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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第213話「足掻き、集結する」

 
前書き
VS洗脳されたメンバーの回1。
少し駆け足にしようと思っていたのに、すずか&アリサオンリーな話に。
他メンバーは次回に回します(´・ω・`)

ひっさしぶりな一人称視点。
 

 




       =アリサside=







 炎と氷が飛び交う。
 本来、日常生活ではまず見ないような光景が、今あたしの目の前で繰り広げられている。

「はぁっ!」

 あたしの刀が眼前に迫る槍を逸らす。
 二段構えとして大きな氷柱が飛んでくる。
 でも、そっちは炎で作った刀で切り裂いた。

「ッ!」

 直後、半身を逸らす。
 視界を氷の冷たさによる軌跡が横切り、あたしの頬が僅かに切られる。

「遅い、遅いよアリサちゃん!」

「あんたが速いだけでしょう……!」

 相手はすずか。今は夜の一族としての身体能力をフル活用している。
 そのため、あたしだと身体能力で追いつけないのだ。

「(いえ、そっちは問題ないわね。その気になれば追いつけるわ)」

 そう。元の世界なら無理だけど、神界ならその無理を通せる。
 単純な実力差ならある程度は埋められる。
 じゃあ、何が問題なのかというと……

「ちっ……!」

 赤い眼光から目を背ける。その間に肉薄を許し、体勢を崩される。
 間髪入れずに氷の霊術が頭上から落とされ、大きく飛び退く事になる。
 ……これだ。これが厄介だ。

「(魔眼……本当、厄介ね)」

 夜の一族は人に対して記憶操作もできる魔眼を持っている。
 忍さんも持っていて、過去にも何度か記憶操作もした事があるらしい。
 妹であるすずかももちろん持っていて、以前から戦術に組み込んでいた。

「(精神干渉に躊躇いがなくなっただけで、ここまでだなんて)」

 本来、すずかは魔眼を使うとしても精神干渉の類はほとんど使わなかった。
 なぜか?と聞かれると、あたし達自身がかつて魅了を受けていた事が原因だ。
 自分の考えや心を操作される。そんな感覚がどれほど怖いのか、身を以って知っているから、すずかはそれがトラウマになって精神干渉を使わない。
 ……でも、今洗脳されているすずかにそんなのは関係ない。だから使ってくる。

「っ、はぁっ!」

 炎の斬撃を飛ばし、さらに広範囲に霊術をばら撒く。
 牽制にしかならないけど、体勢を立て直すには十分よ。

「(燃やせ。燃やし、燃やして燃やし尽くしなさい。精神干渉、あたしへの悪影響すら、燃やし尽くしなさい……!)」

 魔眼の対策は当然ながら存在する。
 あたしもある程度の耐性があるし、防ぐ手段も持ち合わせている。
 でも、洗脳された影響か、すずかの魔眼は効果が増している。
 だから、あたしはあたしの“意志”を燃やし続ける。
 “負けない”と、“勝って見せる”と、自身を奮い立たせる。
 そうすることで、すずかの精神干渉を受け付けないようにしていた。

