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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第19話 調査任務と、宣戦布告と。


 今日も同じ夢を見た。連日連夜だ。忘れられない事とはいえ、こうも続くと辛い。
 加えて……。
 
 私が拾われた日の事も思い出すようになってきた。 
 寒い雪の日の……あの日の事を。
 
「……は」

 笑えやしない。今日行くのはそれとは真逆の世界だと言うのに、そんな事を思い出してしまう自分が情けない。
 ただでさえ、最近は足を引っ張るばかりで何も出来ていない。
 それどころか出撃して堕ちて禄に貢献も出来ていない。隊長に言われた事一つ守れていないというのに。
 一体何をしているのか、自分は。
 
 こんなにも情けないのに、涙一つ出やしない……。
 
 ……フィニーノさんに無理を言って、まだ修復の終わっていないアークを引き取って持っていくことが出来る。
 銃としての機能は無くとも、カートリッジが使えなくとも……居るだけで心強い、何より使える魔法の幅は広がる。
 
 価値を……自分はここに居ても良いんだと、証明しないと。 


――side響――

 朝食を食べ終えて、皆より少しだけ準備が早く済んで一足はやく集合場所で待機。
 
 本当はもう少しゆっくりしたかったんだけど……。
 
[主、私と同調しなくて良いのですか? まだ起動したことありませんよね?]

「訓練でなら動かすけど、それ以外は基本的に待機なー」

[……畏まりました]

 こんな感じで、持ち主以上にデバイス……花霞のテンションが高くて、早くに起こされた。
 固有デバイスなんて持ったこと無いし、そもそも高性能なAI積んでるやつなんて初めて見るわけじゃないけど、こんなに騒がしいものなのかね?
 
 ……まぁ、ゆっくり付き合っていくとして、と。
 
「で、さっきから何してるんですかー、ヴァイス陸曹?」

「ぐ、何時から気づいてやがった?」

「最初っから、なんでそんな所で待ってるんだろうって思ってましたけど?」

 ガサガサと茂みの中から出てくるのは、ヘリパイロットのヴァイス・グランセニックさん。何度か他愛もない会話をしたこと有るけど、こうしてお互い1人ってこと無かったんだよなぁ。
 
 それ以上に最近なんか避けられて……や、俺がそもそも居なかったりとかで会えて無かったし。
 
「タバコ、良いか?」

「そんなん女子いる時に聞くことでしょうに。どうぞ、俺は気にしないんで」  

「すまねぇな」

 ライターに火が灯る音がして、タバコを吸う音と静寂が包む。
 まだ女性陣は時間かかるだろうし、エリオもあっちを待ってるからまだ来ないだろし。
 
「なぁ、緋凰?」

「なんすか陸曹?」

「……すまなかった。なのはさんにチクったというか、そうなるようにしたの俺なんだよ」 

 ……おっと? ということは……。
 
「ま、まさか割と自由そうな陸曹が、上官にチクるタイプだったなんて……マジかぁ」

「ち、違うわ! あれは、あんときはなぁ!」

「知ってます、冗談です。あん時近くにティアが居たからでしょう? 逆の立場なら、俺もそうしたかも知れませんし。
 あの時あそこでドンパチした俺たちをそのうち止めに来るなのはさん達が来る前に、そうするように仕向けて、ティアを一端止めたんですよね?」 

