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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第31話 もう一度の挨拶と違和感


――side響――

 あれから、流をシャマル先生の元へ預けて、ブリーフィングルームへ向かってる最中。ぐるぐると先程の光景が頭をよぎる。
 いや、正確には流も心配だけど、それ以上に()も心配になった。

 医務室へ行くと中には、制服の上着を何枚か掛けられて、お腹を抑えて、顔色も真っ青な奏がそこに居た。

 顔色とか、その様子を見て察する。と言うか、なんというか。付き合い長いですし……。奏も立派な女性ですし。どれくらいツライものか男の俺はわからないけれど、見ているだけで、それは非常に辛いものだと分かる。
 震離もつらそうだけど、堪えられるって言ってたし……だけど、奏の場合は非常にきついらしい。

 顔色と様子を見て、シャマル先生が慌てて薬の用意等を初めてる間に、流を空いてるベッドに横にする。奏もしんどいらしく、まだ俺たちが来たことに気付いてないらしく。時折苦しそうにうめき声を上げてた。
 付いていてあげたいけど、以前にそれしたら凄く怒った……まぁ、それも俺の判断ミスだし、よくよく考えればそれも当然だよなと納得したし。

 シャマル先生に念話で2人をお願いしますと。そう伝えた後は、ブリーフィングルームへ一直線。多分震離が報告するだろうし、理解も頂けるだろう。よっぽどの事……もっと言えば、緊急じゃない限り、奏を前線に出すってこともしないだろうしね。

 まぁ、後でお見舞いに来よう。寝間着ではないとは言え、格好整える暇もなかったらしく髪も若干荒れてたし……。

 なんて考えてると、既にブリーフィングルームの前へいた。

 あー、駄目だな。流も心配だし、奏も心配だし、心配事が多いなー。
 
「おはよ……って、誰もいねぇ」

 ガランとしたブリーフィングルームで一人、寂しく座って待つことになりました。


――side震離――


「いや、ホントごめんね二人共?」

 2人に飲み物を奢りながら謝る。スバルはジュースを、ティアナにはコーヒーを。そして、私は紅茶を。
 朝一番に、奏を起こす作業をいつもしてるけれど、今日は少し様子がおかしく。小さく縮こまって、お腹を抑えていた。その時点で何かわかった。だけど……。
 完全に顔面蒼白な奏を一人で運べるわけでもなく、朝一番から申し訳ないな-とか思いながらティアとスバルの部屋に行って、事情を話す。

 流石ティア、事情話したら一発で協力してくれた。ほんとありがたい! スバルも直ぐに湯たんぽ作るって言ってくれたし、持つべきものはいい友だ……私なんて薬しかあげてないし……。

 で、そんなこんなでほぼ死に体の奏を医務室に寝かせようとすると、座ってる方が楽だとのことで、椅子に座らせ、ちょうどいい湯たんぽを太ももの上に置いて、上着を掛けて、冷えないようにして。
 そういうことをしていると、スバルのデバイスであるマッハキャリバーと、ティアのクロスミラージュに連絡が入って、午前の訓練は中止。6時半にブリーフィングルームへ、そう連絡が入った。
 まだ少し時間があるということで、2人に手伝ってくれた御礼として飲み物を奢ってるというわけで。2人に飲み物を渡して、と。

「別にいいわよ。だけど、奏のはそんなにツライものなの?」

 小さくありがと、と言いながらティアナが心配そうに聞いてくる。スバルも同じ気持ちらしくジュースを飲みながら頷いてる。

「そうだねー間違いなくキツイ方だねー。私は凄く運がいいとさえ思う。少し気分悪いなーって思う程度だもん。ここ数ヶ月来てなかった分余計にかな? 後は向こう2週間は絶不調。しかも今までの経験則だと間違いなく近いうちに後一回は来る」

「「……うわぁ」」

 説明すると納得してくれたらしくそれ以上は言わなかった。実際奏の場合は特に酷い。凄く不定期で尚且、うめき声を出す程酷い痛み。しかも調子が悪い時は熱や嘔吐までやってくるし、今回のはまだマシな感じ。市販薬で抑えてるけど、それでもキツイのはよっぽどだ。
 いつだったか、何個か前の部隊で休ませてほしいと伝えても無理して出て、響がその隊長をどつきまわした時には驚いたっけなぁ。

「そう言えば、今日の午前の訓練何かあったのかな?」

「……うーん。短く一言だけだし、今日は違う事をするか、もしくは不具合が起きたのかしらね」

 スバルとティアの会話を聞きながら、そう言えば昨日の晩御飯の時、響と流来なかったな-と思ったりする。いやーあのロン毛。エリオとキャロは勿論、ヴィヴィオちゃんにも悲しい顔させたのはギルティなんだけど、どうしてくれようか?
 ……それににしても、響に背中押してもらったのに、まだ流としっかり話せてないんだよね。や、話はしてるよ。他愛もない話。スターズで話する程度には全然。
 