「さぁ、燃えなさい。貴女の氷、全て溶かしてあげる!」

「あはっ、逆に私がアリサちゃんの全てを凍らしてあげる!」

 嗜虐的な笑みを浮かべて、すずかは眼を輝かせる。
 夜の一族として高揚している上に、洗脳で箍が外れているわね、これは。

「はぁああっ!!」

 炎を纏い、すずかへと切りかかる。
 すずかはそんなあたしに対し、槍をゆらりと構え、氷の霊術を放った。
 地面から生える氷の棘。そのままだとあたしに刺さるだろう。

「ッ!」

 だけど、そんなので終わらない事ぐらい、あたしもすずかもわかっている。
 棘の側面を足場に、逆に加速する。

「ッッ!」

「くっ……!」

 刀と槍の柄が激突する。
 すずががあたしの攻撃を受け止めたのだ。

「はっ!」

 お互い、僅かに後退する。
 間髪入れずにあたしは間合いを詰め、刀を振るう。
 今度は受け止められずに、逸らされる。

「ッ!」

 カウンターの突きが放たれた。
 半身を逸らして躱すが、その上で脇腹に掠ってしまう。
 ……大丈夫、この程度なら気にするほどじゃないわ。

「くっ!」

 追撃を弾く。
 けど、そのままカウンターを返すには遅い。
 次に刀を振るった所で、戻してきた槍に弾かれる。

「ふふ……!」

「はぁっ!」

 弾く、防ぐ、防がれる、逸らす、弾かれる、逸らされる、防ぐ、防がれる。
 槍と刀が何度もぶつかり合い、火花を散らす。
 ……押されているわね。

「凍って!」

「燃えなさい!」

 攻防を続けながら、霊術も繰り出す。
 凍らせてくるのを、あたしの炎が相殺する。
 溶けた氷は水になり、気化しながらも炎を消す。
 結局は先ほどと変わらない。でも、集中を割く必要が出てきた。

「っ……!」

 押される。力で劣る分、少しでも気を抜けば体勢が崩れる。
 魔眼に捕われないよう、心を奮い立たせるため、集中力の消費も大きい。
 このままだと、確実にあたしは押し負ける。

「足元ご注意だよ」

「ッ!」

   ―――“呪黒剣”

 突如、足元から黒い剣が生える。
 咄嗟に飛び退いて躱すが、これによって拮抗が崩れる。

「……!」

 追撃の霊術を相殺し、肉薄して振るわれた槍を跳んで躱す。
 あの力は確実にあたしの体勢を崩していた。
 拮抗も崩れていたため、再び近接状態での攻防は難しい。
 だから、あたしは跳んだ。跳んで、“気化した水蒸気の中”を突っ切った。

「逃がさないよ!」

「逃げてないわ。誘い出しただけ」

 同じように、すずかも突っ切ってくる。
 それを見て、あたしは霊術を起動させた。

「ッ……!……?」

 すずかも警戒して身構えるが、発動した割には何も起きない。
 否、起きないのではなく、起きたのが見えていないのだ。
 突っ切ってきた水蒸気に隠れてしまったから。

「ちょっと、いえ、とても痛いわよ!」

「まさか……!」

 水蒸気の奥から、徐々に赤色が広がる。
 その赤色は炎の色。……“水蒸気爆発”だ。

「っ、ぁああああああああっ!?」

「ぐっ………!」

 爆風に障壁で耐える。
 手順としてはそんな難しい事はしていない。
 すずかの霊術を相殺し続けた事で、上方に水蒸気が溜まっていた。
 あたしはそれを利用して、地面から炎を打ち上げて着火しただけだ。

「ぁあああっ!!」

   ―――“一心閃”

 吹き飛んできたすずかに対し、あたしは渾身の一閃を放つ。
 すずかに何をするにしても、弱らせる必要がある。
 だから、神界で効果を発揮する一閃を使った。

「っ、ぁ……!」

「っ……ふぅっ、はぁ、はぁ……」

 激しい攻防があったため、あたしは息を切らしていた。
 呼吸を整え、地面に叩きつけたすずかの状態を確認する。

「ッ―――!」

 間一髪、上体を逸らす。
 刹那、寸前まで首があった場所をすずかの爪が薙ぎ払った。

「ちっ……!」

「あっはははは!!」

 すずかがこれまでにない程の笑みを浮かべながら爪を振るってくる。
 完全に豹変したわね。これは……

「っ、ふっ!!」

 横薙ぎの一撃を受け、その勢いで反転。反撃に転じる。

「(防がれた!)」

 だけど、その一撃は氷の障壁で防がれてしまう。
 それどころか、反撃に呪属性の霊術が発動した。

   ―――“呪牙(じゅが)

「っ!」

 防がれた刀を握る手を振り抜き、その反動で飛び退く。
 同時に炎を放出させ、集束。弾丸のように放つ。

「くっ……はぁっ!!」

 放った炎は巨大な氷柱によって打ち消される。
 あたしはその氷柱の側面を足場に跳び、さらに霊力を足場にして、一気に肉薄する。

「っ……!」

「(障壁で軽減してからの迎撃!読めていたわ!)」

 そうすれば、すずかが迎撃しようとするのは分かっていた。
 別の行動も想定していたけど、その時はもう少し戦闘が長引くのを覚悟していた。
 でも、想定通りなら……!

