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【完結】Fate/stay night -錬鉄の絆-

作者:炎の剣製
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第037話 7日目・2月06日『傷の切開と報い』

 
前書き
更新します。 

 
セイバーとランサーの勝負はセイバーに軍配が上がった。
多分言峰綺礼とは反りが合わなかったんだろうと私は思った。
マスターが一緒にいたならばきっと私が負けていたかもしれないから…。
ただ最後は満足そうに消えることができたみたいで私としては安心できる事であった。
それで洞窟の中を歩きながら私はセイバーに話しかけた。

「セイバー…ランサーの事だけど、あれでよかったんだよね?」
「はい。ランサーも心残りなく逝けたと思います。第四次聖杯戦争の時よりはランサーとしては報われたでしょうね」
「第四次聖杯戦争の時のランサー? なにがあったの…?」
「できれば話してあげたいのですが………志郎にとっては残酷な話です。こればかりは勘弁してください」

セイバーはそれで過去の事を思い出しているのだろう、表情が少し苦悶そうであったのはやっぱりお父さんがやらかしたことなのかな…?
お父さんは第四次聖杯戦争で判明した事は教えてくれたけど戦争中に起きた些細な顛末は詳しく教えてくれなかったから。
それならセイバーが話したがらないのなら無理に聞き出すのも酷だろうと私は聞かない事にした。

「セイバーが話せないなら無理に聞かないからね」
「感謝します。シロ」

それで洞窟の中を歩いていくと少し広そうな空間が見えてきた。
その空間に入った瞬間だった。
入り口の壁に突如として凛さんが叩きつけられてきていた。

「凛さんッ!?」
「リン!?」
「うっ…あ…」

凛さんは壁に叩きつけられたのか頭を打ったのか血を流していた。

「あ………志郎、早かった、じゃない…?」
「凛さん! しっかり!!」

私が凛さんを抱き起し介抱しようとした時だった。
凛さんが吹き飛ばされてきた先から、

「ほう…あのランサーを倒してきたのかね。衛宮志郎」
「ッ!」

声のした方を向くとそこには言峰綺礼が後ろに手を組みながらその顔に愉快そうな笑みを刻みながら立っていた。

「あなたは! どうして監督役なのに!?」
「…それを今ここで聞くのかね。衛宮切嗣から聞いているのなら知っているのだろう。私はこういう人間だと…」

そうだ。
言峰綺礼は第四次聖杯戦争のマスターの生き残りでお父さんと最後まで争った人間。
お父さんは銃弾を心臓に撃ちこんで殺したと言っていたがなぜか生きている人外の人。

「………そうですね。確かに今更なことでした。ランサーのマスターであるのならたとえ監督役であろうと参戦しないはずはないですよね」
「その通りだ。なに、頭はやはりキレるようで安心したよ。さすが衛宮切嗣の娘だ」

そう言うと言峰綺礼はその手に黒鍵を出して構えた。
だけどそこで今まで様子を伺っていたセイバーが剣を構えて私と凛さんの前に立つ。

「答えなさい、コトミネ…アーチャーはどうされたのですか?」
「アーチャーか。今頃はギルガメッシュと戦って散っているところではないかね?」
「にい…ッ! アーチャーがそんな簡単に負けるわけがないです!」
「ほう…? なぜそう言い切れるのだね? 衛宮志郎」
「それは…」
「マスター! 奴の口車に踊らされてはいけません。…コトミネ。何か企んでいるようですがそう簡単に事は起こさせませんよ。
貴方は切嗣が一番警戒していた男………よってここで果ててもらいます」
「そうか。それは残念だ」

残念そうにジェスチャーをしているが言峰綺礼の顔からは諦めの色が全く見えない。
なにをしようとしているの…?

「志郎………」

そこで凛さんが目を覚ましたのだろう、私に話しかけてくる。

「気をつけなさい……あいつは、綺礼は今、聖杯の力を宿しているわ…」
「えっ!?」
「なんですって!?」

凛さんの驚愕の言葉に私とセイバーは思わず驚く。

「その通りだ」

すると言峰綺礼の背後にいくつも黒い孔が出現してそこからコールタールのような黒い泥が流れ出してきていた。
それを見た瞬間にあれはイケナイモノだと察しられた。

「セイバー下がって! あれはきっとサーヴァントにとって天敵だと思う!」
「はい。私も直感であれはよくないものだと分かります」

言峰綺礼の周囲に泥は広がっていき、それはもう言峰綺礼はその顔にある皺を深くしながらも、

「…さて、これで話し合う場は整ったな」
「話し合い…?」
「そうだ。セイバーは私には手出しできない。凛という足枷も抱えたままでは衛宮志郎も機敏には動けまい?」
「くっ!」

確かに傷だらけの凜さんを残したままではうまく戦えない事は明らかだけど。
言峰綺礼は一体なにを話し合うというのか。

「それでは衛宮志郎。今から私がお前の傷を切開してやろう」
「切開……? どういう意味ですか?」
「なぁに………君は第四次聖杯戦争で起きた大火災の生き残りだ。切開するのには容易だろう?」
「シロ! 奴の言葉に耳を貸してはいけません! 風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

近距離ではあの泥に飲まれるだろうと踏んだのだろう、セイバーは遠距離から風圧を叩きつける。
だが言峰綺礼に届く前に泥がまるで壁のように形を変えてセイバーの技を防御した。

「無駄だよセイバー。君の攻撃方法などとうに十年前に把握済みなのだからな」
「くっ…!」
「さて、これで分かったであろう。では話をするとしよう。
衛宮志郎。思えば君は衛宮切嗣に引き取られたのは幸せだったのだろうな…」
「それがなんですか…? 幸せでしたけど」
「そう。君は幸せな生活を送っていた。だが裏では君と同じ災害孤児たちはどんな事になっていたか知っているかね…?」
「えっ…? それって…保護団体に引き取られたんじゃ」
「ああ。確かに引き取られたとも。我が冬木教会でな」
「!?」

それで私は最悪なビジョンを幻視する。
まさか、そんな…!

