんでもいいので、長物を頂けませんか? 返せる保証はございませんが」

「え、えぇ、すぐに用意致します」

 裏では流が武器になりそうなものをお願いしてるし……。アリサさんとすずかさんは慌ててるし。とりあえず、時間はなくなってきてるから手短に。

「安心……は出来ないと思うので、補足を。流って実力的には私よりも上です。さっきの防御も一通り見たならわかると思いますが、護ることだけに集中したら流は負けませんよ」

 それに実弾つっても、直線的にしか撃てないし、大きさも大体わかってるし、そもそも銃口と弾道見切って防ぐ流なら問題ないし。
 ちらっと後ろを見ると、流がファリンさんからモップを貰ってる。なんというか絵面だけだと、先輩メイドが、後輩メイドにお仕事教えてるみたいでちょっと可愛い。にへーっと顔が緩みそうになるのをきっちり締めて。

「いろんな手段で外部……正確にはなのはさん達と連絡が取れないか試して下さい」

「でも、それじゃ2人が……」

「へーきです。それに私が到着する前に連絡がつけば御の字ですし、なのはさんのご家族も強いっていうのはわかります。それなら大丈夫でしょう」

「……って、震離? なんであんたが美由希さん達の事知ってるのよ? なのはも中々話さないことよ?」

 へー、そうなんだーって考えるけど、それよりも効果的な一言を。

「美由希さんとは連絡とり合う仲ですし。そっち方面から聞きました。あと響……あぁ、黒髪ロングのポニテマンですけど、響曰く普段から武装してる人って中々居ないって前言ってたはずですし」

「……よく見てるわね」

「でも震離ちゃん? いいの、危険だよ?」

「慣れっこですよ。あ、それよりも……」

 ちらっと後ろを確認、ファリンさんと流が話し込んでいるのを確認してから。前を向いて、お二人に手招きをしてコチラに近づいて貰って。小さな声で。

「ご相談なんですけど。あのメイド服。あのサイズで何着か頂けないでしょうか? 流に着せようと思って」

 そう言うとお二人とも、きょとんとして、呆気にとられてる。

 そして、はっと我に返ったかと思えば。

「あんた、この事態をどう見てんのよ!?」

 口調の割に小声で話してくれるアリサさんを見て、思わず笑ってしまいそうになる。ノリが良いなーって。

「……冬用夏用ってあるけど、どっちもいる?」

「すずか!?」

「あ、頂きます。後でメルアドも教えて下さい。流がそれ着た写真を送りますんで」

「あんたも何言ってんの!?」

「うん、アリサちゃんの分も一緒にね」

「なんで!?」

 女三人顔を突き合わせて、真剣なふりをして話す内容はこんなんですよ。だけど、すずかさんもアリサさんも既に不安はある程度は取り除かれたようで、何よりだ。

「さて、報酬が確約出来たので本題へ。この防衛戦既に勝ったようなもんです」

 2人の表情が直ぐに真剣な物へと切り替わる。

「既に時刻は夕刻。そもそも私と流が帰ってきてないことを心配してる……かもしれませんし、そもそもあんな町中で銃を抜いておいてニュースにならないなんて、ありえません。異変を察知してもしかしたら高町家の皆さんがこっちに向かってるかもしれませんし、まだ様子を見てるかもしれない」

「……確かに警察も動いてるかもしれないわね」

 心配そうな面持ちのままアリサさんが呟く。確かにそれもある。だけど……。

「それ以上に守ってたら勝手に向こうの時間が無くなります。ですが、それでは意味がない。叩くなら完膚なきまでに。その為に私は翠屋へ、流が迎撃に徹するんです。もう二度とそんな事を思いつかないようにする為に」

「……それにお姉ちゃんや、恭也さんも翠屋にいるから来てくれたら、きっと」

 ……おっと、何か新しいワードが出てきたけど……恭也さんってのは、なのはさんと美由希さんのお兄さんだったかな? だとしたら、なのはさんは魔力がないからキツいかもしれないけど、3人も戦える人がいる私と流を合わせて5人。よし勝てる。

「よし、じゃあ作戦は決まった。さぁ、流?」

「えぇ、こちらも」

 顔を見合わせて笑いあって。

「無茶は禁物。来るまでは、ね?」

「勿論。震離さんもお気をつけて」

 拳を合わせて。そのまま流は玄関へ。私も後を追う……その前に。

「震離様、大丈夫ですよ。既に流様と打ち合わせ済みですので」

「了解です。後は……あ、流ストップ」

 ちょうど扉を開けて行こうとする流を止めて。

「それじゃあ、すずかさん、アリサさん、ファリンさん。いってきます」

「あ、その、いってきます!」

 私の後に続いて、流も頭を下げながらそう言う。その言葉を聞いて、3人ともぽかんとしたかと思えば、直ぐに。

「怪我は……なるべくしないこと、いいわね!」

「うん、いってらっしゃい」

「お気をつけて」

 三人共それぞれ笑顔で答えてくれた。それを確認して、グッと拳を作って。流の方へ振り向きながら、拳を突き上げて。

「よっしゃあ、メイド服のために頑張るよ!」

「はい! ……ぇ?」

 後ろで盛大にコケた音が聞こえたけど、無視だ無視!


