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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第46話 贈り物と、デートを完遂したかった!



――side響――

 戸締まり済んだー、布団も片付けたし、今日の日付を書いた書き置きも完成させて、玄関の戸棚の上に置いた。
 謝罪もしっかり書いたし、皆元気ですよという事も書き記してる。きっと有栖夫妻が気づいてくれるだろう。
 
 さて。

「花霞。すまないが、この家全体にスキャンを掛けてくれないか? 何か変わったものがないか」

『了承しました。完了まで少々お待ち下さい』

 チリンと花霞から音が一つ響く。その間に母さんの仏壇の前で線香を灯して合掌と黙祷を。

 そして。

『……主、屋敷全体のスキャンが終了しました。一つだけ、解析不能の物を見つけました』 

「そうか。持って帰れそうな大きさ?」

『えぇ、それは心配なく。大体40センチ程度の大きさです』

 静かに目を開けながら、仏壇の前に飾られている母さんの写真を見る。

「母さん。ごめんなさい勝手に触ります」

 ふわりと線香の煙が動いた様に見えた。一礼してから、ゆっくりと立ち上がって。

「じゃあまぁ悪いけど花霞、場所教えてくれ」

『えぇ、この部屋にあります』

 くるりと部屋を見渡すけれどそれらしき物は見当たらない。母さんの今は使われていないベットに、小さな机と本棚。後は……。

『……主、この中にありますよ』

「……マジかー」

 ゆっくりとそれに近づく。壁際に掛けられている今はもう動いていない……いや、母さんが逝ってから止まったままの、ちょっと古ぼけた柱時計。母さんが大事にしていたねじ巻き式の、少し珍しいタイプ。
 ずっとネジを巻いていないから、振り子もずっと止まったまんまだ。とりあえず、壁から降ろそうと時計を軽く持ち上げる。机の上にそれを置いて、時計の前面部のカバーを外すと。

「……ゲ」

『なんと』

 カパッと前面部がまるごと外れた。そして、本来なら中に入ってる筈であろう、時計の部品は入っておらず、代わりに花霞の言う40センチ程度の白い箱と封筒が1つ入っていた。ただ一言響宛と。俺にと。
 何はともあれ、とりあえず俺宛にと書いてある封筒を開けると、中には2枚の手紙が入っていた。そして、それを開いて文を読む。

 ―――

 響へ。

 あなたがこれを見ているかどうかはわかりません。が、恐らく早い段階で見つけたか、もしかするとお爺ちゃんになるまで見ないかも知れませんね。ですが、もし見つけたのならば、貴方に関することをここに残します。
 
 まず始めに私は貴方が生まれたことを何よりも喜び、私にそっくりな見た目で、お父さんに似たのは目つきぐらいなものでした。日本と外国の子なのに貴方は全くお父さんに似ませんでした。
 これにはお父さんも草葉の陰で苦笑いを浮かべてると考えますが、徐々に背が伸びて大人びてくると、何処と無くお父さんの面影を感じるようになり、あぁ、この子はしっかりお父さんを受け継いでるんだと感じました。
 出来ることなら会わせてあげたかった。だけどそれは叶わなかった。
 もっと色々書きたい事があります。ですが、それでは何枚あっても足りないので……割愛します。いいですか、省略ではなく、割愛ですよ。惜しんで短くするんですよ?

 さて、まず貴方のお父さんですが……今はまだ伏せます。え、教えてもらえると思った? ねぇねぇ?
 冗談です。実際は手紙で書いても意味が無いというか、それだけでは納得しないので、次に会った時にでぇたぁとして渡します。
 というよりも実際に渡した後ですしね。

 きっと混乱してるでしょうが、これは確定事項です。
 そして、わたしがあった貴方はこの手紙を知らずに居た貴方です。たいむぱだどっくす?とかいうので、わたしもよく分かっていません。
 何か時間超える度に可能性がずれるとかなんとか説明を受けたのですが、要するにあれです。やってみなきゃわかんないぞということだと、私は解釈しました。それはおかしい? 震離ちゃんにでも聞いてみなさい。きっと回答くれるから。

 さて、横文字の苦手な私ですが。これを見つけたということは……きっと何かに悩んでると思います。もしくはそんなの関係ないかもしれませんがね!
 横文字と言っても、何処いっても数式とかは変わらないのでそのへんは助かりましたね。貴方が烈火の将に負けて魔力核を抜かれた時、異変が起きました。どういう訳か、生まれつきなのかな? 魔力核の貯蔵量は凄まじいのに、貴方の核は魔力を貯めることを苦手としていました。
 何日も休んでも貴方の核は一定の量を確保したら満足するのか、それ以上貯めることをしません。外部から魔力を注いでも同じことです。なんて核なんでしょうね、腹ただしいわ、全く。
 貴方の本来持てる魔力量は少なくとも……比較対象が居ないので何とも言えませんが、優夜君や煌君に及ばずとも劣らない程度には有るはずでした。

