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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第44話 先駆者であろうとする者


――side響――

「え、一日延長!? なんで?」

「あー、母さんに挨拶いこうと思って」

「……なるほど。それじゃあ一緒に行けないね。残念」

 フェイトさん……や、先輩一家が少し外出してる関係で奏と2人で海鳴の街をブラブラと散策中。まぁ、一緒にいかないかって誘われたけど、先輩からしたら今回の休みの一番の目的だしそれを邪魔するのは良くないと、誘いを断った。
 それでも夕食は一緒にと言われて、それまで2人で時間を潰そうかって話になって、で。

「にしても、ここの街は本当に落ち着かねぇなって」

「まだ言ってる。今日で何度目それ?」

 フフフと呆れたように笑うのを横目に海鳴の街を行く。平日の昼下がりだからか、街は静か……というわけではないけど、何処かゆったりとした空気だ。
 ふと、白い制服を来た小さい子たち……小学生くらいの子たちが歩いてるのが見えて、その格好を見て。

「わ、あれこの前はやてさんが持ってた制服じゃない?」

「確かに、白い制服って怖いよなー。汚したら目立つもん。洗濯大変そう」

「あはは、たしかに。よかったね~私達の学校は白一択じゃなくて。昔の響達なら何枚あっても足りないよ」

 痛いところを突かれて、思わず目をそらす。奏の言う通り昔の俺達ってそこそこやんちゃしてたしなぁって。勉強なんて魔法の道を選ぶまで授業中位しか席に着いてなかった。でも選んでからは卒業するまではずっと叩き込まれたなぁ。
 おかげさまで偏差値の伸び方エグいって言われたなー。

「いつか皆でまた戻らないとな。やり残した事はあるし」

「……うん。全てうまくいくとは思わないけど。それでも筋は通さないとね」

 2人で歩きながら、ミッドへ行く日のことを思い出す。紗雪を除いた皆の意思はミッドへ行くというのは固まっていた。紗雪も固めていたけれど、あの子の祖父がそれを認めなかった。
 まぁ、そりゃそうだよね……11になる頃に、既に自分と同程度の分身を作れて、呪符を使った転送術。
 くの一……いや、忍として完成に最も近かった。それが魔道士になるなんて言ったら普通認めるはずもなく。祖父が一方的に断ってた……筈だった。
 蓋を開けてみれば入学手続きはしてあった。つまり、紗雪が祖父を退けてでも出て行く覚悟を決めれば行けた事だったのに、当時の俺らそこまで考えつかずに、6人で紗雪の家に押しかけて誘拐同然で連れ出したんだよなぁ。

 結果、紗雪の爺ちゃんと、その弟子さん達と正面切って戦闘して勝った……とは言えない。明らかに手を抜かれてたし。そもそも紗雪の兄と姉が参加してなかった以上行かせるつもりだったんだろ。
 こっちは全力だけど、向こうは戦いましたっていう事実だけ欲しかったんだろうし、事実殺す気なんてサラサラ無かったみたいだし。

「響、顔怖いよ?」

「……すまん」

 言われてすぐに眉間に力が入ってることに気づいて、直ぐに緩める。

「適当に茶店でも入ろうか?」

「お、何かごちそうしてくれるの?」

 ニンマリと笑う奏を見て、こっちもニンマリと笑って。

「構わんけど、カロリーにゃ気をつけろよー」

「これは手痛いなぁ」

 嬉しそうに笑う奏を見て、自然と笑みが出てしまう。
 さ、何処か美味しそうな所を探そうかね。
 

――side震離――

「……あ、メールだー……んんッ!?」

「震離うっさい」

 デスクワーク中にメールが届いて中身を確認して、思わず声が出てしまった。ティアから突っ込まれるのもお構いなしに、慌ててもう一度確認した後、直ぐにデータチップに移して削除する。