――side響――

 フェイトさんと共に、実家から海鳴に戻ってきたんだけど、何やら大騒ぎになってる。タクシーの運転手さんには駅前で下ろしてくれと伝えて、降りてからぶらぶらしてたら何か検問してるし。
 少し離れて、周囲の人達……駅員さんに話を聞いてビックリ。何か家電量販店で銃ぶっ放したバカが居ると。それも複数。犯人は未だ不明。監視カメラの映像も切られてて誰が何のために撃ったのか分からないみたいだ。
 しかも話を聞くと、撃たれた直後に何か誰かを庇うように外へ連れ出した人がいるとかなんとか……。

 正直ここまではふーんって聞き流してたんだけど、この後が問題で。

 飛び出した人数の中に、茶髪の子供が混じってたと聞いて。少しおやっと?
 更に聞き込みを進めていると。金髪の女性が、女性二人を脇に抱えて走っていったとか、茶髪の女の子が映画さながらに守ってたとか色々聞いて。

 この助けた2人ってまさか震離と流じゃね? と思い始めた。だけど……。

(主、駄目です。やはり2人に連絡がつきません。それどころか高町様にも)

(そっか、一応引き続きなんか変な反応合ったら教えてくれ)

 衛星リンクしてないとは言え、こんなにもつながらないのは少し変にも感じる。もしくは意図的に制限されてるか……。
 
(……不味いね。響、流と震離の2人が助けた人……もしかすると知り合いかもしれない)

(……アリサさんとすずかさん。エイミィさんが出かけてるはずって言ってたと思ったんですが?)

(私もそう聞いてたけど。何かあって予定を変えてたかもしれない。とりあえずさ) 

 フェイトさんの動きに合わせて、コチラも動く。ここから離れるために。
 検問に引っかかると面倒だ。今の俺の持ち物考えたら、何こいつって間違い無く思われる。ショルダーバックの中に、あの白い箱……ってか、棺を入れてるし、仲を見られたら間違いなくアウト。ちょっと署までとか言われかねないし。

 とりあえず迂回迂回の遠回りで帰ろう……。くっそ、エリオやキャロ達になのはさんの実家のシュークリームとか買って帰りたかったのに、これじゃ迂回で時間食っちまう。最悪だ。

 ―――

(花霞ー周囲に人の気配はー? あー違うわー、警察チックな人いる? 拳銃持った人ねー)

 もう踏んだり蹴ったりだ、警察と合わないように避けながら行動してたら、何かよくわからん場所まで来た。軽くだれ始めて、語彙力まで低下してるわー。

(主、少し離れた場所に多数の銃を持った人達が居ます)

「……まじか」

「嫌な予感は当たるね。最悪だ」

 花霞に指示された方角を見る。普通の街中にそんな銃を持ってくる奴がいるとは思えないほど静かだ。警察とかち合わない様に行動してるし、もう夕刻なわけだし……さっさと帰るのがベストなんだろう。

 だけど。

「…‥花霞。案内頼む」

(良いんですか?)

「あぁ。ヤクザの抗争だったらさっさと消えるし、もし知り合いだったら助ける。そんだけさ。フェイトさんもそのつもりでしょう?」

「うん。でも、知り合いじゃなくても、銃を使えないようにして、気絶させるくらいはするよ」

「頼りになります。ならば先行します? バルディッシュさんなら、詳細掴んで――」

「――ううん。場所は割れた。やっぱりすずか達だ。もしかすると襲撃されてるかもしれない、先に行くね!」

 瞬時にバリアジャケットを纏って、先行していくのを見送る。しっかり認識阻害掛けてる辺り流石だなーと。
 ならば俺がすべきことは周辺の増援が無いかの確認と、後続が居るならそれを落とすことだな。よっしゃ。
 右腰に花霞を出現させ、左腰に前の刀二本を装備。軽く身体強化を掛けて、飛び上がり、屋根伝いに走り出す。

 そして、一際大きく踏み込もうとした瞬間。

「ッ!」

 本能的に踏み込むのをキャンセルし、立ち止まり、無理やり体を上ではなく下に向けて、道に着地。頬から生暖かい物が流れるのが分かるけど、それよりも……。

「……何者?」

 電柱の上を見上げると、茶髪の男が1人。小太刀を二本鞘に入れた状態で腰につけている。

「それはこちらのセリフだ。貴様何者だ? 何の用が合ってこの先へ踏み込む?」

「はっ、理由なんざねぇよ」

 ショルダーバックを道の端に放り投げて。腰を落とす。

 正直な所この人が何したのか全く視えなかった。そもそも魔力云々じゃないのはわかりきってる。だが、何かを投げて牽制……いや、あのまま踏み込んでたら角度的に肩と足に刺さってた。無理やり躱した結果頬を掠ったわけだし。