 そこで私は考えた。この世界に帰ってきた時に託されたものを使えば出来るんじゃね? 私ならいけるんじゃね? そう考えてとあるものを作成……と言うより、開発を進めました。
 そして、ある程度進んだのですが……私はここで過ちに気づきます。

 私ってば起動の仕方しらないわって。いやいや、情けないお話ですが、私は開発者ではないので、ある程度進められただけでも評価してちょうだいね? 
 さて、それには私の魔力を注ぎました。それには貴方に教えたように私の技を入れました。とっても苦労しました。
 それには私達の想いを込めています。もう一つ。私が使っていた武装も別に入れています。使用するかどうかはアナタ次第です。
 
 最後に、もし貴方が遠い頃私に教わったあの言葉を守っているのなら、吹っ切れたというのなら。

 それは間違いかなと私は考えます。私が知る最高位に位置する人達は常に悩んでいました。人は斬ってはなりません。それは古今東西変わることはありません。
 ですが、貴方がこれだと決めた道があるのなら、迷わず使いなさい。私を超えるかも知れない貴方なら、魔力が少ないことに誰よりも理解をし、それでも上を目指す貴方なら。きっと出来る。

 星を砕きなさい。天を割りなさい。地を薙ぎなさい。波を絶ちなさい。

 でも、命は生かしなさい。

 綺麗で生きなくていい、全てを救うなんて思い上がらなくていい。貴方には、貴方の元へ集い、その身を刻んででも共に往こうとする大切な人達が居るはず。
 持ちつ持たれつ、泥にまみれても尚前へ進めますように。

 貴方の道が幸せでありますように。
 かつて姉と慕った人も、妹のように可愛がった人も、世界を歩むことが好きな人にも、主の為に全力を掛けた人と別れた経験があります。ですが、彼らの流れも生きていることを確認しました。

 さぁ、長くなりました。さて、それではここで締めますね。

 母より
 
 ―――

 所々字が滲んで見えにくかった。所々カタカナというか、横文字が苦手だという母さんの文字が面白かった。
 要領得ない説明ばかりだし、別にそこまで手先も器用じゃないっていうのもわかってる。だけど、だけど。

 涙が溢れて止まらない。

 一頻り泣いた。久しぶりに、手紙を胸に。ずっと。

 そして。

「よし、たくさん泣いた! 花霞この手紙スキャンしたね!」

『勿論!』

「よっしゃ!」

 と再び封筒に入れて、時計の中へ入れる。またここまで帰ってくるっていう意味を兼ねてだ。

 さて母さんからの贈り物だというこの白い箱……よく見りゃなんて言うか……棺のようにも見える。ちょっと持ち上げて、上下にちょっとだけ振るけど音はしない。かと言って詰まってるような感じはしないし、思ってるより軽い。

 とりあえず開けよう、そう思って箱……いや、棺を開けるように観音開きになっているのを開くと……。

「……は?」『えっ?』

 パタンと閉じまして。

「……これって誰に相談したらいいかな?」

『……恐らく八神部隊長に相談するのがベストかと』

「……だーよねー」

 ふと、仏壇が目に入って、視線を向けて……1つ思ったことを。

 母様へ。なんてものを残しやがったんですか?

 そのまま帰る用意をしていると不意に。
 
「……なぁ花霞。何か聞いてる? 俺何も聞いてないんだけど?」

『いえ。こちらも何も。その割に何も連絡を入れてこないのは不思議かと……連絡します?』

「いいよ。だってまっすぐコチラに向かってるし。多分住所聞いたんだろ。
 やべぇな……昨日持ち込んだ麦茶しかねぇ。冷蔵庫も何も入ってないし、お茶も無いからなぁ……や、あっても出せないけど」 

 戸棚にありそうだけど間違いなく傷んでるし。冷蔵庫も何の音もしてないから何も入ってないし。
 
『あ、連絡が……や、これは。主、出来ることなら迎えに来てほしいと内密に連絡が有りました』 
「迷ったの!? まぁいいか……さ、行くか」

 カラカラと昔爺さんが履いてた下駄をつけて、玄関を出て林の外に出れば。
 
「なーにしてんすか? こんな所観光しても何もないですよ?」

「や、あ、あはは……き、奇遇だね。ひ、響?」 

 困った様子のフェイトさん……もとい先輩がそこに居た。
 
「で、どうしたんですか? とりあえず……暑いんで、家に来ます?」

「へ、あ……宜しくお願いします」 

 ……顔が赤いのは、ちょっとこの辺りをさまよって熱にやられてるからだと思いたい。
 
 ――――

 お家につれてきて、客間……は無いから、あんまり何もない居間に通してとりあえず話を聞いて……すごくびっくり。
 どうも管理局が、俺らの故郷にも転移ポートを立てようかと検討しているらしい。
 
 ……元々数年前に申請自体は出してたが、まさか今になってとは……だけどまぁ。フェイトさんが来たのは多分はやてさんの差し金だろう。許可出したのはあの人だし。
 他にも色々話を聞けば、コテージチックなものも必要とあれば建てるとの事。ということは土地提供すればいいのかな?
 