「……気づいてたのか?」

「状況的にそうだろうと思ってました。ただ、誰が主導したのか分からなかったんですが、陸曹なら納得です。あの時は俺も周りを見えてませんでしたからねー」

 鳩が豆鉄砲を食ったようにポカンとする陸曹を他所に、軽く背伸びを一つして。
 
「別に良いと思いますよ。俺は何処まで行っても灰色なんで……しかも黒寄りの」

「んなこたーないと思うがなぁ。あの姐さんが普通に信頼置くなんてすげーことだぜ?」

「語彙力死んでますよー」

「ほっとけ。そういう奴は六課のファンクラブに入れてやんねーぞー」

「そんなんあんのこの部隊!? 働けよ!?」

「馬鹿野郎! お前これを見てみろ!」

 そう言って懐から取り出すは……可愛らしい女の子、じゃなくて。いつか地球であった事故の……。
 
「流の写真じゃねーか。なんで流通してるんスか!?」 

「何だお前、可愛いは正義だという言葉を知らねぇのか?」

「知りたくなかったそんな正義」

「ま、気が向いたら言えよ。入れてやる」

「頼まれたって入らねぇ……何だ、話せる人だったんですね」

「……お互いにな」

 くつくつとお互いに一頻り笑って、
 
「今日は俺もパイロットで行くから宜しくな」

「こちらこそ。今日は大人数ですしねー、大変そうだ」

「そういやよ。昨日教会のシスターに殴られて、その人が今日付いてくるんだろ? 大丈夫なのか?」

 あー……そっか、そういやそうだったなー。
 
「ま、その辺りはぼちぼちと。向こうも仕事って分かってるでしょうし。
 ただ、後ろにはおけないので、コックピット側に俺と一緒に置くかなーと。後ろにおいて全体の士気下げるのもどうかと思いますし」 
 
「うへぇ、そりゃこっちの空気が悪くなるなー。下手な会話も出来ねぇな」

「まぁ、その辺りはこちらのせいですし、申し訳ないなーと」

 色々事情があるんですよねー、と繋げようとしたけど。
 
「ま、いろんな事情在りきの奴が多い部隊だからなー。頑張るしかねぇか」

「そっすねぇ」

「じゃ、ちょっくら機材の確認してくるわ、またな」

「了解です」

 あまり深く踏み込まないのはこちらとしても有り難いな。
 
 それにしても、今日のメンツやべーな。外から研修がてらのギンガの参戦に、教会の使者の参戦。超ヤベェ。
 
 なんて考えてたら。
 
「響」

「ん? あぁおはよう震離」

 ……なんか少し見ないうちに、震離も疲れたような表情をしてるなぁ。
 自分のことでこうなるタイプじゃないし、多分。
 
「ごめん。今日、さ。出来るなら流と一緒に動きたくて時間取れたら2人で話したいんだけど……駄目かな?」

「……あー、まぁ、それは状況次第だな。深くは聞かないけど、なんとかなりそうなの?」

 突然の無茶なお願いに悩むけれど。珍しいこの子がこういうってことは、本当に不味いことになってるのか、はたまた……いや。
 
「わかんない。でも、最近何かずっとから回ってると言うか、なんだろう……ティアナのときとは違う意味で焦ってるように見えて、その……」

 ……そういや、最近寝れてないのか目元が若干黒かったしな。訓練もあまり見れてないし、結構まずいか?
 
「わかった。なるべくそうなるようにさ、してみるけど……相談してくれよ?」

「……うん。ある程度落ち着いたらね」

「……あぁ」

 申し訳なさそうに笑う震離の頭を撫でて、そのまま反転させて背中をぽんと叩いて。
 
「ほら、どうせ流んとこに行くんだろ? 行ってこいよ」

「うん、行ってくるよ。ちょっとでも話してくる」

 そのまま見送って、あくびを一つ。もう初夏だということもあって日は高い。  
   
 ――――  

 あれから皆が集まって、転移ポートを使い移動。そして、現在無人世界をヘリで移動中。今見える面子が両隊長とFWの皆だが、副隊長達は聖王教会からの依頼を受けて違う任務へ。今回ははやてさんもロングアーチとして六課待機。
 パイロット席側に、操縦者のヴァイスさんに、後ろに席が無く、気まずいから前に来た俺と、教会からやって来たアーチェの三人がいるんだけど……空気は最悪。
 対して、後ろの席はギンガの自己紹介等などで、大盛り上がり。まぁだよねぇと。ちゃんとお姉ちゃんをしてる人が来て、ちゃんと世話もサポートも出来る人だし。
 そもそもスバルや、ティアには頼れる先輩でお姉ちゃん。エリオとキャロも、スバルから常々聞いてたらしく、初対面で大分仲良しに。
 驚いたのが、普通に奏と震離も同い年ということもあって普通に仲良く話をしてて……何がいいたいかと言うと、後ろの席超楽しそうということ。
 いやまぁ、事情あっての今だから仕方ないんだけどね。
 ある程度進んだ後、各員の前にモニターが展開される。

