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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第38話 出向と、進捗に変化なし


 ――sideなのは――

 8月も終わりを迎え、9月に入る直前に。

「さて、今日の朝練の前に、一つ連絡事項です」

 なのはさんの紹介で、奥から1人出てきまして。フェイトさんが継いで、

「十年前から、うちの隊長陣のデバイスを見てきてくださっている、本局技術部の精密技術官」

「どうもーマリエル・アテンザです」

「地上でのご用事がある、とのことでしばらく六課に滞在していただくことになった」

 シグナムさんも珍しく朝練の段階で居てくれて、今日は色々出来そう。

「デバイス整備を見てくれたりもするそうですので」

「気軽に声をかけてねー?」

 10年前から変わらない優しい笑顔で皆に声を掛ける。やっぱり変わらないなぁ。

「じゃあ紹介もすんだとこで……今日も朝練行っとくか!」

「はい!」

 ヴィータちゃんの一声に皆がそれぞれ動き出した。エリオとキャロはフェイトちゃんと、スバルとティアナはヴィータちゃんと、奏はシグナムさんと、そして、残った皆でいつもみたいに集まりだした所で。

「響?」

「ん、なんでしょう?」

 ちょうどあくびが出そうなタイミングで声を掛けちゃったせいか、眠そうな顔してるなぁ。最近よくはやてちゃんの手伝いをするようになったから、忙しそうにしてるもんね。そのお陰で、はやてちゃん最近休めるようになったって言うようになったし。さ、本題へ。

「早速で悪いんだけど。ギンガと模擬戦。やってみようか?」

 カッと目が開いて、マジかよ!? って言ってるように見えた。実際は言ってないのにね。

「……え、いや、それは全然かまわないんですけど。こういうのって、普通スバルとやるんじゃないんですか。成長を確かめる的な意味を込めて」

「うーん。それがこの前軽い手合わせをしたみたい。ね、ギンガ?」

「はい、悪くありませんでした! それに、ずっと手合わせしたかったですし、ね?」

 私の一歩後ろに立つギンガがニッコリ笑って圧を出すのに対して、響の表情は優れない。まぁ、なんとなく気持ちは分かる。多分これは……。

「……了解です。これからですか?」

「うん、なるべく早めにね。皆の今日のメニューの説明が終わったら始めるから」

 諦めたような表情で、了承してくれたけど……あんまりって感じだなぁ。トボトボと模擬戦を始める響に対して、ギンガは元気よく駆け足で移動して行った。それにこの模擬戦は、ギンガからの提案だしね。

 同じAランクとして、どれほど差があるのか見てみたいです! 

 って言われた時に思わず色々聞いちゃった。離れて色々調査するとき、一緒に組む事が多い事もあって、ずっと興味を持ってたみたい。
 だけど気持ちはよく分かるよ。もし私がギンガと同じ立場で、自分と同じランク帯に強い人が居るって聞いたら心が踊っちゃうし。だから今回の件を許可したんだけど……。

「……響も喜ぶかなーと思ったんだけどなぁ」

「それは無いですよなのはさん」

 ふと、声のする方を見てみれば、震離が苦笑してた。

「だって、響からしたら残り少ない引き出しと、切り札を切らないといけない可能性があるって考えてるでしょうし」

「……あー」

 それを聞いて納得。そう言えば響って隠したがるんだった。前に理由を聞いたら。

 ……ただでさえもうスバルもエリオもそこまで来てるのに、伏せてる手札を見せたら、次から対策取られるじゃないですか。

 って寂しそうに言ってたっけ。思わず隠し事は良くないって言ったら逆に。
 あの2人は俺より強くなるのは目に見えてる。だけど、それまではまだ少し高い壁として存在しないといけない。
 って言われて驚いた。そういう配置をしてるわけじゃないけど、響はそう捉えてるっていう事で。確かに今はそういう風に配置しているけれど、実際の所。まだまだ差は大きいんだけどなぁ。響のそういう所も直さないとねー。

