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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第21話 ちゃんと強くなってる事を




――sideはやて――

「――以上が、遺跡で起こった事です」

 なのはちゃん――いや、高町隊長と、ハラオウン隊長の報告を聞いて頭が痛くなる。彼女らの後ろにはスターズから叶望、ライトニングから緋凰が居る。

 遺跡にあった反応は、そこに居た誰かの反応……つまり管理局の監視システムで「人」とは判断されない程の人物。だが、実際にレリックの一つを回収したことで表向きはこれにすることが出来る。
 その上、ガジェットも居たということからスカリエッティが狙っていた遺跡とも解釈できるが、既に崩落しており調べることは不可能。うん。

 ――最悪や、これ。

 とてもじゃないが、流と同じ顔の人物の報告は出来ない。その人の言葉を鵜呑みにすれば、流の体の持ち主だった人。つまり流はどうしても、何らかの人体実験を受けた、もしくはその結果なのかもしれない。この事を管理局、地上には報告できない。いや、表沙汰にすることは出来ない。

 緋凰……いや、響達の疑惑は晴れた……わけではない。彼らが情報を流している相手はおそらく私が知っている人間。きっとそれを彼らは知っているから、それを暴露しないのだろう。もしくはもっとキツイ何かを握られているから言わないのかもしれない。
 形なりにもそれが終わった後に、これだ。流の前の部隊に問い合わせるも帰ってくる回答は、普通の管理局員。普通の武装隊員。つまり向こうも流のことを知らないし、そう言わざるを得ない状況であるということ。これ以上の情報は望めない。

 つまり、現時点で一番不味い立場となってしまったのが流である。彼が普通の人ではないということは任務に当たっていた皆が聞いている。だが、流と震離の報告から、彼から話はあまり聞けなかったという事。そして、お詫びとしてレリックを渡されたという事。

 完全に掻き回されただけや……。

 一応……というか、任務から帰ってきて流の口から聞いた話は見元引受人に出会うまでの過程を聞いた、が。おそらくこの身元引受人はおそらく鍵を握っているだろう。

 ライザ・ジャイブという人物。そして、サイ・ウィンドベルとキャシー・ウィンドベル。

 これがキーワードや。前者は恐らく管理局員に関係しているやろうし、後者2人はプロジェクトFに関わっていたのなら恐らく調べれば名前が出るはず。
 皆の前でこそ表情にだなかったけれど、恐らくフェイトちゃんとエリオのショックは大きいやろう。自分たち以外にもそうして生まれてきたかもしれない、もしくはその素体。下手すればそれ以上のことが流には行われているかもしれへんから……。

 さて。

「後ろの2人は、ウィンドベル夫妻と、ライザさんに心当たりは無い?」

 隊長陣の後ろで休めの姿勢をとっている2人に声を掛ける。

「いえ、俺は心当たりは……。震離は?」

「んーん。知らない。私もアイツからの話聞いたけど、要領得なかったし、結局何がいいたいのかわからなかった」

 なのはちゃんからの報告も聞いて、尚の事わからなくなる。流と同じ顔をした人物曰く、約束の時。あの遺跡にあるモノ。そして、その人物曰く、流と会った事があり、いつか来ることを聞いていた。

 うん、まったくもって分からへん……。

 だけど、収穫はあった。あの遺跡は古代ベルカ時代のモノ。加えて、灰色の古代ベルカ式の魔法陣を確認されたこと。この辺を中心に無限書庫に、ユーノ君に依頼を出せば……、何かしらの情報、そしてあの人物の事が分かるかもしれない。

「……部隊長。流は?」

「……憔悴しとった。せやから今日は帰って休め、そう伝えたよ」

 響からの質問に応える。皆に自身のことを伝えた流は、ただ静かに泣いていた。泣きじゃくる訳でもなく、声をあげて泣くわけでもなく。ただ静かに。過去の事を話す流の姿は見ていて痛々しかった。静かに話すその様子は何処か他人事のようで、人形のようにも見えた。
 この場にいる皆……いや、震離以外は流が特殊な生まれであってもきっと受け入れられる。響に関してはフェイトちゃんの告白を受けた実績がある。けど、震離は……。
 