 今回の調査する管理外世界、古代ベルカ時代に関係があったらしいと近年明らかになったけど、未だ世界名称も明らかになっていない。遺跡も所々あるらしいが、砂と岩で出来た世界故、生物もほとんど存在しない、死の世界。
 そんな世界の遺跡で、レリックに似た反応が出たとのこと。だが、微弱な反応だが、それが複数あるように出たらしい。今回はそれの調査、保護が目的となる。

 映像を見る限りだと、反応があったのは崖を利用して作られたであろう石窟寺院。ざっと見ただけでも凄く古いというのが分かる。
 はやてさん曰く、最近の研究でここは聖王の騎士団が使ってたかもしれない建物かもしれないとのこと。一応、聖王教会からあまり手荒な事はしないようにと、釘を差されてると追加で言われる。ただし、アーチェいわくアンノウンがいる場合が有るし壊れても仕方ないと言ってはいる。
 そして、今回の編成が、いつもの編成に、ティア達の方になのはさんとアーチェ。俺たちの方にフェイトさんとギンガがつくことになった。なお、作戦中航空戦力が現れた場合は、この2人が迎撃に当たることになる。
 一応小隊を組んでいるけど、反応がある地点までは皆で移動。古い遺跡とは言え、何があるかわからない。

 言い訳になるけど、管理局の管理外世界の殆どがこういう無人世界だったりする。人がいる世界なら船を派遣したりして様子を見たりするけど、世界に人が居ないと確認された大体定期調査だけで、滅多に見ない。だから、あまり遺跡の解析も進まない。人手がいれば調べられるんだろうけど、この世界がベルカと関係があるってわかったのも無限書庫からの情報でわかったことらしいしね。

「なのはさん、もう間もなく着きますぜ」

 ヘリを操縦してるヴァイスさんからの連絡、それを聞いて皆の顔が一段と引き締ま……ってたらいいなぁと。

――――
 

 さて、今まさに、石窟寺院の前に居ます! いや、ホント、目の前が崖っつーか、石窟寺院で、振り向きゃ地平線の先まで砂漠が広がってますよ。
 向こうでティアがブチ切れてる。はしゃいでるスバルに注意してるから、エリオとキャロが若干フラフラしてる……のを、ギンガがフォローしてる。
 まぁ、こんな糞暑い中でその格好は熱いわな。俺は今までの方のジャケットを着ている。で、一番あつそうな流は、不安そうな顔してるけど、なんとか立て直したみたいだな。さて。

「で、偵察で先行します?」

「一応ね、既にサーチャーを飛ばしてあるから暫くは大丈夫。さて、行こうか!」

 さすがの手際の良さです。なのはさん……いつの間にサーチャーなんて飛ばしてたんだろうか?

 なのはさんの案内にそって、遺跡の中へと入る。情報があった通り、ここには古代ベルカの剣十字のような模様の装飾が多々ある。そのまま奥へと進むと、広い講堂のような場所へ行き止まる。

 ふむ、移動してきて思ったのは、こんだけデカイ遺跡の割に、階段も何も無かった。ということは外に隠し道があるのか、もしくはここになにかあるか、あるいはここに来る途中の廊下に何かあったか。
 だめだ、こういうのはわからんね。