 そして、何より。この人いつどうやってここまで接近した? わりかし集中してたんだが、全く気づかなかった。

「質問を変えよう。そんなものを持って何をしにこの街に来た?」

「……ただの観光って言ったら?」

「論外だな」

 そう言って、瞬きをした。その瞬間にはそこから消え失せて。

「なら、ここで倒す」

 背後から声が聞こえたと同時に。花霞と、無明の刀を抜いて振り返り、相手の刃を受け止める。小太刀を振ってるとは思えないほどの力に思わず膝をつきそうになるのを堪えて、相手の切っ先を弾く。
 一瞬距離が空いたと思えば、再度向こうが接近。姿勢も何もない状態で、右の刀を振り下ろす。だが、何事も無かったようにそれは避けられて、その勢いのまま体を反転。同時に空いた俺の顔面目掛けて切先が真っ直ぐ向かってくるのが見えた。
 ギリギリ反応できる速度に、この力強さ。それに容赦のない一手。素直に関心した。顔面目掛けて飛んできた一閃を左の花霞で受ける。だが、もう片方の小太刀もこちらへ向かうのを右の刀で防ぐ。
 火花が散る。俺は後方に、あいつは前進しながら剣戟が響く。間一髪。紙一重でそれらを捌き、防ぐ。

「フハッ」

「?」

 思わず口から笑みが溢れてしまった。状況は最悪。それなのにもかかわらず、だ。

 これ以上は攻め手に欠けると気づいたのか一端距離を取ってくれた。そして。

「……なんという僥倖。敬愛出来る上司に付き合ってここに来て、有給使って一日伸ばしただけ……なのに」

 怪訝そうな顔でこちらの行動を観察しているあいつに花霞を、切先を向けて。

「感謝する。アナタと会えたことをッ!!」

 身体強化を最低限に、そして――

「ここからは加減は無しだ。願わくばこの技術が届くことを」

 五感を――いや、知覚を強化、周囲が白と黒に染まるのを感じながら、刀を鞘に収め、腰を落とす。右手を左に、左手を右に、それぞれを柄に手を掛ける。

「いざ」

 一言そう声を掛けた。

 
――sideフェイト――

 妙だと思ったのは、駅前に着いてから。明らかに雰囲気が違う事から何かあったのは分かる。駅ビルに普段点ているはずの大型ビジョンも黒いまま。
 休日で海鳴に来てるはずのなのはに念話連絡を飛ばしても反応が無いという事も妙な話だ。
 それ以外にも、震離や流も来ているはずなのに、どの回線でも繋がらないのは明らかにおかしい。
 
 せっかく、響の事を、色々知ることが出来たというのに……戻ってきたらこれだ。
 母さん達にも連絡を、と思ったけれど。クロノは既に戻ったし、残りの3人は基本的に制限が掛かっている以上、あまり頼ることが出来ない。
 
 空に上がりつつ、すずかのお屋敷を目指せば――
 
「やっぱり。行くよバルディッシュ!」

[YesSir.]

 マズルフラッシュがいくつか見える。音がしないところを見るとサプレッサーを使用している。だが、数が多いし何よりも。
 
 お屋敷を守っているメイドさんは1人だけ。見たこと無い茶髪の子だけど、なんとか防いで時折反撃しているのは凄い。流石すずかのお家でメイドさんをやれるだけのことはある。
 
 さぁ、援護に行こうか!
 
 


――sideなのは――

 時刻は既に7時前。まだ9月になったばかりで、外はまだ明るい。けど翠屋を出てったあの2人はまだ戻ってきてない。
 お兄ちゃんと、忍さん、ノエルさんも少し前に着いて今お父さんとお話をしている。ヴィヴィオも2人の子供である雫ちゃんと気があったみたいで今ではすっかり仲良しさんだ。
 久しぶりに会ったお兄ちゃんから、「あのなのはが子供を」って驚かれたけど、事情を説明したら納得してくれた。それでも、いつかは別れることを伝えたら、「それでもきっとなのはが引き取る」って、言われちゃった……。
 今回お兄ちゃん達が戻ってきたのは、何やら海外で不穏な動きがあるということ。その話が出てからはお母さんが、ヴィヴィオや雫ちゃんを連れて、お店の奥へ行った。流石に子供に聞かせる話ではないから。

 お兄ちゃんによると、現在海外では、吸血鬼を討ち取ったものに報酬を支払うと言う催しがされており、その大本は潰した。けど、それを知らない他の下位組織がもしかしたらここに来ているんじゃないかと考えて戻ってきた。
 そしたら駅前で銃撃騒ぎが起きたけど。今はまだ様子見。敵がどの程度居るのか分からないし、何よりお父さんの元へ連絡も何も来ていないことから下手に動くのはやめようと、皆待機している。