「燃やし尽くしなさい!」

   ―――“炎纏(えんてん)

「っ……!?」

「(取った!)」

 続けて放たれる呪術の槍。
 だけど、障壁を物ともしなかったあたしなら、それは躱せる。
 滑るように躱し、体を回転させつつ炎の刀で一閃!

「甘いよ、アリサちゃん」

   ―――“氷纏(ひょうてん)

 だけど、その一閃は防がれた。……いえ、無効化されたのが正しいわね。
 あたしが炎を纏う霊術を持っているのに対して、すずかも似た霊術を扱える。
 炎すら鎮火してしまう氷の鎧。すずかは、それを使って来た。

「―――いいえ、それはこっちのセリフよ」

「ッ!?」

 でも、そんなのは予測出来ていた。すずかの事はよく知っていたから。
 先程振るったのは、炎の刀だ。フレイムアイズじゃない。
 防がれるのを予測していたため、次の行動を早く起こせる。
 フレイムアイズに炎を纏わせ、追撃を放つ。

「くっ、ぐっ!?」

 その追撃は槍に防がれた。
 でも、咄嗟の動きであるそれは、隙を晒すに等しい。
 牽制で放たれていた氷の霊術を無理矢理無視してその槍を掴む。
 そして、それを軸にすずかを思いっきり蹴飛ばした。

「……スノーホワイト」

〈………〉

「……っ、通りで」

 蹴飛ばした事ですずかの手からデバイスであるスノーホワイトが離れる。
 すぐさまスノーホワイトに声を掛けるが、返ってきたのはノイズの音のみ。

「(ついでのように、洗脳の影響を受けた……いえ、すずかが何かした可能性もあるわね。どの道、デバイスではすずかを止められなかった訳ね)」

 霊力を通して、簡単な再起動じみた事をする。
 よっぽどの事がなければ、これで……

Reboot(再起動)

「協力してもらうわよ」

Understood(わかりました)

 予想通り、再起動して正常に戻る。
 状況は分かっているようで、あたしの協力にも応えてくれた。

「……デバイスの補助がなければ、有利なのはこっちよ。すずか、大人しくしなさい」

「……なんで……?」

 起き上がったすずかは、虚空を見据えるような目であたしを見る。
 ……一瞬、背筋が凍った。

「なんで足掻くの?どうして抵抗するの?だって勝ち目なんてないんだよ?私たちは人で、相手は神様。椿さんよりも格上の相手が、たくさんいるんだよ?」

「っ、すずか……?」

 まるで負けを肯定するような言葉。
 あたしを揺さぶるため?……いえ、これは……

「アリサちゃんだってそう思うでしょ?本当は勝てる気がしないってわかってるでしょ?どうして抵抗するの?ねぇ、どうして?どうして?」

「っ……」

 図星だった。ええ、きっと皆考えている事だった。
 目に見えて戦力はこっちが劣っている。
 “勝てるはずがない”と考えても何もおかしくない程なんだ。

「……だから、私は」

「洗脳に屈した訳?そんなの言い訳に過ぎないわ。例え絶望的でも、素直に受け入れる訳にはいかないから、あたし達は足掻くのよ」

 言い返す。
 焦るな。揺さぶられるな。
 神界において、精神状態を崩されたらまずい。
 平静を保て。今のすずかは洗脳状態だ。そんな状態での言葉に耳を貸す必要は……