「震離、流の事どう思う?」

 部屋に集まった皆の視線が震離に集まる。その中で一つ咳払いをして、そして。

「どうもしません。仲間だからとかそういう在り来りな事ではなく。私はその人を見ます。故にその程度で見方が分かることはありません」

 視線の端で響の目が鋭くなったのが見えた。恐らく流と二人きりの時に何かあったのだろうけれど……。うん。

「高町隊長。ハラオウン隊長、スターズとライトニングの様子は?」

「スターズ分隊も、特殊な事情を聞いたからと言って見方が変わることはありません」

「ライトニングも問題ありません」

 両隊長とも力強くはっきり言ってくれた。まぁ、流に限らずいろんな事情を抱えた子が多い部隊やよね……本当に。

「なら、この件は一時保留とします。緋凰と叶望は下がってよし」

「「失礼しました」」

 敬礼をした後部屋から出ていく2人を見送る。さて。

「なのはちゃんも、フェイトちゃんも、今回はお疲れ様や」

「ううん、大丈夫だけど。今回の件、なんとかなりそう?」

「うん、幸い。レリック(結果)もある。その為のガジェット(問題)もあった。調査任務としてはいくらでもなんとかなるよ」

 はははと乾いた笑い声が口から漏れる。任務としてはこれで締める事が出来る。それは本当だ。せやけど。

「……六課の情報を得ようとしている人物に、流を何の意図があってここに送った理由、そしてその人物。この2つが暫く問題や」

「はやて、ウィンドベルさんについては私が調べるよ」

「ありがとうなフェイトちゃん、お願いするわ」

 情報の面はこれで問題ない。私の方でも色んなつてを使って調べてるけど、今一収穫がない。

「なのはちゃんも」

「勿論。私の方も色々お話してみるよ」

 グッと小さくガッツポーズをするなのはちゃんと見て、お手柔らかになといいたかったけど、やめとく。ちょっと燃えてると言うか、なんというか。下手なことを言うと私の方まで巻き込まれそうや……。SLBとかな。
 
 そういや、カリムに遺跡が壊れたわって報告したけど、特にお咎めというか言われなかったのが恐かったわぁ……。
 一応というか、しばらくアーチェを捜査手伝いとして六課に貸し出してくれるのは有り難いんやけど……響たちと相性悪くてどうしようか。
 幸い、明日は休みだって言ってたし、それまでになんとかせなあかんなぁ。
 
 ……出来るか?


――side響―― 

「……で、震離よ。ウィンドベルさんとお前の関係は?」

 隣を何気もなく歩くこいつに、ストレートに質問する。

「や、別に。私も流から聞いたくらいの事しか知らないよ」

 ニコニコと笑っては居るけれど、その目は冷たい。底冷えするような目をしている。そういや初めて会った時もこんな目をしてたっけな。

「……はぁ。まぁ、何か考えがあっての事だからな。深くは聞かないよ。でも何かあったら頼れよ、じゃおやすみ」

 男子寮と女子寮に分ける廊下で別れる。こいつ、普段の演技はもう手慣れてるもんだけど、デカイ事に当たった時の演技の下手さは昔から変わらない。
 ……正直今回、俺たちは蚊帳の外だった。俺に至っては気絶して何もしてなかったしな。流のそっくりさんも会ってないからどう判断していいのかわからなかった。
 実際に会ってたら見極めもついたんだろうけど、完全に知らん人相手だとわからないし。

 流の話を聞いて、重い物を抱えてることは分かってた。だけど、間違いなくまだなにかある。でも、それはきっとはやてさんも気づいてるだろうし、下手に詮索するのも良くない。

 だが、まぁ。いい機会かもな。ライザさんとやら。名前を聞けたのは良いことだ。後はこれを調べれば、何かわかると良いな。


――side震離―― 

「……はぁ。まぁ、何か考えがあっての事だからな。深くは聞かないよ。でも何かあったら頼れよ、じゃおやすみ」 

 そう言って後ろ手に手を振りながら男子寮の自分の部屋に向かっていった。うぅむ、バレてる。下手なことしたつもりは無いんだけどなぁ。

 さて、もう一度流の話を聞いた時、微妙に話の内容が変わっていた。前の部隊の隊長から、見元引受人に変わっていたこと。それにともなって、フルネームに切り替えていた。ライザ・ジャイブ。偽名の可能性もあるし、これが本名で、偽名を使ってる可能性もある。多分、名前だけで調べても恐らくあまり引っかからないだろう。