 しかし、この遺跡……

「凄く涼しいね、エリオ君」

「……うん、外と全然違う」

 純粋に驚いてる2人が微笑ましい。ふと、視線をギンガに向ければ同じ様に思ってるらしく微笑んでる。

「きっと、砂漠の風を取り込んで循環させる工夫がされてると思う。2人はやっぱりこういう遺跡は初めて?」

「はい! 管理局のデータで見たっきりです」

「私も昔聞いたことはあったんですが、こうしてみるのは初めてです!」

 ……めっちゃギンガお姉さんって言うより、先生っぽいんだけど。

 目の前でそんな微笑ましい会話が始まってちょっとほっこり。見渡すと、俺らが講堂の奥の方、その近くに震離と流、その少し奥にフェイトさんと奏。講堂入口にはスバルとティアが、廊下の方をなのはさんが、壁の剣十字の装飾の所をアーチェが眺めて、それぞれ調査を始めてる。

 さて、俺も探し始めるか……そう思った、瞬間。


 

 どこからか、ブレーカーを落としたような音が聞こえる。

 同時に、体に張り巡らせていた魔力が上手く扱えなくなる。なんとか身体強化を継続。目の前に居る2人を抱えて。

「ギンガ! 頼んだ!」

「うん!」

 力の限り、2人を投げ渡す。エリオとキャロは突然のことに反応できなかったのか、ただ驚いた表情で俺を見る。そして、前を見据え、後4人、そう考えた、が――。

 足元から轟音と共に崩れる落ちる。

「――――! ―――!」

 落ちながらも、どこからか声が聞こえるけど、何を言っているか聞こえない、いつの間にか声が聞こえなくなる。落下しながら周囲を見渡すけれど、誰かいる様子はない。
 あの一瞬で見えたのは、フェイトさんが奏を捕まえて、震離が流を捕まえているのを確認した……ということは、だ。

「あれ、俺ぼっち?」

『私が居ます』

 間髪入れずに通信で反応入れてくれる。ありがとう花霞。寂しすぎて死にたくなるところだったよ。さて。

「AMFは?」

『既に圏外に。ですが、この状況どうするおつもりで?』

「それな、周囲のスキャンを。同時に空洞があるならそこを教えてくれ」

『畏まりました』

 落ちながら振り返る。視線の先には瓦礫の雪崩の様に迫る。既にAMFの圏外とういう事を聞いて、いつでも飛べる用意をしておく。それまでは自由落下を維持する。

『主、この真下、底の正面部分に出口があります』

「お、サンキュ。ありがと」

 もう一度振り向いて、落下する先を注意して見る。底が見える。同時に花霞の言う出口も見えた。
 確認と同時に、視線を後ろへ向けると、もうそこまで瓦礫が来ている。適当に足場になる瓦礫のある所へ移動し、そして。

 全力で踏み込む。弾かれるように底へと落ちる。着地の勢いのまま体をバネのように縮ませ、もう一度踏み込む。着地の衝撃が体を抜ける。死ぬほど痛いが、それをこらえて出口をくぐり抜けた。

 一瞬遅れて瓦礫が落ちる音が聞こえる。それを確認し、止まろう。そう思った瞬間、衝撃に襲われた――――

 
――sideなのは――

「皆撤退! 急いで!」

 ティアナを抱えながら、出口を目指して飛ぶ。その少し後を、キャロを背負ったスバルと、ストラーダを使って並走するエリオが居る。
 
 あの一瞬、ギンガがエリオとキャロを抱えていたけど、間に合わないと悟って2人をスバルの元へ。そのまま崩落に巻き込まれたけれど……シスターアーチェがそれを追うように落ちていった。
 あの7人が落ちて、瓦礫で蓋をされた後、直ぐに高濃度のAMFが切れる同時に、左右の壁際に灰色のベルカ式(・・・・)の魔法陣が展開。そこからガジェットドローンが現れた。相変わらずAMFがついているけど、あの一瞬に比べたら遥かにマシだ。
 中で交戦しても良かった。だけど、また高濃度のAMFに当てられてしまっては戦えなくなってしまう。何より、あそこで戦闘行為を行なって、下に居る皆の被害を大きくするわけにはいかなかった。