「どうしたの?」

 向こう側のデスクからスバルとギンガが心配そうにコチラを見つめるのに気づいて。少し考えて……。

「あぁ、響がフェイトさんと混浴入ったって、エイミィさんが」

「お」「あら、ちゃんと男だったんだ」

 咄嗟に昨日の夜の情報を言う。スバルとティアがそれぞれ感想を言う中で、一人だけ。

「……え?」

 カクリと、首が少し傾きながら黒いオーラをにじませる人物が。いやあの、そんな目をされても私何も言えないし……。私の隣の席の流はフフフと微笑んでる。その中でティアだけはジトーっとこっちを見てるのに気づく……けど、知らないふりをして。
 ティアの目があるうちはこのチップを取ることは出来ないし、一旦はこのまま置いておこう。この空気を劇的に変えなければいけないけど、そうするには……。

「……あ、そうだ聞いて聞いてー。私と奏用のデバイスの目処が立ったらしくてさー、この前希望するものはあるかって聞かれた。皆の時はどうだったの?」

 一瞬スバルが考えて、思い出したように。

「私とギン姉のマッハキャリバーとブリッツキャリバーは私達が使うウィングロードを組み込むのに時間がかかるっていうのは聞いたけど……」

「それ以前に私達の場合、元々持ってたアンカーガンを、スバルはリボルバーナックルとローラーブーツを発展させた感じだから参考になんないわよ」

 スバルとティアの回答を聞いてがっくりとしてしまう。

「って、震離は前の……その昔は持ってなかったの?」

 申し訳なさそうに聞いてくるスバルに、別にいいのにと断って。

「うん。私と響は持ってなかったなー。響の場合、刀を二本欲してたけど中々見つからなかったし。私も別に要らないなぁって事で持ってなかった」

 他の皆……と言うか響を除いた幼馴染5人はそれぞれ固有のデバイスを有してた。
 まぁ、入手経路が皆遺跡の破損してたデバイスを回収、修理して使ってたって言う、曰くありまくりの物だけどね。でもそのお陰かは分からないけど、それまで汎用の槍型のストレージを使ってた優夜と煌の動きは見違えた。
 御誂え向きみたいに、槍と斧、弓とチャクラム、そして二丁の銃の5つ。それぞれ別の場所にあったけど、調べてみたら古代ベルカ時代の代物と鑑定結果が出た時には驚いたなぁ。しかもAIも時間かければ復活出来るかもしれないという可能性も出てきて、上手くすればデータ復活出来るかもということで使用することに。
 それからは現代のカートリッジに合うように部品を取り替えて、オーバーホールしたら普通に使えるようになったし。

「ふーん。てっきり色々機能を取り入れた物でも持ってたのかと思った。で、どんなのお願いしたの?」

「なんでも良いって回答した。シャーリーさんも予想してなかったみたいでガッカリしてたけどねー」

 あははと笑いながらそう答えたと同時に。

「ほんとよー、なんでよー! 奏だけだよー興味持って色々案出してくれたのー」

「ひゃっ?!」

 突然背後から悲鳴のような鳴き声の様な声でシャーリーさんが叫んで思わず変な声が出る。ゆっくり振り返ると私の椅子の背もたれを持って悲しそうに立ってた。

「大体なんで時雨も紗雪も震離も私の事さん付けなのよー。皆と同い年なのにー」

「わわわ、え、いや、だっててててて、既にシャーリーさんってあだ名になっているというか、さんまで入れるのが当たり前になったというかああああああ」

 椅子を反転させた後、ガシッと私の両肩を掴んで前後に揺さぶられる。揺られて言葉がブレるけどとりあえず言えるとこまでいう。それを聞いてクスンと泣き真似をした後。

「私なんて響とあれ以来仲良くなったと思って、花霞に不具合ないかなって聞いても、特に、とか、別にとかしか言ってくれないし。震離にデバイスの事聞いてみたらなんでも良いって返事貰うし、奏だけだよ。食いついてくれたの」

「「「あー」」」

 ギンガが若干引いてるように見えるけど、私やスバル、ティアは心当たりがありまくって変に納得してしまう。実際響からしてみたら花霞は綺麗な刀だけど、100%で振ったら壊れるって感覚だろうし。本人もせっかくの刀をわざわざ壊したくないだろうしね。
 スバルやティアは、響があんまり花霞を使ってない事を知ってるから納得したんだろうけどね。