 あれ? って思ったのが、分隊訓練をしていた時だった。
 スターズ、ライトニングにしっかり別れた場合の戦線の組み方、絡め方、展開を確認している時に。
 私は割と合わせられる。慣れてるし。それより組みにくい人とかと組んでた事あるし。
 ティアも割と合わせてくれるからやりやすかった。中距離をメインにしているし、私もいざとなれば近距離出来たし。
 
 だけど、割と相性が悪いと言うか……何処か合わないのが、流とスバルだった。
 スバルを前に立てれば、流の射撃、砲撃が上手く通らず。むしろ味方を撃ちそうになっていたし。
 流を前に立てて、スバルと同じラインにすれば、一応は噛み合うけれど、本質は全然上手く噛み合わず結局各個撃破してたし。
 それでも流は一歩……いや、上手くタイミングをずらしてスバルに合わせようとしていた
 ティアナと組めば、バレない程度になのはさんの弾幕削って、少しでも被弾を抑えようとしてたし。
 ようやく最近その事実に気づいて、見る目が変わったのかな? 割と話をふるようになったし。

 ただ割と面白いのがティアは割と普通に接するのに対して、流がぎこちないのが面白い。

「案外、響が何かやらかしたんじゃない? そのせいだったりして」

「「あー、分かる」」

 最近ははやてさんの仕事手伝ったりしてあんまり付き合いが減ってきたんだよね。

「最近は付き合いもないし……埋め合わせさせようか? あれ、色々ミッドの美味しいお店知ってるし」

「アイスある? ギン姉と遊ぶ時用に色々調べておきたいんだー」

 アイス!? アイスは……どうだろ……あ、でもいつか響に連れられたお店にそれっぽいのを思い出して。

「……多分」

「やった、今度エリオもキャロも連れて皆で行こう!」

 ガッツポーズを取るスバルを見て、ティアと2人で顔を見合わせる。そして、小さな声で。

「……響の財布死んだわね」

「まぁ、うん」

 あはは、と笑って誤魔化すしかできなかった……。ごめんね響。知らない所で遊びに行く約束して。
 しかし、なんでまた訓練を中止にしたんだろうか? 

 あ。しまった。

「いけない。キャロ置いてきた……」

「「あ」」

 3人で顔を見合わせて、慌ててキャロが好きなオレンジジュースを買って3人で迎えに行く。

 いつもの待ち合わせの場所に一人寂しく待っていたのを見て、事情を説明。そして……。

「……なにかの病気ですか?」

 この一言で、3人揃って頭を抱えました……。まじかー。とりあえず、なんとか誤魔化して、納得してない様子だったけれど、無理やり押し通しました。
 

――side響――

「でな? その娘の写真がすっげぇ可愛くて、今では整備員の中では話題沸騰だぜ?」

「マジすか?」

 暫く仕事がなくて暇だとのたうち回る兄貴分こと、ヴァイスさん。俺が一人でブリーフィングルームの入ってくのが見えたらしく、俺が入ってすぐ入ってきた。なんでここに? と聞かれたけど、流石に俺が流の状態をいうのもなんか違うし、なのはさんやフェイトさんが伝えることだろうと、あえて知らないふりをしてみた。
 別に疑ってるわけじゃないけどね、普通にいい人だし、いつだったかティアナが暴走した時もなんやかんやでフォローしてたし。

 で、今の話題はと言うと。

 シグナムさんが女の子の写真を持っていたということで話が弾み、今に至る。

「しかし、どんな娘なんですか?」

「ん、あぁ、写真データ無いからな……何ていうか、だけどあれは教会のシスターだ」

「……はぁ」
 
 いやぁ、ヴァイスさん流石にそれだけじゃいくらなんでも絞り込めないっす。
 そして、アーチェじゃないな。しかもまだ、俺らの関係言えてないから、良い印象をヴァイスさんが持ってるとは思えないし。

「でもなんでまた?」

「ん? あぁ、姐さんの話だと。なんか昔見たことあるらしいけどよく覚えていないって言ってたな。顔忘れないように持っておいてあった時に聞いてみるってさ」

「ふーん。珍しいようなそうでもないような……」

 個人的に思ったのが夜天の書関係かなーと思ったけど、それなら多分見られないようにするだろうから違う。次に思ったのが、その方が強くてシグナムさんの御眼鏡に適ったからかなと思った。あの人そういう人見つけるの得意だろうし……。