「ティアナ、ヴァイス君に現状報告」

「了解です」

「キャロは下に落ちた皆とつながるか試して」 

「はい!」

「スバルとエリオ、全力で離脱。その後反撃に出るよ!」

「「了解!」」

 ちらりと後ろを見ると、ざっと三十機居る。本音を言うと、あの場に残って、殲滅したかった。あの一瞬を動けなくて、7人が落ちるのを見ているだけで、何も出来なくて悔しくなる。
 少し後ろを走るスバルを見ると、悔しそうにしている。皆そうだ。エリオとキャロは特に悔しそうにしてる。目の前で助けてくれた人達が、穴に落ちたのを見てるだけだったから。

 だけど、今は。

「皆、戦闘体制用意! 外に出たらガジェットの迎撃。その後、皆を助けに行くよ!」

「はい!」

 出口が見える。さぁ、反撃開始と行こうか!
  
 
――――
 


「アクセルシューター!」

 20発のシューターを縦横無尽に操作、周囲に居るガジェットの撃墜。1機につき2発づつ貫く。これで10機。合計20機目になる。

「内部からの増援は以上です!」

 後ろに居るキャロからの報告を受けて、少し焦り始める。この時点で既に15分経過している。万が一中の皆が生き埋めになっていたら、すぐに救助を行わないといけない。だけど、ヴァイス君にもつながらないのは妙なんだけど、ここで戦闘を行なった以上、何かしら気づいてくれるかもしれない。

「皆、もう一度突入。救助に入るよ!」

「はい!」

 離脱する時の様に、ティアナを抱える。スバルがキャロとフリードを連れてもう一度突入。ガジェットが現れてもいいように、周囲にスフィアを展開、追従させておく。

「……フェイトさんとお兄ちゃん達。大丈夫かな?」

 ふいにキャロが呟く。同時にエリオの表情も沈む。あの時響が動いたからこの2人は助けられた。同時に落ちていく姿も間近で見てしまった。

「まだ返事がないけど。きっと大丈夫よ」

 2人を励ますようにティアナが声を掛ける。確かに皆心配だけど、きっと何かしらの方法で無事だと思う。あの一瞬で強いAMFに当てられたけれど、数秒もしない内にその効果は無くなった。だからきっと、落ちた5人もそれぞれ防御手段をとっているだろうし。

「それに響だったら、そこからひょっこり出てきそうだし。ギン姉もきっと大丈夫。フェイトさんはもっと大丈夫だし、心配するのは4人だよ」

 なにげに酷いこと言うねスバル……。だけど、その一言が効いたのか、エリオとキャロの顔が少し和らいだ。だけど、スバルの言うとおり、響だったら、そこから現れそうなんだよね……。最近は無いけど、最初の頃フェイトちゃんに一方的に襲われても、普通に仕事してたし、最近の模擬戦のせいで余計にそう思える。

 さて、そろそろ……。そう考えて皆の顔をもう一度見る。講堂の入口が見え始めて、皆の顔に緊張が走る。ここまでガジェットと遭遇はしていない、だけど、講堂に待ち構えていないという保証は無い。いつでもスフィアを撃てるように用意。そして――




『お、帰ってきた。おかえり』

「ッ!」

 フードを深く被った、知らない人がそこに居た。反射的にスフィアを放つけど、寸の所で止まる。この人、いつの間に……? エコーがかかった声で性別はわからない。浮いてるように見えるから、正確な身長もわからない。

『いい反応。表の戦闘見てたけど、いいね。いやー、ホントすまんな。せっかく人が来たのに、饗さないで。寝坊してしまった』

 眼前にあるスフィアに驚くこと無く、自分の事を話す……。殺意が無いことを見抜かれたのか、もしくは眼中に無いのか……。スフィアを相手の周りに散布する。ティアナ達も一定の距離を起きつつ取り囲む。