 ――――

『はぁああああああっ!!』

『フッ!』

 ギンガの高速コンビネーションを最小の動きで躱し、時折いいのが入りそうになったらその前に鞘で払いずらしていく。
 見てて思ったのが、響こういうタイプって苦手なのかな? フェイトちゃんと戦った時はあれは本気で挑むって言ってた上の行動だったし……。最初に何回か斬りかかってからは防戦一方と言うか、なんというか。

『え、流石ッ……ウィングロード!』

『チィッ!』

 お? いつかのスバルを投げ飛ばしたときのように、ギンガを投げ飛ばそうとしたけど。初動の時点でウィングロードで足場を作られて躱されちゃった。
 こうしてみると本当に響も上手いなーって思う。スキの少ないギンガのコンビネーションの引き際を見切って、懐へ入り、そのまま掴んで投げる。管理局員には少ない戦い方だね。インターミドルとかに出てくる子は逆にこういう搦め手も頭に入ってるんだろうけど……。
 
 本来ならギンガを接近前に落とせる筈。なんだよね、響って。フェイトちゃんとの模擬戦の時、深くは追求しなかったけど、別視点から見て驚いた。
 うちの流派……御神流の居合だと思ってたけれど、あの時の響は刀を投げる前に、居合で斬撃を飛ばしてみせた。魔力刃とかではなく、人を斬るための一閃を。私が知らないだけで、実は御神流にはそういう技があるのかもしれないし、私は純粋な技量のみで放たれる一閃を見たのは初めてだった。

 なんて考えてたら。

 いつの間にか、森の中を駆け巡ってた。ただ、少し妙だなと思うのが、響が取る行動は掴んでは投げる。対してギンガはそれをウィングロードや、受け身を取って躱してるだけ。それに攻めて来るギンガを相手に、響が逃げてるようにも見える。
 それ自体に変な部分はないけど、ずっと付かず離れずの距離で戦っていたのに、ここに来て離れたのは……。

『はぁあああああっ!!』

 お、ギンガが全速力で追いついて……からの、大きいの打ち込むつもりだ。対して響は……って。何もしてない!?

「え!?」

 突然の無抵抗に皆驚いた。ギンガも止まれずそのまま響の腹部へまっすぐ打ち込んだ、が。

 腹部に当たる直前でギンガの拳が止められる。

 いや、これは……。そう考えて慌ててモニターを切り替え、スキャンして……。なるほど。なら、この勝負は。ううん、もう分かる。

 モニターの向こうで、ギンガは打ち込む姿勢のまま静止して、先に動いたのは響だった。ギンガの拳が当たらないように、脇に寄ってから。

『ふぅ……花霞、ワイヤーカット』

『え、わっ!』

 糸が切れた様に、突然動き出して、体制を崩した所を。

『よっと。大丈夫ですか?』

『……う、うん。ありがと、でも……え?』

 フフフ、ギンガも響がやったことに気づいてないみたい。でも、響は微妙そうな顔してるなー。あれはきっと手札がまた一つバレたことなのかな? それとも……。ううん、あんまり深く考えちゃ今後に差し支えるしやめようか。

「それじゃ二人共、戻ってきて」

『『了解』』

 モニターを閉じて2人の到着を待つ……んだけど。フェイトちゃん。羨ましそうな顔しててちょっと笑いそうになったのと、奏が目を見張ってて、ちょっと怖かった。だって、震離が流連れて少し離れてたし。

 ……それにしても響とギンガって最近接点多いもんなー、大変だー。


 ――――


「で、ギンガはどうだった?」

 戻ってきた響に真っ先に確認をとれば、

「案の定。スバルとは正反対。鋭い連撃、重い一撃。高い所にあるバランスの良さ、正直初手合わせだったから勝てたというのが感想です」

 うん、流石よく見てるね。というか、軽く肩で息してる所を見るとやっぱり……。まぁ、それは説明してくれるだろうから置いといて。

「ギンガからは?」

「当たりそうで、当てられない。捉えたと思ったら捉えられたっていうのが多かったです。スバルから、対人では投げてくるという事を聞いていなければ、あれも対応出来ませんでした。そして、最後に止められたのも分からないです」