「そろそろ、いい時間だし行くわ」

「了解です。また聞かせてください」

「おう、じゃ」

 ピッと手を上げ去っていく。なんというか、ホントいい距離感の人だよなぁ……、俺もああなりたいけど、なんだかんだで手をかけるから、出来ないや。

 さー、てー、と。皆が揃ったら何ていうかね。奏は……そんな余裕ないだろうし、一旦は置いておける。一番の問題が震離なんだよなぁ……、アイツがああなってショックが先は、可愛いが先か……どっちだろうね。

「あ、兄さん。おはよう」

「お兄ちゃんおはよう」

「おう、おはよう」

 扉が開いて、エリオとキャロが入ってくる。それに次いでスバルにティア、震離に隊長2人。

 正直な感想をいうと。まじかよとなりました。皆一緒に移動してたんだね、ヴァイスさんいたからなんとか暇潰してたけれど、いなかったら寝てた自信さえあるわ。自然とライトニング、スターズといった具合に分かれて座る。俺の両隣にエリオとキャロがいて、反対側にはティア、震離、スバルといった具合に座る。そして、一番前にはなのはさんとフェイトさんが立った。
 
 さて、皆席に付いた所で、今回の事の顛末が説明された。


 ――――

 で、説明が終わって現在医務室で様子を見てることを伝えられた。そして、流の検査が終わり次第、順次俺たちにも検査をするとのこと。特に間近で封印したキャロと、それを見守ってたなのはさんは一番目に調べる。そう伝えられた。
 なので、本日は全員が検査が終わり次第訓練をするけれど、場合によっては中止になると言われる。一応、今日来る予定だったアーチェにも伝えられたが、何やらそれどころじゃないらしく、追って連絡が来るらしい。
 ギンガも朝練後に合流予定だけど、アーチェから応援要請を受けたらしくそちらに行くらしい。
 
 まぁ、それはそれとして、流の身に起こった事はまだ言われてない。そして、それは……

「で、一番の問題が、そのロストロギアの影響を受けた流なんだけど……」

 一拍置いて間を開ける。その間皆が息を飲む。その中でも震離は特に心配そうだ。

「現在女の子になって、記憶が無いみたいなの」

 瞬間、殺気が飛んできました。勿論相手は対面に座る震離から。

「……手ぇ、出してないでしょうねぇ?」

「出すわけ無いだろうバカ。ただ、現実逃避ならした」

 ジィっと睨む震離をよそに、皆の視線が俺に集まる。

「それに、第一に流の記憶が無くなってるみたいだからそっちの方も大変なんだよ」

 しん、とブリーフィングルームが静かになる。なのはさんとフェイトさんには既に伝えてある。だが、ティア達4人は驚いており、震離にいたっては時間が止まったかのように動きを止めた。

「ただし、自分の名前はわかってる。だけど、性格は完全に別人みたいになってる。なんというか、幼い感じ」

 机に肘ついて、頬杖しながら今朝の様子を思い出す。

「だから、前もって言うよ。初めて会う対応されるかもしれないけど、そういうものだと思って接してくれ」

 そう話すけれど、皆の表情は暗いままだ。だけど、無理も無い。昨日の仕事の後、少し見ない間に女性になってるだけじゃなく記憶もないと言われれば。
 ふと、視線を隣に向けると。

 キャロが泣いてた。

「うぉ、大丈夫キャロ?」

 慌てて頭に手を置くと、涙目で俺を見上げる。

「昨日、わ、私、失敗……したんじゃないかな、って」

 ボロボロと涙を流しながらいうキャロを優しく撫でて、ハンカチを取り出す。

「それはない。実際昨日のあれ、なのはさんから満点って言われたじゃんか。それにさ、一瞬で発動するタイプだったんだろうし、あんなん対応しようがないよ。
 それに説明では害がないって言われてたから、皆で研修って形になったんだし、キャロが失敗したからとかそういう事はないよ」

「で、でも」

「それにだ、皆で話してたら記憶は戻るかもしれない。必要だったらあれとってきて解析すりゃいいんだから。解決方法はあるよ。だから責任感じなくていいんだよ」

 よしよしと撫でながら、ハンカチで涙を拭う。

「あと、記憶が戻ったらいいネタになるしな。間違いなく恥ずかしい黒歴史だろうし、後で皆で会うんだし。皆見たら可愛いっていうと思うぜ」

 スターズ側がずっこけてるけど気にしない。なのはさんもフェイトさんも苦笑い浮かべてるけど、気にしない。

「はい、響質問」

「はい、なんですか震離?」

 椅子に座り直しながら手をあげる震離にどうぞと手を伸ばす。

「可愛いのは知ってる。それでどうにかなる私だと?」

 意味もなくどや顔で決めてる震離。いや申し訳ないんだが。

「現実逃避で、俺が髪型セット、少しダボッた流のインナーとズボン。花霞の和風の上着を羽織ってる。それが可愛くないだと?」

 言ってて何だが、割と凄いことしてるな俺。固まるFW陣に対して、フェイトさん達から乾いた笑い声が聞こえたと同時に、座ってた震離が消える。それに合わせて、俺も動く。
 出入り口の前で取り押さえて。