 そしてフェイトさんの依頼内容は、ここに立てていいのかと言う確認と、いい感じの場所が無いかの確認、戻った時にそれをレポートで提出すればいいというわけだけど……。
 
「……情報提供しましょっか?」

「お願いします」

 さ、とりあえず情報提示と……その前に。
  
「ちょっとこの辺りの地図探してきますんで、適当にしててくださいねー」

「うん。ごめんね響?」

「いえいえ。少々お待ちをー……地図とか何処やったっけなぁ」

 多分母さんの部屋に……アレ? 居間ってなんか置いてたような……イヤ問題ない……な?
 
 
――sideフェイト――
 
 ……響をこっそり追いかけてきたはずが、向こうから出迎えられるとは思わなかった。
 せっかく皆から響と楽しんでねって言われて、私の方から向かって驚かすはずだったのになぁ……。
 勿論ちゃんとお仕事もする予定だったけど。響達の出身ということもあって、殆ど通るらしいけど、一応下見しましたっていう口実が欲しかっただけらしいし。
 
 ……ただ場所が見当たらないからって探して、ちゃんとお仕事してるよってアピールするはずだったのになぁ……。

 ふと、このお家の居間を見渡すと、棚に記録と書かれた一冊の本が。
 なんだろうと思って取って見れば。
 
「……わぁ」

 元気一杯と言った男の子と、長い金髪で目元が隠れた女の子の写真が。
 片方は響だろうと思う。目元や長い黒髪で分かる……けど、この隣の子は?
 
「それ。誰だと思います?」

「あ、ごめんね勝手に見て」

「いえいえ。それだけはここに置いておこうと思ったアルバムなので」  

 そんな会話をしながらもこの写真の人を考えるが……いや、チョット待って。長い髪だったっていう子が確か……。

「これ。震離?」

「ご名答。これは小さい頃の震離だな。5歳頃かな。じゃ次の写真ですね」

 そう言って次のページへ、次の写真は響と髪の長い震離、そして髪が白っぽいちょっとイタズラしそうな悪い笑みの子と、おとなしそうな赤い髪の格好の子が取っ組み合いの喧嘩をしている。これは簡単かな。
 
「これは優夜と煌だね」

「えぇ。昔は仲悪かったんですよー」

 くつくつと笑ってるけれど……以前響が言ってたからね。私が人造魔導師だと伝えたあの日、響は自分たちの事を言ってたもんね。
 そこからは……いや、何処まで行っても小さい頃の響や震離、優夜、煌の4人がメインの写真ばかりだ。だけど皆何処かぼやけたりしてるのは?
 
「皆と出会った分の写真はミッドのお家に置いてます。此処にあるのは、下手くそなりに撮った母さんの写真だけなんです。
 あ、あった。これがうちの母です」
 
 そう言ってみせる写真。小さい響を抱えて幸せそうに微笑む黒髪の女性とお爺さんが笑っている。
 目元以外は本当に響そっくりだ。すぐに親子だなって納得できる。
 
「さて、アルバムに目を通しながらで。確か空いてる土地……爺さんが残してくれた土地があったのでそこの場所を――」

 土地のことよりも、何処に設置するかなんて事よりも……皆の事を話す響の表情が本当に楽しそうで嬉しそうで……見ていて本当に良かったなって。
 

――side震離――

 なんか、なのはさんと士郎さんが向こうでお話されて、こっちは流をなんとか桃子さんと、美由希さんと仲良くさせるべく色々してたんだけど……。やっぱり上手くいかないもんだ。
 私の場合は、時間が解決……と言うより仕事だから表面上は付き合ってくれてたお陰で、少しずつ距離を積めることが出来たわけだし。この場合、流からすれば苦手な人の所へ飛び込んだ事になるわけで。

 すると、ここで仲良くなるための切っ掛けが。

「いい時間ですし、そろそろ私は昼食の用意を始めるわ」

 と、桃子さんが席を立って厨房の方へ向かった。ふと、流の方を見るとそわそわとし始めているのが見えた。美由希さんも気づいたみたいで、不思議そうに見た後、私の方に顔を向けて小さく首を傾げてる。

「「どうしたの?」」

「あ、いえ……その」

 なんというか煮え切らない回答。ふむ、少し考える。流がそわそわした時に何があったのか。そして……。

「あ、もしかして料理に興味あるの?」

「え、あ……はい」

 嬉しそうに美由希さんが質問すると、少し顔を赤くして応えてる。直ぐに席を立って。

「はい、いっておいでよ流」

「うんうん、きっとお母さんも喜ぶよー」

 と、優しく背中を押し出して。

「……すみません。お邪魔してきます」

 ぎこちなく笑う流を見送る。いやーそれにしても、本当に。

「よく表情出すようになったねぇ」

「そうですねぇ」

 少し冷めてしまったコーヒーを飲みながら、美由希さんとホッとする。遠くの方で、「いいわよー!」って聞こえたけど、それは無視して。

「二人共? ご飯ができるまでここで話さないか?」

「「はーい」」

 カウンター席の士郎さんの声を聞いて、コーヒーカップ片手に移動する。私はヴィヴィちゃんの隣、美由希さんはなのはさんの隣にそれぞれ座る。士郎さんがコーヒーのおかわりを入れてくれたので、頭を下げてと。