 だが、顔は覚えてるし、顔のデータがほしいならホテル・アグスタの時の監視カメラの映像を入手すればいい。そこから詮索することも可能。

「……ハッ」

 思わず自嘲するような薄笑いが溢れた。
 ……情けない。
 流の為とかいいつつ、実際にこれは流を疑っていますと言っている様な物だ。情けなくて涙も溢れない。
 まぁいい、私も動く用意をしないと。響達程じゃないけれど、私にも色んな貸しがある。
 皆にバレないように、それを調べるか、それを誰かに伝えるか……。いや、やめとこ、私は単独で動くことが多かったし、それを誰かの協力を得るのは汚れてくれと言っている様なもんだ。

 気がつくと、自分の部屋に、私と奏の部屋に着いてた。

 さて。切り替えよう。さぁ。

「ただいまー」

「「「おかえりー」」」「あら、おかえり」

 わぁお、皆さんお揃いで。そしてティアナ? なんでワンテンポずらしたのかな? 奏とキャロとスバルは揃えてくれたのに。と言うか、お菓子パーティー中なのね。

「わ、皆お疲れー。いつもなら泥のように寝てんのに、珍しいねー」

 適当に空いた場所に座り、皆の中心に置いてあるポテチを一枚パクリ。塩が効いてて美味しいね。で、なんで皆そんなに微妙そうな顔してんのさ?

「はやてさんになんか言われた?」

「うん? いいや、特に。私も流と一緒に居たけど、同じことしか聞いてないよ。あ、キャロありがとー」

 奏に聞かれて返事をしながら、チョコ付きのプリッツェルを一本。口に加えながら話をする。途中でキャロがジュースをついでくれた。で、だ。

「どうしたの皆、集まってさ?」

 とりあえず率直な疑問をぶつける。相変わらず奏以外微妙な顔してんね。

「う、今回あんな事があったじゃない。それで……その」

 何処か落ち込んだような感じのスバル。そして、心配そうにそれを見てるティアナを見てると、なんとなく察しがつく。きっとスバルも何か抱えてるんだろうけど……。

「……奏も言ったかもしんないけど、私も同じ意見だよ。今は言うことじゃないかもよ?」

「……でも」

「きっとそれはとても大事なことかもしれないけれど、さ。それは少なくとも今ではないよ。流の事だってアレ事故みたいなもんだし」

 実際今日、あんなことになるなんて誰が予想したよ? 正直今日のメインイベントは響の新デバイスのデビューかと思ったら違ったし。

「それに、実はスバルが超ドSで、人を人とも思ってませんとか言われたら見る目変わるけどさ、そういう事だよ」

「……うん。わかった、また今度話すよ」

 相変わらず苦笑いだけど、雰囲気が和らいだ。で、だ。

「……奏?」

「うん?」

 突然呼ばれて、不思議そうに首をかしげる奏。男じゃないけど絵になるよね。でも、さ。

「フェイトさんとなんかあった?」

「ぅぇ、いや、別に」

 ちょっと、リアクションがおかしいけど、さ。親友としてはいい加減気になることも有りまして。

「そう、じゃ、響とどこまで進んだ? よく2人でいるけどキスとかしたの?」

「え゛!?」

「「えぇ!」」「へー」

 一気に奏の顔が赤くなる。こりゃまだしてないけれど……間違いなく場のスイッチは入った。

「奏さんはお兄ちゃんの何処がいいんですか!」「ねぇねぇねぇ、告白された? ねぇねぇねぇ!」

 キャロとスバルの女子スイッチが入ったのを確認。ティアナも興味があるみたいでニヤニヤとそれを眺めてる。渦中の奏はいつものような冷静さを捨てて、完全に対応が追いついてない。
 いやいや、初々しいなぁ……。

 ――いいなぁ。

 私が一番響と付き合いが長い。初めての同い年の異性……何だけど、何処か遠い存在に感じてた。隣に居るのに居ない。遙か先へそして、気がついたときには奏が側に……ううん、少し後ろで追いかけてるように見えた。

 最近はもう一人現れたけれど、それは置いといて……。エリオとキャロが響を兄の様に慕っている、けど、それは私も同じだ。初めて私を外へ連れ出してくれた人。箱庭から見える空じゃなくて、広い場所から空を見せてくれた人。
 