「行かせて! マジで行かせて! 見たいよおおおお!」

「ざけんじゃねぇ。せめて検査終わって医務室から出てきたからだ。今奏が向こうで死んでるだろうが」

 後ろから羽交い締めにしてジタバタする震離を無理やり止める。

「くっそぅ! くっそう! せめて、写真を、写真を! コレクション(・・・・・・)に追加を!」

「ダメだつってんだろう! つーかお前も持ってるんかい!」

「え、ほしいなら見せるよ。けど、あげないけどね!」

「……ねぇ二人共」

 再び時間が止まったような感覚に、振り向いてなのはさんの顔を見ると、なのはさんがニッコリと笑ってる。そして、フェイトさんは少し離れて、4人を保護してる。うん。

「もう少し落ち着こうか?」

 なのはさんの周りに、桜色のスフィアが現れて……。うん。

 死んだわ。


――sideフェイト――

 なのはが怒って、響と震離にお話をしている間に、キャロの前に屈んで……。

「大丈夫、響も言ってたけれど、大丈夫。責任があるとしたらしっかり調べなかった私達にあるから」

「……はい」

 未だ涙目のキャロの手を取って大丈夫と声を掛ける。実際あの封印自体は完全に成功していた。封印をといた一瞬で効果を発動なんて、防ぎようがない。そう言えば、響があのロストロギアを受け取った時。なんか禍々しいと言っていたのは本当だったんだと、今になってわかった。

「それで、その……今日はどうするんでしょう?」

「そうだね。検査はする関係で、午前はデスクワークをして。もし何か、体に変わった事が起きたら直ぐに報告してね」

「「「了解」」」「……了解」

 皆から少し遅れてキャロの返事も聞こえる。本当に気にしなくていいんだけど、キャロの性格を考えると、やっぱり難しいよね……。
 ちらっと、なのはの方に視線を向けると、ちょうど終わったらしく、お話を聞いた2人が項垂れてた。

「さて、と。私とキャロが検査のトップバッター。医務室で待機って言われてるの。行こうか?」

「……はい!」

 涙を拭いて、なのはの後を着いていく。それを見送って。

「さて、皆今日はこの前処理できなかった分を終わらせようか?」

「「「はーい」」」

 ふと、腕を組んで考え込むような仕草をしてる響に目が移る。どうしたのかな? と声を掛ける前に。

「……ヴィヴィオになんて説明するかな」

「ぁ」

 何処か遠くを見ながらいう響に、皆の口から小さな声が漏れる。ヴィヴィオと流の仲がいいのは皆知ってる。というよりも私やなのはが側に居ない時。大体流の側に行こうとする。初めの方こそ皆驚いてたけど、一生懸命ヴィヴィオの相手をしようと頑張ってる流を見て、微笑ましいと思ったくらいだ。

 だからこそ響の疑問に皆答えることが出来ない。今の流もきっと優しく接してくれると思う。ヴィヴィオも髪が伸びたくらいでは変わることは無いだろうけど。今の流は記憶がない。忘れられたということは割とショックだから……響はそれを心配してるはず。

「……まぁ、仕方ない……ってわけじゃないけど。事前に簡単に説明して、それで泣いたら諦めよう。仕方ないって」

 力なくいう響に皆苦笑いを浮かべるしか無かった。すると、ブリーフィングルームのモニターが起動して。

『あーいたいた。皆おはよう。で、響。ちょっと相談があるんやけど、ええ?』

「あぁ。おはようございますはやてさん。で、どうかしたんですか?」

 特に驚くわけではなく普通に対応してる。

『なのはちゃんから聞いたんやけど……』

「え、また書類整理ですか? 今日奏が居ない関係もありますし、何より仕事溜まってそうなんですけど」

『ちゃうちゃう。それもしてほしいけど。それはまた今度お願いや。今回は優夜達の件。なのはちゃんや、フェイトちゃんも交えて何処に配置するか決めたいって話や』

「……えぇ。まだあるんだ……。了解です」

 渋々ながら納得する響を見て、皆同情するようなかわいそうなものを見る目になる。ここ最近はやての仕事を手伝うようになったとは言え、響にも仕事はある。
 最近は奏がなんとか対応してたみたいだけど、それでもやはり限界はあったみたいで、仕事は残ってる。加えて今日は奏が居ないからその分を片付けるようだから、あまり余裕はなさそうだけど……。

『それで響? 流の様子はどうやったの?』

「え、あぁ。記憶なくして女子になって少し幼くなって。それ見て現実逃避仕掛けましたが?」

『そっかー……フヘヘ』

 はやて?!