 だけど。

 バタンと扉が開いたと同時に皆の視線が、その人物へ集中する。そこに居たのは。

「緊急連絡。現在月村すずかさん宅が銃で武装した者に襲撃されています。なので、手を貸してくれませんか」

 全ていい切ったと同時に、扉にもたれ掛かって、肩で息をする震離の姿がそこにあった。

 瞬間、店内に一陣の風が吹いた。同時に……。

「美由希、直ぐに用意をしなさい!」「ノエル、私達も行くわよ!」

 お父さんと忍さん、お姉ちゃんが慌ただしく動く。そんな様子に……いや、風が吹いた時点で目を丸くしていた震離は。

「び、びっくりした。一瞬で男の人が駆け出してった」

 驚いたと言わんばかりに胸を抑えてる。お父さん達が準備している間に側へと駆け寄って。

「何があったの?」

「順を追って説明しますね」

 軽く深呼吸をしながら話を聞く。

 曰く今日たまたま家電量販店で買い物をしていたら、流が銃を持った二人組を発見。同時に店員もグルだと見抜いた。
 誰が狙われてるかわからないまま下へ降りると。たまたま来てたであろうアリサちゃんとすずかちゃんとばったり遭遇。同時に、銃を持った二人組がすずかちゃんへ発砲したのを流が防御、そのまま2人を連れて離脱したけど、それでも尚追われたけど、すずかちゃんのお家まで逃げることに成功。
 しかし、連絡手段が全て絶たれている為、助けを呼ぶことが出来無かった。そして、現在流が単騎で防御をしつつ、震離がコチラまで伝えるためにやってきた。

 それを聞いて。

「「え、今流君しか居ないの?!」」

 話を聞いてた、お父さんとお姉ちゃんが叫んだ。対して忍さんとノエルさんは不思議そうに首を傾げている、一応私と同じ魔道士という事は伝えてある。だけどその容姿と歳はまだ言っていない。
 多分、お父さん達は今の私達の状況を知っているからこその叫び、忍さん達は魔法が使える人がいるから大丈夫だと考えていると予想する。

「だって、今のなのは達はあんまり魔法使えないんでしょう!?」

「「えッ!?」」

 それを聞いて更に慌てる忍さん達。それもそのはず。多分予想してた以上に事態は不味いことになってるだろうと考えてるはず。
 だけど私は。

「ここに向かう前の流は20分は固いと言ってました。なので、私達が後ろから強襲すれば制圧は可能かと」

 その震離の一言を聞いて少しホッとする。そして皆が外へ出ると同時に私達も追いかけて外へ出る。私や震離は身体強化使ってるけれど……。
 普通に、夜の街を翔けるお父さん達を見てるとちょっと自信が……色々と……うん。昔私もこうやってついていった時、普通に追いつけなくて慌てたっけ。あの時と比べて早くなったとは言え……それでもお父さん達は早いし、お兄ちゃんは既に到着してるんじゃないかとさえ思う。

「震離? 敵は何人位居るの?」

 お姉ちゃんが首だけ振り向いて、震離に質問する。器用に家の屋根や、電柱を足場に翔けてるのはさすがと言うかなんというか。

「襲われた時点で多分9人。電波妨害とかされたので、実際はもっと居るでしょうけど」

 あっけらかんと応える。その表情で心配していないというのが分かる。だけど。

「それじゃあ、すずかとアリサの側にファリンしか居ないの?」

 心配そうな面持ちで震離の側へと行き、話を聞こうとする忍さんに、一瞬警戒する素振りを見せた後。私の方をちらりと見て、震離の意図を察した。

「大丈夫。すずかさんのお姉さんの……」

「まだ名乗ってなかったわね。忍よ。なのちゃんのお兄さんの恭也と婚約してるの。こっちはメイドのノエルよ」

「お初にお目にかかります。ファリンの姉のノエルと申します」

 そこまで聞いて、パッと震離の表情が明るくなった。

「コチラこそ初めまして。叶望震離と申します。現在はファリンさんが2人の最終防衛ラインとしてますが。その前に流っていう子が単騎で警備ロボと共に迎撃に専念しています」

 それを聞いて2人がホッとした……だけど。

「そうは言ってもなのは達3人は魔法の制限を受けてる。平気なのか?」

 少しだけ険しい表情のお父さん。それに気づいてニコリと笑って。

「平気です。最初に襲われた時点でこの世界の銃の弾丸の速度は分かったと言ってました。それよりも心配してたのはすずかさんのお家の建物を傷つけてしまうことを彼は気にしてましたし」

