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狂女

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第三章

「いいな」
「はい、お仕えしましょう」
「女王に」
「そうしましょう」
「だからあの方がよしと言われた時に備えてじゃ」
 そうしてというのだ。
「これからもな」
「風呂を服を用意して」
「そうして食事もですね」
「常にお出ししますね」
「あの方の為に」
「そうしていきますね」
「そうする」
 こう言ってだ、それでだった。
 彼等は女王に仕えていった、その彼等にだ。
 黒く生地の質はいいが装飾は少なくその分質素な服を着た面長でやけに下顎が出ている男が言った。目は丸く鷲鼻で唇は小さいが開いている。
 その彼が老侍従たちに言うのだった。
「戻ってきたが」
「はい、女王ですね」
 老侍従は彼に頭を垂れて応えた。
「あの方ですね」
「お元気か」
「いつも通りです」
 老侍従はこう答えた。
「今も」
「そうか、ではだ」
「戻られたからですか」
「お会いしたいが」
「わかりました」
 老侍従は彼に応えてだ、そのまま女王がいる部屋にまで案内した。男は今も隅に蹲っている女王に対して優しい声をかけた。
「母上、戻りました」
「・・・・・・・・・」
 女王は彼の言葉にも反応を示さない、蹲っているだけだ。だが彼はその女王に対してさらに声をかけた。
「ご気分はどうでしょうか」
「・・・・・・・・・」
「暫くこの王宮にいますので」 
 語らない女王にさらに話した。
「明日も来ます」
「・・・・・・・・・」
 こう言ってだ、そしてだった。
 彼は老侍従達のところに戻って言った。
「これからも頼む」
「はい、ご安心下さい」
「我等は務めを果たします」
「これからも」
「朕は本来ならだ」
 彼はその面長の顔で語った。
「常に母上のお傍にいるべきだが」
「そのことはですか」
「出来ませんね」
「どうしても」
「そうだ、朕は皇帝だ」
 皇帝カール五世、スペイン王としての名はカルロス一世だ。そうであるが故にだと彼は言うのだった。 
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