「うわぁ。邪念しか無い」

『冗談や冗談……フヘヘ』

 どうしよう全然冗談に聞こえない。

『とまぁ、これも冗談で……響。昨日の件。なのはちゃんの話やと、響だけ違うもんが見えたって聞いたんやけど?』

 スッと真剣な表情をして、皆も自然と緊張する。内容は昨日のことだ。

「えぇ、と言っても自分も一瞬鏡の様に見えただけなので、それ以上は何も。今思えばあの一瞬で流を見ていたんだと、今なら予想がつきます」

『……そっか。わかった。今日聖王教会から取り寄せ直す。そして、詳しく調べようか。ほなら皆もなんかあったら教えてな?』

「了解!」

 その場で居た全員で、敬礼した後通信が切れた。

「さて、皆行こうか?」

 そうして、皆でブリーフィングルームを後にした。
 

――sideなのは――

 医務室に入ってまず目に入ったのは。

 湯たんぽを膝下に起きながら、突っ伏してる奏の姿だった。

 そう言えば、連絡聞いてたけど、本当に辛そう……。確か震離の話だとかなりキツイらしい……。

 眠ってるようだけど、時折聞こえるうめき声で辛いのがよく分かる。

「奏さん……具合大丈夫でしょうか?」

「う~ん。なんとも言えないね。シャマル先生ならきっとなんとかしてくれると思うけど、不安定らしいし、辛いと思う……」 

 震離から連絡を受けた時、なんというか説明を聞いただけで痛くなった。フェイトちゃんも同じだったらしく若干青くなりながらお腹を抑えてたし……。

「? 不安定って何度も来るんですか?」

「……え?」

 不思議そうな顔で首を傾げるキャロを見て、私も一緒に首を傾げる。

「……キャロは、その。まだ来てない……?」

「? 来るって何が来るんですか?」

 あー……なるほど。ということはまだ来てないんだね……。

「まぁ、うん……それは一端置いといて。シャマル先生は……」

「えっと……あ、あちらに」

 無理やり話題を逸して。シャマル先生を探す。すると先に見つけたキャロが指をさす方向を見ると、カーテンを締めたベッドがある。視線を少し下げると、シャマル先生の脚が見えた。

 声を掛けようと近づき、カーテンの側まで行くと。シャッと軽快な音と共に。カーテンが開く。

「あら? なのはちゃんにキャロ。おはよう」

「「おはようございます」」 

 何処か朗らかな笑顔で私達を出迎えてくれる。シャマル先生の後ろを見ると。不思議そうな表情で私とキャロを交互に見る少女……もとい流の姿が写った。

「……あの、初め……まして?」

 何処か不安そうな様子で私達に声を掛けてくれる。ふと視線をずらすと、不安そうにシャマル先生の白衣を小さく掴んでいる。
 そう言えば、フェイトちゃんが離れる時も寂しそうにしてたって言ってたなぁ。

「ううん。初めましてではないかな。私は高町なのは、こっちは」

「キャロ・ル・ルシエです」

 それぞれ名乗ると、寂しそうに首を横に振る。響が言ってた通り記憶はなくなってるようだ。

「で、シャマル先生。流は?」

「……なんとも言えない。元々怪我の治りもバラバラだったっていうのもあるし、ロストロギアが原因なんでしょうけど、記憶まで無くなるのは分からない。だけど、体の調子は健康そのものなのよね」

 はぁ、と小さくため息をついてるけれど、やっぱり何処か嬉しそうなのはなんでだろうか? もしかして。

「……手を出したんですか?」

「ち、違うわよ。酷いわなのはちゃん。ただ、その反応が可愛くて、つい……」

 目を逸しながら正直にいうシャマル先生を尻目に……。

「あの、その。私……忘れてしまったみたいで……その、ごめんなさい」

 徐々にシャマル先生の背中に隠れるように少しずつ下がっていく。すると、キャロが一歩踏み込んで、空いてる流の手を取って。

「ううん。大丈夫。皆事情を知ってるから……だから、大丈夫」

「……うん。ありがとう……その、キャロ……さん」

 少し顔を赤くしながらにはにかみながら笑う流とキャロ。

「じゃあ、流ちゃんは少し待ってて。それじゃあ、まずは一番近かったキャロから検査を初めましょうか?」

「はい」

 そうして、ベッドに座るキャロを見て、流と一緒に医務室の空いてる椅子に座る。
 だけど、改めて見るとやはり可愛い。何と言っても響のバリアジャケットの上着を着て、シンプルに仕上げられたハーフアップで、いつもと大分印象が異なる。髪が長くてもきっと可愛かったんだと思うけど……。