 それを聞いて皆の表情が微妙な感じになる。だけど、裏を返せば。人の安全はもう確保できたようなものと言ってるんだから。

「まぁ……恭也も先行しているし、きっと大丈夫か」

 お父さんの一言で再び皆真剣な表情へと戻る。今は一刻も早くつかなければならないから。

 そして、もうすぐで月村邸にたどり着こうとしたその時。門の前に人が倒れているのが分かった。地面へ降りて、そこへ駆けつけると……。

「……状況終了。なんとかなりました」

「あ、なのはに皆さん。出張以来ですね」

「え? フェイトちゃん?」

 折れて2つに別れたモップを手に持った茶髪のメイドさんと、バリアジャケットを纏ったフェイトちゃんがそこに居た。周囲には大の大人が12人。それも銃や刀剣を手にしたまま気を失っている。よくよく見れば、携帯式の無反動砲も何本か落ちている。
 そして、その中で立つメイドさんも、よく見れば服装のあちこちが銃弾が当たったように破けたり、穴が開いている。それほどまでの激闘があったんだということが嫌でも分かる。

 だけど、ちょっと待って。この茶髪の子ってもしかして……。

「うっわ、流ボロボロだねー。怪我はない?」

「えぇ、なんとか。ロケット砲を持ち出されたので、制圧したんですが……なんとかなりました」

 呆気にとられてる皆を置いて、震離がメイドさん……いや、流の元へ駆け寄った。色々聞きたいことがあるんだけど、まず何よりも。

「……なのは。やっぱり流君って性別間違えてるよねぇ」

「気にしてるから言っちゃダメだよ?」

 お姉ちゃんと小声で話す。うん、私も今ほど似合ってると思ったもん。だけど、お父さんと忍さんは周囲を見渡して首を傾げてる。そして、おもむろに流の近くへいって。

「なぁ、流君? ここに恭也……いや、刀を持った男は来なかったかい?」

「? いえ。ここには誰も……少し前にフェイトさんが援護に来て、その後に皆さんが来ただけですよ」

「へ? 恭也さんも居るの? そんな気配感じなかったけれど?」

 不思議そうに二人してコテンと首を傾げてる。そんな様子を見て震離が血を吐いた。慌てたノエルさんが手当に回るけど……流が来てるメイド服って、月村家で使われてるメイド服だと気づいてちょっぴり和んでしまった。

 だけど、それじゃあお兄ちゃんは一体何処に? それに、フェイトちゃんと一緒に居るはずの響も何処に?

 なんて考えてる間に、お父さんと忍さんがそれぞれ周囲を見回りに行った。

 私達も中へと入ろうとしたその時。突然流が振り向いた。

「! 誰か戦ってます……でも、これって……あ!」

 そのまま地面を蹴って、空へと跳んで塀を超えていく。慌てて追いかけようとするけど。

「私が行ってくる!」

「……あ! そういうこと! ごめんなのは、私も行ってくる!」

 と、お姉ちゃんとフェイトちゃんが流を追いかけていった。誰か戦っているって……お兄ちゃんかも知れない、でも、それだと流が慌てた理由が分からな……あ、そういうことか。後で謝らないとなぁ……。
 そんな事を考えつつ、ノエルさんの案内で、私達は月村家の屋敷へと足を踏み入れた。


――side響――

 迫る白刃を逸し文字通り間一髪で流す。

 受け止めてはいけない。斬撃を通される。

 足を止めてはいけない。飛び道具で足を殺される。

 目を逸らしてはいけない。この人に斬られてしまう。

 何よりも、ただ何よりも。こんな所で会えるなんて考えてすらいなかった。

 身体強化を、知覚を極限まで強化すればこの世界には来られた。実際の切札。最後の奥の手。シグナムさんの拳を見切った時。フェイトさんの一刀をかい潜った時。

 それさえできれば一刀を当てることが出来ると、二の太刀(・・・・)は要らないとずっと考えてきた。



 だが、実際はどうだ?



 いるじゃないか、俺と同じ。否、それ以上の人が!

 知覚強化を施しても、世界はゆるく動く、人の体も同じだ。所詮はゆっくり見えているだけだ。その知覚に動作は追いつかない。なのに、目の前の人はそれすらも超越して、俺の上を征く。
 恐らく、この先にこの人は居るんだろう。同じ場所に……いや、俺よか更に高みにこの人は居て、この白と黒の世界でも普通に動けているのだろう。
 こちらの反撃を許さないほどの連続攻撃。まともに受ければ衝撃を通すその技量。十文字の斬撃を放たれた時に気づいた。左右の刃が寸毫のズレもなく重なるように放つその一撃。受ければ死ぬと察知した。事実その攻撃のみ、大きく躱したにも関わらず、背後の壁に罅が入った。
 その躱した隙を逃すなんて甘いことは許さず、刀を鞘へと収め、コチラに突進してくる。迎撃しようと、切先を向け、右の刀で突く。

 が、それ以上の速度を持って、抜刀からの二刃の斬り抜け、更にコチラの知覚よりも早く背後を取られ更に二刃。文字通り寸分違わず同時に放たれたと錯覚するほどの4連の煌めき。