 優夜も煌も魅力のある人だけど、あの2人も遠くに居る。そして、既に気持ちを通じ合わせ掛けてる人がいる。会う度に距離が縮んで、今年中に引っ付くと良いなって。響は……どうだろうね。唐変木ではないし、奏からの好意に間違いなく気づいてるけど、それに気づかないふりをしているのか、わざと無視しているのか……。

 何にせよ、誰とひっついても全力で祝福しよう。そして、琴さんに報告するんだ。誰と引っ付くか見守ってと言われたから、お願いねと言われたから。
 
 あれ? そういえば……。
 
「ねぇティアナー? ギンガさんはどうしたの?」

「荷物持ってきてないし、明日はそもそも休みだからって帰ったわよ。
 ……それにしても妙だなーって言うのが一つあって、シスターアーチェと仲良くなってたのよね。何かあったのかしら?」 
 
「あー……」

 ……そういやアーチェの動向見れてなかったけど、ギンガさんと仲良く……もしかすると。

 いや。
 
「さー? 私はギンガさんをよく知らないし、シスターアーチェもあんまりだしわかんないねー」

 パリパリとポテチを貰って食べて、視線をティアナに戻せば。
 
「……す、すごい目だけど、どうしたの?」

「……はー、もー……面倒ねーほんっとうに」

 すっと両手を伸ばしてきたと思ったら、私の頬を掴んで。

「アンタも奏も、もー!」

「いひゃいいひゃい! なに!?」

 なんかティアナから怒られた。なんで?  


 ――――


――side響――

 さて、突然ですが。俺ら……と言うか、FW組、8名揃って海上訓練場に来ております。
 本当なら、アーチェとギンガも居てくれたら良かったけど、あいにく2人は本日お休み。元々割り振られてたお休みだし仕方ない。 
 さて、午前中は普通の訓練だったんだが、午後からは、なのはさんは教導隊からの呼出しにつき外出。フェイトさんは外回り、副隊長達は任務に当たってもらってる。つまり、今現在自主練……というわけなんだけど。

 それじゃあ勿体無いということもあって、なのはさんからの許可を貰って午後はミーティングと言うか、話し合いの時間に変更してもらった。
 本当ならば、色々違う話をしたかった。昨日からの今日だし。だけど、流の様子は、ある意味いつも通りで、それを取り巻く皆も何時も通りに振る舞おうとしているのは流石というべきか。
 ただ、時折ティアナの目が鋭いと言うか、何か含んだ視線を俺や奏に向けてくるのは不思議だったけど。
 
 つまるところ、完全に切り替えがついた、もしくはしたという事。けれど、流からすれば、もう過去のことには触れるなと拒否の姿勢でもある。特に……いや、無意識だろうな、皆から離れるような感じにも見える。
 情けない……という気持ちもある。だけど、この問題ばかりはちょっとやそっとでどうにか出来る問題じゃないしな。

 さて、と。森林スペースにして、8人で円を組む様に座る。ってか。

「エリオ、キャロ。別に堅苦しくしなくていいよ。気楽でいいさ」

「う、はい」「……はい」

 何だかカチコチと緊張してる2人に声を掛けとく。実際説教とかそういうわけじゃないからね。

「今日はせっかく時間空いたしな。さて、ティアナ達に質問。最近死ぬほど厳しいと思った人。はい、挙手」

 瞬間真っ先にティア、ついでスバルとエリオ、最後にキャロの順で上がった。意外と思われるのは勿論……。

「……まぁ、ティアはそうだよな。最近たまーになのはさんとタイマンという名の集中攻撃食らってるし」

「ぅう」

 膝を抱えながら、思い出したかのように震えてる。最近はその通りで、よくなのはさんとタイマンをしている。一応傍から見てると理由は分かるんだけど、受けてる本人からしたら堪ったもんじゃないだろう。
 だけど、限りなく実戦に近いせいで、目に見えて射撃の精度、捌き方を学んでいる。