「あの……その、なのはお姉さん?」

 瞬間、何か電流が走った。なんというか、今まで言われたことのない言葉。今まで姉や兄は居たけど、私より下は居なかったから、なのか。このお姉さんという言葉の響きは思ってたよりも重い物だった。

「……えっと、なに、かな?」

「……シャマル先生から聞きました……その、私は記憶が無くなってる、と」

 寂しそうにポツリポツリと話す。

「それで、その、もし……私の事を、何か知ってたら、聞かせて貰っても……いい……ですか?」

「……うん。大丈夫だよ。私で良ければ」

「! お願いします」

 パァッと明るい笑顔と共に、嬉しそうにお願いされる。先程までの寂しそうな顔はもう無かった。

 なるほど、これは……フェイトちゃんも可愛いっていうわけだ。本当に可愛いもの。
 
 そして、私が知ってることを話し始めた。

 初めて機動六課に来た時からの話を――

 
――side響――

 隊員オフィスで皆で書類作業中。いつもなら訓練をしてから朝食を摂るというのが流れだけれど、今回は特殊でいつもの時間になるまで溜まった書類作業をしてから朝食。その後もまぁ同じく書類作業なわけなんですけどね。

 案の定……ってわけじゃないけど、ある程度俺の所にも仕事が溜まっていたけど、思ってたほどじゃない。恐らく奏が手を出してくれてたのだろう。今回は奏が動けないから代わりに俺がいつものお返しってわけじゃないけど片付ける。
 最初はエリオも手伝いますって言ってくれたけど、まずは自分の仕事を完璧に済ませてから、としっかり伝えた。当てにしてないわけじゃないけど、まず自分の面倒を見てからじゃないといけないし、それは仕事をやる上の必要最低限の事だし。勿論わからないことがあったら聞いてねとは言ったけど……。

「響~これどうしたら良いのー?」

「あいあい、こっち回してみー……なんだ、これくらい出来るだろう。もう少し考えてみーってか何度目だよスバルー」

 ほぼほぼスバルの補助をしていました……。現在オフィスに居るFWは、俺とエリオ、そしてスバルの三名のみ。フェイトさんは午前の予定の変更をシャーリーさんと共に調整で、震離とティアは検査するから来てねと連絡を受けて行った。
 スバルとティアが一緒に行きそうなもんだけど、行く前にティアが言った一言が凄まじく。

 バカスバル! たまには一人で片付けなさい!

 と、愛想つかされて震離を連れて先に行ったというわけだ。スバルもひどいよ~と言ってたけれど、仕事の量的に多いといえば多いが捌ききれないわけでもない量なんだ。
 まぁ、多分いつもはティアか震離がフォローしてたんだろうなぁと容易に想像が付く。さて、隣の弟分も何やら小難しそうに眉間にしわ寄せて慌てだしてるから……。

「エリオー遠慮しないで何時でも聞いていいぞー」

「え、いや、でも……あの、これなんだけど」

 一瞬躊躇しかけたけど、エリオからデータを受け取って。エリオを椅子ごと連れてきて、説明して、実際の処理を見せて……良し。

「で、以上だけど。多分、一回程度じゃなんとなく分かった程度だろうから、もう一度当たったら聞きな?」

「ありがとう、兄さん!」

 ニッコリと笑顔を浮かべて自分のデスクへ戻る。そういや気づかない内にエリオは俺のこと「兄さん」呼びに変わってたんだよなぁ。キャロは「お兄ちゃん」なのに。……なんというか、寂しいなぁって。

 しかし、残ってる仕事の量を考えると変なんだよなー。ライトニングは割と俺と奏でフォローしてるから平均的に少ないようにしてるけど。スターズはスバルの性格上もっと残ってそうなもんだけど……。思ってた以上に無い。まぁ、震離やティアが頑張ってフォローしたりしてたんだろうなぁ。

「そう言えば兄さん?」

「うん?」

 作業を進めながら耳をエリオに向ける。声のトーンから察するに多分仕事以外の話だろうな。

「奏さん具合が悪いと聞いてたんですけど……大丈夫でしょうか?」

「うーん。こればかりはなんとも言えないなー。奏の場合不定期だし。しゃーない。普段世話になってる分返さないとなー」

「不定期って……何かの病気なんでしょうか……?」
  
 ふと作業の手が止まる、が直ぐに動かして。顔をあげて、スバルの方に視線を向けて、静かに首を傾げる。そして、念話を飛ばす。

(失礼な事聞くようで悪いんだが。俺が何いいたいか分かるよね……?)