「それにしても驚いた。震離とお姉ちゃんが仲良くしてるなんて知らなかったよー」

「だってなのはに近状はどうですかってメール送っても中々返事返してくれないじゃない。震離くらいよ。交換して次の日には宜しくってメールくれたのは」

「わ、私も忙しいし、多少は、ね」

 ぎこちなく目をそらしてる。ちょっと珍しいなーって思う。だって普段のなのはさんって一応上官で、上司なわけで。何時もしっかりされてる感じだしねー。私は分からないけど、姉妹ってこんな感じなんだろうねって。

「そう言えば、震離と流はどっちが強いの?」

「え、あーどうでしょうね」

 突然な美由希さんのフリにコーヒー吹きそうになっちゃったよ。
 勝負かー……実際の所は……あー、ダメだ私じゃこれは回答出せないなー。
 そう思って、なのはさんの方を見ると。私の意図に気づいてくれたみたいで、困ったように笑った後。こほんと咳払いを一つして。

「流と震離だと、私からみたら震離のほうが今はまだ有利じゃないかなって」

「お、高町教導官の解説だー」

「もうお姉ちゃん茶化さないで。で、震離の強みは素早い機動に、弾幕生成。いざとなれば突撃も出来る。だけど、本質は様々な射撃砲撃を組み合わせた攻撃が得意。
 いろんな所から違うもので攻撃できるって凄いよね」

 うわ、完全にばれてーら。ツーっと冷や汗が出てくるよ……。

「対して流の強みは、相手の苦手な分野を突くことが出来るし、あの固い防御に砲撃術といろいろ有るんだけど……」

 ちらりとコチラをみてニマーッと笑った後。

「ここで震離のもう一つの強みが活きる、流がどう動くのか見えるから、後出しで動けちゃう……でしょ、震離?」

 士郎さんと美由希さん、ヴィヴィちゃんが首をかしげる中、私は……。

「へ、あ、いや、そんな流石に、そんな」

 やっべ、ロレンチーニの存在がばれてーら……流石にもう誤魔化せないと悟って。

「いつから気づいてました?」

「私達と模擬戦をする時、震離の目がスパークしてることに気づいてね。そこからどんな系統か調べて、実際にフェイトちゃんにお願いしてもらったら効果が分かったの」

「うぅ……ごめんなさい。隠してるつもりはなくて、その」

「うん、下手したら失明する可能性があるからね。あまり使っては欲しくないけど……要所要所で使ってるみたいだから深くは言いません」

 困ったように笑うなのはさんを見て、頭が上がらない。実際あの術って、結構ギリギリなんだよね。下手したら暴発からのダメージになるわけで。間違いなく使ってもいいけど無茶すんなって言ってるわけで……。

「……以後気をつけます」

「宜しい」

 うぅ、これは手痛いなぁって。

「ねぇなのは? よくわからないけど。要するに震離には何かが見えて、動きを読めるの?」

 不思議そうに首を傾げたままの士郎さんと美由希さんをほっといてこっちだけで話してしまった。なのはさんもそれに気づいて、少し慌てたように。

「えっと、その状態の震離には人の体を走る電気信号が見えるの。だからその信号が強くなるってことは次にそこを動かすということ。だから行動の先読みが可能となる。いかに動きを誤魔化して、フェイント掛けてもそれを見越した上で予想が出来る。
 この方法はすごい反面、目に負担がかかるし、何より調整を間違えたら最悪失明の恐れもある」

 最初の方は関心してた2人だけど、後半を聞いてからはジトッとコチラを睨む。

「い、一応そのために毎朝魔力コントロールの度合い見てから使用してますよ。調子悪い日は絶対にしませんし」

「はい。そうしてね」

 と伝えてもなのはさんは相変わらず困ったように笑い、お二人は完全に信用してない……辛い。
 なにか、何か無いかなーって考えてると。

「皆ーお昼出来たわよー。今日のお昼はナポリタンよー」

 よっしゃあ、救われた! お店の奥から、桃子さんと流がそれぞれナポリタンを運んできてくれた。それに合わせて私達もボックス席に移動して。ナポリタンを頂く。

 ある程度食べ進めた所で。

「流君の手際が良くて助かったわー」

「いえ、コチラこそパスタを使った料理はあまり作ったことがなかったので。教えて下さってありがとうございます」

 わお、今日一番の笑顔だ。なのはさんもヴィヴィちゃんの口元を拭きながらちょっと驚いてる。

「そう言えば、皆今日どうするの?」

 美由希さんの一言で、今更ながらなんの計画も立ててなかったことに気づいて流と顔を見合わせる。すると、先になのはさんが。

「ヴィヴィオと私はまだここに居るかな。お兄ちゃんと忍さんも戻ってくるなら話したいし。ね?」

「うん!」

 既になのはさんとヴィヴィちゃんは予定は決まってるみたいだし、どうしようかなと考えてたら、小さく私の服の裾を流が引っ張ってる。なんだろうと思ってもう一度顔を見て。念話を飛ばす。

(どうしたの?)