「……私達は管理局員です。あなたのお名前と、なぜここに居るんですか? 説明をして下さい」

『……へぇ、管理局員。こんな所にまでご苦労な事で。で、何しにここに来た?』

「質問しているのはコチラ側です。答えなさい」

 レイジングハートを向ける。だけど、飄々と肩を竦めて、聞こえるようにため息を吐く。

『……かなり下に7人落ちた。1人は脱出の際に自爆して気を失ってる。2人は瓦礫の僅かな隙間に居る。もう2人は現在移動中で、2人は……なんかでかい鉄球出してそれで瓦礫を抑えて隙間作ったのかすごいね』

 空中でハンモックに横になるような姿勢で、何事もないように言う。

「……なぜ分かるんですか?」

『そりゃ、まぁ、ここに長いこと居るんだ。何処に何があるか。そんなことはすぐ分かる。今すぐ……とは言わないが、7人をここに転移させることも可能だ』

 何事も内容に話をすすめる。転移が可能って……ここに来るまでそんな装置や、そもそも魔力を感じられなかった……。ならばどうやって。

『転移はサービスだ。最近の困りごとを解決してもらったしな。だが、助けるかどうかはこれからの交渉次第……といいたいが、君ら相手に強引な手段を取りたくない。だから話を聞いてほしい。俺からはそれだけだ。どうだ?』

 つまり、今この人はあの五人をどうにか出来る術がある。ここは従っておくのがベストか……。

 私の表情に気づいたのか、ムクリと起き上がり、私の方を見ながら

『言い方が悪かった。信じてくれるかはわからんが、俺の目的は約束の時(・・・・)が来るまでここに居ること。同時にここにあるとあるモノを無闇矢鱈に持ち出させないこと。そして、叶うことなら……ここにあまり人をよこさないでくれ、それだけだ』

「……それを信じろ、と? アナタの名前がわからない。そっとしておいてくれでは、話が通らないと思うんですが?」

 そう言うと今度は腕を組み、空中で胡座をかくように浮かぶ。

『だよ、なー……、あー。うん。しまったな、そのうち来るって、この前メイドさんに言われたのに、それがまさか今日来る(・・・・)とは考えてなかった。うーん。俺が言うことじゃないだろうし、どうするかな』

 うんうん、と悩み始める。すると……

(なのはさん……この方、ホログラムです)

 ティアナより念話を聞いて、やっぱり、と思う。スフィアの散布を少し広めに設定。何処で本体がコチラを見ているかわからない以上、警戒を強める。

(私が抑えるから、皆で下に降りれないか探してくれる?)

(了解)

 そう言って、皆この人を警戒しつつ、周辺の捜査へ。すると。

『あー、残念なことだが。下への出入り口は2年前(・・・)に壊れて行き来できなくなった。とある科学者夫妻がここに来て、その帰りにな』

「……なら、アナタはここの何処に住んでいると? 長い事居るならそれくらい分かるはず」

『無い無い、出入り口はその一つ。下の装置があった場所もさっきの崩落で完全に死んだろうし、その空間が生きてたら良かったんだが、崩落で完全に埋まったし』

 下にあった装置……? ここには何かまずいものでも? いやでも、フェイトちゃんに連絡が通じたら、試してもらいたいことが。

「……中から撃ち抜く……という手段は?」

『……うわぁ物騒なこと言うなぁ。ここ一応シェルターみたいなモノだからな。その辺に落ちてる瓦礫ですら魔力耐性高い。内部を構成してるやつはもっと硬いし、何より抜けなくはないけど、その場合加減の調整が出来るとは思えないが?』

 なるほど、道理で……風化でボロボロになって入るけど、何か力が加わって壊れた部分は異様に少なかったのはそのせいか。

『うーん。俺が君らから信用を得ないと進まないな、これ』

 あっはっはと目の前で笑う人物を見て、頭が痛くなる……何を思って信用を得ようとしたのだろうか?