「次に、スバルとエリオは……若干本気のヴィータさんに、毎回吹き飛ばされてるよな。キャロは単純に複数の射撃管制が大変だな」

「「面目ないです」」「難しいです」

 3人の沈んだ顔を見て、思わず苦笑が出る。ちなみに俺ら4人は単にフォーメーションの強化。もっと言えば4人だけで独立した動きをメインに強化していこうという感じ。更に砕いて言えば、流の為に連携をしていこうって話。
 一応奏と震離はそれぞれやりたいことを強化しているけれど、流は未だ保留。切り替えがスムーズに行かないという点を除けば、何させてもある程度出来るし、少し悩んでる。俺は指揮官として指揮の勉強。あるいは甘い点を無くしていくようにしている。

 なのはさん……周りからは、相変わらず勿体無いって言われてるけど、俺の限界点は既に迎えている。これ以上を目指せば、完全に殺人術にシフトするし、俺はこれでいい。
 その旨を皆さんに告げた。勿論強さに憧れはある。でも、この時代にそれが必要かと聞かれれば、今が最大値でいいと思う。それに、だ。

「まぁ、それぞれ方向性を見極めた上での訓練だからな。それに、多分だけど、速くて明日、もしくは明後日の訓練。特に気合入れてやんなよ」

「? なんでまた?」

 4人を代表するようにティアナが質問する。他の4人も首を傾げている。

「そりゃ徐々に一本取れそうになってきてるだろう。しっかり経験値を積んでる以上、上手くいけば答えが分かるからさ」

「毎日続けてたらね……でも、取れたら嬉しいけど、それが何になるのよ?」

「確固たる自信に繋がるだろう?」

 そう言うとポカーンと目を丸くしたと思ったら、瞬時に目の奥が燃えてるように見えた。まぁ、本来の目的は他所にあるんだろうけど、それはカンニングをやらせてるみたいで嫌になるから、やらない。
 逆にわかりきったことかもしれないけど、このタイミングで言うのもちゃんと意味がある。直接それぞれ褒められてるつっても、やっぱり負けまくってる以上、何処か落ち込む場所もあるわけで、こうやって実績があって、ちゃんと答えを言ってやると、人間だもん。気合入るよね。

「で、だ。俺が聞きたいことはそこにはなくて……。皆に質問だけど、いいか?」

 改めて4人をじっと見る。皆何処と無く嬉しそうだ。

「俺とタイマンを張ったとして。どう戦う?」

 そう言った後、数秒間が空き、皆の表情が一つになる。

 ――この人何言ってんだろう?

 乾いた笑いが漏れながらも、とりあえず、だ。

「多分というか、確実にこう思ったろ。言うわけ無いやんって。だけどよく考えなよ? 多分もう俺とタイマン張る機会は今後無いぞ?」

「いや、それは……あ、なるほど」

 それは無いでしょと言いたそうにしたティアナだけど、その理由を察してくれた。けど、他3人はまだ気付いてない。ティアナに目配せをして答えを言わないように。他3人に考えさせる様にする。不思議そうにしてるけど、冷静に考えなよ? 
 小さくキャロが手を挙げる。

「はい、キャロ」

「お兄ちゃんのあの速さと、一撃を見てると見切れる自信が……」

 キャロの発言に同意するかのようにスバルとエリオも首を振る。ティアナは奏に答え合わせをしたからか、ニヤニヤしてる。
 しかし、この発想で止まってるとは……、なのはさんが居たら訓練がもっと厳しくなると思うんだが……良かったよ。今日居なくて。

「よりにもよってキャロがそれを言うかー。もっとシンプルに考えようか? エリオもスバルもさ」

 すると、キャロの表情がパッと明るくなった。足元に居たフリードを嬉しそうに抱き上げた。さて、キャロも気づいた所で……。

「エリオとスバルはまだか-?」

「「うぅ」」

 なんか今にも煙吹きそうな感じで頭抱えてるけど、こいつら本当に大丈夫かね? まぁ、これ以上ぼやかしても意味が無いな、さて。

「じゃあ、俺から質問な。なんで君ら俺が動いた想定で考えてるの? しかもよりもよって最終手段で戦う事を」

「え、だって……ぁ、ああ!」

 パッとスバルとエリオが互いを見合う。さすがツートップを張ってるだけあるね。

「気づいた所で、答え合わせ。あくまで俺が優位を取れるのは先手を取り続けて、取りまくった結果だ。だけど、それをさせない戦い方が皆にはあるだろう?」

 悪い意味で俺対フェイトさんの試合のイメージが頭に残ってる。
 つまるところ、皆が俺に勝てないと思ってたのは、俺の土俵……つまり、得意分野を受ける想定、もしくはどうやって対処するかって事だ。戦闘に置いて絶対は無いけれど、受け身になってばっかりだと意味がない。
 これも最近の訓練の悪影響だと思う。どうやってあの人達の攻撃を捌き切るかって、最近ずっと考えていたからだと思う。その結果俺に勝てないと、そういう判断に至った。