(突然すいません。あの、出来たら……その、一緒に買い物でもと思いまして……どうでしょうか?)

(行くに決まってるじゃない、それでいこう)

 いつだったか響が言ってたなー。最近の流の女子力というか、後輩力の上がり方がすごいって。やー、ホント私いい子と付き合ってるんだなぁって。

「私と流は少し買い物というか、皆へのお土産を先に買おうと考えてます」

「そうか、地図は平気かい?」

「大丈夫でーす。美由希さんから色々教わってるので」

 私の言葉に合わせて流も頷いてる。色々美由希さんや、エイミィさん達と、文通してたら色々教えてもらったんだよねー。それに……。 

「エイミィさんにも挨拶しておきたいので、と言ってもあちら側に暇があればの話ですけど」

 あはは、と苦笑い。だってまだアポも何も取ってないからね! 昨日は響達がお世話になった後だし、忙しいっていうんなら潔く諦めるし。

 そういえば、響ってまだ帰ってないはずなんだよね……今頃何してるのか分からないけどさ、積もった話をしてるんだろうかね? 琴さんに今までこと話して、これからのことでも話してるのか、それとも自殺しかけたって謝るのか……まぁ、合流できたら良いんだけどねぇ。
 ふと、士郎さんがコチラを見てるのを気づいて。

「あの、どうしました?」

「……失礼を承知で聞くんだが……叶望って、父親は震樹(しんき)さん……だったりするかい?」

 突然のうちのお父さんの名前が出てちょっとむせる。慌てて水を飲んで、慌てる流の頭を撫でながら。

「そうですけど……なんでまた?」

「いや、あの人も昔の仕事仲間でね。叶望という名前でもしかしたらと考えてたんだが。そうか……」

 なんか凄く嬉しそうだけど、なんだろう?

「彼とこの前あったんだが、娘が楽しそうに生きてるのが嬉しいって言ってたのを聞いてね」

「……そう、ですか……。あの、元気そうでした?」

「あぁ、今はドイツの方へ行ったみたいだけどね」

 それを聞いて安心した。という事はだ、未だにお仕事……警護のお仕事を続けているということ。それなら、元気でやっているんだなと分かるから。

 あ、という事は。

「あーじゃあ、響はお父さんに会えなかったんだなー。間違いなくうちにも顔だそうとしただろうし」

「ん? 響は皆のお家に挨拶してるの?」 

 不思議そうに聞いてくるなのはさんを見て頷く。

「えぇ、きっと。今回は滞在期間が短いから何とも言えないですけど」

 まぁ、奏と時雨の家は距離の関係で行きづらいのと、紗雪の実家には今はまだ門前払いだろうし、そうなると今回は優夜の家だけかな。会えるのは。
 紗雪の家……というか、ちょっと問題起きてるのは伏せておこう。変に心配させても仕方ないし。
 でも、せっかくの旅行だしそういうのは考えないで。

「さて、ご飯も食べ終わりましたし。行こうか?」

「えぇ、行きましょう。でも」

 私が差し伸ばした手を取りつつ、流がちらりと食べ終わった食器を見る。すると直ぐに。

「私が片付けるから良いわよー。なのはも皆もお客さんだしね。気をつけていってらっしゃい」

 と、流が食器に触れる前に止められる。申し訳なさそうに小さく頭を下げたのを確認してから。

「よーし、じゃ、いってきまーす」

「え、わっ?!」

 立ち上がった勢いのまま流を抱き寄せて、お姫様抱っこして、お店を出ていく。後方で皆さんの「いってらっしゃい」の声を聞きながら海鳴の街へと繰り出す。

 ―――

「いやー、それにしても色んなのが有るね」

「そうですねー」

 キラッキラと良い笑顔で流が家電製品を物色してる。今私達が居るのは海鳴の大型電化製品店。そこで料理に使えそうなものを見たいと流が言うものだから場所を調べて連れてきた。
 すごく楽しみだったらしく、翠屋から連れ出した時、お姫様抱っこだったにも関わらず、料理家電を見たいと言ってからすごい嬉しそうにしていた。どれくらいかというと、暫くお姫様抱っこされてることを忘れる程度に。
 ミッド出身というか、魔導世界出身の流がこんなに興味持つのは、単に地球の家電も向こうで使えるからだ。一応変圧器とか、変換プラグを使えば全然使える。下手すりゃ、一部のミッド産よりも性能が良かったりもする。

 そういう意味もあるのか、凄く楽しそうに、炊飯器や、オーブンレンジを眺めてる。まぁ、楽しそうだからまぁいっかって見守ってる。

 ちょっと離れた場所に商店街があるにも関わらず、ここに立ってるこの大型電化製品店はきっと目の敵にされてるんだろうなぁと考える。8階建ての大型店。そのうちの2階に私達は今来てる。

