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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──

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想いは紅涙と共に

「……はぁ」


自室で寝転んだベッドの上で、誰にともなく溜息を吐く。
思いの外に響いたその声に意識を傾注させつつも、俺は、数時間前に白雪に説明したことを脳内で反芻させていた。

夕食と入浴を挟んだからといって、その記憶は全く薄れてはいない。それほどなまでに重要な、話題だったのだから。

安倍晴明の子孫であるが故の、陰陽術の使い手であること。

しかしそれは、緋緋色金が微量に含まれた《緋想》によって能力は底上げされているのであり、裏を返せば、刀そのモノが無いとほぼ無意味であること。

《明鏡止水》は、最低限の媒体として、緋緋色金と直系子孫の血筋の持つ()によって発動しているということ。



そして、それを踏まえた上で、白雪は告げたのだ──。


「……となると、あっくんは『超偵』に該当(あた)るね」


何やら思案し、確信したかのような表情で、白雪は口を開いた。
その知識はSSRに所属している白雪ならではで、俺ですら知らなかったことを、次々と説明してくれた。


「多分、超能力者という区分だと──あ、超能力者には幾つかジャンル分けがされててね。4つあるんだけど、あっくんはそのⅣ種超能力者に該当すると思うの」


曰く、Ⅳ種超能力者は、他の何れかの複合系なのだと。


「《緋想》っていう妖刀は、氣……多分、精神力みたいなモノかな。それを媒体として《明鏡止水》っていう能力が発動されてるってことだよね? エネルギー的なモノを媒体にしてるから、まずⅠ種に該当するの」


そして、もう1つは。


「……緋緋色金が含まれて、それもまた《明鏡止水》の発動に関係するんでしょ? 物質を媒体にしてるから、それでⅡ種だね。2つの性質を併せ持った結果が《緋想》による陰陽術と言えるから、あっくんはⅣ種超能力者。だと思う」



──とのことだった。白雪が言うには、Ⅳ種は極めて稀とのことだ。SSRにも居ないらしく、仮に俺が履修しても、Aランクは容易に取れるだろう。とのことだった。


「……それよりも、なぁ」


現在は強襲科を履修しているが、更にSSRまで受けるとなると、成績的には宜しいのだが……如何せん、精神的に持たなそうだ。とは言え、事実として履修している者も居るのだから、感嘆の一言に尽きる。

それよりも、アリアに関する理子の司法取引や、イ・ウーの詳細、白雪の護衛に意識を削いだ方がまだマシだと思うね。
恐らくはアリアも、そう言うだろう。無駄な利益は鑑みず、目標へ向かって一途に──というのがアリアのポリシーだ。


「……彩斗。入っていい?」


なんて、噂をすれば……かねぇ。

と胸中で呟きながら、少しだけ開いた扉の間から顔を覗かせてきたアリアの姿を見て、俺は何事かと思案する。
わざわざ俺が1人の時に来たということは、それだけ重要な話なのだろうか。


「どうした、アリア。別に構わないが、入ってくる時はノックくらいした方がいいぞ」
「……ん」


軽く頷き、依然としてベッドの上で寝転んでいる俺を一瞥してから──一直線に、こちらに歩を進めてくる。
既に入浴済みのようで、寝巻きに着替えたアリアの頬は微かに紅潮しており、昼間はツインテールの髪も夜は下ろしてある。

その足取りはいつもより軽く、逡巡もせず、マットレスの軋む音と共に、華奢な膝を立てた。
腕は俺の胴体を挟むような形で、前屈みになり、紅潮したその頬と赤紫色の瞳で見詰めてくる。


「……アリアっ、ちょっと──何のつもり、だ?」
「──のね」


虚空に霧散してしまいそうな僅かな声にさえ、感情が滲み出ていた。それは、アリアがそれ程に感情を揺り動かされたという、証左。果たして、何があったのか。この喜々(・・)たる声色と時期で、おおかた予想はついてしまうのだが。


「──あのね、理子の司法取引で、最高裁でのママの刑期が数十年単位で短縮されたって、さっき弁護士から電話が来て……!」
「……本当に?」
「うん。それでね、まだあるの。理子が、イ・ウーのことも証言してくれたみたいなのっ」


この喜びを抑えられない──と言わんばかりに、アリアは今まで見せたこともないような満面の笑みで告げてくる。
話す度に前屈姿勢になり、緋色の髪と梔子の甘酸っぱい香りが鼻腔を刺激した。かなり興奮しているようだ。


「武偵活動の完全復活を条件にして──その内部と、魔剣(デュランダル)がイ・ウーの一員ってことと、その目的まで教えてくれたの」


指折々と数えながらアリアは言い、俺の顔色を伺っている。
理子がかなえさんに関しての冤罪を認めた、というのなら理解は及ぶ。だが、イ・ウーと魔剣に関しての供述をした、だと──?