 ため息が出るほど、感服した……が。

 一端互いに距離を取る。目立った外傷はないものの、既に息は上がってるし、知覚強化を長いことしていたせいで、集中が切れそうになってる。実際にはまだ数分しか経っていないだろうが、強化中は何倍も時間が引き伸ばされているようにも感じる。

 対して向こうはそれほど消耗していない。それどころか、まだ上がある。抜いてた小太刀を鞘へと収め再び構えた。

「驚いた。背後で受けるとは」

「……ギリギリで、だ」

 花霞ではなく、腰に収めてたもう一本で受け止めたが、二撃受けただけで完全に砕け散った。それどころか。デバイスとしても破壊されている。もうこの一本は使えない。少なくともこの場では。

 しかし驚いた。俺()同じように斬撃を通す(・・)人がいるとは。

 歓喜で体が震える。心が躍る。優夜や煌と戦ってる時の様にビリビリと頭が痺れる! 

 で、あれば。

「貴方になら。見せても問題なさそうだ」

「?」

 両腰の刀に手を伸ばし、逆手でわずかに抜く。

 深く息を吐き、その機能を封印する。呼吸をすれば僅かな隙として、この人は突いてくる。自分と同等、否それ以上の境地に居るこの人相手にその隙は致命的すぎる。
 感覚を研ぎ澄ませる。狙うは二刀の一閃。幾千と重ねた一刀を。ただ斬り伏せるのみ。

 腰を落とし、再び知覚を極限まで引き上げる。何度目になるか分からないが、世界が白と黒に染まる。

 あちらも腰を落として、刀を構えてる。

 勝てるかどうかなぞ、既にどうでもいい。今はただ。

 この人に俺の極みをただ、ぶつけるのみ。

「いざ、推して参る!」

 互いに、踏み込んだ。

 が。

「恭ちゃんストーップ!」「響待って!!」

 聞き慣れた声と共に、誰かに後ろから抱きとめられる。あちら側も急に呼び止められたせいで、躓きそうになっている。視線を上に向けると。屋根の上にはメガネに三つ編みの人と見知った白いオーバーコートの……。

「美由希!」「あ、美由希さん……とフェイトさん? あれ、もう制圧……」

 ……ん?

「「え?」」

 向こうのお兄さんと目が合い、互いに疑問の声が。向こうからはなんでお前名前知ってるんだ? と殺意を。コチラからは、知り合いでしたかって感じの視線を送って。

「……やっぱり。先に出たはずの恭ちゃんがいないと思ったら……。ごめんね響。この人私となのはのお兄ちゃん。で、恭ちゃんには、この人はなのはの同僚で、フェイトちゃんの部下に当たる人」

「「え゛?」」

 ギギギとぎこちない動きで、再び向こうを……なのはさんのお兄さんを見る。そして。

「「申し訳ない(です)」」

 全力で頭を下げて謝罪。そして、さっきまで後ろにくっついてたのが気がつけばなくなっていたので、振り返って確認すると……。

「間に合って良かったです」

 肩で息するメイドさんが1人。だけどこの声は……。

「……流?」

「良かった。もしかすると戦闘してるかもしれないと聞いて美由希さんと、フェイトさん共に慌てて来ました。
 追い抜かれてしまいましたが」

 若干疲れたような顔で、安心したようにはにかむ流。だが、その格好をよく見ると。綺麗なメイド服なのに、スカートの部分が、所々破けたり、穴が開いている様にも見える。なんというか銃弾で撃たれたように。

 でも、その前に。

「……なんでそげな格好を?」

「……聞かないで下さい」

 プシューッと赤くなる流を宥めつつ。向こうの方に視線を向ける、美由希さんとお兄さんが何やら会話中。その間にデバイスを待機形態へ戻して、昔の方のデバイスを手に取る。手の平に収まる程度のカードが、今では罅割れ砕けそうになっている。
 
「響、それ……」

「仕方ないです。元々騙し騙しでしたしね。無理やり色々乗っけてましたから」

 心配そうなフェイトさんに、平気ですよと返すけど……きっと見抜かれてんだろうな。
 刀身が砕ける程度なら再生も可能だった……が、問題は柄の内部の核までダメージが行ってしまったこと。デバイス職人じゃないから何とも言えないけれど。恐らくもう厳しいだろうなって。

「……響さ……わっ」

 心配そうにコチラを見上げようとする流の頭を撫でて、見られないようにする。別に泣く訳じゃないし、この刀は……別に代替品だ、いつかしっかりと合う刀と出会うまでの。
 だけど、それでもだ。訓練校を抜けて、拾われた時に設定してからここまでずっと。一緒に居たわけで……ストレージデバイスとしても最安価なもの使ってたけど。