(うん……大丈夫。分かるよ)

 タラタラと冷や汗が流れるのが分かる。スバルも同じらしく、表情がぎこちない。同時に隊員オフィスに居る人間の視線を感じる。なんとも言えない感じの視線を。
 ギギギと、錆びたように動かない首を、エリオの方に向けると、大真面目に心配そうな顔をしてる。

「……エリオ。一つ質問な。女性のあの日って言えば、何か伝わる……?」

「……あの日?」

 あー、うん。そっか。そうだよね。そうだったよね。まだ10歳だもんね! 不思議そうに首を傾げるエリオを見て、カタカタ震えそうなのを抑えながら、スバルに視線を向ける。一瞬目が合ったと思ったら。ふいっとそらされる。更に皆の視線が強くなった。頑張れ! という視線と、なんて説明するの? という視線の2つに

「……あー、その、なんだ。俺では間違えた事言ってしばかれそうだから……そのなんだ。あ、シャマル先生に聞いてご覧? ただし、女の人に簡単にそういう事は言ってはいけない。どちらかと言うと今の俺の発言も本来ならアウトだ」

「アウトって……そんな変なこと言ってないような」

 ピコンとモニターの通知欄にメッセージが届く。時間なので誰か2人来るように、と。

「いいや、アウトだ。それにいいタイミングだし……エリオとスバル? 医務室行ってきな」

「え、私まだ終わってない……」

 突然話を振られて慌て気味のスバルと、今一納得していないエリオ。

「いいからいいから。俺が抜けたら誰も面倒見れなくなるだろ。今行ってくれたほうが、この後誰かフォローに入りやすし、ほら行った行った」

 どうぞのジェスチャーで早く行けという。ぶっちゃけると、多分行くまでにスバルに質問が行くかもしれんが、なんとかするだろうし、シャマル先生っていう逃げ道を提示してあるから、大丈夫だろう。多分。

 2人がオフィスから出ていくのを見送って、自分の席に座り直すと、周りの視線が一気に変わる。

 ドンマイ、と。

 その視線を受けて、恥ずかしいなぁと思いながら、作業を続けることに。

 2人が出ていった少し後位にフェイトさんが入ってきた時、皆の視線が俺に集まってるのを見て、不思議そうに首を傾げていたけど、詳細は言えなかった……。


――side震離――

「で、いいの? スバル放置して?」

「いいのよ。たまにはあれくらい」

 2人で医務室前の長椅子で待機中。予定ではそろそろ先に入ったはずのなのはさんとキャロが終わる頃だけど……。それまで暇だから2人で話し中。そうしないと私が抑えきれないからね。

「流にお世話になってるってスバル気づいてるのかな?」

「絶対気付いてない。あのバカスバル。自分の報告書で一杯一杯になってるんだから……」

 はぁ、と軽くため息をつきながら遠い目をするティアを見て、大変そうだなぁ、なんて考えてる。私達の場合、基礎業務の大半を医務室で治療してた流が片付けてくれていた。
 だから、私達の場合、仕事は多いけど、後は自分の領分を済ませればなんとかなるという状況。まぁ、報告書もそれぞれの視点からの報告だから、皆に聞いたりしないといけないんだけどね。

「うーん。これから先、分隊同士の模擬戦も増えてくるだろうけど……流とどう付き合うかまだわかんないのよねー」

 壁にもたれて掛かかりながら真上を見るティア。まぁ、あの子あんまり関わってこようとしないけれど……。

「ティアは流をどう見てるの?」

「んー。なんというか超優等生。羨ましいってくらいのミッドとベルカのハイブリットにオールレンジで対応出来る……のは上辺なのよね? 冷たい評価を下すなら、それしか出来ない。マニュアルに沿わない動きをして今回墜ちた、そうでしょ?」

「……正解」

 そう、流の評価とはティアの言った通りなんでも出来るけど、言い換えればそれしか出来ない。手札が多すぎて、上手い組み合わせ方を今一分かっていない感じ。これは響もなのはさんも頭を抱えてる問題だ。ティアも交えて3人であーだこーだいうけど今一決定打に掛けるというか、難しいらしい。