何が理子をそう動かさせたのか──と考える暇すら与えず、アリアは(おもむろ)に顔を伏せた。前髪の奥で僅かに見える瞳には、雫が浮かんでいて。

それが頬を伝い、地に足が着くよりも早く、華奢な身体が小刻みに震える。嗚咽と(あぐ)ねるような笑みが零れ出ていた。
細い髪が濡れた頬にまとわりつく。彼女はそれを指でそっと払うと、小さく零した。


「……ちょっとでもイ・ウーに近付けて、嬉しくって。それに、アンタが助けてくれたこともね。こんなに感情が沸き立つのって、久しぶりかもしれないわね。嬉し泣きしたのは──初めてかも」
「…………そっか。そう、だよね」


嗚呼(あぁ)──それもそうだろう。他人の感情は、自分に置き換えれば理解が早いのだ、と思い至った。
自分の追い続ける存在に。愛する身内を、少しでも救える糧となる存在を得るべく、協力してくれるパートナーを想えば。いつか自分も、こうして紅涙を絞る時が来るのだろうか。

……本当に、この子は一途なのだと再確認させられる。
捕われの母親への変わらぬ愛情と希望。パートナーたる俺への勿体ないほどに素直な、信頼。
……いやはや、これを裏切ってしまってはどうにもならないね。


「それなら、これからも──」


呟き、眼前で小さく笑みを零していたアリアの顔に手を伸ばす。
そうして、親指の腹で、浮かべた雫を拭い取ってやるのだ。その行動に、僅かな意味を込めながら。
気が付かなくてもいい。ただ、これからも。


「──俺はアリアと、ずっと一緒に居るつもりだ。主従契約は、主の方から一方的に切られない限りはね」
「ふふっ。何よ、それ。でも……そうよね。アタシ次第かぁ」
「そう、だねぇ。それは、良いんだけど──アリアはいつまで、俺に馬乗りになってるつもりなのかな?」
「…………あっ」


突如、我に返ったかのように──それも、宛ら小動物を感じさせる身軽な動きで──アリアは俺への馬乗り状態を解くと、ちょこんとフローリングの床の上で女の子座りをした。

今までの行動を反芻しているのか、だんだんと頬の紅潮が高まってきて。それが限界に達した時、流れるように俺を赤紫色の瞳で見据えてから、隠しもせず羞恥心と犬歯を剥き出しにして、


「い、今のは……忘れて! 忘れることっ! じゃなきゃアンタなんか捨ててやる! ドレイ以下よっ!」
「……馬乗りされたこと、だけね。あ、あと。今は何時?」
「えっ? えっと、今は……9時を回るところ、だけど」
「うん、研究データがとれた。ありがとう」
「……何の研究をしてるのよ、アンタ」


アリアの羞恥による感情は、突拍子もない話題を間に挟むことで、そちらに意識が向く。あとは、なすがまま──と。

……自分で思い返してみても、無意識的に分析していることもあるんだよね。自分で恋情を自覚してからの、アリアの扱いに関しては。特にね。


「言うなれば、人間観察ってところかな。……ほら、そろそろ寝る時間だ。明日も学校だよ? アリアも早く寝なきゃ」
「……あ、うん。じゃあ、おやすみなさいっ」
「うん、おやすみ」


軽く言葉を交わしてから、アリアは扉越しに手を振って、そのまま自室へと歩を進めたらしい。
『そろそろ寝るよ』という俺の空気に流された、ということは。多少なりとも空気に流されやすいのかな。
今回は割と素直に部屋を出ていったけど、次があったらもう1度試してみるかなぁ……。


「……何やってんだろ」


間の抜けた声が、室内に木霊(こだま)した。 
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