 そして、不意に。炊飯器を持ってた手を音もなく元あった場所へ戻した。なんだろうと思って流の顔を見ると、少し離れた場所を睨んでいるように見える。その視線を追うと、全身を黒いスーツにフェルトハットに、目元が見えないほど黒いサングラスを掛けた男性が2人下階へ降りていった。
 その2人が行って見えなくなってから。流の側へと近寄って。

「なんかあった?」

 腰を折って、周りに悟られないように耳元で囁く。すると、少し眉間にシワを寄せながら。

「……この世界。日本では銃は禁止されてるはず……ですよね?」

「……勿論……って、まさか」

 思わず顔をあげそうになったけど、直ぐに流に抱きつかれて。

「お姉ちゃん。次は携帯見に行こう?」

 ギリギリの所で止められる。流の表情こそ笑顔だけど、その目は少し焦ってるようにも見える。その視線の先には店員のような格好の人が1人いる。だけど、動きをよく見てみるとあまりにも無駄がなさすぎる。

「……下に行ったのが2人、この階に1人。万が一にも狙われているのは私達ってことは無いでしょう。恐らく人質にするために誰かを狙ってるかと」

 抱きついたまま、耳元で囁かれる。

「うん。じゃあ見に行こうか?」

 手を繋いで2人で移動を開始する。そして、1階へ到着し、直ぐにさっきの2人を探す為に行動を始めた直後。

「……あれ、あんた達ってなのはの所の」

「「へ?」」

 突然背後から声を掛けられて、振り向く。するとそこに居たのは……。

「いつかの出張任務以来じゃない。久しぶり」

「今日は2人で来てるの?」

 元気そうなお姉さんのアリサさんに、大人しそうなお嬢様なすずかさんがスマホ片手にそこに居た。突然の事に驚くけれど。

「え、あぁ……や、なのはさんと一緒に一泊二日でこっちに来てて」

 私が2人に説明をしたと同時に。

「ッ! 震離さん!」

 声が聞こえたと同時に近くにあったショーケースが宙を舞う。視線をずらすと流がそれをちゃぶ台返しの要領で投げつけていた。そして、その先にはさっきの2人組。同時に、高速で何かが、アリサさんとすずかさん……いや、二発ともすずかさんを目掛けて飛んできたのが見えた。

「行って下さい。早く!」

 展示品のスマホで2人の射線に割り込んで受け止めている。本来展示品にそれほど強度は無い。だけど、一瞬魔力の流れを感じて、瞬時に防御を併用したんだと気づく。
 その間に、アリサさんとすずかさんの間に割って入って、お二人の腰を掴んで持ち上げる。そのまま、全力で反転、後退を開始。

「しっかり!」

 呆然としていた2人の意識が戻る。

「何あれ!?」

 まぁ、いきなり撃たれたらそうなりますよねー。と言うか私、地球で初めて銃……ってか、銃弾を見たよ。向こうじゃ割と見てるけど、こっちじゃ珍しいどころの騒ぎじゃないのよねー。

「震離ちゃん待って、流君が!」

「呼びましたか?」

 脇道を全力疾走で走る私の少し後を流が追走してる……けど、その格好はフード付きのパーカーが所々破け、バリアジャケットの中に着るようなインナーが見えている、下はカーゴパンツだけの格好だ。インナーはともかく、ズボンにも所々穴が空いたり、破れてるようにも見える。でも。

「何人?」

「最初の2人に、2階の1人、そして、1階には5……いや、6人居たようにも見えます。9つの方向から撃たれました」

 淡々と言う姿から多分弾は当たっていないと推測する。だけど。

「追ってきてる?」

「えぇ、そして、それなりに早いですね」

「……そう」

 追ってきてる、ということはだ。このまま逃がすつもりはないという事。けど今の所は姿は見えない。だけど、殺気は嫌になるほど感じてる。

「それは本当……?」

「……嘘でしょう?」

 すずかさんとアリサさんがショックを受けている。大丈夫って言ってあげたい……けど。

 現時点の私と流の魔力はDランク程度だ。今回地球に来るということもあって、転移ポートを潜る際に私たちに魔力制限を掛けられた。理由は単純に公開陳述会が近いという理由。もし違う世界の犯罪組織と接触し、そのまま反旗を翻す可能性を考えての処置だ。よりにもよって今日からそれだ。響達はまだ期間外ということもあって、制限はなかった。
 デバイスの持ち込みも私はしてはある。だけど、荷物と一緒に置いてきた。流はインテリジェンスということもあって、六課に預けている。正直最悪。念話も近けりゃ使えるけれど、なのはさんまで届かないし。それに……。

