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デート・ア・ライブ~Hakenkreuz~

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第九話「ホロコースト・Ⅰ」

「待ってくれ!」

そう言って二人の間に飛び出た五河士道は一瞬で後悔した。なぜなら今まさに機関銃から弾丸が放たれようとしていた所に入ったからだ。彼女が士道の言葉に反応しなければまず間違いなくハチの巣にされ肉塊へと変えられるだろう。

「…何のようだ、五河士道。それに貴様は先ほど…」

「…それについては詳しくは俺も知らない。けど、その前に先ずは俺の話を聞いてくれ!」

士道は彼女がここにいる理由や先ほどミンチとなったはずの狂三が生きている事など聞きたいことが山ほどあったがまずは彼女に呼びかける。後ろにいる狂三は士道の邪魔をする気はないらしく特に危険な気配はしなかった。ただそれ以上に目の前にいる彼女は直ぐにでも士道ごと狂三を肉塊に変えても可笑しくない程戦意で溢れていた。とは言えそれをやっていないと言う事は少なくとも自分の話に耳を傾ける気はあると言うのだけは分かった。士道は次の言葉を言うためにつばを飲み込み口を開く。

「君が何で狂三を攻撃するのかは分からない。だけど少しだけ攻撃を止めてくれないか?」

「…何故?今のそいつは私の敵だ。憎むべき敵だ。邪魔をするな。殺すぞ?」

彼女はそう言いながら、機関銃を士道に向ける。人を呆気なく肉塊に出来る武器を突き付けられ士道を言い知れぬ恐怖が襲うがここで退いてはダメだと判断し一歩前に出る。

「頼む!俺に時間を…」

「…いや、どうやら君が欲しい時間は相手にとっては必要なかったようだ」

彼女が急に機関銃を下げると同時に士道の体は複数の手によって掴まれ拘束される。

「ぐっ!?く、狂三!?」

「きヒヒヒ!士道さん、もうまどろっこしいのは止めにしましょう。役者もそろった様ですし」

「?何の事だ」

「シド―!大丈夫か!?」

「士道!」

「兄さま!」

士道の耳に聞きなれた三人の声が聞こえてきた。一人は最初に封印した十香、一人は自分を過剰なほど慕っている鳶一折紙。そして最近妹だと言う事が判明した崇宮真那の三人だ。

「あらあら、皆さんお揃いで」

「おのれ狂三!戦いの途中で逃げるとは…っ!」

「もう逃がさない!」

十香と折紙はそれぞれそう言った後顔を見合わせる。お互い別々の場所で狂三と戦っていたようだ。

「まあ、恐ろしいですわ。こんなにもか弱い私に大勢で襲いかかろうだなんて。…でも【SS】さんも今日は本気の様ですし私も全力でお相手して差し上げますわ」

狂三はそう言うと右手を天に掲げる。

「おいでなさい!〈刻々帝(ザフキエェェェェル)〉っ!」

狂三の言葉と共に後方に巨大な時計盤が現れる。そして狂三は両手に古式の歩兵銃と短銃を持つと十香達に向ける。

「さあ!さあ!始めましょうっ!」

「ふんっ!またいつもの様に殺してやります!」

「狂三!シド―を離せ!」

「きヒヒヒ!貴方たちでは私を殺しきる事など不可能ですわ!」

狂三がそう言って〈刻々帝〉の力を使おうとした時であった。ゴロゴロと思い何かが転がる音が響く。屋上の床を見れば一つの柄付き手榴弾が両者の間に転がってくる音であった。

「っ!」

「へ?うわぁ!」

「シド―!」

「くっ!」

「これは!」

狂三は士道を連れたまま後方に大きく下がり十香はそれを追いかけようとするが爆風の壁に防がれてしまう。折紙と真那は大きく下がり昨日同じものを目の前で受けた真那はその正体に気付く。

「…私を無視して戦争を行うのはやめて欲しいね」

両者の中間、手榴弾による爆風が終わった後そこには先ほど以上に不機嫌な彼女の姿があった。手榴弾を使ったためか両腕に持っていたMG42は右手にしか握られておらず左手には何もなかった。彼女は左右を見渡すと懐から古い煙草を取り出し一服する。

「ふぅ、…崇宮真那。これは私の獲物だ。今日の所は退いてもらおう」

「ふんっ!誰がてめぇなんかの命令を聞きやがりますか。ナイトメアごと殺すまでです」

「…そうか。ならやる事は単純だ!」

彼女はそこまで言うと一旦区切る。瞬間彼女の周りに膨大な霊力が集中してくる。圧倒的な霊力の奔流にその場にいる全員が息を呑む。

「出でよ!〈無名天使(ノーネーム)〉!」

彼女がそう言うと同時に霊力が集まり彼女の両手にに集まりそれは手袋という形で現れた。黒い手袋だが手の甲には鉄製の真っ赤な鉤十字があしらわれていた。

ただの手袋、なれど見る物が見れば警戒せざるをおえない力を有していた。

「こちらの準備は整った。後は貴様等の方だ。さあ、まずは誰からだ?かかってくるがいい」

既に彼女を無視できる者はこの場には存在しなかった。先程まで自らの天使を出し戦意高揚していた狂三も、その宿敵である真那も精霊を憎む折紙も霊力を封印された十香もその霊力を封印した士道も彼女を抜いて何かをする事は出来なかった。

既にこの場は、彼女の圧倒的な力と雰囲気に呑まれ、支配されていた。

「来ないのか?」

彼女の言葉に答えることが出来る物はいない。彼女の一挙手一投足に目を離せない。離せば最後、一瞬で命を刈り取られる。そんな思いがここにいる者たちの心の中に巣くっていた。

そして、誰もが動けないこの場で彼女は失望したように息を吐くと口を開いた。

「なら、こちらから行くぞ」

瞬間、彼女による大虐殺(ホロコースト)が幕を開けるのであった。
 
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