『まぁ、いいか。ここに来たしまった以上。避けては通れないし。ただで帰そうとは思ってないし』

「……何の話をしているの?」

『今にわかるさ』

 そういって、地面に降りる。身長は私よりも低く、エリオよりも少し高い。フードに手を当ててそれを持ち上げる。そして……。

『二年前。ここからとあるものが運び出され、同時に俺が目覚めた。だけど、運び出す人の名前を聞いて納得できて、お願いした』

 フードを取る。所々立たせた茶髪の髪に、女の子のような顔立ち。話し方で男というのがかろうじて分かる。だけど……。

『……ウィンドベル(・・・・・・)、そう名乗った。そして、俺は彼らに託して、待った。いつかここにその子を来るように、と』

「……そんな」

 顔を見て、驚く。もちろんティアナ達も驚いてる。

『……名は訳あって名乗れない。だけど、俺はずっと待っていた。フロウ・ウィンドベルを。いや、風鈴流を』

 目の前に立つ人物の顔が、流と全く同じだったからから……。



――sideフェイト――

「駄目です、下に落ちたと思う皆と連絡が取れないです」

 少し落ち込んだ声で、ため息が漏れてる。私もさっきから上に通信を飛ばしているけれどノイズが酷くてつながらない。外にいるヴァイス君にももちろんつながらない。
 私達が居るのは、真っ暗な瓦礫の隙間の中。たまたま出来たと思われる隙間の空間に現在閉じ込められている。私と奏の2人でスフィアを使い明かりの代わりにしているけれど、どこにも繋がっている様子は無い。

「さて、どうしようか。少し待ってみるしか出来ないけれど」

 適当な瓦礫の上に二人して座っている。初めは奏に座らせようかなと思って進めたけど、奏も私に座ってもらおうと考えていたみたいで、二人して勧め合いになって、最終的には背中合わせで座ろうって事で、落ち着いた。

「下から2人合わせて岩盤を砲撃で抜きます?」

「それは……ちょっとやめとこ?」

 冗談っぽくいうけれど、私はあまり笑えなかった。だって、昔なのはがそれをしていたのを知ってるから……。

「冗談です。とは言っても、正真正銘、その字の通り八方塞がり。万事休すですねー」

「……うん。私達を外から見つけてもらえたら一番だけどね」

「……不幸中の幸いか、あの一瞬、私はフェイトさんに助けられたけど、流は震離が、響は一人で落ちたみたいですしね。個人的には流と震離が大丈夫かなって」

 常時通信を掛けながら、小さく呟く。けど、震離と流がって……?

「あの2人は仲が悪いの?」

「……そんなことは無いと思います。流が治療されている間も、震離はコミュニケーションを図ろうとしてましたし。ただ……ここ数日、流はまた殻に篭もる様な感じになってます。震離はそういう変化を苦手とする子なので、どうかなって」

「人付き合いが苦手な子には見えないけれど?」

 そう言うと、クスッと笑う声が聞こえた。

「苦手ですよ。とっても苦手。私達には素の部分。割とぶっこんだ事をいいます。ですが、あの子の本質は演技派な人見知り。訓練が終わると、いつも話を聞きます。今日も上手く出来てたかな、嫌われてないかなって」

 初めて聞く震離の様子に驚いた。いつも明るくて、スバルとも仲がいい。ロングアーチのスタッフとも普通に接していると思ってた。

「以前聞きました。あの子はこういいました。人が怖い。だけど私達と一緒に行きたい。でも怖い。嫌われるのが、拒絶されるのが、怖いって。初めて出会った時、私あの子と話出来ませんでしたし」

 あはは、と苦笑しているけど、何処か悲しそうに聞こえる。

「この世界に来て、ようやく明るく接すればなんとかなると分かって、ずっとあの明るい震離を演じています。だからなんでしょうね。自分と何処か似ている子がいる。なんとかしないとって、無意識ながらそう考えてるのかもしれません」