「うう……今までデバイスの話をしたら皆食いついてくれたのに、こんなに反応が薄いと泣きそうになっちゃう」

「あー、それはごめんね~」

 よしよしとシャーリーの頭を撫でる。あれ、シャーリーさんがここに居るということは。

「送られてきた結果は問題無いってことで良いの?」

「うん、強いて言えば経験値の差だけって言われた。だから煌達がロングアーチの若い子たち集めてまた研修会みたいなことをしてる」

「あー、という事はめっちゃ優しい結果に落ち着いたんだねー。やっぱり今回のこれは、やりましたって理由づけか」

 そうだよ~とだらりと力なく言うシャーリーを他所に、さり気なくデータチップを懐に入れてっと。ここでもう一押し。

「あ、奏はデバイスの件なんて要望出してたの?」

「お、聞いちゃう? ロールアウトまで少し掛かるけど。仕方ないなー、ちょっとだけ公開してあげましょう!」

 ガバッと立ち上がって、るんるん気分で自分のデスクへ向かったのを見送って。
 ふとティアナが何か気になった様子でコチラを見て。

「……そう言えば奏の前のデバイスってどういうのだったの?」

「3形態の銃だね。内部名称はオクスタン、パルチザン。4丁の拳銃形態、2丁のライフル……今と似たような形態と、対艦ライフル2丁……まぁ、3つめは使ってなかったけどねー」

「可変型ね……って、4丁って……また変わってるわね?」

「うん、私もそう思う。結局4丁も使いこなせないって言ってたし。曲芸するみたいに使えば或いはって言ってけど、実現しなかったしねー」

 4丁で曲芸撃ちをする奏の姿が想像出来なかったみたいで苦笑いを浮かべてる。私もそうだよ。だってあんなん使いこなせないし。なんとか形にしても戦場じゃ使えないよねー。
 連結させようって話も出てきてたけど、実現しなかったし。

「おまたせー持ってきたよー」

 おーっとちょっとした歓声を上げて、5人で見やすい場所へ移動する。

 ふと、外を見るともう夕方だ。響達って確か夕食を済ませて少ししたら帰ってくる手筈だし、もう少しで帰ってくる。

 たった一日離れただけでこうも長く感じるのは一緒に居すぎた弊害かな……って。

「もー震離ってば、ちゃんと聞いてー」

「あ、ごめんごめん」

 シャーリーさんから注意を受けて、改めて画面を見る。なんだかんだで奏の新デバイス。楽しみだなぁって。


――side奏――

「へ……くしゅ」

「夏風邪?」

「ううん、なんだろ。突然出ちゃった」

 特に悪寒を感じたわけでもなく、突然くしゃみが出てしまった。特に大きなくしゃみってわけじゃないけど、変な顔じゃなかったかなと心配する。けど、響の様子を見る限り特に見られたわけじゃなさそうだ。

 今私と響が居るのは、海沿いの公園。なんというか機動六課の海沿いの道を思い出す場所だ。

 水平線に夕日が沈むのを眺めながら、ベンチに座って待つ。フェイトさんが指定した集合場所から少し離れた場所なんだけど、中々良い景色で、つい立ち止まってしまったんだ。

 ふと、隣に座る響を見て考える。この人はまだ、あんなことを考えているのだろうか、と。

「……まだ死にたいとか考えたりしてる?」

「……」

 思わず口から出てしまったけど、彼は返事をしてくれない。この距離で聞こえなかった、という事は無いはずだ。しばしの沈黙の後に。

「……皆で向こうに行こうって誘ったのは俺だ。結果皆の先を奪ってしまったし」

「誰もそう考えてないよ」

 自嘲気味に笑う彼に被せて言う。震離から聞いた、この人が自殺しようとした事を。初めは意味が分からなかった。だけど話を聞いて、彼の顔を見て泣いた。
 気付いてあげれなくて、情けなくて、悔しくて。傍にいようと決めてずっと居たのに、私は彼の苦悩を分からなかったんだから。それが切っ掛けになったみたいで、そこからだ、彼が前を向いて生きる様になったのは。