 うん、そうだよね。くるりと反転して皆の顔を見ると、隊長陣は気づいてるし、奏も震離も気づいてるけど。流とティアナが少し微妙な顔。スバル達は……うーん、気づいてないかな。

「じゃあ、響。説明してもらっていい?」

 そう言って再度振り向くと、すっごく嫌そうな顔をしたよ……まぁ、気持ちは分かるけどね、うん。

「あれは単純にワイヤーで四肢を縛ったというか絡め取ったと言うか」

「え、でもかなり私達動いてたよね? なんで? それに気づかないなんて、そんな事ある?」

 隣で話を聞いてたギンガが真っ先に疑問をぶつけた。確かにギンガからしたらそうだけど……。

「あれなー、動いてる様で動いてなかったよあれ。
 だって、あんまり範囲から離れたらバレてしまうから、その度に詰めて投げて、軌道修正してたんだ。何度か本気で範囲外というか、まだあんまり絡めてないのに外へ行きそうだったので焦ってたけど、そこがスバルとの違いだな。
 スバルなら多分小回りより、大回りで来るからワイヤーをぶっ千切る。でも、ギンガは細かく動いてくれるタイプだから上手く嵌ったんだ」

「……」

 初手に斬りかかった時には既にワイヤーを設置してたんだと思う。恐らく違う用途で使うつもりだったろうけど、予想以上にギンガが対策を取ってきたから、途中で切り替えた。多分投げだけに絞った時にはもう縛るって考えだったんだろうなって。
 あまりの事に呆然としてるギンガ、ふと後ろを振り向くと、スバルとエリオもポカンとしてる。うん、これはきっと。

「元はスバルやエリオ、そしてキャロ用にって考えてた手段なんですけど、今日使ってわかった。ツライ」

 深い溜め息と共に、カタカタと体が震えてる。うん、私もそう思うよ。だって響の魔力でそれをしようと思ったら辛いもんね。いや、でも……。

「でも響? 手持ち武装にワイヤーって入ってなかった? なんでわざわざ魔力で作ったの?」

「入ってますけど。あれ非殺傷設定出来ないやつなんで、こういう時には使わないですよ。今回は花霞に捕縛用の極細ワイヤー作って戦ったんですけど……。
 もうしないです、身体強化とワイヤーに魔力送ってなんやかんやしてると、無理ですね。俺じゃガス欠になって、継続戦が出来ない」

 やっと息が落ち着いたのか、普通の呼吸に戻ってる。うーん、やっぱり惜しいなー。こういう事を考えて実戦、それも悟られないように動かせる技術を持ってるのになぁ。

「やっぱりすごいなぁ。ねぇ響?」

「同じことやれっていうのは無理だよ。あれもうしないし」

 あら、ギンガが行った。

「ううん。簡単に魔力無し……あ、武器ありなら身体強化だけでさ、普通に組み手しない?」

「んー……まぁ、それなら」

 よしよし、今日はギンガと響を組ませて訓練させて……よし。

「じゃあ、震離は流と。皆は訓練を開始しようか!」

「はい!」

 それぞれが訓練メニューを行うために散っていく。だけど、目の前で模擬戦を見たせいなのか、モチベーションが高い。良いことだね。
 私の後ろでは響がギンガと、鞘と拳で打ち合ってる。さっきと違って魔力なしの立ち会い。うん、響もギンガも楽しそうで良かったよ。
 