「……そうなんだ」 

 響に告白したあの日、そう言えば言っていた。

 ――大好きな人から言われました。化物、と。

 もしかしなくても、これが震離になるのかな……? 知らなくていいことかもしれないけれど、こうして考えると、全然響達の事を知らないなって改めて痛感する。

「……フェイトさん?」

「うん、どうかした?」

「……今、響達の事知らないなって、考えませんでした?」

「……っ」

 瞬間、顔が赤くなる。いやいやいやいや、考えたけれど、別に変な意味は無いよ? おかしなこと言うね奏っていいたいけど、口が回らない。あと何か変な汗が出て来るけど、別にそんな。

「……やっぱり」

 いやいや、やっぱりってそんなこと無いよ。別に意識してるわけじゃないし。

「……フェイトさん。見てたら分かるし。正直に」

 ……ぅううぅう。顔から湯気が出そう。顔こそ見られてないけれど、これはきっと……いやいやでも、そんな……。

「なら、宣戦布告を。私は好きですよ。響の事」

「え、あ、いや。あの、その」

 いやいやいやいや、落ち着いてフェイト。ほら、スッと目を閉じれば母さんや、リニス。アリシアお姉ちゃんが……なんで、サムズアップしてるの!?
 なんで? 母さんは涙流してるし、リニスとアリシアお姉ちゃんは頑張れって垂れ幕持ってるし、どうして? いや、待って待って。まだ、好きの意味も違うかもしれないし……。

「もちろん。Likeじゃないです。まだ、恥ずかしくて言い出せないし、一緒にいるほうが心地いいから甘えてしまうけど」

 ポツリポツリと話す奏の言葉に耳を傾ける。よく考えればそうだ。小さい頃から一緒に居るもんね。子供時代の写真を見た時7人で居た、それから今まで大体の期間を一緒に居るんだ……。
 私は……、どうなんだろう? 確かに響の事は……気になる。それは本当。だけど、それは何なのかわからない。

 告白した日から、見る目が変わった。なのはとティアナの件の時、信じられてたからあんなに失望させてしまって、溝が出来た。そして、本気でぶつかった。
 まだ話は出来てない、けど本気でぶつかってあの人は私達に対して悪いことをしないと、更に確信を持った。隠してることはある。だけど、それは今は言えない……もしかすると、これからも言えないのかもしれない。
 それでも、彼は言ってくれた。私たちの邪魔をするような事はしない、と。言葉だけを見たらまだ疑われてしまうけど、私達からはもう疑わない。
 今まで、クロノやユーノ、アコース査察官といった男の人とは話をした、だけど、響の様な人と話をしたことはあんまりない。初めてあって、勝手に嫉妬しても、普通に接してくれた。皆をちゃんと見ていてくれた。だけど、最近は少し気になっていた……。

 そこまで考えて、気づく。彼の信頼の一番に居るのは奏達なんだと、私はそれに嫉妬しているんだと。

 隊長だから、頼ってほしい訳じゃない。年上だからってわけでもない。私にも相談してほしい……そう考えてるんだ、私は。そのポジションがどういう意味があるのか、それも理解して。

「……うん、分かった。奏?」

「はい」

 背中合わせで座ってるけど、その声で分かる。

「負けないよ?」

「……コチラこそ、負けません。唐変木というわけじゃないけど、必ず振り向かせます」

「私こそ、振り向かせるよ」

 さっきまで気づかなかったけれど、背中が熱い。きっと、奏もこういうことを言うのは凄く恥ずかしかったんだと思う。だけど、六課だと誰か聞いてるかわからないし、こういう場で言うことじゃないけど、話せてよかった。

「さぁ、奏。別の周波数を使って皆に連絡を入れようか!」

「はい!」

 さぁ、ここから出るために頑張ろう!
 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  
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