 だけど、私はずっと違う様に見える。先駆者として皆の前に立つと同時に。誰も寄せ付けなくなったようにも見えた。ずっと一緒に居る震離でさえも軽口を叩いてるけど、彼の本当の部分には触れていないように見える。
 
 それからだ、自嘲するように俺は弱いと言うようになったのは。自分は後方で指揮を取るようになったのは。

 何より、昔は色んな事を相談してくれたのに、もう彼から弱音を聞いたことが無い。

 最後に彼の涙を見たのは……いや、聞いたのは、震離が自殺を食い止めた時に聞いた話だけだ。

 それ以来彼は……ずっと。

「……響、さ。もう良いんだよ。ほとんど帰ってきた、だから……だから」

 不意に肩を捕まれ、響の元へ寄せられる。あまりにも突然過ぎて驚く暇もなかった。

「大丈夫。俺はまだ輝ける。まだ役目があるから、皆を見守っていく約束を護るから、だから平気だ」

 あぁ、あぁ……涙が溢れる。そこまで気負わなくていいっていいたいのに、彼の意思が固いのが分かってるから、言い出せない。彼の言葉の意味が分かるから、私達との約束を守ろうとしているって分かるから……。
 
 今も昔も彼の在り方に惹かれる人は沢山見てきた、彼が朴念仁じゃないことを知っているだけど、彼はそれを気づかないふりしてる。それが余計に悲しくて……辛いんだ。

 ――先駆者であり続けようとする彼の姿が。

 顔を上げて。彼の顔を見つめる。すると、困ったように照れた様な笑みを浮かべてるのを見て、ズキリと胸が居たんだ。

 だからね、フェイトさん。私達が惹かれたこの人はちょっとやそっとじゃ攻略できないんだよ。

 涙を拭いて、ベンチから立ち上がって。2、3歩前に出て。くるりと反転。不思議そうにコチラを見てる響を見据えて。目一杯微笑んで。

「さ、フェイトさんや皆が待ってる。行こう!」

 両手を伸ばして、彼の手を取って、立ち上げて……これが今の私の精一杯だ。情けなくて涙が出てきちゃいそうだけど、ね。



――sideフェイト――

『え? 相談聞いてなかったん? てっきりそっちで許可貰ってたと思っとったよ』

「……うーん。多分聞いたかもしれないけど」

『エリオやキャロとの旅行で忘れちゃったと……ちょっと上司ぃ?』

 ……はやてに言われるけど。反論出来ないのがちょっと悔しい。
 元は査察は大丈夫だったの? っていう連絡だったんだけどそれは特に問題なく終わったらしい。それどころか、肩透かしだったと。
 
 個人的にはそんな事ありえるのかなと思うけど、特に考える様子もなく言うってことは本当なんだろう。
 もし緊急だったら連絡入るはずだし……うん、信じましょう。
 
『で? エリオやキャロはなんて言ってたん?』

「2人共事前に聞いてたって。それなのに私は忘れて……」

『ほらほら。暗くなってる場合や無いよ? ふむ、ちなみに聞くんやけど、フェイトちゃんは響達の故郷に興味ってある?』

 ……うん? 何やら流れが変わったような?
 
「……うん。少しお話聞いたし。ちょっと気になるよ?」

『ほうほう。興味あり、と。そしたらやねんけど――』

 ――――
 
「引き受け……ます!」 

『大分悩んだな-。ほならそういう風に処理しておくよ。皆にはちゃんと言うんやで?』

「うん。ありがとはやて」 

『ええよええよ。ほならなー』

 そう言って通信が切れて……よし。
 
「よ、良かったぁぁ」

 まさかの展開に胸を撫で下ろす。だけど本当に驚いた。まさかそんな話が持ち上がってるなんて……。
 私は結果的にだけど、この展開は……いや、まだ確定したわけじゃない。そのために私は行くんだし。
 
 ちょっと楽しみが増えたなって。 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。 
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