「フェイトさんと戦った時、俺が動かさないようにしたからだ。だからそういうふうに見えた。きっと、もう一回ってやったら……もう攻撃は当たらんだろうよ。
 いつだったか、なのはさんにも言ったけど、皆それぞれ得意分野がある。戦闘は決闘じゃない。ルールはない。だから、勝利条件なんてその場その場で変わっていく。
 そして、俺に勝つなんてそれは初歩の中の初歩。自分の得意分野で押して勝つ。それだけだよ」

 訓練を積んでると、案外このことが頭から抜け落ちる。基礎が出来て、技術がついて、応用するようになると。自然と難しいことをしようとする。いつも通りとかいいつつ、難しいことをするのはやっぱり出来ない事だ。

「確かに、魔力なしの技術、体術は負けない自信はある。だけど、戦闘にはルールがない。わざわざそれに従う理由は無いんだよ。
 だから、ティアナは射撃と幻術を使って俺を近づかせなければ勝てる、スバルはしっかり防御を張って俺の攻撃を弾いて重い一撃を、エリオはスピードと電撃を用いて撹乱させればいい。キャロはフリードと射撃を使えばしっかり対応できる。そういうことさね」

 パァッと表情が明るくなる。いい傾向だ。って……

「なんで落ち込む!?」

 ティアナ以外の3人が目に見えて落ち込み出した。ティアナも何処か思う所があるのか、視線が少し下を向く。まだ、言葉が足りなかったかな?

「まぁ、でもあれだあれ。あくまで対人というか、無傷(・・)で抑えるってことを目標にしたら俺は勝てない。でもな。端的に言うと殺す(・・)、もしくは全てを以て戦うと決めたら話は変わる。けど、それで模擬戦なんて絶対しないし、そんな場合は来ないといいけどね」

 今度はスーッと青くなる。忙しいなオイ。

「得意分野を、誰にも負けないものを作り上げるって大変な事だ。同じ道を歩いてるようでも、行き先は全然違うかもしれないし」

 ふと、隣に座る流の顔が目に入った。相変わらず無表情というか、能面というか……。でもこれは流にも言える。

「自分が信じるこれは負けないってものを大切にしようって話だ。そういう意味じゃティアナは一歩先にいるよな」

「フフン、当然。兄さんの、私の……なのはさんから教わってる魔法は負けないわ」

 即答。それも凄く嬉しそうに。多分ティアナ気づいてないかもしれんけど、完全にアレだよ? 陸戦型なのはさんの後継者の道をアナタ進んでるのよ? やだわ-怖いわー。そのうち絶対収束砲を物にして、残像と組み合わせて使うぞこの子。

 しっかし、ティアナのポテンシャルって相当すさまじいよな。本当の意味での大器晩成の人。だからこそなのはさんも丁寧に育てようとした。けど、周りがメキメキと成長しているのを見て、焦って亀裂が出来た。
 だけど、今は完全に修復して、よくなのはさんと話すようになった。第二のなのはさんって訳じゃない。だけど、なのはさんが自分と同じ戦い方を教えるってことの重さ、ちゃんと感じてるといいんだけどな。

 まぁ、それはなのはさんの仕事だから、知らんけどね! というか俺、ライトニングだし! 