「それもこれも、優輝さんがいなければ起きなかった事だよ」

「ッ……!」

 ……言ってはいけない事を言った。
 ()()()()()()()()()()()()()()言えない事を、すずかは言ってしまった。

「すずか……っ!」

Wait(待ちなさい)

「っ……!」

 間一髪だった。
 スノーホワイトの頭を冷やすような反応を霊力を通して伝えてくれた。
 そのおかげで、血が上った頭を冷やして冷静に考える事が出来た。

「スノーホワイト!」

Start-up(起動)“氷血地獄”〉

 スノーホワイト……というより、あたし達霊術使いのデバイスには、元々いくつかの霊術を仕込んでいる事が多い。
 その霊術を発動させ、すずかの足元を凍らせる。

「ふっ!」

「ぁぐっ……!?」

 あたしの炎と違い、同じ属性だからこそすぐには解除できない。
 その隙をすかさず突き、すずかに掌底を当てる。

「……じっとしていなさい」

 そのまま霊力を流し、気絶させる。
 神と違って、それだけで簡単に無力化が出来た。

   ―――“秘術・ 魂魄浄癒”

 とこよさん達に教えてもらった霊術を使う。
 これで解除出来なかったらどうしようもないけど……

「っ、う、ううん……」

「すずか?」

 簡易的な気絶だったからか、すぐにすずかは目を覚ました。
 まぁ、あたしの霊力でちょっとした気付けをしたのもあるんだけど。

「あ、アリサ、ちゃん……?」

「……正気に戻ったようね」

 霊術が効いていないという懸念は無事に晴れた。
 すずかの様子を見る限り、寸前まで何をやっていたか、言っていたかを覚えていて、そしてそれを後悔しているようだったしね。

「わ、私……」

「後悔は後よ。……ここはどうにかなったけど、他は……いえ」

 まだ戦いは続いている。
 多くある戦いのたった一つが終わっただけ。
 それでも一つの戦いが終わってあたしは安堵していた。
 ……おそらく、それを狙っていたのでしょうね。

「上げて落とす。……神もそんな事をするのね」

「確実に潰すためだからな。悪く思うなよ?」

 随分小者じみた事だけど、事ここに至っては効果的過ぎる。
 相手からすれば、あたし達を絶望に落とせばいいのだから。

「アリサちゃん……私は気にしないで逃げて」

「逃げ道なんてないわよ。……それに、すずかを置いていけないわよ」

 あろうことか、すずかは自分を犠牲にしようとしてきた。
 洗脳された負い目もあるのだろうけど、この場においてそんな事出来る訳がない。
 ……それに、何よりもすずかは、

「友達だから、助け合うのは当然よ。……抜け出すわよ。この窮地を」

「っ……うん……!」

 正直言って、打開策は思いつかない。
 でも、虚勢でもいいから“どうって事ない”と見せないと心が潰れる。

「………っ……」

 それだけじゃない。……先程のすずかの言葉が、あたしの中で引っかかっていた。
 “優輝さんがいなければ”……その言葉が忘れられずにいた。

「考え事か?」

「ッ!!」

「アリサちゃん!」

 その引っかかりが、大きな隙を晒していた。
 気が付けば、あたしの体は吹き飛ばされていた。
 すずかも、防御はしていたけど同じように吹き飛ばされている。

「ッ……」

 直後、地面に縫い付けられた。
 まるで、杭で打ち付けられたかのように、あたし達は身動きが取れなくなる。

「くっ……!」

 立ち上がる事もできない。
 神の力だけが理由じゃない。……僅かにでも、あたし達が“諦めている”からだ。

「(まだ、まだ終わってない……!)」

 縫い付けられていると言っても、体が一切動かない訳ではなかった。
 フレイムアイズを握る手は動く。これなら……!