 それでも。
 
「ありがとう。ここまで付き合ってくれて」

 小さく、噛みしめるように呟いた。


 ――――


 あれから、士郎さんが後始末を付けるという事で屋敷に通された。なんでも退魔機関とやらに顔が利くらしくそこに今回の襲撃者を引き渡すとの事。
 更には事情聴取を行なった結果、海外に行ってた恭也さん達が掴んでたことと同様のことを吐いた、が。既にその大本は壊滅しており今回襲撃を駆けた時点でもう意味がない物だとわかり、落胆していた。
 そもそもメイド服を着た子供に負けては形無しだろうし。12人居たのに全滅してたらプライドも何もないしな。

 で、現在はと言うと。

「先程は本当に申し訳ありません」

「いや、コチラこそすまなかった」

 恭也さんに頭を下げっぱなしです。元々震離から襲われてると聞いて、駆けつけてる最中に自分たち並に動く人を見つけて牽制。普通に躱されてしまったことで更に警戒。
 この時点で運が悪かったのが、恭也さんがコチラを補足した直前にフェイトさんが認識阻害で空に上った直後だったという事。
 その上、俺も曖昧な回答をしてしまったことから、俺は恭也さんを襲撃者の関係者だと、恭也さんも俺が襲撃者の増援だと考えたらしい。
 元々俺が首突っ込まなければ起きなかった問題だし、きちんと説明出来ていれば余計な争いは起きなかった。
 その場合もっと迅速に制圧できてたはずなのに……今回の俺はただ場を乱しただけだった。ほんと只の野次馬だった

「それにしても驚いた。ここまで……神速について来れる人がいるとは、どうだ? 改めて手合わせでも?」

「いえいえそんな……自分では結局届かなかったので。それに明日から仕事ですので今日中に帰らないと不味いです」

 ニヤリと笑う恭也さんの誘いを、正直受けたいなーとは思ったし、もしかすると色々教われるかも知れない絶好の機会だが、有給申請は今日までしか出してないし、流石に伸ばすわけには行かない。

「そうか……残念だ」

 本当に残念そうにため息を吐いてらっしゃる。本当に申し訳ない。

 しかし、偶に聞こえる退魔機関がどうとか言ってたけどやっぱり何か事情持ってんだろうなぁって。深く考えることじゃないかもしれないし置いておこう。知らぬが仏って言うし……あ、そうだ。

 辺りを見渡して、なのはさんとフェイトさんを探して……見つけた。脇においておいたショルダーバックを持って側まで移動。

「すいません、なのはさん。俺はそろそろ行きますね。フェイトさんはどうします?」

「うん、私も帰るよ」

「え、もう?」

 となのはさんと一緒に壁に掛けられている時計を見る。時刻は21時を回った所だ。

「流石に明日に響きますし、明日早めに行って相談したいことも出来ましたし」

 ショルダーバックを見せて、お互いに苦笑する。

「……何か見つかった?」

「色々と」

 少し目を上げる。今回は色々良い収穫があった、それが何よりもデカイことだし。色々衝撃的な事もあったけど。何よりも。

「次のステージを直に感じられてよかった。心の底からそう思います」

「うん!」


――sideなのは――


「次のステージを直に感じられてよかった。心の底からそう思います」

「うん!」

 力強く、そしてハッキリとそう告げた響の顔は笑っていた。お兄ちゃんと戦ったと聞いた時、正直頭を抱えそうになったけど、これはこれで良い経験になるんじゃないかと考えた。
 本来の意味で響の実力が見れるんじゃないかと。

 そして、その結果、あのお兄ちゃんが楽しそうに、嬉しそうに。

 ―――いい剣士だ。

 と、短く言ってくれた。お姉ちゃんも言われたことはあるみたいだけど、お兄ちゃんがそういうってことは響は認められたってこと。
 きっと響はそれを知らない。まだ、流派も分かってないだろう。だけどこの出会いは良いものになったと確信出来る。
 FWの中で、明確な目標を見つけられず何処をどう鍛えればいいのか分からなかった。この出会いがもたらした影響はきっとプラスに繋がるものだから。

「……こっからあのコテージまで1時間……はかからないでしょうけど、転移ポートからミッドまで移動してなんやかんやで日を跨ぎそうですしねー」

 生き生きとしてた表情が一変。今度は死んだ魚の目をしてしまった。

 フフフ、だけどね響?
 フェイトちゃんもその意味に気づいてニコリと笑う。

「ところがね。海鳴にはいくつかポートがあるんだけど。なんとその1つはここ月村家に設置されてます!」

 ぽかんとしたと思ったら、そのままガッツポーズを取って。

「終電間に合うやったぜ」

「あ、あはは」

 ―――

 その後は、月村家にセットされた転移ポートまで案内した後、皆で……いや、一部居ないんだけど、居るだけでフェイトちゃんと響を見送る。リビングでいいって言ってたけど、お兄ちゃんは迷惑を掛けたからってここまで来てくれたし、お姉ちゃんも次来たら私とも戦おうねって言ってた。