「お兄ちゃん。僕さ、優夜さんと戦ってみたい」

 エリオの言葉に全員の視線がそこへ向かう。俺としては正直予想外。良い変化だと思う。だけど……。

「それは何故?」

「どこまで通じるか試してみたい」

 それは最近ヴィータさんにぶっ叩かれて成長した事を実感したいことなんだろう……だけどな。

「はっきり言うよエリオ。電撃とカートリッジを使わない限り勝てない。それでもか?」

「……ぅ」

 恐らくエリオの言う戦うは、先日のシグナムさんと同じ条件下の事を差している。でもね、エリオ。優夜(アイツ)という壁の高さをまだ分かってない。

「……同じ槍使いとして、と言っても?」

「あぁ、それでもだ。それに優夜はやめとけ。何より、シグナムさんやフェイトさんの影響を色濃く受けてるエリオとは……正直相性が悪い」

 納得はしてないけれど、頷いてくれた。
 と言うより、実際エリオと優夜ではそもそも勝負にならない。シグナムさんの本気の一撃を曲がりなりにも捌いた奴だし、それ以前の問題もある。

「エリオ、優夜の印象ってどう捉えた?」

 キョトンとした後、少し考えて。

「静かな人……なんというか、そよ風というか、大人しいというか、そんな感じ」

 それを聞いて、やっぱり。と思う。

「……そうか、ならエリオ。煌を訪ねてみろ。あの赤い奴な」

「え、煌さん……ですか? あの明るい人ですよね? よくロングアーチの皆さんと話してる人ですよね」

 明るい……ね。

「そう、煌だ。きっとエリオにとってもいい回答をくれる。優夜に話すにはそれからでも遅くないよ」

 首を傾げながらも、色々考えて首を縦にふってくれた。うん、良かった。

「さて、話し合いはここらへんにして日課の訓練始めるか」

 服についた埃を払いつつ、それぞれ日課の訓練を始める用意を行う。エリオは……少ししょんぼりと言うか少しだけ沈んでる。
 エリオの気持ちはよく分かる。だけど、それはまだ早いと思う。特に優夜と戦うのは。アイツから教えて欲しいというわけではなく、それを飛ばして戦いたいと来たのは意外だったけどね。

 でもね、エリオ。風って、大人しいことだけが風じゃ無いんだよ。俺が思う風は全てを薙ぎ倒す、巻き上げる。有無を言わせない程の物だと思う。

 さ、煌と優夜にそれとなく相談するかな。
 

 ――――
 
 
「ねぇ」

「ん? おぉティア、どうした?」

 エリオとキャロの機動チェック代理を済ませて、ちょっと休憩していたら向こうからティアがやって来た。
 だけど、何となく分かるのが、何かを聞きに来たということ。じゃなければ、わざわざ俺が1人のタイミングで来ないもんな。
 
「……リュウキさんって人を失ったっていうのは本当?」

 ……息が止まるかと思った。
 だけど、今朝からの視線の意味、それはきっと……。
 
「あぁ、事実だ。俺のミスで1人犠牲を出した」 

 驚いた、というより納得がいかないといった表情のティアナ。一瞬悔しそうにしてから。
 
「だから、殴られても仕方ないって事? でも……」

「ありがとうティアナ。でも、逆の立場なら誰だってそうだろう。リュウキの幼馴染……いや、違うな。同じ孤児院から出てきて、同じ年って事もあって家族並みの付き合いだったんだ。
 恨まれてもしかたないよ」
 
 普通なら、こうなるはずなんだよ。だけど。
 
「……私が聞きたいのはそこじゃなくてその先。それと一ついいことを教えるわ。響と奏、震離と接してる時のアーチェさんは確かに恨んでる様子だったわ。でもね」

 ……おや? ティアナの様子がすげぇドヤ顔チックな……。
 
「アーチェさんでボロが出たわよ。あんたらと離れた直後嬉しそうに笑ってたし」

 ……おっとぉ? いや、でもだ。
 
「今日が休みだったからだろ、笑ってたからって、それは俺たちにとは限らないし」

「……ふぅん」

 見間違い、と捉えてくれると嬉しいがこれは……。
 
「ま、隠し事なんて今に始まったことじゃないし。いいんだけどね……それよか、いつかはちゃんと話しなさいよ? じゃあね」

「あいよ。じゃあな」  
 
 ……うーん。まだ確信を得た訳ではなさそうだけど……困ったなぁ。
 
 その問題も有るけれど、流の事も有るし、遺跡で居た人も、流を引き取った人とかも調べないといけない。
 
 やること多いし、調べるのが得意な奴は今居ないし……いや、優夜にお願いすればワンチャンあるだろうが、流を引き取った人なんて、紗雪にお願いしないといけないが……居るけど居ない(・・・)んだよな。困ったわぁ。
 
  
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  
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