 ――――

 そして、時間が経って、各訓練メニューの復習と今後の課題を伝えた後に。今日のメインイベントを。

「せっかくだから、今日もチーム戦。やってみよう! 内訳はギンガを入れたティアナ達フォワードチーム五人対、前線隊長四人チーム!」

「はい!」

 ティアナ達だけならもう少しでクリア出来そう。だけど、ギンガが居る場合は少しだけやり方を変えるつもりだけどね。
 アタッカーが二枚だから、それに応じた対応を。

「じゃあ、やってみよっか」

「はいっ!」

 気がつけば響達は脇に避けており、直ぐ様開始して、元気よく返事をしてた五人の声が悲鳴に変わったのは、数分持たなかったなーって。
 
 ――――
 
「はーい、じゃあ、今日はここまで」

「全員、防護服解除!」

「はい……」

 私とヴィータちゃんの掛け声で、5人揃って肩で息をしながら答える。やっぱり5人いると大変だ。

「ふむ。惜しいところまで行ったな」

「あともうちょっとだった」 

 撃墜判定を受けて先に待機していたシグナムさんと、フェイトちゃんも合流して。

「あ~、最後のシフトが上手くいってれば、逆転できたのに」

「ぅあ~。くーやーしーいー」

「フォロー足らなかったね。ごめんね~」

「そんな!」

「ギンガさんは全然!」

 それぞれが悔しそうに反省や、フォローをし合ってるその奥で。響達はこの後の事で作戦を組み立ててる。

「悔しい気持ちのまま、反省レポートまとめとけよ~。で、響、今日は落されねーぞー」

 意地悪そうな顔でスバル達にそう告げた後、響達をジト目で睨みつけるように見る。

「今日も落とすのはヴィータさんな。おっけ?」

「「はーい」」「え、あ、了解……です?」

 前回これと同じことをした時。ティアナ達とは少し変わって、隊長陣のうち誰かを落とすというルールだったけど、ギリギリの所でヴィータちゃんが落されちゃちゃったんだよね。
 だから、今回は。

「それじゃあ、前回の事を踏まえて。今日は半分落とせるよう頑張ろうか」

 そう伝えた瞬間、響が一瞬固まって、両手で顔を抑えながら俯いて。

「……マジカヨ」

「がんばろ、ね?」

 奏によしよしと頭を撫でられてるのが微笑ましかったなぁって。……フェイトちゃん? ちょっと私怨入ってない? 防護服着てないのに、なんでバルディッシュをサイズフォームにしてるのかな?

 ちなみにこの模擬戦の結果は、フェイトちゃんが強かった……以上です。


 ――sideギンガ――

「うーん、もう少し……どうにかしたほうがいいのかなぁ?」

「……抽象的だなオイ」

 目の前で肩をくるくると回してる響に話しかける。そして、少し考えた後。

「ま、捜査官って、基本的に室内戦とか、狭い場所、1対多とかあるから一重にこうとは言えんよなぁ」
 
 伸脚をしながら答えてくれる……けど。

「あの搦手だって、私だから通ってしまったし。今後気をつけないと」

「そうホイホイ居るもんじゃないが、その辺りは慣れだなー。今度復活してくるやつにその手の事が得意な奴居るからお願いしてみるといい。
 きっと力になってくれるよ」

「その時はお願いしてみるよ。それにしても手合わせしただけでわかったけど、強いね」

「いやいや、魔力ありなら俺が不利だよ」

 あっはっはと笑いながら言う響を見て、少し悲しくなる。せっかくあんなに動けるのにな、と。そういえばスバルやティアナが何時も言ってたっけ。響強いのに、自分は弱いって言うって。こういうことなのかな?

 そんな事無いと言おうと思ったら。

「ママー」

 と、子供の声が聞こえて、その方へ向いたら。嬉しそうな笑顔で走るヴィヴィオ。今日も元気そうで何よりだなーって。だけど、ちょっと勢いがついてるけど……って、コケた。
 咄嗟にフェイトさんが駆け出そうとするけど、なのはさんがそれを阻んで。

「大丈夫。地面柔らかいし、綺麗に転んだ。けがはしてないよ」

「それはそうだけど……」

 一瞬離れた場所に居た流が動こうとしたのが見えたけど、こちらも響が止めてた。だけど、なのはさんが言う通り地面は芝生だけど、足を捻ったりしなければ怪我の心配は無い。
 ふと、なのはさんがその場でしゃがんで、手を伸ばして。