「私の余裕が無かったのも原因だけど、話して見るとなんというか面白いし、これからだと思う」

「そうだねぇ……これからだよ」

 天井を見ながらいうティアに対して、私は床を見ながらそう呟く。きっとそろそろ情報(・・)が集まりだす頃だ。私が欲しかったモノが……。

 すると、医務室の扉が開いて。なのはさんとキャロが出てきた。

「あれ、次はティアナと震離なんだね。暴走しちゃ駄目だよ震離?」

「……はぃ」

 なのはさんの強い視線に素直にはいとは言えなかった。いやだって、そういうってことは凄いんでしょう? ふと、キャロが目に入ったけど、何処か寂しそうにしてる。ということは記憶が飛んだのは本当なんだね……本当に忘れてるんだね。
 そして、この空気はよろしくないから……。

「キャロ? 流はどうだった? どんな感じで……可愛かった?」

 キャロの両肩を掴みながら質問する。ちょっと戸惑う。でも、しっかりと私の目を見て。

「可愛かったです」

「なら、良し! ティア行こう。なのはさんもキャロもお疲れ様です」

「はーい。じゃ行こうかキャロ?」

「お疲れ様です……震離、あんまりはしゃがないでよ?」

 呆れたような顔でティアがいう。だが、今の私を止められるもの等、存在しな……。ふと、背筋が凍るほどの何かに射抜かれた感覚が背中を走る。振り返ると、ニッコリ笑顔のなのはさんがコチラを見てる。ピシッと敬礼を返すと、射抜かれた感覚は消えた……はい。大人しくします。ごめんなさい。

 さて、気を取り直して。医務室の扉を潜る。

 
――sideティアナ――

 震離と一緒に医務室へと入る。部屋中央に設置された机にはシャマル先生と、見慣れない子が一人座っていた。後ろ姿だけだけど、髪をハーフアップに纏めて、赤い和服を羽織ってる子。
 あぁ、これが響が言ってた事なんだなと察する。

 さて、私の役割は、この隣りにいる震離が暴走しないようにしないと。そう考えながらちらりと隣の震離を見ると、両手で口を抑えて、言葉にならない何かを言っている。いつでも飛びついても抑えるようにしないと。

 なんて考えてると、コチラに気づいたのか流が振り向いた。私達を見て、ニコッと笑顔で迎えてくれた。よーく顔を見ると、前髪もセットされており、目に入らないよう銀のヘアピンで止められてて、なんというか……ちょっとかわいい。

 いや、私はそういう趣味は無いんだけど、いつかの出張の時の格好がなんだかんだで忘れられない。私はあの時写真は取っていなかったけど、スバルが写真を保存していたらしく、無理やり送られてきて、そのまま残していた。その後もまぁ、震離からスバルへ写真が流されて私の所も増えてきてるのは、誰にも言えない事だ……。

 さて、少し身構えながら震離の方を見ると。

 ほんの一瞬……目を見開いた。かと思えば、直ぐに戻して。そのままゆっくりと流へ近づき。

初めまして(・・・・・)。私の名前は震離。よろしくね」

「え、あ、その……初めまして。流です」

 ニコーと笑顔で手を差し出して、握手。そして、直ぐに視線を外して……。

「シャマルせんせ、奏は何処に?」

「へ、あぁ。今横になってるわ。鎮痛剤が効いたみたいでやっと寝た所……。今度キャロに説明しないといけなくなっちゃった……」

「あ、あはは……ご愁傷様です。あれ、ということはエリオも知らないんじゃ……?」

「……そうなるのね。フフフ」

 力なく二人して乾いた笑いを浮かべてる。

 でも、この状態に違和感を覚える。普段の震離を見てると、スバルが私に構うように、ウザいくらい流にひっついたり話をしようとするのに、何故か普通の対応……いや、どちらかと言うと初めて合う人の様に接してる。

 ふと、流の視線が私に向いてるのに気づいて。

「えっと、ティアナ・ランスターよ」

 そう名乗ると、嬉しそうに笑いながら。

「ティアナお姉さんに、震離お姉さんですね。よろしくお願いします」

 笑顔を浮かべながら話す流を見て、可愛いなぁとつい思ってしまう。だけど、震離は……。

「どれくらいで終わります?」

「奏ちゃんが辛そうだし……申し訳ないけれど。二人同時に検査するから、開いてるベッドに横になっててもらっていいかしら? 制服の上着は脱いでね?」

「了解でーす。行こうティア?」

「え、えぇ」

 上着を脱いで、椅子の背もたれに掛けながら何事も無いように声を掛けてくる。私と違って、居ないように接する震離を見て、流の表情が少し泣きそうになってる。にも関わらず、普通に空きベッドに行き横になった。

 どうして? むしろ可愛いって抱きしめてもおかしくないくらいなのに、なんで……?

 そんな事を考えながら私も開いてるベッドに横になった。
 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。 
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