「まさか貴方は彼らに何かをしたんですか!?」
「安心したまえ…。彼らは今も生きている。ただし人としての人権などとうに失っているがね」
「なにを…した!?」
「ククク………教えてやりたいところだが君が絶望の顔をするのを想像するだけで愉しみにしているのでね。
もしこの戦いで私とギルガメッシュを倒すことができたなら冬木教会の地下を調べてみるといいだろう。実に面白い見世物が見れるぞ」

それだけ伝えるとその手に泥を持った言峰綺礼は私に向けてそれを放ってきた。

「!?」

その泥は私達の前に落ちてその地だけを腐食させていた。

「ただ、生き残れたならの話だがね。
真実を知りたくば君はなんとしても私という悪を倒さないといけない。
君は衛宮切嗣の理想を継いでいないと言った。だがそれは本当の事かな?」
「なにを…」
「本心では親を継ぎたいとも思っているのではないかね?
現に君は私という悪を倒す正義の味方になろうとしている。それだけで君はやはり……」
「黙って! 私は、私は…!!」

確かに一時期お父さんの理想を継ぎたいと思った事はある。
だけどそれはお父さんという届かなかった人がいたから諦めた。
それに私には大切な人達を守りえる正義の味方という理想がある。

「気持ちに正直になりたまえ。どのみち君は正義の味方にならざるを得ないのだよ。
大方君の本当の理想は家族や大切な人達“だけ”を守りたいという矮小な物なのだろう?」
「矮小、だって…?」

そこで私の中でなにかが切れる音が聞こえたような気がした。

「あなたは、人の夢をサイズで測れるほど偉い人間なんですか…?」
「マスターのいう通りです。夢とは千差万別、どんな形であろうとそれは人の精神を支える支柱です。
それを否定できるほどあなたは出来た人間ではないぞ。コトミネ!」
「確かにな。私にはそんな権利はない。
だが衛宮志郎。君の理想はなんとなくわかったぞ。
よって君を殺した後には次は凛、間桐桜、間桐慎二、藤村大河………君の大切な人達を悉く殺していくとしよう」
「貴様! なんていう事を言うのですか!」
「…セイバー、もういいよ」
「ッ!? マスター?」

セイバーが私のおそらく冷めきっているのだろう声に反応して振り向く。
その表情は今までで一番見たくない表情だったのは言うまでもない。
だけどもう耐えられない。
私は私のささやかな理想を守るために今だけはお父さんの理想を体現する。

「言峰神父………私の理想を守るためにあなたにはここで消えてもらいます」

そう言って私は腰に下げてあったとあるものを引き抜いた。
それはお父さんの形見である銃『トンプソン・コンテンダー』。

「ほう…懐かしいものを出してくるな。素直になった気持ちはどうかね。実にいいものだと―――………」
「もう、それ以上喋るな………」

そう言ってとある薬を一飲みする。
その効果は、

「疑似固有時制御展開………三倍速!」
「なにっ!?」
「シロ!?」

言峰綺礼がその顔に初めて驚愕の色を現す。
だがもう遅い………。
一気に私は言峰綺礼の背後に姿を現してトンプソン・コンテンダーからある銃弾を撃ち放つ。
それは見事言峰綺礼の体に命中した。

「ふ、ふふふ………この程度なのかね。私にはかゆい程度だぞ?」
「そう思うんでしたら思っていてください。直に終わります」
「なにを…? おぶくあっ!!!???」

突然言峰綺礼の体から幾重にも刃が突き出してきたのである。
それはどんどんと増殖するように言峰綺礼の体を体内から破壊していく。
やがて顔の下以外はすべて剣が体から突き出してまるでハリネズミのようになって言峰綺礼はあっけなく目を大きく見開き絶命していた。
そして言峰綺礼が死んだのを合図に孔も消え去って泥もなくなった。
セイバーが凛さんを両手で抱えながら私のところへとやってきて、

「シロ…先ほどの動きは一体?」
「そうよ志郎。それにあの銃弾の効果は一体…?」
「私ね、血が繋がっていないからお父さんの魔術刻印は継げなかったの。
………だからお父さんは魔術刻印の魔術を一時的に疑似的に発動できるように使い捨てで小分けにして分けて薬にして私に託してくれた」
「そんな事が…」
「そして先ほどの銃弾は私の起源である『剣』を現した起源弾。撃ちこまれたが最後体内から一斉に剣が増殖して対象者の体を破壊する私の秘奥…」

それを言い切るとセイバーが少しばかり辛そうな表情になり、

「シロは…切嗣の理想を、継ぐのですか…?」
「………継がないよ。だって私の理想は『大切な人達を守れる正義の味方』だから…」

そう、その為なら私の大事な人達を殺めようとする者には消えてもらわないと。
このとある条件下での冷酷さだけは唯一お父さんから引き継いだものかもしれないと私は思った。

「綺礼は志郎の触れてはいけない部分に触れてしまったのね…。志郎、今までで一番魔術師の顔をしていたわよ」
「そうなのかな…? でも、もう大丈夫。暗い気持ちはもう抑えたから。さ、兄さんを助けにいこう!」
「…そうですね。立てますか、リン?」
「なんとかね…」

それで私達は最奥で戦っているだろう兄さんの元へと急ぐのだった。


 
 

 
後書き
今回は少し志郎の闇を描写しました。
魔術刻印の薬はオリジナル設定です。
出来るかな程度の認識ですが。 
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