「ヴィヴィオ、大丈夫?」

「うぇ……」

「怪我はしてないよね。ママはここにいるから、頑張って立ってみようか」

「う……なのはママ……」

「うん、なのはママはここにいるよ」

 なのはさんは両手を広げてヴィヴィオに自分で立ってくるように促し、ヴィヴィオはこっちに来て欲しいと言いたそうに目に浮かぶ涙を多くする。

「なのは、駄目だよ。ヴィヴィオまだちっさいんだから」

「あ」

 フェイトさんは心配そうになのはさんとヴィヴィオを交互に見つめた後、今にも泣き出しそうなヴィヴィオの姿を見て慌ててヴィヴィオの元へ走り出した。そのまま、転んでいるヴィヴィオを起こして服についた土を手で払い、ヴィヴィオの体をゆっくり抱き上げながら声をかける。

「フェイトママ……?」

「うん。気をつけてね。ヴィヴィオがけがなんかしたら、なのはママもフェイトママも、きっと泣いちゃうよ」

「ごめんなさい……」

「もー。フェイトママ、ちょっと甘いよ」
 
「なのはママは厳しすぎです」

 何というか、お二人の性格が出た。フェイトさんはまだ小さいヴィヴィオに、自主性をしっかりと意識させるのは早すぎると言った感じで……逆になのはさんは、小さいからこそしっかり自主性を付けようと言う感じか……単に方向性の違いだけかな。
 お二人でバランスが取れてるようにも見えるし。
 それにしても、あの2人がママなんて……なんというかとても力強いよね……。

 
 
――side響――

 朝食前に、あいつら4人が居ないことが気になって、なのはさんに話を聞いて少し驚いた。確かに108部隊への出向が終わり、今日から六課に戻ってきたらしいけど。今こっちの仕事を片付けに奔走しているらしい。
 ただ、向こうで復帰プログラムを自分たちで実施していたらしいから、配属先が決まり次第、色々訓練を行うらしい。

 で、現在の状況はと言うと。

「あ~ん。ん~」

「よく噛んで食べてね」

「うん~」

 朝一ですっ転んで泣きじゃくっていたヴィヴィオが、笑顔でオムライスを口に運んでいるのを見て、ほっこりしている所だったりする。珍しくはやてさんを始めとしたヴォルケンリッターの皆さんも食事を取ってる。ただでさえ人が多い食堂も更に人でごった返してる。

「しっかしまぁ。子どもって泣いたり笑ったりの切り替えが、早いわよね」

「スバルのちっちゃい頃も、あんなだったわよね」
 
「え! そ、そうかな?」

 そんな中、ティアナとスバル達はそれぞれ話を膨らませていた。話を振られたスバルは恥ずかしそうに顔を赤くしてる所を見ると、本当だったみたいだな。
 
「リインちゃんも」

「えー!? リインは初めっから割と大人でしたぁ!」

 そんなやり取りを見ていたシャマル先生が、リインさんへ懐かしそうにそう言うけれど、不服そうに起こって反論。だけど……。

「嘘をつけ」

「身体はともかく、中身は赤ん坊だったじゃねぇか」

「うー……はやてちゃん! 違いますよね!?」

 シグナムさん、ヴィータさんがそれぞれ言うけど、顔は柔らかい。

「あはは。どうやったかなあ?」

 何か昔話トークで盛り上がってる所悪いんだけど、こっちに話題振られないかと少し心配。なんでかって言うと、そこで震離と奏が振られないようにって少し小さくなってるから。
 まぁ、この2人幼少期と今とじゃ全然性格異なるからなー。震離は本質は変わってないけど、それでも昔の話なんて恥ずかしいだけだろうし。奏なんて凄く委員長って感じだったもんなぁ。
 しかし、なのはさんとフェイトさん、そして、ヴィヴィオの居るテーブルにいる流が何か不憫というか、縮こまってると言うか。名前で呼ぶようになったと言ってもやっぱり上官相手だと萎縮するんだよね、あの子は。
 当然といえば当然なんだけど……。

「そう言えば響?」

「うん?」

 ふと、隣のテーブルから不思議そうな顔でギンガが声を掛けてきた。その視線を追ってみると流が居るけど……なんだろ?