 なんというか、ちょっと羨ましい。私は剣を握れなかったから……お兄ちゃん達と同じものを見る事は叶わなかったから。

 そして、深く頭を下げながら、2人の姿が消えてった……。

 ふと、ショルダーバッグを見せたときフェイトちゃんが不思議そうに首を傾げてた事から、中身を知らないのかな? 
 本当は色々話をしたかった。ちょっとだけ聞いた事だと、ちょっとだけ嫉妬しちゃったって、あのフェイトちゃんが言った事に素直に驚いたなって。
 私的には応援してるけど、今回の件で結構距離も縮まったんじゃないかな-って。

 
 ここで終われば良かったんだけど……実を言うと、響を見送った人の中に、この家の家主が居ない。それどころか流も震離も居ない。お父さんと忍さんは残党が居ないか、まだ周囲を回ってるし……。

 お兄ちゃんたちとリビングまで戻ってくると既にお父さんと忍さんが戻ってきていた。普通にお茶を飲んでる事から察するに。

「おかえり、その様子だと周りは大丈夫みたいだね」

「あぁ、無事機関の人に引き渡しも済んだ。これで今日の事件も解決するはずだ」

 と、ホッと一息。すると忍さんがキョロキョロと周囲を見渡して。

「そう言えば恭也に襲われてたあの黒髪の子は?」

「ちょうどついさっき帰りました。終電の時間もありましたし、先に失礼しますって」

「そう。私も話を聞いてみたかったんだけどなー……って、他の皆は?」

 そう言えばとお父さんも辺りを見渡してる。私達兄妹は何とも言えない表情になってる。何でかって言うと……。

「……今、流で遊んでるって言ったら通じる?」

 お姉ちゃんが気まずそうにそう一言だけ伝えると、お父さんが無言で目を覆った。忍さんは不思議そうに首を傾げてる。視線を横にずらすと、お兄ちゃんも目を覆ってる。

 何がいいたいかって言うと。

「……忍さんも見たと思うけど、あのメイド服着て迎撃にあたってた子。一応男の子なんだけど。皆面白がって色々着せられてるの」

 忍さんの目が光った。そう思った時には既にドアが勢い良く開かれて、どこかへ行ってしまった。

「……お兄ちゃん。止められる?」

「面白がってる忍を止められると思うなよ」

 その一言で、高町家一同、目を覆ってしまった。

 それから少し……ううん、小一時間程度たった位に皆戻ってきた。皆がすごい笑顔な中で、流だけが死んだ目で、何処か遠くを見てたのは気のせいだと思いたい……。一瞬目が合っちゃったけど、けど!
 と、とにかく、話題を変えよう。
 
「なのはちゃん達はいつまでここに居れるの?」

「明日まで。だけど、すずかちゃん達が居るならここのポートが使えるし、明日もここを使いたいなって」

「うん!」

 お兄ちゃんとお姉ちゃんが流を労ってるけど、完全に放心状態なんだけど……一体何されたんだろう? あと、アリサちゃんと震離が良く話をしてるのも気になる。

 だけど、アリサちゃんもすずかちゃんも、本当に無事でよかった。2人が居なかったら、お店で死んでたってことになる。今考えてもゾッとしてしまう。
 フェイトちゃんが響を連れて戻ってきた時は本当に驚いた。お兄ちゃんと戦ったことも驚いたけど、それ以上に流と震離の対応に驚いた。
 皆が2人に、特に流に御礼を言ってたけど、当の本人は。

 ―――護ると決めた時点で、その人の無事なんて当たり前です。問題は何発か防ぎきれずにお屋敷を傷つけてしまって申し訳ないです。

 と申し訳なさそうに頭を下げていた。それこそ話を聞いたお兄ちゃんたちが驚いてた。迷いなく護ることが当たり前だと告げたこと。それは絶対に護ると言い切ったことと同位だから。

 だけど、なのはさんとしては、流がどうやって銃を持ってることに気づいたとか、そういう相手を何で制圧出来たのとか、色々気になることはあるけど。

 流と震離が動いてくれたお陰で、私は親友を2人助けられたんだって。それがとても嬉しいんだ。

 ……でも、流からしたら助けた相手に色々されたみたいで、もうなんか消えそうなくらい存在が薄く見える。今は普通に男物着てるけど、あれ響があげてたやつを、ノエルさんか、ファリンさんがサイズを合わせてくれたと思う。響もこれ破って使っていいからって同情してたし……。

 置いてきたヴィヴィオが心配になって、お母さんに連絡を入れたら、雫ちゃんと遊び疲れて寝ちゃったみたい。だから安心してゆっくりしてきなさいと言われちゃった。

 さぁ、夜はまだまだ続くよ……なんてね。

 だって、見ないように見ないようにって思ってたけど、忍さんがこっそりお酒を持ってきてたことは、見逃せないなぁって……。


 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。 
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