「なのはさんを頼って翠屋に行くのは大惨事になりますし、私と流はここの地理は詳しくありません。何処か隠れる場所ってありますか?」
 
「……わ、私の家ならきっと。いやダメね。私の家じゃただ広いだけだわ」

「じゃあ、私の家なら!」

 アリサさんが自分の家を先に提示するが、恐らく守りきれないと判断して直ぐに取り下げる。代わりにすずかさんが言うけれど……。

「何か頑丈な部屋とかってはありますか?」

「うん大丈夫。護るくらいなら出来ると思うし、何よりここからなら近いよ」

「了解です!」

 すずかさんの言う通りに街の中を疾走。此処から先がお家という事を聞く。そして家の塀を確認してからは急に方向転換したり、流が足を止めて妨害したり、私は私で2人を抱えながら屋根を伝って走り回ったりして、最後に勢い良く飛んで、塀の中へ入り、2人を下ろす。その少し後に流も入ってくる。
 
「撒けた?」

「見えないようにはしました。時間稼ぎにはなるかと」

 軽く息が上がる。魔力ランクD程度しか無くても身体強化で大分稼げたから良かったよ。

「ふ、二人共ありがとう」

「助かったわ、ありがとね」

 お二人が無事でほっと一安心。というかなんでこの2人……正確にはすずかさんが狙われたんだろう?

 なんて考えてると、大きな警告音。同時に警備用のロボットや、ドローンがどこからか現れて、塀を背に隊列を組んで銃口をコチラに向けている。幸い、前面だけに集中してるから最悪横から逃げることは可能、だけど。

「……これは手痛い」

「前へ出ます!」

 と、前へ出たと同時に。

『迎撃開始!』

 機械的な音声が聞こえたとほぼ同時に、パーカーを脱いで、それに魔力を込めて盾とし、銃弾を……正確に言えば当たりそうなものだけを受け止めていく。私も2人を連れて横へ移動し、ドローンを迎撃しようとした直後に。

「お嬢様方~!!」

 どこからともなく声が聞こえたと同時に、銃弾の雨が止んで、ドローンも静止した。

「ッ、ファリン!」

 どこからか、メイド服に長い紫色の髪をした人が駆け寄ってきた。ふと、2人に視線を向けると安心した顔をしてる。という事は味方な訳だ……。

 って、そうじゃなくて。

「流、無事!?」

 慌てて流の元へ駆け寄ると。肩で息をしてる。幸い銃弾の直撃は無い。だけど……。

「平気です。でも、響さん達から貰った服が」

「……まぁ、仕方ないよ。うん」

 既にボロボロだ。パーカーは盾にしたせいでもう着れる状態ではないし、ズボンも既に穴だらけ。インナーも所々掠った後がついてる。
 でも……怪我がなくてよかったわー。

「震離、流。中へ行くわよー!」

「「はーい」」

 アリサさんの声を聞いて、慌てて追いかける。ふと、流が塀を……さらにその先を見るように苦い顔をしているのが見えた。
 恐らく今のやり取りで完全に位置はバレただろう。だけど、攻めて来ないのは恐らく思ってた以上に厄介だからだと思う。だって、こんなもんがあるって予想しないって……。

 とりあえず、凄く大きなリビングに通された。流は着替えの為に別室に通された。けど、その前に一言伝えられて、それを整理して……よし。

「申し訳ありません。すずか様とアリサ様のご友人にとんだ無礼を」

「いえいえ、たまたま気づけたので良かったですよ」

 と、すずかさんのお家のメイドさんであるファリンさんが深々と頭を下げてる。さっきからずっと頭を下げてるけど、本当にたまたまだしねー。そして、更にビックリなのが副メイド長との事。メイド長はファリンさんのお姉ちゃんが担当してるらしいけど、現在はすずかさんの姉である忍さんについていて不在とのこと。
 若そうなのにビックリだー……体の事も含めて。

「ですが」

「なのはさん所の部下ですし、これくらい平気ですよ」

 そう言って無理やり納得してもらう。まぁ、今日みたいなのはハードすぎてビックリだけどね! きっと幼馴染ーずの皆だったら上手く捌くんだろうけどねー。
 さてと、こほんと咳払いを1つして。ちょっと真面目な顔で。

「流からの連絡も踏まえてお伝えしますね」

 と、今までの敵の行為を見ての推測を伝える。流が初手で止めた弾丸2つは、すずかさんの頭部を狙っていたもの。この時点で人質にとるとかそう言う気は無いということ。更に、店内、町中を問わず発砲してきたことから、完全に殺すつもりで撃ってきている事も伝える。
 その上、隣りにいるアリサさんや、邪魔をした流がいても撃ってきたことから、かなり危険なことを伝える。しかも、遅くなってたとは言え、逃げてた私達をしっかり追いかけてきた。恐らく思ってる以上に数が居るだろう。

「警察に頼ろうにも、関係なしに撃とうとしてる人達相手にしたら間違いなく何人か死にますね。荷が重すぎる」

「……そんな」

「……その上」

 ちらりとファリンさんを見るけど小さく首を振る。ここに来た時点で翠屋……つまりなのはさんや、エイミィさんの元へ連絡を入れて欲しいと伝えた、が。どの連絡手段も遮断されている。携帯の電波を見れば圏外だし、インターネットなどの手段も繋がらない。恐らくジャマーを掛けられているということ。