「っ、ぁ……!」

「見逃すとでも?」

 そう思った矢先に、“天使”の攻撃でフレイムアイズが手から弾かれる。
 僅かに動かせる事も、絶望に落とすためだったのかもしれない。

「(まずい……)」

 散々言われてきた事なのに、“気持ち”で負けそうになる。
 容赦なく神達の攻撃が放たれ、あたし達がそれに呑まれそうになって……













   ―――何かがあたし達を掻っ攫った。











「ゆ、優輝さん!?」

 すずかが驚いた声を上げる。
 それもそうだ。あたし達を助けるように連れ去ったのは優輝さんだったから。

「じっとして。今攻撃されたらすぐに消えてしまう」

「消え……?……あ、式神……」

「その通りだ」

 あたし達を両脇に抱えて駆ける優輝さんは、式神による分身だった。
 じゃあ、本物は?と思って、振り返ると……

「ッ……!?」

「嘘……あんなに……」

 見渡す限りの剣、槍、斧、矢、魔力弾、霊術。
 ありとあらゆる武器や術による弾幕がそこにはあった。
 それを操るのは、本体であろう優輝さん。

「結界のある位置に向かう。おそらく、他の皆も集まっているだろう」

「結界……?」

「ユーリのいる場所だ」

 すずかとの戦闘で気づいていなかったけど、確かにあった。
 他の皆も向かっているのも分かった。
 多分、あたしも今思ったように、一か所に集まった方が良いと判断したのだろう。

「僕の本体はこのまま足止めに徹する。このまま行くぞ」

「だ、大丈夫なの……?」

「分からない。だが、物理的な戦闘力では互角以上に持っていける。これはアドバンテージになると見ていいだろう。……っ!」

 突如引っ張られるような感覚が来る。優輝さんが急な跳躍をしたからだ。
 寸前までいた場所に、槍のようなものが刺さる。流れ弾みたいだった。

「っ………」

 いくつもの武器や弾幕がかき消され、直撃し、炸裂する。
 何が起きているのか、最早理解しきる事が出来ないような戦闘がそこにあった。

「ひっ!?」

 刹那、一筋の極光がすぐ真横を貫いた。
 まさに目と鼻の先と言える場所だったため、思わず声を漏らしてしまう。

「ッ……!」

 直後、優輝さんが加速する。
 まるで極光が貫いた場所を道のように辿っていく。

「もしかして、今のは……」

「ああ。本体が攻撃ついでに道を開いた」

 すずかが気づいた事を、優輝さんが肯定した。
 つまり、先程の極光は意図してギリギリを通っていったものだったのだ。

「……出来ればその体勢のまま露払いしてほしい」

「降ろしてもいいと思うのだけど……」

「その場合は速度が落ちる」

 そう言われてはこのままでいるしかなくなる。
 確かに、あたし達が走るよりも優輝さんに運ばれている方が速い。
 速度特化なのか、あたし達を抱えていてもそれほどのスピードがあった。

「(露払いと言っても、霊術だけだと……いえ、そう思うからダメなのね。まぁ、とにかく見つからないに越したことはないわ)」

 真っ先に一つの霊術を編む。
 あたしの術式を見て、すずかも察したらしく術式構築を手伝ってくれた。

「“隠れる”って事実があるだけでも、効果はあるでしょ」

   ―――“戦技・隠れ身”

「次は……」

 次の行動を模索する。
 見つかっていない今、攻撃の用意は必要ない。
 むしろ感づかれてしまうかもしれないから、必要以上の準備は厳禁だ。

「(優輝さんが引き付けてくれているから、まだ見つかっていない。見つからないようにしつつ、防御を固めて……後は攻撃の準備ね)」

 すずかとアイコンタクトを取り、防御系の術式を編んでおく。
 そして、すぐに攻撃に移れるように術式の土台となる御札を出しておく。
 準備が厳禁と言っても、これぐらいなら大丈夫でしょう。