「姉とか妹って居るの?」

「ん? いや? どうした?」

「そっか」

 ふーんって感じで納得してくれた……のかな? 付き合い長いせいで妹っぽくなってるのが震離に当たるけど、幼馴染の皆しか知らんし。まぁ、あんまり言うことでもないしなー。
 ふと、周りの視線が一箇所に向いてるのに気づいて、その視線の先を見ると……あぁ。

「駄目だよ、ヴィヴィオ。ピーマン残しちゃ」

「苦いのきらーい」

 と、ヴィヴィオがピーマンを残そうとしている所だった。まぁ、ピーマン苦手な子って多いよね。
 ちらりとヴィヴィオが助けを求めるように、流を見るけど……、あ、目逸らした。多分先になのはさんに釘刺されてたんだろうなー。
 
「えぇ、美味しいよ?」

「しっかり食べないと、大きくなれないんだから」

「う~ん、そやな~。好き嫌い多いと、ママ達みたいな美人になれへんよ~?」

 両隣の最強マザーズと、はやてさんに言われて、さらにピーマンを見る目が険しくなるヴィヴィオ。ちらりと視線をずらせばちょうどエリオにニンジンを渡そうとしているキャロの手も止まり、そのまま自分の口に入れた。後はヴィヴィオだけだけど……。

「うぅ……にがーい」

 意を決してピーマンを一気に食べるけど、やっぱり苦そう。一緒に食べたら良いのにねー。


 ――――

「じゃあごめんね。ちょっとスバルとギンガ、お借りしていくわね」

「はい、よろしくお願いします」

 朝食を終えた後、マリエルさんがなのはさんにギンガとスバルを借りていく旨を伝えてる所に遭遇。そういや今日はオフになってたなー。
 なんて、考えてたら。

(ねぇ、響?)

(ん? どうした?)

 スバルからの念話に、ちょっと驚くけど、話を聴く。

(あの……響達の事さ、話しても平気……かな?)

(俺達のこと? ……あぁ。この前の流の件は秘密だけど、俺達の件ならナカジマ隊長になら良いよ。実際口固いだろ?)

 別に隠してる……わけじゃないけど、公言されるとまたややこしい。だけど、スバルもその辺わかってるだろうし、あの人なら文字通り平気だろ。

(うん、それは大丈夫! ねぇ、私やギン姉が隠し事してるって分かったら軽蔑する?)

(……それは俺達に対する嫌味かな?)

(ち、違うよ!)

 シュンとした所をすかさず茶化す。

(そんなもん誰だって隠し事なんて沢山あるだろう。それこそ最近の俺なんて隠し事のオンパレードだろ。戦闘においてもまだ隠してることあるし)

(……うん、そうだよね。分かった!)

 そう言って、マリエルさんと共に外へ行った。それにしても、その程度で見方なんて変わんねーって。ふと、シグナムさんとシャマル先生が手招きしているのが見えて、そちらへ向かう。

「緋凰、お前はスバル達の事、どこまで知ってる?」

 開口一番これか……ということはやっぱり何かあるんだな。それに達って事は……ギンガもかな?

「まだ何も。ただ、今しがたスバルから、それらしき事……というか、秘密にしていることについてどう思うかって聞かれました」

「……そうか」

「響、大丈夫だと思うけど、話を聞いたらしっかり向き合ってあげてね?」

「えぇ、勿論」

 回答としては正しいのかどうか分からないけど、シャマル先生もシグナムさんも、優しい顔つきになったのをみて、安心した。大体隠し事なんてねぇ、人だもん沢山あるに決まってるわ。
 会釈をして、とりあえずロングアーチへと向かう。久しぶりに帰ってきたあいつらの顔でも拝もう。そして、煽ろうっと。


――side震離―― 

 だめだー、ヒットしないー

 なんてことを叫びそうになるのをグッと堪えて、モニターの検索結果と、表示データとにらめっこする作業に戻る。検索ワードは2つ。

 キュオン・ドナーシャッテン。そして、ヴァレンという名の人物。

 前者については、古代ベルカ時代に存在した最強と呼ばれた人物の一人。しかも聖王に敵対した吸血鬼……と言うより悪魔として扱われている。まぁ、そのへんは置いといて……大事なのは容姿についての情報だけど、これも見たまんま一致した。けど、それだけだった。肖像画とか無いかなーと思ったけど、全く出ないんだよね。