 しかし解せないのが。

「なーんで、すずかさんを狙うのかがわからないんですよね」

 ファリンさんの淹れてくれた紅茶を飲みながら呟く。すると、すずかさんが辛そうな顔をしているのが見えた。
 恐らく何かあるんだろうけど……。

「まぁ、ヤラレっぱなしも癪ですし。迎撃しようか」

「! 待って!」

 更に顔を青くしたすずかさんが悲鳴を上げる様に叫ぶ。思わず私もビクリと体が震える。

「……ごめんなさい、震離ちゃん……これは、私のせいなの……私が」

「すずか!」

「すずか様!」

 ポロポロと涙を流しながら俯いてる。何かを言おうとしたのをアリサさんとファリンさんが遮る。なんだろうと考えながら、その様子を見守る。

「二人共ありがとう……でもここまで巻き込んで、何も知らないのは失礼だから……だから」

「「……」」

 すずかさんの言葉を、何かを覚悟したような表情を見て、二人共何も言えず俯いた。

「震離ちゃん。私はね、夜の一族と言われる吸血鬼です」

 思わず目を丸くする。そのまま話は続けられる。

 曰く、本に書かれてる伝説と言われる吸血鬼とは違って、太陽の下にいても灰にはならず、銀の銃弾を食らったら死ぬとかそういう事は無い。むしろ銃弾食らったら普通に死ねるらしい。
 特徴としては、長命であるということと。普通の人よりも身体能力が高く、五感が人より鋭く、回復が早いとの事。そして、鉄分を作りにくいらしく、鉄分豊富な栄養食に近い血を飲んでるとのこと。

 その説明の後、暫く沈黙が続く。というより、考え込んでいた。ということはだ、敵はすずかさんを吸血鬼として狙っていると、つまり……。

「あー、なるほど。伝説とか言われてる存在を討った名誉が欲しいのか、完膚無きまでに叩かないとまた来るなー」

 はーっと、深いため息が漏れる。こういうのが面倒くさいんだなーこれが。だって、死んで本望とかいう輩が多いわけだし。
 視線を3人へ戻すと、鳩が豆鉄砲を食ったように驚いた顔。なんだろうって首を傾げてると。

「な、そのリアクションって!? もっと他にあるでしょう!?」

 がーっと鬼みたいに角が生えたような感じで怒り狂ったアリサさんに詰め寄られる。

「え、いやだって」

「だってじゃない!! すずかの告白をどんなつもりで聞いてたのよ?!」

「大真面目に聞いてましたよ! だからこうして敵を分析してるんじゃないですかー」

 ガクガクと肩を揺さぶられるけど。本当のことだもん仕方ない。

「……怖く、無いの?」

 ピタッと揺さぶりが止まり、皆の視線がすずかさんへ向けられる。その顔は怯えきった表情をしてて……そこで気づいた。
 しまった、まず言うことがあったと。

「……えぇ、怖くないですよ。だって、魔法世界で生きてるんです。人の神秘なんて沢山見ましたとも。一番最近なんて、流が正真正銘の女の子になった事もありましたし」

「……ぇ?」

 ファリンさんの顔が青くなった……けど、一端無視して。

「それに説明聞いた感想は、普通の人より動けるけど、鉄分作りにくいって健康面でハンデ背負ってるじゃないですか。すずかさんは全然人ですよ」

 そう言うとポロポロと涙を流してる。私の肩を掴んでるアリサさんもだ。

「拒絶されたら私はそれ以上は踏み込みません。ですが、貴女が私を受け入れてくれたのなら、私は貴女のそれを受け入れます。ね、流?」

「……えぇ」

 と扉の影で見えにくいけど、流もそれを受け入れてくれたようだ。

 それに……吸血鬼と会うのは二度目だし……。

「……あ、ありがとぅ……」

 ボロボロと大粒の涙を流して頭を下げられる。年下な私なんかに……。アリサさんも嬉しそうに私を抱きしめてきた。受け入れてくれてありがとうって呟きながら。
 恥ずかしくて、身を捩って。

「こちらこそ、そんな重いことを告白して下さって、ありがとうございます」

 照れながら私も御礼を言う。

 ―――

 ある程度経って2人が落ち着いたのを見計らって……。流が居る場所を見るけど暗くてよく見えない。

「なーがーれー? こっちおいでよ~?」

「……あ、いえ、ここでいいです」

 と遠慮したようななんというか、来たがらないと言うか。ふと視線をすずかさん達の方へ戻すと。ファリンさんの顔が更に青くなってる。

「もう、こっち来なさい」

「え、あ、あの!?」

 と、アリサさんが突っ込んで、影にいる流の手を取る。そして、引かれて出てきたのは。茶髪の髪を綺麗に纏め、メイドカチューシャを頭につけてファリンさんとお揃いのロングスカートのタイプのメイド服を纏った流がそこに居た。

 ファリンさんが、青い顔してたからなんかやったんだろうなーと思ったけど、これは……。

「ナイスでーす。ゴフッ!」

「震離ちゃん!?」「震離様!?」

 吐血と鼻血が吹き出ましたけど、私は元気で……す。
 
 
 
 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。 
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