「よし、このまま……っ!?」

 準備も済み、優輝さんがさらに加速しようとする。
 しかし、その寸前で前に進みつつも横に跳び、攻撃を躱した。

「見つかったか。……そういう“性質”か」

「ッ……!」

 優輝の視線の先には、一人の神とその眷属らしき“天使”が複数いた。
 あたし達の霊術がまるで存在しないかのように、こちらを見据えていた。

「神界でそう易々と身を隠せると思わない事だ。却って見つかるぞ?」

「忠告どうも。……いけるか?」

「っ、ええ……!」

 優輝さん曰く、そう言った“性質”かもしれない。
 ……ああ、もうそれで納得出来てしまう。ある程度の理不尽さには慣れてしまった。

「集束、相乗……!」

「圧縮……穿て!」

   ―――“氷炎反極滅閃(ひょうえんはんきょくめつせん)

 とにかく、最低でも意識を逸らさないといけない。
 そのためにも、あたしはすずかと共に攻撃を放つ。
 単発で、且つ非常に強力な霊術を放つ。
 それは、プラスエネルギーである炎とマイナスエネルギーである氷を掛け合わせる事によって、互いのエネルギーがぶつかり合い、生じる消滅エネルギーを放つ霊術。
 ただの障壁などではそれごと消滅してしまう程の、禁忌に近い危険な術だ。

「(尤も、相手は神。そんなの遠慮してられないけどね……!)」

 物理的な力なら、確実に効く霊術。
 これなら、神界でも足止めぐらいにはなるはず……!

「……ふっ!」

「なっ……!?」

 だけど、そんな考えは即座に吹き飛ばされた。
 手刀で一閃。神がそれを行った瞬間、霊術は炎と氷に分かたれてしまった。

「(術式の“穴”を、的確に突いてきた!?そんな、優輝さんやとこよさんですら初見じゃ避けるしかなかったのに……!)」

 いくら消滅エネルギーとはいえ、元は炎と氷。
 術式であるならば、それらを掛け合わせる部分は存在する。
 神は、それを一瞬で見抜き、さらにそこに干渉して炎と氷を分離させたのだ。

「見抜く事に長ける、か。そういった“性質”ならば仕方ない」

「何を……」

「………」

 納得したように呟いた後、優輝さんは黙り込む。
 すると、後方からいくつもの閃光が飛んできた。

「なるほど」

「(避けられた……!)」

 その閃光は魔力や霊力によるもの……つまり、本体の優輝さんが放ったものだ。
 けど、立ち塞がる神はそれらをあっさりと避けた。
 ……まるで、どこにどう避ければいいか“見抜いた”ように。

「ならば、これはどうだ?」

「な、に……っ!?」

 先程と同じように、また流れ弾のように閃光が飛んできた。
 けど、今度は避ける素振りを見せた瞬間、神は驚愕に顔を歪ませた。

「行くぞ」

「っ……!」

 どういう事なのか問う間もなく優輝さんが再び駆けだす。
 “天使”達も動こうとしたけど、こちらはあたし達の霊術で牽制する。
 戸惑いはしても、こういう事は怠ったらダメだものね。

「優輝さん、今のは……」

「奴の“性質”を見抜く事に関係していると推測したんだ。アリサとすずかの霊術の弱点を即座に見抜き、その上弾幕の隙間をも見抜いた。そこから未来予知に近い事も可能だと考えた」

「……未来を“見抜く”って訳ね……」

 本当に見抜く事に関する“性質”かは結局わからない。
 それでも、今回は優輝さんの推測から放たれた攻撃は命中した。

「さっきの驚愕は、どうあっても命中すると“見抜いた”からって事ね」

「そういう事だ。……もうすぐ結界に着く。包囲網があるな」

 そうこうしている内に、件の結界の近くに来ていたらしい。
 その結界を包囲するように、多くの神や“天使”が包囲している。
 ……あれでは、包囲の中に入るのも難しい。

「式神としての僕はここまでだ。突貫のための糧になる。……後はアリサとすずか……それと、皆に頑張ってもらおう」

「え……」

 抱えられた状態で振り返ると、そこにはなのはやアリシア、はやて達がいた。
 皆、既にボロボロだった。だけど、戦意は残っている。

「全員、考える事は同じやった訳か」

「いないのは……とこよさん達だけ?」

「そのようだな。後は僕の本体と言った所だ」

 悠長に会話しているが、その暇はないも同然だった。
 飛んできた巨大な剣が、同じく飛んできた閃光を防ぐ。

「神夜!」

「おう!」

 追撃とばかりにまだまだ閃光が飛んでくる。
 しかし、今度は神夜が弾いた。
 ……あいつ、なんか滅茶苦茶強くなってない?