 まぁ、情報が出ないのは察してた。けど、あの人が言ってた通り自分は吸血鬼っていうのも納得できる。

 マリ・プマーフ……英名にすると、Mri・pmav。頭のMを横に倒してEとして捉えればEri・pmav。そして、それをひっくり返せばVampire。よくあるアナグラム。だけど割と喧嘩売ってる名前だよね……バレたらやばいって分かってたろうに……。

 まぁ。マリさん……というかキュオンさんはまた今度会う約束してるし、その時に色々聞こう。うん。

 問題がこっちだ。ヴァレンという人物。この名前自体はヒットした。ヴァレン・アルシュタイン。もしくはヴァレン・A・L・シュタイン。どっちなのか分からないし、区切っているところもあれば無いところもあるから分からないが、基本的に前者の名前だね。
 聖王オリヴィエの前の代、聖王ヴィヴィアンの守護騎士団の一団長として、名前があった。ただ、この資料だと、この人物は聖王オリヴィエにも仕え、覇王と聖王と共に戦ったと書いてある。他の文献も似たようなものだ。
 だからこそ変だなと思う。あまりにも正義の味方……どちらかと言えば聖王に尽くした人物というイメージがつけられているようにも見える。
 そして、もう一つキュオンさんの所、ヴァレンと呼ばれる人の記述にもある名前。
 アオスシュテルベン・リューゲ。名前の意味を考えたら人名だと気づくのに少し掛かってしまった。だって、意味が酷いもん、直訳して絶滅する嘘って何さ。
 だけど問題なのがこの人物。この人物が筆頭となって聖王ヴィヴィアンに戦いを挑んだ、そして滅ぼされたと書かれている。この際キュオンさんもこの人物に力を貸してたみたいだけど、一緒に滅ぼされたと記載されている……でも実際は自称かもしれないけど居るんだよね。
 まぁ、何が言いたいかって言うと、この人物が挑んだ時に、ヴァレンは何もしてないことになるんだよね。まぁ、記載が無いだけ何かしてたんだろうけど……。
 その割にヴァレンのイニシャルと、アオスと呼ばれる人の頭文字が一致するのは妙な所だが。

 まぁ、資料少なすぎてわっかんねー! だめだー。
 
 こういう文献個人の考えで染まってるからダメだこれーもー。強いてわかったのが、アオスって人と、キュオンさんが一緒に居たってことなんだけど、遺跡のアイツはヴァレンだと言ってた事を考えると……同一人物? まさかね? これはまた今度調べようっと。ダメだちょっと調べた程度でこれだもん、信頼できるソースを見つけて行かないと。

 ぱちりと、端末の電源を落として椅子にもたれ掛かる。分からないことだらけだなぁっと。ライザ・ジャイブさん。流の上官も名前では出なかった。まぁ、普通に出るとは思えないし……。

「何してんのよ震離?」

「あ、ティアだー」

 声が聞こえたと同時に、意識を切り替え、声の聞こえる方へ首を向けるとティアが居た。何か飲み物持ってるけど休憩に入るところかな?

「はいこれ、もうずっと何か調べてるでしょあんた?」

「……あら、どういったことでしょう?」

 ちらりと時計を見れば既にお昼前。しまった。やらかした……。

「何か分かったの? どうせこの前のシスターの件調べてたんでしょ?」

 しかも全部とは言わないけど、一部バレてるし。最初にマリ・プマーフって検索して教会のリスト漁ってたの見られてたか……。

「全然わかんなかった」

 ニコっと笑っていう。すると、ニヤリとティアが笑うのを見て、一瞬焦る。

「なるほど、私にも判断付くようになったわ。昼に行きましょ」

「え、えぇ、ちょっとティアさん!?」

「ほら行くわよー」
 
 ニヤニヤ笑うティアを慌てて追いかけていく。判断付くようになったって、何が!? ちょっと、ティアさーん!?




 この時、もっと皆とうざがられる位接しておけばって、後悔ってわけじゃないけど、そう思った。もっと色々すればよかったって。

 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。 
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