「今度は、こっち……!?」

「させ、ないっ!!」

 包囲している神もこちらに気付いている。
 そちらからも攻撃してきたが、今度はなのはが相殺を試みた。
 スターライトブレイカー……切り札であるはずの魔法を、なのはは即座に使った。

「貫いて!!」

 強い意志を感じた。その瞬間、極光が神の攻撃を相殺した。
 ……いえ、それどころか、押し切った。

「(弾幕だったから、撃ち漏らしたものもあるけど、こんなに……!?)」

 改めて、なのはの意志の強さを思い知った気がする。
 でも、裏を返せばここにいる全員がなのはや神夜のように強くなれる可能性がある。

「今だ。……僕が突貫したら、何としてでも内側に入り込め。いいな?」

「っ、分かったわ」

「うん……」

 何をするのか、何となく分かった。
 式神という仮の肉体……と言うか、分身だけど。そうだとしても躊躇した。
 でも、優輝さん自身が決め、何よりもその方法しかないのなら仕方がない。

「射線には入るなよ!」

 それだけ言って、優輝さんは突貫した。
 包囲の内側に入られないように、神達が妨害してくる。
 それらを避けつつ、肉薄し……威力のみを重視した特大の霊術を叩き込んだ。
 流れ弾がこっちに飛んできたけど、直前の言葉のおかげで皆避けれていた。
 そして………

「今よ!!」

「今だ!!」

「ッ……!!」

 このタイミングだと、あたしは直感した。
 他にも何人か察したのか、全員が一気に駆け出す。
 その時、式神の優輝さんが閃光に包まれ、爆発を起こした。
 ただの爆発じゃない。地球の技術で例えるならば、水爆のような、そんな爆発だ。
 ……速度特化とかいいながら、あんなものを抱えていたのね……!

「集中を切らすな!一か所に集まって戦え!耐え凌ぎ、確実に反撃していけ!」

 指示が飛ぶ、包囲への中へと駆けこむ。
 絶望への抗いは、まだまだ始まったばかりだ。
 打開策は思い浮かばない。でも、それでも“諦める”のはダメだ。















   ―――………本当に、それでどうにかなるの……?

















 
 

 
後書き
呪牙…牙のように噛み砕きにかかる霊術。潰す力が強い。

炎纏…炎を纏い、鎧のように扱う霊術。単純に防御力も上がる他、物理的・概念的な干渉を燃やして防ぐ事が出来る。アリサ曰く“すずかに負けないために作った”と言う負けず嫌いの産物。

氷纏…アリサとは真逆に氷を纏う霊術。対策なく触れるとそこから凍ってしまう。アリサの炎纏を知って作った術。すずか曰く“私も負けず嫌いなんだよ?”らしい。

氷炎反極滅閃…炎と氷という対局のエネルギーを合わせる事によって発生する消滅エネルギーを放つ合成霊術。イメージはダイの大冒険のメドローア。その霊術版。

“見抜く性質”…優輝が推測しただけで、本当かは不明。攻撃の脆い点や隙などを見抜ける他、未来を見抜く事も可能。


アリサの使う刀は普通の刀とinnocentのフレイムアイズの中間みたいなデザインの刀になっています(イメージとしてはメカニックな刀)。
また、忘れがちですがアリシア達のデバイスはinnocentと違って簡易的な受け答えしかしません。AI追加は可能ですが、その暇がなくなったので未だに実装していない感じです。(……の、割には自分から反応を示したりしますが) 
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